(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730153
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】固有抵抗が高く、被削性、磁化特性の優れた電磁鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20150514BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20150514BHJP
H01F 1/16 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/16 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-167219(P2011-167219)
(22)【出願日】2011年7月29日
(65)【公開番号】特開2013-28855(P2013-28855A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2013年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】庄 篤史
(72)【発明者】
【氏名】中間 一夫
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−125639(JP,A)
【文献】
特開2005−002381(JP,A)
【文献】
特開昭63−093843(JP,A)
【文献】
特開昭63−045350(JP,A)
【文献】
特開2008−274361(JP,A)
【文献】
特開2006−299303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:≦0.02%、Si:1.9〜3.2% 、Mn:0.2〜0.5%、P:≦0.030%、S:0.010〜0.040%、Cr:6〜10%、Al:≦0.8%、Ti:<0.02、N:≦0.01%、Te:0.006〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、SiとAl、TeとSの関係が、Si+Al=1.9〜3.2%、Te/S=0.2〜1.0およびS+(Te/4)=0.010〜0.040%の3式を共に満足し、保磁力Hcが80A/m以下であることを特徴とする固有抵抗が高く、被削性および磁化特性に優れた電磁鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ソレノイド、電磁弁などの各種の電磁アクチュエーターや電磁センサーに使用される固有抵抗が高く、被削性および磁化特性に優れた電磁鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼は、軟磁性である性質が利用されて、主に電磁弁や電磁センサーなどの部品に利用されている。これらの部品は基本的に形状が小さいので、このための電磁鋼材には、優れた磁化特性が求められる。また、高い生産性で部品をより正確な寸法に加工するために、この電磁鋼材には、優れた被削性も兼備していることが求められている。また、この部品は、小さな孔をドリルで空ける事例が多く、被削性の中でもドリル穿孔性が特に求められている。
【0003】
従来、電磁鋼として、部品加工前と部品加工後の材料の結晶粒度をそれぞれ最適化し、磁気特性に優れた快削耐食軟磁性材料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この発明で示されている材料の磁化特性の保磁力Hcは64〜119A/mであり、とりわけ優れたものではなく、改善の余地があった。
【0004】
さらに、切削中にできる構成刃先の表面をAl
2O
3よりも硬度が高くなるように材料成分を設定し、さらに、鋼中のAl
2O
3を微細分化し、さらにCa系硫化物を形成させることで、飛躍的に被削性を改善した高固有抵抗を有する電磁鋼が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この発明は、工具寿命を飛躍的に向上させたものである。穿孔性を飛躍的に改善するためにはPbやBiの低融点金属を添加する必要があり、改善の余地があった。
【0005】
また、さらに、S、Pb、Se、Te及びBiを単独または複合添加して、被削性に優れ、室内環境において十分な耐食・耐侯性に優れた材料が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この発明は、単にSあるいはPbを多く含有させることで被削性を改善したものであり、磁化特性を考慮して検討されたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−313944号公報
【特許文献2】特開2007−314830号公報
