(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729135
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】サファイアシードおよびその製造方法、ならびにサファイア単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/36 20060101AFI20150514BHJP
C30B 29/20 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
C30B15/36
C30B29/20
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-118748(P2011-118748)
(22)【出願日】2011年5月27日
(65)【公開番号】特開2012-20923(P2012-20923A)
(43)【公開日】2012年2月2日
【審査請求日】2014年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2010-137987(P2010-137987)
(32)【優先日】2010年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-138017(P2010-138017)
(32)【優先日】2010年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】今井 正人
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩三
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0081456(US,A1)
【文献】
特開2009−120453(JP,A)
【文献】
特開2008−266078(JP,A)
【文献】
特開2008−297150(JP,A)
【文献】
特開平10−152393(JP,A)
【文献】
特開2008−031019(JP,A)
【文献】
特開2008−260641(JP,A)
【文献】
特開2010−265150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア単結晶からなるサファイアシードを用い、その(0001)面を結晶成長面として原料融液に接触させつつc軸方向へ引き上げながら結晶成長を行う、チョクラルスキー法によるサファイア単結晶の成長を行う際に用いる前記サファイアシードの製造方法であって、
前記サファイアシードの側面が、{1-100}面±10°以内の結晶面となり、かつ前記サファイアシードの形状が、六角柱形状または三角柱形状を含むように加工されたサファイアシードを用意する工程と、
該サファイアシードに対して所定の熱処理を施す工程と、
を具えることを特徴とするサファイアシードの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理は、1400〜1800℃の範囲の第1熱処理を含む請求項1に記載のサファイアシードの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理は、前記第1熱処理と、1000〜1200℃の範囲の第2熱処理とからなる2段熱処理を含む請求項2に記載のサファイアシードの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理は、前記2段熱処理を複数回含む請求項3に記載のサファイアシードの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理は、前記第1熱処理を30分以上行う請求項2、3または4に記載のサファイアシードの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理は、前記第2熱処理を10分以上行う請求項3または4に記載のサファイアシードの製造方法。
【請求項7】
サファイア単結晶からなるサファイアシードであって、その側面が、{1-100}面±10°以内の結晶面となり、かつ、その形状が、六角柱形状または三角柱形状を含むように加工されたサファイアシードに対して、所定の熱処理を施す工程と、
サファイア単結晶を成長させるための原料をルツボ内に充填し、加熱融解させることにより原料融液を形成する工程と、
熱処理後の前記サファイアシードを、その(0001)面を結晶成長面として前記原料融液に接触させつつc軸方向へ引き上げながら、該サファイアシードの(0001)面にサファイア単結晶を成長させる、チョクラルスキー法によるサファイア単結晶成長工程と、
