(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、二種の層からなる光学異方性膜の各層ごとのレターデーションを測定する方法はこれまで知られていなかった。特に多層押出しで得られる光学異方性膜については、各層を分離して各々のレターデーションを直接測定することも実質的に不可能であり、光学異方性膜の製造において各層の光学特性を精密に制御することが困難となっていた。
【0007】
本発明は、二種の層からなる光学異方性膜の各層のレターデーションを、各層を分離することなく測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、光学異方性膜に対し3方向から光を照射してそれぞれの透過偏光状態の変化を測定することで、光学異方性膜の各層のレターデーションを求められることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、二種の層からなる光学異方性膜のレターデーションを測定する方法であって、
前記光学異方性膜に対し略垂直方向に光を照射してその透過偏光状態の変化(1)を測定する工程、
前記光学異方性膜の面内遅相軸方向に対し方位角−5°〜+5°かつ極角θ
1(ただし、30°≦θ
1≦70°である)の方向に光を照射してその透過偏光状態の変化(2)を測定する工程、
前記光学異方性膜の面内遅相軸方向に対し方位角θ
2(ただし、30°≦θ
2≦60°である)かつ極角θ
3(ただし、30°≦θ
3≦70°である)の方向に光を照射してその透過偏光状態の変化(3)を測定する工程、
ならびに、
前記透過偏光状態の変化(1)〜(3)を用いて前記光学異方性膜を構成する各層の面内レターデーションReおよび厚さ方向のレターデーションRthを算出する工程を含む、
光学異方性膜のレターデーションの測定方法が提供される。
【0010】
上記測定方法においては、前記透過偏光状態の変化(1)〜(3)の測定が分光エリプソメトリーによるものであり、
前記透過偏光状態の変化(1)が透過光の位相差の変化Δ
1であり、
前記透過偏光状態の変化(2)が透過光の位相差の変化Δ
2であり、
前記透過偏光状態の変化(3)が透過光の位相差の変化Δ
3および振幅比の変化Ψ
3であることが好ましい。
【0011】
前記光学異方性膜を構成する各層の面内レターデーションReおよび厚さ方向のレターデーションRthを算出する工程は、
Re
1およびRth
1を仮定して、下式[1]〜[4]により各層の厚さと三次元屈折率を求める工程、
この各層の厚さと三次元屈折率を用いて、4×4マトリックス法により方位角θ
2かつ極角θ
3の方向に光を照射したときの透過光の位相差の変化の計算値Δ
3cおよび振幅比の変化の計算値Ψ
3cを算出する工程、
Δ
3cおよびΨ
3cと、前記Δ
3およびΨ
3との差がそれぞれ最小となる値としてRe
1およびRth
1を算出する工程、
このRe
1およびRth
1から下式[1]〜[4]により各層の厚さと三次元屈折率を求める工程、
この三次元屈折率から下式[5]によりRe
2およびRth
2を算出する工程、
を含むものであることが好ましい。
【0012】
【数1】
【0013】
前記式中、n
iは前記光学異方性膜の各層の平均屈折率を表し、
n
x、n
yおよびn
zは前記光学異方性膜の各層の三次元屈折率を表し(ただし、添字のx、yおよびzはそれぞれ前記光学異方性膜の面内遅相軸方向、光学異方性膜の面内遅相軸に面内で直交する方向、光学異方性膜の厚さ方向を表す。)、
dは前記光学異方性膜の各層の厚さを表す。
また、Re、Rth、Δ
1、Δ
2、n
i、n
x、n
y、n
zおよびdにおける添字の1は、前記光学異方性膜の光を照射する側の層およびそれと同種の層についての値であることを表し、2はそれと異なる種類の層についての値であることを表す。
【0014】
上記測定方法においては、θ
2が40°≦θ
2≦50°であることが好ましい。
また、二種の層からなる光学異方性膜が多層押し出し成形により得られたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二種の層からなる光学異方性膜の各層のレターデーションを測定することが可能となる。これにより、光学異方性膜の製造において、得られるレターデーション値に基づき製造条件を制御することで、各層の光学特性を精密に制御することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の測定方法は、二種の層からなる光学異方性膜のレターデーションを測定する方法である。本発明の測定方法が適用できる光学異方性膜は、二種の層からなり、各層の面内遅相軸が平行または直交な膜である。ここで二種の層からなるとは、組成の異なる二種の層が積層された構成を有することを表す。光学異方性膜の構成は、二種の層からなるものであれば二層であっても三層以上であってもよいが、好ましくは二種二層または二種三層であり、より好ましくは二種二層である。
