【文献】
古賀健一他,時分割多重を用いる単一受信機によるアダプティプアレーのアナログ回路削減に関する検討,電子情報通信学会技術研究報告. A・P, アンテナ・伝播,2011年 9月11日,Vol.111, No.220,p.7-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のアンテナの特定の1つをスイッチによって選択的に受信回路に接続することにより、複数の前記アンテナで1つの前記受信回路を共用し、前記スイッチによる時分割多重によって電波を受信する時分割多重アダプティブアレーアンテナの信号処理装置において、
前記スイッチのON時間を長くとることにより、前記スイッチの切り換えによる電力損失を抑制し、この処理によって各アンテナの受信信号が混ざり合ってしまっても、この重畳信号に演算を施すことによって、当該重畳信号を各アンテナの受信信号に分離する
ことを特徴とする時分割多重アダプティブアレーアンテナの信号処理装置。
前記受信回路のバンドパスフィルタの帯域幅は、前記アンテナのそれぞれに設けられたバンドパスフィルタの帯域幅ではなく、前記スイッチの切換周波数に係数を乗算した値に設定されている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の時分割多重アダプティブアレーアンテナの信号処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を例えば車両やその電子キーの受信機等に具体化した時分割多重アダプティブアレーアンテナの信号処理装置の一実施形態を
図1〜
図11に従って説明する。
図1に示すように、アダプティブアレーアンテナ1は、複数のアンテナ(アンテナ素子)2を備え、各アンテナ2の重み付けを伝播環境に応じてアダプティブ制御することにより、指向性を電気的に切り換え可能である。アダプティブアレーアンテナ1は、目的の希望波の到来方向に指向性を向けたり、不要な電波の到来方向にヌル点を向けて除去したりすることが可能である。また、本例のアダプティブアレーアンテナ1は、信号を時間単位で区切り、1つの伝送路で通信する時分割多重式でもある。
【0017】
この時分割多重アダプティブアレーアンテナ1において、アンテナ2の個数をK(Kは任意の奇数)とすると、k番目のアンテナ2の受信信号は、次式(1)のように表される。
【0018】
【数1】
ここで、f
k(t)は、k番目のアンテナ2における受信ベースバンド信号である。また、cos(ω
ct)は、搬送波を表し、ω
cは、搬送波の角周波数を表す。
【0019】
各アンテナ2には、通過帯域幅がWの第1バンドパスフィルタ3が各々接続されている。これら第1バンドパスフィルタ3は、アンテナ2で受信した受信信号f
k(t) cos(ω
ct)を通過帯域幅Wでフィルタし、Wに準じた周波数のみを通過させる。本例の時分割多重アダプティブアレーアンテナ1では、各アンテナ2に必要とされるのは第1バンドパスフィルタ3のみであり、その他の回路ブロック、つまりアナログ回路からなる受信回路4は複数のアンテナ2で共用されている。
【0020】
受信ベースバンド信号f
k(t)の周波数帯域幅W”は、第1バンドパスフィルタ3の通過帯域幅Wよりも小さい。よって、受信信号f
k(t) cos(ω
ct)は、第1バンドパスフィルタ3をそのまま通過する。
【0021】
複数のこれら第1バンドパスフィルタ3には、第1バンドパスフィルタ3の接続を選択的に切り換えるスイッチ回路5が接続されている。スイッチ回路5は、受信回路4の1構成要素であって、第1バンドパスフィルタ3ごとにスイッチ6を複数有する。これらスイッチ6は、クロック回路7から入力するスイッチ制御信号g
k(t)にてスイッチ制御される。
【0022】
ここで、
図2及び
図3に示すように、k番目のスイッチ6を、矩形波状のON時間τ、周期T
sで切り換えを行うとすると、スイッチ制御信号g
k(t)は、次式(2)により表される。なお、次式のrは、任意の整数である。
【0023】
【数2】
