特許第5729622号(P5729622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5729622
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】ブラーレス画像撮像システム
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/225 20060101AFI20150514BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20150514BHJP
   G03B 15/00 20060101ALI20150514BHJP
   G03B 5/00 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   H04N5/225 Z
   H04N5/232 Z
   H04N5/232 C
   G03B15/00 U
   G03B5/00 J
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-218801(P2013-218801)
(22)【出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2015-82710(P2015-82710A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2015年2月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 正俊
(72)【発明者】
【氏名】奥 寛雅
(72)【発明者】
【氏名】早川 智彦
【審査官】 山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−24968(JP,A)
【文献】 特開2009−71523(JP,A)
【文献】 特開平6−18426(JP,A)
【文献】 特開2006−140605(JP,A)
【文献】 特開2009−65605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 21/00−23/24
G03B 5/00−5/08
15/00−15/035
15/06−15/16
35/00−37/06
H04N 5/222−5/257
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像カメラ部と、ミラー部と、制御部とを備えており、
前記撮像カメラ部及び前記ミラー部は、共に、少なくとも一次元方向に向けて連続的に移動可能とされており、
前記撮像カメラ部は、前記ミラー部を介して対象領域に視線方向を向けることによって、前記対象領域中に存在する対象物の画像を取得する構成となっており、
前記ミラー部は、ミラー本体と駆動部とを備えており、
前記ミラー本体は、光束を反射可能とされており、これによって、前記撮像カメラ部からの視線の方向を変更するようになっており、
前記駆動部は、前記撮像カメラ部及び前記ミラー本体の移動に伴って、前記ミラー本体の角度を所定の角速度で変更することにより、所定時間の間、前記対象物に前記撮像カメラ部からの視線を向け続ける構成となっており、
かつ、前記駆動部は、前記ミラー本体を駆動することにより、別の対象領域に前記撮像カメラ部からの視線を向ける構成となっており、
前記制御部は、前記駆動部の動作を制御する構成となっており、
かつ、前記制御部は、前記撮像カメラ部により取得した前記画像を用いて、前記所定の角速度(ω')を、
・画像平面上での同一対象物の移動距離(xd)と
・撮像カメラ部の移動方向における画像の幅(width)と
・撮像カメラ部の画角(α)
とを用いて算出する構成となっている
ことを特徴とするブラーレス画像撮像システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記所定の角速度(ω')を、
により算出する構成となっている、請求項1に記載のブラーレス画像撮像システム;
ここで、
xd:画像平面上での同一対象物の移動距離;
width:撮像カメラ部の移動方向における画像の幅;
α:撮像カメラ部の画角
である。
【請求項3】
前記所定の角速度(ω')は、前記撮像カメラ部から前記対象物までの距離と、前記撮像カメラの対地速度とを用いずに算出されているものである
請求項1又は2に記載のブラーレス画像撮像システム。
【請求項4】
前記ミラー本体は、正逆方向に回動可能なガルバノミラーにより構成されており、
前記制御部は、前記ミラー本体を復動させることにより、前記別の対象領域に前記視線を向ける構成となっている
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラーレス画像撮像システム。
【請求項5】
前記ミラー本体は、一方向に回転可能なポリゴンミラーにより構成されており、
前記制御部は、前記ミラー本体を回転駆動することにより、前記別の対象領域に前記視線を向ける構成となっている
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラーレス画像撮像システム。
【請求項6】
さらに発光部を備えており、
前記制御部は、前記対象物を前記撮像カメラ部で撮影する間、前記発光部からの照明光を前記対象物に照射する構成となっている
請求項1〜のいずれか1項に記載のブラーレス画像撮像システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のブラーレス画像撮像システムを用いた撮像方法であって、
