(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主成分として有機モリブデン化合物を含有する金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を、耐熱性基板上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、前記塗布膜を乾燥して乾燥塗布膜を形成する乾燥工程、前記乾燥塗布膜を加熱処理により無機化、及び還元して、金属モリブデンを主成分とする金属微粒子層を形成する加熱還元工程の各工程を経て形成される、金属モリブデン塗布膜の製造方法であって、
前記加熱還元工程が、前記乾燥工程で形成された有機モリブデン化合物を主成分とする前記乾燥塗布膜に対し、まず250〜350℃の加熱処理を行い、前記乾燥塗布膜に含まれる有機成分を熱分解または燃焼、或いは熱分解並びに燃焼により除去した無機化により低級モリブデン酸化物(MoOx;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層を形成した後、更に還元性雰囲気中で450℃以上に昇温する還元処理を施し、前記低級モリブデン酸化物(MoOx;2≦x<3)を還元して、金属モリブデンを主成分とする金属微粒子が緻密に充填した金属微粒子層を形成する工程であることを特徴とする金属モリブデン塗布膜の製造方法。
前記還元性雰囲気が、水素ガス、若しくは、水素ガス或いは有機溶剤蒸気の少なくとも一種以上を含む中性ガスからなる雰囲気であり、前記中性ガスが窒素ガス、不活性ガスのいずれか一種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属モリブデン塗布膜の製造方法。
前記塗布工程における金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の耐熱性基板上への塗布方法が、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属モリブデン塗布膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の金属モリブデン塗布膜の製造方法は、有機モリブデン化合物を主成分とする金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を、耐熱性基板上に塗布、乾燥、加熱還元して形成される金属モリブデン塗布膜の製造方法であって、金属モリブデンを主成分とする金属微粒子が緻密に充填した金属微粒子層を形成するため、得られる金属モリブデン塗布膜では、基板への密着性、膜強度、導電性等の向上が可能となり、また、簡便な製造方法による低コスト化も図ることができる。
【0020】
[金属モリブデン塗布膜構造]
先ず、金属モリブデン塗布膜の構造を説明する。
例えば、スパッタリング法等の気相成長法を用いて金属モリブデン膜を形成した場合、通常、金属モリブデンの結晶粒が粒界を介して配列した膜構造である多結晶の金属モリブデン膜構造が形成され、膜構造において金属モリブデンの微粒子はほとんど観察されない。
【0021】
一方、本発明の有機モリブデン化合物を主成分とする金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を耐熱性基板上に塗布、乾燥、加熱還元する塗布法で形成した金属モリブデン塗布膜では、通常、金属モリブデン微粒子同士が結合した膜構造を有しており、金属モリブデン微粒子の粒子径や金属モリブデン微粒子間に存在する空隙の大きさは、加熱還元工程の条件などでも異なるが、少なからず開空隙(オープンポア)を有する金属モリブデン微粒子で構成される金属モリブデン塗布膜となる。
【0022】
このような金属モリブデン塗布膜において、金属モリブデン微粒子を緻密に充填させると同時に、金属モリブデン微粒子の結晶成長も促進させて、開空隙(オープンポア)が少なく緻密で、かつ金属モリブデン微粒子同士の接触が強化された金属微粒子層を有する膜構造を形成することが必要であり、これによって、金属モリブデン塗布膜の導電性や膜強度の向上が可能となる。
【0023】
即ち、本発明における金属モリブデン微粒子が緻密に充填した金属微粒子層は、前述の金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を用いた塗布法において、その加熱処理時の無機化や還元処理の条件を適切に設定することにより形成されるものである。
【0024】
このような金属モリブデン微粒子が緻密に充填した金属微粒子層の形成機構については、いまだ明らかとはいえないが、本発明では、加熱処理時の有機モリブデン化合物の無機化において、一旦濃青色の膜色を有する低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を形成し、その後の還元処理において低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を還元して金属モリブデン塗布膜を形成しているため、無機化で得られる低級モリブデン酸化物を主成分とする金属酸化物微粒子層の緻密化が、最終的に得られる金属モリブデンを主成分とする金属微粒子層の緻密化につながるものと考えられる。
