特許第5728747号(P5728747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 強化土株式会社の特許一覧 ▶ 強化土エンジニヤリング株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5728747
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】既設埋設管の液状化対策工法
(51)【国際特許分類】
   E02B 9/06 20060101AFI20150514BHJP
   E02F 5/10 20060101ALI20150514BHJP
   F16L 1/038 20060101ALI20150514BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20150514BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   E02D29/10 B
   E02D27/34 Z
   E02D3/12 101
【請求項の数】21
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-141596(P2014-141596)
(22)【出願日】2014年7月9日
【審査請求日】2014年8月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、国土交通省、建設技術研究開発費補助金にかかる成果
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509023447
【氏名又は名称】強化土株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】内村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】東畑 郁生
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小山 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
【審査官】 ▲高▼橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−275917(JP,A)
【文献】 特開2013−164103(JP,A)
【文献】 特許第5515190(JP,B1)
【文献】 特開2007−255108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 27/34
E02D 29/00
E02D 29/045 − 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化のおそれのある地盤であって、表層部に非液状化層、あるいはアスファルト舗装またはコンクリート舗装などの覆工層を有する地盤内に敷設された既設埋設管の液状化対策工法において、地盤中に前記埋設管の管軸方向に間隔を開けて設置した複数の注入管を介して埋設管の周囲に注入材を注入することにより、埋設管の周囲に複数の固結体を埋設管と一体にかつ埋設管の管軸方向に間隔を開けて形成することにより埋設管に重量を付与し、かつ前記固結体と前記非液状化層または覆工層との間に液状化の際の固結体の回転または変位を抑制する棒状支持部材を設置すると共に、当該棒状支持部材の下端部を前記固結体内に、上端部を前記非液状化層または覆工層にそれぞれ定着することにより液状化に伴う固結体の回転或いは変位を抑制して埋設管の浮上りを抑制することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項2】
請求項1記載の既設埋設管の液状化対策工法において、前記棒状支持部材の数量と間隔および前記固結体の重量と間隔は、液状化に伴う固結体の回転或いは変位を抑制するように設定して埋設管の浮上りを抑制することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項3】
請求項1または2記載の既設埋設管の液状化対策工法において、注入管を介して埋設管の周囲に注入材を注入すると共に、埋設管の周囲に流下浸透させて固結体を形成することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、棒状支持部材は、既設埋設管の周囲に固結体を形成するために設置した注入管、または当該注入管を引き抜いた後の地盤中に挿入した鉄筋、鋼材あるいはプラスチック等の棒状部材であることを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、棒状支持部材は、既設埋設管の管軸方向の両側にほぼ対称に複数設置することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、棒状支持部材の上端部を覆工層の下端付近より切断して除去し、かつ前記棒状支持部材の上端部に支圧版を棒状支持部材および覆工層と一体に形成することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、埋設管の管軸方向に間隔をあけて設置した複数の注入管より地盤中に注入材を注入し、当該注入材を埋設管の上部、側部または底部の一または複数箇所に流下浸透させて、既設埋設管および棒状支持部材と一体に固結体を形成することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項8】
請求項〜7記載の既設埋設管の液状化対策工法において、注入材の注入時間よりも土中におけるゲル化時間を長くすることにより、または注入材の先端部の浸透先端部のゲル化時間が注入完了時においても流動性が持続されるように注入することにより埋設管の上部、側部または底部の一または複数箇所に注入材を流下浸透固結させて埋設管と一体化した液状化時にも安定した形状の固結体を形成することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、埋設管の延長方向に所定間隔をあけて複数の注入管を設置して、以下(1),(2),(3)のいずれかの方法で該注入管から前記埋設管の周辺部に注入材を注入して該埋設管と埋戻し土中の固結体を一体化して、地震による浮上りを抑制するように注入材の注入を行い、かつ安全率F=(管と固結土にかかる重力)/(管と固結土にかかる浮力)を設定して、埋設管延長方向の固結体の固結量と、固結体間の間隔を設定し、前記安全率Fは以下(イ),(ロ)のように設定することによって浮上りを抑制することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
(1)埋設管を原地盤の非液状化層に定着させて地震時における既設埋設管の浮上りを抑制する方法。
(2)埋設管下の埋戻し土を固化して地震時に非液状化層の土が左右や上部に落ち込んで埋設管の浮上りを抑制する方法。
(3)埋設管の上面または側面を固化して埋設管と固結体を一体化して、埋設管と固結体に加わる重力を増やすことにより浮上りを抑制する方法。
(イ)周辺地盤も液状化する場合、
安全率 F≧ 0.7
(ロ)埋戻し部のみ液状化する場合、
(i)埋設管の上部を固結する場合、
安全率 F ≧0.7
(ii)埋設管と固結部を非液状化層の側面部、または/並びに底面部に定着させる場合、
安全率 F ≧ 0.6
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、Fを以下のように設定することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
F(安全率)=(AVpipe+BVsolidified)/(CVpipe+CVsolidified)
=(A+B (Vsolidified/Vpipe))/( C+C (Vsolidified/Vpipe))
ただし、A:埋設管の密度、B:固結土の密度、C:液状化時の泥水の密度、管の体積:Vpipe、固化した土の体積:Vsolidified
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、
固結体は、所定の間隔をおいて形成してなり、該固結体の形成は以下(1) (2),(3)のいずれかの方法によってなされることを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
(1)埋設管の両側に設けた注入管から注入して、埋設管を原地盤の非液状化層に定着させる方法。
(2)埋設管の片側から注入して、埋設管下部の埋戻し土を固結して埋設管と固結体を一体化する方法。
(3)埋設管の上部に注入して、埋設管と固結体を一体化して埋設管と固結体にかかる重力を大きくする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、埋設管の延長方向の固結量と固結体同士の間隔を安全率F≧0.7以上になるように定めることを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、線状に敷設された敷設物または線状に敷設された注入ライン、あるいは構造物の周辺部に沿って所定の間隔をあけて、複数の注入管を配置し、当該注入管は流路変換バルブを介し送液管と接続し、当該送液管は圧力・流量計を備えた注入ポンプと注入材貯蔵槽を備え、流路変換バルブを作動することにより、連続的に或は選択的に注入管への流路を切り換えて注入することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項14】
