特許第5729022号(P5729022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5729022-アンモニア製造方法 図000017
  • 特許5729022-アンモニア製造方法 図000018
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729022
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】アンモニア製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/04 20060101AFI20150514BHJP
   C25B 11/06 20060101ALI20150514BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   C01C1/04 E
   C25B11/06 Z
   B01J31/22 M
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-47955(P2011-47955)
(22)【出願日】2011年3月4日
(65)【公開番号】特開2012-184132(P2012-184132A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2013年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
(72)【発明者】
【氏名】小畑 充生
(72)【発明者】
【氏名】島崎 龍司
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037336(JP,A)
【文献】 H. Olivier-Bourbigou et al.,Ionic liquids and catalysis: Recent progress from knowledge to applications,Applied Catalysis A: General,2010年,vol.373,pp.1-56
【文献】 Livia Nagy et al.,Electrochemical behavior of ferrocene in ionic liquid media,J. Biochem. Biophys. Methods,2006年,vol.69,pp.121-132
【文献】 持田 智行 他,メタロセン系イオン液体の機能性と反応性,有機結晶部会ニュースレター,2009年10月28日,No.25,p.37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C1/00−3/20
Science Direct
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的に窒素ガスと水から、常温常圧下でアンモニアを合成する方法であって、1種類以上のメタロセン錯体を溶かしたイオン性液体を触媒として用い、水中で窒素ガスバブリングを行いながら電気化学的にアンモニアを得ることを特徴とするアンモニア製造方法。
【請求項2】
前記イオン性液体は、一般式(I)としてC+A-(C+は陽イオン、A-は陰イオン)で表されるとともに、100℃未満で液体状態の塩であり、
前記C+は一般式(II)、(III)、(IV)、(V)および(VI)から選択されることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア製造方法。
【化14】

(式中、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ同一または異なり、水素原子および炭素数1〜30の炭化水素基から選択されるいずれかであり得る。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよく、炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。)
【請求項3】
前記A-はCl-、Br-、I-、BF4-、BF3C2F5-、PF6-、NO3-、CF3CO2-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CN)2N-、(CF3SO2)3C-、(C2F5SO2)2N-、AlCl4-、およびAl2Cl7-から選択されることを特徴とする請求項2に記載のアンモニア製造方法。
【請求項4】
前記メタロセン錯体は、一般式(VII)で表されものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のアンモニア製造方法。
【化15】

(式中、MはTi(IV)、Zr(IV)、またはHf(IV)の金属イオンであり、X1およびX2は同一または異なり、配位性を有する陰イオンである。)
【請求項5】
前記触媒を表面上に物理固定した電極を用いて、前記電極と対電極との間に前記水を介して所定電位を印加することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のアンモニア製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に窒素ガスと水を原料とし、単純な設備によってアンモニアを合成するアンモニア製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニアはHaber-Bosch 法により工業レベルで広く製造されている。Haber-Bosch 法は窒素ガスと水素ガスからアンモニアを得る方法であり、鉄触媒の表面で窒素分子の結合を開裂させて窒素原子を生成し、同様に開裂した水素原子と反応させてアンモニアを得ている。窒素分子は非常に安定で、反応性に乏しいため、600〜800 K、300〜500 atm 程度の高温、高圧を必要とする。そのために多くのエネルギーを消費している。また原料としている水素ガスは、メタンの水蒸気改質により生産されているため、地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素の排出も問題となっている。省エネルギーかつ環境に優しいプロセスの構築がもとめられており、穏和な条件で窒素分子を窒素化合物へ変換する新規触媒の開発が求められている。
【0003】
水素ガス以外に水素源として、アルコールなどのプロトン性有機溶媒や水が考えられる。特に無尽蔵に存在する水から水素を手に入れることが望ましい。また、Haber-Bosch 法などで利用されるような無機材料では穏和な条件での還元を行うのは困難であり、異なる触媒を選択する必要がある。
【0004】
安価に合成されるメタロセン錯体は古くから窒素分子を固定化することが知られており、同様に有機溶媒中において電気化学的に窒素分子をアンモニアへと変換することが報告されている。非特許文献1ではチタノセンジクロリドを用いてアンモニアの合成に成功している。しかし、アンモニアの収率は低く、電気量に対して0.28 %である。
【0005】
また、非特許文献2、3には、次の反応について記載されている。メタロセン錯体である、チタノセンジクロリド(Cp2TiCl2)は系中に一定の電位(-0.93 V vs Fc/Fc+ in THF)が印加されると次式で示されるような反応を起こす。
【0006】
【化1】
【0007】
さらに負の電位(-2.22 V vs Fc/Fc+in THF)が印加されると次式で示されるような反応を起こす。
【0008】
【化2】
【0009】
前式で生成した[Cp2Ti]は不安定であり、複数の反応性を有するが、次式で示されるように窒素分子と反応し、窒素錯体を形成後、水由来のプロトンと、電子が供給されることにより、アンモニアへと変換される。
【0010】
【化3】
【0011】
また、非特許文献4には、イオン性液体であるトリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリフレートの合成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. Y. Becker, S. Avraham, and B. Posin, J. Electroanal. Chem. 1987, 230, 143-153.