ここで、スイッチ切換周波数をW’(W’=1/T
s)とすると、スイッチ切換周期T
sは、W’>Wを満たすように適切に設定する必要がある。式(2)は、フーリエ級数展開の形式により、次式(3)〜(5)のように表すことが可能である。なお、次式のnは、スイッチ切換周波数W’のn倍高調波成分を表す整数であり、Ψは、スイッチ6のON時間比率である。
【0026】
【数5】
各アンテナ2の受信信号f
k(t) cos(jω
ct)は、スイッチ通過時にスイッチ制御信号g
k(t)を乗算された後、K個のアンテナ2からの信号が合成される。この合成信号h(t)は、次式(6)のように表される。
【0027】
【数6】
受信回路4には、周波数帯域幅がKW’の第2バンドパスフィルタ8が設けられている。第2バンドパスフィルタ8は、1つのみ設けられ、複数のスイッチ6において共用されている。本例の場合、第2バンドパスフィルタ8は、
図7に示すように、理想的な周波数特性B(ω)を有するフィルタとする。
【0028】
合成信号h(t)は、第2バンドパスフィルタ8を通過すると、出力信号h’(t)として出力される。出力信号h’(t)は、次式(7),(8)のように表される。
【0030】
【数8】
ここで、第2バンドパスフィルタ8の出力信号h’(t)が式(7)で表される理由について、各信号の周波数スペクトルを確認しながら考察する。まず、第1バンドパスフィルタ3の出力である受信信号f
k(t) cos(ω
ct)の振幅スペクトル|F
k(ω−ω
c)|は、
図4のように表される。また、スイッチ制御信号g
k(t)の振幅スペクトル|G
k(ω)|は、
図5に示すように、sinc関数を包絡線とする線スペクトルである。合成信号h(t)は、受信信号f
k(t) cos(ω
ct)とスイッチ制御信号g
k(t)との積からなる。このため、合成信号h(t)の振幅スペクトル|H(ω)|は、F
k(ω−ω
c),G
k(ω)の畳み込みとして、
図6のように表される。
【0031】
そして、合成信号h(t)が周波数特性B(ω)の第2バンドパスフィルタ8を通過すると、これが出力信号h’(t)となり、その振幅スペクトル|H’(ω)|は、
図7で表される。振幅スペクトル|H’(ω)|は、
図5に示すG’
k(ω)と、
図4に示すF
k(ω−ω
c)とが畳み込まれた形となっている。なお、G’
k(ω)は、G
k(ω)のうち、中央のK本のみを有するスペクトルに相当する。従って、|H’(ω)|の時間領域信号であるh’(t)は、G’
k(ω)の時間領域信号であるg’
k(t)と、F
k(ω−ω
c)の時間領域信号であるf
k(t) cos(ω
ct)との積で表されることが分かり、出力信号h’(t)が式(7)で表されることが確認される。
【0032】
受信回路4には、出力信号h’(t)を増幅するアンプ9と、増幅後の出力信号h’(t)をIF(Intermediate Frequency)周波数にダウンコンバートするコンバータ10と、IF周波数の信号を通過させるIFバンドパスフィルタ11と、IF周波数を直交ダウンコンバートする一対のコンバータ12,12とが設けられている。各コンバータ12,12には、各コンバータ12,12からの出力をフィルタリングするローパスフィルタ13,13が接続されている。各ローパスフィルタ13,13には、フィルタリングされた信号をA/D変換するA/Dコンバータ14,14が各々接続されている。
【0033】
A/Dコンバータ14が出力するベースバンド信号h”(t)は、アンプの増幅やフィルタの損失を無視すれば、次式(9)のように表される。
【0034】
【数9】
ベースバンド信号h”(t)は、A/Dコンバータ14において、周期T
sでサンプリングされる。このサンプリング信号z
i(t)は、次式(10)のように表される。
【0035】
【数10】
図8に示すように、サンプリング信号z
i(t)は、それぞれT
s/Kずつタイミングのずれた信号である。実際には、A/Dコンバータ14は、次式(11)で表されるz(t)でサンプリングを行う。
【0036】
