【実施例】
【0038】
実施例1.
【0039】
硫酸(H
2SO
4):100g/l、硫酸銅五水和物(CuSO
4 ・5H
2O):280g/lの硫酸−硫酸銅水溶液からなる電解液を調整した(以下、この電解液を「基本電解液」という。)。
基本電解液に表1の実施例1に示す添加剤A〜Dを添加し電解液とした。
【0040】
これらの添加剤を含む電解液を白金属酸化物にて被覆したチタンからなる不溶性陽極と陰極であるチタン製陰極ドラムとの間に充填し、電解電流密度:50A/dm
2 、電解液温:60℃にて電析し、厚さ18μm の低粗面電解銅箔を製箔した。
【0041】
得られた電解銅箔(未処理電解銅箔)に対して次の各測定試験を行った。
1.電着完了時点から24時間以内に25℃における抗張力(MPa)及びヤング率(GPa)を測定した。
2.180℃×1時間加熱し、常温(25℃)に戻ってから、抗張力(MPa)及びヤング率(GPa)を測定した。
3.300℃×1時間加熱し、常温(25℃)に戻ってから、抗張力(MPa)及びヤング率(GPa)を測定した。
【0042】
なお、前記各抗張力(MPa)及び各ヤング率(GPa)は、IPC−TM−650に基づきインテスコ社製の2001型引張試験機を用いて測定した。そして、前記測定結果を用いて300℃1時間加熱処理を施した後の常温25℃におけるヤング率の低下率(%)を算出した。また、光沢面、粗面の表面粗さRzをJISB0601に基づき小坂研究所製のサーフコーダーSE1700αを用いて測定した。各測定試験の結果を表2に示す。
【0043】
実施例2〜8、比較例1〜8
【0044】
添加剤の種類と基本電解液に対する添加濃度及び電解電流密度と電解液温を表1に示すとおりに変更した外は、前記実施例1と同じ条件で厚さ18μmの電解銅箔を製箔した。そして、得られた各電解銅箔(未処理電解銅箔)に対して前記実施例1と同じ各測定試験を行った。各測定試験の結果を表2に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
実施例、比較例で製箔した銅箔の電池性能を向上させるために、必要により光沢面に粗化処理を施し、光沢面の表面粗さと粗面の表面粗さとの差を3%以下とした。
光沢面の粗化処理は次の通りである。
電流密度40〜55A/dm
2
浴温度45〜60℃
なお、粗面にも粗化処理を施し、光沢面、粗面共に粗化処理して両面の粗度を近似させることも可能である。
【0048】
各実施例、比較例で製箔した銅箔を集電体としてリチウムイオン二次電池用負極を次のようにして作成した。
粉末状のSi合金系活物質(平均粒径0.1μm〜10μm)を90重量%、結着材としてポリイミド系バインダを10重量%の割合で混合して負極合剤を調整した。次いで、この負極合剤を溶剤であるN−メチルピロリドンに分散させてスラリーにした。このスラリーを実施例、比較例で製作した厚さ12μmの帯状の電解銅箔の両面に塗布し、300℃×1時間以上、熱ローラープレス機で加熱・圧縮形成し帯状負極とした。この帯状負極は、成形後の負極合剤の膜厚が両面共に90μm、その幅が55.6mm、長さが551.5mmに形成し、負極電極とした。
【0049】
次に、正極は次にようにして作製した。
正極活物質(LiCoO
2)は、炭酸リチウム0.5モルと炭酸コバルト1モルと混合し、空気中で900℃、5時間焼成してLiCoO
2を得た。
この正極活物質(LiCoO
2)を91重量%、導電剤としてグラファイトを6重量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3重量%の割合で混合して正極合剤を作製し、これをN−メチル−2ピロリドンに分散してスラリー状とした。次に、このスラリーを厚み20μmの帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布し、乾燥後ローラープレス機で圧縮成形して厚み160μmの帯状正極とした。この帯状正極は、成形後の正極合剤の膜厚が表面共に70μm、その幅が53.6mm、長さが523.5mmに形成し、正極電極とした。
【0050】
このようにして作製した帯状正極と、帯状負極と、厚さが25μm、幅が58.1mmの微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータと積層し、積層電極体とした。この積層電極体は、その長さ方向に沿って負極を内側にして渦巻型に多数回巻回し、最外周セパレータの最終端部をテープで固定し、渦巻式電極体とした。この渦巻式電極体の中空部分は、その内径が3.5mm、外形が17mmに形成された。