【非特許文献2】F. W. Van Der Weij, H. Scholtens, and J. H. Teuben, J. Organomet. Chem. 1977, 127, 299-304.
【非特許文献3】E. E. Van Tamelen, Acc. Chem. Res. 1970, 3, 361-367.
【非特許文献4】A. Cieniecka-Ros/lonkiewicz, J. Pernak, J. Kubis-Feder, A. Ramani, A. J. Robertson and K. R. Seddon, Green Chem. 2005, 7, 855-862.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1の反応効率の低さの原因として、プロトン源は水やメタノールなどの溶媒であるが、これら溶媒自身の還元が優先されるためではないかと考えられる。アンモニア合成に必要な電位をかけると、多くのプロトン源となる化合物自身が還元され、水素が発生する。これは安価な化合物をプロトン源として用いる場合に容易に起こる現象であるが、この反応を起こさなければ反応効率は飛躍的に向上すると期待できる。そこで、本発明では従来の方法より、効率よくアンモニアを合成できる触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、このようなメタロセン錯体が、水と混じることがないイオン性液体に良好に溶けることを見いだし、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、電気化学的に窒素ガスと水から、常温常圧下でアンモニアを合成する方法であって、1種類以上のメタロセン錯体を溶かしたイオン性液体を触媒として用い、水中で窒素ガスバブリングを行いながら電気化学的にアンモニアを得ることを特徴とする。
【0016】
本発明で利用するイオン性液体は室温で溶液であり、不揮発性である。また、支持電解質を加えずに電流を流すことができ、また電位窓は広く、上記のメタロセン錯体を還元する電位においても電気化学的に安定である。また、水とは混ざらないため、半透膜などを利用せずとも材料との界面をつくることができる。このため、メタロセン錯体を溶かしたイオン性液体を、請求項5に記載のように電極表面に固定したり、溶媒として利用して水素源となる水と一緒に用いたりすることで、電極と水との接触を回避できると共に、溶かしたメタロセン錯体と水との反応は残すことができる。
【0017】
つまり、本発明のアンモニア合成方法は、任意の電位を印加することによってイオン液体に溶解しているメタロセン錯体が還元されることで、窒素分子と反応及び窒素分子の活性化を引き起こし、水由来のプロトンと反応することでアンモニアを生成する。
【0018】
このとき、本発明によれば、イオン性液体によって電極と水との接触を回避できるため、水素発生を避けることができる。そのため、水素源として溶媒(水)のプロトンを利用した場合にも高い反応効率を達成することが可能となる。
【0019】
具体的には、請求項2に記載のように、イオン性液体として、一般式(I)としてC+A-(C+は陽イオン、A-は陰イオン)で表されるとともに、100℃未満で液体状態の塩であり、
前記C+は一般式(II)、(III)、(IV)、(V)および(VI)から選択されるものを用いることができる。
【0020】
【化4】
【0021】
(式中、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ同一または異なり、水素原子および炭素数1〜30の炭化水素基から選択されるいずれかであり得る。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよく、炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。)
また、請求項3に記載のように、例えば、一般式(I)のA-を、Cl-、Br-、I-、BF4-、BF3C2F5-、PF6-、NO3-、CF3CO2-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CN)2N-、(CF3SO2)3C-、(C2F5SO2)2N-、AlCl4-、およびAl2Cl7-から選択されるものとすることができる。
【0022】
また、請求項4に記載のように、メタロセン錯体として、一般式(VII)で表されものを用いることができる。
【0023】
【化5】
【0024】
(式中、MはTi(IV)、Zr(IV)、またはHf(IV)の金属イオンであり、X1およびX2は同一または異なり、配位性を有する陰イオンである。)