【数11】
さて、ベースバンド信号h”(t)をサンプル出力部15においてサンプリング信号z
i(t)でサンプルしたサンプル信号x
i(t)は、次式(12),(13)のように表される。
【0038】
【数13】
サンプル信号x
i(t)は、式(13)からも分かる通り、各アンテナ2の受信ベースバンド信号f
k(t)が混在された形で得られる。ここで、一見、スイッチ6のON時間τを、τ<(T
s/K)とすれば、2つのスイッチが同時に接続されることはなく、受信ベースバンド信号f
k(t)の混合は生じないように思われるが、実際にはフィルタを通過する際の波形なまりにより、受信ベースバンド信号f
k(t)の混合が生じてしまう。ところで、通常のアダプティブアレーアンテナでは、受信ベースバンド信号f
k(t)は、それぞれ別々に得られる信号である。従って、ここからは、サンプル信号x
i(t)から受信ベースバンド信号f
k(t)を分離抽出する方法について述べる。
【0039】
サンプル信号x
i(t)が式(13)のままでは、受信ベースバンド信号f
k(t)を分離抽出することが困難である。そこで、式(13)の式変形を行うために、サンプル信号x
i(t)のフーリエ変換X
i(ω)を導出する。ここで、f
k(t),g’
k(t)のフーリエ変換を、それぞれ次式(14),(15)のように定義する。
【0041】
【数15】
すると、ベースバンド信号h”(t)のフーリエ変換H”(ω)は、次式(16)のように表される。なお、次式において「*」は畳み込み積分を示す。
【0042】
【数16】
また、サンプリング信号z
i(t)のフーリエ変換Z
i(ω)は、次式(17)のように表される。
【0043】
【数17】
従って、サンプル信号x
i(t)のフーリエ変換X
i(ω)は、式(12),(16),(17)により、次式(18)のように表される。
【0044】
【数18】
ここで、受信ベースバンド信号f
k(t)の周波数帯域幅W”は、W”<Wを満たすため、次式(19)が成り立つ。
【0045】
【数19】
また、p,nは、整数であるので、フーリエ変換X
i(ω)は、周期2π/T
sの周期関数である。よって、フーリエ変換X
i(ω)の−π/T
s<ω<π/T
sの範囲のみを表す関数をフーリエ変換X’
i(ω)とすると、p≠nの場合については考える必要がないので、式(18)にp=nを代入することにより、次式(20)が得られる。
【0046】
【数20】
フーリエ変換X
i(ω)は、X’
i(ω)が周期2π/T
s間隔で並んだ関数であるので、次式(21)が成立する。
【0047】
【数21】
よって、X
i(ω)の逆フーリエ変換であるサンプル信号x
i(t)は、式(20),(21)によって次式(22)のように表される。
【0048】
【数22】
ここで、f
k(Δt)は、各アンテナ2の受信ベースバンド信号f
k(t)を周期T
sでサンプリングした受信ベースバンド信号である。以上の検討により、サンプル信号x
i(t)を式(13)の形式から式(22)の形式に変形できたが、依然として受信ベースバンド信号f
k(Δt)が混合された状態である。そこで、続いては、式(22)を行列形式で表すことを試みる。
【0049】
式(22)を行列形式で表現すると、次式(23)〜(27)のように表される。なお、式(23)のF(Δt)は、ベクトルF(Δt)である。
【0054】
【数27】
よって、サンプル信号x
i(t)を要素とするベクトルをX(t)と定義すると、ベクトルX(t)は、次式(28)〜(31)の形式で表される。
【0058】
【数31】
以上により、サンプル信号x
i(t)を式(22)の形式から式(28)の形式に変形することができた。ここで、式(28)を見れば、ベクトルX(t)からベクトルF(Δt)を抽出する方法は明らかである。式(28)の両辺に左から行列Aを乗算すると、次式(32)〜(34)が成立する。
【0061】
【数34】
以上の検討により、A/Dコンバータ14でサンプリングされたベクトルX(t)に対して、行列Φを乗算することで、各アンテナ2の受信ベースバンド信号f
