特許第5730639号(P5730639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5730639車両用電子制御装置及び車両用電子制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730639
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】車両用電子制御装置及び車両用電子制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/03 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   B60R16/02 670Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-70248(P2011-70248)
(22)【出願日】2011年3月28日
(65)【公開番号】特開2012-201329(P2012-201329A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】堤 寛
【審査官】 加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−143144(JP,A)
【文献】 特開2008−220039(JP,A)
【文献】 特開平08−048195(JP,A)
【文献】 特開平09−312936(JP,A)
【文献】 特開2009−208504(JP,A)
【文献】 特開2000−312444(JP,A)
【文献】 特開平10−166902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源バックアップ構造を備える車両用電子制御装置であって、
前記車両用電子制御装置を総括的に制御する制御部と、
一の外部バッテリーに接続され、前記制御部に電力を供給する制御用電源と、
前記外部バッテリーと前記制御用電源との接続ラインから分岐して接続され、外部に設けられた検知部に電力を供給する検知部用電源と、
前記制御用電源の出力側と前記検知部用電源の出力側とを接続する導通素子と
前記制御用電源と前記導通素子との間に、前記制御用電源側がカソード側となるように接続された整流素子とを備え、
前記制御用電源及び前記検知部用電源のいずれか一方の電源からの電力供給が停止されたときに、前記導通素子が絶縁状態から電気的接続状態となり、他方の電源から前記導通素子を介して前記一方の電源の出力側に電力が供給され
前記制御用電源からの電力供給が停止されたときにのみ、前記検知部用電源から前記導通素子及び前記整流素子を介して前記制御用電源の出力側に電力が供給されることを特徴とする車両用電子制御装置。
【請求項2】
前記制御用電源が故障したときにのみ、前記検知部用電源から前記導通素子及び前記整流素子を介して前記制御用電源の出力側に電力が供給されることを特徴とする請求項記載の車両用電子制御装置。
【請求項3】
前記導通素子は、通常は絶縁状態であり、その両端に所定値以上の電位差が発生したときに、高抵抗状態から低抵抗状態にシフトし、内部に電流が流れることを特徴とする、請求項1記載の車両用電子制御装置。
【請求項4】
複数の電子制御装置を備える車両用電源システムであって、
電源と前記複数の電子制御装置のうちの一の電子制御装置群とを第1ヒューズ素子を介して接続する第1回路と、
前記電源と他の電子制御装置群とを第2ヒューズ素子を介して接続する第2回路とを備え、
前記一の電子制御装置群は、前記第1回路のみならず前記第2回路に接続された少なくとも1つの電子制御装置を有し、
前記少なくとも1つの電子制御装置は、導通素子を介して前記第2回路に接続され、
前記第1回路に設けられた第1ヒューズ素子が切断されたときに、前記第2回路及び前記導通素子を介して、前記少なくとも1つの電子制御装置に電力が供給されることを特徴とする車両用電源システム。
【請求項5】
前記導通素子は、通常は絶縁状態であり、その両端に所定値以上の電位差が発生したときに、高抵抗状態から低抵抗状態にシフトし、内部に電流が流れることを特徴とする、請求項4記載の車両用電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電子制御装置及び車両用電子制御システムに関し、特に、内蔵された複数電源のバックアップ構造を備える車両用制御装置及び車両用電子制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両には、エンジン、ワイパー、パワーウィンドウ、ライト等の各種機器・装置を電気的に制御する、ECU(Electrical Control Unit)と呼ばれる電子制御装置が複数搭載されている。このようなECUのうち、外気温等を検知するセンサ機能を有するものの場合には、内部にECU制御用電源とセンサ用電源とを備えているものがある。