前記制御部は、
前記撮像カメラ部により取得した前記画像を用いて、前記所定の角速度(ω')を算出するステップと、
この角速度を用いて、前記対象領域又は前記対象物に対する前記撮像カメラ部の相対速度を実質的に相殺するように、前記駆動部を制御するステップと
を実行し、
前記撮像カメラ部は、対象物を追尾している期間中に、前記対象物の画像を取得するステップを実行する
ことを特徴とするブラーレス画像撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動中のカメラを用いて被写体の画像を取得するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被写体を継続的に撮影するためには、カメラの視線を被写体(対象物)に向け続ける必要がある。多くの場合この作業は撮影者が手動で行うが、ボールの跳躍のような高速かつ不規則な運動に完璧に追従するのは難しい。このため、カメラの視線方向を機械で自動制御するシステム(いわゆるアクティブビジョン:下記非特許文献1参照)の研究は様々な分野で盛んとなっている。
【0003】
通常のアクティブビジョンの技術では、カメラ自体を駆動雲台に取り付けて動かしているため、視線方向の移動についての応答速度が遅い。これでは、急激な加速度変化を含む運動対象(例えば球技で用いられているボール)をトラッキングすることは難しい。高速カメラのフレームレートが、速いものでは100万fpsに達する事や、GPUによって画像処理が高速化されている現状を考えると、視線制御速度は、様々なトラッキングシステムにおいて速度面でのボトルネックとなっていると言える。
【0004】
この問題を解決するために、カメラ前方に配置した小型駆動鏡面によって高速にカメラの視線変更を行うサッカードミラー(Saccade Mirror)と呼ばれる光学系が提案されている(下記非特許文献2参照)。この技術では、2軸のガルバノミラーを用いることによって、高速な視線変更ができるようになっている。もし、制御系において、常に画面中心で対象物をとらえるように視線の制御ができれば、他に類を見ないダイナミックな撮像が可能になると考えられる。
【0005】
ところで、道路上に設置された構造物の検査のため、高速移動する車両に設置したカメラから構造物の鮮明な画像を取得できれば、検査作業の簡易化を図ることができると考えられる。しかしながら、従来のサッカードミラーは、あくまで、高速移動する対象物を追跡しながら撮影するためのシステム構成となっている。つまり、従来のサッカードミラーは、カメラ自体が被写体に対して高速移動する場合に対応するシステムとはなっていなかった。また、従来のサッカードミラーでは、対象物が画面中心から外れた際に、対象物が画面中心に再び位置するようにミラー角度を補正する制御を行っている。すると、撮像画像中に、ミラー角度の調整に伴うモーションブラーが生じてしまう。これでは、高い分解能が求められる検査に対応することは難しいと考えられる。
【0006】
カメラが高速(例えば時速100km)で移動しながら、固定された対象物を撮影する状況では、取得した画像にモーションブラーを生じることになる。画像により対象物の損傷状態を正確に検査するためには、車両の移動速度(つまりカメラの移動速度)を下げるか、露光時間を短くする必要があった。車両の移動速度を下げると、検査の効率劣化を招く。また、露光時間を短縮すると、画質の低下を招く。
【0007】
いわゆる手ぶれを補正する技術は、種々提案されている。しかしながら、高速で移動するカメラで得られる画像のモーションブラーを効果的に軽減する技術は提案されていない。
【0008】
また、撮影後の画像に、画像処理(いわゆるdeconvolution)を施すことによりモーションブラーを軽減する技術も提案されている。この画像処理には、大きく分けて、PSFが既知のdeconvolutionと、PSFが未知のblind deconvolutionとがある。しかしながら、いずれも計算時間がかかるため、リアルタイム処理が困難であるという問題がある。このため、この手法は、画像情報を用いて対象物を追尾するようなトラッキング制御には適さない。また、この画像処理は、モーションブラーが起きたあとでの補正処理なので、高い空間周波数を持つ画像情報が失われた場合は基本的には元に戻すことができないという問題もある。
【0009】
また、下記特許文献1では、アクチュエータを用いて、カメラ自体を、対象物の動く方向にパン・チルトすることで、モーションブラーを減らす手法が提案されている。しかしながら、この技術では、カメラ自体を駆動するので、その重量が制約となって、高速な視線制御が難しい。例えば、高速移動するカメラからの視線方向を、カメラ自体の移動速度を無視できるほどに高速で変更するような動作は難しいと考えられる。
【0010】
また、下記非特許文献2の技術は、高速移動する対象物をトラッキングしながら連続的に画像を撮影する技術であって、カメラが高速移動しながら対象物を撮影することは意図されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7747153号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. Aloimonos, I. Weiss and A. Bandyopadhyay: "Active Vision", Int'l Journal of Computer Vision, vol. 1, no. 4, pp. 333.356 (1988).
