(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジオールと1,2−ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させて得られるポリエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物であり、該改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350〜2,000の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
前記改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が500〜1,800の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が3質量%以下である請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
前記ジオールと1,2−ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
前記ポリエステル樹脂が、炭素原子数2〜4の脂肪族ジオールと1,2−ジカルボキシシクロヘキサンと炭素原子数4〜9のモノアルコールとを反応させて得られるものである、請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
前記ポリエステル樹脂が、炭素原子数2〜4の脂肪族ジオールと1,2−ジカルボキシシクロヘキサンと炭素原子数4〜9のモノカルボン酸とを反応させて得られるものである、請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
請求項1〜5の何れか1項記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。
セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物を5〜30質量部含んでなる請求項6記載のセルロースエステル光学フィルム。
請求項1〜5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルム。
1,2−プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物であり、該改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350〜2,000の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
前記改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が500〜1,800の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が3質量%以下である請求項9記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
1,2−プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項9記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。
請求項9〜11の何れか1項記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。
セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物を5〜30質量部含んでなる請求項12記載のセルロースエステル光学フィルム。
請求項9〜11の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物は、ジオールとジカルボン酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物であり、該改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350〜2,000の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下であることを特徴とする。GPC法による(Mn)が350より小さいと光学フィルム中の揮発成分が増加し、寸法安定性と共に、耐熱性に優れる光学フィルムが得にくくなることから好ましくない。また、(GPC)法による(Mn)が2,000より大きいと光学フィルム基材との相溶性が低下しフィルム白濁の原因となるため好ましくない。(GPC)法による(Mn)は500〜1,800が好ましく、500〜1,700がより好ましい。
【0014】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物中の分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%を超えると、得られる光学フィルムの寸法安定性が良好でなくなることから好ましくない。前記含有率は0質量%が理想であるが、改質剤を製造する際の現実的な観点から3質量%以下が好ましい。
【0015】
また、(Mn)が2,000を超えるポリエステル樹脂の含有率は光学フィルムの透明性を維持するため1質量%以下が好ましい。
【0016】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物は、ジオールとジカルボン酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂を含み、該組成物中の(Mn)が350〜2,000の範囲であり、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下となるものであればその構造や製法等は限定が無い。例えば、1)ジオールとジカルボン酸とを反応させる際の反応条件を調整することで、(Mn)が350〜2,000の範囲にある組成物で、該組成物中の分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下のセルロースエステル樹脂用改質剤を得ても良いし、2)ジオールとジカルボン酸とを反応させポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から低分子量のポリエステル樹脂、具体的には分子量が350より小さいポリエステル樹脂を除去する種々の手段を講じて、最終的に(Mn)が350〜2,000の範囲にある組成物で、該組成物中の分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下のセルロースエステル樹脂用改質剤を得ても良い。中でも、2)の方法が簡便なことから好ましい。
【0017】
前記低分子量のポリエステル樹脂を除去する種々の手段としては、特に限定はないが、例えば、薄膜蒸留装置による留去法、カラム吸着法、溶媒分離抽出法などの方法が挙げられ、これらの中でも、薄膜蒸留装置による留去法が、種々の分子量を有するポリエステル樹脂の混合物のエステル交換反応の進行による分子量増加、熱履歴による分解反応や着色などの弊害がなく、短時間での処理が可能であるので好ましい。
【0018】
ここで、数平均分子量(Mn)はGPC測定に基づきポリスチレン換算した値である。なお、GPCの測定条件は以下の通りである。
【0019】
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製「HLC−8220 GPC」
