(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微多孔膜は、一般に濾過膜として広く用いられている。濾過膜には、濾過対象に応じた粒子阻止率を保ちつつ透過量を多くすることが要求される。しかし、透過量を大きくしようとして空隙率を高くすると、空隙の分布が不均一となって極端に大きな孔が生じたり、表面に亀裂が入ったりして粒子阻止率が低下する。一方で、粒子阻止率を上げようとして空隙率を小さくすると、透過量が低下する。このように、粒子阻止率の向上と透過量の向上は相反する関係にあり、粒子阻止率を保ちつつ透過量をより多くすることは大変困難である。
また、粒子阻止率と透過量の関係には、孔径分布も影響する。同じ平均孔径であっても、孔径分布が広い濾過膜は、孔径分布が狭い濾過膜と比べて、最大孔径が大きくなる。そのため、粒子阻止率は低くなる。また、同時に小さな孔も多数持っているため、透過量は必ずしも高くない。そのため、粒子阻止率を保ちつつ透過量をより多くするためには、孔径分布を狭くすることが望ましい。しかしながら、孔径分布を狭くするためには、一般的には孔の大きさや形をできるだけ均一にする必要があり、そのような膜を作るのは大変困難である。
そこで本発明は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂から、孔の形や大きさがより均一で、粒子阻止率を保ちつつより高い透過性を有する非対称構造の微多孔膜およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、微多孔膜の素材となる樹脂にポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いて、その溶液粘度や分子量を制御することにより、球状体と線状の結合材で構成された3次元網目構造を有するスキン層であって、より均一な形状の孔を持つスキン層が形成できることを見出した。このような構造をスキン層に持つ微多孔膜は、粒子阻止率を保ちつつ、従来にない透過性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の第1の態様に係る微多孔膜は、例えば
図1に示すように、非対称膜である微多孔膜であって、微孔が形成されたスキン層と;前記スキン層を支える、前記微孔よりも大きい空孔が形成された支持層とを備え;前記微多孔膜の素材は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂であり、前記スキン層は、複数の球状体1を有し、それぞれの球状体1から複数の線状の結合材2が3次元方向に伸びており、隣接する球状体1は、線状の結合材2により互いに接続され、球状体1を交点とした3次元網目構造を形成する。
図1に本願の3次元網目構造の一例を示す。
図1は、スキン層表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。なお、「スキン層」とは微多孔膜の断面において表面からマクロボイドが発生するまでの厚みの層をいい、「支持層」とは、微多孔膜全体の厚みからスキン層の厚みを引いた値の厚みの層をいう。「マクロボイド」とは、微多孔膜の支持層に発生し、最小で数μm、最大で支持層の厚さとほぼ同じ大きさとなる巨大な空洞を言う。「球状体」とは、本発明の3次元網目構造の交点に形成された球状であって、完全な球状に限られず、ほぼ球状も含まれる。
【0008】
このように構成すると、球状体と球状体の間の空隙が線状の結合材で仕切られた形となるため、球状体の無い従来の微多孔膜と比較して遥かに空隙の形状・大きさが揃った微多孔ができやすく、透過性に優れたスキン層を形成することができる。線状の結合材は、球状体を架橋する役割も果たすため、球状体が脱落等することがなく、濾液に濾材自体が混入するのを防ぐことができる。さらに、3次元網目構造の交点に球状体が存在するため、濾過膜として使用する際に圧力により3次元網目構造がつぶれるのを防ぐことができる。すなわち、耐圧性が高い。さらに、球状体と線状の結合材による
図1に示すような3次元網目構造により、スキン層の空隙が従来の同程度の孔径を有する微多孔膜に比べ多くなり、通路が維持され、さらに空隙がより均質に立体的に配置されているため、優れた透過性を有する。
また、微多孔膜の素材としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いているため、機械的、熱的、化学的に安定している。さらにポリフッ化ビニリデン系樹脂は、他のフッ素樹脂に比べて加工し易く、加工後の2次加工(例えば切断や他素材との接着)もし易いという利点を有する。
【0009】
本発明の第2の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第1の態様に係る微多孔膜において、前記球状体の粒径が、平均粒径の±10%の幅の範囲に45%以上となる度数分布を有する。
このように構成すると、スキン層が有する球状体は、その粒径が揃ったものとなる。よって、球状体と球状体の間に、孔径が均一な空隙が形成され易い。
【0010】
本発明の第3の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る微多孔膜において、前記結合材の長さが、平均長の±30%の幅の範囲に35%以上となる度数分布を有する。
このように構成すると、スキン層が有する球状体はより均一に分散される。よって、球状体と球状体の間に、孔径が均一な空隙が形成され易い。
【0011】
本発明の第4の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第1の態様〜第3の態様のいずれか1の態様に係る微多孔膜において、前記球状体が、0.05〜0.5μmの平均粒径を有する。
このように構成すると、上記範囲内の平均粒径を有する球状体と、球状体を相互接続する線状の結合材により、球状体と球状体の間に、微孔が容易に形成される。
【0012】
本発明の第5の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第1の態様〜第4の態様のいずれか1の態様に係る微多孔膜において、
