(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、例えば、真空中または減圧不活性ガス雰囲気中でDyを蒸発させながら熱処理することでネオジウム鉄ボロン系の焼結磁石や熱間塑性加工磁石の保磁力を向上させる高性能磁石の製造に用いられる本発明の実施形態の蒸発材料1、10及びこれら蒸発材料1、10の製造方法について説明する。
【0026】
図1を参照して、第一実施形態の蒸発材料1は、多数の透孔を有する耐火金属製の芯材1aに、希土類金属または希土類金属の合金を融解させて付着させ、凝固させてなる。芯材1aとしては、ニオブ、モリブデン、タンタル、チタン、バナジウム及びタングステン等の耐火金属製からなる線材Wを格子状に組み付け、板状に成形した網材が用いられる。この場合、網材1aを構成する線材Wとしては、その径が、0.1〜1.2mmであり、透孔たる網目1bの目開きは、8〜50メッシュであることが好ましく、より好ましくは、10〜30メッシュである。50メッシュより大きいものでは、芯材1aとしての強度が不足して量産性に不向きである。他方、8メッシュより小さいものでは、後述のように希土類金属の溶湯に浸漬して引き上げても、この芯材1aの全域に亘ってかつ網目を埋めるように希土類金属が付着し難いという不具合がある。
【0027】
他方、希土類金属または希土類金属の合金としては、Dyの他、TbまたはこれらにNd、Pr、Al、Cu及びGa等の一層保磁力を高める金属を配合した合金が用いられる。なお、第一実施形態では、高性能磁石の製造に用いられるものを例に説明しているため、Dyを例示しているが、これに限定されるものではなく、ホルミウム等の他の希土類金属やその合金の蒸発材料を製作する場合にも本発明は適用できる。
【0028】
図2には、第一実施形態の蒸発材料1の製造に用いられるディップ装置M1が示されている。ディップ装置M1は、ディップ室2aを画成する融解炉2と、この融解炉2の上側にゲートバルブ3を介して連結された準備室4aを画成する真空チャンバ4とを備える。
【0029】
融解炉2の底部には、Dyのインゴットが収納される坩堝5が配置されている。坩堝5は、融解したDyと反応しないモリブデン、タングステン、バナジウム、イットリアやタンタル等の耐火金
属から形成されている。また、融解炉2内には、Dyを加熱して融解する加熱手段6が設けられている。加熱手段6は、坩堝5内のDyを融点(1407℃)以上に加熱して坩堝5内のDyを融解させ、融解したDyを溶湯状態に保持できるものであれば特に制限はなく、例えば、公知のタングステンヒータやカーボンヒータを用いることができ、また、高周波誘導加熱式やアーク融解式の炉として構成することもできる。さらに、融解炉2の側壁にはガス導入管7aが接続され、図示省略のガス源からアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを所定の流量でディップ室2a内に導入できる。また、融解炉2には、ディップ室2a内を減圧する真空ポンプPが、開閉弁PV1を備えた排気管P1を介して接続され、所定の真空圧に真空引きして保持できるようになっている。
【0030】
他方、真空チャンバ4もまた、準備室4a内を減圧できるように構成されている。この場合、真空チャンバからの排気管P2は、開閉弁PV1の真空ポンプP側で排気管P1に接続され、排気管P2に介設した他の開閉弁PV2の開閉を制御して同一の真空ポンプPにて真空引きできるようになっている。また、真空チャンバ4の側壁にはガス導入管7bが接続され、図示省略のガス源からアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを所定の流量で準備室4a内に導入できる。
【0031】
真空チャンバ4の一側壁には、芯材1aの出し入れ用の開閉扉4bが設けられ、また、上壁内面には、ディップ室2a内の坩堝5の上方に位置させて電子式のホイスト8が吊設されている。ホイスト8は、モータ8a付きドラム8b及び当該ドラム8bに巻回されたワイヤ8cとからなる巻上機構と、ワイヤ8cの先端に取り付けられたフックブロック8dとを備えたものである。そして、ホイスト8により、準備室4a内にてフックブロック8dへの芯材1aの着脱が行われる着脱位置と、ディップ室2a内で坩堝5内の溶湯にフックブロック8dに取り付けられた芯材1aがその全体に亘って浸漬されるディップ位置との間で当該芯材1aを移動されるようになっている。
