特許第5730283号(P5730283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730283
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20150521BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20150521BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 129/16 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 129/24 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 129/28 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 107/08 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 105/06 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 105/36 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20150521BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
   C10M141/10
   C10M169/04
   !C10M137/04
   !C10M129/10
   !C10M129/16
   !C10M129/24
   !C10M129/28
   !C10M133/16
   !C10M133/12
   !C10M107/02
   !C10M107/08
   !C10M105/06
   !C10M105/36
   !C10M105/38
   !C10M101/02
   !C10M105/04
   C10N30:06
   C10N40:00 Z
   C10N40:02
   C10N40:04
   C10N40:08
   C10N40:12
   C10N40:20 A
   C10N40:22
   C10N40:24
   C10N40:25
   C10N40:30
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-507059(P2012-507059)
(86)(22)【出願日】2011年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2011057182
(87)【国際公開番号】WO2011118707
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2014年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-71432(P2010-71432)
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】梅原 一浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢二
【審査官】 松波 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−156198(JP,A)
【文献】 特開昭62−156188(JP,A)
【文献】 特開平05−194559(JP,A)
【文献】 国際公開第96/020263(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第00612837(EP,A1)
【文献】 米国特許第03492373(US,A)
【文献】 特表2004−501234(JP,A)
【文献】 特開2008−239763(JP,A)
【文献】 特開2008−189936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/04
C10M 101/02
C10M 105/04
C10M 105/06
C10M 105/36
C10M 105/38
C10M 107/02
C10M 107/08
C10M 129/10
C10M 129/16
C10M 129/24
C10M 129/28
C10M 133/12
C10M 133/16
C10M 137/04
C10M 153/04
C10N 30/06
C10N 40/00
C10N 40/02
C10N 40/04
C10N 40/08
C10N 40/12
C10N 40/20
C10N 40/22
C10N 40/24
C10N 40/25
C10N 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分及び(B)成分と、(C)成分及び(D)成分から選択される1種又は2種以上及び/または下記の(E)成分及び(F)成分から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする潤滑油組成物:
(A)成分:基油;
(B)成分:下記の一般式(1)で表わされる化合物;
【化1】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、Xは炭素数2〜20の炭化水素基を表わし、nは1〜10の数を表わす。)
(C)成分:下記の一般式(2)で表わされる化合物;
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表わし、これらの炭化水素基は、エーテル基、スルフィド基、ケトン基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又はイミノ基で中断されていてもよい。R10及びR11は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、mは1〜4の数を表わす。)
(D)成分:下記の一般式(3)で表わされる化合物;
【化3】