【特許文献3】特開平6−228717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、電磁鋼の磁化特性を向上させるには、主として、C、S及びNなどの不純物元素を低減したり、材料の結晶方位を調整することで、高い磁束密度を得る手法と、SiやAlを添加して鉄損を小さくする手法とがある。一方、電磁鋼の被削性を向上させるには、主として、PbやSなどの快削性元素を添加する手法がある。ところで、Pbは磁化特性を悪化させずに被削性を向上する有効な元素であるものの、人体に有害な元素であるので、添加に規制値が設けられ、今後さらに厳しい規制値が求められるものと予想される。そのため、今後は比較的環境に安全な元素であるSを利用した快削電磁鋼が求められるものと考えられる。しかし、Sは磁化特性を悪化させる代表的な元素で、Pb快削電磁鋼と同等の特性を有したS快削電磁鋼は未だ開発されていない。
【0008】
そこで、本願発明が解決しようとする課題は、環境に配慮してPbを含有せずに、Sを利用してPb添加鋼並の優れたドリル穿孔性を有する、磁化特性に優れた高固有抵抗電磁鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、C:≦0.02%、Si:1.9〜3.2% 、Mn:0.2〜0.5%、P:≦0.030%、S:0.010〜0.040%、Cr:6〜10%、Al:≦0.8%、Ti:<0.02、N:≦0.01%、Te:0.006〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であって、かつ、この鋼は上記のうちSiとAl、TeとSの関係が、Si+Al=1.9〜3.2%、Te/S=0.2〜1.0、S+(Te/4)=0.010〜0.040%の3式を共に満足
し、保磁力Hcが80A/m以下であることを特徴とする固有抵抗が高く、被削性および磁化特性に優れた電磁鋼である。
【0010】
上記電磁鋼の化学成分の限定理由を以下に説明する。なお、%は質量%で示す。
【0011】
C:≦0.02%
Cは、不可避的に含有されるが、0.02%を超えて多く含有すると磁化特性が悪化する。そこで、Cは0.02%以下とする。
【0012】
Si:1.9〜3.2%
Siは、鋼の固有抵抗を向上させるために1.9%以上とする必要がある。しかし、3.2%より多く含有すると靱性が悪化する。そこで、Siは1.9〜3.2%とする。
【0013】
Mn:0.2〜0.5%
Mnは、S、Teと共にMnTe−MnSを生成させて、被削性と磁化特性を同時に向上させるため、0.2%以上が必要である。しかし、0.5%より多く含有すると逆に磁化特性が悪化する。そこで、Mnは0.2〜0.5%とする。
【0014】
P:≦0.030%
Pは、不可避的に含有されるが、0.030%を超えて多く含有すると磁化特性が悪化する。そこで、Pは0.030%以下とする。
【0015】
S:0.010〜0.040%
S は、Mnと共にMnSを生成させ、被削性を向上させるために0.010%以上が必要である。しかし、0.040%より多く含有すると磁化特性が悪化する。そこで、Sは0.010〜0.040% とする。望ましくは0.015〜0.035%とする。
【0016】
Cr:6〜10%
Crは、耐食性を向上させるために6%以上とする必要がある。しかし、10%より多く含有すると靱性が悪化する。そこで、Crは6〜10%とする。
【0017】
Al:≦0.8%
Alは、鋼の固有抵抗を向上させるために必要な元素である。しかし、0.8%を超えて多く含有すると靱性が悪化する。そこで、Alは0.8%以下とする。
【0018】
Ti:<0.02%
Tiは、不可避的に含有されるが、多く含有すると炭窒化物が生じて被削性と靱性が悪化する。そこで、Tiは0.02%未満とする。
【0019】
N:≦0.01%
Nは、不可避的に含有されるが、0.01%を超えて多く含有すると磁化特性が悪化する。そこで、Nは0.01%以下とする。
【0020】
Te:0.006〜0.020%
Te は、磁化特性と被削性を同時に著しく向上させるため、0.006%以上が必要である。しかし、0.020%より多く含有すると熱間加工性が悪化する。そこで、Teは0.006〜0.020% とする。
【0021】
本願発明は、上記の化学成分におけるSiおよびAlの各含有量並びにTeおよびSの次の3式からなる関係式を共に満足することを必須とする。
【0022】
Si+Al=1.9〜3.2(%)・・・・(1)
SiとAlの合計量は、鋼の固有抵抗を向上させるために1.9%以上とする必要があるが、3.2%より多いと靱性が悪化する。そこで、Si+Alの合計量はSi+Al=1.9〜3.2(%)・・・・(1)を満足するものとする。
【0023】
Te/S=0.2〜1.0・・・・(2)
TeとSは同時に含有するものとするが、TeとSの含有量の比は、磁化特性を著しく向上させるために0.2以上とする。しかし、1.0を超えると磁化特性が悪化する。そこで、TeとSの比はTe/S=0.2〜1.0・・・・(2)を満足するものとし、望ましくはTe/S=0.3〜0.9とする。
【0024】
S+(Te/4)=0.010〜0.040(%)・・・・(3)
上記のようにSとTeは共に被削性を向上させる元素であるが、上記のようにSとTeを同時に含有するとき、SとTeの総量を規定する必要があり、その合計量を0.010〜0.040%とする。この合計量が0.010%未満では被削性が向上せず、0.04%を超えると磁化特性が悪化する。そこで、S+(Te/4)=0.010〜0.040(%)・・・・(3)を満足するものとする。
【発明の効果】
【0025】