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HHR−H」(6.0mmI.D.×4cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)
検出器:ELSD(オルテック製「ELSD2000」)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIデータ解析バージョン4.30」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン(THF)
流速 1.0ml/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(5μl)。
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIデータ解析バージョン4.30」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0020】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
東ソー株式会社製「F−550」
【0021】
本発明において、前記改質剤組成物中の分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率は、上記GPCの測定条件で得られるチャートから求める含有率である。
【0022】
本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物は、具体的には、下記に例示するポリエステル系改質剤組成物を好ましく挙げることができる。
【0023】
1)脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とを反応させて得られるポリエステル樹脂(A1)を含有するポリエステル系改質剤組成物。
2)脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とを反応させて得られるポリエステル樹脂(A2)を含有するポリエステル系改質剤組成物。
以下に、ポリエステル系改質剤(A1)及びポリエステル系改質剤(A2)について詳しく説明する。
【0024】
前記ポリエステル樹脂(A1)の調製に用いる脂肪族ジオール(a1)としては、例えば、炭素原子数2〜4のものが好適に使用できる。炭素原子数2〜4の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチルプロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等が挙げられる。これらの中でもエチレングリコールが、寸法安定性に優れる光学フィルムが得られることに加え、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、且つ十分な耐透湿性を光学フィルムに付与可能なポリエステル改質剤となることから好ましい。脂肪族ジオール(a1)は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記脂肪族ジカルボン酸(a2)としては、例えば、炭素原子数2〜8のものが好適に使用できる。炭素原子数2〜6の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸(炭素数2。括弧内の数字は分子中の炭素数を表す。以下同様の意味である。)、マロン酸(3)、コハク酸(4)、グルタル酸(5)、アジピン酸(6)、マレイン酸(4)、フマル酸(4)、1,2−ジカルボキシシクロヘキサン(8)、1,2−ジカルボキシシクロヘキセン(8)等が挙げられる。これらの中でも、寸法安定性に優れる光学フィルムが得られることに加え、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、且つ十分な耐透湿性を光学フィルムに付与可能なポリエステル改質剤となることからコハク酸、アジピン酸又は1,2−ジカルボキシシクロヘキサンが好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸(a2)は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、前記炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸(a2)としては、脂肪族ジカルボン酸の代わりに、そのエステル化物、酸塩化物、酸無水物等のカルボン酸誘導体を単独でも2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリエステル樹脂(A1)は、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とを用いて得られる末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂を得た後、更に、該カルボキシル基を有するポリエステル樹脂とモノアルコール(a4)とを反応させることにより末端のカルボキシル基を封止したポリエステル樹脂も耐透湿性に優れる光学フィルムが得られるセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物となることから好ましく例示することができる。
【0028】
ポリエステル樹脂(A1)を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物の中でも、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とモノアルコール(a4)とを反応させることにより末端のカルボキシル基を封止したポリエステル樹脂を含むものが、耐透湿性に優れる光学フィルムが得られるセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物となることから好ましく例示することができる。ここで、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とモノアルコール(a4)とを反応させてなるポリエステル樹脂は、例えば、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とモノアルコール(a4)とを一括して反応系に仕込み、これらを反応させることにより得ることができるし、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とを用いて得られる末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂を得た後、更に、該カルボキシル基を有するポリエステル樹脂とモノアルコール(a4)とを反応させることにより得ることもできる。
【0029】
また、ポリエステル樹脂(A1)を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物の中でも、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とモノカルボン酸(a5)とを反応させることにより末端の水酸基を封止したポリエステル樹脂を含むものも、耐透湿性に優れる光学フィルムが得られるセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物となることから好ましく例示することができる。ここで、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とモノカルボン酸(a5)とを反応させてなるポリエステル樹脂は、例えば、前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とモノカルボン酸(a5)とを一括して反応系に仕込み、これらを反応させることにより得ることができるし前記脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とを用いて得られる末端に水酸基を有するポリエステル樹脂を得た後、更に、該水酸基を有するポリエステル樹脂とモノカルボン酸(a5)とを反応させることにより得ることもできる。