(式中、R12及びR13はそれぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、R14は炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6のシクロアルキル基を表わし、R15は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。)
(E)成分:下記の一般式(4)で表わされる化合物;
【化4】
(式中、R16〜R19はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。)
(F)成分:下記の一般式(5)で表わされる化合物;
【化5】
(式中、R20〜R23はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。)
【請求項2】
(A)成分の基油が、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、芳香族エステル、ヒンダードエステル、二塩基酸エステル、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油及びGTLより選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
一般式(1)のXが、一般式(6)、一般式(7)又は一般式(8)であることを特徴とする、請求項1又は2記載の潤滑油組成物:
【化6】
【請求項4】
一般式(1)のR〜Rが、水素原子又はメチル基であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分を0.01〜10質量部配合し、また(A)成分100質量部に対して、(C)成分及び/または(D)成分、及び/または(E)成分及び/または(F)成分の合計を0.01〜10質量部配合することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
更に、一般式(1)以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤及び消泡剤からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
潤滑油組成物が、エンジン油、変速機用潤滑油、ギヤー油、タービン油、作動油、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、しゅう動面油、ロックドリル油、金属切削油、塑性加工油、熱処理油、グリース又は加工油であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、特に、縮合リン酸エステルを多量に添加することができる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や工作機械等の機械類は近年高機能化が進んでおり、こうした機械類に使用される潤滑油の要求性能も高まっている。潤滑油に求められる機能や効果は様々であるが、機械類の高速化や高圧力化が進んでおり、摩耗防止に対する要求性能が非常に大きい。摩耗防止には、通常、添加剤として摩耗防止剤を潤滑油に添加するが、こうした摩耗防止剤は昔からよく知られた添加剤であり、一般的にリン系や硫黄系の化合物、またはこれらの組み合わせで摩耗防止に対応していた(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、潤滑油基油(鉱油・合成油)に対して、清浄剤として全塩基価(TBN)165mgKOH/gを有するカルシウム・アルキサリチレート(カルシウム(Ca)含有量6.0質量%)を質量%で5.8〜8.3、酸化防止剤兼摩耗防止剤としてプライマリアルキル型ジンク・ジチオホスフェートを亜鉛(Zn)の質量%で0.09〜0.13、摩擦調整剤兼摩耗防止剤として油溶性オキシモリブデン・ジアルキルジチオホスフェートを、モリブデン(Mo)の質量%で0.02〜0.04を配合したことを特徴とする排気ガス還流装置付エンジン用ディーゼルエンジンオイルが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、次の化学構造
【化1】
[ここで、R及びR’は水素またはアルキルであってよく、このさいRまたはR’の少なくとも一つはアルキルであり、ここでR’’はアルキル、またはR’’’OCOCH2、またはR’’’OCOCH2CH2(ここで、R’’’はアルキルであり、そしてXはSである)である]を有する組成物からなる低リン潤滑剤用の摩耗防止剤が開示されている。
【0005】
更に、特許文献3には、スーパートラクターオイルユニバーサル潤滑組成物であり、a)粘度指数が少なくとも約95であり、i)少なくとも一つの金属清浄剤と、ii)少なくとも一つのリンベースの摩耗防止剤と、iii)少なくとも一つの油溶性モリブデン化合物を含む添加剤成分で調合された潤滑粘度のオイルを含み、b)潤滑組成物の総重量を基にした金属の含有量(ppm)と潤滑組成物の全塩基価(mg KOH/g)の比率が約210から約450(ppm/mg KOH/g)であることを特徴とし、c)潤滑油組成物の総重量を基にした金属の含有量(ppm)と潤滑組成物の総重量を基にしたリンの含有量(ppm)の比率が約5.0から約20.0(ppm/ppm)であり、また、d)潤滑組成物の総重量を基にしたリンの含有量(ppm)と潤滑組成物の総重量を基にしたモリブデンの含有量(ppm)の比率が約0.5から約80.0(ppm/ppm)である、スーパートラクターオイルユニバーサル潤滑組成物が開示されている。
【0006】
また、本出願人は、縮合リン酸エステルを使用することで、従来知られているリン系の摩耗防止剤よりも高い摩耗防止効果を発揮できることを既に提案している(特願2010−21022号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−207290号公報
【特許文献2】特開2003−183247号公報
【特許文献3】特開2008−174742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、縮合リン酸エステルはベースとなる潤滑油基油に対して、溶解性が低いことがあり、そのため不溶解物が析出し、添加量が制限される場合もあり、十分な効果を発揮できないこともあることが本発明者らの今般研究により判明した。
【0009】