【0003】
図5は、一般的なECUの構成を概略的に示すブロック図である。
【0004】
図5において、ECU50は、該ECUを総括的に制御するマイコン51と、ダイオード52を介して外部のバッテリー61に接続され、マイコン51に電力を供給するECU制御用電源53と、ダイオード52を介してバッテリー61に接続され、電源の被供給体である温度センサ63に電力を供給するセンサ用電源54と、マイコン51に接続され、他のECUと送受信可能に接続されたCAN通信回路55と、マイコン51からの出力によってモーター64及びランプ65をそれぞれ駆動する駆動素子56,57とを備える。また、マイコン51にはワイパースイッチ62に加え、パワーウィンドウスイッチ、テールランプスイッチ等の各種スイッチが接続されている。
【0005】
ここで、センサ用電源54は、ECU50の外部に設けられた温度センサ63に出力するため、その出力端で地絡(GNDショート)する可能性がある。例えば、ECU制御用電源とセンサ用電源が一つの供給部で構成されていると、センサ用電源の出力端が地絡した場合にはECU制御用電源も地絡し、その結果ECU50全体が動作不能となる。本構成によれば、ECU制御用電源53とセンサ用電源54が別々に構成されているので、センサ用電源54が地絡してもECU制御用電源53が地絡することはなく、ECU50全体が動作不能となるのを回避することが可能となっている。
【0006】
また、図5の構成において、ECU制御用電源やセンサ用電源が複数設けられていることから、これら電源のうちいずれかが故障した場合には、速やかに他の供給部から電力が供給されるように構成したいという要望がある。この要望に応えるべく、例えば、図6に示すように、ECU60においてECU制御用電源53の出力側とセンサ用電源54の出力側とを電気的に接続する接続部58を設ける構成が考えられる。しかしながら、本構成の場合、いずれか1つの電源が地絡した場合にはECU60全体が動作不能となってしまうことから、ECU制御用電源53とセンサ用電源54を別々に構成した意味がなくなり、上記当初の課題を達成することができない。
【0007】
図7は、従来の電源システムにおける制御構造を概略的に示すブロック図である。
図7の電源システム70は、直流電源71と、負荷72と、直流電源71及び負荷72の間に接続される開閉器としてのシステムリレーSR1,SR2とを備えている。イグニッションオフ時のシステムリレーオフ制御では、負荷72の動作が停止されてシステムリレーSR1,SR2の停止条件が成立した時点でECU間の通信を停止しても、ECU75により負荷74を動作することが可能となっている。すなわち、第1の負荷である負荷72の動作が停止された後にECU間での双方向通信を行なうことなく、第2の負荷である負荷74の出力徐減処理を実行することができる。特に、負荷74がパワーステアリング装置である場合には、操舵アシスト力の急激な減少を防ぐことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−176393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図7の電源システムでは、第1の負荷の動作停止後に、複数のECU間で双方向通信を行うことなく第2の負荷の動作必要時間に電力を供給するのにとどまる。すなわち、図7の構成では、複数のECUのうちいずれかが故障した場合に、他のECUから電力を供給することはできず、ECUにおける制御用電源或いはセンサ用電源が動作不能となる可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、地絡や電源の故障等が発生してもECUにおける制御用電源或いはセンサ用電源をバックアップすることができ、加えて製造コストの増大を抑制することができる車両用電子制御装置及び車両用電子制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するために、本発明に係る車両用電子制御装置は、電源バックアップ構造を備える車両用電子制御装置であって、前記車両用電子制御装置を総括的に制御する制御部と、一の外部バッテリーに接続され、前記制御部に電力を供給する制御用電源と、前記外部バッテリーと前記制御用電源との接続ラインから分岐して接続され、外部に設けられた検知部に電力を供給する検知部用電源と、前記制御用電源の出力側と前記検知部用電源の出力側とを接続する導通素子と、前記制御用電源と前記導通素子との間に、前記制御用電源側がカソード側となるように接続された整流素子とを備え、前記制御用電源及び前記検知部用電源のいずれか一方の電源からの電力供給が停止されたときに、前記導通素子が絶縁状態から電気的接続状態となり、他方の電源から前記導通素子を介して前記一方の電源の出力側に電力が供給され、前記制御用電源からの電力供給が停止されたときにのみ、前記検知部用電源から前記導通素子及び前記整流素子を介して前記制御用電源の出力側に電力が供給されることを特徴とする。