【0030】
前記モノアルコール(a4)としては、例えば、炭素原子数4〜9のものが好適に使用できる。炭素原子数4〜9のモノアルコールとしては、例えば、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソノニルアルコール、1−ノニルアルコール等が挙げられる。中でも、1−ブタノールまたは1−ヘキサノールが寸法安定性に優れる光学フィルムが得られることに加え、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、十分な耐透湿性を光学フィルムに付与でき、しかも、フィルムの厚み方向のレタデーション値(Rth)が低い光学フィルムとなるポリエステル改質剤組成物となることから好ましい
【0031】
前記モノカルボン酸(a5)としては、例えば、炭素原子数4〜9のものが好適に使用できる。炭素原子数4〜9のモノカルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキシル酸、ノナン酸等が挙げられる、中でも、ブタン酸が寸法安定性に優れる光学フィルムが得られることに加え、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、十分な耐透湿性を光学フィルムに付与可能でき、しかも、フィルムの厚み方向のレタデーション値(Rth)が低い光学フィルムとなるポリエステル改質剤組成物となることから好ましい。
【0032】
前記ポリエステル樹脂(A1)の中でも、炭素原子数2〜4の脂肪族ジオールと炭素原子数2〜8の脂肪族ジカルボン酸とを用い、且つ炭素原子数4〜9のモノアルコールおよび/または炭素原子数4〜9のモノカルボン酸を用いて得られるポリエステル樹脂として、以下に示すポリエステル樹脂を例示することができる。
【0034】
〔式(I)及び(II)中、R1は、それぞれ独立して、炭素原子数が4〜9のアルキル基を表し、P1は、それぞれ独立して、炭素原子数が3〜8のアルキル基を表す。G1はそれぞれ独立して炭素原子数2〜4のアルキレン基を表す。A1はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜6のアルキレン基、又は2つのカルボニル炭素同士が隣接し直結していることを表す。nは1〜9の整数を表す。〕
【0035】
前記一般式(I)及び(II)中のnは1〜8の範囲であることが好ましい。
【0036】
前記ポリエステル樹脂(A1)は、例えば、前記した(a1)、(a2)および必要に応じて(a4)または(a5)を必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば、180〜250℃の温度範囲内で10〜25時間、エステル化反応させることにより製造することができる。尚、エステル化反応の温度、時間などの条件は特に限定せず、適宜設定してよい。
【0037】
前記エステル化触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒;ジブチル錫オキサイド等のスズ系触媒;p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系触媒など、特に限定しない。
【0038】
前記エステル化触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、通常、前記(a1)、(a2)、(a4)及び/又は(a4)の全量100質量部に対して、0.001〜0.1質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0039】
また、前記ポリエステル樹脂(A1)の分散度(Mw/Mn)は、好ましくは1.0〜3.0であり、より好ましくは1.0〜1.5である。ポリエステル樹脂(A1)の分散度がかかる範囲内であれば、セルロースエステル樹脂との相溶性及び耐揮発性に優れた改質剤組成物が得られる。
【0040】
尚、分散度とは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した重量平均分子量の値(Mw)を数平均分子量の値(Mn)で割った値(Mw/Mn)である。
【0041】
前記ポリエステル樹脂(A1)の水酸基価は、0〜20mgKOH/gが好ましく、0〜10がより好ましい。また、前記ポリエステル樹脂(A1)の酸価は、0〜1mgKOH/gが好ましく、0〜0.5がより好ましい。従って、前記ポリエステル樹脂(A1)は、0〜20mgKOH/gの水酸基価を有し、且つ0〜1.0mgKOH/gの酸価を有することが好ましく、更に、0〜10の水酸基価を有し、且つ0〜0.5の酸価を有することがより好ましい。
【0042】
酸価は、脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とが反応した際に生成しうる、末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂に由来するものである。光学フィルムに優れた耐透湿性を付与し、且つポリエステル樹脂(A1)自体の安定性を維持するうえで、末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂の含有量は極力少ない方が好ましく、その目安としては、酸価が前記範囲内であることが好ましい。
【0043】
水酸基価は、脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とが反応した際に生成しうるポリエステル樹脂の末端に存在する水酸基のうち、前記モノカルボン酸(a5)によって封鎖されていない水酸基に由来するもの;脂肪族ジオール(a1)と脂肪族ジカルボン酸(a2)とが反応した際に生成しうる、末端に水酸基を1個有する脂肪族ポリエステル樹脂に由来するもの;使用した脂肪族ジオール(a1)の未反応の水酸基に由来するもの、などが挙げられる。水酸基は水との親和性が強いので、得られるフィルムの耐透湿性を維持するためにも、水酸基価は前記範囲内にあることが好ましい。
【0044】
次に、前記ポリエステル樹脂(A2)〔脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とを必須として合成して得られる改質剤〕について、以下に説明する。
【0045】
脂肪族ジオール(a1)の中でも、寸法安定性に優れる光学フィルムが得られることに加え、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、また、十分な耐透湿性を光学フィルムに付与できることからプロピレングリコールが好ましい。
【0046】
ポリエステル樹脂(A2)の調製に用いる芳香族ジカルボン酸(a3)としては、例えば、炭素原子数8〜12の炭素原子を有する芳香族系(無水)ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物等を好ましく挙げられる。このような芳香族カルボン酸としては、例えば、ベンゼン環構造やナフタレン環構造等の芳香族環式構造を有する(無水)ジカルボン酸やそのエステル化物を使用することができ、例えばオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸等や、これらのエステル化物、及び酸塩化物、1,8−ナフタレンジカルボン酸の酸無水物等を使用することができ、これらを単独で使用又は2種以上併用できる。
【0047】
