【課題を解決するための手段】
【0021】
以上の問題に対して本発明者は、固結体をあえて埋設管に沿って連続して形成しなくても、埋設管に沿って必要最小限の固結体を間隔を開け、かつ固結体の重量と固結体の間隔を固結体と一体化した埋設管が浮き上りを抑制するように設定することにより液状化対策をきわめて経済的に行うことができることを見出した。
【0022】
さらに、一または複数の注入ラインを配置し、固結体を埋設管の管軸方向に間隔を開けて形成することにより、ライフラインを供用しながら急速施工を行うことを可能にした液状化対策工を見出したのである。
【0023】
このようにすることにより比較的少量の固結体で液状化を防止する事が可能になり、経済的かつ急速に液状化対策工を行う事が可能になった。
【0024】
本発明者は、更に埋設管に間隔をあけて比較的小さな固結体を複数個形成して液状化を防止するに際してのいくつかの課題を本発明によって解決した。
【0025】
即ち、埋設管の上部に注入材を単に注入して埋設管の周囲を埋設管と一体に固結して重量を大きくしても、固結体の形状や大きさ等によっては重心が高くなり、埋設管の底部や側面部の液状化に伴う浮き上がりの途中で埋設管が回転して埋設管の継手部が外れたり、あるいは埋設管自体が破損するおそれがある。
【0026】
或は、固結体自身が回転して液状化した地盤の中で落ち込んだり個々の固結体が液状化の際に地震動によって異なった挙動を示し、埋設管が回転してしまうことがある。これを防ぐには、埋設管と一体化した固結体の重心が下方になるように埋設管周囲の地盤を浸透固結させることが好ましい。
【0027】
またこのために埋設管の近傍を底部や側面迄掘削して注入管を設置して注入液を注入して固結体を側面や底部に形成する必要があるが、その場合誤って埋設管を破損してしまうおそれがある。
【0028】
埋設管が破損すると、供用中の埋設管は使用不能に陥り、場合によっては埋設管内に地下水が流入したり、あるいは埋設管内の液体(上下水道等)や気体(ガス等)が周囲の土中や地上に吹き出す等の危険なトラブルに見舞われることがある。
【0029】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、ガス管、下水管、上水管、電信電話線などの線状に延びるライフラインを供用しながら液状化対策工を安全かつ効果的に行うことを可能にしたものである。
【0030】
更に本発明は、液状化が予想される地盤内に設置された既設埋設管の周辺部に注入材を注入しておこなう既設埋設管の液状化対策工法であって、複数の注入管を前記埋設管の管軸方向に間隔をあけて設置し、当該注入管を通じて地盤中に注入材を注入し、埋設管の周辺部を流下浸透させることにより、埋設管の上部、側部および/または底部に埋設管の周辺土(埋戻し土含む)からなる固結体を埋設管の管軸方向に間隔をあけ、かつ埋設管と一体に形成して既設埋設管の重量を増大させることにより液状化に伴う埋設管の浮き上りを抑制することを特徴とするものである(
図4〜9参照)。
【0031】
本発明者は、以下の薬液注入の地盤中における浸透の挙動を利用する事により上記目的を解決したものである。
【0032】
注入圧力と注入速度に関するもっとも基本的な浸透式としては、Maagによって以下の式.1が提示されているが、この式.1はダルシーの法則から導きだされたものである(上記非特許文献1「最先端技術の薬液注入工法」平成3年6月10日発行 島田俊介・佐藤武・多久実 共著 理工図書)。
【0033】
【数1】
【0034】
図2のグラフは、Maagの式における注入時間と浸透半径の関係を示したものであり(非特許1文献 P139.