【0025】
[金属モリブデン塗布膜形成用塗布液]
次に、本発明で用いられる金属モリブデン塗布膜形成用塗布液について詳細する。
本発明では、有機モリブデン化合物を主成分とする金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を用い、低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を一旦経由した後、金属モリブデンを形成するものである。
【0026】
まず、有機モリブデン化合物を主成分とし、有機溶剤を含む金属モリブデン塗布膜形成用塗布液について、以下に説明する。
本発明で用いる有機金属化合物の有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンモリブデン(正式名称:モリブデン(VI)オキサイドビス−2,4−ペンタンジオネート[MoO
2(C
5H
7O
2)
2])、モリブデンアルコキシドとしてのモリブデンエトキシド[Mo(C
2H
5O)
5]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、加熱処理時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せず、加熱処理による無機化によって低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)に分解する有機モリブデン化合物であれば良く、中でも上記アセチルアセトンモリブデンが好適である。
【0027】
金属モリブデン塗布膜形成用塗布液に含まれる有機モリブデン化合物は、耐熱性基板上に金属モリブデン塗布膜を形成させるための主たる化合物原料であり、その含有量は1〜30重量%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは5〜20重量%とするのが良い。
その合計含有量が1重量%未満であると膜厚の薄い金属モリブデン塗布膜しか得られなくなるため十分な導電性が得られない。また、30重量%より多いと金属モリブデン塗布膜形成用塗布液中の有機モリブデン化合物が析出し易くなって塗布液の安定性が低下したり、得られる金属モリブデン塗布膜が厚くなり過ぎて亀裂(クラック)が発生する場合がある。
【0028】
金属モリブデン塗布膜の機能向上のために、必要に応じて、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液に少量の有機ナトリム化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ハフニウム化合物、有機バナジウム化合物、有機ニオブ化合物、有機タンタル化合物、有機タングステン化合物のいずれか1つ以上を添加しても良い。
【0029】
さらに、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液には、必要に応じて有機バインダーを添加しても良い。有機バインダーを加えることで、耐熱性基板に対する濡れ性が改善されると同時に、塗布液の粘度調整を行うことができる。上記有機バインダーは加熱処理時において燃焼や熱分解する材料が好ましく、このような材料として、セルロース誘導体、アクリル樹脂等が有効である。
【0030】
有機バインダーに用いられるセルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース 、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース 、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース 、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げられるが、これらの中でもヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と表記する場合がある)が好ましい。
なお、上記各種セルロース誘導体やアクリル樹脂では、分子量が異なる多くの種類が市販されており、例えば、HPCでは、その分子量の大きさに応じて、高分子量タイプ、中分子量タイプ、低分子量タイプがあり、分子量が大きいほど、バインダーとして配合した金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の粘度を高めることができる。分子量タイプの選定、および、配合量の決定は、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の塗布性、および金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の塗布方法や塗布膜厚に応じ、随時最適化する必要がある。
【0031】
上記HPCを用いれば、5重量%以下の含有量で十分な濡れ性が得られると同時に、大幅な粘度調整を行うことができる。またHPCの大気中での燃焼開始温度は300℃程度であり、加熱還元工程での加熱処理を300〜350℃の温度領域で行えば燃焼するので、生成する低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子の粒成長を阻害せず、最終的に、導電性が良好な金属モリブデン塗布膜を作製することができる。HPCの含有量が5重量%より多くなると、ゲル状になって塗布液中に残留し易くなり、極めて多孔質の金属モリブデン塗布膜を形成して透明性や導電性が著しく損なわれる。