【0018】
光学異方性膜の各層を構成する材料は、光を透過する性質のあるものであれば特に限定されないが、通常は樹脂フィルムが用いられる。用いられる樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、アモルファスポリエチレン、トリアセチルセルロース、環状オレフィン樹脂などを挙げることができる。
【0019】
光学異方性膜の膜厚は、通常20〜250μm、好ましくは40〜180μmである。光学異方性膜は、通常、薄いので、互いに直交するx軸及びy軸を膜面に平行な方向に、z軸を膜に垂直(厚さ)な方向にとり、そして、n
xを光学異方性膜の面内遅相軸方向の屈折率、n
yを光学異方性膜の面内遅相軸に面内で直交する方向の屈折率、n
zを光学異方性膜の厚さ方向の屈折率と定義している。
【0020】
樹脂フィルムからなる光学異方性膜の製造方法は限定されない。具体的には、(a)光学異方性を有する二以上のフィルムを、それぞれのフィルムの面内遅相軸が平行または直交となるように貼り合せる方法;(b)光学異方性を有さない二以上のフィルムを貼り合せ、次いでこのフィルムを延伸して光学異方性を付与する方法;および(c)二種の層からなるフィルムを多層押し出しにより成形し、次いでこのフィルムを延伸して光学異方性を付与する方法;が挙げられる。これらの中でも、各層の面内遅相軸を平行または直交にすることが容易であるので(b)および(c)の方法が好ましく、(c)の方法が特に好ましい。本発明の測定方法によれば、各層を分離することが困難な(c)の方法で製造した光学異方性膜であっても、各々の層のレターデーションを測定することができる。
【0021】
本発明の測定方法は、前記光学異方性膜に対し光を照射してその透過偏光状態の変化を測定する工程を含む。本発明で用いる光の種類は限定されないが、レーザー光のように細い平行光線であることが好ましい。光学異方性膜に照射される光の範囲を狭くでき、より正確な測定が可能になる。
【0022】
本発明で透過偏光状態の変化を測定する方法としては分光エリプソメトリーおよびミュラーマトリックスが挙げられ、それぞれ分光エリプソメータおよびミュラーマトリックス偏光計を用いて測定することができる。中でも、少数のパラメータで十分な情報量が得られるので分光エリプソメトリーによる測定が好ましい。
【0023】
本発明の測定方法では、第1の測定として、前記光学異方性膜に対し略垂直方向に光を照射してその透過偏光状態の変化(1)を測定する。ここで光学異方性膜に対し垂直方向とは前記z軸の方向に等しく、略垂直方向とは該z軸と光の照射方向とがなす角である極角が5°以下であることを表す。分光エリプソメトリーによる測定を行う場合は、偏光状態の変化(1)は透過光の位相差の変化Δ
1で表される。
【0024】
本発明の測定方法では、第2の測定として、前記光学異方性膜の配向方向に対し方位角−5°〜+5°かつ極角θ
1(ただし、30°≦θ
1≦70°である)の方向に光を照射してその透過偏光状態の変化(2)を測定する。極角θ
1の範囲は、好ましくは40°≦θ
1≦60°である。この範囲であると、測定感度に優れる。分光エリプソメトリーによる測定を行う場合は、偏光状態の変化(2)は透過光の位相差の変化Δ
2で表される。
【0025】
本発明の測定方法では、第3の測定として、前記光学異方性膜の配向方向に対し方位角θ
2(ただし、30°≦θ
2≦60°である)かつ極角θ
3(ただし、30°≦θ
3≦70°である)の方向に光を照射してその透過偏光状態の変化(3)を測定する。
【0026】
方位角θ
2の範囲は45°に近いほど好ましく、好ましくは40°≦θ
2≦50°、より好ましくは44°≦θ
2≦46°である。この範囲であると、測定感度に優れる。極角θ
3の範囲は、好ましくは40°≦θ
1≦60°である。この範囲であると、測定感度に優れる。分光エリプソメトリーによる測定を行う場合は、偏光状態の変化(3)は透過光の位相差の変化Δ
3および振幅比の変化Ψ
3で表される。
【0027】
本発明の測定方法は、前記透過偏光状態の変化(1)〜(3)を用いて前記光学異方性膜を構成する各層の面内レターデーションReおよび厚さ方向のレターデーションRthを算出する工程を含む。
【0028】
算出の方法は特に限定されず、例えば結晶光学理論を応用して各層の3次元屈折率(nx
1、ny
1、nz
1、nx
2、ny
2、nz
2)を変化させてΔ