請求項13記載の既設埋設管の液状化対策工法において、流路変換バルブおよび注入ポンプは前記圧力流量計からの情報に基いて、コントローラーによって一括制御することにより、複数の注入地点における注入の切り替えと選択を行うことを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、該注入管はオリフィスを介して送液管と接続し、該送液管は圧力・流量計を備えた注入ポンプと注入材製造装置を備え、複数の注入管に同時、または選択的に注入することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、線状に敷設された敷設物または線状に敷設された注入ライン、あるいは構造物の周辺部に沿って所定の間隔をあけて、複数の注入管を配置し、該注入は複数のユニットポンプから、それぞれ複数の注入管路に連通し、各ユニットポンプの作動は該複数のユニットポンプの圧力流量計測からの情報に基き、コントローラーで一括管理されることを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、前記注入管は直径1mm〜10mmのプラスチック細管であることを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、前記注入管は該注入管を軸方向に異なる位置に複数本結束した注入管を用いて地盤中に注入することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかひとつに記載の液状化対策工法において、任意の地点に地盤変位計測装置が配置し、当該地盤変位計測装置による計測値に基いて注入を制御することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかひとつに記載の液状化対策工法において、シリカ溶液、粘土、気泡、気体、セメント、スラグから選ばれた1種または複数種を有効成分とする注入材を単独或は併用して注入することを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかひとつに記載の既設埋設管の液状化対策工法において、注入管は生分解樹脂から形成されていることを特徴とする既設埋設管の液状化対策工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液注入による既設埋設管の液状化対策工法に関し、液状化の恐れのある地盤であって、特に表層部に砂礫層や密質砂層などの非液状化層を有する地盤、あるいは表層部がアスファルト舗装やコンクリート舗装などによって覆工された地盤内に敷設されたガス管、上水管、下水管などの既設埋設管の液状化に伴う浮上りおよび浮上りと共に起こりうる埋設管の回転等を簡便かつ経済的に抑制できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地盤中に敷設されたガス管、上水管、下水管などの既設埋設管の地震時の液状化に伴う浮上りが大きな問題になっており、本発明はこのような既設埋設管の浮上りを薬液注入工法によって簡便かつ経済的に抑制できるようにしたものである。
【0003】
一般に、薬液注入による液状化対策工法は、凝固する性質の薬液を地盤の一定範囲に注入管を通して注入することにより、地盤の透水性を低下させ粘着力を付与して一体化したサンドゲル(注入材を土に浸透させ硬化させた固結体)を形成することにより、地盤中の水の流れを止めたり地盤の強度を増大させる方法であり、注入材には主として劇物やフッ素化合物を含まない水ガラス系薬液(主剤がケイ酸ナトリウム)が用いられる。
【0004】
しかし、薬液注入工法は、液状化対策としての信頼性は高いものの高価であるため、特に重要建築物を支える基礎の耐震性の向上などでは広く用いられているが、既設埋設管の浮上低減策にはこれまであまり利用されていなかった。
【0005】
というのも、液状化対策の必要な既設埋設管は非常に多いにもかかわらず、既設埋設管そのものが低価格であるため高価な薬液を利用するメリットが無いと考えられていたためである。
【0006】
しかし、薬液注入工法は、比較的狭い作業スペースでも施工が可能なことや騒音の問題も小さいといった観点から、特に都市部や市街地では他の液状化対策工法に比べてメリットは十分にあることは確明らかである。また、公害性のないコロイダル系シリカグラウトのように安全で、しかも恒久性を期待できる注入材も開発されている現在、環境面での問題もクリアできている。
【0007】
このため、既設埋設管の液状化対策として薬液注入工法を利用するか否かの最大の懸念事項はコストと作業性であり、この2点が解決できればその有用性は計り知れないといえる。
【0008】
ところで、これまで地盤注入による既設埋設管の液状化対策工として、例えば特許文献1や特許文献2などに開示されており、特許文献1には既設埋設管の周辺地盤の延長をすべて高圧噴射工法で固結する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、特に液状化の際に破壊しやすい埋設管の継手部(連結部)に固結支持体を形成して液状化に備える方法が開示されている。
【0010】
また、上記問題を解決するために本出願人はすでに特願2013-135182を出願し、かつ作業性を高めて埋設管の上部付近から固結材を浸透流下して固結する発明特願2014-089735を出願している。本発明は特に埋設管の上部付近に固結体を形成してその重量によって埋設管の浮上りを防ぐ方法を更に発展させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7-300851
【特許文献2】特許第5156989号
【特許文献3】特許第4672693号
【特許文献4】特許第3724644号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】最先端技術の薬液注入工法 理工図書 島田俊介外.平成7年10月31日(P.139図3.5、P151写真3.7(a)、P152写真3.8、写真3.9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1に開示された方法は、既設埋設管の周辺地盤にその全長にわたって注入材を高圧噴射するため、大容量の注入材を必要としコストが嵩み、また工事終了まで相当の日数を要する等の課題がある。さらに、注入材の高圧噴射によって既設埋設管を破損するおそれもあった。
【0014】
一方、特許文献2に開示された方法では、液状化の際に特に破壊しやすいとされる埋設管の継手部(連結部)を固結支持体で支持したとしても、液状化時の浮力が大きければ埋設管は浮上り破損してしまうおそれがあり、また、地盤中に埋設された既設埋設管を目視できないため、地盤中に数キロないし数十キロにもわたって埋設された既設埋設管の継手部にピンポイントで薬液を注入することは容易でない。
【0015】
また、既設埋設管の継手部に薬液をピンポイントで注入して固結支持体を形成するといっても、固結支持体の形状や位置によっては周辺地盤の液状化に伴って既設埋設管が浮き上がった際、既設埋設管に偏芯荷重によって回転力を付与し、そのために既設埋設管の継手部が外れたりあるいは既設埋設管が破損してしまうおそれもあった。
【0016】
また、一般にガス管や上下水道管などの埋設管は、数キロないし数十キロにもわたって地盤中に敷設されており、また戸建て住宅が密集する分譲地などの住宅地においては、狭い敷地内を縫うように敷設されていることが多い。
【0017】
このため、従来の薬液注入工法をそのまま埋設管の液状化対策に適用したのでは注入材の大量注入につながりかねない。また注入プラント等の注入設備を設置するスペースの問題や注入プラントを長距離区間移動させながら注入する必要があるため作業性に問題があるだけでなく、コストが嵩み経済性にも問題があった。
【0018】
さらに、これまでの薬液注入による既設埋設管の液状化対策工法では、埋設管の敷設されている一定領域、あるいは液状化によって特に破壊されやすい領域を単に注入材で固結することにより、支持力を増大させるという考えのもとに行われていたため、注入材が過剰に注入されやすくなり、このため既設埋設管の液状化対策を最小の注入量で経済的に行うことがきわめて困難であった。
【0019】
また、ガス管や上下水道管などの埋設管の敷設された地盤が液状化するといっても、埋設管の敷設地盤の全体が液状化する場合と埋設管の埋戻し部のみが液状化し、その周辺地盤は特に液状化しない場合など、様々な形態の液状化地盤がある。
【0020】
このような地盤に対して最適な注入方法といっても様々な方向からのアプローチが可能であり、例えば、一カ所の注入量はどれくらいの量にすれば埋設管の浮上りを防ぎつつ、コストを最も低減することができるか、あるいは埋設管に対してどれだけの間隔をあけて固結体を形成するのがベストなのか、あるいは固結体をどのような形状に形成すれば地震時に安定であり、そのためにどのような手法によればよいのか等についてもあまり検討されていなかった。
【0021】
また、埋設管の上面付近を中心として固結体を形成し、埋設管の重量を増大して地震時の浮力に抵抗する方法は作業性において簡便なように考えられるが地震時においては泥水中の固結体が地震力を受けて泥水中で変位して回転してしまい埋設管と一体化した形状を維持できなくなり、その結果埋設管が浮上り、或いは回転して液状化を防ぐことができなくなる(図5(a),(b))。
【0022】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、これまでの施工上のコスト面と施工性の問題を解消し、必要最小限の薬液注入量と労力によって液状化に伴う既設埋設管の浮上り等を最も効果的に抑制できるようにした既設埋設管の液状化対策工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、液状化のおそれのある地盤のうち、特に地盤表層部に非液状化層、或いは地下水面より上の不飽和地盤等の非液状化層、あるいはアスファルト舗装などの覆工層を有する地盤内に敷設された既設埋設管の液状化対策工法の発明であり、埋設管の周囲に固結体を埋設管と一体にかつ埋設管の管軸方向に間隔を開けて複数形成することにより埋設管に重量を付与すると共に、前記固結体を埋設管の上部に位置する非液状化層または覆工層に定着して、液状化に伴う固結体の回転或いは変位を抑制し、これによって埋設管の浮上りを抑制することを特徴とするものである。
【0024】
本発明は、液状化のおそれのある地盤であって、特に地盤の表層部に砂礫層や密質砂層などの非液状化層、または地下水面より上の不飽和地盤等の非液状化層を有する地盤、あるいは表層部がアスファルト舗装やコンクリート舗装によって覆工された地盤の比較的浅い位置に敷設された埋設管の液状化対策に適している(図3(a),図10(a)〜(d)参照)。
【0025】