を具えるサファイア単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、前記サファイアシードを前記原料融液の上方に配置して行う請求項7に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理は、サファイアシード先端の温度が1400〜1800℃の範囲となる原料融液上方の第1位置での第1熱処理を含む請求項8に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理は、前記第1熱処理と、サファイアシード先端の温度が1000〜1200℃の範囲となる原料融液上方の第2位置での第2熱処理とからなる2段熱処理を含む請求項9に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理は、前記2段熱処理を複数回含む請求項10に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理は、前記第1熱処理を30分以上行うことを含む請求項9、10または11に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理は、前記第2熱処理を10分以上行うことを含む請求項10または11に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイアシードおよびその製造方法に関する。本発明は特に、高品位のサファイア単結晶を成長させるためのサファイアシードおよびその製造方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、サファイア単結晶の製造方法に関する。本発明は特に、高品位のサファイア単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
サファイア単結晶は、菱面体晶系の結晶構造あるいは六方晶系で近似される結晶構造を有する酸化アルミニウムの単結晶である。サファイア単結晶は、その優れた機械的特性や化学的安定性、光学特性から、工業材料として広く用いられており、特に、青色・白色系発光ダイオード(LED)を製造するためのGaN成膜基板として利用されている。
【0004】
このようなサファイア単結晶の育成には種々の方法があるが、特に、大型結晶の育成が比較的容易である等の理由から、チョクラルスキー法(CZ法)と呼ばれる単結晶成長技術を用いて、サファイア単結晶を育成する方法が一般的である。
【0005】
このCZ法は、一般に、以下のような工程で高品位な単結晶インゴットを製造する技術である。まず、ルツボ内で溶融させた多結晶原料に、単結晶の種結晶(シード)を接触させるシーディング工程を行う。その後、引き上げ速度および融液温度を制御しながら、シードを回転させて徐々に引き上げる。
【0006】
ところが、シードに転位が存在する場合、シードの転位が、その後成長する単結晶に引き継がれ、単結晶インゴットの品質が低下してしまうという問題がある。シードに転位が存在する場合としては、例えば、製造されたシードに既に転位が含まれていた場合や、シーディングの際に受けた熱衝撃により、シードの結晶成長面に転位が発生した場合がある。そこで、その後成長する単結晶に転位が引き継がれることを防止するため、例えばシリコン単結晶のインゴットを製造する場合には、種付け後、インゴットの径を増加させる前に、一旦径を絞るネッキングと呼ばれる工程を行うのが一般的である。
【0007】
しかしながら、サファイア単結晶の成長速度は、シリコン単結晶の場合に比べて、二桁程度低い。このため、ネッキングに要する時間は数十時間以上になる。また、サファイア結晶の融点は、2050℃と、シリコン結晶の1412℃と比べて高い。このため、融液表面での組成の変化や炉内の温度分布変化の影響により、融液の対流が変動しやすいために、シード周囲の融液温度を長時間安定させることが難しい。このような理由から、CZ法でサファイア単結晶を成長させる場合、ネッキング工程は行われないのが一般的である。
【0008】
そのため、転位密度をより低減したサファイアシードを用いて、より高品位のサファイア単結晶インゴットを得る技術が望まれていた。
【0009】
ここで、特許文献1には、原料融液の温度を、単結晶用原料の融点に対して適正な範囲に調節することにより、種結晶表面の溶融を抑え、種結晶と融液との境界で発生する転位を減少させることで、高品質な単結晶を製造する技術が開示されている。しかし、特許文献1では、融液との接触前の種結晶自体に含まれる転位に関しては何ら考察されていない。
【0010】
また、非特許文献1には、高い転位密度を有し、表面を特定の結晶面とする薄膜に対し、所定の熱処理を施すことにより、転位密度を減少させる技術が開示されている。しかし、かかる技術は、厚さを考慮せず、表面と熱処理との関係に関するものであって、厚みを有するシードのような単結晶のサファイアシードの転位密度を低減させることについては何ら考察されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−260641号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】中村 敦朝他、「サファイアにおける転位配置の制御(Control of dislocation configuration in sapphire)」、Acta Materialia、2005年1月10日、第53巻、第2号、p.455−462