図8、9に示すように、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂を良溶媒に溶解した溶液の、横軸をせん断速度、縦軸を溶液粘度の逆数としたグラフが、上側に凸を有する弧を含む曲線である。すなわち、グラフの一部に上側に凸を有する弧を含んでいればよい。
このように構成すると、上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂では、球状体とそれらを互いに架橋接続する線状の結合材による、球状体を交点とした3次元網目構造を有するスキン層を備えた微多孔膜を容易に形成することができる。
【0013】
本発明の第6の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第1の態様〜第4の態様のいずれか1の態様に係る微多孔膜において、
図8、9に示すように、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂10重量部、ポリエチレングリコール10重量部、ジメチルアセトアミド80重量部の溶液では、横軸をせん断速度、縦軸を溶液粘度の逆数としたグラフの、せん断速度40毎秒以下の領域を2次関数で近似でき、前記2次関数の2次係数は、
−10−8より小さい。
このように構成すると、上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂では、球状体とそれらを互いに架橋接続する線状の結合材による、球状体を交点とした3次元網目構造を有するスキン層を備えた微多孔膜を容易に形成することができる。
【0014】
本発明の第7の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第5の態様または第6の態様に係る微多孔膜において、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、60万〜120万である。
このように構成すると、重量平均分子量が60万以上のポリフッ化ビニリデン系樹脂では製膜時に原料液が基材層に吸収されるのを防ぐことができ、120万以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂では製膜時の塗布がし易く好ましい。
【0015】
本発明の第8の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第1の態様〜第7の態様のいずれか1の態様に係る微多孔膜において、前記スキン層の厚みが、0.5〜10μmであり、前記支持層の厚みが、20〜500μmである。
このように構成すると、スキン層は非対称膜において不純物を取り除く層(機能層)であるため、球状体を交点とした3次元網目構造の形成を妨げない範囲内であれば、薄いほど濾過抵抗を小さくできるため好ましい。微多孔膜の大部分を占める支持層は、不純物の除去にほとんど寄与しないが、極度に薄いスキン層だけでは破けてしまうため、スキン層よりも十分に厚い支持層によりこれを回避することができる。
【0016】
本発明の第9の態様に係る微多孔膜は、上記本発明の第1の態様〜第8の態様のいずれか1の態様に係る微多孔膜において、前記支持層を支える基材層を備える。
このように構成すると、基材層が補強材となり、より高い濾過圧に耐えられるようになる。また、製膜時の塗布において、素材となる樹脂を溶媒に溶解させた原料液が不用意に流れ出すのを防ぐことができる。特に、粘性の低い原料液の場合に有効である。なお、支持層の一部は基材層と混在した形となり、両者の境界はそれほど明確ではない。支持層と基材層の混在部分が少なすぎると、支持層が基材層から剥離しやすくなる場合がある。
【0017】
本発明の第10の態様に係る微多孔膜の製造方法は、上記本発明の第1の態様〜第8の態様のいずれか1の態様に係る微多孔膜において、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂を良溶媒に溶解した原料液を前記基材層上または支持体上に塗布する塗布工程と;前記塗布工程後、非溶媒中に前記基材層または前記支持体と、塗布した前記原料液を浸ける浸漬工程とを備える。
このように構成すると、非対称膜である微多孔膜であって、スキン層が複数の球状体を有する微多孔膜の製造方法となる。スキン層が有する球状体は、互いに線状の結合材により架橋され、球状体を交点とする3次元網目構造を形成する。球状体がより均一の大きさでより均質に分散しているため、スキン層の微孔が一様に分散し、優れた透過性を有する。
【0018】
本発明の第11の態様に係る微多孔膜の製造方法は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を良溶媒に溶解した原料液を基材層上または支持体上に塗布する塗布工程と;前記塗布工程後、非溶媒中に前記基材層または前記支持体と、塗布した前記原料液を浸ける浸漬工程とを備え;前記原料液の、横軸をせん断速度、縦軸を溶液粘度の逆数としたグラフが、上側に凸を有する弧を含む曲線である。
このように構成すると、スキン層が有する3次元網目構造の形成に適したポリフッ化ビニリデン系樹脂を素材として用いているため、球状体が互いに線状の結合材により架橋され、当該球状体を交点とする3次元網目構造をスキン層に容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の微多孔膜は、スキン層が複数の球状体を有し、前記球状体と、前記球状体を互いに接続する線状の結合材とで、前記球状体を交点とする3次元網目構造を形成するため、粒子阻止率を保ちつつ、より高い透過性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この出願は、日本国で2012年10月2日に出願された特願2012−220784号に基づいており、その内容は本出願の内容として、その一部を形成する。本発明は以下の詳細な説明によりさらに完全に理解できるであろう。本発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明により明らかとなろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実例は、本発明の望ましい実施の形態であり、説明の目的のためにのみ記載されているものである。この詳細な説明から、種々の変更、改変が、本発明の精神と範囲内で、当業者にとって明らかであるからである。出願人は、記載された実施の形態のいずれをも公衆に献上する意図はなく、改変、代替案のうち、特許請求の範囲内に文言上含まれないかもしれないものも、均等論下での発明の一部とする。