固結体は、埋設管の敷設された地盤中に複数の注入管を埋設管の管軸方向に間隔をあけて設置し、当該注入管を通して埋設管の周囲地盤中に注入材を注入し、当該注入材を埋設管の周囲に流下浸透させて、埋設管周囲の地盤を固結し、かつ地盤表層部の非液状化層または覆工層に定着させることにより容易に形成することができる(図3(a),図10(a)〜(d)参照)。
【0026】
注入材は、地盤中を流れに任せて流下浸透させて埋設管周囲の地盤中に注入することで(図13,図14参照)、これまでの高圧注入における埋設管の破損や変位などを防止することができる。
【0027】
また、固結体は、注入管を設置する位置や深さにより埋設管周囲の上部、側部または底部の一または複数箇所に任意の形状、大きさに形成することができ、また、一つの注入地点に複数の注入管を設置することにより注入時間を短縮して固結体を短時間のうちに形成することができる(図10(d)参照)。
【0028】
また、地盤表層部の非液状化層や覆工層よりかなり深い位置に埋設管が埋設されている場合は、前記固結体と非液状化層または覆工層との間に埋設管を下方に向けて支持するように支持体を形成すると共に、当該支持体を非液状化層または覆工層に定着することにより埋設管の浮上りを抑制することができる。
【0029】
この場合、支持体の数量と間隔および固結体の重量と間隔を液状化に伴う固結体の回転或いは変位を抑制するように設定することにより、埋設管の浮上りを適切に抑制することができる。
【0030】
なお、支持体は、埋設管の周囲に固結体を形成するために挿入した注入管を固結体と表層部の非液状化層または覆工層との間に埋設するか(図1,2参照)、あるいは当該注入管を引き抜いた後の地盤中に形鋼などの鋼材または鉄筋を埋設する等の方法により形成することができる。
【0031】
また、支持体は、埋設管上部の一定領域の地盤を固結体から表層部の非液状化層または覆工層まで柱状に連続させて固結することにより形成することができ、さらに柱状に固結された中に注入管、あるいは鋼材や鉄筋などの棒状部材を挿入することにより支持体の強度を高めることができる(図12(a)〜(c)参照)。また、埋設管が表層部の非液状化層や覆工層に近い比較的浅い液状化地盤内に敷設されている場合、支持体は、既設埋設管の周囲に形成した固結体が非液状化層または覆工層に定着するように注入材を注入して形成してもよい(図10(a)〜(d)参照)。また、前記固結体が表層部の埋設管の上部に位置する非液状化層または覆工層に定着するように注入することにより、泥水中における液状化の際の地震動や浮力による固結体の回転や変状を抑制して埋設管の浮上りを防止することができる。
【0032】
定着に当っては所定の大きさの固結体を形成すると共に固結体の上部が埋設管の上部に位置する非液状化層中に達するように注入ポイントを位置せしめて注入するか、あるいは埋設管が液状化層中の深い位置にある場合、非液状化層まで引き上げながら固結体より小さい断面をもつ固結柱を非液状化層に位置せしめて一体化させる。
【0033】
なお、液状化は地下水面下で起こるから地下水面より上部の地盤は非液状化層とみなすことができる。上記において非液状化層中の固結柱は、液状化層中の固結体と非液状化層又は覆工層を一体化して液状化においても固結体の形状を維持する支持体とみなすことができる。このようにすれば、経済的に安定した液状化対策が可能になる。
【0034】
この際、各固結体の重量と間隔および支持体の数量および間隔を液状化に伴う埋設管の浮上りや回転を抑制するように設定することができる(図3)。
【0035】
本発明者は、地表に非液状化層がある場合、非液状化層に固結部を定着することにより固結体の大部分が液状化層中にあっても地震時に固結体の形状が維持されて、浮上り量が大幅に低減されることを見出し本発明を完成した。
【0036】
埋設管にそって全面的に固結体を形成すれば液状化を防ぐことはすでに公知であるが、それではきわめて不経済となり、かつ施工性が悪い。それに対して、本発明は比較的小さな固結体を間隔をあけて埋設管と一体に形成することによって経済的に液状化を防ぐことができることを見出したものであるが、一方独立した小さな固結体は液状化の際、泥水中で地震動が作用するわけであるから埋設管の上部に固結体を形成して、その重量で液状化時の浮き上がりを防ぐ場合、充分な重量があっても容易に回転や変位を生じて埋設管を安定させることが困難になる。
【0037】
本発明は、このような問題を解決するものであって、埋設管の周囲に埋設管と一体の必要最小量の固結体を一または複数形成して埋設管に重量を付与し、さらに当該固結体と地盤表層部の砂礫層や密質砂層などの非液状化層、あるいはアスファルト舗装やコンクリート舗装などの覆工層との間に一または複数の支持体を形成して埋設管を下方に向かって支持することにより、地震時の液状化に伴う固結体の回転や変状を防ぎ、埋設管の浮上りや回転を抑制するものである。
【0038】
特に、固結体と地盤表層部の非液状化層または覆工層との間に埋設管を上から下方に支持するように支持体を形成することにより、単に液状化に伴う埋設管の浮上りを抑制できるだけでなく、液状化に伴う固結体の回転や変状が泥水中で生ずることを防ぎ、その結果埋設管の浮上りと共に起こりやすい埋設管の回転も防止することができる(図1(a),(b)〜図4参照)。
【0039】
液状化に伴う埋設管の浮上りを抑制する目的で、埋設管の周囲に固結体を形成して埋設管に重量を付与することは、固結体の形成された位置や形状等により浮上りと同時に埋設管に回転を起こさせ(図5(a),(b)参照)、これがもとで埋設管が破損するおそれがあるが、固結体が地盤表層部の非液状化層や覆工層に定着するように注入したり、或いは埋設管の上面と一体化した固結体が埋設管の上部に位置する非液状化層や覆工層との間に埋設管を上から下方に向けて支持する支持体を形成することにより埋設管の回転を確実に防止することができる(図1,2,3参照)。
【0040】
固結体は、例えば液状化の可能性のある地盤中の埋設管の上部地盤中に注入管を挿入し、当該注入管を通して地盤中に注入材を注入することにより埋設管上部の地盤を一定範囲固化させて形成することができる。
【0041】
注入管を回収しないで地盤中に埋設し、かつ注入管の上端部を地盤表層部の非液状化層または覆工層にセメント等の固化材によって定着することにより支持体とすることができる(図1(a)(b)、図2,4参照)。
【0042】
また、埋設管の敷設された地盤が特に液状化の恐れの高い地盤にあっては、各注入地点に複数の注入管を埋設管の管軸直角方向に間隔をおいて挿入し、当該複数の注入管を通して地盤中に注入材をすることにより、埋設管上部の地盤を埋設管の管軸直角方向に一定領域固化して固結体を形成し、かつ複数の注入管を埋設管上部の地盤中に埋設して支持体とすることにより、固結体を非液状化層或いは地盤表面部に定着させ埋設管の浮上りと回転をより確実に抑制することができる(図1,2,3参照)。
【0043】
なお、固結体を形成する位置は、必ずしも埋設管上部の地盤中に限られるものではなく、注入材の注入地点と注入量により埋設管の側部または底部のいずれの場所に任意の大きさに形成することができる。
【0044】
支持体も、必ずしも注入管である必要はなく、注入管を引き抜いた後の地盤中に鉄筋や鋼材、あるいはプラスチックなどの棒状部材を挿入して支持体としてもよい。さらに、注入管を徐々に引き抜きながら固結体の上部地盤中に注入材を注入して、固結体と地盤表層部の非液状化層または覆工層との間を固結して支持体としてもよい(図3(a),(b),(c)参照)。
【0045】
いずれの場合も、各固結体の重量と間隔および支持体の数量および間隔を液状化に伴う埋設管の浮上りと回転を抑制するように設定すればよい。これらの支持体は、固結体よりも断面が小さく、作業性もよく経済性を損なうものではない。
【0046】
注入材には、シリカグラウト溶液(コロイダルシリカ系グラウト、シリカゾル系グラウト、水ガラス系グラウト)、粘土、気泡、セメントまたはスラグ等の一または複数を有効成分とする注入材を単独または複数併用して利用することができる。
【0047】
よって、本発明によれば、埋設管の周囲を埋設管の管軸方向に連続して固結しなくても、埋設管の周囲に一定量の固結体を埋設管の管軸方向に間隔を開けて複数形成すると共に、固結体と地盤表層部の非液状化層または覆工層との間に支持体を形成することにより、あるいは固結体の上部を非液状化層に定着させて(図3(a)、図9図10(a)参照)液状化に伴う埋設管の浮上りと回転を容易に抑制することができる。
【0048】
また、予想される液状化の程度、埋設管の径や重量などに応じて、固結体の重量と間隔および支持体の数量と間隔を適切に設定することにより、埋設管の浮上りと回転をきわめて効果的に抑制することができる。
【0049】
さらに、数キロないし数十キロにもわたって敷設された供用中の上水管や下水管、あるいはガス管などのライフラインに、固結体を埋設管に沿って間隔をあけながら少量ずつ形成することは、注入プラントの移動や施工性、さらには正確な施工管理を必要とすることを考えると、経済性が得られない等の問題があるが、埋設管の管軸方向に間隔を開けて複数の注入管を設置して一または複数の注入ラインを配置し、この注入ラインを通して複数の地点に注入材を同時注入して複数の固結体を埋設管の管軸方向に間隔を開けて形成することにより、数キロないし数十キロにもおよぶライフラインであっても、供用しながら液状化対策工をきわめて迅速にかつ効率的に、さらにきわめて経済的に行うことができる。また、埋設管の状態と注入設計と施工法、施工管理を一体として行うことによりきわめて経済的な液状化対策を行うことができる。
【0050】
また、本発明者は、埋設管の周囲に比較的小径の固結体を埋設管と一体かつ埋設管の管軸方向に間隔を開けて形成して埋設管の重量を増大させて液状化を防止するに際してのいくつかの課題を本発明によって解決した。
【0051】
即ち、埋設管の上部に注入材を単に注入して埋設管の周囲を埋設管と一体に固結して重量を大きくしても、固結体の形状や大きさ等によっては重心が高くなり、埋設管の底部や側面部の液状化に伴う浮上りの途中で埋設管が回転して埋設管の継手部が外れたり、あるいは埋設管自体が破損するおそれがある。
【0052】
或は、固結体自身が回転して液状化した地盤の中で落ち込んだり個々の固結体が液状化の際に地震動によって異なった挙動を示し、埋設管が回転してしまうことがある。