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記問題を解決し、転位密度を低減した結晶成長用のサファイアシードとその製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の目的は、上記問題を解決し、高品位のサファイア単結晶を成長させることが可能なサファイア単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、サファイア単結晶からなり、その(0001)面を結晶成長面としてサファイア単結晶を成長させるためのサファイアシードに、所定の熱処理を施すことにより、c軸に平行な転位密度を低減できることがわかった。
また、結晶成長用のサファイアシードの形状を六角柱形状または三角柱形状を含むものとし、この側面を{1-100}面に対し±所定の範囲内となるようにすることにより、サファイアシードの結晶成長面の転位密度を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、上記の知見に立脚するもので、その要旨構成は以下の通りである。
(1)サファイア単結晶からなり、その(0001)面を結晶成長面としてサファイア単結晶を成長させるためのサファイアシードの製造方法であって、
前記サファイアシードの側面が、{1-100}面±10°以内の結晶面となり、かつ前記サファイアシードの形状が、六角柱形状または三角柱形状を含むように加工されたサファイアシードを用意する工程と、
該サファイアシードに対して所定の熱処理を施す工程と、
を具えることを特徴とするサファイアシードの製造方法。
【0017】
(2)前記熱処理は、1400〜1800℃の範囲の第1熱処理を含む上記(1)に記載の結晶成長用サファイアシードの製造方法。
【0018】
(3)前記熱処理は、前記第1熱処理と、1000〜1200℃の範囲の第2熱処理とからなる2段熱処理を含む上記(2)に記載の結晶成長用サファイアシードの製造方法。
【0019】
(4)前記熱処理は、前記2段熱処理を複数回含む上記(3)に記載の結晶成長用サファイアシードの製造方法。
【0020】
(5)前記熱処理は、前記第1熱処理を30分以上行う上記(2)、(3)または(4)に記載の結晶成長用サファイアシードの製造方法。
【0021】
(6)前記熱処理は、前記第2熱処理を10分以上行う上記(3)または(4)に記載の結晶成長用サファイアシードの製造方法。
【0022】
(7)サファイア単結晶からなり、その(0001)面を結晶成長面としてサファイア単結晶を成長させるためのサファイアシードであって、
該サファイアシードの側面が、{1−100}面±10°以内の結晶面であり、かつ前記結晶成長用サファイアシードの形状が、六角柱形状または三角柱形状を含み、
結晶成長面の転位密度が10
3/cm
2以下であることを特徴とするサファイアシード。
【0023】
(8)前記サファイアシードは、結晶成長面のサイズが5〜12mmの範囲である上記(7)に記載のサファイアシード。
【0024】
(9)サファイア単結晶の製造方法であって、
サファイア単結晶からなるサファイアシードであって、その側面が、{1-100}面±10°以内の結晶面となり、かつ、その形状が、六角柱形状または三角柱形状を含むように加工されたサファイアシードに対して、所定の熱処理を施す工程と、
サファイア単結晶を成長させるための原料をルツボ内に充填し、加熱融解させることにより原料融液を形成する工程と、
熱処理後の前記サファイアシードを前記原料融液に接触させる工程と、
該サファイアシードを上方に引き上げながら、該サファイアシードの(0001)面にサファイア単結晶を成長させる工程と、
を具えるサファイア単結晶の製造方法。
【0025】
(10)前記熱処理は、前記サファイアシードを前記原料融液の上方に配置して行う上記(9)に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【0026】
(11)前記熱処理は、サファイアシード先端の温度が1400〜1800℃の範囲となる原料融液上方の第1位置での第1熱処理を含む上記(10)に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【0027】
(12)前記熱処理は、前記第1熱処理と、サファイアシード先端の温度が1000〜1200℃の範囲となる原料融液上方の第2位置での第2熱処理とからなる2段熱処理を含む上記(11)に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【0028】
(13)前記熱処理は、前記2段熱処理を複数回含む上記(12)に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【0029】
(14)前記熱処理は、前記第1熱処理を30分以上行うことを含む上記(11)、(12)または(13)に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【0030】