図3.5)、地下水圧が一様な地盤では、注入材は一般に球状に浸透していくと考える(上記非特許1文献P.137)。
【0035】
一般に、浸透注入は
図3に図示するように所定領域を固結するように行われる(上記非特許1文献 P.151写真3.6(a))。ところで、ゲル化時間が長いと注入時にはほぼ上記浸透理論に沿って球状に固結したものが注入完了後注入薬液は地下水よりも重いため下方に流下して浸透固結する(上記非特許文献1 P.152写真3.8、3.9 註:写真中の丸い物はストップウォッチである)。これは注入としては失敗と考えられている。
【0036】
これより注入材の注入時間より土中におけるゲル化時間を長く設定することにより、注入後の注入材は地盤中を流下浸透し、鉛直方向に長軸を有する固結体を形成することが判る(
図7参照)。
【0037】
そこで、本発明者は、上記非特許文献1 P152 写真3.8、3.9の浸透流下固結の特性を利用することに着目して薬液注入における注入時間、ゲル化および固結体の形状等の研究を行った結果、注入時間よりも土中ゲル化時間が長い注入材を注入した場合或は土中における注入液の浸透先端部のゲル化時間が注入完了後も流動性を維持している場合、
図4の(a)→(b)→(c)の過程をへて所定の注入量の注入後も下方に流下して固結体を形成することを埋設管の液状化防止に利用する事により上記課題を解決できることに想到した。
【0038】
液状化を生じやすい地盤では非液状化層にくらべて密度がゆるく透水性が大きいため当然このような現象はおきやすい。またこのような手法によれば固結体の形状を重心が下方に位置するように浸透固結することができる。
【0039】
この地盤中における薬液の流下浸透固結範囲内に埋設管を含むように上記薬液を流下浸透注入すれば(
図5,6,7参照)、注入管の削孔深度が底面や側面迄到らなくても埋設管の上部、側部または下部に固結体を形成できることに着目して本発明を完成させた。
【0040】
このようにすれば埋設管周辺部の削孔の安全を保って施工できるし、又埋設管と一体となった固結体の重心を低くすることが出来るし、低圧浸透注入により地盤の変状がさけられ従って埋設管が破損したり変状を生じたりしなくてすむ。勿論施工も容易になる。
【0041】
特に、該埋設管のように非液状化地盤を掘削して設置したあと埋め戻し地盤などの液状化しやすいゆるい地盤では、又埋設管下方に非液状化層があると薬液は下方に広がるように浸透固化する傾向にあるため、ゲル化時間を保ち流動性を持続しながら下方に徐々に広がって地震等にも安定した固結体を形成しうる(
図4(c)参照)。
【0042】
また、薬液の注入は、各注入地点において原則一本の注入管により行うことが可能であり(一点注入
図5(a),(b)参照)、必要により一注入地点において複数の注入管を用いることも可能である(二点注入
図5(c)、
図7(c)参照)。
【0043】
また、注入材は、注入管を埋設管の上部に設置して埋設管の上部にのみ流下浸透させる場合、埋設管の上部および上部から埋設管の側方にかけて連続して流下浸透させる場合、また、注入管を埋設管の側方に設置して埋設管の側方にのみ流下浸透させる場合、埋設管の側方および埋設管の側方から埋設管の底部にかけて連続させて流下浸透させる場合がある。
【0044】
さらに、注入管を埋設管の上部に設置して埋設管の上部、埋設管の上部から埋設管の側方、さらに埋設管の側方から底部にかけて連続させて流下浸透させる場合がある。また、注入管を埋設管の底部まで挿入して埋設管の底部および埋設管の底部から下方の一定範囲かけて連続して流下浸透させることもできる。
【0045】
いずれの方法を採用するかは、埋設管の大きさ(外径)や周辺地盤の性状などにより最適な方法を選択すればよい。
【0046】
図7(b)は、二点注入により埋設管の上方注入管から注入液を浸透流下させて埋設管の上部に固結体を形成して埋設管と一体化した例を示す。埋設管の削孔は埋設管に到らないので埋設管の損壊の心配はない。