【0053】
これを防ぐには、埋設管と一体化した固結体の重心が下方になるように埋設管周囲の地盤を浸透固結させることが好ましい。またこのために、埋設管の近傍を底部や側面迄掘削して注入管を設置して注入液を注入して固結体を側面や底部に形成する必要があるが、その場合誤って埋設管を破損してしまうおそれがある。
【0054】
埋設管が破損すると、供用中の埋設管は使用不能に陥り、場合によっては埋設管内に地下水が流入したり、あるいは埋設管内の液体(上下水道等)や気体(ガス等)が周囲の土中や地上に吹き出す等の危険なトラブルに見舞われることがある。
【0055】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、ガス管、下水管、上水管、電信電話線などの線状に延びるライフラインを供用しながら液状化対策工を安全かつ効果的に行うことを可能にしたものである。
【0056】
更に本発明は、液状化が予想される地盤内に設置された既設埋設管の周辺部に注入材を注入しておこなう既設埋設管の液状化対策工法であって、複数の注入管を前記埋設管の管軸方向に間隔をあけて設置し、当該注入管を通じて地盤中に注入材を注入し、埋設管の周辺部を流下浸透させることにより、埋設管の上部、側部および/または底部に埋設管の周辺土(埋戻し土含む)からなる固結体を埋設管の管軸方向に間隔をあけ、かつ埋設管と一体に形成して既設埋設管の重量を増大させ、かつ埋設管上部の固結体を表層部のの非液状化層、あるいは覆工層に定着さることにより、施工が簡便でかつ安全に、しかも経済的に液状化に伴う埋設管の浮き上りを抑制することを特徴とするものである(図8〜13参照)。
【0057】
本発明者は、以下の薬液注入の地盤中における浸透の挙動を利用することにより上記目的を解決したものである。
【0058】
注入圧力と注入速度に関するもっとも基本的な浸透式としては、Maagによって以下の式1が提示されているが、この式.1はダルシーの法則から導きだされたものである(上記非特許文献1「最先端技術の薬液注入工法」平成3年6月10日発行 島田俊介・佐藤武・多久実 共著 理工図書)。
【0059】
【数1】
【0060】
図7のグラフは、Maagの式における注入時間と浸透半径の関係を示したものであり(非特許文献1 P139.図3.5)、地下水圧が一様な地盤では、注入材は一般に球状に浸透していくと考える(上記非特許1文献P.137)。
【0061】
一般に、浸透注入は図7に図示するように所定領域を固結するように行われる(上記非特許文献1 P.151写真3.6(a))。ところで、ゲル化時間が長いと注入時にはほぼ上記浸透理論に沿って球状に固結したものが注入完了後注入薬液は地下水よりも重いため下方に流下して浸透固結する(上記非特許文献1 P.152写真3.8、3.9 註:写真中の丸い物はストップウォッチである)。これは注入としては失敗と考えられている。
【0062】
これより注入材の注入時間より土中におけるゲル化時間を長く設定することにより、注入後の注入材は地盤中を流下浸透し、鉛直方向に長軸を有する固結体を形成することが判る(図12参照)。あるいは、上層が水平方向に異なる透水性で積層している場合は水平方向に固結体を形成する。
【0063】
そこで、本発明者は、上記非特許文献1 P152 写真3.8、3.9の浸透流下固結の特性を利用することに着目して薬液注入における注入時間、ゲル化および固結体の形状等の研究を行った結果、注入時間よりも土中ゲル化時間が長い注入材を注入した場合或は土中における注入液の浸透先端部のゲル化時間が注入完了後も流動性を維持している場合、図9の(a)→(b)→(c)の過程をへて所定の注入量の注入後も下方に流下して固結体を形成することを埋設管の液状化防止に利用する事により上記課題を解決できることに想到した。
【0064】
液状化を生じやすい地盤では非液状化層にくらべて密度がゆるく透水性が大きいため当然このような現象はおきやすい。またこのような手法によれば固結体の形状を重心が下方に位置するように浸透固結することができる。
【0065】
この地盤中における薬液の流下浸透固結範囲内に埋設管を含むように上記薬液を流下浸透注入すれば(図10,11,12参照)、注入管の削孔深度が底面や側面迄到らなくても埋設管の上部、側部または下部に固結体を形成できることに着目して本発明を完成させた。
【0066】
また、埋設管が地盤表層部の非液浄化層に近い比較的浅い位置に敷設されているような場合は、固結体をその上端部が非液状化層内に定着するように形成することにより、簡便にかつ安全に安定した固結体で埋設管の地震時等における浮上りを防止することができる (図3(a),図10(a)〜(d)参照)。
【0067】
また、埋設管が比較的深い位置に敷設されているような場合は、固結体の上部地盤の一定領域を上下方向に連続する柱状に固結すると共に、その下端部を固結体と連続させ、かつ上端部を非液状化層内に定着させて支持体としてもよい(図3(b),(c)、図12(a),(b),(c)参照)。
【0068】
さらに、支持体13内に固結体12および支持体13を形成するために用いた注入管2を挿入するか、あるいは注入管とは別に鉄筋や鋼材などを挿入して支持体13を補強することもできる。この場合、これらの部材の先端は固結体12内に、上端は非液状化層およびアスフゥルト舗装11内に定着するのが望ましい(図12(a),(b),(c)参照)。
【0069】
このようにすれば、埋設管周辺部の削孔の安全を保って施工できるし、又埋設管と一体となった固結体を形成することが出来るし、低圧浸透注入により地盤の変状がさけられ従って埋設管が破損したり変状を生じたりしなくてすむ。勿論施工も容易になる。
【0070】
特に、該埋設管のように非液状化地盤を掘削して設置したあと埋め戻し地盤などの液状化しやすいゆるい地盤では、又埋設管下方に非液状化層があると薬液は下方に広がるように浸透固化する傾向にあるため、ゲル化時間を保ち流動性を持続しながら下方に徐々に広がって地震等にも安定した固結体を形成しうる(図9(c)参照)。
【0071】
また、薬液の注入は、各注入地点において原則一本の注入管により行うことが可能であり(一点注入 図10(a),(b)参照)、必要により一注入地点において複数の注入管を用いることも可能である(二点注入 図10(c)、図12(c)参照)。
【0072】
また、注入材は、注入管を埋設管の上部に設置して埋設管の上部にのみ流下浸透させる場合、埋設管の上部および上部から埋設管の側方にかけて連続して流下浸透させる場合、また、注入管を埋設管の側方に設置して埋設管の側方にのみ流下浸透させる場合、埋設管の側方および埋設管の側方から埋設管の底部にかけて連続させて流下浸透させる場合がある。
【0073】
さらに、注入管を埋設管の上部に設置して埋設管の上部、埋設管の上部から埋設管の側方、さらに埋設管の側方から底部にかけて連続させて流下浸透させる場合がある。また、注入管を埋設管の底部まで挿入して埋設管の底部および埋設管の底部から下方の一定範囲かけて連続して流下浸透させることもできる。
【0074】
いずれの方法を採用するかは、埋設管の大きさ(外径)や周辺地盤の性状などにより最適な方法を選択すればよい。
【0075】
図12(b)は、二点注入により埋設管の上方注入管から注入液を浸透流下させて埋設管の上部に固結体を形成して埋設管と一体化した例を示す。埋設管の削孔は埋設管に到らないので埋設管の損壊の心配はない。
【0076】
また、ゲル化時間の長い注入液を小さい吐出速度で注入して注入後も注入液が流下浸透固結する事により埋設管上部に液状化に際しての浮力に充分耐えるだけの重さの固結体を形成できる。
【0077】
また、埋設管は比較的地表面の浅い深度に位置しており、通常の注入では注入液は地表面に逸出するか、或いは注入速度が大きいと地盤が変位して埋設管が変状する(図27参照)。それに対し本発明は、後述する図28図37のように低吐出速度で同時注入、或いは連続注入して低圧で急速施工することで上記問題を解決することができる。
【0078】
ここに、土中ゲル化時間とは地上部における配合時のゲル化時間ではなく地盤中に浸透している土中のゲル化時間をいう。注入液は地盤中において注入液のpH、土のpHや組成による影響を受けるため地上部におけるゲル化時間とは異なってくる。このため、採取土を用いて注入液と混合して土中ゲルタイムを測定する。
【0079】
あるいは、例えば1mの長さのビニールパイプに現場採取土砂を所定の密度で填充し注入液を注入し先端部から流出した注入液のゲルタイムを測定して土中における浸透先端部のゲルタイムを測定して注入液の配合を設定することができる。このようにすれば注入完了時にも注入液がゲル化を有しながらどれだけの流動性を維持しているかが判る。
【0080】
このように本発明において、注入液を地盤中で流下浸透固化させて既設埋設管を包含させた状態で固結することにより注入材の注入に際し、埋設管の周辺に地上から挿入した注入管を通じて埋設管上部の地盤中に注入材を注入し、埋設管の上部、側方および/または底部に注入材を流下浸透させて埋設管と一体の固結体を形成して既設埋設管の重量を増大させることにより液状化に伴う埋設管の浮き上りを抑制することができる。
【0081】
また、埋設管と一体化した固結体の重心が注入前の埋設管の重心よりも下方向に位置するように形成することにより、液状化時の埋設管の浮上りや回転やねじれ等を防止することもできる(図12参照)。
【0082】
また、薬液の注入時間よりも土中におけるゲル化時間を長くすることにより、または薬液の先端部の浸透先端部のゲル化時間が注入完了時においても流動性が持続されるように注入することにより埋設管の側方および下方に注入材を流下浸透固結させて、埋設管と一体化した液状化時にも安定した形状の固結体を形成することができる。
【0083】
さらに、埋設管の周辺部に形成する固結体の大きさ、重量、各固結体どうしの間隔、さらには固結体ひとつの固結領域に注入する薬液量と当該薬液の注入によって形成される固結体の形状や固結体体積、さらには薬液の注入時間、注入速度およびゲル化時間を設定することにより、埋設管の周辺地盤の性状等に応じて最適形状、最適大きさ、最適重量の固結体を埋設管と一体に形成することにより、液状化に伴う既設埋設管の浮き上りを抑制することができる。
【0084】
