(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光ファイバの機械的強度に関する情報であって、パラメータBを含む式を用いて算出される情報を、前記請求項1又は請求項2の第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限Bminに基づいて算出する
光ファイバの機械的強度に関する情報の算出方法。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】杉崎隆一,宮部 亮,八木 健,古河電工時報,第116号,(2005),p.2
【非特許文献2】T. Yasutomi, F. Nakajima, andY. Rintsu, Proc. 53rd IWCS (2004), p. 11
【非特許文献3】冨田 茂,倉嶋利雄,電子情報通信学会誌, 91,(2008), 689
【非特許文献4】立蔵正男,電子情報通信学会論文誌,J94-B,(2011), 738
【非特許文献5】今村勝徳,武笠和則,杉崎隆一,古河電工時報,第128号,(2011),p.11
【非特許文献6】K. Imamura, K. Mukasa, T.Yagi, Proc Optical Fiber Communication Conference, (2009), OTuC3
【非特許文献7】IEC, Technical Report,TR62048, first edition, (2002)
【非特許文献8】Y. Mitsunaga, Y. Katsuyama, H.Kobayashi, Y. Ishiida, J. Appl. Phys., 53 (1982), 4847
【非特許文献9】Y. Mitsunaga, Y. Katsuyama, H.Kobayashi, Y. Ishiida, Electronics and Communications in Japan, 66, (1983), p.79満永 豊,勝山 豊,小林敬和,石田之則,電子情報通信学会論文誌,J66-B,(1983),829
【非特許文献10】谷村康行,絵とき 破壊工学基礎のきそ,日刊工業新聞社,(2009)
【非特許文献11】E. R. Fuller Jr., S. M.Wiedrehorn, J. E. Ritter Jr., P. B. Oates, J. Mater. Sci, 15 (1980) p.2282
【非特許文献12】日本科学技術連盟,信頼性セミナー基礎コース テキスト,(2009)
【非特許文献13】R. Olshansky and R. D.Maurer, J. Appl. Phys., 47, (1976), p.4497
【非特許文献14】Y. Miyajima, J. LightwaveTechnol., LT-1, (1983), p. 340
【非特許文献15】TIA/EIA Standard, FOTP31TIA/EIA-455-31C, (1994)
【非特許文献16】P. Matthijsse, W. Griffioen,Optical Fiber Technol., 11 (2005), p.92
【非特許文献17】T. Volotinen, A. Breuls, N.Evanno, K. Kemeter, C. Kurkjian, P. Regio, S. Semjonov, T. Svenson, S.Glaessemann, Proc. 47th IWCS (1998), p. 881
【非特許文献18】L. K. Baker, Corning WhitePaper, WP5049, (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
<課題1>
光ファイバの機械的強度の信頼性を保証するため、線引き後の光ファイバ素線は、所定の引張応力を加えて低強度部の中で特に強度の弱い箇所を分断するプルーフ試験によってスクリーニングされる。このプルーフ試験では、健全な部分にも応力疲労が加わるため、不適切な条件で実施すると、光ファイバの機械的強度を不必要に損なう可能性がある。
従って、光ファイバの機械的強度の信頼性を保証するためには、適切な条件でプルーフ試験を行う必要がある。
長距離伝送路用の従来の光ファイバでは、研究段階からの膨大なデータの蓄積と経験があったため、これを生かして妥当なプルーフ条件を設定することができたが、新しい構造の光ファイバを早急に実用化する際には、これを期待することは困難である。
このため、妥当なプルーフ試験の条件を速やかに決定することが必要になる。
【0005】
<課題2>
長距離伝送路は社会資本なので、用いられる光ファイバには長期信頼性が要求される。そこで長距離伝送用の光ファイバの機械的強度の保証は、一般に、製造後15年あるいは20年経過時の破断確率で行っている。
【0006】