ここで、セルロース誘導体として、例えばHPCの代わりにエチルセルロースを用いた場合には、HPCを用いた場合よりも塗布液の粘度が低く設定できるが、高粘度塗布液が好適であるスクリーン印刷法等ではパターン印刷性が若干低下する。
【0032】
ところで、ニトロセルロースは、熱分解性は優れているが、加熱処理時において有害な窒素酸化物ガスの発生があり、加熱処理炉の劣化や排ガス処理に問題を生じる場合がある。以上のように、使用するセルロース誘導体は、状況に応じて適宜選択する必要がある。
また、アクリル樹脂としては、比較的低温で燃焼するアクリル樹脂が好ましい。
【0033】
また、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液には、塗布性や膜均一性を改善する目的で、極微量(例えば、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液に対し、0.001〜0.05重量%)の界面活性剤(高分子界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等)を添加してもよい。
【0034】
金属モリブデン塗布膜形成用塗布液に含まれる有機溶剤には、有機モリブデン化合物(モリブデンのアセチルアセトン錯体化合物)を高濃度で溶解できるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)やアセチルアセトン、あるいはこれらの混合溶剤が好ましい。
【0035】
更に、塗布液を低粘度に調製したり、塗布性の改善のために、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液に配合する溶剤には、各種有機金属化合物とセルロース誘導体やアクリル樹脂を溶解させた溶液と相溶性があれば良く、上記以外の溶剤として、水、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体、クレゾール類、キシレノール、エチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、カシューナット殻液[3ペンタデカデシールフェノール]等のアルキルフェノール系あるいはアルケニルフェノール系溶媒、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、アジピン酸エステル、マロン酸エステル、フタル酸エステル等の二塩基酸エステル(例えば二塩基酸ジメチル、二塩基酸ジエチル等)系溶媒、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1、3−オクチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ミネラルスピリッツ、ターピネオール等、及びこれらのいくつかの混合液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
塗布液の安定性や成膜性を考慮すると、使用する溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、γ−ブチロラクトン等が好ましい。
【0037】
本発明で用いる金属モリブデン塗布膜形成用塗布液は、上記有機モリブデン化合物に、必要に応じてこれら以外の各種有機金属化合物のいずれか一種以上を少量、更に、必要に応じて有機バインダーを加えた混合物を溶剤に加熱溶解させることによって製造する。
【0038】
金属モリブデン塗布膜形成用塗布液製造時の加熱溶解は、通常、加熱温度を60〜180℃とし、0.5〜12時間攪拌することにより行われる。
加熱温度が60℃よりも低いと十分に溶解せず、例えば、アセチルアセトンモリブデンを主成分とする金属モリブデン塗布膜形成用塗布液であれば、アセチルアセトンモリブデン等の析出分離が起って塗布液の安定性が低下してしまい、180℃よりも高いと溶剤の蒸発が顕著となり塗布液の組成が変化してしまうので好ましくない。
【0039】
金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の粘度は、含有する有機バインダーの分子量や含有量、溶剤の種類によって調整することができるので、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等の各種塗布法のそれぞれに適した粘度に調整して対応することができる。
【0040】
高粘度(5000〜50000mPa・s程度)の塗布液は、高分子量の有機バインダーを5重量%以下、好ましくは2〜4重量%含有させることで作製できる。一方、低粘度(5〜500mPa・s程度)の塗布液は、低分子量の有機バインダーを5重量%以下、好ましくは0.1〜2重量%含有させ、かつ低粘度の希釈用溶剤で希釈することで作製できる。また、中粘度(500〜5000mPa・s)の塗布液は、高粘度の塗布液と低粘度の塗布液を混合することで作製する。