【非特許文献2】K. Okumura, H. Oku and M. Ishikawa: "High-Speed Gaze Controller for Millisecond-order Pan/tilt Camera", Proc. of IEEE Int'l Conf. on Robotics and Automation, pp. 6186. 6191 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記の状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、カメラが移動する環境下であっても、ブラーの少ない画像を連続的に取得できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0015】
(項目1)
撮像カメラ部と、ミラー部と、制御部とを備えており、
前記撮像カメラ部及び前記ミラー部は、共に、少なくとも一次元方向に向けて連続的に移動可能とされており、
前記撮像カメラ部は、前記ミラー部を介して対象領域に視線方向を向けることによって、前記対象領域中に存在する対象物の画像を取得する構成となっており、
前記ミラー部は、ミラー本体と駆動部とを備えており、
前記ミラー本体は、光束を反射可能とされており、これによって、前記撮像カメラ部からの視線の方向を変更するようになっており、
前記駆動部は、前記撮像カメラ部及び前記ミラー本体の移動に伴って、前記ミラー本体の角度を逐次変更することにより、所定時間の間、前記対象物に前記撮像カメラ部からの視線を向け続ける構成となっており、
かつ、前記駆動部は、前記ミラー本体を駆動することにより、別の対象領域に前記撮像カメラ部からの視線を向ける構成となっており、
前記制御部は、前記駆動部の動作を制御する構成となっている
ことを特徴とするブラーレス画像撮像システム。
【0016】
(項目2)
前記ミラー本体は、正逆方向に回動可能なガルバノミラーにより構成されており、
前記制御部は、前記ミラー本体を復動させることにより、前記別の対象領域に前記視線を向ける構成となっている
項目1に記載のブラーレス画像撮像システム。
【0017】
(項目3)
前記ミラー本体は、一方向に回転可能なポリゴンミラーにより構成されており、
前記制御部は、前記ミラー本体を回転駆動することにより、前記別の対象領域に前記視線を向ける構成となっている
項目1に記載のブラーレス画像撮像システム。
【0018】
(項目4)
前記制御部は、トラッキング部を備えており、
前記トラッキング部は、前記対象領域に存在する前記対象物の位置を検出し、前記対象物に前記視線を向けるように前記駆動部を制御する構成となっている
項目1〜3のいずれか1項に記載のブラーレス画像撮像システム。
【0019】
(項目5)
前記制御部は、トラッキング部を備えており、
前記トラッキング部は、前記対象領域又は前記対象物に対する前記撮像カメラ部の相対速度を検出し、前記相対速度を実質的に相殺するように前記駆動部を制御する構成となっている
項目1〜3のいずれか1項に記載のブラーレス画像撮像システム。
【0020】
(項目6)
前記トラッキング部は、前記撮像カメラにより取得した前記画像を用いて、前記相対速度を算出する構成となっている
項目5に記載のブラーレス画像撮像システム。
【0021】
(項目7)
前記トラッキング部は、トラッキングカメラを備えており、
前記トラッキング部は、トラッキングカメラで連続的に取得した画像内における前記対象物の位置変化情報を用いて、前記相対速度を算出する構成となっている
項目5に記載のブラーレス画像撮像システム。
【0022】
(項目8)
さらに発光部を備えており、
前記制御部は、前記対象物を前記撮像カメラ部で撮影する間、前記発光部からの照明光を前記対象物に照射する構成となっている
項目1〜7のいずれか1項に記載のブラーレス画像撮像システム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、カメラが移動する環境下であっても、ブラーの少ない画像を連続的に取得できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態における画像撮像システムの全体的な構成を示すブロック図である。
図2図1のシステムにおける撮像カメラ部とミラー部の概略的構成を示す説明図である。
図3図1のシステムを用いた撮像方法を説明するためのフローチャートである。
図4図3の撮像方法を説明するための説明図である。
図5】ピクセル数に基づく角速度の算出方法の一例を説明するための説明図である。
図6】角速度の算出方法の一例に用いる各パラメータを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るブラーレス画像撮像システム(以下では「撮像システム」と略称することがある)について説明する。