従って、本発明の目的は、潤滑油基油(基油)に縮合リン酸エステルを多量添加した場合、不溶解物の析出等の問題が生ずることがあるのに対して、縮合リン酸エステルの溶解性を向上させ、潤滑油基油に対して縮合リン酸エステルの多量添加を可能にし、摩耗防止効果を更に高めることができる潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者等は鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記の(A)成分及び(B)成分と、(C)成分及び(D)成分から選択される1種又は2種以上及び/または下記の(E)成分及び(F)成分から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする潤滑油組成物である:
(A)成分:基油;
(B)成分:下記の一般式(1)で表わされる化合物;
【化1】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、Xは炭素数2〜20の炭化水素基を表わし、nは1〜10の数を表わす。)
(C)成分:下記の一般式(2)で表わされる化合物;
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表わし、これらの炭化水素基は、エーテル基、スルフィド基、ケトン基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又はイミノ基で中断されていてもよい。R10及びR11は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、mは1〜4の数を表わす。)
(D)成分:下記の一般式(3)で表わされる化合物;
【化3】
(式中、R12及びR13はそれぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、R14は炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6のシクロアルキル基を表わし、R15は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。)
(E)成分:下記の一般式(4)で表わされる化合物;
【化4】
(式中、R16〜R19はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。)
(F)成分:下記の一般式(5)で表わされる化合物;
【化5】
(式中、R20〜R23はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わす。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は、従来、添加量が制限されることがある縮合リン酸エステルを含有する潤滑油組成物と比較して、より多量の縮合リン酸エステルを添加することができ、その結果として、摩耗防止効果を更に向上させることができる潤滑油組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の潤滑油組成物において、(A)成分として使用できる基油としては、例えば、鉱油、合成油及びこれらの混合物が挙げられ、より具体的には、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、芳香族エステル、ペンタエリスリトール骨格を持つヒンダードエステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル、シリコーン油、フッ素化油、GTL(gas to liquids)等の合成油;パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油あるいはこれらを精製した精製鉱油類等が挙げられる。これらの基油はそれぞれ単独で用いてもよく、混合物で用いてもよい。これらの基油の中でも、摩耗改善効果が高いことから、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、芳香族エステル、ヒンダードエステル、二塩基酸エステル、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、GTLが好ましく、ポリ−α−オレフィン、芳香族エステル、ヒンダードエステル、二塩基酸エステル、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、GTLがより好ましく、芳香族エステル、二塩基酸エステル、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ポリ−α−オレフィンが更に好ましい。
【0013】
ポリ−α−オレフィンを使用する場合は、炭素数8〜20のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1つから導かれる100℃における動粘度が1〜300mm2/秒のものである。また、好ましいエチレン−α−オレフィン共重合体としては、炭素数8〜20のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1つから導かれる構成単位を50〜99質量%、エチレンから導かれる構成単位を1〜50質量%の量で含有する100℃における動粘度が1〜300mm2/秒のものである。また、鉱油としては、水素化精製、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化分解、硫酸洗浄、白土処理等の精製を行い、100℃における動粘度が1〜50mm2/秒のものが更に好ましい。基油の100℃での動粘度が300mm2/秒を超えると低温粘度特性が悪化する場合があり、動粘度が1未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣る場合や金属摩耗が増加する場合があるために好ましくない。また、基油として鉱油を使用する場合は粘度指数90以上が好ましく、100以上がより好ましい。
【0014】
(B)成分は、一般式(1)で表わされる化合物である:
【化7】
【0015】