【0041】
[金属モリブデン塗布膜の製造方法]
本発明の金属モリブデン塗布膜の製造方法について詳細する。
本発明の金属モリブデン塗布膜は、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を耐熱性基板上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、その塗布膜を乾燥して乾燥塗布膜を形成する乾燥工程、その乾燥塗布膜を加熱処理により無機化、及び還元して、金属モリブデンを主成分とする金属膜を形成する加熱還元工程の各工程を経て形成される。
【0042】
(a)塗布工程
耐熱性基板上への金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の塗布は、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等の各種塗布法を用いて塗布される。
これらの塗布は、クリーンルーム等のように清浄でかつ温度や湿度が管理された雰囲気下で行うことが好ましい。温度は室温(25℃程度)、湿度は40〜60%RHが一般的である。
【0043】
その耐熱性基板としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等の酸化物系無機基板や、ステンレススチール、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)等の金属系無機基板を用いることができる。
また、上記各種酸化物系無機基板上に金属導電膜(ステンレススチール、Al、Ni、Cu等)をスパッタリング法、蒸着法、メッキ法等を用いて形成したものを耐熱性基板としても良く、この場合、本発明の金属モリブデン塗布膜は、その金属導電膜上に形成される。このような膜構成の基板を、例えば、前述のカルコパイライト型薄膜太陽電池に適用する場合、その金属モリブデン塗布膜は、カルコパイライト半導体光電変換層(例えば、CuInSe
2)と金属導電膜との間の反応防止電極層(拡散バリア電極層)として機能する。
【0044】
(b)乾燥工程
次の乾燥工程では、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を塗布した耐熱性基板を、通常大気中80〜180℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間保持して塗布膜の乾燥を行い、乾燥塗布膜を作製する。
その乾燥条件(乾燥温度、乾燥時間)は、用いる耐熱性基板の種類や金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の塗布厚み等によって、適宜選択すればよく、上記乾燥条件に限定される訳ではない。ただし、生産性を考慮すれば、乾燥時間は、得られる乾燥塗布膜の膜質が悪化しない必要最低限度に短縮することが望ましい。
【0045】
なお、必要に応じて大気中乾燥に代えて、減圧乾燥(到達圧力:通常1kPa以下)を適用することも可能である。この減圧乾燥では、塗布された透明導電膜形成用塗布液中の溶剤が、減圧下で強制的に除去されて乾燥が進行するため、大気中乾燥に比べてより短時間での乾燥が可能となるため、製造工程の処理時間の短縮に有用となりうる。
この作製した乾燥塗布膜は、金属モリブデン塗布膜形成用塗布液から有機溶剤が揮発除去されたものであって、有機モリブデン化合物、必要に応じて少量添加される、各種有機金属化合物や有機バインダー等の有機系成分で構成されている。
【0046】
(c)加熱還元工程
加熱還元工程では、まず始めに、乾燥工程で作製した乾燥塗布膜を加熱処理して乾燥塗布膜中の有機モリブデン化合物、または必要に応じて少量添加された各種有機金属化合物を含んだ有機モリブデン化合物、および必要に応じて添加された有機バインダー等の有機系成分を熱分解・燃焼(酸化)により無機化させて低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層を形成する。
次に、上記低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子層を還元性雰囲気中において450℃以上に昇温し、低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を還元して、金属モリブデンを主成分とする金属微粒子が緻密に充填した金属微粒子層を形成している。尚、この金属微粒子層(金属モリブデン塗布膜)には、不純物元素として、少量の金属微粒子の表面酸化に伴う酸素(O)及び金属微粒子層から完全に除去しきれなかった炭素(C)を含んでいるが、膜の機能を大きく損なうものではない。
【0047】
すなわち、加熱還元工程の無機化では、昇温過程で250〜350℃まで加熱温度が高くなってくると、雰囲気の酸素含有の有無によらず(例えば、空気雰囲気や水素含有雰囲気などによらず)乾燥塗布膜中の上記有機モリブデン化合物(少量添加された各種有機金属化合物を含有する物も含む)は徐々に熱分解・燃焼(酸化)されて、濃青色の膜色を有する低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)への変換(所謂無機化)が生じる。