【0026】
(本実施形態の構成)
本実施形態の撮像システムは、図1に示されるように、撮像カメラ部1と、ミラー部2と、制御部3とを備えている。さらに、本実施形態の撮像システムは、搬送部4と、発光部5と、記録部6とを追加的に備えている。
【0027】
撮像カメラ部1及びミラー部2は、共に、少なくとも一次元方向に向けて連続的に移動可能とされている。より具体的には、本実施形態における撮像カメラ部1及びミラー部2は、搬送部4によって、一次元方向に移動可能とされている。搬送部4は、例えば、撮像カメラ部1及びミラー部2を搭載した車両である。搬送部4のさらに具体的な一例は、時速100km程度での走行が可能な自動車である。
【0028】
(撮像カメラ部)
撮像カメラ部1は、ミラー部2を介して対象領域に視線方向を向けることによって、対象領域中に存在する対象物の画像を取得する構成となっている。対象物とは、例えばトンネル内に配置されたボルトなどの構造物である。ただし、トンネルの壁面のように、画角よりも広い範囲に存在する物体を対象物とすることもできる。この場合、対象領域全体に対象物が存在すると考えることができる。
【0029】
(ミラー部)
ミラー部2は、ミラー本体21と駆動部22とを備えている。
【0030】
ミラー本体21は、光束を反射可能とされており、これによって、撮像カメラ部1からの視線の方向を変更するようになっている。具体的には、本実施形態のミラー本体21は、正逆方向に回動可能なガルバノミラーにより構成されている(図2参照)。なお、撮像カメラ部1からの視線方向を、図2において一点鎖線で示す。
【0031】
駆動部22は、撮像カメラ部1及びミラー本体21の移動に伴って、ミラー本体21の角度を逐次変更することにより、所定時間の間、対象物に撮像カメラ部1からの視線を向け続ける構成となっている。さらに、駆動部22は、ミラー本体21を駆動することにより、別の対象領域(微小量だけ一方向にずれた領域である場合を含む)に撮像カメラ部1からの視線を向ける構成となっている。駆動部22としては、例えば、制御部3で制御される制御モータを用いることができる。本例の駆動部22としては、制御部3からの制御信号に従って、ミラー本体21を、所望角速度及び所望タイミングで正逆方向に回動させることができるものが用いられている。ただし、駆動部22としては、制御モータに限らず、所望の動作を実現できる種々のアクチュエータを使用可能である。
【0032】
(制御部)
制御部3は、駆動部22の動作を制御する構成となっている。本実施形態の制御部3は、
・被写体をトラッキングするようにミラー本体21を一方向(正方向)に回動させる動作;及び
・ミラー本体21を復動させることにより、別の対象領域(微小量だけ一方向にずれた領域である場合を含む)に視線を向ける動作
を行う構成となっている。
【0033】
本実施形態の制御部3は、トラッキング部31を備えている。トラッキング部31は、対象領域に存在する対象物の位置を検出し、対象物に撮像カメラ部1の視線を向けるように駆動部22を制御する構成となっている。具体的には、制御部3は、例えばパーソナルコンピュータ及びコンピュータプログラムにより構成することができる。制御部3は、適宜なI/Oインタフェース部や記録装置(図示せず)など、適宜必要な付属装置を備えることができるが、これらについては、通常のコンピュータと同様な構成が可能なので、詳しい説明は省略する。
【0034】
なお、制御部3における具体的な動作は、本実施形態の動作方法の説明として後述する。
【0035】
(発光部)
発光部5は、制御部3からの制御信号により、所定のタイミングで発光するように構成されている。発光部5としては、例えばLEDを用いることができる。より具体的には、制御部3は、対象物を撮像カメラ部1で撮影する間(つまり露光中)、発光部5からの照明光を対象物(あるいは対象領域)に照射する構成となっている。
【0036】
(記録部6)
記録部6は、撮像カメラ部1で取得された画像データを格納するための機能要素である。記録部6としては、例えばハードディスクであるが、画像データを必要に応じて格納できるものであれば、そのハードウエア構成に制約はない。
【0037】
(本実施形態の動作)
次に、本実施形態に係る撮像システムの動作を、さらに図3を参照しながら説明する。
【0038】
図3のステップSA−1)
まず、初期状態として、撮像カメラ部1とミラー部2とは、搬送部4により、一次元方向(図4における左方向)に、ほぼ一定速度で移動しているものとする。また、この実施形態では、ミラー本体21の回動における角速度の初期値を設定しておく。この初期値は、例えば、搬送部4による撮像カメラ部1の移動速度(予測値)と、対象物までの距離(予測値)とを用いて算出することができる。
【0039】
図3のステップSA−2)
