【実施例】
【0057】
以下、本発明を具体的に説明するか、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下の例において、全ての試薬及び溶媒は、和光純薬工業、東京化成工業から購入したものをそのまま使用した。ミリQ水はMillipore Milli-Q biocel Aにより得た。
測定条件
1H-NMR測定
測定はVarian社製Mercury 300 MHzフーリエ変換核磁気共鳴装置を使用した。ケミカルシフトの基準物質にはTMSを用いた。測定には内径5 mmのサンプルチューブを用い、チューブ内に任意の重溶媒の試料溶液を入れて行った。
ESI-TOF-Mass測定
測定装置はMicromass社製LCT (ESI-TOF型)を使用した。サンプル濃度は30 mMに調整し、マイクロシリンジを用いて毎秒50 ml/hの速度で溶液を噴霧した。質量校正にはNaIを用いた。データはMassLynx Ver.3.5を用いて処理した。溶媒はメタノール溶媒を用いた。
IRスペクトル測定
測定装置はJASCO社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-410を使用した。測定領域は波数 400-4000 cm
-1に設定した。測定には、サンプルをメノウ乳鉢上でKBrに対して1.5-2.0 % wtになるように混合粉砕した後、円筒型金属製セルに3 mg程度充填したものをプレス機を用いて作成した薄膜を用いた。ベースライン測定には同様に準備したKBr薄膜を用いた。
イオン性液体の合成
本実施例では下記式(IX)で表されるイオン性液体を合成した。
(1)トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(P
666(14)Cl)(式(VIII))の合成
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリドの合成は既報である非特許文献4を参考に合成した。トリヘキシルホスフィン11.42 g(39.9 mol)を145℃でかき混ぜながら1-クロロテトラデカン12.55 g(48.1 mol)を30分かけて滴下した後、140℃で20時間かき混ぜた。180℃で減圧して原料を取り除くことで、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド19.1 g (収率:92.3 %)を得た。
【0058】
1H-NMR (d, ppm vs TMS in CDCl
3, 300 MHz): 0.90 (m, 12H), 1.20-1.38 (m, 32H) 1.51 (m, 16H), 2.46 (m, 8H).
31P{
1H}-NMR (d, ppm in CDCl
3, 300 MHz): d 33.87.
ESI-TOF-MS : m/z 483.3 [M - Cl]
+.
【0059】
【化12】
【0060】
(2)トリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリフレート(P
666(14)OTf)(式(IX))の合成
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリフレートの合成は既報である非特許文献4を参考に合成した。アセトン50 mlにトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド2.58 g(4.98 mmol)とトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム1.03 g(6.00 mmol)を加えて、6時間かき混ぜた。沈殿物をろ去した後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮を行った。残渣をジエチルエーテル75 mlに溶かして、残った沈殿物をろ去した。水25 mlを用いて6回洗浄操作を行った。有機層を集め、無水硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮を行った。その後、135℃で2時間減圧乾燥することでトリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリフレート2.75 g(87.3 %)を得た。
1H-NMR (d, ppm vs TMS in CDCl
3, 300 MHz): 0.90 (m, 12H), 1.20-2.00 (m, 48H), 2.20 (m, 8H).
ESI-TOF-MS : m/z 483.6 [M - CF
3SO
3]
+, 149.0 [M - P
666(14)]
-.
FT-IR (KBr, cm
-1): n 1260(C-F), 1153, 1030 (SO
3).