【0048】
ここで、この濃青色の膜色を有する低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)は、空気等の酸素含有雰囲気中で350℃を越える温度で加熱すると、無色透明のモリブデン酸化物(MoO
3)(別名:三酸化モリブデン)まで酸化され、このモリブデン酸化物(MoO
3)は、還元性雰囲気中において450℃以上(例えば500℃程度)に昇温しても金属モリブデンまで還元されないため、金属モリブデン塗布膜を得ることができない。したがって、250〜350℃の加熱処理による無機化により一旦低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を形成した後は、モリブデン酸化物(MoO
3)への酸化を防止するために雰囲気を還元性雰囲気にし、その還元性雰囲気中で450℃以上に昇温する必要があり、これにより低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)は容易に金属モリブデンまで還元されて金属モリブデン塗布膜を得ることができる。
【0049】
有機バインダーを配合した金属モリブデン塗布膜形成用塗布液では、加熱還元工程の無機化時に、有機バインダーを熱分解・燃焼(酸化)等によって塗布膜から除去することが望ましく、その際の雰囲気は、用いる有機バインダーの種類にもよるが、一般的には酸素含有雰囲気(例えば空気)が好ましい。通常、有機バインダーは、無機化のための250〜350℃の加熱処理時に徐々に熱分解・燃焼(酸化)して、主に二酸化炭素(CO
2)や水分(H
2O)に転化されて雰囲気中に揮散して膜中から消失(例えば前述のHPCであれば空気中で約300〜350℃の加熱処理でほぼ消失)していくため、特に空気雰囲気中で無機化した場合には、最終的には金属モリブデン塗布膜中にはほとんど残留しない。
【0050】
一方、有機バインダーを配合しない金属モリブデン塗布膜形成用塗布液では、有機バインダーの燃焼(酸化)のための酸素を必要としないため、無機化のための250〜350℃の加熱処理の時点から還元処理までずっと還元性雰囲気を適用することができる。これは、有機モリブデン化合物自体が還元性雰囲気中でも熱分解により無機化して低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を生成できるからである。
【0051】
前述の通り、このような金属モリブデン微粒子が緻密に充填した金属微粒子層の形成機構については、いまだ明らかとはいえないが、本発明では、加熱処理時の有機モリブデン化合物の無機化において、一旦濃青色の膜色を有する低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を形成し、その後の還元処理において低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を還元して金属モリブデン塗布膜を形成しているため、無機化で得られる低級モリブデン酸化物を主成分とする金属酸化物微粒子層の緻密化が、最終的に得られる金属モリブデンを主成分とする金属微粒子層の緻密化につながるものと考えられる。
【0052】
そこで、加熱還元工程では、先ず乾燥工程で作製した乾燥塗布膜を加熱処理して乾燥塗布膜中の有機モリブデン化合物、または必要に応じて少量添加された各種有機金属化合物を含んだ有機モリブデン化合物、および必要に応じて添加された有機バインダー等の有機系成分を熱分解・燃焼(酸化)により無機化させて低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層を形成する。
したがって、緻密な金属モリブデン塗布膜を得るためには、還元処理前の低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子層の緻密化が必要である。
【0053】
この低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子層の緻密化のためには、前述の250〜350℃の加熱処理による無機化時において、露点温度の低い、即ち水蒸気含有量の少ない雰囲気を適用することが望ましい。
通常、水素等の還元性ガスや窒素等の中性ガスの露点温度は十分低く(例えば−60℃以下)、問題はないが、例えば酸素含有雰囲気としての空気には通常水分が含まれているため(参考として、
図1に、空気中の飽和水蒸気含有量(体積%)と露点温度(℃)の関係を示す)、前述の有機バインダーを配合した金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を用いた場合などでは、露点温度の低い酸素含有雰囲気(空気など)を用いることが望まれる。この場合好ましい露点温度は、−10℃以下、より好ましくは−20℃以下、更に好ましくは−30℃以下である。
【0054】
なお、上述のように低級モリブデン酸化物を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填するメカニズムに関しては、必ずしも明らかではないが、例えば、空気雰囲気中の水蒸気が、