一般式(1)で表わされる化合物のR1〜R8はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、こうしたアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル(ラウリル)基、トリデシル基、テトラデシル(ミリスチル)基、ペンタデシル基、ヘキサデシル(パルミチル)基、へプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル)基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。摩耗防止効果が高いことから、R1〜R8は水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子がより好ましい。
【0016】
一般式(1)中のXは、炭素数2〜20の炭化水素基を表わし、こうした基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基をひとつ以上含有する炭化水素基等が挙げられ、アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、イコサレン基等が挙げられる。シクロアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、ジシクロペンチレン基、トリシクロペンチレン基等が挙げられる。
【0017】
アリーレン基をひとつ以上含有する炭化水素基としては、例えば、一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)で表わされる基、1,2−ジフェニルエチレン基、ナフチレン基等が挙げられ、一般式(6)で表わされる基の場合、結合する箇所によってオルト体、メタ体及びパラ体の3つの構造になるが、いずれの構造であってもよく、これらの違いによって性能は変わらない。これらの中でも、摩耗防止効果が高いことからXはアリール基を1つ以上含有することが好ましく、一般式(6)、一般式(7)、一般式(8)のいずれかで表わされる基がより好ましく、一般式(6)、一般式(7)のいずれかで表わされる基が更に好ましく、一般式(6)で表わされる基が最も好ましい。
【化8】
【0018】
一般式(1)で表わされる化合物のnは重合度を表わし、本発明の潤滑油組成物の(B)成分として、摩耗防止効果を十分に発揮させるためには、nが1〜10の数、好ましくは1〜5の数である。
【0019】
なお、(B)成分には、一般式(1)で表わされる化合物のnがゼロである化合物、又はnが11以上の化合物が不純物として混入することもあるが、これらの含有量は本発明品の(B)成分100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、2質量部以下が更に好ましい。10質量部を超えると、本発明の潤滑油組成物の摩耗防止効果が低くなるために好ましくない。
【0020】
また、nの平均、すなわち、平均重合度は一般式(1)で表わされる化合物のモル比から計算され、例えば、n=1の化合物が50モル%、n=2の化合物が50モル%の組成ならば、平均重合度は1.5となる。なお、nの値は高速液体クロマトグラフィーの測定結果から算出できる。
【0021】
(B)成分の一般式(1)で表わされる化合物のnの平均、即ち、平均重合度は、特に制限はないが摩耗防止効果を高めるためには、1.0〜4.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましい。4.0を超える場合は基油への溶解が困難になる場合や摩耗防止効果が低くなる場合があるために好ましくない。なお、一般式(1)のnがゼロである化合物やnが11以上の化合物が混入している場合、本発明の(B)成分のnの平均、即ち、平均重合度を算出する際に、これらの化合物のnの値を含めないものとする。
【0022】
一般式(1)で表わされる化合物を製造する方法としては、公知の方法のいずれの方法を使用してもよく、例えば、以下の方法により目的物を得ることができる:
方法1
Xが一般式(6)で表わされ、R1〜R8が全て水素原子、一般式(1)のnの値が1〜5の化合物を製造する場合には、1モルの1,3−ベンゼンジオールと2モルのオキシ塩化リンとを反応させた後に、4モルのフェノールを反応させればよい。この場合、各原料のモル比を変えることによってnの値の異なった化合物を製造することができるが、通常いずれのモル比で合成しても、精製を行わなければnの値が異なった化合物の混合物が得られる。
【0023】
方法2
Xが一般式(6)で表わされ、R1〜R8が全て水素原子、一般式(1)のnの値が1の化合物を製造する場合には、1モルの1,3−ベンゼンジオールと2モルのクロロリン酸ジフェニルとを反応させることにより得られる。
【0024】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分と(B)成分のみを配合した場合と比較して、(C)成分、(D)成分、(E)成分、及び(F)成分より選択される1種又は2種以上を配合することで(A)成分に対する(B)成分の溶解性を向上させることができる。(C)成分、(D)成分、(E)成分、及び(F)成分の中でも(C)成分、(E)成分、及び(F)成分を使用することが好ましい。
【0025】
(C)成分である一般式(2)
【化9】
で表わされる化合物において、R9は炭素数1〜30の炭化水素基を表わし、これらの炭化水素基は、エーテル基、スルフィド基、ケトン基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又はイミノ基で中断されていてもよい。エーテル基、スルフィド基、ケトン基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又はイミノ基を含まない炭化水素基としては例えば、1価の炭化水素基、2価の炭化水素基、3価の炭化水素基、4価の炭化水素基が挙げられ、1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。アルキル基としては一般式(1)で例示したアルキル基、ペンタコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0026】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−メチルエテニル基、2−メチルエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ペンタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、トリアコンテニル基等が挙げられる。