【0032】
ここで、フックブロック8dは、融解したDyと反応しないモリブデンやタンタル等の耐火金
属から形成されていることが好ましく、また、フックブロック8dに代えて、ワイヤ8cの端部に、複数枚の芯材1aを所定の間隔を存して並べて保持する耐火金属製のホルダ(図示せず)を設け、複数枚の芯材1aを同時にDyの溶湯に浸漬できるように構成してもよい。
【0033】
次に、
図2に示すディップ装置M1を用いた第一実施形態の蒸発材料1の製造について説明する。先ず、ディップ室2aの坩堝5にDyのインゴットをセットし、ゲートバルブ3を閉めて当該ディップ室2aを隔絶した後、真空ポンプPを作動させると共に開閉弁PV1を開弁させて真空引きを開始する。それと同時に加熱手段6を作動させて加熱を開始する。そして、ディップ室2a内を所定圧(例えば、1Pa)に保持しながら加熱を行い、Dyが昇華し始める温度(約800℃)に達すると、ガス導入管7aを介してArガスをディップ室2a内に導入する。
【0034】
ここで、Arガスの導入を行うのは、Dyが昇華して飛散して損失することを防止するためであり、ディップ室2aの圧力が15〜200kPa、好ましくは50〜100kPaとなるようにArガスが導入される。この状態で加熱を継続し、融点に達するとDyが融解し、加熱手段6の作動を制御して融点より高い一定温度に溶湯温度(例えば1440℃)を保持する。
【0035】
一方、準備室4aにおいては、開閉扉4bの閉状態で開閉弁PV2を開弁させて真空ポンプPにより所定の真空圧(例えば、1Pa)に一旦減圧され、準備室4a内の脱ガスが行われる。このとき、ホイスト8のフックブロック8dは着脱位置にある。真空引き開始後所定時間が経過すると、開閉弁PV2を閉弁させると共に、準備室4aが大気圧になるまでArガスを導入し、準備室4aを大気圧に戻す。この状態で、開閉扉4bを開けて芯材1aを搬入し、フックブロック8dに吊着されるようにセットする。そして、開閉扉4bを閉めた後、開閉弁PV2を再度開弁させて真空ポンプPにより準備室4aを真空引きする。これにより、芯材1aの浸漬準備が完了する。
【0036】
次に、溶湯温度が所定温度に保持された状態で、準備室4a内にガス導入管7bを介してディップ室2aと同じ圧力に達するまでArガスを導入する。そして、ディップ室2a及び準備室4aが同圧となると、ゲートバルブ3を開け、この状態で巻取手段のモータ8aを正転させ、フックブロック8dを介して芯材1aを準備室4aからディップ室2aに向かって下降させる。芯材1aが下降されると、この芯材がDyの溶湯に順次浸漬されていき、ディップ位置に到達する。
【0037】
ディップ位置に到達すると、巻取手段のモータ8aを逆転させてフックブロック8dを介して芯材1aを溶湯から順次引き上げていく。ここで、芯材1aが網材Wからなるため、芯材1aを溶湯に浸漬していくと、この芯材1aのDyの溶湯に対する濡れ性が良いことから芯材1aの網目1bの中にDyの溶湯が浸透する。この状態では、芯材1aの単位面積当たりの熱容量が小さいので、芯材1a周囲の溶湯は液状であり、芯材1aを溶湯から順次引き上げていくと、溶湯から引き上げられた部分では、その表面張力により各網目1bが埋められつつ芯材1aの表面が覆われるようにDyが付着した状態となり、溶湯から引き上げられて直ちに融点より低い温度まで冷却されることで凝固していく。そして、芯材1aが溶湯から完全に引き上げられると、板状の蒸発材料1が得られる。なお、このときの芯材1aの引き上げ速度は、Dyが各網目1b中で凝固できること、Dy付着量が均一かつできるだけ大きくなること等を考慮して適宜設定される。
【0038】
そして、フックブロック8dが取付位置に到達すると、ゲートバルブ3を閉める。この状態で、準備室4a内にArガスを更に導入し(例えば、100kPa)、所定時間冷却する。冷却後、準備室4a内にArガスを更に導入して大気圧に戻し、開閉扉4bを開けて蒸発材料1を搬出する。
【0039】