【0047】
また、ゲル化時間の長い注入液を小さい吐出速度で注入して注入後も注入液が流下浸透固結する事により埋設管上部に液状化に際しての浮力に充分耐えるだけの重さの固結体を形成できる。
【0048】
また、埋設管は比較的地表面の浅い深度に位置しており、通常の注入では注入液は地表面に逸出するか、或いは注入速度が大きいと地盤が変位して埋設管が変状する(
図22参照)。それに対し本発明は、後述する
図23〜
図32のように低吐出速度で同時注入、或いは連続注入して低圧で急速施工することで上記問題を解決することができる。
【0049】
ここに、土中ゲル化時間とは地上部における配合時のゲル化時間ではなく地盤中に浸透している土中のゲル化時間をいう。注入液は地盤中において注入液のpH、土のpHや組成による影響を受けるため地上部におけるゲル化時間とは異なってくる。このため、採取土を用いて注入液と混合して土中ゲルタイムを測定する。
【0050】
或は、例えば1mの長さのビニールパイプに現場採取土砂を所定の密度で填充し注入液を注入し先端部から流出した注入液のゲルタイムを測定して土中における浸透先端部のゲルタイムを測定して注入液の配合を設定することができる。このようにすれば注入完了時にも注入液がゲル化を有しながらどれだけの流動性を維持しているかが判る。
【0051】
このように本発明において、注入液を地盤中で流下浸透固化させて既設埋設管を包含させた状態で固結することにより注入材の注入に際し、埋設管の周辺に地上から挿入した注入管を通じて埋設管上部の地盤中に注入材を注入し、埋設管の上部、側方および/または底部に注入材を流下浸透させて埋設管と一体の固結体を形成して既設埋設管の重量を増大させることにより液状化に伴う埋設管の浮き上りを抑制することができる。
【0052】
また、埋設管と一体化した固結体の重心が注入前の埋設管の重心よりも下方向に位置するように形成することにより、液状化時の埋設管の浮き上がりや回転やねじれ等を防止することもできる(
図7参照)。
【0053】
また、薬液の注入時間よりも土中におけるゲル化時間を長くすることにより、または薬液の先端部の浸透先端部のゲル化時間が注入完了時においても流動性が持続されるように注入することにより埋設管の側方および下方に注入材を流下浸透固結させて、埋設管と一体化した液状化時にも安定した形状の固結体を形成することができる。
【0054】
さらに、埋設管の周辺部に形成する固結体の大きさ、重量、各固結体どうしの間隔、さらには固結体ひとつの固結領域に注入する薬液量と当該薬液の注入によって形成される固結体の形状や固結体体積、さらには薬液の注入時間、注入速度およびゲル化時間を設定することにより、埋設管の周辺地盤の性状等に応じて最適形状、最適大きさ、最適重量の固結体を埋設管と一体に形成することにより、液状化に伴う既設埋設管の浮き上りを抑制することができる。
【0055】
図8は、一点注入により埋設管の上部に固結体を形成して埋設管の重量を増大させることにより、埋設管の液状化に伴う浮き上がりを抑制する方法を図示したものであるり、この場合、埋設管の両側に固結体が対称に広がるように注入材を注入することで、埋設管の浮き上がりに伴う回転等を防止することができる。
【0056】
また、
図9は、二点注入により埋設管の両側部に固結体を形成して埋設管の重量を増大させることにより、埋設管の液状化に伴う浮き上がりを抑制する方法を図示したものであるり、この場合、両側の固結体が対称に拡径するように2点で注入材を注入することで、埋設管の重量を効率的に増大させることができて、埋設管の浮き上がりに伴う回転等をより確実に防止することができる。
【0057】