(15)前記熱処理は、前記第2熱処理を10分以上行うことを含む上記(12)または(13)に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、(0001)面を結晶成長面とする結晶成長用のサファイアシードの側面を、{1−100}面±所定範囲内の結晶面とし、かつサファイアシードの形状を、六角柱形状または三角柱形状を含むようにし、このサファイアシードに所定の熱処理を施す。そのため、結晶成長面の転位密度を所定値以下とするサファイアシードを得ることができる。さらに、このサファイアシードを用いて、その(0001)面上に、低転位密度または無転位である高品位のサファイア単結晶を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、菱面体晶系を六方晶系で近似して表したときのサファイア単結晶の単位格子(Unit Cell)を示す模式図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明による六角柱のサファイアシードの模式的断面図であり、
図2(b)は、本発明による三角柱のサファイアシードの模式的断面図である。
【
図3】
図3は、c軸を回転中心とした場合の本発明によるサファイアシードの側面の回転状態を示す模式的断面図であり、実線は側面が{1-100}の場合を示し、点線は側面が{1-100}から10°傾いた場合を示す。
【
図4】
図4は、サファイア単結晶の製造工程の一部を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(サファイアシードの製造方法)
本発明のサファイアシードの製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0034】
本発明に従うサファイアシードの製造方法は、サファイア単結晶からなり、その(0001)面を結晶成長面としてサファイア単結晶を成長させるためのサファイアシードの製造方法であって、サファイアシードの側面が、{1-100}面±10°以内の結晶面となり、かつサファイアシードの形状が、六角柱形状または三角柱形状を含むように加工されたサファイアシードを用意する工程と、このサファイアシードに対して所定の熱処理を施す工程と、を具えることを特徴とし、かかる工程を有することにより、結晶成長面の転位密度を低減したサファイアシードを製造することができるものである。
【0035】
図1は、サファイア単結晶の単位格子を示したものである。サファイア単結晶は、正確には菱面体晶系の結晶構造を有するが、
図1に示すように、六方晶系で近似して表すことができる。本発明で製造する「サファイアシード」は、サファイア単結晶からなるものである。通常、サファイア単結晶のインゴットから例えばGaN成膜用のウェーハを切り出す場合、ウェーハの主面がサファイア単結晶の(0001)面(c面)となるように切り出すことが一般的である。
【0036】
材料をなるべく無駄にしないためには、c軸方向に結晶を育成して略円柱状のインゴットを得るとともに、このインゴットをc軸方向(インゴットの軸方向)に対して垂直に切断することが望ましい。したがって、サファイアシードの結晶成長面は(0001)面とする。なお、結晶成長面が(0001)面であることは、結晶の成長軸方向を[0001]としたことと同義である。すなわち、シード結晶の軸方位が[0001]である、つまり(0001)面に垂直であれば、シードの先端の形状に依らず、シードに単結晶として繋がる結晶の軸方位は[0001]となり、マクロでみれば(0001)面で成長していることになる。
【0037】
図2(a)および
図2(b)は、それぞれサファイアシードの形状が六角柱形状または三角柱形状の場合のサファイアシードの模式的断面図を示したものである。
図2(a)または
図2(b)にそれぞれ示されるように、サファイアシードの6つまたは3つの側面の全てが、{1-100}面±10°以内(
図2では、サファイアシードの側面と{1-100}面とは同一)の結晶面となり、かつサファイアシードの形状が、六角柱形状または三角柱形状となるように、サファイアシードを加工する。この加工は、X線回折法により方位を計測し、例えばダイヤモンドブレード等を用いて行うことができる。
【0038】
なお、サファイアシードの側面が、{1-100}面±10°以内とは、
図3に破線および一点鎖線で示されるように、サファイアシードの側面が、{1-100}面である実線からc軸を回転中心として±10°以内だけ回転させたときの結晶面を含めることを意味する。
【0039】
本発明では、上記のように加工されたサファイアシードを用意し、このサファイアシードに対して所定の熱処理を施す。この熱処理工程は、空気、酸素(O
2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)および窒素(N
2)等の雰囲気中で行うことができる。
【0040】