このように第一実施形態においては、Dyをスラブ状に融解鋳造させる必要はなく、また、芯材1a自体を板状にするだけで、Dy製の板状蒸発材料1を製作できるため、別段の切削加工や圧延加工等を必要とせず、切削加工等によって蒸発材料として利用できない部分が生じるという原料ロスをなくすことができることと相俟って極めて安価に蒸発材料1が得られる。
【0040】
ここで、後述のように、第一実施形態の蒸発材料1を高性能磁石の製造に用いた場合には、芯材1aに付着したDyが消耗してくると、芯材1aの網目1b箇所において孔があき始めるようになる。このため、蒸発材料1の消耗状況が視認でき、蒸発材料1の交換時期等の判断等に有利である。
【0041】
また、上記のように蒸発材料1が消耗したときには、何ら前処理を行うことなく、この消耗した蒸発材料1を用いて、上記と同じ手順でDyの溶湯に浸漬し、引き上げることで蒸発材料1の再生が可能となる。その結果、使用済みの蒸発材料1に付着、残存したDyはスクラップとなることなく、そのまま再利用でき、資源的に乏しく、高価なDy、Tb等の希土類原子を極めて有効に用いることができる。
【0042】
なお、上記第一実施形態においては、芯材1aとして板状に形成したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、筒状に成形した網材を用いて筒状の蒸発材料を製作し、リング状の焼結磁石、熱間塑性加工磁石を製造するための蒸発材料としてもよい。また、芯材1aは、所定径の透孔が多数形成されたものであればよく、網材に代えて、エキスパンドメタルまたはパンチングメタルを用いることもできる。
【0043】
また、上記第一実施形態では、Dyの付着をDyのインゴットを融解した溶湯に芯材1aを浸漬し、引き上げることで行うものを例に説明したが、溶射により芯材1aにDyを付着させるようにしてもよい。さらに、上記第一実施形態では、芯材1aを一回の浸漬で行うものを例に説明したが、浸漬する方向を変えて複数回に分けて行うようにしてもよい。
【0044】
次に、
図3を参照して、第二実施形態の蒸発材料10を説明する。蒸発材料10は、Dyを融解し、このDyの溶湯に基材10aを前記融解温度より低い温度に保持した状態で浸漬し、引き上げることで、基材10aの表面にDyからなる凝固体10bを形成する工程(凝固体形成工程)と、基材10aから凝固体10bを脱離する工程(脱離工程)と、脱離した凝固体10bを板状に加工する工程(加工工程)とを経て製造される。
【0045】
基材10aとしては、凝固体10bの形成後に板状へと加工することを考慮して、ニオブ、モリブデン、タンタル、チタン、バナジウム及びタングステン等の耐火金属製からなる中実角柱状や円柱状のものが用いられる。なお、基材10aとしては、単位体積当たりの熱容量が2.5MJ/km
3程度のものを用いる。2MJ/km
3より熱容量が小さいと、後述のようにDyの溶湯に浸漬したとき、基材10a自体が急激に温度上昇してその表面に形成されたDy膜が再融解し、凝固体10bが効率よく形成できない。
【0046】
他方、希土類金属または希土類金属の合金としては、Dyの他、TbまたはこれらにNd、Pr、Al、Cu及びGa等の一層保磁力を高める金属を配合した合金が用いられる。なお、第二実施形態もまた、高性能磁石の製造に用いられるものを例に説明しているため、Dyを例示しているが、これに限定されるものではなく、ホルミウム等の他の希土類金属やその合金の蒸発材料を製作する場合にも本発明は適用できる。
【0047】
凝固体形成工程においては、
図4に示すディップ装置M2が利用できる。ディップ装置M2は、上記第一実施形態で用いたディップ装置M1(
図2参照)と略同一の構成を有するが、ホイスト80のワイヤ81の先端には、フックブロック8dに代えて、基材10aの長手方向の一端部を把持するクランプ82が設けられている。そして、ホイスト80により、準備室4a内にてクランプ82への基材10aの着脱が行われる着脱位置と、ディップ室2a内で坩堝5内の溶湯にクランプ82で把持された基材10aが、そのクランプ82で把持された箇所を除く大部分が浸漬されるディップ位置との間で当該基材10aを移動されるようになっている。なお、
図4においては、ディップ装置M1と同一の部品について、同一の符号を付している。
【0048】