芳香族ジカルボン酸(a3)の中でも、無水フタル酸、オルソフタル酸、オルソフタル酸ジメチル、及びテレフタル酸ジメチルからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが高温多湿下における耐ブリード性に優れ、且つ十分な耐透湿性を光学フィルムに付与可能なポリエステル系改質剤組成物となることから好ましい。
【0048】
ポリエステル樹脂(A2)は、例えば、前記ポリエステル樹脂(A1)と同様の製法で得ることができる。
【0049】
ポリエステル樹脂(A2)を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物の中でも、前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とモノアルコール(a4)とを反応させることにより末端のカルボキシル基を封止したポリエステル樹脂を含むものも、耐透湿性に優れる光学フィルムが得られるセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物となることから好ましく例示することができる。ここで、前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とモノアルコール(a4)とを反応させてポリエステル樹脂は、例えば、前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とモノアルコール(a4)とを一括して反応系に仕込み、これらを反応させることにより得ることができるし前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とを用いて得られる末端にカルボキシル基を有するポリエステル樹脂を得た後、更に、該カルボキシル基を有するポリエステル樹脂とモノアルコール(a4)とを反応させることにより得ることもできる。
【0050】
また、ポリエステル樹脂(A2)を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物の中でも、前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とモノカルボン酸(a5)とを反応させることにより末端の水酸基を封止したポリエステル樹脂を含むものも、耐透湿性に優れる光学フィルムが得られるセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物となることから好ましく例示することができる。ここで、前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とモノカルボン酸(a5)とを反応させてなるポリエステル樹脂は、例えば、前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とモノカルボン酸(a5)とを一括して反応系に仕込み、これらを反応させることにより得ることができるし前記脂肪族ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸(a3)とを用いて得られる末端に水酸基を有するポリエステル樹脂を得た後、更に、該水酸基を有するポリエステル樹脂とモノカルボン酸(a5)とを反応させることにより得ることもできる。
【0051】
モノカルボン酸(a5)としては、前記した脂肪族構造を有するモノカルボン酸も用いることができるが、位相差の発現性が良好な光学フィルムが得られる添加剤となることから芳香族骨格を有するモノカルボン酸が好ましく、炭素原子数7〜11の芳香族骨格を有するモノカルボン酸がより好ましい。炭素原子数7〜11の芳香族骨格を有するモノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、クミン酸、t−ブチル安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸、アニス酸、1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフタレンカルボン酸等や、これらのメチルエステル及び酸塩化物等を単独で使用又は2種以上併用することができる。中でも、安息香酸が高温多湿下における耐ブリード性に優れ、且つ十分な耐透湿性を光学フィルムに付与可能なポリエステル系改質剤組成物となることから好ましい。
【0052】
前記芳香族ポリエステル樹脂(A2)の中でも炭素原子数2〜4の脂肪族ジオールと炭素原子数8〜12の芳香族ジカルボン酸と、炭素原子数7〜11の芳香族モノカルボン酸を用いて得られるポリエステル系改質剤をとして、以下に示す改質剤を例示する事ができる。
【0054】
〔式(III)中、R1は、それぞれ独立して、水素原子、または側鎖を有していてもよい炭素原子数が1〜4のアルキル基、側鎖を有していてもよい炭素原子数が1〜4のアルコキシ基を表す。G1は、それぞれ独立して、側鎖を有していてもよい炭素原子数2〜4のアルキレン基を表す。A1はそれぞれ独立して、芳香族環式構造を表す。nは1〜7の整数を表す。〕
【0055】
また、ポリエステル樹脂(A2)の分散度(Mw/Mn)は、好ましくは1.0〜3.0であり、より好ましくは1.0〜1.5である。ポリエステル樹脂(A2)の分散度がかかる範囲内であれば、セルロースエステル樹脂との相溶性及び耐揮発性に優れた改質剤組成物が得られる。
【0056】
前記ポリエステル樹脂(A2)の水酸基価は、0〜20mgKOH/gが好ましく、0〜10がより好ましい。また、前記ポリエステル樹脂(A2)の酸価は、0〜1mgKOH/gが好ましく、0〜0.5がより好ましい。従って、前記ポリエステル樹脂(A2)は、0〜20mgKOH/gの水酸基価を有し、且つ0〜1.0mgKOH/gの酸価を有することが好ましく、更に、0〜10の水酸基価を有し、且つ0〜0.5の酸価を有することがより好ましい。
【0057】
次に、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルムについて説明する。
【0058】
本発明のセルロースエステル光学フィルムは、セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるフィルムであり、フィルムの膜厚は使用される用途により異なるが、一般に10〜200μmの範囲が好ましい。
【0059】
前記セルロースエステル光学フィルムは、光学異方性あるいは光学等方性等の特性を有していてもよいが、前記光学フィルムを偏光板用保護フィルムに使用する場合には、光の透過を阻害しない光学等方性のフィルムを使用することが好ましい。
【0060】
前記セルロースエステル光学フィルムは、種々の用途で用いることができる。最も有効な用途としては、例えば、液晶表示装置の光学等方性を必要とする偏光板用保護フィルムがあるが、光学補償機能を必要とする偏光板用保護フィルムの支持体にも使用することができる。
【0061】
前記セルロースエステル光学フィルムは、種々の表示モードの液晶セルに用いることができ、例えばIPS(イン−プラン スイッチング:In−Plane Switching)、TN(ツイスティッド ネマチック:Twisted Nematic)、VA(バーティカリー アラインド:Vertically Aligned)、OCB(オプティカリー コンペンセートリー ベンド:Optically Compensatory Bend)等が例示できる。
【0062】
前記セルロースエステル光学フィルムに含有されるセルロースエステル樹脂としては、例えば、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部又は全部がエステル化されたものなどが例示でき、それらの中でも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率をより向上できるため、好ましい。
【0063】