k(t)をサンプルしたベクトルF(Δt)を抽出可能であることが確認できた。よって、本例は、この原理を用いて、サンプル信号x
i(t)から受信ベースバンド信号f
k(t)を分離抽出する。
【0062】
図1に示すように、アダプティブアレーアンテナ1には、式(32)〜(34)を使用してサンプル信号x
i(t)から受信ベースバンド信号f
k(t)を分離抽出する演算処理部16が設けられている。本例の演算処理部16は、サンプル信号x
i(t)を入力すると、式(32)〜(34)の行列式を用いて演算を行うことにより、サンプル信号x
i(t)から受信ベースバンド信号f
k(t)を分離し、アンテナ2ごとにI相信号及びQ相信号を出力する。
【0063】
アダプティブアレーアンテナ1には、電波到来方向を演算してアダプティブアレーアンテナ1の機能(動作状態)を設定するアダプティブプロセッサ17が設けられている。アダプティブプロセッサ17は、演算処理部16から入力したアンテナ2ごとのI相信号及びQ相信号を基に、希望波や不要な電波の電波到来方向を算出し、アダプティブアレーアンテナ1の機能を設定する。
【0064】
次に、本例のアダプティブアレーアンテナ1の作用を、
図1を用いて説明する。
アダプティブプロセッサ17は、クロック回路7から出力するスイッチ制御信号g
k(t)にてスイッチ6を順にオンしていく。このとき、スイッチ6のオン順に、アンテナ2の受信電波が取り込まれ、これら受信電波が合成信号h(t)して第2バンドパスフィルタ8に送出され、第2バンドパスフィルタ8で出力信号h’(t)として出力される。出力信号h’(t)は、アンプ9で増幅され、IFバンドパスフィルタ11でIF周波数にダウンコンバートされ、一対のコンバータ12,12で直交ダウンコンバートされ、各ローパスフィルタ13,13に通される。
【0065】
ローパスフィルタ13,13を通過したベースバンド信号h”(t)は、A/Dコンバータ14,14にて周期T
sでサンプリングされ、サンプリング信号z
i(t)として出力される。そして、サンプル出力部15は、ベースバンド信号h”(t)をサンプリング信号z
i(t)でサンプルしたサンプル信号x
i(t)を演算処理部16に出力する。
【0066】
ところで、実際には、フィルタを通過する際の波形なまりを原因として、サンプル信号x
i(t)には受信ベースバンド信号f
k(t)の混合が発生している。よって、演算処理部16は、サンプル信号x
i(t)に行列Φを乗算することにより、サンプル信号x
i(t)から各アンテナ2,2…の受信ベースバンド信号f
k(t)を抽出する。即ち、サンプル信号x
i(t)に行列Φを乗算する演算を実施することにより、サンプル信号x
i(t)に含まれる各アンテナ2,2…の受信ベースバンド信号f
k(t)を分離する。そして、アダプティブプロセッサ17は、各々分離された受信ベースバンド信号f
k(t)を基に、電波到来方向等を算出する。
【0067】
ここからは、スイッチ制御信号g
k(t)のON時間(パルス幅)τにより、A/Dコンバータ14でサンプリングされたサンプル信号x
i(t)に含まれる受信ベースバンド信号f
k(Δt)がどのように変化するのかを考える。いま、スイッチ6のON時間τが非常に短い、つまりτ≒0の場合を考える。このとき、Ψ=τ/T
s≒0となるので、sinc{nπΨ}≒1により、行列S≒1が導かれる。よって、式(29)は、次式(35)のように表される。
【0068】
【数35】
よって、τが非常に小さい場合には、サンプル信号であるベクトルX(t)、つまりサンプル信号x
i(t)を要素とするベクトルは、各アンテナ2の受信ベースバンド信号f
k(t) のベクトルF(Δt)のスカラー倍となる。即ち、サンプル信号x
i(t)は、それぞれ1種類の受信ベースバンド信号f
k(Δt)のみを含み、混合された状態ではないことが分かる。
【0069】
ちなみに、背景技術に記載した特許文献1は、スイッチ制御信号g