また、請求項1に記載の発明においては、例えば、請求項5に記載のように、前記触媒を表面上に物理固定した電極を用いて、前記電極と対電極との間に水を介して所定電位を印加する方法を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】アンモニア合成における製造装置の構成を説明するための模式図である。
図2図1のアンモニア合成における触媒固定電極(作用電極)の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0027】
ここに開示されるアンモニア製造方法は、1種類以上のメタロセン錯体を溶かしたイオン性液体を触媒として用い、水中で窒素ガスバブリングを行いながら電気化学的にアンモニアを得るものである。具体的には、この触媒を表面上に物理固定した電極を用いて、この電極と対電極との間に水を介して所定電位を印加する。
【0028】
イオン性液体は、一般式(I)としてC+A-で表される(C+は陽イオンであり、A-は陰イオン)ものであって、100℃未満で液体状態の塩であり、水とは混ざらないものである。イオン性液体としては、特に、室温で液体状態にあり、水とは完全に混ざらない化合物が望ましいが、発明の効果が得られる範囲であれば、わずかに水と混ざっても良い。
【0029】
陽イオンC+としては、一般式(II)で表される第4級アンモニウムを用いることができる。
【0030】
【化6】
【0031】
式中のR1、R2、R3、およびR4は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R1、R2、R3、およびR4としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。
【0032】
また、陽イオンC+としては、一般式(III)で表される第4級ホスホニウムを用いることができる。
【0033】
【化7】
【0034】
式中のR1、R2、R3、およびR4は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R1、R2、R3、およびR4としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。
【0035】
また、陽イオンC+としては、一般式(IV)で表される第3級スルホニウムを用いることができる。
【0036】
【化8】
【0037】
式中のR1、R2、およびR3は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R1、R2、R3、およびR4としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。
【0038】
また、陽イオンC+としては、一般式(V)で表されるイミダゾリウムを用いることができる。
【0039】
【化9】
【0040】
式中のR1、R2、およびR3は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R1、R2、R3、およびR4としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。
【0041】
また、陽イオンC+としては、一般式(VI)で表されるピリジニウムを用いることができる。
【0042】
【化10】
【0043】
式中のR1は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R1、R2、R3、およびR4としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。
【0044】
また、陰イオンA-としては、例えば、Cl-、Br-、I-、BF4-、BF3C2F5-、PF6-、NO3-、CF3CO2-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CN)2N-、(CF3SO2)3C-、(C2F5SO2)2N-、AlCl4-、およびAl2Cl7-から選択されるものを用いることができる。
【0045】
メタロセン錯体は一般式(VII)で表されものである。
【0046】
【化11】
【0047】
式中のMは4価の金属イオンであり、Ti(IV)、Zr(IV)、またはHf(IV)のいずれかであり、式中のX1およびX2は同一または異なり、配位性を有する陰イオンである。陰イオンは、Cl-、Br-、I-、CH3-、またはOH-であることが好ましく、Cl-であることがより好ましい。