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部分には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0023】
本発明の第1の実施の形態に係る微多孔膜について説明する。微多孔膜は、孔径が膜の厚み方向に変化する非対称構造を有し(
図25左参照)、膜の表面付近の層(スキン層)の孔径が最も小さく、裏面に向かうにつれて孔径が大きくなる。表面付近のスキン層が分離特性に必要な孔径を持ち、機能層として機能する。残りの部分は、支持層として機能する層であり、孔径が大きく透過抵抗が小さく、流路と膜強度を保持する。スキン層の厚みは、0.5〜10μm、好ましくは0.5〜5μmであり、支持層の厚みは、20〜500μmである。
【0024】
図1は、第1の実施の形態に係る微多孔膜の表面(スキン層側)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真の一部である。
図1に示すように、スキン層は複数の球状体1を有し、それぞれの球状体1から複数の線状の結合材2が3次元方向に伸びており、互いに隣接する球状体1は、線状の結合材2により接続され、球状体1を交点とした3次元網目構造を形成しており、生じた空隙が孔となっている。そのため、スキン層に孔ができやすく、その孔が変形しにくい。非対称膜は、スキン層と呼ばれる緻密な薄い層を有しており、この層は一般に孔が少ないため、この層に変形しにくい多くの孔を開けることが、透過性を改良するために極めて有効である。第1の実施の形態に係る微多孔膜は、スキン層が有する球状体1とそれらを互いに接続する線状の結合材2により、透過性が大幅に改良されている。そのため、同程度の平均流孔径を有する従来の微多孔膜よりも高い透過性を有することができる。ここで「平均流孔径」とは、ASTM F316−86で求められる値であり、微多孔膜を濾過膜として使う場合、その阻止粒径に大きく影響する。
さらに球状体1は、
図1に示すように、その大きさがほぼ揃っており、ほぼ均一に分散している。そのため、球状体1と球状体1の間に生ずる空隙の形状と大きさが揃ったスキン層を構成する。球状体1間の空隙は、隣接する球状体1を架橋する線状の結合材2により区切られ、その結果として形成された孔は、外周曲線に凹みがない卵型またはほぼ卵型となる。このように、孔の形状が均質の微多孔膜となる。
【0025】
従来のポリフッ化ビニリデン製濾過膜の表面は、本発明でいう「球状体」または「結合材」を有していたとしてもどちらか一方しか有していないため、本発明の効果が得られない。例えば、本発明でいう「結合材」に相当する部分しか持たないポリフッ化ビニリデン製濾過膜は、例え均一に結合していたとしても、濾過膜として使えるだけの強度を維持することが難しくなる。それを防ぐために、「結合材」に相当する部分を太くすると、線状ではなくむしろ面状となり、孔を微細にすることが難しい。
図2は、一例として、そのような構造を持つ、従来のポリフッ化ビニリデン製濾過膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【0026】
本発明の第1の実施の形態に係る微多孔膜のスキン層が有する球状体の平均粒径は、0.05〜0.5μmである。好ましくは0.1〜0.4μm、より好ましくは0.2〜0.3μmである。球状体の粒径は、その多くが平均粒径に近い値をとり、均一な大きさとなる。また、平均粒径は製造された微多孔膜により異なり、上記のとおり値には幅がある。そのため、スキン層に形成される孔の大きさが異なり、平均流孔径の異なる種々の微多孔膜を得ることができる。
球状体の粒径は、微多孔膜のスキン層側表面を球状体が明確に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて写真を撮り、少なくとも50個以上の任意の球状体の粒径を測定し、数平均することにより求めることができる。具体的には、実施例に記載したとおりである。なお「粒径」とは、
図7に示すとおり、球状体の外周をその周囲の孔を含まないような最大直径の真円で囲んだ場合の当該真円の直径である。スキン層が有する孔の形状をより均一にするために、個々の球状体の形状は完全な球体に近いことが好ましく、球状体の大きさはばらつきが少ないことが好ましい。なお、周囲の孔が含まれないような最大直径の円が楕円となった場合は、長径と短径の平均を球状体の粒径とした。
【0027】
球状体の粒径は、度数分布において、平均粒径の±10%幅の範囲に45%以上、さらには50%以上の度数分布を有していることが好ましい。より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。平均粒径の±10%の幅の範囲に45%以上の度数が分布していると、スキン層の球状体はより均一の形状・大きさを有し、球状体と球状体の間に孔径が均一の(揃った)空隙を形成することができる。
【0028】
球状体は、スキン層の表面に均質に分散しているのが好ましい。このために、球状体とその最も近くにある球状体との距離(球状体間の中心間距離)は、度数分布において、平均距離の±30%幅の範囲に50%以上の度数分布を有していることが好ましい。より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上である。平均距離の±30%幅の範囲に50%以上の度数分布を有していると、スキン層の表面に球状体がより均質に分散するため、この場合も球状体と球状体の間に孔径が均一の(揃った)空隙を形成することができる。
【0029】
本発明の第1の実施の形態に係る微多孔膜のスキン層が有する線状の結合材の平均長は、0.05〜0.5μmである。好ましくは0.1〜0.4μm、より好ましくは0.2〜0.3μmである。線状の結合材の長さは、その多くが平均長に近い値をとり、均一な長さとなる。また、平均長は製造された微多孔膜により異なり、上記のとおり値には幅がある。そのため、スキン層に形成される孔の大きさが異なり、平均流孔径の異なる種々の微多孔膜を得ることができる。