また、一般にガス管、上水管、下水管などの埋設管は、本来液状化しにくい地盤を溝状に掘削した中に敷設された後、掘削土によって埋め戻される。このため、埋設管上部の埋め戻し土はゆるく液状化しやすいが、埋設管上部の地盤中に薬液を注入することにより、薬液は埋設管の両側部および下方の埋め戻し土内およびその外側の非液状化地盤内を流下浸透して固結体を形成する。その際特に、埋め戻し土とその外側の非液状化地盤の一定範囲が一体化された固結体を形成するため(
図6(a),(b)破線参照)、非液状化地盤のアンカー効果により埋設管の浮き上がり抑制効果はきわめて大きい。
【0058】
さらに、複数の注入管を埋設管の管軸方向に間隔を開けて設置し(
図7(a),(b),(c)参照)、複数の注入地点に薬液を連続して、あるいは同時に注入して各注入地点における固結体を急速に形成することにより、ガス管、下水管、上水管、電信電話線などのように数キロないし数十キロにもわって線状に延びるライフラインの液状化対策を、埋設管を供用しながらきわめて効率的かつ効果的に行うことができる。特に、
図7(c)に図示するように一注入地点において二本の注入管による二点注入を行うことによりその効果は倍増する。
【0059】
本発明における固結体の形成は、主に薬液の浸透範囲およびゲル化時間と大きく関係しており、薬液注入における薬液の浸透範囲とゲル化時間の関係に関しては、浸透範囲はゲル化時間のほかに注入圧力、注入速度、注入量、注入時間、注入孔の有口径、注入方式および地盤の透水係数、間隙率、空隙の発達状況、注入材の粘性などが相互に関連し、これらを地盤の性状に合わせて適宜値に設定することにより既設埋設管の周囲に粒子間浸透により最適大、最適形状の固結体を形成することができる。
【0060】
実際には不均質な地盤状況、地下水の流動、注入材の経時的な粘土変化、ゲル化を伴う流動体の複雑な浸透機構などが関連しているため、これらを厳密に数値化することは困難であるが、埋設管の周りに試験注入を試みてから、サウンディングにより注入条件、地盤条件に対応した浸透固結体の形状を把握して本施工に反映させることができる。
【0061】
薬液注入工法は地盤を開削せずに施工が可能であり、既設埋設管に対しても適用できる点で優れているが、薬液が高価であることを考慮すると、固化改良範囲とそのパイプライン上の配置と施工法が一体化した技術の開発が必要である。
【0062】
そこで本発明者は、埋設管の浮き上がりを抑えるために必要な薬液の量を検討し、少量でも効果的な注入方法を検討して本発明を完成した。さらに、線状のパイプラインに沿って所定位置に間隔を開けて固結体を形成し、最少限の注入を効果的に経済的に、かつ急速に施工することを可能にする液状化対策工を発明した(
図4〜
図9参照)。
【0063】
後述する大型土槽液状化実験(
図18参照)によって得られた本発明の要点は以下の通りである。
【0064】
(A).液状化が予想される地盤内に設置された既設埋設管の液状化対策工法において、埋設管の延長方向に複数の注入管を間隔をあけて設置し、かつ当該注入管を通じて埋設管上部、あるいは側面の地盤中に薬液を注入し、埋設管の側方および/または底部に薬液を流下浸透させて埋設管の側方および/または底部に埋設管の周辺土(埋戻し土等)からなる固結体を埋設管と一体に形成して埋設管の重量を増大させることにより、地震時の液状化に伴う埋設管の浮き上りを抑制することを特徴とし、以下の方法を伴うことができる。
【0065】
(1)埋設管を原地盤の非液状化層に定着させて地震時における既設埋設管の浮き上がりを抑制する方法。
(2)埋設管下の埋戻し土を固化して地震時に非液状化層の土が左右や上部に落ち込んで埋設管の浮き上がりを抑制する方法。
【0066】
(B).上記において、F=(管と固結土にかかる重力)/(管と固結土にかかる浮力)を設定して、埋設管延長方向の固結体の固結量と、固結体間の間隔を設定する。ここでFは、以下のように設定する液状化対策工法。
【0067】
(1)周辺地盤も液状化する場合、