図13は、一点注入により埋設管の上部に固結体を形成して埋設管の重量を増大させることにより、埋設管の液状化に伴う浮上りを抑制する方法を図示したものであり、この場合、埋設管の両側に固結体が対称に広がるように注入材を注入することで、埋設管の浮上りに伴う回転等を防止することができる。
【0085】
また、図14は、二点注入により埋設管の両側部に固結体を形成して埋設管の重量を増大させることにより、埋設管の液状化に伴う浮上りを抑制する方法を図示したものであり、この場合、両側の固結体が対称に拡径するように2点で注入材を注入することで、埋設管の重量を効率的に増大させることができて、埋設管の浮上りに伴う回転等をより確実に防止することができる。
【0086】
また、一般にガス管、上水管、下水管などの埋設管は、本来液状化しにくい地盤を溝状に掘削した中に敷設された後、掘削土によって埋め戻される。このため、埋設管上部の埋め戻し土はゆるく液状化しやすいが、埋設管上部の地盤中に薬液を注入することにより、薬液は埋設管の両側部および下方の埋め戻し土内およびその外側の非液状化地盤内を流下浸透して固結体を形成する。その際特に、埋め戻し土とその外側の非液状化地盤の一定範囲が一体化された固結体を形成するため(図11(a),(b)破線参照)、非液状化地盤のアンカー効果により埋設管の浮上り抑制効果はきわめて大きい。
【0087】
さらに、複数の注入管を埋設管の管軸方向に間隔を開けて設置し(図12(a),(b),(c)参照)、複数の注入地点に薬液を連続して、あるいは同時に注入して各注入地点における固結体を急速に形成することにより、ガス管、下水管、上水管、電信電話線などのように数キロないし数十キロにもわって線状に延びるライフラインの液状化対策を、埋設管を供用しながらきわめて効率的かつ効果的に行うことができる。特に、図12(c)に図示するように一注入地点において二本の注入管による二点注入を行うことによりその効果は倍増する。
【0088】
本発明における固結体の形成は、主に薬液の浸透範囲およびゲル化時間と大きく関係しており、薬液注入における薬液の浸透範囲とゲル化時間の関係に関しては、浸透範囲はゲル化時間のほかに注入圧力、注入速度、注入量、注入時間、注入孔の有口径、注入方式および地盤の透水係数、間隙率、空隙の発達状況、注入材の粘性などが相互に関連し、これらを地盤の性状に合わせて適宜値に設定することにより既設埋設管の周囲に粒子間浸透により最適大、最適形状の固結体を形成することができる。
【0089】
実際には不均質な地盤状況、地下水の流動、注入材の経時的な粘土変化、ゲル化を伴う流動体の複雑な浸透機構などが関連しているため、これらを厳密に数値化することは困難であるが、埋設管の周りに試験注入を試みてから、サウンディングにより注入条件、地盤条件に対応した浸透固結体の形状を把握して本施工に反映させることができる。
【0090】
薬液注入工法は地盤を開削せずに施工が可能であり、既設埋設管に対しても適用できる点で優れているが、薬液が高価であることを考慮すると、固化改良範囲とそのパイプライン上の配置と施工法が一体化した技術の開発が必要である。
【0091】
そこで本発明者は、埋設管の浮上りを抑えるために必要な薬液の量を検討し、少量でも効果的な注入方法を検討して本発明を完成した。さらに、線状のパイプラインに沿って所定位置に間隔を開けて固結体を形成し、最少限の注入を効果的に経済的に、かつ急速に施工することを可能にする液状化対策工を発明した(図9図14参照)。
【0092】
後述する大型土槽液状化実験(図23参照)によって得られた本発明の要点は以下の通りである。
【0093】
(A)液状化が予想される地盤内に設置された既設埋設管の液状化対策工法において、埋設管の延長方向に複数の注入管を間隔をあけて設置し、かつ当該注入管を通じて埋設管上部、あるいは側面の地盤中に薬液を注入し、埋設管の側方および/または底部に薬液を流下浸透させて埋設管の側方および/または底部に埋設管の周辺土(埋戻し土等)からなる固結体を埋設管と一体に形成して埋設管の重量を増大させることにより、地震時の液状化に伴う埋設管の浮き上りを抑制することを特徴とし、以下の方法を伴うことができる。
【0094】
(1)埋設管を原地盤の非液状化層に定着させて地震時における既設埋設管の浮上りを抑制する方法。
(2)埋設管下の埋戻し土を固化して地震時に非液状化層の土が左右や上部に落ち込んで埋設管の浮上りを抑制する方法。
【0095】
(B)上記において、F=(管と固結土にかかる重力)/(管と固結土にかかる浮力)を設定して、埋設管延長方向の固結体の固結量と、固結体間の間隔を設定する。ここでFは、以下のように設定する液状化対策工法。
【0096】
(1)周辺地盤も液状化する場合、
安全率 F≧0.7(好ましくは、F≧0.8)。
【0097】
図15より F≧0.7ならば浮上り量は10mm以下で大幅に軽減しており、実用上は殆ど問題ないものと考えるし、また図15より薬液による改良固結体の体積は埋設管体積のほぼ2倍程度で済み、経済的にも好ましい。
【0098】
図15図16より F≧0.8 ならば浮上り量は0であって全く問題なく、また固結体の体積は埋設管の体積の約2.5倍のみで済み、極めて経済的であることが判る。
【0099】
(2)埋戻し部のみ液状化する場合、
(i)埋設管の上部を固結する場合、
安全率 F≧0.7
(ii)埋設管と固結部を非液状化層の側面部、または/並びに底面部に定着させる場合、
安全率 F≧0.6(好ましくは、F≧0.7)。
【0100】
図14図18より埋設管と一体化して非液状化層の側面部又は/並びに底面部に定着させれば(二点注入)安全率 F≧0.6 にすれば浮上り量は大幅に軽減し、実質的に殆ど生じない事が判る。この場合も F≧0.7ならば浮上り量は生じない。
【0101】
(C)上記において、Fを以下のように設定する。
F(安全率)=(AVpipe+BVsolidified)/(CVpipe+CVsolidified)
=(A+B (Vsolidified/Vpipe))/( C+C (Vsolidified/Vpipe))
【0102】
ただし、A:埋設管の密度、正確には管内部も含めた管体の平均密度(例:0.50g/cm3)、B:固結土の密度(例:1.85g/cm3)、C:液状化時の泥水の密度(例:1.81g/cm3)、管の体積:Vpipe、固化した土の体積:Vsolidified
【0103】
従来の考えのように安全率 ≧1 とすれば埋設管の体積の33倍の砂を改良する必要があったが、本発明者の研究によって上述した安全率を設定することによって少量の固結体で液状化による浮上りを防止できることが判った。
【0104】
(D)上記において、固結体は所定の間隔をおいて形成してなり、該固結体の形成は以下のいずれかの方法によってなされる。
【0105】
(1)埋設管の両側に設けた注入管から注入して、埋設管を原地盤の非液状化層に定着させる方法(埋設管の両側に設けた注入管から注入するのが好ましいが、片側の注入管から原地盤の側面又は底面の非液状化層に定着させても良い)。
【0106】
(2)埋設管の片側から注入して、埋設管下部の埋戻し土を固結して埋設管と固結体を一体化する方法。
埋設管の下部の埋戻し土を固化すれば地震時に側面の非液状化層が崩れ落ちてきても埋設管下部には入り込めず、埋設管上部に落ち込み、埋設管の浮上りを防止する(図20参照)。
【0107】
(3)埋設管の上部に注入して、埋設管と固結体を一体化して埋設管と固結体にかかる重力を大きくする方法。
【0108】
(E)上記において、埋設管の延長方向の固結量と固結体同士の間隔を安全率F≧0.8以上或いは上記のような安全率になるように定める。いずれの条件でも安全率0.8以上にすれば問題ない。
【0109】
勿論上記において、埋設管やマンホールや排水管との接続部等で浮上に対する反力が期待できるところでは、同じ安全率Fの値に対しても、より浮上しにくくなる。
【0110】
(F)線状に敷設された敷設物または線状に敷設された注入ライン、あるいは構造物の周辺部に沿って所定の間隔をあけて、複数の注入管を配置し、当該注入管は流路変換バルブを介し送液管と接続し、当該送液管は圧力・流量計を備えた注入ポンプと注入材貯蔵槽を備え、流路変換バルブを作動することにより、連続的に或は選択的に注入管への流路を切り換えて注入する(図25(a),図26(a),図32(a),図35参照)。
【0111】
(G)該注入管はオリフィスを介して送液管と接続し、該送液管は圧力・流量計を備えた注入ポンプと注入材製造装置を備え、複数の注入管に同時、または選択的に注入する(図25(b),図28図29図32(b),図33(a),(b),図34参照)。
【0112】
(H)線状に敷設された敷設物または線状に敷設された注入ライン、あるいは構造物の周辺部に沿って所定の間隔をあけて、複数の注入管を配置し、該注入は複数のユニットポンプから、それぞれ複数の注入管路に連通し、各ユニットポンプの作動は該複数のユニットポンプの圧力流量計測からの情報に基き、コントローラーで一括管理される(図26(b),図36図37(b)参照)。
【0113】
[実験1]
発明者は、実験を表-1に示すように、注入量を変えた比較実験(Case1〜3)と注入方法を変えた比較実験(Case4〜7)を行った。
【0114】
【表1】
【0115】
1.実験概要
最大間隙比1.104、最小間隙比0.673の7号硅砂を用いて深さ50cm、幅270cm、奥行き40cm の地盤を作成した(図23参照)。地盤作成には湿潤締め固め法を用い、5cm 毎に密度管理を行った。
【0116】
埋設管模型は外径6cm、長さ35cm、管内が空洞で密度が0.50g/cm3 の塩化ビニール管を用い、土槽中央の深さ33cm の地点に設置した。入力加速度は図6に示すものを用い、その周波数は10Hz である。
【0117】
埋設管の浮上り量は巻取り式変位計で測り、土中には加速度計や水圧計を設置した。薬液にはコロイダルシリカを使用した。薬液の注入にはサイフォンの原理を用いており、水頭差を利用して浸透注入を行った。
【0118】
注入方法は埋設管周りに広がる事を考え、図13,14の二種類を選定し、それぞれ埋設管の上部から一点で入れる「一点注入」、左右から二点で入れる「二点注入」である。注入管は地盤作成中に設置しておき、薬液注入後に撤去した(図23図24参照)。
【0119】
また、7号硅砂に対して薬液注入を行う場合はゲルタイムが1日以上と長く、水より比重の重い薬液は垂れ下がってきてしまうという問題があったため、硅砂に対し重量比1/300の水酸化マグネシウムを混合する事でゲルタイムを1時間程度まで短縮して実験を行った。