線状の結合材の平均長は、微多孔膜のスキン層側表面を線状の結合材が明確に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて写真を撮り、少なくとも100本以上の任意の線状の結合材の長さを測定し、数平均することにより求めることができる。具体的には、実施例に記載したとおりである。「線状の結合材の長さ」とは、
図7に示すとおり、球状体の外周をその周囲の孔を含まないような最大直径の真円で囲んだ場合の当該真円間の距離である。なお、楕円を含む場合は円(真円や楕円)間の距離である。
【0030】
線状の結合材の長さは、度数分布において、平均長の±30%幅の範囲に35%以上、さらには50%以上の度数分布を有していることが好ましい。より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは、60%以上である。平均長±30%の幅の範囲に35%以上の度数が分布していると、スキン層の球状体はより均質に分散され、球状体と球状体の間に孔径が均一の(揃った)空隙を形成することができる。
【0031】
球状体の平均粒径と線状の結合材の平均長の比率は、3:1〜1:3の間にあることが好ましい。球状体の平均粒径が線状の結合材の平均長の3倍より小さいと、微多孔膜のスキン層表面の開口部が大きくなり、高い透過量がより顕著に得られるようになる。また、球状体の平均粒径が結合材の平均長の3分の1より大きいと、1つの球状体に接続できる結合材の数が多くなるので、濾材の脱落が少なく、耐圧性が高いという特徴がより顕著に得られるようになる。
【0032】
本発明の第1の実施の形態に係る微多孔膜の平均流孔径は、0.05〜8μmであり、好ましくは0.05〜0.5μmであり、より好ましくは0.07〜0.25μm、さらには0.1〜0.25μmである。すなわち、微多孔膜を濾過膜として用いた場合、平均流孔径の大きさに応じて径が約0.05〜8μm以上の物質が分離可能となる。平均流孔径は、バブルポイント法(ASTM F316−86)に基づく値である。
【0033】
本発明の第1の実施の形態に係る微多孔膜は、純水透過流束が1.5×10
−9m
3/m
2/Pa/s以上であり、好ましくは30×10
−9m
3/m
2/Pa/s以上、より好ましくは60×10
−9m
3/m
2/Pa/s以上である。純水透過流束が1.5×10
−9m
3/m
2/Pa/s以上であると、十分に膜の通水性が得られ、通水性が十分に得られない場合により高い濾過圧力等が必要になり運転コストが上がるといった問題を回避することができる。なお、純水透過流束は、実施例1に示すとおり、微多孔膜にある濾過圧力で通水させ、単位時間あたりの流量を測定し、その流量を有効濾過面積と濾過圧力で割ることで求めることができる。
【0034】
本発明の第1の実施の形態に係る微多孔膜の素材となる高分子は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(それを主成分(50重量%以上含有)とするものも含まれる)が好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂を挙げることができる。物性(粘度、分子量等)の異なる複数種類のフッ化ビニリデンホモポリマーを含有してもよい。または、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有してもよい。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーならば特に限定されず、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーとの共重合体であり、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のフッ素系モノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。特に好ましくは、フッ化ビニリデンホモポリマー(ポリフッ化ビニリデン)である。なお、必ずしも純粋なポリフッ化ビニリデン系樹脂である必要は無く、他の特性(例えば抗菌性)を付与させるために、本発明の効果を妨げない範囲で、その他のポリマーを混合してもよい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂はフッ素樹脂であるため、機械的、熱的、化学的に安定している。その他の代表的なフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、あるいはテトラフルオロエチレンを主とする共重合樹脂(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体など)などのいわゆる四フッ化系樹脂があるが、四フッ化系樹脂は分子間の絡みが弱いため、機械的強度が低く微多孔膜とした場合に濾過圧力で孔が変形しやすい。また、高温で使用した場合にはさらに孔が変形しやすくなるという欠点がある。これらの点でポリフッ化ビニリデン系樹脂の方が優れている。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、他のフッ素樹脂(例えばPTFE)に比べて加工し易く、加工後の2次加工(例えば切断や他素材との接着)もし易いという利点を有する。
【0035】
上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂のうち特に好ましくは、以下の特徴を有する樹脂である。すなわち、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を良溶媒に溶解した溶液において、溶液粘度(単位cP)の逆数を縦軸、せん断速度(単位1/s)を横軸とするグラフの一部が、2次関数で近似でき、
図8、
図9に示すように、せん断速度の低領域(40/s以下)において、2次関数が上側に凸を有する弧を含む曲線であるポリフッ化ビニリデン系樹脂であることが好ましい。これは、せん断速度の低領域において、溶液の粘度が急激に上がる地点があることを示すものである。
例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂10重量部、ポリエチレングリコール10重量部、ジメチルアセトアミド80重量部の溶液では、溶液粘度の逆数とせん断速度のグラフの一部が示す2次関数の2次係数が、