【0014】
さらに、前記制御用電源が故障したときにのみ、前記検知部用電源から前記導通素子及び前記整流素子を介して前記制御用電源の出力側に電力が供給される。
【0015】
また、本発明に係る車両用電子制御システムは、複数の電子制御装置を備える電子制御システムであって、電源と前記複数の電子制御装置のうちの一の電子制御装置群とを第1ヒューズ素子を介して接続する第1回路と、前記電源と他の電子制御装置群とを第2ヒューズ素子を介して接続する第2回路とを備え、前記一の電子制御装置群は、前記第1回路のみならず前記第2回路に接続された少なくとも1つの電子制御装置を有し、前記少なくとも1つの電子制御装置は、導通素子を介して前記第2回路に接続され、前記第1回路に設けられた第1ヒューズ素子が切断されたときに、前記第2回路及び前記導通素子を介して、前記少なくとも1つの電子制御装置に電力が供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る車両用電子制御装置によれば、制御用電源及び検知部用電源のいずれか一方の電源からの電力供給が停止されたときに、導通素子が絶縁状態から電気的接続状態となり、他方の電源から導通素子を介して一方の電源の出力側に電力が供給されるので、地絡や電源の故障等が発生しても制御用電源或いはセンサ用電源をバックアップすることができる。また、制御用電源の出力側と検知部用電源の出力側との間に導通素子を設けるといった簡単な構成であるため、製造コストの増大を抑制することができる。さらに、制御用電源と検知部用電源とを別個に設けているため、検知部用電源が地絡しても制御用電源が地絡することはなく、電子制御装置全体が動作不能となるのを回避することができる。
【0017】
また、制御用電源と導通素子との間に、制御用電源側がカソード側となるように接続された整流素子が設けられ、制御用電源からの電力供給が停止されたときにのみ、検知部用電源から導通素子及び整流素子を介して制御用電源の出力側に電力が供給される。したがって、制御用電源を確実にバックアップすることができる。
【0018】
また、本発明に係る車両用電子制御システムによれば、一の電子制御装置群は、第1回路のみならず第2回路に接続された少なくとも1つの電子制御装置を有しており、該少なくとも1つの電子制御装置が導通素子を介して第2回路に接続される。そして、第1回路に設けられた第1ヒューズ素子が切断されたときに、第2回路及び導通素子を介して、少なくとも1つの電子制御装置に電力が供給される。すなわち、通常時には、上記少なくとも1つの電子制御装置に第2経路を介して電力が供給されず、第1ヒューズ素子の切断時に、第2経路を介して電力が供給される。したがって、第2経路を第1経路のバックアップ回路として機能させることができ、第2ヒューズ素子の容量を小さくすることが可能となり、ひいては電線の細径化を実現することによって、車両の軽量化、燃費改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る車両用電子制御装置の構成を概略的に示す図である。
図2】複数の電源制御装置(ECU)に電力を供給するための従来の車両用電源システムの構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る車両用電源システムの構成を模式的に示す図である。
図4図1おけるECUの構成の変形例を示す図である。
図5】一般的なECUの構成を概略的に示すブロック図である。
図6】一般的なECUの他の構成を概略的に示すブロック図である。
図7】従来の電源システムにおける制御構造を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用電子制御装置の構成を概略的に示す図である。
図1において、車両用電子制御装置(以下、ECUという)100は、自動車等の車両内においてECU200,300,・・・と共に搭載される制御装置の1つであり、車両に装備されているワイパー、パワーウィンドウ、ランプ等の各種装置を制御する。ECU100に接続されるECU200,300,・・・は、車両の他の機能、例えばABS、EFI、ECS等の各種制御を実行する。
