【実施例】
【0042】
次に、本発明の光ドロップケーブルの支持線の降伏点強度とシースの樹脂の静摩擦係数の影響を調査した。調査内容は、外径1.2mmの亜鉛メッキ鋼線を支持線として、鋼線の降伏点とシースの樹脂の静摩擦係数を複数水準に変更して、それぞれの支持線を有する光ドロップケーブルの取り扱い作業性等を評価した。なお、使用した光ドロップケーブルは、支持線部の外径が2.0mm、心線部の外径が3.1×2mmとし、外径0.5mmのテンションメンバ(材質アラミドFRP)のものを用いた。対象としたサンプルおよび結果を表1〜3に示す。なお、表1に示すサンプル1〜8は、シース樹脂のJIS K 7125による静摩擦係数が0.48のものであり、表2に示すサンプル9〜16は、同じく静摩擦係数が0.20のものであり、表3に示すサンプル17〜24は、同じく静摩擦係数が0.12のものである。シース樹脂の静摩擦係数は、シース樹脂に添加するシリコーン樹脂等の添加剤の量を増減することによって調整した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
引留具への巻き付け作業性は以下のようにして評価した。まず、50m以上の光ドロップケーブルを用意し、片端の支持線を引留具にてケーブル支柱Aに巻き付け固定した(巻付け方法および引留具の形状は
図3(a)に示す通りとした)。引留具に巻き付ける部分では、光ドロップケーブルは連結部を引裂き、支持線部と心線部とを分離し、支持線部のみを引留具に巻き付けた。
【0047】
次に、ケーブル支柱Aから40m離れたケーブル支柱Bにて逆端の光ドロップケーブル(支持線部)を手で引張りながら弛度を約50cmになるように調整しながら同様の引留具にて1度目の巻き付け固定を行った(引留具への巻き付け作業性(1回目))。
【0048】
次にケーブル支柱Bで巻き付け固定した支持線部を一度開放し、今度は弛度が約40cmになるように調整しながら再度、同様の方法で引留具に2度目の巻き付け固定を行った(引留具への巻き付け作業性(2回目))。
【0049】
図4は、巻き付けられた支持線部13の状態を示す概略図である。支持線部13を引留具に巻き付けた際に、各保持部において引留具と支持線部との間に生じる隙間(例えば図中C)を測定した。なお、隙間は、図示した位置に限られず、他の巻付け位置において生じたものも含む。
【0050】
「引留具への巻き付け作業性(1回目)」は、1度目の巻き付け固定に際し、問題なく巻き付けられたものを○、巻き付け自体は可能なものの、反発力が大きく、巻き付けた後に支持線部と引留具の間に1mm以上の隙間ができてしまったものを△、反発力が大きく、巻き付けた後に支持線部と引留具の間に2mm以上の隙間ができてしまったものを×とした。
【0051】
また、「引留具への巻き付け作業性(2回目)」は、2度目の巻き付け固定に際し、問題なく巻き付けられたものを○、巻き付け自体は可能なものの、1度目の巻き付けによる曲げ癖が大きく、巻き付けた後に支持線部と引留具の間に1mm以上の隙間ができてしまったものを△、反発力が大きく、巻き付けた後に支持線部と引留具の間に2mm以上の隙間ができてしまったものを×とした。
【0052】
また、「振動試験後の引留具での支持線の滑り」は以下のようにして評価した。まず、
図5に示すように、径間40mの柱19間に光ドロップケーブルを弛度40cmで布設した。光ドロップケーブルの両端は、
図3(a)と同様の方法により引留具23aで固定した。径間の中央部に加振機33を設置し、振幅12.5cm、振動数2Hz、振動回数10万回で光ドロップケーブルを加振した。引留具に巻き付けた支持線部にはあらかじめマーキングをしておき、加振前後での滑り量を測定した。
【0053】
また、「ボビンからの繰り出し後の曲げ癖」は以下のようにして評価した。まず、
図6(a)に示すように、胴径250mm、内幅280mmの樹脂性のボビン35に1000mの光ドロップケーブルを巻き取った。ボビン35は、直径51mmのボビン軸穴に直径40mm丸棒を差し込んだサプライスタンドに設置した。ボビン35から手引きで約30m/分の速度で光ドロップケーブル1を繰り出して曲げ癖を評価した。
【0054】
繰り出し後の光ドロップケーブルにおいて、曲げ癖の生じた箇所の直線性を測定した。曲げ癖の測定は、
図6(b)に示すように、曲げ癖の生じた任意の箇所の光ドロップケーブル1に対し、負荷が掛からない状態で放置して、曲げ癖の生じている箇所を中心とした1m(図中E)に対して円弧の高さ(図中F)を測定した。円弧の高さが200mmを超えるものを曲げ癖が大きいと判断し、全1000mの測定に対して、200mmを超える曲げ癖が生じていた箇所を数えた。
【0055】
また、「2号金車通過後の曲げ癖」は、以下のようにして評価した。まず、
図7に示すように、ボビン35に巻き取られた光ドロップケーブル1を、略垂直に繰り出して、地上高6.4mの位置に設置した金車37(2号金車)に掛け、金車37を経由して約90度転向させて、略水平方向に100m分を手引きで約30m/分の速度で引っ張った。引っ張った後の光ドロップケーブル1に対して、
図6(b)と同様の方法で曲げ癖を測定し、円弧の高さが200mmを超えるものを曲げ癖が大きいと判断し、全100mの測定に対して、200mmを超える曲げ癖が生じていた箇所を数えた。
【0056】
表1〜3から明らかなように、支持線の降伏点強度が1880MPa以下であれば、引留具への1回目の巻付け作業性に優れることが分かった。また、降伏点強度が1430MPa以下であれば、引留具への2回目の巻付け作業であっても作業性に優れることが分かった。
【0057】
また、静摩擦係数が0.20以上である、サンプル1〜16に対しては、支持線の降伏点強度が725MPa以上であれば、「振動試験後の引留具での支持線の滑り」、「ボビンからの繰り出し後の曲げ癖」、「2号金車通過後の曲げ癖」ともに、大きく改善され、さらに、支持線の降伏点強度が905MPa以上であれば、巻癖や滑り等の発生がほとんど見られなかった。
【0058】
なお、静摩擦係数が0.20未満である、サンプル17〜24は、支持線の降伏点強度が905MPa以上であっても、引留具での滑りの発生が多く見られた。
【0059】
このように、本発明によれば、従来のように破断強度のみを規制するのではなく、降伏点強度によって支持線の機械的性質を限定し、さらにシース樹脂の静摩擦係数を限定するため、良好な布設作業性を確保したまま、布設後に引留具からの滑りや抜けを抑え、布設時に曲げ癖の発生を抑えたケーブル架空添架用支持線及び光ドロップケーブルを提供することができる。
【0060】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
例えば、光ドロップケーブル1は、光ファイバ心線3を1本とした態様を示したが、本発明の光ドロップケーブル1において光ファイバ心線3の本数は1本に限定されず、2本以上の所望の本数を採用することができる。また、複数本数の光ファイバ心線3からなる光ファイバユニットを採用してもよい。
【0062】
また、光ドロップケーブル1にはノッチ15を形成したが、ノッチ15は必ずしもなくてもよい。さらに、ノッチ7の形状も、断面視が三角形状の態様を示したが、これには限定されず、台形状、半円状、鋭利刃傷形状等、任意の形状のノッチを形成することができる。