クランプ82は、上記第一実施形態と同様、融解したDyと反応しないモリブデンやタンタル等の耐火金
属から形成されていることが好ましい。また、ワイヤ
81の先端に図示省略の冶具を介して複数個のクランプ82を列設し、複数個の基材
10aを同時にDyの溶湯に浸漬できるように構成してもよい。
【0049】
以下に、
図4に示すディップ装置M2を用いて角柱状の基材10aの表面に凝固体10bを形成し、次に、この凝固体10bを加工して、板状の蒸発材料10を得る場合について説明する。
【0050】
先ず、ディップ室2aの坩堝5にDyのインゴットをセットし、ゲートバルブ3を閉めて当該ディップ室2aを隔絶した後、真空ポンプPを作動させると共に開閉弁PV1を開弁させて真空引きを開始する。それと同時に加熱手段6を作動させて加熱を開始する。そして、ディップ室2a内を所定圧(例えば、1Pa)に保持しながら加熱を行い、Dyが昇華し始める温度(約800℃)に達すると、ガス導入管7aを介してArガスをディップ室2a内に導入する。
【0051】
ここで、Arガスの導入を行うのは、Dyの蒸発を抑制するためであり、ディップ室2aの圧力が15〜105kPa、好ましくは80kPaとなるようにArガスが導入される。この状態で加熱を継続し、融点に達するとDyが融解し、加熱手段6の作動を制御して融点より高い一定温度に溶湯温度(例えば1440℃)を保持する。
【0052】
一方、準備室4aにおいては、開閉扉4bの閉状態で開閉弁PV2を開弁させて真空ポンプPにより所定の真空圧(例えば、1Pa)に一旦減圧され、準備室4a内の脱ガスが行われる。このとき、準備室4aは常温であり、また、ホイスト80のクランプ82は着脱位置にある。真空引き開始後所定時間が経過すると、開閉弁PV2を閉弁させると共に、準備室4aが大気圧になるまでArガスを導入し、準備室4aを大気圧に戻す。この状態で、開閉扉4bを開けて常温の基材10aを搬入し(
図3(a)参照)、クランプ82により基材10aの長手方向一端部を把持させることでセットする。そして、開閉扉4bを閉めた後、開閉弁PV2を再度開弁させて真空ポンプPにより準備室4aを再度真空引きする。これにより、基材10aの浸漬準備が完了する。
【0053】
次に、溶湯温度が所定温度に保持された状態で、準備室4a内にガス管7bを介してディップ室2aと同じ圧力に達するまでArガスを導入する。そして、ディップ室2a及び準備室4aが同圧となると、ゲートバルブ3を開け、この状態で巻取手段のモータ8aを正転させ、クランプ82を介して基材10aを準備室4aからディップ室2aに向かって下降させる。基材10aが下降されると、この基材10aがDyの溶湯に順次浸漬されていき、ディップ位置に到達する。そして、ディップ位置にて所定時間だけ保持する。この場合、保持する時間は、基材10aの熱容量と、得ようとする凝固体10bの厚さとに応じて適宜設定される。但し、所定の時間を超えて浸漬すると、基材10a表面に形成されたDyの膜が再融解してしまうため、これを考慮して保持する時間が設定される。
【0054】
上記状態で所定時間経過すると、巻取手段のモータ8aを逆転させてクランプ82を介して基材10aを溶湯から順次引き上げていく。ここで、単位体積当たりの熱容量が2.5MJ/km
3程度の基材10aを浸漬することで、基材10aを溶湯に浸漬したときに、基材10aで溶湯が急冷されて当該基材10a表面に付着してDyからなる膜が所定の膜厚で形成される。この状態で溶湯から引き上げると、当該膜が融点より低い温度まで直ちに冷却されて凝固し、基材10aの表面に凝固体10bが形成される(
図3(b)参照)。なお、このときの基材10aの引き上げ速度は、溶湯への治具浸漬時間を考慮して適宜設定される。
【0055】
そして、クランプ82が取付位置に到達すると、ゲートバルブ3を閉める。この状態で、準備室4a内にArガスを更に導入し(例えば、100kPa)、所定時間冷却する。冷却後、準備室4a内にArガスを更に導入して大気圧に戻し、開閉扉4bを開けて基材10aの表面に凝固体10bが形成されたものを取り出す。
【0056】
次に、基材10aから凝固体10bを脱離する。この場合、基材10aのうちクランプ82で把持された部分には凝固体10bが形成されていない。このため、凝固体10bを固定した状態で基材10aの前記部分に、適宜振動を加えながら引張力を加えることで基材10aを引き抜くことができる。他方、