【0022】
ECU100は、該ECUを総括的に制御するマイコン11(制御部)と、ダイオード12を介して外部のバッテリー161に接続され、マイコン11に電力を供給するECU制御用電源13と、ダイオード12を介してバッテリー161に接続され、外部に設けられた温度センサ163(検知部)に電力を供給するセンサ用電源14(検知部用電源)と、マイコン11に接続され他のECUと送受信可能に接続されたCAN通信回路15と、マイコン11からの出力によってモーター164及びランプ165をそれぞれ駆動する駆動素子16,17とを備える。また、マイコン11には外部に設けられたワイパースイッチ162に加え、パワーウィンドウスイッチ、テールランプスイッチ等の各種スイッチが接続されている。本実施形態では、ECU制御用電源13及びセンサ用電源14の出力電圧は共に5Vである。
【0023】
ECU100では、ECU制御用電源13とセンサ用電源14とを設けることで、マイコン11に電力を供給する電源と外部に電力を供給する電源とを分離している。よってセンサ用電源14の出力端が地絡した場合であっても、ECU制御用電源13の地絡を防止することができ、ECU100全体が動作不能となるのを防止することができる。なお、図1には図示していないが、ECU100内にはECU制御用電源13が複数設けられ、センサ用電源14も複数設けられている。但し、ECU制御用電源13は少なくとも1つ設けられていればよく、センサ用電源14も同様に少なくとも1つ設けられていればよい。
【0024】
また、本実施形態では、ECU制御用電源13の出力側及びセンサ用電源14の出力側に接続された導通素子18を備えている。導通素子とは、通常は絶縁状態にあり、その両端に所定の電位差が発生した場合、高抵抗状態から低抵抗状態にシフトし、内部に電流が流れるように構成されたものである。ECU100では、導通素子18の両端に所定値以上の電位差が発生した場合、導通素子18が短絡状態となり、ECU制御用電源13の出力側及びセンサ用電源14の出力側が電気的に接続される。導通素子18は、煩雑な回路を設ける必要がなく、パッシブ型の素子として簡便に取り付けることができる点で有利である。
【0025】
上記のように構成されるECU100において、ECU制御用電源13が断線等によりオープン故障すると、ECU制御用電源13の抵抗が増大し、導通素子18の両端に電位差が発生して導通素子18が短絡状態となる。これにより、センサ用電源14の出力側がECU制御用電源13の出力側に電気的に接続され、マイコン11における電源電圧の入力ポート(VDD)に電気的に接続されることとなる。よって、センサ用電源14はECU制御用電源13のバックアップ用電源として機能し、センサ用電源14からマイコン11に電力が供給される。
【0026】
一方、センサ用電源14が断線等によりオープン故障すると、センサ用電源14の抵抗が増大し、導通素子18の両端に電位差が発生して導通素子18が短絡状態となる。これにより、ECU制御用電源13の出力側がセンサ用電源14の出力側に電気的に接続され、マイコン11における電源電圧の入力ポート(AD_ref)に電気的に接続されることとなる。よってこの場合には、ECU制御用電源13はセンサ用電源14のバックアップ用電源として機能し、ECU制御用電源13からマイコン11に電力が供給される。
【0027】
すなわち、ECU制御用電源13及びセンサ用電源14の両電源の出力端を導通素子18を介して接続することにより、両電源のうちいずれかが故障した場合に、他の電源から一方の電源の出力側に電力を供給することが可能となっており、双方向での電源のバックアップを実現している。
【0028】
本実施形態によれば、ECU制御用電源13及びセンサ用電源14のいずれか一方の電源からの電力供給が停止されたときに、導通素子18が絶縁状態から電気的接続状態となり、他方の電源から導通素子18を介して一方の電源の出力側に電力が供給されるので、地絡や電源の故障等が発生してもECU制御用電源13或いはセンサ用電源14をバックアップすることができる。また、ECU制御用電源13の出力側とセンサ用電源14の出力側との間に導通素子18を設けるといった簡単な構成であるため、製造コストの増大を抑制することができる。さらに、ECU制御用電源13とセンサ用電源14とを別個に設けているため、センサ用電源14が地絡してもECU制御用電源13が地絡することはなく、ECU100全体が動作不能となるのを回避することができる。
【0029】