【0061】
【化13】
【0062】
金電極の作製
金電極の作製はシンク社製高真空抵抗加熱装置JIS-300AK型を使用し、マイカ上への単結晶金薄膜の蒸着法を用いて作製した。マイカはニラコ社製の天然マイカを14 × 14 mm四方の大きさにカットして用いた。金は田中貴金属製のφ1.0 mm金線(99.999 %)を用いた。マイカはチャンバー内部上部に水平に固定し、金はニラコ社製アルミナに覆われたタングステンフィラメントバスケットに清浄な金線を適当量静置した。ロータリーポンプを起動してチャンバー内圧を1 Pa以下に減圧後、ターボ分子ポンプを用いて10
-4Pa以下となるまで減圧した。ランプヒーターによりマイカを300℃で一晩加熱した後、金線を一定温度で加熱昇華させることで金の蒸着を行った。蒸着速度は0.9 A s
-1に制御し、厚さ1000 Aまで蒸着することで目的の金電極を得た。
触媒固定電極の作製
金表面へのメタロセン錯体の固定化は上記の金電極を水素炎でアニール処理下後に各以下の方法で作成した。また、メタロセン錯体としてチタノセンジクロリドおよびジルコノセンジクロリドを用いた。
【0063】
チタノセンジクロリド2 mgおよびジルコノセンジクロリド2 mg、イオン性液体500 mlをジエチルエーテル1 mlに加えて、5分間かき混ぜた。その後、不溶物をろ去した。溶媒を減圧留去によって取り除いて得られた溶液50-100 mlを金表面に均一膜になるように塗布した。
定電位測定
測定装置にはBAS社製Electrochemical Analyzer Model 600Cを使用した。測定は三電極計で行い、作用電極には本発明に関わる触媒固定電極、参照電極にはAg/AgCl (3 M NaCl)電極を、対電極には白金電極を用いた。測定前に約10分間N
2バブリングを行うことで溶存酸素を除去した。
【0064】
上記のようにして作製した触媒固定電極を用いて、0.1 M LiCl水溶液、0.1 M LiClO
4水溶液または0.1 M NaClO
4水溶液中において任意の時間、定電位測定を行った。測定中は窒素ガスが水溶液に溶けるように、なるべく下部からバブリングを行った。ただし、その泡は直接、触媒固定電極に触れないようにして行った。
アンモニア定量方法
生成したアンモニアの定量はインドフェノール法を用いて行った。インドフェノール法の操作を以下に示す。サンプル液2.5 mlに呈色液A(フェノール5 gおよびNa
2[Fe(CN)
5(NO)]2H
2O 25 mgをミリQ水に加えて500 mlとしたもの)を5 ml加えて軽く混ぜた後、呈色液B(NaOH 2.5 gおよびNaClO 4.2 mlをミリQ水に加えて500 mlとしたもの)を5 ml加えて混ぜた。室温で30分以上静置したあと、その溶液の635 nmでの吸光度を測定した。その吸光度でもってアンモニアの定量を行った。なお、吸光度の測定はJASCO社製紫外吸光分析計V-530またはV-570を用いて行った。
アンモニア生成実験
イオン性液体P
666(14)OTfを用いて、上記方法によって作製した触媒固定電極を用いた。0.1 M LiClO
4水溶液5 mlを用いて、-2.5 Vで1時間定電位測定を行った。この測定で使用された電気量は5.47 Cであった。反応後、溶液を綿栓ろ過して、ろ液2.5 mlを用いて含有アンモニア量をインドフェノール法によって定量した。その結果、含有アンモニア量は3.3 × 10
-7molであったことから、合計6.6 × 10
-7molのアンモニアが生成したことになる。この結果から、本実施例の電気量の変換効率は3.5 %であり、上述の非特許文献1電気量の変換効率は0.28%であったことから、アンモニアへの変換効率は飛躍的に向上させることができた。
対照実験
イオン性液体P
666(14)OTfを用いて、上記方法によって作製した触媒固定電極を用いた。0.1 M LiClO
4水溶液5 mlを用いて、-2.0 Vで1時間定電位測定を行った。この測定で使用された電気量は2.45 Cであった。反応後、溶液を綿栓ろ過して、ろ液2.5 mlを用いて含有アンモニア量をインドフェノール法によって定量した。その結果、含有アンモニア量は1.0 × 10
-7mol未満であったことから、この結果から電気量の変換効率は0.1 %未満であった。
【0065】
実施例1の電位条件を-2.5 Vから-2.0 Vと変えて測定を行ったところ、アンモニアをほとんど検出することができなかった。この理由として、チタノセンジクロリドの2回目の還元電位が-2.2 V vs. Fc/Fc
+ in THFであることから、-2.0 Vではチタノセンジクロリドの2電子還元が生じず、窒素分子が反応するチタノセンが生成しなかったためであると考えられる。