【0120】
2.注入量の比較実験
2.1.実験内容
注入量の比較実験(Case1〜3)では、土槽内の地盤全体が液状化するように相対密度を30%として地盤を作成した。薬液の注入量は0ml、500ml、1000ml の三種類とし、薬液は全て一点注入方法で注入した。なお、これらの実験ケースは地盤中に3 本の埋設管を40cm 間隔で設置する事で同時に行った(表-1,図15図24(a)参照)。
【0121】
2.2実験結果と考察
注入量比較実験の結果を図15に示す。図中の安全率は実験時に埋設管とその周りの固化改良砂全体にかかる重力を浮力で除した値であり、小さい方が浮上り易い。なお、固化改良砂の重量と体積は実験終了時に地盤を開削する際に測定した。この図から、安全率が0.80 で十分な埋設管の浮上はゼロとなり0.7でも浮上低減効果があると分かる。埋設管は密度A:0.50g/cm3、固化した砂はB:1.85g/cm3、液状化時の泥水はC:1.81g/cm3であり、管の体積をVpipe、固化した砂の体積をVsolidifiedとすると、
安全率F= (A Vpipe +B Vsolidified)/(C Vpipe + C Vsolidified)
= (A+ B (Vsolidified/ Vpipe))/( C + C (Vsolidified / Vpipe))
となる。
【0122】
また、縦軸に安全率を、横軸にVsolidified/ Vpipe を取ったグラフを図16に示す。図より薬液の量を増やして安全率を1.0 以上にするためには埋設管の体積の約33倍の砂を改良する必要がある。
【0123】
一方、0.9では約5 倍、0.8では約2.5 倍、0.7では約2.0倍の体積の砂のみを改良すれば良いので、これらは十分に実際に利用しうる数値だと言える。
【0124】
3.注入方法の比較実験
3.1.実験内容
図17に示すように、埋設管周りの埋め戻し部のみが液状化する条件を想定し、土槽中央部の深さ35cm、幅25cmの範囲のみ相対密度30%、それ以外では80%となるように地盤を作成した。
【0125】
図13,14に示す二種類の注入方法で薬液を注入する場合と薬液を注入しない「無対策」の計3ケース実験を行った。なお、これらの実験では全てのケースで完全に浮上りが止まると注入方法毎の比較が出来ないため、差が明確になるように薬液の注入量を一律500mlとした。また、加振中の砂の動きがわかるように、7号硅砂を着色した色砂を土槽壁面に縦横に入れた(図21図22参照)。
【0126】
3.2.実験結果と考察
注入方法比較実験の結果を図18に示す。この図から、二点注入が効果的な注入方法だと分かる。理由として、図19のように埋設管の下まで薬液が広がるので、下の非液状化層に定着する事で埋設管の浮上りが抑えられたのだと考えられる。一点注入では薬液が埋設管上部に広がるため、非液状化層への定着が無かったので大きく浮き上がったと思われる。
【0127】
また、液状化が起きた際、図20のように埋め戻し部と周辺地盤の境界壁面が剛性が失われた液状化層に崩れ落ちると考えられる。一点注入では埋設管下部が固化していないため、浮き上がるのと同時に崩れてきた砂が埋設管下に入る事で、浮上り量が増大した事が実験後の土槽壁面の色砂から確認された(図21参照)。一方、二点注入では砂が埋設管の下に回り込めず、左右或いは上方に崩れる事で埋設管の浮上りが抑制された事が確認された(図22参照)。
【0128】
さらに、一点注入では薬液が埋設管上部に固まることで重心が高くなり、浮上り途中で回転が起こり得るため、固化する砂の量が他の方法に比べて少なくなることが実験から観察された。以上より、周辺地盤が非液状化の場合には二点注入が最も効果的な注入方法であると分かった。
【0129】
また、本発明は、上述した注入をライフラインに沿って急速に、かつ効果的に行う技術である。埋設管等のライフラインは、道路や住宅地等を常時供用される条件下で行われる。
【0130】
また、交通の多い都市内で作業が行われることから、安全性の確保が重要となる。このため、本発明は以下の点を考慮して完成したものである。
【0131】
(1)人手に触れることなく全自動で行われることが好ましい。さらに、道路に沿って、車両に搭載して移動できるコンパクトな車上プラントとして使用できる装置が必要である(図25参照)。このような注入液製造システムの例を図37に示す。
【0132】
(2)道路や護岸や宅地等の長い距離を有するライフラインを対象とするのであるから、製造プラントから送液管を通して、長距離の注入箇所に同時に、または連続的に送れるシステムが要求される。
【0133】
そして一度注入システムを設置すれば、ライフラインが供用される状態でも自動的に施工が行われることが好ましい。通常の注入工事のように、注入ポイント毎に注入プラントを移動していたのでは、その都度交通を中断しなくてはならない。
【0134】
本発明によれば、長距離にわたる施工箇所を、広範囲に渡って移動させることなく複数のポイントに、同時に、または、連続的に、あらかじめ設置した管路で作業できるため、ライフラインを止めることなく、注入作業を行うことができる(図25図26図36,図37参照)。
【0135】
図37(a)の注入液製造システムは、送液ポンプが原料液を吸引し、かつ吐出する複数のシリンダーポンプよりなり、該複数のシリンダーポンプの吸引および吐出が同一時間内に同調するように制御する制御機構が設けられている。
【0136】
また、これらのシリンダーポンプからの直接複数の送液管に送液することもできる(図37(b)参照)。この装置はコンパクトな制御装置で注入液を製造できるため、車上プラントで安全に施工できる(図6)。
【発明の効果】
【0137】
本発明によれば、既設埋設管の上部に固結体を形成して埋設管に所定の重量を付与し、かつ固結体と地盤表層部の非液状化層または覆工層との間に埋設管を上から下方に支持するように支持体を形成することにより、単に液状化に伴う埋設管の浮上りを抑制できるだけでなく、液状化に伴う埋設管の浮上りと共に起こりやすい埋設管の回転も防止することができる。
【0138】
また、道路や戸建て住宅が密集して建つ分譲地などの住宅地等における、ガス管、上水管、下水管などのライフライン等の液状化対策工を簡便、かつ経済的に行うことができ、特に液状化時の既設埋設の浮上りを抑制することができる。また、本発明の液状化対策はライフラインを供用しながらでも行うことができる。
【0139】
さらに、薬液の注入に際し、埋設管の周辺部に形成する固結体の大きさ、重量、さらには固結体どうしの間隔や固結体一個の固結領域に注入する薬液量と当該薬液による固結体の形状や固結体積、注入液の注入時間、薬液の注入速度およびゲル化時間等を設定することにより、地盤の性状等に応じて最適形状、最適大の固結体を埋設管と一体に形成することにより、液状化に伴う既設埋設管の浮き上りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
図1】本発明の既設埋設管の液状化対策工法によって補強された既設埋設管を示し、図1(a)は既設埋設管の横断面図、図1(b)は一部側面図である。
図2】本発明の既設埋設管の液状化対策工法によって補強された他の既設埋設管の横断面図である。
図3】本発明の既設埋設管の液状化対策工法によって補強された既設埋設管を示し、図3(a),(b)は既設埋設管の横断面図、図3(c)は一部側面図である。
図4図4(a)〜(f)は、本発明の既設埋設管の液状化対策工法の施工手順を示す既設埋設管の横断面図である。
図5図5(a),(b)は、埋設管と埋設管の上部地盤中に埋設管と一体に形成された固結体が地震力を受けて泥水中で変位して回転する状態を示す断面図である。
図6】入力加速度を示すグラフである。
図7】Maagの式における注入時間と浸透半径の関係を示すグラフである。
図8】地下水圧が一様な地盤における注入材の浸透状態を示す説明図である。
図9図9(a)〜(c)は、注入時間より土中ゲル化時間が長い場合における注入材の流下浸透固化する状態を示す説明図である。
図10図10(a)〜(d)は、非液状化層に近い比較的浅い液状化地盤内に敷設された埋設管の周囲を、注入材が流下浸透して固化する状態を示す説明図である。
図11図11(a)〜(c)は、非液状化層から離れた比較的深い液状化地盤内に敷設された埋設管の周囲を、注入材が流下浸透して固化する状態を示す説明図である。
図12】既設埋設管の上部地盤中に複数の注入管を管軸方向に間隔をおいて設置して行う、薬液注入による既設埋設管の液状化対策工法を示し、図12(a)は既設埋設管の側面図、図12(b)は一点注入による薬液注入を、図12(c)は二点注入よる薬液注入を示す図12(a)における管軸直角方向の断面図である。
図13】一点注入による注入方法を示す説明図である。
図14】二点注入による注入方法を示す説明図である。
図15】注入量比較実験の結果を示すグラフである。
図16】改良範囲と安全率との関係を示すグラフである。
図17】注入方法の比較実験の概要を示す説明図である。
図18】注入方法の比較実験の結果を示すグラフである。
図19】埋設管の非液状化地盤への定着状況を示す説明図である。
図20図20(a),(b)は液状化時の砂の動きを示し、図20(a)は液状化前、図20(b)は液状化後の状態を示す説明である。
図21】一点注入された土槽の加振後の土槽壁面を示す図である。
図22】二点注入された土槽の加振後の土槽壁面を示す図である。
図23】大型土槽実験装置の概要を示し、図23(a)は正面図、図23(b)は平面図である。
図24】予備実験の概要を示す説明図である。
図25図25(a)は、施工例を示す説明図、図25(b)は他の施工例を示す説明図である。
図26図26(a),(b)は、送液システムと変位センサーによる施工管理システムを示す説明図である。
図27】注入速度と注入圧による限界注入速度の関係を示す説明図である。
図28】オリフィスによる注入液の供給原理を示す説明図である。
図29図29(a)は、送液圧力(P0)とノズル径(a)と噴出量と地盤の浸透抵抗圧の関係を示す説明図、図29(b)は、浸透抵抗圧P1=0の場合の送液圧とノズル径と噴出量の関係を示すグラフである。
図30図30(a)噴出量とノズル口径と差圧の関係を示すグラフ、図30(b)は、浸透抵抗圧とノズル径と噴出量の関係を示すグラフである。