【0048】
また、メタロセン錯体は、1種類または2種類以上用いることができる。2種類以上のメタロセン錯体としては、例えば、Cp2TiX1X2とCp2ZrX1X2の組み合わせが好ましい。これは、上述の化1〜化3に示す反応過程において生成した活性窒素は他の種々メタロセン錯体Cp2MX1X2と反応し、チタノセン錯体よりも穏和な条件で還元されることが知られており、そのチタノセン錯体のみでなく、複数の金属を用いることで相乗効果が見込まれるからである。
【0049】
なお、本発明の効果が得られれば、メタロセン錯体は一般式(VII)で表されるものに限らない。
【0050】
ここに開示される技術を適応したアンモニア製造装置の一実施形態を図1に示す。この製造装置はガラス反応容器10内の下方に配置され、メタロセン錯体を溶解したイオン液体が表面上に固定化された作用電極11と、反応容器10の内部に配置された参照電極12および対電極13とを備える。それぞれの電極は電源となる、CV測定装置へ適当に接続されている。また、系内は水溶液で満たされ、窒素ガスボンベ15から窒素ガスがガラス管より適宜提供されることにより、系内は窒素ガス雰囲気下となっている。
【0051】
上記の作用電極11の一実施形態を図2に示す。ガラス板20の上に金電極21が形成されており、その上にメタロセン錯体を溶解したイオン液体22が固定化されている。アルミホイル23はイオン液体22との接触を避け、金電極21と導通がとれるように、中心部分が切り取られて開口部23aが形成されており、この開口部23aにイオン液体22が配置される。そして、反応容器10の底部に設けられた開口部10aにイオン液体22が位置するように、反応容器10の底部とこの作用電極11はクリップ等で固定される。このような作用電極11と用いて、作用電極11と対電極13との間に水溶液を介して所定電位を印加する。
【0052】
ここで、本実施形態において作用電極11に用いる電極基板は、通電する材料である限り、特に限定されない。この電極基板は、例えば、固相基板に金属膜を形成したものであり、当該固相基板の材料および厚さの選択は、当業者か最適な条件を適宜選択することか可能である。主な例として、金属基板(例えば金、銀、銅、アルミニウム、白金、酸化アルミニウム、SrTiO3、LaAlO3、NdGaO3、ZrO2等)やシリコン基板(例えば酸化珪素)、ポリマー樹脂基板(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート)、炭素(グラファイト)、ガラス基板、マイカ等が例示できる。
【0053】
上記固相基板は、前記材料のうち単一の材料からなる基板であってもよいし、1つの基板材料(第1の基板)の表面に別種類の少なくとも1つの材料からなる薄膜(第1の層)を形成していてもよいし、更に、前記第1の基板と前記第1の層との間に少なくとも1つの他の介在層(第2の層、第3の層、等)が存在していてもよい。好適な固相基板の具体例を挙げると、前記第1の基板としてマイカ基板を用い、前記第1の層として表面に金属膜(好適には金薄膜、銀薄膜、銅薄膜、白金薄膜)を有する前記マイカ基板等が挙げられる。なお、前記ガラス基板と前記金属膜との間には、他の材料からなる介在層が施されていてもよい。例えば、マイカ基板に金がコーティングされた固相基板を用いることができる。
【0054】
前記第1の層を初めとする各金属膜の形成は、公知の方法により可能である。例えば電気めっき法、無電解めっき法、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法等により形成することができる。なお、前記金属膜表面を有機溶剤で洗浄し、更に必要に応じて強酸で洗浄することによる分解除去、紫外線により発生するオゾン等による分解除去、等の方法を用いて汚染を除去することもできる。
【0055】
なお、本実施形態においては、メタロセン錯体を溶かしたイオン性液体を電極の表面上に物理固定したが、このイオン性液体を、電極の表面上に物理固定する代わりに、イオン性液体を溶媒として用い、水素源となる水と一緒に反応容器10内に入れても良い。
【0056】
また、特に制限するものではないが、上記の金属錯体はイオン性液体に十分溶解していることが望ましい。また、上記のメタロセン錯体は大気中において、安定性が低いため触媒固定電極の調製には嫌気条件下で行うことが望ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を具体的に説明するか、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下の例において、全ての試薬及び溶媒は、和光純薬工業、東京化成工業から購入したものをそのまま使用した。ミリQ水はMillipore Milli-Q biocel Aにより得た。