以上の構成としたことで、本発明の電磁鋼は、環境に配慮してPbを含有せずに、Sを利用してPb添加鋼並の優れたドリル穿孔性を有する、磁化特性に優れた高固有抵抗電磁高となり、ソレノイド、電磁弁などの各種の電磁アクチュエーターや電磁センサーに使用され、被削性および磁化特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明におけるAlとSiの含有量およびAlとSiの関係式のグラフとを共に満足する範囲を示す図である。
【
図2】本発明におけるTeとSの含有量およびTeとSの関係式のグラフとを共に満足する範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明の実施の形態を記載するに先立って、本願発明の原理について以下に説明する。
【0028】
Teは一般的に、MnTe−MnSの低融点共晶を生じさせ、切削抵抗とドリル寿命を大幅に改善させる元素として知られている。これは、共晶化合物によるMnSの球状化効果によるものと考えられている。この球状化は、共晶化合物がMnSの周りを覆い、熱間加工の際に潤滑作用が働いて、MnSの変形が抑制されることで起こるものと知られている。また、Teは、含有量が過剰でなければ、磁気特性を低下させずに被削性を改善する元素として知られており、磁化特性を飛躍的に改善させる効果があるとは認識されていない。そこで、この磁化特性に及ぼすTeの影響を鋭意検討した結果、Sの含有量を最小限に留め、同時にTeをごく微量含有させた場合、被削性に加えて磁化特性が飛躍的に向上することを発明者らは見出した。
【0029】
上記の被削性に加えて磁化特性を向上させる効果を得るためには、先ず、生成するMnS量に対し、適正なMnTe量を生成させることが必要である。S含有量に対してTe含有量が少ない場合は、Mn硫化物が延伸されて球状化効果が得られなくなり、被削性と磁化特性が悪化する。一方、Te含有量が多い場合は、MnSに対してMnTe−MnSの共晶化合物量が過剰となり、この共晶化合物が延伸して磁化特性を悪化する。このために、S含有量に対する最適なTe含有量の割合を規定する必要がある。そこで、Mnを0.2〜0.5%と規定すると同時に、TeとSの比を0.2〜1.0の範囲とする。
【0030】
ところで、一方、MnTe−MnS量が一定量を超えると著しく磁化特性を悪化する。そこでS+Te/4を0.010〜0.040(%)に規定する。
【実施例1】
【0031】
表1に示す化学成分並びにそのAlとSiの関係式およびTeとSの関係式が
図1および
図2に示す実線の範囲内にある、化学成分および残部のFeおよび不可避不純物からなる本発明例のNo.1〜10と、比較例のNo.11〜18の、それぞれ100kgの鋼を、真空誘導溶解炉で溶解して鋳造により鋼塊を得た。これらの鋼塊を1000℃の加熱温度でφ60mmとφ20mmの棒材に鍛造した後、900℃で焼鈍した。これらの素材を磁気特性およびドリル穿孔試験の調査素材とした。
【0032】
【表1】
【0033】
磁気特性は、上記の調査素材のφ20mmの棒材を、外径13mm、内径9mm、厚さ5mmの磁気リングに機械加工し、850℃で真空磁気焼鈍をした後、直流磁気測定装置にて保磁力Hcを測定して表1に示した。保磁力Hcが80A/m以下を良好とし、100A/m以上を不良として評価した。
【0034】
ドリル穿孔性試験は、上記φ60mmの調査素材を長さ50mmに切断後、両端面を旋盤で平滑化し、新品のSKH51ドリル(φ5)で推力414N、回転数1190rpm、乾式の条件で深さ7mmの孔を5つ孔あけし、これを3回繰り返して平均の穿孔時間を求めて表1に示した。Pb添加鋼の穿孔時間がおよそ12秒以下であったので、穿孔時間が12秒
未満を良好とし、12秒
以上を不良として評価した。
【0035】
表1に示すように、
実施例のNo.1〜10では、いずれも本願発明の成分範囲並びにSiとAlの合計量、TeとSの比であるTe/SおよびS+Te/4を満足する鋼で、保持力Hcは80A/m以下で、かつ、ドリル穿孔性12秒
未満であり、いずれも良好であった。
【0036】
一方、比較例のNo.11〜18では、全ての比較例で保持力Hcが80A/m
超で発明の範囲を超えている。さらに、No.11はS含有量が発明の範囲を超えており、したがってS+Te/4が発明の範囲を超えている。No.12はS含有量が発明の範囲未満であり、したがってTe/Sが発明の範囲を超えており、ドリル穿孔性が15.8秒と
実施例より劣っている。比較例のNo.13はTe/Sが発明の範囲を超えており、ドリル穿孔性が12.1秒と
実施例の範囲を超えている。比較例のNo.14はTeの含有量が発明の範囲より少なく、Te/Sが発明の範囲より少なく、ドリル穿孔性が12.0秒と
実施例より劣っている。比較例のNo.15はTeの含有量が発明の範囲を超えており、S+Te/4が発明の範囲を超えており、保持力Hcが131A/mと大幅に発明の範囲を超えている。比較例のNo.16はTeの含有量が発明の範囲を超えており、Te/Sが発明の範囲を超えており、ドリル穿孔性が15.2秒と
実施例より大きく劣っている。比較例のNo.17はS+Te/4が発明の範囲を超えている。比較例のNo.18はTeの含有量が発明の範囲を超えており、したがってTe/Sが発明の範囲を超えている。さらに、これは熱間加工割れが多発し、製品加工が困難であった。