本発明は理論に縛られるものではないが、以下のような作用により転位密度を減少させることができると考えられる。サファイアシード中の転位は、(0001)面の<1-100>方向で最も安定している。また、シードの表面近傍では、転位に大きな鏡像力が作用するため、転位には、シードの表面に垂直になろうとする大きな力が働いている。上述したように、サファイアシードの側面を、{1-100}面に対し、c軸を回転中心として±10°以内の結晶面となるよう形成したことにより、転位の安定な方向と鏡像力の作用の方向を一致させることができる。また、サファイア単結晶を高温に保持すると、点欠陥が転位の周囲のひずみ場により集められて上昇運動し、転位の形状が変わることが知られている。また、温度勾配による熱応力により、転位がすべり運動をすることも知られている。このため、サファイアシードに熱処理を施すことにより、シードの表面に露出している転位は、鏡像力と上昇運動あるいはすべり運動とにより、シードの表面に対して垂直になる。転位には短くなる力が働くので、転位が動ける温度では、表面近傍の垂直な成分が次第に長くなる。その結果、軸に平行な転位の密度を下げることができるものと考えられる。
【0041】
熱処理は、1400〜1800℃の範囲の第1熱処理(高温熱処理)を含むのが好ましい。第1熱処理が1400℃未満だと、転位の上昇運動が十分に起きず、転位の形状の変化が不充分となるおそれがあり、第1熱処理が1800℃を超えると、転位のすべり運動により転位が増殖し、転位密度が増加するおそれがあるためである。
【0042】
熱処理は、上記第1熱処理と、この第1熱処理の後に行う、1000〜1200℃の範囲の第2熱処理(低温熱処理)とからなる2段熱処理を含むのが好ましい。高温熱処理により点欠陥を大量に発生させ、その後の低温熱処理により点欠陥を過飽和にし、過飽和な点欠陥により転位を動かすためである。そして、第2熱処理が1000℃未満だと、点欠陥の拡散が遅くなるおそれがあり、第2熱処理が1200℃を超えると、点欠陥の過飽和度が小さくなるおそれがあるため、1000〜1200℃の範囲が好ましい。
【0043】
熱処理は、高温熱処理とその後の低温熱処理とからなる2段熱処理を複数回含むのが好ましい。2段熱処理を複数回行うことにより、点欠陥の過飽和度を上げて転位の上昇運動を促進するという効果が得られるためである。
【0044】
熱処理は、転位の上昇運動やすべり運動により転位がシード表面と垂直となる部分を長くするため、第1熱処理を30分以上行うのが好ましい。この処理時間は、熱処理の温度が高い程短くすることができる。
【0045】
熱処理は、シードの温度を所定の温度まで十分に下げるため、第2熱処理を10分以上行うのが好ましい。この処理時間は、熱処理の温度が高い程短くすることができる。
【0046】
(サファイアシード)
本発明のサファイアシードの実施形態について説明する。
本発明に従うサファイアシードは、サファイア単結晶からなり、その(0001)面を結晶成長面としてサファイア単結晶を成長させるためのサファイアシードであって、このサファイアシードの側面が、{1−100}面±10°以内の結晶面であり、かつ結晶成長用サファイアシードの形状が、六角柱形状または三角柱形状を含み、結晶成長面の転位密度が10
3/cm
2以下であることを特徴とし、かかる構成を有することにより、サファイアシードの結晶成長面上に、低転位密度または無転位である高品位のサファイア単結晶を成長させることができるものである。
【0047】
このサファイアシードは、既述のような製造方法により得ることができるものである。
【0048】
サファイアシードは、結晶成長面のサイズが5〜12mmの範囲であることが好ましい。ここで、「結晶成長面のサイズ」とは、サファイアシードの形状が六角柱形状である場合には、六角形に外接する円の直径のことをいい、三角柱形状である場合には、三角形に外接する円の直径のことをいう。結晶成長面のサイズが5mm未満だと、シーディング工程で、融液のわずかな温度変動によりシードが溶けるおそれがあり、一方、結晶成長面のサイズが12mmを超えると、シードの先端に垂直に存在する転位数が多くなり、転位を低減できないおそれがあるためである。
【0049】
(サファイア単結晶の製造方法)
本発明のサファイア単結晶の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0050】
本発明に従うサファイア単結晶の製造方法は、
図4に示すように、サファイア単結晶を成長させるための原料をルツボ1内に充填し、加熱融解させることにより原料融液2を形成する工程と、原料融液2にサファイアシード3を接触させる工程と、このサファイアシード3を上方に引き上げながら、サファイアシードの結晶成長面にサファイア単結晶4を成長させる工程とを具える。そして、本発明で用いるサファイアシード3は、サファイア単結晶からなり、その側面が{1-100}面±10°以内の結晶面となり、かつ、その形状が六角柱形状または三角柱形状を含むように加工され、所定の熱処理を施したものである。以下、サファイアシードを熱処理することを「シード加熱工程」という。この熱処理を施したサファイアシード3の(0001)面を原料融液2に接触させる。本発明では、かかる工程を有することにより、サファイアシードの(0001)面上に、低転位または無転位である高品位のサファイア単結晶を成長させることができる。
【0051】