前記セルロースエステル樹脂としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸セルロース等が挙げられ、前記セルロースエステル光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、セルロースアセテートを用いることが、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるので、好ましい。これらセルロースエステル樹脂は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0064】
前記セルロースアセテートとしては、重合度が250〜400が好ましく、且つ、酢化度が54.0〜62.5質量%が好ましく、58.0〜62.5質量%がより好ましい。前記セルロースアセテートの重合度と酢化度がかかる範囲であれば、優れた機械的物性を有するフィルムを得ることができる。本発明では、所謂セルローストリアセテートを使用することがより好ましい。尚、本発明でいう酢化度とは、セルロースアセテートの全量に対する、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0065】
前記セルロースアセテートのMnは、70,000〜300,000の範囲が好ましく、80,000〜200,000の範囲がより好ましい。前記セルロースアセテートのMnがかかる範囲であるならば、優れた機械的物性を有するフィルムを得ることができる。
【0066】
また、本発明のセルロースエステル光学フィルムに含有される本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、5〜30質量部の範囲が好ましく、5〜15質量部の範囲がより好ましい。前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物をかかる範囲で用いることにより、寸法安定性、耐透湿性、光学特性に優れるセルロースエステル光学フィルムを得ることができる。
【0067】
前記セルロースエステル光学フィルムは、セルロースエステル樹脂、セルロースエステル樹脂用改質剤組成物、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるセルロースエステル樹脂組成物を、例えば、押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いてフィルム状に成形することにより得ることができる。
【0068】
また、前記セルロースエステル光学フィルムは、前記成形方法の他に、例えば、前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物とを有機溶剤中溶解して得られた樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで、前記有機溶剤を留去し乾燥させる、いわゆる溶液流延法(ソルベントキャスト法)で成形することによって得ることができる。
【0069】
前記溶液流延法によれば、成形途中でのフィルム中における前記セルロースエステル樹脂の配向を抑制することができるため、得られるフィルムは実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイなどの光学材料に使用することができ、中でも偏光板用保護フィルムに有用である。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0070】
前記溶液流延法は、一般に、前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物とを有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1工程と、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を留去し乾燥させてフィルムを形成する第2工程、それに続く、金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3工程からなる。
【0071】
前記第1工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属製のものなどを例示でき、例えば、ステンレス製でその表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0072】
前記金属支持体上に樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0073】
前記第2工程の乾燥方法としては、特に限定しないが、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び/又は下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤の50〜80質量%を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法が挙げられる。
【0074】
次いで、前記第3工程は、前記第2工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2工程よりも高い温度条件下で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度条件にて段階的に温度を上昇させる方法が、良好な寸法安定性を得ることができるため、好ましい。前記温度条件にて加熱乾燥することにより、前記第2工程後のフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0075】
尚、前記第1工程〜第3工程で、有機溶媒は回収し再使用することも可能である。
【0076】
前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物を有機溶剤に混合させ溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解可能なものであれば特に限定しないが、例えばセルロースエステルとしてセルロースアセテートを使用する場合は、良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することが好ましい。
【0077】
また、前記良溶媒と共に、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上させるうえで好ましい。
【0078】
前記良溶媒と貧溶媒との混合割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5質量比の範囲が好ましい。
【0079】
前記樹脂溶液中のセルロースエステル樹脂の濃度は、10〜50質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。
【0080】
前記セルロースエステル光学フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲内で、各種添加剤を使用することができる。
【0081】
前記添加剤としては、例えば、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物以外のその他の改質剤、熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、マット剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などが挙げられる。これら添加剤は、前記有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂及び前記セルロースエステル樹脂用改質剤を溶解させ混合する際に併せて使用することができ、また、別個に添加し用いてもよく、特に限定しない。