ついで、制御部3は、ミラー本体21が、対象物の撮影に適する角度(撮影角度)に達したか否かを判定する。この撮影角度は、例えば、あらかじめ既定値として設定しておくことができる。なお、初期状態のミラー本体21の角度は既定値に設定できるので、初回の動作においてはこの判定を省略してもよい。ミラー本体21の角度が撮影角度となっていない場合、制御部3は、駆動部22によりミラー本体21を駆動し、その後に再判定を行う。ミラー本体21が撮影角度に達している場合は次のステップSA−3に進む。
【0040】
図3のステップSA−3)
ついで、制御部3は、撮像カメラ部1における露光を開始する。この露光は、ミラー本体21の正方向への回動を行いながら、既定の露光時間の間に渡り行われる。これにより、撮像カメラ部1は、ステップSA−1で設定された角速度の条件下で、画像を取得することができる。また、制御部3は、ミラー本体21の回転角度が既定値に達すると、露光を停止させるとともに回動を停止させる。その後、制御部3は、ミラー本体21を直ちに高速で復動させて、初期の撮影角度に戻すように制御を行う。なお、ミラー本体21の正逆方向への回動周期は、本例では、あらかじめ設定されているものとする。
【0041】
図3のステップSA−4)
ついで、撮像カメラ部1は、取得した画像を制御部3に送る。制御部3では、取得した画像中に対象物が存在するかどうかを、画像処理により判定する。この判定は、例えば、対象物に付されたマーカ(図示せず)が画像中に存在するかどうかを、テンプレートマッチングのような適宜な画像処理手段を用いて判定することにより、行うことができる。画像中に対象物が存在しない場合は、画像を保存せずにSA−2に戻って処理を繰り返す。
【0042】
取得した画像中に対象物が存在する場合は、制御部3は、その画像(第1画像とする)を記録部6に保存し、ステップSA−2に戻って処理を繰り返す。この繰り返しにより、本実施形態では、ステップSA−3において画像を再度取得してステップSA−4に進むことができる。
【0043】
さらに、制御部3は、ステップSA−3において再度取得した画像(第2画像とする)に、既に取得してある第1画像に記録された対象物が含まれているかどうかを、画像処理により判定する。含まれていない場合は、ステップSA−2に戻って処理を繰り返す。
【0044】
第2画像に、第1画像に記録された対象物が含まれている場合は、ステップSA−5に進む。
【0045】
図3のステップSA−5)
ついで、制御部3のトラッキング部31は、取得された画像を用いて、後述の方法により、ミラー本体21の角速度値の計算を行う。制御部3は、得られた角速度値を用いて、ミラー本体21の角速度を再設定し(ステップSA−1)、以降の処理を繰り返す。
【0046】
(角速度の計算方法)
例えば、ある露光終了時刻t1(例えば図4中(a)の状態から(b)の状態に遷移する時間の終了時)で取得した第1画像の例を図5(a)に示す。なお、図4では、説明の便宜のため、ミラー本体21の1回の回動周期中における撮像カメラ部1の移動量を大きくしているが、実際は、ミラー本体21の回動周期をごく短時間としており、その間での撮像カメラ部1の移動量は微小である。次に、Δt秒後の露光終了時刻t2(例えば図4中(c)の時点)で撮像カメラ部1により取得した第2画像の例を図5(b)に示す。なお、図4(c)の例でも、ミラー本体21が所定時間の間に回動しつつ露光しているが、その点の図示は省略する。また、図4では画角を示していないが、画角がある程度広ければ、同一対象物が第1〜第nの画像に連続的に含まれることは十分に起こりうる。
【0047】
前記のようにして取得した2枚の画像平面上での同一対象物10の移動距離をxdとする(図5参照)。制御部3のトラッキング部31は、画像平面上の同一対象物10(対象物が大きい場合はそのうちの特定箇所)の移動距離xdを算出し、この移動距離を用いて、適切な角速度(単位時間におけるミラー本体21の移動角度)を算出する。この角速度は、例えば次のようにして算出できる。まず、図6を参照して、
【0048】
width:撮像カメラ部の移動方向における画像の幅(長さ)
d:撮像カメラ部から対象物までの距離
α:撮像カメラ部の画角
ω':単位時間における移動角度
【0049】
とすると、下記の関係が成立する。
【0050】
【数1】
【0051】
ここで、ω'及びd以外は既知なので片方の式をdについて整理した後に、残りの片方の式のdに代入し、その後ω'について解くと、下記の関係を得ることができる。なお、ミラー本体21の往復動の周期を非常に高速とすれば、対象物に対する撮像カメラ部1の移動量は微小であり無視できる。
【0052】
【数2】
【0053】
前記の手順によると、対象物までの距離dが未知でもω'を得ることができる。
【0054】
既に述べたように、制御部3は、前記で得られた移動角度(角速度)ω'をステップSA−1に戻って角速度ωとして再設定し、以降の処理を繰り返す。システム全体の動作は、適宜なタイミングで、作業者の指示により終了可能である。