図3(c)に示すように、当該図中鎖線で示す破断線に沿って基材10
aの長手方向他側における凝固体10bを切削加工等により切断し、基材10aの長手方向の側面を露出させる。そして、
図3(d)に示すように、基材10aに衝撃または押圧力等を加えて凝固体10bが押し出すようにしてもよい。このように、基材10aと溶湯金属が反応しないため、振動や衝撃等を加えるだけで、基材10aから凝固体10bが簡単に脱離できる。
【0057】
最後に、例えば、
図3(e)に示すように、当該図中鎖線で示す破断線に沿って凝固体10bを切削加工等で切断すると、板状の蒸発材料10が得られる(
図3(f)参照)。このように第二実施形態においては、Dyをスラブ状に融解鋳造させる必要はなく、しかも、基材10aから脱離したものを切削加工するだけであるため、低コストかつ生産性よく板状の蒸発材料10を得ることができる。
【0058】
また、上記のように作製した蒸発材料10をさらに圧延して使用してもよい。ここで、従来技術のように、スラブを作製して薄板に圧延すると、六方格子の結晶構造を有することからその加工性が悪く、薄板状に圧延するには、途中で焼鈍のための熱処理をする必要があり、製作コストが高騰する問題があったが、本手法で作製したものは、初めから数mmの薄板状であり、かつ、急冷していることで組織が細かいことから、圧延性に富み、焼鈍の必要がなく1mm以下まで圧延できる。
【0059】
なお、上記第二実施形態においては、基材10aとして角柱状のものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、円柱状の用いることができる。この場合には、基材10aから脱離した断面リング状の凝固体を断面半円形状となるように長手方向に沿って切断し、これを圧延やプレス成形して板状の蒸発材料を得るようにしてもよい。
【0060】
また、上記第二実施形態では、ディップ位置での浸漬時間を変えて凝固体10bの厚さを制御するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、溶湯への浸漬の際の基材10aの温度を変えて凝固体10bの厚さを制御することもできる。この場合、真空チャンバ4内に公知の冷却手段を組み付けて基材10aの温度を調節すればよい。
【0061】
さらに、上記第二実施形態では、Dyのインゴットを融解した溶湯に基材10aを浸漬し、引き上げることで行うものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、処理室内でDyを蒸発させてDy蒸気雰囲気を形成し、Dy蒸気雰囲気中に例えば常温の基材10aを搬入し、両者の温度差でDyを付着堆積させ、冷却することで変形例に係る凝固体を形成することも可能である。このような処理装置は、本出願人により国際出願され、国際公開されたWO2006/100968号公報に記載されているため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0062】
次に、上記第一及び第二の実施形態にて製造した本発明の板状の蒸発材料1または10を用いた高性能磁石の製造について説明する。高性能磁石は、所定形状に形成された公知のネオジウム鉄ボロン系の焼結磁石Sの表面に、上記蒸発材料1(10)を蒸発させ、その蒸発したDy原子を付着させ、焼結磁石Sの結晶粒界及び/または結晶粒界相に拡散させて均一に行き渡らせる一連の処理(真空蒸気処理)を同時に行って作製される。このような真空蒸気処理を施す真空蒸気処理装置を
図5を用いて以下に説明する。
【0063】
図5に示すように、真空蒸気処理装置M3は、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、拡散ポンプなどの真空排気手段11を介して所定圧力(例えば1×10