光ファイバの機械的強度に関する寿命予測の理論については、IEC-TR62048(非特許文献7)が、標準的な文献として挙げられる事が多い。このIECの技術資料は、その基礎のほとんどを、Mitsunagaらの理論(非特許文献8、9参照)に拠っている。
実際には、従来の長距離伝送用光ファイバの機械的強度に関する寿命予測は、長期信頼性について妥当な評価ができる近似式を用いて計算されている。
【0007】
これに対し、前記配線用途では、長期信頼性に加えて、光ファイバを用いて配線材を製造したりこれを布設する作業の最中に光ファイバが断線する事故を防止すること等の観点から、光ファイバには製造後の短い期間における信頼性が求められることがある。すなわち、短い期間の範囲で機械強度の保証が求められる。
ところが、従来の近似式を用いた寿命予測方法では、短い期間について妥当な評価を行えない問題がある。
【0008】
本発明の第1の目的は、新規な光ファイバについても、プルーフ試験の条件設計を適切にかつ速やかに行える方法等を提供することである。
また、本発明の第2の目的は、光ファイバの機械的強度を、使用開始後の間もない時期を含めて、より適切に評価できる情報を算出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための第1の発明は、光ファイバのプルーフ試験の条件設計方法であって、動疲労試験を行い、対象の光ファイバの動疲労係数nを求める第1ステップと、予め除荷による疲労の影響を無視できることを確認済の条件のプルーフ試験で付与された応力の最大値σ
p*及び除荷時間t
u*と、前記第1ステップにおいて求められる動疲労係数nに基づいて、光ファイバ
の寿命予測
としての故障確率を表す式F=1-exp(-H)におけるHについての式(4)に含まれるパラメータBの下限B
minを
式(15)により求める第2ステップと、対象の光ファイバの市場における許容負荷応力と、保証期間とに基づいて、対象の光ファイバに関するプルーフ試験で付与する応力の最大値σ
pを決める第3ステップと、前記第1ステップにおいて求められる動疲労係数nと、前記第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minと、前記第3ステップにおいて決めた応力の最大値σ
pとを、プルーフ試験の成功条件を示
す不等式
(16)に代入して、
前記不等式を満たすように、対象の光ファイバに関するプルーフ試験での除荷時間t
uを決める第4ステップとを実行し、前記第3ステップにおいて決められる応力の最大値σ
pと、前記第4ステップにおいて決められる除荷時間t
uとを、プルーフ試験の条件とするプルーフ試験の条件設計方法である。
第1の発明によって、新規の光ファイバであっても、光ファイバの健全な部分に不要なダメージを与えることのない適切なプルーフ試験の条件で妥当なスクリーニングを早期に実施することが可能になる。
【0010】
第1の発明は、前記第3ステップの後に、プルーフ試験に用いる装置の仕様を考慮して対象の光ファイバに関するプルーフ試験での除荷時間t
uを決める第4´ステップを実行し、その後に、前記第1ステップにおいて求められる動疲労係数nと、前記第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minとが代入されたプルーフ試験の成功条件を示
す不等式
(16)を、前記第3ステップにおいて決められる応力の最大値σ
pと、前記第4´ステップにおいて決められる除荷時間t
uとが満たすか否かを判定する第5ステップを実行し、前記第5ステップにおいて前記所定の不等式を満たすと判定された場合、前記第3ステップにおいて決められる応力の最大値σ
pと、前記第4´ステップにおいて決められる除荷時間t
uとを、プルーフ試験の条件とすることもできる。
これによって、短時間で光ファイバが破断する確率の保証が求められる場合において、プルーフ試験の条件を適切に設計することが可能となる。
【0011】
第2の発明は、光ファイバの機械的強度に関する情報であって、パラメータBを含む式を用いて算出される情報を、前記第1の発明の第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minに基づいて算出する光ファイバの機械的強度に関する情報の算出方法である。
第2の発明によって、光ファイバの機械的強度を、使用開始後の間もない時期を含めて、より適切に評価できる情報を算出できる。
【0012】
第2の発明は、前記第1の発明において求めたプルーフ試験の条件(応力の最大値σ
pと、除荷時間t
u)でスクリーニングされた光ファイバを引っ張り試験に供し、その結果を示す破断強度−累積ハザードのグラフにおいて、高強度部と低強度部とに分けて所定の累積ハザード関数の式へのフィッティングを行い、所定のパラメータを決定する第6ステップと、前記第1ステップにおいて求められる動疲労係数nと、前記第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minと、前記第3ステップにおいて求められる応力の最大値σ