k(t)がデルタ関数であり、本検討におけるτ≒0の場合に相当する。即ち、特許文献1では、サンプル信号のベクトルX(t)において、ベクトルF(Δt)が混合された状態とならないように、あえてτ≒0としていると考えられる。
【0070】
しかし、式(35)を見てみると、ベクトルX(t)に含まれるベクトルF(Δt)の大きさは、τに比例することが分かる。このことから、スイッチ6の切り換えによる電力損失を抑制するには、τをなるべく大きくすること、つまりスイッチ6が常にいずれかのアンテナ2に接続されていることが望ましいと予測される。このため、本例のアダプティブプロセッサ17は、スイッチ制御信号g
k(t)のON時間τを、次信号のτと重複しない範囲で、なるべく長く設定している。このように、ON時間τ(或いはON時間比率Ψ)を任意に設定可能な点で、本例は有効であると考えられる。
【0071】
次に、本例のアダプティブアレーアンテナ1の計算機シミュレーションによる評価結果を、
図9〜
図11を用いて説明する。
ここでは、従来機の演算法をC-TDM-AAAと示し、本願の提案法をM-TDM-AAA (Modified Time-Division Multiplexing Adaptive Array Antenna)と示す。なお、C-TDM-AAAの回路構成は、基本的に
図1と同様であるが、演算処理部16における各アンテナ2の受信ベースバンド信号f
k(t) の抽出操作は行わないシステムとする。
【0072】
また、アダプティブアレーアルゴリズムとしてはPI(Power Inversion)アルゴリズムを用い、最適ウェイトの決定法としてはSMI(Sample Matrix Inversion)アルゴリズムを採用する。さらに、アンテナ素子数Kを7とし、アレー形状を等間隔リニアアレーとし、アレー素子間隔を0.5波長とする。また、妨害波到来角度を−60°(ボアサイト方向=0°)とし、妨害波の種類をsin波とし、INRを40dB、60dB又は80dBのいずれかとし、ON時間比率Ψを1/210〜1/7とする。
【0073】
まず、
図9を用い、M-TDM-AAAの指向性ヌルの形成精度を確認する。
図9は、PIアルゴリズムにより形成されたΨ=1/7(スイッチ6が常にいずれかのアンテナ2に接続されたい状態)におけるM-TDM-AAAの指向性を示す。この
図9を見て分かる通り、PIアルゴリズムにより妨害波の到来方向に正しく指向性ヌルが形成されていることが確認できる。
【0074】
続いて、
図10及び
図11を用い、スイッチ6のON時間比率Ψ(ON時間τ)による特性の変化を、C-TDM-AAAとM-TDM-AAAとにおいて確認する。
図10は、INR=80dBにおける両TDM-AAAの妨害波減衰量(妨害波到来方向に対する指向性ヌルの深さ)を表す。
図10に示されるように、Ψの値が大きくなるほど、妨害波減衰量が大きくなっていることが分かる。これは、Ψが大きくなるほど、スイッチ切り換えにおける電力損失が小さくなり、アダプティブプロセッサ17が受け取る信号のINRが大きくなるためである。
【0075】
また、
図11は、
図10におけるC-TDM-AAAに対するM-TDM-AAAの差異を表すグラフである。
図11に示されるように、Ψが小さい場合には、両者に違いは見られないが、Ψが大きくなるに連れて、M-TDM-AAAの妨害波減衰量が大きくなっていることが分かる。よって、
図11のグラフを見ても、本例の提案法の優位性が確認される。
【0076】
以上により、本例では、時分割多重を用いる単一受信機のアダプティブアレーアンテナ1において、スイッチ切り換えにより発生する電力損失を低減しつつ、各アンテナ2の受信信号を独立して抽出することが可能となる。具体的には、本例の計算機シミュレーションにおいて、7素子等間隔リニアアレーに対して本例の提案法を適用した場合、電力損失が小さいこと、従来の時分割多重のアダプティブアレーアンテナと比較して良好な受信特性を示すことが明らかとなった。