−5Pa)まで減圧して保持できる真空チャンバ12を有する。真空チャンバ12内には、後述する処理箱20の周囲を囲う断熱材13とその内側に配置した発熱体14とが設けられている。断熱材13は、例えばMo製であり、また、発熱体14としては、Mo製のフィラメント(図示せず)を有する電気ヒータであり、図示省略した電源からフィラメントに通電し、抵抗加熱式で断熱材13により囲繞され、処理箱20が設置される空間15を加熱できる。この空間15には、例えばMo製の載置テーブル16が設けられ、少なくとも1個の処理箱20が載置できるようになっている。
【0064】
処理箱20は、上面を開口した直方体形状の箱部21と、開口した箱部21の上面に着脱自在な蓋部22とから構成されている。蓋部22の外周縁部には下方に屈曲させたフランジ22aがその全周に亘って形成され、箱部21の上面に蓋部22を装着すると、フランジ22aが箱部21の外壁に嵌合して(この場合、メタルシールなどの真空シールは設けていない)、真空チャンバ12と隔絶された処理室20aが画成される。そして、真空排気手段11を作動させて真空チャンバ12を所定圧力(例えば、1×10
−5Pa)まで減圧すると、処理室20aが真空チャンバ12より高い圧力(例えば、5×10
−4Pa)まで減圧される。
【0065】
図6に示すように、処理箱20の箱部21には、焼結磁石S及び上記実施の形態の蒸発材料1が相互に接触しないようにスペーサ30を介在させて上下に積み重ねて両者が収納される。スペーサ30は、箱部21の横断面より小さい面積となるように複数本の線材(例えばφ0.1〜10mm)を格子状に組付けて構成したものであり、その外周縁部が略直角に上方に屈曲されている。この屈曲した箇所の高さは、真空蒸気処理すべき焼結磁石Sの高さより高く設定されている。そして、このスペーサ30の水平部分に複数個の焼結磁石Sが等間隔で並べて載置される。なお、焼結磁石のうち表面積が大きい部分が蒸発材料1(10)と対向するように載置することが好ましい。また、スペーサ30は、板材や棒材で構成してもよく、焼結磁石S相互の間に適宜配置すれば、下段の焼結磁石Sが上段の焼結磁石Sの荷重を受けて変形されることが防止できてよい。
【0066】
そして、箱部21の底面に蒸発材料1(10)を設置した後、その上側に、焼結磁石Sを並設したスペーサ30を載置し、さらに、他の蒸発材料1(10)を設置する。このようにして、処理箱20の上端部まで蒸発材料1と焼結磁石Sの複数個が並置されたスペーサ30とを階層状に交互に積み重ねていく。尚、最上階のスペーサ30の上方においては、蓋部22が近接して位置するため、蒸発材料1を省略することもできる。
【0067】
そして、このように焼結磁石Sと蒸発材料1(10)とを箱部21に両者を先ず設置し、箱部21の開口した上面に蓋部22を装着した後、テーブル16上に処理箱20を設置する。次に、真空排気手段11を介して真空チャンバ12を所定圧力(例えば、1×10
−4Pa)に達するまで真空排気して減圧し、真空チャンバ12が所定圧力に達すると、加熱手段14を作動させて処理室20aを加熱する。
【0068】
減圧下で処理室20a内の温度が所定温度に達すると、処理室20aのDyが、処理室20aと略同温まで加熱されて蒸発を開始し、処理室20a内にDy蒸気雰囲気が形成される。その際、図示省略のガス導入手段から一定の導入量で真空チャンバ
12内にAr等の不活性ガスを導入する。これにより、不活性ガスが処理箱20内にも導入され、当該不活性ガスにより処理室20a内で蒸発した金属原子が拡散される。Ar等の不活性ガスの導入圧力は、1k〜30kPaが好ましく、2k〜20kPaがさらに好ましい。
【0069】
なお、このDyの蒸発量をコントロールするため、加熱手段14を制御して処理室内の温度を800℃〜1050℃、好ましくは850℃〜950℃の範囲に設定する(例えば、処理室内温度が900℃〜1000℃のとき、Dyの飽和蒸気圧は約1×10
−2〜1×10
−1Paとなる)。
【0070】
これにより、Arなどの不活性ガスの分圧を調節してDyの蒸発量をコントロールし、当該不活性ガスの導入によって蒸発したDy原子を処理室20a内で拡散させることで、焼結磁石SへのDy原子の供給量を抑制しながらその表面全体にDy原子を付着させることと、焼結磁石Sを所定温度範囲で加熱することによって拡散速度が早くなることとが相俟って、焼結磁石S表面に付着したDy原子を、焼結磁石S表面で堆積してDy層(薄膜)を形成する前に焼結磁石Sの結晶粒界及び/または結晶粒界相に効率よく拡散させて均一に行き渡らせることができる。