【0027】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0028】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−ビニルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−ターシャリブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−オクチルフェニル基、4−(2−エチルヘキシル)フェニル基、4−ドデシルフェニル基等が挙げられる。
【0029】
2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、へプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、イコシレン基等が挙げられる。
【0030】
9はエーテル基、スルフィド基、ケトン基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又はイミノ基で中断されていてもよく、これらは同一分子中に1つ又は2つ以上含んでも良い。R9を中断する基として具体的には以下の一般式(9)〜(16)で表わす基が挙げられ、中でもエステル基、アミド基を持つ一般式(10)で表わされる基、一般式(11)で表わされる基、一般式(12)で表わされる基、一般式(13)で表される基及び/または一般式(14)で表される基が好ましく、一般式(10)で表わされる基、及び/又は一般式(11)で表わされる基が更に好ましい:
【0031】
【化10】
(式中、pは0又は1を表わし、RA及びRBは炭化水素基を表わす。)
【0032】
【化11】
(式中、pは0又は1を表わし、RA及びRBは炭化水素基を表わす。)
【0033】
【化12】
(式中、pは0又は1を表わし、RA及びRBは炭化水素基を表わす。)
【0034】
【化13】
(式中、pは0又は1を表わし、RA及びRBは炭化水素基を表わす。)
【0035】
【化14】
(式中、pは0又は1を表わし、RA及びRBは炭化水素基を表わす。)
【0036】
【化15】
(式中、pは0又は1を表わし、RA及びRBは炭化水素基を表わす。)
【0037】
−(Rcq−O−RD− (15)
(式中、qは0又は1を表わし、RC及びRDは炭化水素基を表わす。)
【0038】
−(Rcq−S−RD− (16)
(式中、qは0又は1を表わし、RC及びRDは炭化水素基を表わす。)
【0039】
また、R10及びR11は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、例えば、一般式(1)で例示したアルキル基が挙げられ、mは1〜4の数を表わす。
【0040】
これらの(C)成分の中でもより具体的には、例えば、下記一般式(17)〜(21)の各式で表わされる化合物、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が挙げられ、(B)成分の溶解性向上効果が高いため一般式(17)〜(21)の各式で表わされる化合物が好ましく、一般式(17)又は一般式(20)の各式で表わされる化合物がより好ましい:
【0041】
【化16】
(式中、R24は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、R25及びR26はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
【0042】
なお、一般式(17)で表わされる化合物において、R24は上述のように炭素数1〜20のアルキル基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4がより好ましく、炭素数1が更に好ましい。R25及びR26はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わすが、一般式(17)で表わされる化合物の溶解性が高いので、炭素数4のアルキル基が好ましい。
【0043】
【化17】
(式中、R27は炭素数1〜10のアルキレン基を表わし、R28は炭素数1〜9のアルキレン基を表わし、R29及びR30はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
【0044】
なお、一般式(18)で表わされる化合物において、R27は上述のように炭素数1〜10のアルキレン基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、炭素数1〜8のアルキレン基が好ましく、炭素数4〜8がより好ましく、炭素数5〜7が更に好ましい。R28は炭素数1〜9のアルキレン基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数2が更に好ましい。R29及びR30はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わすが、一般式(18)で表わされる化合物の溶解性が高いので、炭素数4のアルキル基が好ましい。
【0045】
【化18】
(式中、R31は炭素数1〜9のアルキレン基を表わし、R32は炭素数1〜9のアルキレン基を表わし、R33及びR34はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
【0046】
なお、一般式(19)で表わされる化合物において、R31は上述のように炭素数1〜9のアルキレン基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、炭素数1〜8のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜6がより好ましく、炭素数1〜3が更に好ましい。R32は炭素数1〜9のアルキレン基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数2が更に好ましい。R33及びR34はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わすが、一般式(19)で表わされる化合物の溶解性が高いので、炭素数4のアルキル基が好ましい。