【0077】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)複数のアンテナ2の中の特定の1つをスイッチ6にて受信回路4に接続する際、スイッチ6のON時間τを長くとるので、スイッチ6の切り換え時における電力損失を抑制することができる。また、スイッチ6における電力損失抑制を狙ってスイッチ6のON時間τを長くとると、その背反として、各アンテナ2の受信信号f
k(t) cos(ω
ct)が混ざり合ってしまい、これが受信特性の劣化に繋がる。しかし、本例の場合は、サンプル信号x
i(t)に行列Φを乗算する演算を施すことにより、サンプル信号x
i(t)を各アンテナ2の受信信号f
k(t) cos(ω
ct)に分離するので、問題なく各アンテナ2の受信信号f
k(t) cos(ω
ct)も取得することができる。よって、SNRの劣化も最小限に抑えることが可能となるので、時分割多重アダプティブアレーアンテナ1の受信特性も確保することができる。
【0078】
(2)本例の時分割多重アダプティブアレーアンテナ1では、複数のアンテナ2において、フィルタ、アンプ、ダウンコンバータ、A/Dコンバータ等を有する受信回路4を共用する。このため、多くの素子を構成要件とする受信回路をアンテナ2ごとに設ける必要がないので、装置構成の簡素化や部品コスト削減に効果が高いと言える。
【0079】
(3)スイッチ6のON時間τ(ON時間比率Ψ)を極力長くとる、つまりスイッチ6が常にいずれかのアンテナ2に接続すれば、スイッチ6の切り換え時における電力損失をなるべく低く抑えられると想定される。よって、本例の場合は、ON時間τ(ON時間比率Ψ)を任意に設定可能であるので、スイッチ6のON時間τを極力長くとれば、その分だけスイッチ6の切り換えによる電力損失を抑制することができ、この点で効果が高いと言える。
【0080】
(4)第2バンドパスフィルタ8の周波数帯域幅KW’は、第1バンドパスフィルタ3の通過帯域幅Wではなく、スイッチ6の切換周波数W’に係数のKを乗算した値に設定されている。このため、スイッチ6の切り換え速度を、細かな値設定を行うことなしに任意に設定することができる。即ち、スイッチ6の切換周期が1値に限定されず、他の値でも許容可能となるので、この点で効果が高いと言える。
【0081】
(5)スイッチ6の切換周波数W’とON時間τとを用いて求められた行列Φを用いて、サンプル信号x
i(t)から受信信号f
k(t) cos(ω
ct)を分離するので、サンプル信号x
i(t)を精度よく各アンテナ2の受信信号f
k(t) cos(ω
ct)に分離することができる。
【0082】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・受信回路4の構成は、実施形態に述べた構成例に限定されず、他の構成に適宜変更可能である。
【0083】
・受信回路4は、ベースバンド信号をA/Dコンバータ14でサンプルする構成ではなく、IF信号をサンプルする構成や、第2バンドパスフィルタ8から出力されるRF(Radio Frequency)信号をサンプルする構成であってもよい。
【0084】
・アンテナ素子数Kは、任意の奇数に限らず、任意の偶数であってもよい。
・スイッチ6のON時間τ(ON時間比率Ψ)は、実施形態に述べた例に限定されず、他の時間幅に適宜変更可能である。
【0085】
・サンプル信号x
i(t)から受信信号f
k(t) cos(ω
ct)を再生(分離)する演算は、サンプル信号x
i(t)に行列Φを乗算する方法に限定されない。要は、サンプル信号x
i(t)から受信信号f
k(t) cos(ω
ct)を分離できれば、他の演算方法に適宜変更可能である。
【0086】
・受信回路4は、直交ダウンコンバータ12,12ではなく、通常のコンバータにて信号をダウンコンバートする回路でもよい。
・第2バンドパスフィルタ8の周波数帯域幅は、例えば第1バンドパスフィルタ3の周波数帯域に係数のKを乗算した値でもよい。
【0087】
・時分割多重アダプティブアレーアンテナ1は、車両や電子キーの受信機として使用されることに限定されず、他の機器や装置に適宜応用可能である。