−10−8より小さくなるようなポリフッ化ビニリデン系樹脂であることが好ましい。
本発明のスキン層は、原料液が非溶媒と接触し、原料液中の溶媒が非溶媒と置換することにより誘起される。上記のような特徴を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いると、置換が進むにつれて原料液の粘度が急速に変化するため、球状体と線状の結合材からなる3次元網目構造が発現すると考えられる。実際に、2次係数が
−10−8より小さくなるポリフッ化ビニリデン系樹脂の原料液から、本願の3次元網目構造が発現することが実施例により確認されている。
【0036】
さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、60万〜120万であり、60万〜100万であることが好ましく、より好ましくは70万〜95万、さらに好ましくは79万〜90万である。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が高いほど、球状体と線状の結合材が生成しやすくなり、3次元網目構造を有するスキン層を備えた微多孔膜を容易に得ることができるようになるので、後述する良溶媒や貧溶媒などの選定幅が広がり、微多孔膜の透過性や膜強度をより上げることが容易になる。また、重量平均分子量を高すぎないようにすることで、原料液の粘度を抑えることができ、均一に塗布しやすくなり、支持層と基材層の混在部分がよりできやすくなるため好ましい。
なお、本発明の効果を妨げない範囲で、他素材との接着性や膜強度を上げるために、この範囲を外れる重量平均分子量のポリフッ化ビニリデンを混合してもよい。
【0037】
ここで「良溶媒」とは、原料液を塗布する温度条件で、必要量のポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解させることが可能な液と定義する。また「非溶媒」とは、塗膜中の良溶媒を非溶媒に置換する温度条件で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。また「貧溶媒」とは、必要量のポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解させることはできないが、それ未満の量を溶解させることができるか、あるいは膨潤させる溶媒と定義する。
【0038】
良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等を挙げることができる。これらの良溶媒は混合して用いてもよく、本発明の効果を妨げない範囲で貧溶媒、非溶媒が含まれていてもよい。製膜を常温で行う場合には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0039】
非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体等が挙げられる。非溶媒は、良溶媒に溶解する必要があり、良溶媒と自由比率で混合するものが好ましい。非溶媒に意図的に良溶媒や貧溶媒を加えてもよい。
良溶媒と非溶媒の置換速度は、本発明の3次元網目構造の発現に影響するため、その組合せも重要である。組合せとしては、3次元網目構造の発現のし易さから、NMP/水、DMAc/水、DMF/水などが好ましく、DMAc/水の組合せが特に好ましい。
【0040】
製膜用の原料液には、素材となるポリフッ化ビニリデン系樹脂とその良溶媒の他に、多孔化を促す多孔化剤を添加してもよい。多孔化剤としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の良溶媒への溶解を阻害せず、非溶媒に溶解し、微多孔膜の多孔化を促す性質を有するものならば、なんら限定されるものではない。その例としては有機物の高分子物質または低分子物質などがあり、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性ポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル(モノ、トリエステル体等)等の多価アルコールのエステル体、ソルビタン脂肪酸エステルのエチレンオキサイド低モル付加物、ノニルフェノールのエチレンオキサイド低モル付加物、プルロニック型エチレンオキサイド低モル付加物等のエチレンオキサイド低モル付加物、ポリオキシエチレンアルキルエステル、アルキルアミン塩、ポリアクリル酸ソーダ等の界面活性剤、グリセリンなどの多価アルコール類、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール類を挙げることができる。これらは1種類で用いても2種類以上の混合物で用いてもよい。これらの多孔化剤は、重量平均分子量50,000以下のものが好ましく、より好ましくは30,000以下であり、さらに好ましくは10,000以下である。これよりも分子量の大きなものは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液へ均一に溶解しにくいため好ましくない場合がある。この多孔化剤は、非溶媒中で良溶媒が抽出され構造凝集が起こる時に良溶媒に比べて比較的長時間多孔質樹脂中に残留する。そのため、膜構造に大きく影響する。非溶媒に水を用いる場合の多孔化剤としては、これらの機能を発揮しやすく、球状体と線状の結合材からなる3次元網目構造を発現しやすいことから、適度な粘性を持つ水溶性の液が好ましい。より好ましくはポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンであり、特にポリエチレングリコールが好ましい。その重量平均分子量が200〜1000であるものがさらに好ましい。重量平均分子量を200〜1000とすることで、特に構造が発現しやすくなる。また、重量平均分子量を1000以下とすることで、構造発現後に多孔化剤を除去することが容易となる。
【0041】
多孔化剤を用いると、良溶媒抽出に伴う構造凝集が緩やかになってから、多孔化剤が抽出されるので、得られた多孔質樹脂は空孔性が高いものになる。得られる構造は、多孔化剤の種類、分子量、添加量等に依存する。多孔化剤の添加量が少ないとこのような効果は得にくくなるが、添加量が多いと支持層に生じるマクロボイドが大きくなり膜強度が低下する場合もある。したがって、多孔化剤は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂重量に対して0.1倍〜2倍量を添加することが好ましく、0.5倍〜1.5倍量とすればさらに好ましい。