【0055】
撮像カメラ部1の移動速度が大きく変動しないと仮定すれば、得られた角速度ω'で視線を回動させている間、画像平面上の対象物の位置はほぼ一定となる。
【0056】
このようにして、対象物10を追尾しながら、撮像カメラ部1を露光させて、対象物10の画像を取得することができる。したがって、本実施形態では、画像中におけるブラー量を低く抑えることができるという利点がある。
【0057】
なお、従来の民生用カメラに搭載された光学式手ぶれ補正でも、同等の計算手法によるブラー低減技術が用いられている。しかしながら従来の技術では、前記した本実施形態の手法と比べ、対応画角の制約が大きく、また高精度で一連の動作を繰り返すことが難しい。本実施形態では、従来の光学系と異なり、ガルバノミラー式のミラー本体21を利用することにより、広い画角への対応への対応が可能となった。さらには、本実施形態のミラー本体21は、撮像カメラ部1の移動量を無視できるほど高速な往復動が可能なので、再帰的な角速度算出を高精度で行うことも可能になったという利点がある。
【0058】
また、本実施形態では、比較的に軽量であるミラー本体21を回動させることによって、対象物10を追尾しているので、視線方向について、高い制御性能をえることができ、この点からも、ブラー量の低減が容易となる。
【0059】
また、本実施形態では、対象物10を追尾しながら、撮像カメラ部1を露光させることができるので、露光時間を長くすることが容易となる。発光部5からの光量を一定とすれば、露光時間が長いほど、高画質・低ノイズ画像を得ることができる。したがって、対象物の状態検出(例えば損傷など)を、高画質画像に基づいて正確に行うことが可能になるという利点がある。
【0060】
また、露光時間が短い場合には、発光部5からの発光量を増やす必要がある。これに対して、本実施形態では、長い露光時間を得られるので、発光部5からの発光量を低く抑えることが可能になる。例えば、移動車両に発光部5を搭載する場合、発光部5の電源としては蓄電池や車両電源を用いることになる。このため、本実施形態では、蓄電池の小型化や、動作時間の延長を図ることができるという利点を有する。また、発光量を低く抑えることにより、他の通行車両への影響を低減できるという実際的な利点もある。
【0061】
本実施形態では、比較的に軽量なミラー本体21を用いているので、ミラー本体21の復動を迅速に行うことができる。このため、撮像カメラ部1の移動速度が速い場合、あるいは、対象物の配置間隔が短い場合でも、対象物の画像を適切に取得できるという利点がある。
【0062】
(変形例)
以下、前記した実施形態の撮像システムの変形例を記載する。
【0063】
(変形例1)
ミラー本体を、一方向に回転可能なポリゴンミラーにより構成することができる。この場合、制御部は、ミラー本体を回転駆動することにより、別の対象領域に視線を向けることができる。
【0064】
(変形例2)
トラッキング部は、対象領域又は対象物に対する撮像カメラ部の相対速度を検出し、相対速度を実質的に相殺するように駆動部を制御する構成とすることができる。
【0065】
(変形例3)
変形例2において、トラッキング部は、撮像カメラにより取得した画像を用いて、相対速度を算出することができる。
【0066】
(変形例4)
変形例2において、トラッキング部は、トラッキングカメラを備えることができる。トラッキング部は、トラッキングカメラで連続的に取得した画像内における対象物の位置変化情報を用いて、相対速度を算出することができる。
【0067】
なお、本発明の内容は、前記各実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0068】
例えば、前記した各構成要素は、機能ブロックとして存在していればよく、独立したハードウエアとして存在しなくても良い。また、実装方法としては、ハードウエアを用いてもコンピュータソフトウエアを用いても良い。さらに、本発明における一つの機能要素が複数の機能要素の集合によって実現されても良く、本発明における複数の機能要素が一つの機能要素により実現されても良い。
【0069】
また、機能要素は、物理的に離間した位置に配置されていてもよい。この場合、機能要素どうしがネットワークにより接続されていても良い。グリッドコンピューティング又はクラウドコンピューティングにより機能を実現し、あるいは機能要素を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 撮像カメラ部
2 ミラー部
21 ミラー本体
22 駆動部
3 制御部
31 トラッキング部
4 搬送部
5 発光部
6 記録部
10 対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6