【0071】
その結果、磁石表面が劣化することが防止され、また、焼結磁石表面に近い領域の粒界内にDyが過剰に拡散することが抑制され、結晶粒界相にDyリッチ相(Dyを5〜80%の範囲で含む相)を有し、さらには結晶粒の表面付近にのみDyが拡散することで、磁化および保磁力が効果的に向上または回復し、その上、仕上げ加工が不要な生産性に優れた高性能磁石が得られる。
【0072】
最後に、上記処理を所定時間(例えば、4〜48時間)だけ実施した後、加熱手段14の作動を停止させると共に、ガス導入手段による不活性ガスの導入を一旦停止する。引き続き、不活性ガスを再度導入し(100kPa)、蒸発材料1、10の蒸発を停止させる。そして、処理室20a内の温度を例えば500℃まで一旦下げる。引き続き、加熱手段14を再度作動させ、処理室20a内の温度を450℃〜650℃の範囲に設定し、一層保磁力を向上または回復させるために、熱処理を施す。そして、略室温まで急冷し、処理箱20を真空チャンバ12から取り出す。
【実施例1】
【0073】
実施例1では、
図2に示すディップ装置M1を用いて蒸発材料1を作製した。芯材1aとして、線材の材質、線材の線径及びメッシュをそれぞれかえ、100mm×100mmの板状に成形したものを用意した(
図7中の試料1乃至試料9)。なお、比較例として100mm×100mmで板厚が0.5mmのMo製の板材(試料10)を用意した。また、付着させる希土類金属としてDy(組成比99%)を用いた。そして、以下の同一条件下で試料1乃至試料10に対し、同一の処理を施した。
【0074】
先ず、坩堝(φ300×300mm)内にDyのインゴット160kgをセットし、ゲートバルブ3を閉めて当該ディップ室2aを隔絶した後、真空ポンプPを作動させて真空引きを開始し、それと同時に加熱手段6を作動させて加熱を開始した。そして、ディップ室2a内を1Paに保持しながら加熱を行い、Dyの温度が800℃に達すると、ガス導入管7aを介してArガスをディップ室2a内に導入した。
【0075】
一方、準備室4aにおいては、開閉扉4bの閉状態で真空ポンプPにより1Paに一旦減圧し、1分間保持し、準備室4a内の脱ガスを行なった後、準備室4aが大気圧になるまでArガスを導入した。そして、開閉扉4bを開けて上記試料1乃至試料10を搬入し、ホイスト8のフックブロック8dにそれぞれセットした。そして、開閉扉4bを閉めた後、真空ポンプPにより準備室4aを再度真空引きした。
【0076】
ディップ室
2aにおいては、加熱により1400℃を超えると、Dyのインゴットが融解し始め、加熱手段を制御して溶湯温度が1440℃に保持されるようにした。次に、準備室4a内にガス導入管7bを介して、ディップ室2aと同じ圧力に達するまでArガスを導入し、ディップ室2a及び準備室4aが同圧となると、ゲートバルブ3を開け、この状態で巻取手段のモータ8aを正転させ、フックブロック8dを介して芯材1aを準備室4aからディップ室2aに向かって下降させる。この場合の下降速度は、0.1m/sに設定した。そして、この芯材がDyの溶湯に順次浸漬されていき、ディップ位置に到達する。ディップ位置に到達すると、巻取手段のモータ8aを逆転させてフックブロック8dを介して芯材1aを溶湯から順次引き上げていった。このときの上昇速度は、0.05m/sに設定した。
【0077】
そして、フックブロック8dが着脱位置に到達すると、ゲートバルブ3を閉める。この状態で、準備室4a内の圧力が100kPaに保持されるようにArガスを導入し、1分間冷却した。冷却後、準備室4a内にArガスを更に導入して大気圧に戻し、開閉扉4bを開けて蒸発材料1を搬出した。
【0078】
図7は、線材の材質、線材の線径及びメッシュをそれぞれかえて上記条件で蒸発材料1を製造したときの容積率(Dyが付着していない領域)及びDyの重量を示す表であり、
図8は、試料2(
図8(a)参照)及び試料5(
図8(b)参照)の外観写真を示す。これによれば、試料1及び試料2では、Dyが効果的に付着せず、蒸発材料として形成することができないことが判った。他方、試料3及び試料9では、芯材1aの全域に亘って各網目が埋められつつ芯材1aの表面が覆われるようにDyが付着しており、特に、試料4乃至試料6では、45gを超える重量でDyを付着できていることが判る。