次に、導通素子を所定のECUに内蔵する構成により、ECU制御用電源13及びセンサ用電源14の各電源の動作不能を防止するだけでなく、バッテリー161と複数のECU100,200,300,・・・ とを接続する電源回路構成を以下のように改善することが可能となる。
【0030】
図2は、複数のECUに電力を供給するための従来の車両用電源システムの構成を模式的に示す図である。
図2において、例えば4つのECU(A)〜ECU(D)(一の電子制御装置群)はヒューズAに接続されており、ヒューズAはヒューズCを介して電源に接続されている。また、ECU(C)〜ECU(F)(他の電子制御装置群)は、ヒューズBに接続されており、該ヒューズBはヒューズCを介して電源に接続されている。ECU(A)〜ECU(D)のうち、ECU(C)及びECU(D)は重要なECUと位置付けられており、それぞれヒューズAが介在するラインとヒューズBが介在するラインとに接続されている。すなわち、ECU(C)及びECU(D)には、それぞれヒューズA及びヒューズBが設けられた2つのラインにより電力を供給している。したがって、ヒューズA及びヒューズBのいずれか一方が溶断された場合には、他方のヒューズが設けられたラインからECU(C)及びECU(D)に電力が供給される構成となっている。
【0031】
上記のように構成される電源回路構成において、各ECUの定格電流が例えば2A(アンペア)である場合、ヒューズAの容量は次のように算出される。
・2.0[A/個]×4[個]=8.0[A]
・8.0[A]/0.5=16[A] < 20[A](但し、0.5は安全係数)
∴(ヒューズAの容量)=20[A]
また、ヒューズBの容量は、ヒューズAと同様にして、(ヒューズBの容量)=20[A]と算出される。よって、本従来の電源回路構成では、ヒューズA及びヒューズB共に、20アンペアの容量のヒューズを選定する必要がある。
【0032】
図3は、本発明の第2実施形態に係る車両用電源システムの構成を模式的に示す図である。
図3において、ECU(C)及びECU(D)は重要なECUと位置付けられており、それぞれヒューズA(第1ヒューズ素子)が介在するライン(第1回路)とヒューズB(第2ヒューズ素子)が介在するライン(第2回路)とに接続されている点は、図2の電源回路構成と同一である。図3におけるECU(C)及びECU(D)(少なくとも1つの電子制御装置)にそれぞれ導通素子が装備されている点で異なる。ヒューズBが設けられたラインは、ECU(C)及びECU(D)に導通素子を介して接続されている。
【0033】
この電源回路構成では、ヒューズAが設けられたラインでは、ECU(A)〜(D)に電力が供給されている。また、ヒューズBが設けられたラインでは、ECU(C)及びECU(D)にそれぞれ導通素子が設けられているため、通常、ECU(C)及びECU(D)には電力が供給されておらず、ECU(E)及びECU(F)にのみ電力が供給されている。そして、ヒューズAが溶断等によって切断された場合には、ECU(C)及びECU(D)の導通素子が短絡状態となり、ヒューズBが設けられたラインにて、ECU(E)及びECU(F)のみならず、ECU(C)及びECU(D)にも電力が供給される。
【0034】
よって、常に電力供給を確保したい重要なECUに導通素子を装備し、該導通素子を介して他の電力供給ラインと接続しておくことにより、通常の電力供給ラインと異なる他の電力供給ラインをバックアップラインとして機能させることができる。この結果、バックアップラインにおけるケーブルの細径化やヒューズ容量の減少を実現することが可能となる。具体的には、図3の電源回路構成にて、ヒューズBの容量を次のように算出することができる。
・2.0[A/個]×2[個]=4.0[A]
・4.0[A]/0.5=8.0[A] < 10[A](但し、0.5は安全係数)
∴(ヒューズBの容量)=10[A]
なお、ヒューズAの容量は、図2のヒューズAと同一であり、(ヒューズAの容量)=20[A]と算出される。
【0035】
したがって、本実施形態に係る車両用電源システムでは、図2の従来の車両用電源システムと比較して、ヒューズBの容量を20Aから10Aと約50%減少させることが可能となる。また、ヒューズBの容量減少に伴い、ヒューズBの出力端からECU(C)〜ECU(F)への分岐点までのケーブル(図2における「A」の部分)の細径化を実現することも可能となる。また、電線を細径化することにより、車両の軽量化、燃費改善が可能となる。
【0036】