図31図31(a)は、送液圧と浸透抵抗圧と噴出量の関係を示すグラフ、図31(b)は、送液圧とノズル口径、ノズル数と噴出量の関係を示すグラフである。
図32図32(a)は、基本的な送液システムの例を示す説明図、図32(b)はは、基本的な送液システムの他の例を示す説明図である。
図33図33(a)はは、基本的な送液システムのさらに他の例を示す説明図、図33(b)基本的な送液システムのさらに他の例を示す説明図である。
図34】基本的な送液システムのさらに他の例を示す説明図である。
図35図35(a)は、複数の注入箇所に連続的または選択的に送液するシステムの例を示す説明図、図35(b)は複数の注入箇所に連続的または選択的に送液するシステムの他の例を示す説明図である。
図36】複数の注入ポイントに注入液を同時にまたは選択的に送液するシステムを示す説明図である。
図37図37(a),(b)は注入液の全自動製造装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0141】
図1図2は、本発明の液状化対策工法によって補強された既設埋設管を図示したものであり、埋設管1は地盤の表層部がアスファルト舗装11によって覆工された液状化のおそれある地盤内に敷設されている。
【0142】
また、当該埋設管1の上部地盤中に固結体12が形成され、固結体12の上部地盤中に支持体13が形成され、さらに、支持体13の上端部に支圧版14が支持体13およびアスファルト舗装11と一体に形成されている。
【0143】
固結体12は、埋設管1に所定の重量を付与して、液状化に伴う埋設管1の浮上りを抑制するために形成されており、埋設管1の上部地盤中に注入材を注入して埋設管上部の一定領域の地盤を浸透固結することにより、埋設管1の管軸方向に間隔をおいて複数形成されている。
【0144】
固結体12の大きさと形状および間隔等は、地震時に予想される埋設管周囲の地盤の液状化と埋設管1の重量等を参酌して適切に決定されている。また、固結体12は、必ずしも埋設管上部の地盤中に形成される必要はなく、埋設管1の側部または底部の一または複数個所に形成されてもよい。
【0145】
支持体13は、埋設管1を上から下方に向けて支持することにより液状化に伴う埋設管1の浮上りと、浮上りと同時に起こりやすい埋設管1の回転等を抑制するために形成されており、埋設管1の管軸方向に間隔を開けて複数形成されている。
【0146】
また、支持体13は、固結体12を形成するために埋設管1の上部地盤中に挿入された注入管2を回収せず、地盤中に放置埋設することにより形成され、当該支持体13の上端部にはアスファルトからなる支圧版14が支持体13およびアスファルト舗装11と一体に形成され、これにより支持体13に埋設管1の液状化に伴う浮上りおよび回転に対する支持力が付与されている。
【0147】
また、図2に図示するように、固結体12を埋設管1の管軸直角方向に埋設管1の外径より幅広く形成し、かつ支持体13を埋設管1の管軸直角方向に間隔を開けて複数形成することにより、液状化に伴う埋設管の浮上りと回転を抑制する効果をより大きくすることができる。
【0148】
なお、支持体13の数量、径および間隔等は、固結体12と同様に地震時に予想される埋設管周囲の地盤の液状化と埋設管1の重量等を参酌して適切に決定されている。また、支持体13は、注入管2を引き抜いた後の地盤中に鉄筋や鋼材などの棒状部材を挿入することによっても形成することができる。
【0149】
さらに、図3(a)〜(c)に図示するように、特に埋設管1が非液浄化層に近い比較的浅い位置に敷設されているような場合は、固結体12をその上端部が非液状化層内に定着するように形成するか(図3(a)参照)、あるいは固結体12の上部地盤の一定領域を柱状に固結すると共に、その下端部を固結体12と連続させ、さらに上端部を非液状化層内に定着させて支持体13としてもよい図3(b),(c)参照)。
【0150】
また、支持体13内に固結体12および支持体13を形成するために用いた注入管2を挿入して埋設するか、あるいは注入管とは別に鉄筋や鋼材などを挿入して支持体13を補強することもできる。この場合、これらの部材の先端は固結体12内に、上端は非液状化層およびアスフゥルト舗装11内に定着するのが望ましい。
【0151】
なお、図1〜3の実施例では、地盤の表層部がアスファルト舗装の場合について説明したが、地盤の表層部がコンクリート舗装の場合であっても、ほぼ同様の構成により施工することができ、コンクリート舗装の場合、図1における支圧盤14はコンクリートによって施工すればよい。
【0152】
施工方法について説明すると (図4(a)〜(f)参照)、
(1)最初に、アスファルト舗装11に孔11a,11aを形成し、当該孔11a,11aから埋設管上部の地盤中に注入管2,2を挿入する。
【0153】
(2)次に、注入管2,2を通して埋設管1上部の地盤中に注入材を注入し、当該注入材を埋設管1上部の地盤中に浸透させることにより、埋設管1上部の地盤を固結して固結体12,12を形成する。
【0154】
(3)次に、注入管2,2の上端部をそれぞれ孔11a,11a内のアスファルト舗装11の下端付近より切断して除去する。そして、孔11a,11a内にアスファルトを充填して注入管2,2の上端部に、それぞれ支圧版14,14を注入管2,2およびアスファルト舗装11と一体に形成して、注入管2,2に埋設管1の浮上りと回転に対する支持力を付与する。以上の工程で施工は完了する。
【0155】
図32(b)、図33(a),(b)および図34に示す例は、注入液の製造装置から注入ポイントに至るまでの送液管路に、設けられた複数の分岐管に任意の径の孔が設けられたオリフィスを設けた。これにより、複数の注入箇所に所定量の注入液を供給して注入することが可能となる。
【0156】
図において、符号1は地中に敷設されている上水管、下水管、ガス管などの既設埋設管、2は既設埋設管1の周囲に注入液(薬液)を注入するための注入管、3は注入液製造装置である。
【0157】
また、符号4は注入液を各注入地点の注入管2に送り込むための加圧送液ポンプ、5は各注入地点における注入液の流路を制御する分岐バルブ、6は各注入地点における注入液の流量を測定するオリフィス、そして、符号7はこれらを制御するコントローラーである。
【0158】
図25は、上記装置を車両8に搭載した例で、移動しながら複数の注入箇所に同時に或は選択的に所定量の注入液を送液して注入することができる。
【0159】
さらにまた、本発明のさらなる施工方法(図26(b),図36参照)は、注入液製造装置3で製造された注入液を、複数のユニットポンプ9を経て、複数の注入箇所に送液し、該複数のユニットポンプ9の駆動をコントローラー7で一括管理することにより、該複数の注入箇所に、同時にまたは選択的に、注入液を送液して注入することができる。
【0160】
なお、図において、符号10は注入液の注入に伴う地盤の異状な隆起等を監視するための地盤変位センサーであり、コントローラー7によって管理されている。
【0161】
さらにまた、本発明のさらに他の施工方法は、注入液の製造装置3で製造された注入液を、1つの送液ポンプ4を経て、送液管路から複数の分岐バルブ5を介して、複数の注入箇所に送液し、該複数の分岐バルブ5を作動させることにより、該複数の注入箇所に、連続的にまたは選択的に、注入液を送液して注入することができる(図25(a),(b),図26(a),図32(a),(b),図33(a),(b),図34,図35(a),(b)参照)においてオリフィスのない場合も同様である)。
【0162】
上記施工方法においては、注入液製造装置3から注入管路を延ばすことにより、一箇所にプラントを設置したまま、前記複数の注入箇所毎に該注入液製造装置3を移動させることなく、ライフラインの供用を可能にしながら注入施工を行うことができるので、道路や宅地等に適用する場合にも、急速施工が可能であって、かつ、適用箇所近傍の道路や鉄道を常時交通に供用させることが可能となる(図26,図35参照)。
【0163】
本発明のさらに他の施工方法は、注入液製造装置3を車両8に搭載して、ライフラインに沿って車両8を走行移動させながら、注入液製造装置3で製造された注入液を用いて急速施工することができる(図25参照)。
【0164】
また、本発明によれば経済施工のみならず、作業性や環境性の点からも安全性にも優れた液状化対策工を提供することができる。
【0165】
図29は、オリフィスを設けた管路における送液圧力(PO)とノズル径(a)と噴出量(リットル/min)と浸透抵抗圧(P1)の関係を示す。
【0166】
図29(a)は、その試験装置であり、ノズル径(a)を設けた管路を外管内に挿入してノズルの両側にパッカを設けて、外管からの管路に圧力調整弁を設け、圧力調整弁の開度を調整する構造である。
【0167】
ポンプで管路内に送液して、圧力(P0)と流量を計測する。圧力調整弁の開度を調整して、ノズル径(a)から噴出した噴出液の圧力と流量を計測する。その際の圧力P1が浸透抵抗圧であり、その時の流量が噴出量である。
【0168】
図29(b)は、圧力調整弁が全開した場合、すなわち、気中で送液した場合の送液圧(P0)とノズル径(a)と噴出量の関係を示す。ポンプ圧力P0は一定の時ノズル径が小さい程圧力が高く、ノズル径が大きい程噴出量は大きくなる。
【0169】
図30(a)は、オリフィスのノズル口径(a)と差圧△Pと毎分噴出量の関係を示す。差圧△Pは、ポンプの送液圧量P0とオリフィス下流の抵抗力圧力P1の差をいう。差圧が大きい程、ノズル口径が大きい程、噴出量は大きい。抵抗圧P1が大きく、送液圧力P0に近づくにつれて、噴出量は0に近づく(図30(b)参照)。
【0170】
また、抵抗圧力P1≒0ならば△P=P0であるが、地盤中に加圧浸透させる場合は、浸透抵抗が大きい場合は△Pが小さくなり、噴出量は小さくなる。しかし、図30(b)浸透抵抗圧P1が充分小さければ、抵抗圧に多少の変化があっても、噴出量はノズル口径によって値が一定値を得ることができる。道路や宅地では注入が地盤変位が生じてはならない。このため、土粒子間浸透するよう、少量の速度で注入されなくてはならない(図27参照)。
【0171】