【実施例2】
【0079】
実施例2では、
図2に示すディップ装置M1を用い、また、芯材1aとしては実施例1の試料5を用いて、ディップ位置から芯材1aを引き上げるときの上昇速度を変化させた以外、実施例1と同条件で蒸発材料1を作製した。
【0080】
図9は、引き上げ時の上昇速度を0.005〜1m/sで変化させたときに蒸発材料として利用し得るものであるか、その適否を判断した。ここで、
図9中、目視で外表面にスプラッシュが発生して量産に不向きであると判断されたものを「×」とした。これによれば、0.01〜0.5m/sの速度範囲であれば、効率よく蒸発材料1を作製できることが確認できた。
【実施例3】
【0081】
実施例3では、
図4に示すディップ装置M2を用いて基材10aの表面に凝固体10bを作製した。基材10aとして、Mo製でφ200mm×300mmに加工した円柱状のもの(試料1)、及び□150mm×300mmに加工した角柱状のもの(試料2)をそれぞれ用意した。また、試料1については、基材10aとして、C、Si、Mg、Nb、Ta、Ti、W、Mo、VまたはCu製のものを用意することとした。さらに、付着させる希土類金属としてDy(組成比99%)を用いた。そして、以下の同一条件下で試料1及び試料2に対して処理を施した。
【0082】
先ず、坩堝(φ300×500mm)内にDyのインゴット(100g)をセットし、ゲートバルブ3を閉めて当該ディップ室2aを隔絶した後、真空ポンプPを作動させて真空引きを開始し、それと同時に加熱手段6を作動させて加熱を開始した。そして、ディップ室2a内を1Paに保持しながら加熱を行い、Dyの温度が800℃に達すると、ガス導入管7aを介してArガスをディップ室2a内に導入した。
【0083】
一方、準備室4aにおいては、開閉扉4bの閉状態で真空ポンプPにより1Paに一旦減圧し、2分間放置し、準備室4a内の脱ガスを行なった後、準備室4aが大気圧になるまでArガスを導入した。そして、開閉扉4bを開けて上記試料1及び試料2を搬入し、ホイスト8のクランプ82にそれぞれセットした。そして、開閉扉4bを閉めた後、真空ポンプPにより準備室4aを再度真空引きした。
【0084】
ディップ室
2aにおいては、加熱により1407℃に達すると、Dyのインゴットが融解し始め、加熱手段を制御して溶湯温度が1500℃に保持されるようにした。次に、準備室4a内にガス導入管7bを介して、ディップ室2aと同じ圧力に達するまでArガスを導入し、ディップ室2a及び準備室4aが同圧となると、ゲートバルブ3を開け、この状態で巻取手段のモータ8aを正転させ、クランプ82を介して基材1
0aを準備室4aからディップ室2aに向かって下降させる。このときの下降速度は、0.05m/sに設定した。そして、この基材10aがDyの溶湯に順次浸漬されていき、ディップ位置に到達する。ディップ位置に到達すると、5秒間保持し、その後、巻取手段のモータ8aを逆転させてクランプ82を介して基材10aを溶湯から順次引き上げた。このときの上昇速度は、0.02m/sに設定した。
【0085】
そして、クランプ82が着脱位置に到達すると、ゲートバルブ3を閉める。この状態で、準備室4a内の圧力が100kPaに保持されるようにArガスを導入し、2分間冷却した。冷却後、準備室4a内にArガスを更に導入して大気圧に戻し、開閉扉4bを開けて搬出した。
【0086】
図10は、試料1の基材1
0aの各材料における比熱、比重及び単位体積当たりの熱容量を示す表である。これによれば、Nb、Ta、Ti、W、MoまたはVからなる基材10a及び試料2の場合には、基材10aのうち溶湯に浸漬された部分には、略均等な厚さでDyの凝固体が形成されていることが確認でき、これらから単位体積当たりの熱容量(比熱×比重)が2〜3MJ/km3の材料が良いことが判った。他方、C、SiまたはMgからなる基材の場合には、Dyが殆ど付着せず、また、Cuからなる基材の場合には、Dyの溶湯が固まってしまった。また、凝固体を固定して基材10aに引張力を加えたところ、容易に芯材が凝固体から引き抜くことができ、
凝固体の厚さを測定したところ、2.0mmであった。また、このものを公知方
法で圧延したところ、0.3mmに加工することができた。