【0082】
前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物以外のその他の改質剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。
【0083】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定しないが、例えば、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物中のポリエステル以外のポリエステル樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等が挙げられる。
【0084】
前記紫外線吸収剤としては、特に限定しないが、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。前記紫外線吸収剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、0.01〜2質量部の範囲が好ましい。
【0085】
前記マット剤としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等が挙げられる。前記マット剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲が好ましい。
【0086】
前記染料としては、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、種類や配合量など特に限定しない。
【0087】
本発明のセルロースエステル光学フィルムは、耐透湿性、透明性に優れ、且つ厚み方向の光学異方性に優れていることから、例えば、液晶表示装置の光学フィルムに使用できる。前記液晶表示装置の光学フィルムとしては、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、反射フィルム、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられ、それらの中でも、偏光板用保護フィルムとして好ましく使用する事ができる。
【0088】
前記セルロースエステル光学フィルムの膜厚は、20〜120μmの範囲が好ましく、25〜100μmの範囲がより好ましく、25〜80μmの範囲が特に好ましい。前記光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いる場合には、膜厚が25〜80μmの範囲であれば、液晶表示装置の薄型化を図る際に好適であり、且つ充分なフィルム強度、Rth安定性、耐透湿性などの優れた性能を維持することができる。
【0089】
また、前記偏光板用保護フィルムは、高温多湿下でのブリードを生ずることなく、所望のRthに調整することが可能であることから、用途に応じて様々な液晶表示方式に広範囲に使用することができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づき更に具体的に説明する。例中の部及び%は断りがない限り質量基準である。
【0091】
実施例1(本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の調製)
ジオールとして1,2−プロピレングリコール404g、ジカルボン酸としてアジピン酸79g、無水フタル酸240g、モノカルボン酸として安息香酸586g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.079gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計19時間脱水縮合反応させて反応物(酸化0.22、水酸基化16)を得た。この反応物の数平均分子量(Mn)は420で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は33.0質量%であった〔以下、この反応物を比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1´)と略記する〕。比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1´)を薄膜蒸留装置(株式会旭製作所製の薄膜式分子蒸留装置AS−MDA−65FJ−S)を用いて蒸留管温度180℃、フィード管温度100℃、コンデンサ温度40℃、減圧度0.012Paの条件で蒸留し、本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物(1)を得た。改質剤組成物(1)の数平均分子量(Mn)は590で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は2.0質量%であった。
【0092】
参考例2(同上)
ジオールとして1,2−プロピレングリコール356g、ジカルボン酸としてジメチルテレフタル酸393g、モノカルボン酸としてパラトルイル酸581g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.079gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計17時間脱水縮合反応させて反応物(酸化0.21、水酸基化9)を得た。この反応物の数平均分子量(Mn)は480で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は34.0質量%であった〔以下、この反応物を比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(2´)と略記する〕。比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(2´)を、前記薄膜蒸留装置を用いて蒸留管温度180℃、フィード管温度100℃、コンデンサ温度40℃、減圧度0.012Paの条件で蒸留し、本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物(2)を得た。改質剤組成物(2)の数平均分子量(Mn)は620で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は3.8質量%であった。
【0093】
参考例3(同上)
ジオールとして1,2−プロピレングリコール410g、ジカルボン酸としてジメチルテレフタル酸463g、モノカルボン酸として安息香酸648g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.091gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応を継続させ、合計15時間脱水縮合反応させて反応物(酸化0.1、水酸基化5)を得た。この反応物の数平均分子量(Mn)は450で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は26.0質量%であった〔以下、この反応物を比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(3´)と略記する〕。比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(3´)を、前記薄膜蒸留装置を用いて蒸留管温度180℃、フィード管温度100℃、コンデンサ温度40℃、減圧度0.012Paの条件で蒸留し、本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物(3)を得た。改質剤組成物(3)の数平均分子量(Mn)は630で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は2.0質量%であった。