【0042】
本発明の第2の実施の形態に係る微多孔膜の製造方法は、以下のとおりである。なお、
図3は、製造方法の大まかな流れを示している。
(1)原料液の調製工程(S01):
まず、微多孔膜の素材となる高分子を高分子に対して良溶媒となる溶媒に溶解して原料液を作る。具体的には、例えば、5〜20重量部の素材としてのポリフッ化ビニリデンと、素材重量に対して0.1倍〜2倍量の多孔化剤としてのポリエチレングリコールを、70〜90重量部のジメチルアセトアミド(DMAc)に常温〜100℃で溶解した後、常温に戻して原料液を作る。
(2)多孔化工程(S02):
次に、ガラス板やステンレス板などの平滑な塗布台の上に基材層としての不織布を置き、その上に原料液を塗布する。なお、不織布等を置かず、ガラス板等を支持体としてそれらの上に直接塗布してもよく、その場合は基材層が無い微多孔膜となる。また、塗布は、製膜後の厚さが約10〜500μmとなるように行うことが好ましい。塗布後、直ちにまたは一定時間放置した後、素材の高分子に対しての非溶媒に3分〜12時間浸ける。塗布後の放置時間を設ける場合は、5〜60秒程度が好ましい。放置時間を長く取ると平均流孔径が大きくなるが、長く取りすぎるとピンホールが生じて本発明の効果が十分に得られないことがある。良溶媒と非溶媒とが混合し、非溶媒の混入により良溶媒中の高分子の溶解性が低下し、高分子が析出し多孔化が生ずる(非溶媒誘起相分離法(NIPS))。
具体的には、例えばガラス板上にポリエステル不織布を置き、原料液を塗布する。塗布には、ベーカーアプリケータ、バーコーター、Tダイなどを用いることができる。非溶媒に浸けた後、塗布台(支持体)としてのガラス板を除去し、微多孔膜を得る。
(3)洗浄・乾燥工程(S03):
最後に、得られた微多孔膜を、水を数回入れ替えて洗浄する。一般にDMAcは水よりも蒸発しにくいため、洗浄が不完全だと溶媒(DMAc)が濃縮し、作られた孔構造が再び溶解することがあるため、複数回の洗浄が好ましい。排水量を減らし、洗浄速度を早めるために、洗浄に温水を用いてもよいし、超音波式洗浄機を用いてもよい。洗浄した後、微多孔膜を乾燥してもよい。乾燥は、自然乾燥でもよいし、乾燥速度を速めるために、熱風式乾燥機や遠赤外乾燥機を用いてもよいし、乾燥時の微多孔膜の収縮やうねりを防ぐため、ピンテンター式乾燥機としてもよい。
【0043】
多孔化工程(S02)のとおり、製膜時には基材層を備えてもよい。基材層を備えると、浸漬時にポリマーの収縮が抑制されるため、基材層を備えない場合と比較して十分な空隙を有するスキン層を得ることができる。または、原料液の塗布の際に原料液が不用意に流れ出すのを防ぐこともできる。これは、特に粘性の低い原料液の場合に有効である。さらに、基材層は濾過の際の補強材として機能し、膜がより濾過圧に耐えられるようになる。基材層としては、抄紙、スパンボンド法やメルトブロー法などで得られた不織布、織布、多孔質板などを用いることができ、その素材にはポリエステル、ポリオレフィン、セラミック、セルロースなどを用いることができる。中でも、柔軟性、軽量性、強度、耐熱性などのバランスに優れることから、ポリエステル製スパンボンド不織布が好ましい。なお、不織布を用いる場合、その目付は15〜150g/m
2の範囲が好ましく、30〜70g/m
2の範囲がさらに好ましい。目付が15g/m
2を上回ると、基材層を設けた効果が十分に得られる。また、目付が150g/m
2を下回ると、折り曲げや熱接着などの後加工がし易くなる。
【0044】
以上のとおり、本発明の微多孔膜は、スキン層が均質の球状体と線状の結合材による3次元網目構造を有するため、スキン層の孔の大きさや孔径が揃っており、高い透過性(例えば高通水性、高通液性)を実現することができる。すなわち、孔の大きさや形がより均一であるため、孔径分布のより狭い膜となり、粒子阻止率を保ちつつ従来にない透過性を得ることができる。さらに、膜材料としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いているため、優れた耐薬品性、高い耐熱温度(〜120℃)を有することができる。なお、本発明の微多孔膜は、平膜であっても、中空糸膜であってもよい。本発明の微多孔膜を平膜とした場合には、一般の平膜と比べて、膜の目詰まりを表面洗浄しやすいという利点がある。また、本発明の微多孔膜を中空糸膜とした場合には、一般の中空糸膜と比べて逆洗の効果が出やすいという利点がある。
本発明の微多孔膜は、濾過膜以外に、絆創膏などに使う薬液保持材、衛生材料の表面材、バッテリーセパレータ、表面積が大きく構成要素の脱落が無いPVDFシート等といった用途にも用いることもできる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例等を参照して本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの記載により本発明の範囲が限定されることはない。
【0046】
〔使用した部材等〕
ポリエチレングリコール600(重量平均分子量600)には和光純薬工業(株)製の試薬1級を、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量4万)には和光純薬工業(株)製の試薬特級を、ジメチルアセトアミドには和光純薬工業(株)製の試薬特級を、N−メチル−2−ピロリドンには和光純薬工業(株)製の試薬特級をそのまま用いた。
ポリフッ化ビニリデンにはアルケマ製ポリフッ化ビニリデン「カイナーHSV900」(重量平均分子量80万、数平均分子量54万)、「カイナーHSV800」(重量平均分子量80万、数平均分子量44万)、「カイナーHSV500」(重量平均分子量89万、数平均分子量36万)、「カイナー741」(重量平均分子量49万、数平均分子量24万)、「カイナー761A」(重量平均分子量78万、数平均分子量38万)、(株)クレハ製ポリフッ化ビニリデン「W#7200」(重量平均分子量112万、数平均分子量51万)を用いた。
基材層としてのポリエステル不織布には、ユニチカ製スパンボンド不織布(目付50g/m
2)または日本バイリーン製H1007(目付70g/m
2)を用いた。