シード加熱工程は、サファイアシードを原料融液2の上方に配置して行うことを含むのが好ましい。これにより、原料融液からの熱を利用して、適切な温度でサファイアシードを加熱することができ、その後連続してサファイア単結晶の成長が行えるため、プロセスが簡易である。
【0052】
サファイアシードに対して施す熱処理の好ましい態様は、記述のとおりである。すなわち、シード加熱工程は、サファイアシード先端の温度が1400〜1800℃の範囲となる原料融液上方の第1位置での第1熱処理を含むのが好ましい。また、シード加熱工程は、第1熱処理と、この第1熱処理の後に行う、サファイアシード先端の温度が1000〜1200℃の範囲となる原料融液上方の第2位置での第2熱処理とからなる2段熱処理を含むのが好ましい。なお、ここで「サファイアシード先端」とは、サファイアシードのうち最も原料融液に近い側の端部を意味する。さらに、シード加熱工程は、この2段熱処理を複数回含むのが好ましい。これは、サファイアシード3を原料融液2上方で上下させて行う。そして、シード加熱工程は、第1熱処理を30分以上、第2熱処理を10分以上行うのが好ましい。
【0053】
このようなシード加熱工程を経ることにより、サファイアシードの結晶成長面の転位密度を10
3/cm
2以下とすることができる。
【0054】
また、本発明に用いるサファイアシードの形状は、全体を六角柱形状または三角柱形状とする場合の他、先端形状を六角錐とした六角柱や、先端形状を三角錐とした三角柱とすることもできる。特に、先端を角錐形状とした場合、着液時の熱ショックによる転位の導入を効果的に防止することができる。
【0055】
上述したところは、本発明の実施形態の一例を示したものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
<第1の実験例>
(実施例1)
サファイア単結晶から、側面が{1−100}面である六角柱のサファイアシード(外接する円の直径:10mm、長さ:120mm)を作製した。シードの表面は、研磨およびエッチングにより仕上げ処理を行った。このサファイアシードに対して、空気中で1500℃、20分の熱処理を施し、サファイア単結晶シードを作製した。
【0057】
上記サファイア単結晶シードを用い、(0001)面を結晶成長面として、CZ法により、サファイア単結晶を成長させて、インゴットを作製した。
【0058】
(実施例2)
熱処理の時間を30分としたこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0059】
(実施例3)
熱処理の時間を60分としたこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0060】
(実施例4)
熱処理の時間を120分としたこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0061】
(実施例5)
熱処理を、1500℃、30分の高温熱処理と、それに続く1200℃、10分の低温熱処理としたこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0062】
(実施例6)
熱処理を、1500℃、30分の高温熱処理と、それに続く1200℃、10分の低温熱処理とを2回繰り返したこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0063】
(比較例1)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が任意の面である四角柱のサファイアシード(断面が10mm×10mm、長さ:120mm)を作製したこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0064】
(比較例2)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が{1−100}面に対し、c軸を回転中心として15°ずれた面としたこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0065】
(比較例3)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が任意の面である四角柱のサファイアシード(断面が10mm×10mm、長さ:120mm)を作製したこと以外は、実施例6と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0066】
(比較例4)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が{1−100}面に対し、c軸を回転中心として15°ずれた面としたこと以外は、実施例6と同様の方法によりサファイア単結晶シードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0067】
(評価)
上記実施例1〜6および比較例1〜4の成長したサファイア単結晶について、成長方向に垂直に約1mmの厚さにスライスして表面を研磨し、非対称反射X線トポグラフ法により基板表面近傍の転位を観察し、転位密度を測定した。具体的には、X線トポグラフ像において転位は線状に見えるため、転位線の長さを測定する。転位密度は、単位体積あたりの転位線の長さ(cm/cm