測定条件
1H-NMR測定
測定はVarian社製Mercury 300 MHzフーリエ変換核磁気共鳴装置を使用した。ケミカルシフトの基準物質にはTMSを用いた。測定には内径5 mmのサンプルチューブを用い、チューブ内に任意の重溶媒の試料溶液を入れて行った。
ESI-TOF-Mass測定
測定装置はMicromass社製LCT (ESI-TOF型)を使用した。サンプル濃度は30 mMに調整し、マイクロシリンジを用いて毎秒50 ml/hの速度で溶液を噴霧した。質量校正にはNaIを用いた。データはMassLynx Ver.3.5を用いて処理した。溶媒はメタノール溶媒を用いた。
IRスペクトル測定
測定装置はJASCO社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-410を使用した。測定領域は波数 400-4000 cm-1に設定した。測定には、サンプルをメノウ乳鉢上でKBrに対して1.5-2.0 % wtになるように混合粉砕した後、円筒型金属製セルに3 mg程度充填したものをプレス機を用いて作成した薄膜を用いた。ベースライン測定には同様に準備したKBr薄膜を用いた。
イオン性液体の合成
本実施例では下記式(IX)で表されるイオン性液体を合成した。
(1)トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(P666(14)Cl)(式(VIII))の合成
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリドの合成は既報である非特許文献4を参考に合成した。トリヘキシルホスフィン11.42 g(39.9 mol)を145℃でかき混ぜながら1-クロロテトラデカン12.55 g(48.1 mol)を30分かけて滴下した後、140℃で20時間かき混ぜた。180℃で減圧して原料を取り除くことで、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド19.1 g (収率:92.3 %)を得た。
【0058】
1H-NMR (d, ppm vs TMS in CDCl3, 300 MHz): 0.90 (m, 12H), 1.20-1.38 (m, 32H) 1.51 (m, 16H), 2.46 (m, 8H).
31P{1H}-NMR (d, ppm in CDCl3, 300 MHz): d 33.87.
ESI-TOF-MS : m/z 483.3 [M - Cl]+.
【0059】
【化12】
【0060】
(2)トリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリフレート(P666(14)OTf)(式(IX))の合成
トリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリフレートの合成は既報である非特許文献4を参考に合成した。アセトン50 mlにトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド2.58 g(4.98 mmol)とトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム1.03 g(6.00 mmol)を加えて、6時間かき混ぜた。沈殿物をろ去した後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮を行った。残渣をジエチルエーテル75 mlに溶かして、残った沈殿物をろ去した。水25 mlを用いて6回洗浄操作を行った。有機層を集め、無水硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮を行った。その後、135℃で2時間減圧乾燥することでトリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリフレート2.75 g(87.3 %)を得た。
1H-NMR (d, ppm vs TMS in CDCl3, 300 MHz): 0.90 (m, 12H), 1.20-2.00 (m, 48H), 2.20 (m, 8H).
ESI-TOF-MS : m/z 483.6 [M - CF3SO3]+, 149.0 [M - P666(14)]-.
FT-IR (KBr, cm-1): n 1260(C-F), 1153, 1030 (SO3).