ガラス板は、大きさ20cm×20cmのものを用いた。
水は、ミリポア製「DirectQ UV」(商品名)で製造した比抵抗値18MΩ・cm以上の超純水を用いた。
【0047】
〔評価方法〕
実施例および比較例で得られた微多孔膜の物性値は下記の方法にて測定した。
1)ポリマーの平均分子量
数平均分子量、重量平均分子量は、ポリマーをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、カラムとしてShodex Asahipak KF−805Lを用いて、DMFを展開剤としてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。
2)スキン層の厚み、支持層の厚み
図6に示すとおり、得られた微多孔膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で写真撮影し、この写真を画像解析して、表面からマクロボイドが発生するまでの長さを「スキン層の厚み」、微多孔膜全体の厚みからスキン層の厚みを引いた値を「支持層の厚み」とした。
3)平均流孔径
平均流孔径は、PMI社製「Capillary Flow Porometer CFP−1200AEX」を用い、ASTM F316−86に準じて求めた。
4)流束
得られた微多孔膜を直径25mmに切り取り、有効濾過面積3.5cm
2のフィルターシートホルダーにセットし、濾過圧力50kPaで加圧して超純水を5mL通水させ、通水に要する時間を測定した。流束を下記式(1)により求めた。
流束(10
−9m
3/m
2/Pa/sec)=通水量(m
3)÷有効濾過面積(m
2)÷濾過圧力(Pa)÷時間(sec) ・・・(1)
5)球状体の数、平均粒径、度数分布
微多孔膜のスキン層表面を、走査型電子顕微鏡で、倍率2万倍で写真撮影した。そして、
図7に示すとおり、写真中央の縦4μm×横6μmの領域に中心部を有する球状体について、球状体の外周を、その周囲の孔が含まれないような最大直径の真円や楕円で囲み、その真円や楕円の直径(楕円の場合は長径と短径の平均)を球状体の粒径とした。ただし、接続する線状の結合材の数が3以下のものは、線状の結合材との区別が難しいため、球状体とはみなさなかった。そして、該領域に含まれる全球状体の直径の平均値を、平均粒径とした。また、全球状体の中から、平均粒径の±10%の幅の範囲に含まれる粒子を数え、その数を球状体の全粒子数で割って、度数分布を求めた。
6)球状体間の中心間距離、平均距離、度数分布
5)で描いた円に対し、その円に最も近い位置にある別の円との中心間距離をそれぞれ求めた。その中心間距離の平均値を、平均距離とした。また、それぞれの中心間距離の中から、平均距離の±30%の幅の範囲に含まれるものを数え、その数を球状体の全粒子数で割って、度数分布を求めた。
7)結合材の数、平均長、度数分布
図7に示すとおり、該領域に含まれる球状体の間にある全ての結合材(ただし2つの球状体が複数の結合材で結ばれている場合にはその内の1本のみ)の数と長さを測定し、全結合材の数と平均長を求めた。また、その中から、その平均長の±30%の幅の範囲に含まれる結合材の数を数え、その数を全結合材の数で割って、度数分布を求めた。
8)2次係数
Brookfield社製B型回転粘度計DV−II+Proを用いて、せん断速度を変えながら25℃における溶液粘度を測定し、溶液粘度(単位cP)の逆数に対するせん断速度(単位1/s)を2次関数(Y=aX
2+bX+c)で相関させた際の2次係数(a、単位(1/s)
−2)を求めた。
【0048】
[実施例1]
〔原料液の調製工程〕
ジメチルアセトアミド80重量部に対し、ポリフッ化ビニリデン「カイナーHSV900(重量平均分子量80万)」を10重量部、ポリエチレングリコール10重量部を混合し、90℃で溶解した。それを常温に戻して原料液とした。
〔多孔化工程〕
ガラス板上に、基材層としてのユニチカ製スパンボンド不織布を置き、その上に原料液を、ベーカーアプリケータを使って厚さ250μmで塗布した。塗布後、直ちに超純水に入れ、膜を多孔化した。超純水を数回入れ替えて洗浄し、その膜を水から出し、乾燥して微多孔膜とした。
[実施例2]
基材層に日本バイリーン製H1007を用いた他は、全て実施例1と同じ方法で微多孔膜を得た。
[実施例3]
ジメチルアセトアミドの代わりにN−メチル−2−ピロリドンを用いた他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
[実施例4]
ポリエチレングリコールの代わりにポリビニルピロリドン(重量平均分子量4万)を用いた他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
[実施例5]
ジメチルアセトアミドの代わりにN−メチル−2−ピロリドンを用いた他は、全て実施例4と同じ方法で微多孔膜を得た。
[実施例6]
N−メチル−2−ピロリドン90重量部に対し、「カイナーHSV900」10重量部を混合し、90℃で溶解した。それを常温に戻して原料液とした他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
[実施例7]
N−メチル−2−ピロリドンの代わりにジメチルアセトアミドを用いた他は、全て実施例6と同じ方法で微多孔膜を得た。
[実施例8]
ポリフッ化ビニリデンに「カイナーHSV800(重量平均分子量80万)」を用いた他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
【0049】
[比較例1]
ポリフッ化ビニリデンに「カイナー741(重量平均分子量49万)」を用いた他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
[比較例2]
ポリフッ化ビニリデンに「カイナー761A(重量平均分子量78万)を用いた他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
[比較例3]
ポリフッ化ビニリデンに「W#7200(重量平均分子量112万)」を用いた他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
[比較例4]
ポリフッ化ビニリデンに「カイナーHSV500(重量平均分子量88万)」を用いた他は、全て実施例2と同じ方法で微多孔膜を得た。