【0094】
参考例4(同上)
ジオールとしてエチレングリコール355g、ジカルボン酸としてアジピン酸645g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.030gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応を継続させ、合計15時間脱水縮合反応させて反応物(酸価0.3、水酸基価140)を得た。この反応物の数平均分子量(Mn)は1000で、(Mn)が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は7.0質量%であった〔以下、この反応物を比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(4´)と略記する〕。比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(4´)を、前記薄膜蒸留装置を用いて蒸留管温度200℃、フィード管温度90℃、コンデンサ温度40℃、減圧度0.012Paの条件で蒸留し、本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物(4)を得た。改質剤組成物(4)の数平均分子量(Mn)は1310で、(Mn)が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は2.4質量%であった。
【0095】
実施例5(同上)
ジオールとしてエチレングリコール217g、ジカルボン酸として1,2−ジカルボキシシクロヘキサン208g、コハク酸372g、モノアルコールとしてn−ブタノール163g及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.03gを、温度計、攪拌器、還流冷却器を付した内容積1リットルの三ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応を継続させ、合計30時間脱水縮合反応させて反応物(酸化0.43、水酸基化5.4)を得た。この反応物の数平均分子量(Mn)は820で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は16質量%であった〔以下、この反応物を比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(5´)と略記する〕。比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(5´)を、前記薄膜蒸留装置を用いて蒸留管温度200℃、フィード管温度90℃、コンデンサ温度40℃、減圧度0.012Paの条件で蒸留し、本発明のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物(5)を得た。改質剤組成物(5)の数平均分子量(Mn)は1010で、分子量が350よりも小さいポリエステル樹脂の含有率は1.8質量%であった。
【0096】
実施例6(本発明のセルロースエステル光学フィルムの調製)
トリアセチルセルロース樹脂(株式会社ダイセル製「LT−35」)100部、セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)10部を、メチレンクロライド810部及びメタノール90部からなる混合溶剤に加えて溶解し、ドープ液を調製した。このドープ液をガラス板上に厚さ0.8mmとなるように流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で30分、さらに120℃で30分乾燥させることで、本発明のセルロースエステル光学フィルム(1)を得た。得られたフィルム(1)の膜厚は60μmであった。
【0097】
参考例7(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりにセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(2)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(2)を得た。
【0098】
参考例8(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりにセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(3)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(3)を得た。
【0099】
参考例9(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりにセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(4)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(4)を得た。
【0100】
実施例10(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりにセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(5)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(5)を得た。
【0101】
比較例1(比較対照用セルロースエステル光学フィルムの調製)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりに比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1´)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(1´)を得た。
【0102】
比
較参考例2(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりに比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(2´)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(2´)を得た。
【0103】
比
較参考例3(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりに比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(3´)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(3´)を得た。
【0104】
比
較参考例4(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりに比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(4´)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(4´)を得た。
【0105】
比較例5(同上)
セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)の代わりに比較対照用セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(5´)を用いた以外は実施例6と同様にしてセルロースエステル光学フィルム(5´)を得た。