【0047】
【化19】
(式中、R35は炭素数1〜24のアルキル基を表わし、R36は炭素数1〜5のアルキル基を表わし、R37及びR38はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
【0048】
なお、一般式(20)で表わされる化合物において、R35は上述のように炭素数1〜24のアルキル基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、炭素数1〜22のアルキル基が好ましく、炭素数1〜18がより好ましく、炭素数7〜18が更に好ましい。R36は炭素数1〜5のアルキレン基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数2が更に好ましい。R37及びR38はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わすが、一般式(20)で表わされる化合物の溶解性が高いので、炭素数4のアルキル基が好ましい。
【0049】
【化20】
(式中、R39は炭素数1〜5のアルキレン基を表わし、R40及びR41はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
【0050】
なお、一般式(21)において、R39は上述のように炭素数1〜5のアルキレン基を表わすが、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素数2がより好ましい。R40及びR41はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わすが、一般式(21)で表わされる化合物の溶解性が高いので、炭素数4のアルキル基が好ましい。
【0051】
(D)成分である一般式(3)
【化21】
で表わされる化合物において、R12及びR13はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、例えば、一般式(1)で表わされる化合物で例示したアルキル基が挙げられ、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。R14は炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6のシクロアルキル基を表わし、例えば、一般式(1)で表わされる化合物で例示したアルキル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、一般式(3)で表わされる化合物の溶解性が高いので、炭素数4のアルキル基、又は炭素数6のシクロアルキル基が好ましい。R15は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、例えば、一般式(1)で表わされる化合物で例示したアルキル基が挙げられ、一般式(3)で表わされる化合物の溶解性が高いので、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1がより好ましい。
【0052】
(E)成分である一般式(4)
【化22】
で表わされる化合物において、R16〜R19はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、例えば、一般式(1)で表わされる化合物で例示したアルキル基が挙げられ、R16〜R19は(B)成分の溶解性向上効果が高いため、水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。一般式(4)で表わされる化合物のR16〜R19は一つ以上がアルキル基を持つ場合、結合する箇所によって位置異性体になるが、いずれの構造でも性能はほぼ同等である。
【0053】
(F)成分である一般式(5)
【化23】
で表わされる化合物において、R20〜R23は水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、例えば、一般式(1)で例示したアルキル基が挙げられ、(B)成分の溶解性向上効果が高いため、水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。一般式(5)で表わされる化合物のR20〜R23は一つ以上がアルキル基を持つ場合、結合する箇所によって、位置異性体になるが、いずれの構造でも性能はほぼ同等である。
【0054】
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分は、(A)成分100質量部に対して、(B)成分を0.01〜10質量部、好ましくは0.01〜7質量部、より好ましくは0.02〜5質量部配合したものであり、配合量が少なすぎると摩耗防止剤としての効果が発揮できない場合があり、配合量が多すぎると不溶解物がでてくる場合や配合量に見合った効果を得られない場合があるために好ましくない。
【0055】
また、本発明の潤滑油組成物において、(C)成分、(D)成分、(E)成分及び(F)成分の配合量は、(B)成分の使用量と基油の種類により異なるが(A)成分100質量部に対して、(C)成分、(D)成分、(E)成分及び(F)成分の合計量が0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜7質量部、より好ましくは0.05〜5質量部配合したものであり、配合量が少なすぎると十分な(B)成分の溶解性向上効果が得られない場合があり、配合量が多すぎると配合量に見合った効果を得られない場合があるために好ましくない。
【0056】
更に、本発明の潤滑油組成物には、公知の潤滑油添加剤を添加することもでき、例えば、使用目的に応じて、本発明に使用する上記(B)成分以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩擦低減剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧添加剤、消泡剤、金属不活性化剤、乳化剤、抗乳化剤、かび防止剤等の潤滑油添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加することもできる。