【0050】
図4と
図5を比較して分かるように、実施例1の微多孔膜のスキン層は球状体と線状の結合材からなる3次元網目構造を構成している。しかし、比較例1の微多孔膜のスキン層は球状体と線状の結合材からは構成されておらず、3次元網目構造を有していない。
表1に示すように、実施例1は比較例1と比べて平均流孔径が若干小さいにも関わらず、むしろ流束は非常に高くなっている。
さらに、実施例と比較例について同程度の平均流孔径を有するものどうし(例えば、実施例1と比較例2、実施例2と比較例3、実施例3と比較例4、実施例8と比較例1など)の流速を比較すると、実施例の微多孔膜の流速は比較例に比べて非常に高くなっている。
【表1】
【0051】
図8〜
図12に、実施例1、2、8、比較例2、3、4の原料液について、溶液粘度(単位cP)の逆数とせん断速度(単位1/s)を2次関数で相関させた際のグラフを示す。本願の3次元網目構造が発現した実施例1、2、8の原料液は、せん断速度の低領域において、上側に凸を有する明確な弧を含む曲線を描いた。すなわち、せん断速度40/s以下の領域において、急激に粘度が上がるといった特徴を示した。具体的には、2次係数aが
−10−8よりも小さい値である原料液から作られた膜に本願の3次元網目構造が発現した。一方で、本願の3次元網目構造が発現しなかった比較例2、3、4の原料液では、2次係数aは
−10−8よりも遥かに大きい値であった。
なお、実施例1、2、8、比較例2、3、4の原料液は、全てポリフッ化ビニリデン10重量部、ジメチルアセトアミド80重量部、ポリエチレングリコール10重量部を含んだものである。実施例3の原料液は、ポリフッ化ビニリデン10重量部、N−メチル−2−ピロリドン80重量部、ポリエチレングリコール10重量部を含んだものである。したがって、実施例1等と比較することはできないが、2次係数は−3.28×10
−7を示し、上側に凸を有する明確な弧を含む曲線を描くこと、すなわち、せん断速度40/s以下の領域において急激に粘度が上がる地点を有することが容易に予想される。実際に実施例3の原料液から作られた膜にも本願の3次元網目構造は発現した。実施例4〜7についても同様である。
【0052】
表1の「○」は、球状体を有する3次元網目構造が発現したことを示す。「×」は、球状体を有する3次元網目構造が発現しなかったことを示す。
参考として
図13〜
図24に、実施例1〜8、比較例1〜4の微多孔膜が有するスキン層の表面写真を示す。実施例1〜8の微多孔膜においては、隣接する球状体が線状の結合材により互いに接続され、球状体を交点とした3次元網目構造を形成しているのがわかる。一方で、比較例1〜4の微多孔膜においては、球状体が形成されていない、または球状体と線状の結合材が明確に区別できるものではなかった。
【0053】
解析の一例として、表2〜3に、実施例1の微多孔膜の走査型電子顕微鏡写真から求めた球状体1の粒径(真円直径)を示す。
【表2】
【表3】
【0054】
表4に実施例1の球状体の粒径の特徴を示す。実施例1の微多孔膜が有するスキン層は、球状体の平均粒径が0.190μmである。さらに、球状体の62%にあたる112個の球状体は、その粒径が平均粒径の±10%の範囲内に入るものである。
【表4】
表5に球状体の粒径の度数分布表を示す。粒径は、幅0.05μm(0.15〜0.20μm)内に集中しており、球状体が均一の粒径を有していることがわかる。
【表5】
【0055】
表6〜10に、実施例1の微多孔膜の走査型電子顕微鏡写真から求めた線状の結合材2の長さ(真円間の長さ)を示す。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0056】
表11に実施例1の線状の結合材の特徴を示す。実施例1の微多孔膜が有するスキン層は、線状の結合材の平均長が0.219μmである。さらに、結合材の61%にあたる259本の結合材は、その長さが平均長の±30%の範囲内に入っている。
【表11】
表12に線状の結合材の長さの度数分布表を示す。度数分布は、0.20〜0.25μmの範囲がピークとなるように増加減少しており、結合材の長さが特定の範囲に集中しているのがわかる。
【表12】
表13に実施例1〜8について、球状体の平均粒径、球状体間の中心間距離の平均距離、結合材の平均長を示す。
【表13】
【0057】
本発明の説明に関連して(特に以下の請求項に関連して)用いられる名詞および同様な指示語の使用は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、単数および複数の両方に及ぶものと解釈される。語句「備える」、「有する」、「含む」および「包含する」は、特に断りのない限り、オープンエンドターム(すなわち「〜を含むが限定しない」という意味)として解釈される。本明細書中の数値範囲の具陳は、本明細書中で特に指摘しない限り、単にその範囲内に該当する各値を個々に言及するための略記法としての役割を果たすことだけを意図しており、各値は、本明細書中で個々に列挙されたかのように、明細書に組み込まれる。本明細書中で説明されるすべての方法は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、あらゆる適切な順番で行うことができる。本明細書中で使用するあらゆる例または例示的な言い回し(例えば「など」)は、特に主張しない限り、単に本発明をよりよく説明することだけを意図し、本発明の範囲に対する制限を設けるものではない。明細書中のいかなる言い回しも、本発明の実施に不可欠である、請求項に記載されていない要素を示すものとは解釈されないものとする。
【0058】
本明細書中では、本発明を実施するため本発明者が知っている最良の形態を含め、本発明の好ましい実施の形態について説明している。当業者にとっては、上記説明を読んだ上で、これらの好ましい実施の形態の変形が明らかとなろう。本発明者は、熟練者が適宜このような変形を適用することを期待しており、本明細書中で具体的に説明される以外の方法で本発明が実施されることを予定している。従って本発明は、準拠法で許されているように、本明細書に添付された請求項に記載の内容の修正および均等物をすべて含む。さらに、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、すべての変形における上記要素のいずれの組み合わせも本発明に包含される。