【0106】
試験例1(セルロースエステルフィルムの寸法安定性の評価)
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)を用いて得られたセルロースエステル光学フィルム(1)と、前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(1)と同じ原料である比較対照用セルロースエステル樹脂組成物(1´)を用いて得られた比較対照用セルロースエステル光学フィルム(1´)を用いて下記方法に従って、寸法安定性の評価を行った。
【0107】
<寸法安定性の評価方法>
光学フィルムを加熱環境下に曝した際の寸法の変化率を測定した。具体的には、まず、加熱環境下に曝す前のセルロースエステル光学フィルムのMD方向(成膜方向)とTD方向(成膜方向と垂直の方向)の寸法をCNC画像測定装置NEXIV VMR−6555(株式会社ニコンインステック製)で測定する。測定後、温度が140℃で湿度が0%の環境下にセルロースエステル光学フィルムを45分間静置した。静置後、前記CNC画像測定装置により光学フィルムのMD方向とTD方向の寸法を測定し、それぞれの方向の加熱環境下に曝す前後の寸法の変化率を求め、得られた変化率の平均を寸法変化率として評価した。寸法変化率が正の値である場合、加熱環境下に曝したフィルムの寸法が加熱環境下に曝す前のフィルムの寸法よりも大きくなっていることを表す。寸法変化率が負の値である場合、加熱環境下に曝したフィルムの寸法が加熱環境下に曝す前のフィルムの寸法よりも小さくなっていることを表す。寸法変化率がゼロに近い程、寸法安定性に優れる光学フィルムである。
【0108】
上記評価方法によると、セルロースエステル光学フィルム(1)は加熱環境下に放置後にTD方向とMD方向の寸法が平均で0.29%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.29%となる。一方、比較対照用セルロースエステル光学フィルム(1´)においては、TD方向とMD方向の寸法が平均で0.437%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.437%となる。比較対照用セルロースエステル光学フィルム(1´)の寸法変化率を基準とすると、セルロースエステル光学フィルム(1)の寸法変化率は、〔(0.437−0.29)/0.437〕×100=30.6%改善したと言える。
【0109】
参考試験例2(同上)
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(2)を用いて得られたセルロースエステル光学フィルム(2)と、前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(2)と同じ原料である比較対照用セルロースエステル樹脂組成物(2´)を用いて得られた比較対照用セルロースエステル光学フィルム(2´)を用いた以外は試験例1と同様にして寸法安定性の評価を行った。
【0110】
上記評価方法によると、セルロースエステル光学フィルム(2)は加熱環境下に放置後にTD方向とMD方向の寸法が平均で0.344%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.344%となる。一方、比較対照用セルロースエステル光学フィルム(2´)においては、TD方向とMD方向の寸法が平均で0.402%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.402%となる。比較対照用セルロースエステル光学フィルム(2´)の寸法変化率を基準とすると、セルロースエステル光学フィルム(2)の寸法変化率は、〔(0.402−0.344)/0.402〕×100=14.4%改善したと言える。
【0111】
参考試験例3(同上)
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(3)を用いて得られたセルロースエステル光学フィルム(3)と、前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(3)と同じ原料である比較対照用セルロースエステル樹脂組成物(3´)を用いて得られた比較対照用セルロースエステル光学フィルム(3´)を用いた以外は試験例1と同様にして寸法安定性の評価を行った。
【0112】
上記評価方法によると、セルロースエステル光学フィルム(3)は加熱環境下に放置後にTD方向とMD方向の寸法が平均で0.410%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.410%となる。一方、比較対照用セルロースエステル光学フィルム(3´)においては、TD方向とMD方向の寸法が平均で0.487%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.487%となる。比較対照用セルロースエステル光学フィルム(3´)の寸法変化率を基準とすると、セルロースエステル光学フィルム(3)の寸法変化率は、〔(0.487−0.410)/0.487〕×100=15.8%改善したと言える。
【0113】
参考試験例4(同上)
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(4)を用いて得られたセルロースエステル光学フィルム(4)と、前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(4)と同じ原料である比較対照用セルロースエステル樹脂組成物(4´)を用いて得られた比較対照用セルロースエステル光学フィルム(4´)を用いた以外は試験例1と同様にして寸法安定性の評価を行った。
【0114】
上記評価方法によると、セルロースエステル光学フィルム(4)は加熱環境下に放置後にTD方向とMD方向の寸法が平均で0.380%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.380%となる。一方、比較対照用セルロースエステル光学フィルム(4´)においては、TD方向とMD方向の寸法が平均で0.420%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.420%となる。比較対照用セルロースエステル光学フィルム(4´)の寸法変化率を基準とすると、セルロースエステル光学フィルム(4)の寸法変化率は、〔(0.420−0.380)/0.420〕×100=9.5%改善したと言える。
【0115】
試験例5(同上)
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤組成物(5)を用いて得られたセルロースエステル光学フィルム(5)と、前記セルロースエステル樹脂用改質剤組成物(5)と同じ原料である比較対照用セルロースエステル樹脂組成物(5´)を用いて得られた比較対照用セルロースエステル光学フィルム(5´)を用いた以外は試験例1と同様にして寸法安定性の評価を行った。
【0116】
上記評価方法によると、セルロースエステル光学フィルム(5)は加熱環境下に放置後にTD方向とMD方向の寸法が平均で0.382%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.382%となる。一方、比較対照用セルロースエステル光学フィルム(5´)においては、TD方向とMD方向の寸法が平均で0.485%小さくなっていた。この結果を上記評価方法に当てはめると寸法変化率は−0.485%となる。比較対照用セルロースエステル光学フィルム(5´)の寸法変化率を基準とすると、セルロースエステル光学フィルム(5)の寸法変化率は、〔(0.485−0.382)/0.485〕×100=21.2%改善したと言える。