【0057】
上記摩耗防止剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド等の硫黄系添加剤;モノオクチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリフェニルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、チオリン酸エステル等のリン系化合物;チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、酸性リン酸エステル金属塩、亜鉛ジチオホスフェート等の有機金属化合物等が挙げられる。これら摩耗防止剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。
【0058】
上記摩擦調整剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン、アルキルジエタノールアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら摩擦調整剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0059】
上記金属系清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの中でも過塩基性塩が好ましく、過塩基性塩の中でもTBN(トータルベーシックナンバー)が30〜500mgKOH/gのものがより好ましい。これらの金属系清浄剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0060】
上記無灰分散剤としては、例えば、重量平均分子量約500〜3000のアルキル基またはアルケニル基が付加されたコハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン又はこれらのホウ素変性物等が挙げられる。これらの無灰分散剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0061】
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−ターシャリーブチルフェノール(以下、ターシャリブチルをt−ブチルと略記する。)、トリス{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−リン酸ジエステル、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、フェノチアジンカルボン酸エステル、フェノセレナジン等のフェノチアジン系酸化防止剤等が挙げられる。これら酸化防止剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜4質量%である。
【0062】
上記摩擦低減剤としては、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジチオフォスフェート等の有機モリブデン化合物が挙げられる。これら摩擦低減剤の好ましい配合量は、(A)成分に対してモリブデン含量で30〜2000質量ppm、より好ましくは50〜1000質量ppmである。
【0063】
上記粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート/(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート/(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。重量平均分子量は10,000〜1,500,000、好ましくは20,000〜500,000程度である。これらの粘度指数向上剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.1〜20質量%。より好ましくは0.3〜15質量%である。
【0064】
上記流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等が挙げられ、重量平均分子量は1000〜100,000、好ましくは5000〜50,000程度である。これらの流動点降下剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.005〜3質量%、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0065】
上記防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0066】
上記腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾール、テトラアルキルチウラムジサルファイド等が挙げられる。これら腐食防止剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0067】
上記消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、(A)成分に対して0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.01質量%である。
【0068】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油が使用できる用途であればいずれの用途にも使用できる。これらの用途としては、例えば、エンジン油、変速機用潤滑剤、ギヤー油、タービン油、作動油、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、しゅう動面油、ロックドリル油、金属切削油、塑性加工油、熱処理油、グリース、加工油等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において「%」及び「ppm」は、特に記載が無い限り質量基準である。
以下に、本発明品及び比較品を示す。
(A)成分
市販の鉱油[新日本石油(株)スーパーオイルN22:パラフィン系鉱油、粘度指数:102、100℃における動粘度:4.4mm2/秒)