3=cm
−2)として定義される。測定結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から、本発明に従う製造方法により得たサファイア単結晶シードを用いて単結晶サファイアの成長を行った実施例1〜6は、比較例1〜4と比較して、単結晶サファイア中の転位密度が小さく、高品位のサファイア単結晶が得られていることがわかる。
【0070】
<第2の実験例>
(実施例1)
サファイア単結晶から、側面が{1−100}面である六角柱のサファイアシード(外接する円の直径:10mm、長さ:120mm)を作製した。シードの表面は、研磨およびエッチングにより仕上げ処理を行った。
【0071】
直径200mmのMoからなるルツボに、アルミナ(10kg)を装填し、融点(2050℃)以上に温度を上げて、原料融液を作製した。
【0072】
上記サファイアシードを原料融液上350mmの位置(温度:1800℃)に1時間保持し、第1熱処理を行った。その後、シードの温度を融液温度に近づける目的で、融液直上(温度:2050℃)の位置まで静かに下ろして30分間保持した。その後、サファイアシードの(0001)面を原料融液に着液し、肩広げを行い、直径100mm、長さ200mmのサファイア単結晶を成長させて、インゴットを作製した。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同様のサファイアシードを、アルミナ原料が溶解するまでは、先端の温度が1200℃以下となる位置に保持した。原料溶解後に、原料融液上350mmの位置(温度:1800℃)に30分保持し、第1熱処理を行った。その後、600mmの位置(温度:1200℃)まで上昇させて、10分間保持し、第2熱処理を行った。再度、融液上350mmの位置(温度:1800℃)で30分保持し、第1熱処理を行った。その後、シードの温度を融液温度に近づける目的で、融液直上(温度:2050℃)の位置まで静かに下ろして30分間保持した。これ以外の点は、実施例1と同様の方法によりサファイア単結晶を成長させた。
【0074】
(比較例1)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が任意の面である四角柱のサファイアシード(断面が10mm×10mm、長さ:120mm)を作製したこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイアシードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0075】
(比較例2)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が{1−100}面に対し、c軸を回転中心として15°ずれた面としたこと以外は、実施例1と同様の方法によりサファイアシードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0076】
(比較例3)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が任意の面である四角柱のサファイアシード(断面が10mm×10mm、長さ:120mm)を作製したこと以外は、実施例2と同様の方法によりサファイアシードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0077】
(比較例4)
サファイア単結晶から、(0001)面を結晶成長面とし、側面が{1−100}面に対し、c軸を回転中心として15°ずれた面としたこと以外は、実施例2と同様の方法によりサファイアシードを作製し、サファイア単結晶を成長させた。
【0078】
(評価)
上記実施例1〜2および比較例1〜4の成長したサファイア単結晶について、成長方向に垂直に約1mmの厚さにスライスして表面を研磨し、非対称反射X線トポグラフ法により基板表面近傍の転位を観察し、転位密度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2から、本発明に従って単結晶サファイアの成長を行った実施例1〜2は、比較例1〜4と比較して、単結晶サファイア中の転位密度が小さく、高品位のサファイア単結晶が得られていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、(0001)面を結晶成長面とする結晶成長用のサファイアシードの側面を、{1−100}面±所定範囲内の結晶面とし、かつサファイアシードの形状を、六角柱形状または三角柱形状を含むようにし、このサファイアシードに所定の熱処理を施す。そのため、結晶成長面の転位密度を所定値以下とするサファイアシードを得ることができる。さらに、このサファイアシードを用いて、その(0001)面上に、低転位密度または無転位である高品位のサファイア単結晶を成長させることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ルツボ
2 原料融液
3 サファイアシード
4 サファイア単結晶