(1)有機モリブデン化合物や低級モリブデン酸化物間に介在している有機バインダー成分の熱分解・燃焼(酸化)の促進作用を有する、
(2)低級モリブデン酸化物自体の結晶化、並びに結晶成長を促進する作用を有する、
等により、露点温度が低い雰囲気中では、加熱処理による無機化の初期段階まで、有機成分(有機モリブデン化合物や有機バインダーの有機成分)が塗布膜中に残存した膜構造が維持され、この膜構造は有機成分の作用で柔軟性を有し、かつ低級モリブデン酸化物の結晶化を抑制して、耐熱性基板と垂直方向への膜の収縮(緻密化)を可能とするためと推測される。
【0055】
本発明の無機化で使用可能な酸素含有雰囲気ガスは、空気、または酸素ガス、あるいは、酸素ガスと中性雰囲気ガス(窒素、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等))の混合ガスが挙げられるが、安価で入手しやすい空気が好ましい。
【0056】
本発明の還元処理で使用する還元性雰囲気は、水素ガス、若しくは、水素ガス或いは有機溶剤蒸気の少なくとも一種以上を含む上記中性ガスからなる雰囲気であり、その中性ガスは窒素ガス、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等)のいずれか一種以上が挙げられるが、水素ガスや水素ガスを含有する中性ガス雰囲気が好適である。中でも、1〜4%水素−99〜96%窒素の混合ガスは、大気に漏洩しても爆発の恐れがないため好ましい雰囲気である。
【0057】
加熱還元工程の還元処理時の加熱温度は、低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)の還元が進行する温度である450℃以上、好ましくは500℃以上であり、加熱時間は好ましくは5〜120分間、より好ましくは15〜60分間である。
450℃よりも低い加熱温度で還元処理を行っても、十分に還元反応が進まず、良質な金属モリブデン塗布膜が得られない。
【0058】
また、上記還元処理時の加熱温度の上限は特に限定されないが、加熱還元工程で用いる加熱処理装置の種類や耐熱性基板の耐熱性に影響受け、安価で最も一般的に用いられるソーダライムガラス基板では、歪点が約510℃であるので、この温度よりも低い温度で加熱処理することが好ましい。ただし、ソーダライムガラス基板をより耐熱性の高い耐熱性基材上で加熱処理すれば、基板の歪みを比較的少なくできるため、約600℃程度での加熱処理も可能である。もちろん、石英ガラス基板、無アルカリガラス基板、高歪点ガラス基板等のより耐熱性が高いガラス基板を用いる場合は、更に高い加熱温度が適用できる。
【0059】
加熱処理工程で用いる加熱処理装置には、ホットプレート、熱風循環加熱処理炉、遠赤外線加熱装置等が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。ただし、本発明を実施するためには加熱処理雰囲気中の露点温度の制御や還元性雰囲気の適用が必要なため、使用する加熱処理装置には加熱処理雰囲気が制御可能な密閉型(ガス置換型)の構造が求められる。
なお、加熱還元工程の無機化や還元処理での昇温過程における昇温速度については特に制約はないが、5〜40℃/分の範囲、より一般的には10〜30℃/分である。5℃/分より昇温速度が遅いと昇温に時間がかかりすぎて効率が悪くなり、一方40℃/分を越える昇温速度を上記加熱処理装置で実現しようとすると、ヒーター容量が大きくなりすぎて現実的でない。
【0060】
本発明に係る金属モリブデン塗布膜の製造方法、及びその製造方法で得られる金属モリブデン塗布膜は、太陽電池等の発電デバイス、液晶ディスプレイ(液晶素子)の表示デバイス、及びタッチパネル等の入力デバイス等の電極に適用することで、例えばデバイスの低コスト化に大きく貢献することができるものである。
以下、実施例を用いて本発明を詳細するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
[塗布液の作製]
アセチルアセトンモリブデン(室温で固体)(正式名称:モリブデン(VI)オキサイドビス−2,4−ペンタンジオネート[MoO
2(C
5H
7O
2)
2](分子量=326.17)10g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)7g、アセチルアセトン7gヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解した。
次に、得られた溶解液25gに、シクロヘキサノン25g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)10g、メチルエチルケトン(MEK)40gを混合して均一になるまで良く攪拌し、ポアサイズ0.22μmのプロピレン(PP)製フィルターでろ過して、アセチルアセトンモリブデンを10重量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1重量%含有する金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を作製した。この金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の粘度(25℃)は、10mPa・s程度であった。