しかし、この場合、施工能率が低下するが複数の注入箇所からの同時注入で、全体で大きな吐出量で注入できるので、経済性が得られる。また、連続注入できれば施工プラントを移動することなく施工できるので、効率に優れ、短期間で施工が完了し、やはり大きな経済性を得ることが出来る。吐出速度が小さい時、或は地盤の透水性が大きい時、抵抗圧力はほとんど0に近く、したがって加圧送液圧とオリフィスの径に対応した一定の噴出量を得ることがわかる(図29(b)参照)。したがって、図31(b)に示すように、注入箇所における地盤の透水性に応じて、ノズル口径やノズル数や注入ポイントの数を複数にして、注入箇所毎に所定の噴出量の注入液を同時に供給することができる。
【0172】
本発明では、オリフィスのほかにレギュレータ((有)光匠技研製)を用いることができる。レギュレータは、上流側の圧力に対応して下流側の圧力と流量をコントロールすることができ、かつ、複数の管路に設けて、同時に圧力・流量をコントロールできるが、本発明ではレギュレータは流量・圧力可変式・オリフィスとみなして、オリフィスの一種として取り扱う。
【0173】
もちろん、本発明ではオリフィスを用いなくても、コントローラー7により分岐バルブ5を作動することにより分岐バルブ5のみを操作して、順次所定の注入箇所に材料を供給して注入することができる(図32(a)参照)。
【0174】
図26(a)では、オリフィスを用いないで分岐バルブを作動して、分岐バルブV1を開いて他を閉じれば分岐バルブV1のみから処理液が注入され、分岐バルブViを開いて他を閉じれば分岐バルブViから処理液が注入されるため、連続的にかつ選択的に処理液を注入できる。また、オリフィスを用いれば全ての注入部に同時注入が可能になる。分岐バルブは電磁バルブを用いてコントローラー7から電気信号により作動させる事ができる。
【0175】
また、図26(b),図36に示す複数のユニットポンプ9や分岐バルブをコントローラー7により一括管理して、複数の注入箇所への同時供給や選択的に供給をすることが容易になる。
【0176】
(I)上記注入システムに用いる注入材は、長い送液管路、注入管路でゲル化することなく、送液・注入され、かつ小さな吐出速度で土粒子間注入されるにはゲル化時間が数十分〜十数時間といった長いゲル化時間が要求される。さらに長期にわたって耐久性のある注入液であることが必要である。
【0177】
そのためには、シリカ溶液(コロイダルシリカ系グラウト、シリカゾル系グラウト、水ガラス系グラウト)、粘土、気泡、セメント、スラグから選ばれた1種または複数種を有効成分とする注入材を単独或は併用して注入する等、長い時間でゲル化する耐久性に優れた注入材の使用が好ましい。
【0178】
一方において、長いゲル化時間の注入材は注入後、水よりも重い注入液であるところから、ゲル化するまでに下方に沈積してしまうという問題がある。本発明の目的のためには、所定の位置で通常の注入工事の場合と違って小さな固結体を形成できることが必要である。
【0179】
このため、ゲル化促進剤を一次注入しておくとか、注入管を二重にして、或は二本並列して、一方からゲル化促進剤を注入し、他方からゲル化時間の長い注入液を注入して、合流注入するか、主材に混入してゲル化時間を短縮して注入してもよい。
【0180】
この場合、主材が酸性シリカグラウトの場合は、促進剤としては実験例にあるように炭酸カルシウムや水酸化マグネシウム等の難溶性アルカリ剤を用いてもよいし、また、水ガラスを用いてもよい。また、主材が水ガラスの場合は、ゲル化時間調整剤やセメント等をゲル化促進剤として用いることも出来る。
【0181】
シリカゾルグラウトは水ガラスのアルカリを酸で中和して酸性側のpHとし、長いゲル化時間と耐久性を付与した注入液であり、コロイダルシリカは水ガラスのアルカリをイオン交換樹脂やイオン交換膜で処理して中性〜弱アルカリ性で増粒安定化した粒径が5〜20nmのシリカコロイドを主材とし、水ガラスや反応剤を加えて所定の時間にゲル化せしめたグラウトである。コロイダルシリカとして金属シリカを用いても良い。コロイダルシリカは酸の使用量がゼロか或いは少量でほぼ中性値を示し、埋設管のコンクリートや金属管に腐食を生じさせないので恒久グラウトとしてのみならず、環境の点からも無公害注入材として本発明のように生活環境における使用に適している。
【0182】
(J)本発明は、道路や宅地等の生活圏内で使用される。このため注入後、注入管の除去が要求されることがある。特に塩化ビニール等の注入管は除去作業が大変であるし、また、埋設されたままだと、その後の掘削工事に支障をきたすことがある。このため、生分解樹脂による注入管の使用が好ましい。
【0183】
本発明が使用される工事は、地表面から浅い場所であることから、施工が簡単な注入管としては、前記注入管は直径1mm〜10mmのプラスチック細管や、細管を軸方向に異なる位置に複数本結束した注入管を用いて地盤中に注入することが、作業上、施工性から好ましい。更にこれらの注入細管を生分解性樹脂で作った注入管を用いれば、施工後、半年から1年以内に炭酸ガスと水に分解されてしまい、本発明が実施される生活環境内において施工後そのままにしても環境保全性に優れた液状化対策工となる。
【0184】
なお、生分解樹脂としては、その化学構造は(1)主鎖が脂肪族で、これにエーテル結合またはエステル結合を有するもの、(2)主鎖(または側鎖)に水酸基、カルボキシル基を有するもの、あるいは、(3)プラスチックスの光分解および微生物分解を誘因、促進する添加剤を含有することにより生物分解性が良好なプラスチックスであり、具体的には澱粉系、酢酸セルロース系、ポリ乳酸系、脂肪族ポリエステル系、ポリビニルアルコール系等の生物分解性プラスチックスが挙げられる。これらの主原料には、性能の向上あるいは可撓性の付与等の目的で他の高分子化合物、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックス、可塑剤、安定剤、着色剤等を必要に応じて添加することもできる。
【0185】
また、上記(2)の水酸基あるいはカルボキシル基を有する化合物としては、脂肪族化合物が好ましい。これらの生物分解性プラスチックスとしては具体的には、上記(1)の例として、「ビオノーレ」(ポリオールとジカルボン酸の脂肪族ポリエステル)(昭和高分子株式会社と昭和電工株式会社)、「セルグリーン」(酢酸セルロース系、ポリカプロラクトン系)(ダイセル化学工業株式会社)、「ラクティ(乳酸系)」(株式会社島津製作所)、(2)の例として、「ポバール」(ポリビニルアルコール)(株式会社クラレ)、(3)の例として、「ワンダースターケン」(トウモロコシ澱粉とポリエチレン)(ワンダー株式会社)等々が挙げられる。
【0186】
上記生物分解性プラスチックスには、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリグリコシド等の高融点生物分解性プラスチックスをブレンドすることにより、加工性を向上させ、織物、不織布とすることにより袋体としても使用できる。これらの主原料は、土中ではバクテリアにより、例えば90〜300日程度の日数で分解される。また本発明の注入管の設置方法は金属性注入細管を地盤中に打ち込んで設置しても良いし、コーンつき中空管を地盤中に打ち込みシールグラウトと共に注入管を挿入して中空管を引き抜いても良いし、勿論ボーリングした削孔内に注入管をシールグラウトと共に設置する等、任意の方法を用いる事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0187】
1)特に、表層部に砂礫層や密質砂層などの非液状化層を有する地盤、あるいは表層部がアスファルト舗装やコンクリート舗装などによって覆工された地盤内に敷設されたガス管、上水管、下水管などの既設埋設管の液状化に伴う浮上りおよび浮上りと共に起こりうる固結体や埋設管の回転等を簡便かつ経済的に抑制することができる。
【0188】
2)ライン状の埋設管の周辺に延長方向に間隔を開けて固結体を形成することにより、比較的少量の注入液で経済的かつ安全に、そして急速に液状化を防止することができる。
【0189】
3)効果的な注入量や注入方法を選ぶことで、埋設管の浮上りを十分に低減することが可能である。
【0190】
4)土中における注入液の先端部のゲル化時間が注入完了時においても流動性が持続されるように注入することにより、注入液を下方に流下浸透固化させ、固結体中に埋設管が包含された形状で固化させることにより、液状化時においても安定した固結体を形成せしめかつ埋設管の上方または側面付近までの注入管削孔ですむので注入管の掘削に当ってトラブルが生じない施工を行うことができる。
【0191】
5)周辺地盤も液状化する場合、安全率を0.7 以上にする事で一定の浮上低減効果が得られる。
【0192】
6)埋め戻し部のみ液状化する場合には、固化された土塊を非液状化地盤に定着させることが重要である。
【0193】
7)適切な注入方法で埋設管に沿って間隔をあけて埋設管と一体化した固結体を少量の注入薬液で形成して、材料的には経済性を得ることが施工はかえって効率的でなくなる。各固結体を同時注入、或は連続注入によって埋設管に間隔をあけて上述した方式で固結体を形成して初めてライン状の埋設管の経済的にも効率的な施工が可能になる。
【符号の説明】
【0194】
1 既設埋設管
2 注入管
3 注入液製造装置
4 加圧送液ポンプ
5 分岐バルブ
6 オリフィス
7 コントローラー
8 車輛
9 ユニットポンプ
10 地盤変位センサー
11 アスファルト舗装(非液状化層または覆工層)
12 固結体
13 支持体
14 支圧版
【要約】      (修正有)
【課題】表層部に砂礫層などの非液状化層を有する地盤、あるいは表層部がアスファルト舗装などによって覆工された地盤内に敷設されたガス管などの既設埋設管の液状化に伴う浮上り等を簡便かつ経済的に抑制可能な既設埋設管の液状化対策工法を提供する。
【解決手段】液状化のおそれのある地盤であって、表層部にアスファルト舗装11を有する地盤内に敷設された埋設管1の上部地盤中に、固結体12を埋設管1と一体にかつ埋設管1の管軸方向に間隔を開けて複数形成することにより埋設管1に重量を付与する。固結体12とアスファルト舗装11との間に埋設管1を上から下方に向かって支持するように支持体13を形成する。各固結体12の重量と間隔、および支持体13の数量と間隔を液状化に伴う固結体の回転を抑制し埋設管1の浮上りと回転を抑制するように設定する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37