【0070】
(B)成分
<B−1>
攪拌機、温度計、窒素導入管を備えた1000ml4つ口フラスコに、水スクラバーを連結したコンデンサーを取り付け、1,3−ベンゼンジオール1.0mol(110g)、オキシ塩化リン3.0mol(460g)及び塩化マグネシウム0.005mol(0.5g)を仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度を徐々に100℃まで5時間かけて昇温させた。同温度にて2時間熟成後、減圧の上130℃に昇温し、上記反応において消費されなかった過剰のオキシ塩化リンを留去した。この反応液にフェノール4.0mol(376g)を添加して熟成させ、反応を終了した。その後、常法により触媒を除去し、140℃にて減圧乾燥し、一般式(22)で表されるB−1を得た:
【0071】
【化24】
【0072】
<B−2>
上記B−1の合成において1,3−ベンゼンジオールの代わりに4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノールを使用した他は、B−1と同様の製法で製造して一般式(23)で表されるB−2を得た:
【0073】
【化25】
【0074】
<B−3>
攪拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管を備えた1000ml4つ口フラスコに、水スクラバーを連結したコンデンサーを取り付け、2,6−ジメチルフェノール2.0mol(244g)、及び塩化マグネシウム0.016mol(1.5g)を仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度を120℃まで昇温させた。同温度にてオキシ塩化リン1.0mol(153g)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、180℃まで2時間かけて昇温し、ジ(2,6−キシリル)ホスホロクロリデートを得た。フラスコ内を20℃まで冷却し、フラスコに1,3−ベンゼンジオール0.5mol(55g)、及び塩化マグネシウム0.016mol(1.5g)を仕込み、2時間かけて180℃まで昇温し、2時間熟成した。その後、常法により触媒を除去し、140℃にて減圧乾燥し、一般式(24)で表されるB−3を得た:
【0075】
【化26】
【0076】
<B−4>
上記B−1の合成において1,3−ベンゼンジオールの代わりに4,4’−ビフェノールを使用した他は、B−1と同様の製法で製造して一般式(25)で表されるB−4を得た:
【化27】
【0077】
(B)成分の組成、平均重合度を下記表1に示す:
【表1】
【0078】
(C)〜(F)成分
X−1:東京化成工業(株)製、商品名:2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾー ル
【化28】
【0079】
X−2:東京化成工業(株)製、商品名:2,2’−メチレンビス(6−シクロヘキシ
ル‐p−クレゾール)
【化29】
【0080】
X−3:(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブ AO−50
【化30】
【0081】
X−4:チバ・ジャパン(株)製、商品名:IRGANOX L135
【化31】
【0082】
X−5:東京化成工業(株)製、商品名:ジフェニルアミン
【化32】
【0083】
X−6:チバ・ジャパン(株)製、商品名:IRGANOX L57
【化33】
(R’’、R’’’:水素原子、ターシャリーブチル基、オクチル基の混合物)
【0084】
X−7:チバ・ジャパン(株)製、商品名:IRGANOX L06
【化34】
【0085】
比較添加成分
Y−1:関東化学(株)製、商品名:4−ノニルフェノール
【化35】
【0086】
Y−2:関東化学(株)製、商品名: フェノール
【化36】
【0087】
Y−3:東京化成工業(株)製、商品名:1,3,5−トリメチルベンゼン
【化37】
【0088】
Y−4:(株)ADEKA製、商品名:アデカプルーバー T−90
【化38】
【0089】
Y−5:東京化成工業(株)製、商品名:アニリン
【化39】
【0090】
Y−6:東京化成工業(株)製、商品名:p−トルイジン
【化40】
【0091】
[試験方法]
200mlビーカーに(A)成分100.0g、(B)〜(F)成分を表2、表3に記載の分量取り、90℃で1時間撹拌した。25℃で20時間静置した後、高速4球試験機を用いてASTM D4172に準拠して耐摩耗試験を行った。試験後のボールの摩耗痕径(mm)を測定した。摩耗痕径が小さいほど耐摩耗性が高いことを示す。又、下記条件で透過率を測定した。測定波長における透過率が高いほど均一に溶解していることが分かる。
【0092】
耐摩耗試験条件
試験機器:シェル式高速4球試験機
回転数:1200rpm
荷重:392N
試験温度:75℃
試験時間:60分
【0093】
溶解性試験条件
測定機器:分光光度計 (Jasco Spectrophotometer
B‐530)
測定条件:700nm(光路長1cm、石英セル)
【0094】
【表2】
1):(B)成分〜(F)成分の()内は(A)成分100gに対する添加量(g)を表わす。
【0095】
【表3】
1):(B)成分〜(F)成分の()内は(A)成分100gに対する添加量(g)を表わす。
【0096】
上記結果から、A−1(基油)に対してB−1又はB−2のみ添加した場合、透過率の測定結果から、0.2質量部添加するとB−1又はB−2が溶解しなくなるため、添加量に見合った摩耗低減効果が発揮されないことが判る。一方、A−1に対してB−1又はB−2を0.2質量部添加した場合であっても、X−1〜X−7を添加するとB−1又はB−2が溶解するため、添加量に見合った摩耗低減効果が発揮されることが判る。
【0097】
濁りが少ないほど、均一に溶解し摩耗防止効果を発揮するので、透過率と摩耗防止効果との間には相関関係がある。そのため、摩耗防止効果は透過率で簡便に評価できる。以下、溶解性試験を行った透過率の試験結果を示す。
[試験方法]
200mlビーカーに(A)成分97.8g、(B)成分0.2g、及び(C)〜(F)成分2.0gを入れ、90℃で1時間撹拌した。25℃で20時間静置した後に、表2及び表3と同様の条件で可視光の透過率を測定した。結果を表4に示した。
【0098】
【表4】