安全率 F≧0.7(好ましくは、F≧0.8)。
図10より F≧0.7ならば浮上り量は10mm以下で大幅に軽減しており、実用上は殆ど問題ないものと考えるし、また
図11より薬液による改良固結体の体積は埋設管体積のほぼ2倍程度で済み、経済的にも好ましい。
図10、
図11より F≧0.8 ならば浮上り量は0であって全く問題なく、また固結体の体積は埋設管の体積の約2.5倍のみで済み、極めて経済的であることが判る。
【0068】
(2)埋戻し部のみ液状化する場合、
(i)埋設管の上部を固結する場合、
安全率 F≧0.7
(ii)埋設管と固結部を非液状化層の側面部、または/並びに底面部に定着させる場合、
安全率 F≧0.6(好ましくは、F≧0.7)。
【0069】
図9、
図13より埋設管と一体化して非液状化層の側面部又は/並びに底面部に定着させれば(二点注入)安全率 F≧0.6 にすれば浮上り量は大幅に軽減し、実質的に殆ど生じない事が判る。この場合も F≧0.7ならば浮上り量は生じない。
【0070】
(C).上記において、Fを以下のように設定する。
F(安全率)=(AVpipe+BVsolidified)/(CVpipe+CVsolidified)
=(A+B (Vsolidified/Vpipe))/( C+C (Vsolidified/Vpipe))
ただし、A:埋設管の密度、正確には管内部も含めた管体の平均密度(例:0.50g/cm
3)、B:固結土の密度(例:1.85g/cm
3)、C:液状化時の泥水の密度(例:1.81g/cm
3)、管の体積:Vpipe、固化した土の体積:Vsolidified
従来の考えのように安全率 ≧1 とすれば埋設管の体積の33倍の砂を改良する必要があったが、本発明者の研究によって上述した安全率を設定することによって少量の固結体で液状化による浮上りを防止できることが判った。
【0071】
(D).上記において、固結体は所定の間隔をおいて形成してなり、該固結体の形成は以下のいずれかの方法によってなされる。
【0072】
(1)埋設管の両側に設けた注入管から注入して、埋設管を原地盤の非液状化層に定着させる方法(埋設管の両側に設けた注入管から注入するのが好ましいが、片側の注入管から原地盤の側面又は底面の非液状化層に定着させても良い)。
(2)埋設管の片側から注入して、埋設管下部の埋戻し土を固結して埋設管と固結体を一体化する方法。
埋設管の下部の埋戻し土を固化すれば地震時に側面の非液状化層が崩れ落ちてきても埋設管下部には入り込めず、埋設管上部に落ち込み、埋設管の浮上りを防止する(
図15参照)。
(3)埋設管の上部に注入して、埋設管と固結体を一体化して埋設管と固結体にかかる重力を大きくする方法。
【0073】
(E).上記において、埋設管の延長方向の固結量と固結体同士の間隔を安全率F≧0.8以上或いは上記のような安全率になるように定める。いずれの条件でも安全率0.8以上にすれば問題ない。
勿論上記において、埋設管やマンホールや排水管との接続部等で浮上に対する反力が期待できるところでは、同じ安全率Fの値に対しても、より浮上しにくくなる。
【0074】
(F).線状に敷設された敷設物または線状に敷設された注入ライン、あるいは構造物の周辺部に沿って所定の間隔をあけて、複数の注入管を配置し、当該注入管は流路変換バルブを介し送液管と接続し、当該送液管は圧力・流量計を備えた注入ポンプと注入材貯蔵槽を備え、流路変換バルブを作動することにより、連続的に或は選択的に注入管への流路を切り換えて注入する(
図20(a),
図21(a),
図27(a),
図30参照)。
【0075】
(G).該注入管はオリフィスを介して送液管と接続し、該送液管は圧力・流量計を備えた注入ポンプと注入材製造装置を備え、複数の注入管に同時、または選択的に注入する(
図20(b),
図23,
図24,
図27(b),