尚、ヒューズBは、本来必要な容量より小さいものが選定されるため、ヒューズAが溶断された場合には十分な容量を有しているとは言えないが、ヒューズBの出力端からECU(C)〜ECU(F)への分岐点までのケーブルを保護することは可能である。また、ECU100に、ランプや音、文字表示等により故障を通知する通知手段が設けられていてもよい。この構成によれば、ヒューズAが溶断された場合に、ヒューズAが溶断されたことをユーザに速やかに通知することができ、ユーザがヒューズAの溶断状態にてECUを使用し続けることを防止することが可能となる。
【0037】
図4は、図1におけるECU100の構成の変形例を示す図である。尚、図4に示すECUの構成は、図1に示すECU100の構成と基本的に同じであり、対応する要素については同一の番号を付してそれらの説明を省略する。
【0038】
図4において、ECU110は、ECU制御用電源13と導通素子18との間に、ECU制御用電源13側がカソード側、導通素子18側がアノード側となるように接続されたダイオード(整流素子)19を更に備えている。
【0039】
ECU110の構成では、ECU制御用電源13が故障した場合に、センサ用電源14から導通素子18及びダイオード19を介してECU制御用電源13の出力側に電力が供給される。すなわち、ダイオード19においてカソード側であるECU制御用電源13側がアノード側より低電圧となった場合にのみ、ダイオード19の整流作用によって導通素子18が短絡状態となる。これにより、センサ用電源14の出力側がECU制御用電源13の出力側に電気的に接続され、マイコン11における電源電圧の入力ポート(VDD)に電気的に接続されることとなる。
【0040】
本変形例によれば、ECU制御用電源13と導通素子18との間に、ECU制御用電源13側がカソード側となるように接続されたダイオード19が設けられ、ECU制御用電源13が故障したときにのみ、センサ用電源14から導通素子18及びダイオード19を介してECU制御用電源13の出力側に電力が供給される。したがって、ECU制御用電源13を確実にバックアップすることができる。
【0041】
尚、上記実施形態では、ECU100は、ECU制御用電源13及びセンサ用電源14のうちいずれか一方が故障した場合に、他方の電源から一方の電源に電力を供給するが、これに限るものではない。ECU制御用電源13及びセンサ用電源14のうちいずれか一方からの電力供給が停止した場合に、他方の電源から一方の電源に電力を供給するものであってもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、ECU110は、ECU制御用電源13が故障した場合にのみ、センサ用電源14から導通素子18及びダイオード19を介してECU制御用電源13の出力側に電力が供給するが、これに限るものではない。ECU制御用電源13からの電力供給が停止した場合にのみ、センサ用電源14から導通素子18及びダイオード19を介してECU制御用電源13の出力側に電力を供給するものであってもよい。
【0043】
上記実施形態では、センサ用電源14は温度センサ163に接続されているが、これに限るものではなく、燃料の残量センサ、ミラー鏡面の角度センサ、シートポジションセンサ、チルト&テレスコピック調整センサ、照度センサ(オートライト用)、間欠ワイパーの時間設定ボリュームSW(ステアリングSW)等に接続されていてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、ECU制御用電源13と導通素子18との間にダイオード19が設けられるがこれに限るものではなく、一方向にのみ電流を流す整流作用をもたらす整流素子であれば如何なる構成であってもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、センサ用電源14は外部に設けられた温度センサ163に電力を供給するが、これに限るものではない。電源の被供給体となる他の検知部が設けられてもよく、センサ用電源14は当該他の検知部に電力を供給するものであってもよい。
【0046】
また、本実施形態は、本発明に係る車両用電子制御装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における車両用電子制御装置の細部構成に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0047】
11 マイコン
12 ダイオード
13 ECU制御用電源
14 センサ用電源
15 CAN通信回路
16,17 駆動素子
18 導通素子
19 ダイオード
100,200,300 ECU
161 バッテリー
162 ワイパー
163 温度センサ
164 モーター
165 ランプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7