1、Δ
2、Δ
3、Ψ
3を計算し、計算結果を測定結果にフィティングして各層のReおよびRthを算出することもできるが、透過偏光状態の変化を分光エリプソメトリーにより測定する場合は、下式[1]〜[5]を用いてReおよびRthを算出することが好ましい。変化させるパラメータが少ないため解析が容易だからである。
【0029】
下式[1]〜[5]を用いてReおよびRthを算出する方法について、二種二層構成の光学異方性膜を例として、以下に詳細に説明する。
なお式中、n
iは光学異方性膜の各層の平均屈折率を表し、
n
x、n
yおよびn
zは光学異方性膜の各層の三次元屈折率を表し(ただし、添字のx、yおよびzはそれぞれ前記光学異方性膜の面内遅相軸方向、光学異方性膜の面内遅相軸に面内で直交する方向、光学異方性膜の厚さ方向を表す。)、
dは前記光学異方性膜の各層の厚さを表す。
また、Re、Rth、Δ
1、Δ
2、Δ
3、Ψ
3、n
i、n
x、n
y、n
zおよびdにおける添字の1は、前記光学異方性膜の光を照射する側の層(以下、「第1層」ということがある。)についての値であることを表し、2はそれと異なる種類の層(以下、「第2層」ということがある。)についての値であることを表す。
【0030】
まずRe
1およびRth
1を仮定して、式[1]により第1層(平均屈折率n
i1、厚さd
1)の3次元屈折率n
x1、n
y1およびn
z1を求める。
【0032】
次にこのn
x1、n
y1およびn
z1を用いて、前記第1の測定および第2の測定における第1層の位相差の変化Δ
11およびΔ
21を式[2]により求める。
【0034】
この式[2]で得られたΔ
11およびΔ
21、ならびに前記第1の測定および第2の測定で得られた光学異方性膜全体の位相差の変化Δ
1およびΔ
2を用いて、前記第1の測定および第2の測定における第2層の位相差の変化Δ
12およびΔ
22を式[3]により求める。
【0036】
このΔ
12およびΔ
22を用いて第2層(平均屈折率n
i2、厚さd
2)の3次元屈折率n
x2、n
y2およびn
z2を式[4]により求める。
【0038】
次いで得られた各層の厚さおよび3次元屈折率を用いてバールマン(Berreman)の4×4マトリックス法を適用すると、前記第3の測定における光学異方性膜の偏光状態の変化を表すエリプソメトリー変数Δ
3cおよびΨ
3cを算出する。
【0039】
なお4×4マトリックス法はJournal of Optical Society of America,vol.62,6,p.502−510(1972)に開示される公知の計算方法であるが、複雑な計算であるので、ここでは詳細の記載を省略する。
【0040】
こうして得られたΔ
3cおよびΨ
3cと、前記第3の測定で直接得られた光学異方性膜の偏光状態の変化Δ
3およびΨ
3とを対比する。最初に仮定したRe
1およびRth
1の値を変化させながら前記式[1]〜[4]による計算を繰り返し、Δ
3cおよびΨ
3cとΔ
3およびΨ
3との差がそれぞれ最も小さくなるときのRe
1およびRth
1を求める。この値が第1層の真のRe
1およびRth
1となる。
【0041】
またこのRe
1およびRth
1に対応するn
x2、n
y2およびn
z2が第2層の真の屈折率になる。これらを用いて 式[5]により第2層の面内レターデーションRe
2および厚さ方向のレターデーションRth
2を求める。
【0043】
以上、二種二層の光学異方性膜を例として説明したが、三層以上の構成の光学異方性膜についても同様に各層のレターデーションを求めることができる。この場合、計算に用いる各パラメータは、同種の層を合計した値となる。例えば、第1層−第2層−第1層と同種の層である第3層、の順に積層された構成を有する二種三層の光学異方性膜であれば、Re
1、Rth
1、Δ
11、Δ
21、n
i1、n
x1、n
y1、n
z1およびd
1は全て第1層と第3層とを合わせた値として得られる。
【0044】
光学異方性膜の製造方法においては、所望の光学特性を有する光学異方性膜を得るために、製造工程の諸条件、例えば、温度、圧力、膜厚、成膜速度、粘度、延伸倍率などの条件を変更し、屈折率やレターデーションなどの値が所望の値に近づくように、自動または手動でフィードバック制御している。本発明の測定方法によれば、二種の層からなる光学異方性膜について、各層の面内レターデーションReおよび厚さ方向のレターデーションRthを測定することができるので、このフィードバック制御をより精密に行うことが可能になり、所望の光学特性を有する光学異方性膜を製造することが容易になる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0046】