図28(a),(b),
図29参照)。
【0076】
(H).線状に敷設された敷設物または線状に敷設された注入ライン、あるいは構造物の周辺部に沿って所定の間隔をあけて、複数の注入管を配置し、該注入は複数のユニットポンプから、それぞれ複数の注入管路に連通し、各ユニットポンプの作動は該複数のユニットポンプの圧力流量計測からの情報に基き、コントローラで一括管理される(
図21(b),
図31,
図32(b)参照)。
【0077】
[実験]
本発明者は、実験を表1に示すように、注入量を変えた比較実験(Case1〜3)と注入方法を変えた比較実験(Case4〜7)を行った。
【0078】
【表1】
【0079】
1.実験概要
最大間隙比1.104、最小間隙比0.673の7号硅砂を用いて深さ50cm、幅270cm、奥行き40cm の地盤を作成した(
図18参照)。地盤作成には湿潤締め固め法を用い、5cm 毎に密度管理を行った。
【0080】
埋設管模型は外径6cm、長さ35cm、管内が空洞で密度が0.50g/cm3 の塩化ビニール管を用い、土槽中央の深さ33cm の地点に設置した。入力加速度は
図1に示すものを用い、その周波数は10Hz である。
【0081】
埋設管の浮き上がり量は巻取り式変位計で測り、土中には加速度計や水圧計を設置した。薬液にはコロイダルシリカを使用した。薬液の注入にはサイフォンの原理を用いており、水頭差を利用して浸透注入を行った。
【0082】
注入方法は埋設管周りに広がる事を考え、
図8,9の二種類を選定し、それぞれ埋設管の上部から一点で入れる「一点注入」、左右から二点で入れる「二点注入」である。注入管は地盤作成中に設置しておき、薬液注入後に撤去した(
図18、
図19参照)。
【0083】
また、7号硅砂に対して薬液注入を行う場合はゲルタイムが1日以上と長く、水より比重の重い薬液は垂れ下がってきてしまうという問題があったため、硅砂に対し重量比1/300の水酸化マグネシウムを混合する事でゲルタイムを1時間程度まで短縮して実験を行った。
【0084】
2.注入量の比較実験
2.1.実験内容
注入量の比較実験(Case1〜3)では、土槽内の地盤全体が液状化するように相対密度を30%として地盤を作成した。薬液の注入量は0ml、500ml、1000ml の三種類とし、薬液は全て一点注入方法で注入した。なお、これらの実験ケースは地盤中に3 本の埋設管を40cm 間隔で設置する事で同時に行った(表-1,
図10,
図19(a)参照)。
【0085】
2.2実験結果と考察
注入量比較実験の結果を
図10に示す。図中の安全率は実験時に埋設管とその周りの固化改良砂全体にかかる重力を浮力で除した値であり、小さい方が浮き上がり易い。なお、固化改良砂の重量と体積は実験終了時に地盤を開削する際に測定した。この図から、安全率が0.80 で十分な埋設管の浮上はゼロとなり0.7でも浮上低減効果があると分かる。埋設管は密度A:0.50g/cm
3、固化した砂はB:1.85g/cm
3、液状化時の泥水はC:1.81g/cm
3であり、管の体積をVpipe、固化した砂の体積をVsolidifiedとすると、
安全率F= (A Vpipe +B Vsolidified)/(C Vpipe + C Vsolidified)
= (A+ B (Vsolidified/ Vpipe))/( C + C (Vsolidified / Vpipe))
となる。
【0086】
また、縦軸に安全率を、横軸にVsolidified/ Vpipe を取ったグラフを
図11に示す。図より薬液の量を増やして安全率を1.0 以上にするためには埋設管の体積の約33倍の砂を改良する必要がある。
【0087】
一方、0.9では約5 倍、0.8では約2.5 倍、0.7では約2.0倍の体積の砂のみを改良すれば良いので、これらは十分に実際に利用しうる数値だと言える。
【0088】
3.注入方法の比較実験