上述のように作成した渦巻式電極体を、その上下両面に絶縁板が設置された状態で、ニッケルメッキが施された鉄製の電池缶に収納した。そして、正極及び負極の集電を行うために、アルミニウム製の正極リードを正極集電体から導出して電池蓋に接続し、ニッケル製の負極リードを負極集電体から導出して電池缶に接続した。
この渦巻式電極体が収納された電池缶に、プロピレンカーボネイトとジエチルカーボネイトとの等容量混合溶媒中にLiPF
6を1モル/lの割合で溶解した非水電解液5.0gを注入し、アスファルトで表面を塗布された絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめて電池蓋を固定し、電池缶内の気密性を保持させた。
以上のようにして、直径18mm、高さ65mmの円筒形非水電解液二次電池を作成し、この非水電解液二次電池における負極の評価を次の方法により温度25℃で行った。
【0051】
(1)充放電試験(活物質と集電体の密着性の評価)
初回条件
充電:0.1C相当電流で定電流充電し、0.02V(対Li/Li+)到達後、定電位充電し、充電電流が0.05C相当に低下した時点で終了した。
放電:0.1C相当電流で定電流放電し、1.5Vになった時点で終了した。
充放電サイクル条件
初回充放電試験を実施した後、同じ0.1C相当電流で100サイクルまで充放電を繰り返した。
充放電試験の判定は、充放電100サイクル後放電容量保持率が30%以上を合格として○、それ以外を不合格として×とし、結果を表2に示す。
なお、サイクル後放電容量保持率は次式で算出した。
(各サイクル後放電容量保持率%)=[(各サイクル後の放電容量)/(最大放電容量)]×100
【0052】
表2から明らかなように実施例1〜8は粗面の表面粗さRzが2.5μm以上10μm以下であり、常態での抗張力が680MPa以上、ヤング率が55以上90GPa以下であり、300℃1時間加熱後の抗張力が300以上、ヤング率が48以上80GPa以下であり、加熱前と加熱後のヤング率の低下率は20%以下であった。
【0053】
これに対し比較例1は基本電解液に添加するポリエチレンイミドの分子量が70000と大きいため、加熱後の抗張力が落ち、ヤング率も48GPa以下となり、充放電効率も満足できないものとなった。
比較例2は基本電解液にポリエチレンイミドを添加しなかったために、加熱前のヤング率が満足できず、また、加熱後の抗張力が落ち、ヤング率も48GPa以下となり、充放電効率も満足できないものとなった。
【0054】
比較例3は基本電解液に添加するポリエチレンイミドの分子量は適正であったがその配合量が多いため、加熱前のヤング率が満足できず、また、加熱後の抗張力が極端に落ち、ヤング率も48GPa以下となり、充放電効率も満足できないものとなった。
比較例4は基本電解液に添加する塩素イオンの量が多かったために、加熱後の抗張力が著しく低下し、充放電効率が満足できないものとなった。
【0055】
比較例5は基本電解液に添加するポリエチレングリコールの添加量が少なすぎたために、加熱後の抗張力が落ち、ヤング率も48GPa以下となり、充放電効率も満足できないものとなった。
比較例6は基本電解液に添加するポリエチレングリコールの添加量が多すぎたために、加熱前の湖張力が満足できず、また、加熱後のヤング率が48GPa以下となり、充放電効率も満足できないものとなった。
【0056】
比較例7は基本電解液に添加するヒドロキシエチルセルロースの分子量が250000と大きいため、加熱前の抗張力、ヤング率共に満足できず、また、加熱後の抗張力が落ち、ヤング率も48GPa以下となり、充放電効率も満足できないものとなった。
比較例8は基本電解液に膠を添加したもので、加熱後の抗張力が極端に落ち、充放電効率も満足できないものとなった。
【0057】
なお、表2には各実施例、各比較例の180度時間加熱後の抗張力とヤング率の測定結果も示している。これらの結果をみると、各例ともに180℃1時間程度の加熱では抗張力、ヤング率共に加熱前と比較して大きな変化は見られず、従ってこれらの銅箔はプリント配線用に使用する場合は好ましく使用できるものである。
【0058】
本発明によれば、硫酸−硫酸銅水溶液からなる電解液に対して塩素イオンと共に、分子量250000以下の有機添加剤であるヒドロキシエチルセルロ−ス、ポリエチレンイミン又はアセチレングリコールのいずれ1種、ポリエチレンイミン、MPS又はSPSを添加したので、粗面が 表面粗さRz3.0以上と粗度化され、300℃加熱処理後のヤング率の低下が20%以内の電解銅箔(未処理電解銅箔)を提供することができる。
【0059】
本発明の電解銅箔は、リチウムイオン二次電池の集電体として要求される下記諸条件、
銅箔の両面の表面粗さRz2.5μm〜10μmを有し、
300℃加熱処理後のヤング率48〜80GPa、抗張力300MPa以上
を満足し、リチウムイオン二次電池用の集電体(銅箔)として優れた効果を有するものである。