【0062】
[金属モリブデン塗布膜の作製]
作製した金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(10cm×10cm×厚み0.7mm;可視光線透過率=91.2%、ヘイズ値=0.26%、屈折率=1.52)上の全面にスピンコーティング(500rpm×60sec)した後、熱風乾燥機を用いて空気雰囲気中100℃で5分間乾燥し、更にホットプレートを用いて露点温度が−55℃の空気雰囲気(3リッター/分供給;基板上の雰囲気ガスの平均流速=約0.045m/秒)において、300℃まで30分かけて昇温(昇温速度:10℃/分)し、300℃で30分間加熱処理して、アセチルアセトンモリブデンやHPC等の有機成分を燃焼・熱分解させて無機化し、濃青色の膜色を有する低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層を形成した。
続けて、雰囲気を還元性雰囲気(3体積%水素−97体積%窒素)に切り替え(3リッター/分供給;基板上の雰囲気ガスの平均流速=約0.045m/秒)、300℃から500℃に昇温(昇温速度:10℃/分)し、500℃で30分間の還元処理を施し、低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を還元して、金属モリブデンを主成分とする金属微粒子が緻密に充填した金属光沢を有する金属微粒子層からなる実施例1に係る金属モリブデン塗布膜を作製した。
【0063】
[特性評価]
金属モリブデン塗布膜の無機化と還元処理の製造工程条件、及び得られる膜の膜質を表1に示す。
作製した金属モリブデン塗布膜の表面抵抗、膜厚、比抵抗値、可視光線透過率及びヘイズ値、膜強度及び密着性の諸特性を測定し、その結果を表2に示す。また、得られた実施例1に係る金属モリブデン塗布膜の反射プロファイルを、比較例1のモリブデン酸化物塗布膜の反射プロファイルと共に
図2に示す。
【0064】
金属モリブデン塗布膜の表面抵抗は、三菱化学株式会社製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。
ヘイズ値と可視光線透過率は、日本電色株式会社製のヘイズメーター(NDH5000)を用いJIS K7136(ヘイズ値)、JISK7361−1(透過率)に基づいて測定した。
膜厚は、オプティカルプロファイラー(Zygo社製 NewView6200)を用いて測定した。
膜強度及び密着性は、基板上に形成された塗布膜を爪で擦って塗布膜の外観を観察し、傷や剥離がないものをそれぞれ「〇」、大きな傷や著しい剥離があるものをそれぞれ「×」と評価した。
塗布膜の反射プロファイルは、日立製作所株式会社製分光光度計(U−4000)を用いて測定した。
なお、可視光線透過率及びヘイズ値は、塗布膜だけの値であり、それぞれ下記(1)式、(2)式により求めた。
【0065】
【数1】
【0066】
【数2】
【実施例2】
【0067】
[塗布液の作製]
アセチルアセトンモリブデン(室温で固体)(正式名称:モリブデン(VI)オキサイドビス−2,4−ペンタンジオネート[MoO
2(C
5H
7O
2)
2](分子量=326.17)10g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)7.5g、アセチルアセトン7.5gを混合し、120℃に加温して60分間攪拌して溶解した。
次に、得られた溶解液25gに、シクロヘキサノン25g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)10g、メチルエチルケトン(MEK)39.98g、界面活性剤0.02gを混合して均一になるまで良く攪拌し、ポアサイズ0.22μmのプロピレン(PP)製フィルターでろ過して、有機バインダーを含有せず、アセチルアセトンモリブデンを10重量%含有する金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を作製した。この金属モリブデン塗布膜形成用塗布液の粘度(25℃)は、5mPa・s程度であった。
【0068】
[金属モリブデン塗布膜の作製]
作製した金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(10cm×10cm×厚み0.7mm;可視光線透過率=91.2%、ヘイズ値=0.26%、屈折率=1.52)上の全面にスピンコーティング(500rpm×60sec)した後、熱風乾燥機を用いて空気雰囲気中100℃で5分間乾燥し、更にホットプレートを用いて還元性雰囲気(3体積%水素−97体積%窒素)(3リッター/分供給;基板上の雰囲気ガスの平均流速=約0.045m/秒)において、500℃まで50分かけて昇温(昇温速度:10℃/分)し、500℃で30分間加熱処理して金属モリブデンを主成分とする金属微粒子が緻密に充填した金属光沢を有する金属微粒子層からなる実施例2に係る金属モリブデン塗布膜を作製した。
【0069】