3.1.実験内容
図12に示すように、埋設管周りの埋め戻し部のみが液状化する条件を想定し、土槽中央部の深さ35cm、幅25cmの範囲のみ相対密度30%、それ以外では80%となるように地盤を作成した。
【0089】
図8,9に示す二種類の注入方法で薬液を注入する場合と薬液を注入しない「無対策」の計3ケース実験を行った。なお、これらの実験では全てのケースで完全に浮き上がりが止まると注入方法毎の比較が出来ないため、差が明確になるように薬液の注入量を一律500mlとした。また、加振中の砂の動きがわかるように、7号硅砂を着色した色砂を土槽壁面に縦横に入れた(
図16,
図74参照)。
【0090】
3.2.実験結果と考察
注入方法比較実験の結果を
図13に示す。この図から、二点注入が効果的な注入方法だと分かる。理由として、
図14のように埋設管の下まで薬液が広がるので、下の非液状化層に定着する事で埋設管の浮き上がりが抑えられたのだと考えられる。一点注入では薬液が埋設管上部に広がるため、非液状化層への定着が無かったので大きく浮き上がったと思われる。
【0091】
また、液状化が起きた際、
図15のように埋め戻し部と周辺地盤の境界壁面が剛性が失われた液状化層に崩れ落ちると考えられる。一点注入では埋設管下部が固化していないため、浮き上がるのと同時に崩れてきた砂が埋設管下に入る事で、浮き上がり量が増大した事が実験後の土槽壁面の色砂から確認された(
図16参照)。一方、二点注入では砂が埋設管の下に回り込めず、左右或いは上方に崩れる事で埋設管の浮き上がりが抑制された事が確認された(
図17参照)。
【0092】
さらに、一点注入では薬液が埋設管上部に固まることで重心が高くなり、浮き上がり途中で回転が起こり得るため、固化する砂の量が他の方法に比べて少なくなることが実験から観察された。以上より、周辺地盤が非液状化の場合には二点注入が最も効果的な注入方法であると分かった。
【0093】
また、本発明は、上述した注入をライフラインに沿って急速に、かつ効果的に行う技術である。埋設管等のライフラインは、道路や住宅地等を常時供用される条件下で行われる。
【0094】
また、交通の多い都市内で作業が行われることから、安全性の確保が重要となる。このため、本発明は以下の点を考慮して完成したものである。
【0095】
(1)人手に触れることなく全自動で行われることが好ましい。さらに、道路に沿って、車両に搭載して移動できるコンパクトな車上プラントとして使用できる装置が必要である(
図20参照)。このような注入液製造システムの例を
図32に示す。
(2)道路や護岸や宅地等の長い距離を有するライフラインを対象とするのであるから、製造プラントから送液管を通して、長距離の注入箇所に同時に、または連続的に送れるシステムが要求される。
【0096】
そして一度注入システムを設置すれば、ライフラインが供用される状態でも自動的に施工が行われることが好ましい。通常の注入工事のように、注入ポイント毎に注入プラントを移動していたのでは、その都度交通を中断しなくてはならない。
【0097】
本発明によれば、長距離にわたる施工箇所を、広範囲に渡って移動させることなく複数のポイントに、同時に、または、連続的に、あらかじめ設置した管路で作業できるため、ライフラインを止めることなく、注入作業を行うことができる(
図20,
図21,
図27〜
図31参照)。
【0098】
図32(a)の注入液製造システムは、送液ポンプが原料液を吸引し、かつ吐出する複数のシリンダーポンプよりなり、該複数のシリンダーポンプの吸引および吐出が同一時間内に同調するように制御する制御機構が設けられている。
【0099】
また、これらのシリンダーポンプからの直接複数の送液管に送液することもできる(
図32(b)参照)。この装置はコンパクトな制御装置で注入液を製造できるため、車上プラントで安全に施工できる(
図1)。