(実施例1)
厚さが67μmで未延伸の環状オレフィン樹脂フィルム(ゼオノアフィルムZF14;日本ゼオン社製)を144℃で縦方向に1.5倍延伸して、厚さd
2が55μm、平均屈折率n
i2が1.535、Reが118nm、Rthが61nmであるフィルムを第2層のフィルムとして得た。
【0047】
この第2層の上に第1層のフィルムとして、厚さd
1が50μm、平均屈折率n
i1が1.535、Reが52nm、Rthが126nmである延伸された環状オレフィン樹脂フィルム(ゼオノアフィルムZB12;日本ゼオン社製)を、日東電工社製両面接着テープを用いて両フィルムの遅相軸が直交するように貼り合わせて光学異方性膜Aを作製した。なお、それぞれのフィルムの光学特性は特開2007−225426号公報に記載の方法に基づき測定した。すなわち、特開2007−225426号公報に記載の方法により平均屈折率n
iおよび三次元屈折率n
x、n
yおよびn
zを測定し、前記式[5]によりReおよびRthを求めた。また厚さはマイクロメータを用いて測定した。
【0048】
分光エリプソメータ(J.A.Woollam社製M−2000)を用いて以下のように各層のReとRthを測定した。なお下記第1〜第3の測定いずれにおいても光学異方性膜Aの第1層側の面から光を照射した。
【0049】
第1の測定として、
図1に示すように、光ビームが光学異方性膜Aに垂直に入射されるように調整し透過光の位相差の変化Δ
1を測定した。このときΔ
1=65.9nm(=43.1°)であった。
【0050】
第2の測定として、
図2に示すように、光学異方性膜Aの遅相軸(配向方向)が0°且つ光ビームが光学異方性膜Aに対し極角θ
1が50°で入射されるように調整し透過光の位相差の変化Δ
2を測定した。このときΔ
2=12.0nm(=7.85°)であった。
【0051】
第3の測定として、
図3に示すように、光学異方性膜Aの遅相軸(配向方向)に対し方位角θ
2が45°且つ光ビームが光学異方性膜Aに対し極角θ
3が50°で入射されるように調整し透過光の位相差の変化Δ
3と振幅比の変化Ψ
3を測定した。このときΔ
3=−97.7°、Ψ
3=23.9°であった。
【0052】
第1層のフィルムのRe
1を−300〜+300nm、Rth
1を−300〜+300nmの範囲内に変化させ、それぞれのRe
1、Rth
1に対して前記式[1]〜[4]を用い第1層のフィルムの3次元屈折率n
x1、n
y1、n
z1および第2層のフィルムの3次元屈折率n
x2、n
y2、n
z2を計算した。
【0053】
得られたn
x1、n
y1、n
z1およびn
x2、n
y2、n
z2を用いて4×4マトリックス法により方位角θ
2、極角θ
3の入射条件に対して透過光の位相差の変化Δ
3cと振幅比の変化Ψ
3cを計算した。計算されたΔ
3cおよびΨ
3cを前記第3の測定で得られたΔ
3およびΨ
3と比較し、その差が一番小さくなるときのRe
1およびRth
1として、第1層の面内レターデーションRe
1=52nmおよび厚さ方向のレターデーションRth
1=122nmを得た。
【0054】
このRe
1=52nm、Rth
1=122nmに対応する第2層の三次元屈折率n
x2=1.5362、n
y2=1.5344、n
z2=1.5343を用いて、式[5]に基づき第2層のRe
2およびRth
2を計算すると、Re
2=119nm、Rth
2=67nmであった。こうして得られたRe
1、Rth
1、Re
2およびRth
2は第1層のフィルムと第2層のフィルムとを貼り合わせる前に個別で測定した値とよく一致し、本発明の測定方法により二種二層構成の光学異方性膜のレターデーションを精度よく測定できることが分かった。
【0055】
(実施例2)
実施例1で用いた光学異方性膜Aの第2層側に、第1層と同じフィルムを第3層として、日東電工社製両面接着テープを用いて、第1層と第3層の遅相軸が平行となるように貼り合わせて2種3層の光学異方性膜Bを作製した。この光学異方性膜について実施例1と同様の測定を行い、Δ
1=15.0nm、Δ
2=−74.3nm、Δ
3=−63.2°、Ψ
3=6.87°を得た。
【0056】
ここで、屈折率が第1層及び第3層に等しく、厚さが第1層の厚さと第3層の厚さとの和である層を第4層として仮定する。そして、上記2種3層の光学異方性膜Bを、第2層−第4層の構成を有する2種2層の光学異方性膜とみなして、実施例1と同様な手法でRe
2を−300nm〜+300nm、Rth
2を−300nm〜+300nmの範囲で変化させ、それぞれのRe
2、Rth
2に対して前記式[1]〜[4]を用い第2層のフィルムの3次元屈折率n
x2、n
y2、n
z2および第4層のフィルムの3次元屈折率n