【0061】
【化13】
【0062】
金電極の作製
金電極の作製はシンク社製高真空抵抗加熱装置JIS-300AK型を使用し、マイカ上への単結晶金薄膜の蒸着法を用いて作製した。マイカはニラコ社製の天然マイカを14 × 14 mm四方の大きさにカットして用いた。金は田中貴金属製のφ1.0 mm金線(99.999 %)を用いた。マイカはチャンバー内部上部に水平に固定し、金はニラコ社製アルミナに覆われたタングステンフィラメントバスケットに清浄な金線を適当量静置した。ロータリーポンプを起動してチャンバー内圧を1 Pa以下に減圧後、ターボ分子ポンプを用いて10-4Pa以下となるまで減圧した。ランプヒーターによりマイカを300℃で一晩加熱した後、金線を一定温度で加熱昇華させることで金の蒸着を行った。蒸着速度は0.9 A s-1に制御し、厚さ1000 Aまで蒸着することで目的の金電極を得た。
触媒固定電極の作製
金表面へのメタロセン錯体の固定化は上記の金電極を水素炎でアニール処理下後に各以下の方法で作成した。また、メタロセン錯体としてチタノセンジクロリドおよびジルコノセンジクロリドを用いた。
【0063】
チタノセンジクロリド2 mgおよびジルコノセンジクロリド2 mg、イオン性液体500 mlをジエチルエーテル1 mlに加えて、5分間かき混ぜた。その後、不溶物をろ去した。溶媒を減圧留去によって取り除いて得られた溶液50-100 mlを金表面に均一膜になるように塗布した。
定電位測定
測定装置にはBAS社製Electrochemical Analyzer Model 600Cを使用した。測定は三電極計で行い、作用電極には本発明に関わる触媒固定電極、参照電極にはAg/AgCl (3 M NaCl)電極を、対電極には白金電極を用いた。測定前に約10分間N2バブリングを行うことで溶存酸素を除去した。
【0064】
上記のようにして作製した触媒固定電極を用いて、0.1 M LiCl水溶液、0.1 M LiClO4水溶液または0.1 M NaClO4水溶液中において任意の時間、定電位測定を行った。測定中は窒素ガスが水溶液に溶けるように、なるべく下部からバブリングを行った。ただし、その泡は直接、触媒固定電極に触れないようにして行った。
アンモニア定量方法
生成したアンモニアの定量はインドフェノール法を用いて行った。インドフェノール法の操作を以下に示す。サンプル液2.5 mlに呈色液A(フェノール5 gおよびNa2[Fe(CN)5(NO)]2H2O 25 mgをミリQ水に加えて500 mlとしたもの)を5 ml加えて軽く混ぜた後、呈色液B(NaOH 2.5 gおよびNaClO 4.2 mlをミリQ水に加えて500 mlとしたもの)を5 ml加えて混ぜた。室温で30分以上静置したあと、その溶液の635 nmでの吸光度を測定した。その吸光度でもってアンモニアの定量を行った。なお、吸光度の測定はJASCO社製紫外吸光分析計V-530またはV-570を用いて行った。
アンモニア生成実験
イオン性液体P666(14)OTfを用いて、上記方法によって作製した触媒固定電極を用いた。0.1 M LiClO4水溶液5 mlを用いて、-2.5 Vで1時間定電位測定を行った。この測定で使用された電気量は5.47 Cであった。反応後、溶液を綿栓ろ過して、ろ液2.5 mlを用いて含有アンモニア量をインドフェノール法によって定量した。その結果、含有アンモニア量は3.3 × 10-7molであったことから、合計6.6 × 10-7molのアンモニアが生成したことになる。この結果から、本実施例の電気量の変換効率は3.5 %であり、上述の非特許文献1電気量の変換効率は0.28%であったことから、アンモニアへの変換効率は飛躍的に向上させることができた。
対照実験
イオン性液体P666(14)OTfを用いて、上記方法によって作製した触媒固定電極を用いた。0.1 M LiClO4水溶液5 mlを用いて、-2.0 Vで1時間定電位測定を行った。この測定で使用された電気量は2.45 Cであった。反応後、溶液を綿栓ろ過して、ろ液2.5 mlを用いて含有アンモニア量をインドフェノール法によって定量した。その結果、含有アンモニア量は1.0 × 10-7mol未満であったことから、この結果から電気量の変換効率は0.1 %未満であった。
【0065】
実施例1の電位条件を-2.5 Vから-2.0 Vと変えて測定を行ったところ、アンモニアをほとんど検出することができなかった。この理由として、チタノセンジクロリドの2回目の還元電位が-2.2 V vs. Fc/Fc+ in THFであることから、-2.0 Vではチタノセンジクロリドの2電子還元が生じず、窒素分子が反応するチタノセンが生成しなかったためであると考えられる。
【符号の説明】
【0066】
10 ガラス反応容器
11 作用電極
12 参照電極(Ag/AgCl)
13 対電極(Pt)
14 電源
15 窒素ガスボンベ
20 ガラス板
21 金電極
22 イオン液体
23 アルミホイル
24 反応容器
図1
図2