なお、上記還元性雰囲気中の500℃までの昇温過程において、200〜300℃の温度領域でアセチルアセトンモリブデンの有機成分が熱分解して無機化し、濃青色の膜色を有する低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層が形成され、更に、450〜500℃の温度領域で徐々に低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)の金属モリブデンへの還元が進行して、金属光沢を有する金属微粒子層が形成されることが確認できた。
【0070】
金属モリブデン塗布膜の無機化と還元処理の製造工程条件、及び得られる膜の膜質を表1に示す。また、作製した金属モリブデン塗布膜の諸特性を実施例1と同様に測定し、その結果を表2に示す。
【0071】
(比較例1)
実施例1の金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を用い、300℃まで30分かけて昇温(昇温速度:10℃/分)し、300℃で30分間加熱処理する代わりに、500℃まで50分かけて昇温(昇温速度:10℃/分)し、500℃で30分間加熱処理したところ、アセチルアセトンモリブデンやHPC等の有機成分が燃焼・熱分解して無機化し、無色透明のモリブデン酸化物(MoO
3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層が形成された。
【0072】
続けて、雰囲気を還元性雰囲気(3体積%水素−97体積%窒素)に切り替え(3リッター/分供給;基板上の雰囲気ガスの平均流速=約0.045m/秒)、500℃で30分間の還元処理を施したが、モリブデン酸化物(MO
3)の金属モリブデンへの還元は進まず、モリブデン酸化物(MoO
3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した無色透明の金属酸化物微粒子層を有する比較例1に係るモリブデン酸化物塗布膜を作製した。
【0073】
モリブデン酸化物塗布膜の無機化と還元処理の製造工程条件、及び得られる膜の膜質を表1に示す。また、作製したモリブデン酸化物塗布膜の諸特性を実施例1と同様に測定し、その結果を表2に示す。また、得られた比較例1に係るモリブデン酸化物塗布膜の反射プロファイルを、実施例1の金属モリブデン塗布膜の反射プロファイルと共に
図2に示す。
【0074】
(比較例2)
実施例1の金属モリブデン塗布膜形成用塗布液を用い、300℃まで30分かけて昇温(昇温速度:10℃/分)し、300℃で30分間加熱処理する代わりに、400℃まで40分かけて昇温(昇温速度:10℃/分)し、400℃で30分間加熱処理したところ、アセチルアセトンモリブデンやHPC等の有機成分が燃焼・熱分解して無機化し、無色透明のモリブデン酸化物(MoO
3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した金属酸化物微粒子層が形成された。
【0075】
続けて、雰囲気を還元性雰囲気(3体積%水素−97体積%窒素)に切り替え(3リッター/分供給;基板上の雰囲気ガスの平均流速=約0.045m/秒)、400℃から500℃に昇温(昇温速度:10℃/分)し、500℃で30分間の還元処理を施したが、モリブデン酸化物(MO
3)の金属モリブデンへの還元は進まず、モリブデン酸化物(MoO
3)を主成分とする金属酸化物微粒子が緻密に充填した無色透明の金属酸化物微粒子層を有する比較例2に係るモリブデン酸化物塗布膜を作製した。
【0076】
モリブデン酸化物塗布膜の無機化と還元処理の製造工程条件、及び得られる膜の膜質を表1に示す。また、作製したモリブデン酸化物塗布膜の諸特性を実施例1と同様に測定し、その結果を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
以上の実施例と比較例を比べると、実施例1、2と比較例1、2は、いずれも最終的に500℃の還元処理(3体積%水素−97体積%窒素雰囲気)を施されているが、実施例1、2では、無機化により生じた濃青色の低級モリブデン酸化物(MoO
x;2≦x<3)を経由しているため、金属モリブデン微粒子が緻密に充填した金属光沢を有する金属モリブデン塗布膜が得られて、その膜抵抗値は低いのに対し、比較例1、2では、無機化により無色透明のモリブデン酸化物(MoO
3)が生成したため、金属モリブデンまでの還元が進まずにモリブデン酸化物微粒子が緻密に充填した無色透明のモリブデン酸化物塗布膜しか得られず、膜抵抗値が著しく高いことがわかる(実施例1、2の110Ω/□、200Ω/□に対し、比較例1、2は3×10
10Ω/□、8×10
9Ω/□、なお、Ω/□はオーム・パー・スクエアと読む)。
【0080】
実施例1と比較例1の比較では、いずれも最終的に500℃の還元処理(3体積%水素−97体積%窒素雰囲気)を施されているが、実施例1では、可視光線の全波長領域(380〜780nm)において、金属モリブデン塗布膜は高い反射率を有し、金属光沢を示しているのに対して、比較例1では、金属モリブデンまでの還元が進まずに無色透明のモリブデン酸化物塗布膜しか得らなかったため、酸化物薄膜の基板との干渉作用により450nm辺りの波長で高い反射率は有するものの、それ以外の波長領域では反射率は低く、金属光沢を示していないことがわかる。
【0081】
さらに、実施例1、2の金属モリブデン塗布膜は、耐熱性基板への密着性、及び膜強度に優れていることがわかる。