x4、n
y4、n
z4を計算した。
【0057】
前記仮定よりn
x4、n
y4、n
z4は第1層のフィルムの3次元屈折率n
x1、n
y1、n
z1および第3層のフィルムの3次元屈折率n
x3、n
y3、n
z3にそれぞれに等しい。そこで前記2種3層の光学異方性膜について、得られた各層の3次元屈折率を用いて4×4マトリックス法により方位角θ
2、極角θ
3の入射条件に対して透過光の位相差の変化Δ
3cと振幅比の変化Ψ
3cを計算した。計算されたΔ
3cおよびΨ
3cを前記第3の測定で得られたΔ
3およびΨ
3と比較し、その差が一番小さくなるときのRe
2およびRth
2として、第2層の面内レターデーションRe
2=119nmおよび厚さ方向のレターデーションRth
2=65nmを得た。
【0058】
このRe
2=119nm、Rth
2=65nmと決定されたときの第1層の三次元屈折率n
x1=1.53634、n
y1=1.5353およびn
z1=1.53336を用いて、式[5]に基づき第1層のRe
1およびRth
1を計算すると、Re
1=52nm、Rth
2=123nmであった。こうして得られたRe
1、Rth
1、Re
2およびRth
2は各層を個別で測定した値とよく一致し、本発明の測定方法により二種三層構成の光学異方性膜のレターデーションを精度よく測定できることが分かった。
【0059】
(実施例3)
二種二層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、ポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−110、荷重たわみ温度145℃、平均屈折率n
i1=1.590)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製、Dylark D332、荷重たわみ温度135℃、平均屈折率:n
i2=1.585)のペレットをダブルフライト型のスクリューを備えたもう一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。溶融された260℃のポリカーボネート樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してマルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の一方のマニホールドに、溶融された260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してもう一方のマニホールドにそれぞれ供給した。ポリカーボネート樹脂およびスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状にした。該フィルム状溶融樹脂を表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、ポリカーボネート樹脂層(第1層)とスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(第2層)からなる幅1350mmの積層フィルムを得た。
【0060】
該積層フィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度155℃、延伸倍率2倍で縦方向に延伸した。続いて、延伸されたフィルムをテンター延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.15で横方向に延伸して光学異方性膜Cを得た。マイクロメータを使用して光学異方性膜の厚さを測った結果92μmであった。なおポリカーボネート樹脂:スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂〜1:9.2の割合で共押し出ししたので第1層の膜厚d
1=9μm、第2層の膜厚d
2=83μmと計算された。
【0061】
第1層のRe,RthをRe
1,Rth
1とし、第2層のRe,RthをRe
2,Rth
2として実施例1と同様にデータを測定したところ
Δ
1=157.4nm
Δ
2=158.0nm
Δ
3=76.1°
Ψ
3=53.0°
であった。
実施例1と同様にRe
1,Rth
1、Re
2,Rth
2を求めた結果
Re
1=40[nm]
Rth
1=130[nm]
Re
2=117[nm]
Rth
2=−127[nm]
であった。
【0062】
以上のように本発明の測定方法によれば、二種の層からなる光学異方性膜の各層の面内レターデーションReおよび厚さ方向のレターデーションRthを、各層を分離することなく精度よく測定できることが分かった。