pと、要求仕様としての市場負荷σ
aと、前記第6ステップにおいて求められる所定のパラメータとに基づいて、市場時間t
fpにおける破断寿命確率Fを求めることもできる。
これによって、短時間で光ファイバが破断する確率を算出する場合において、光ファイバの破断寿命確率を適切に評価することが可能となる。
【0013】
また、第2の発明は、第1の発明の第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minに基づいて、ある一定の市場負荷σ
aの下で光ファイバの破断が起きないことを保証できる時間である無故障時間t
fpminを求めることもできる。
これによって、ある一定の市場負荷σ
aの下での無故障時間を適切に算出することができる。
【0014】
また、第2の発明は、第1の発明の第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minに基づいて、希望する時間t
fpの間無故障の状態を維持できる市場負荷σ
aの最大値σ
amaxを求めることもできる。
これによって、希望する時間t
fpの間無故障の状態を維持できる市場負荷σ
aの最大値σ
amaxを適切に算出することができる。
【0015】
第3の発明は、コンピュータに、光ファイバのプルーフ試験の条件設計方法を実行させるためのプログラムであって、前記コンピュータの制御部が、動疲労試験の結果を前記コンピュータの記憶部から読み出し、又は前記コンピュータの入力部を介して入力し、対象の光ファイバの動疲労係数nを求める第1ステップと、前記制御部が、予め除荷による疲労の影響を無視できることを確認済の条件のプルーフ試験で付与された応力の最大値σ
p*及び除荷時間t
u*を前記記憶部から読み出し、又は前記入力部を介して入力し、これらの情報と前記第1ステップにおいて求められる動疲労係数nに基づいて、光ファイバ
の寿命予測
としての故障確率を表す式F=1-exp(-H)におけるHについての式(4)に含まれるパラメータBの下限B
minを
式(15)により求める第2ステップと、前記制御部が、対象の光ファイバの市場における許容負荷応力と、保証期間を前記記憶部から読み出し、又は前記入力部を介して入力し、これらの情報に基づいて、対象の光ファイバに関するプルーフ試験で付与する応力の最大値σ
pを決める第3ステップと、前記制御部が、前記第1ステップにおいて求められる動疲労係数nと、前記第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minと、前記第3ステップにおいて決めた応力の最大値σ
pとを、プルーフ試験の成功条件を示
す不等式
(16)に代入して、不等式を満たすように、対象の光ファイバに関するプルーフ試験での除荷時間t
uを決める第4ステップとを実行し、前記制御部が、前記第3ステップにおいて決められる応力の最大値σ
pと、前記第4ステップにおいて決められる除荷時間t
uとを、プルーフ試験の条件とし、前記コンピュータの出力部に出力するプルーフ試験の条件設計方法を前記コンピュータに実行させるためのプログラムである。
第3の発明のプログラムを汎用のコンピュータにインストールすることによって、第1の発明の光ファイバのプルーフ試験の条件設計方法を実行することができる。
【0016】
第4の発明は、光ファイバの機械的強度に関する情報であって、パラメータBを含む式を用いて算出される情報を、前記第3の発明の第2ステップにおいて求められるパラメータBの下限B
minに基づいて算出する光ファイバの機械的強度に関する情報の算出方法を前記コンピュータに実行させるためのプログラムである。
第4の発明のプログラムを汎用のコンピュータにインストールすることによって、第2の発明の光ファイバの機械的強度に関する情報の算出方法を実行することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、プルーフ試験の条件設計を適切にかつ速やかに行える方法等を提供することができる。
また、本発明により、光ファイバの機械的強度を、使用開始後の間もない時期、すなわち短期間の範囲を含め、より適切に評価できる情報を算出して提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<1.本発明の基礎となる理論>
最初に、本発明の基礎となる理論を説明する。併せて、IEC-TR62048(非特許文献7)の内容を直感的に理解する。
【0020】
まず、Mitsunagaらの寿命予測理論(非特許文献8、9参照)を直感的に理解するための説明を行う。このために、本発明者は、「SS(stress-strength)ダイヤグラム」と呼ぶ可視化手法を考案している。このSSダイヤグラムを用いて、従来行われてきている議論を再解釈する。
【0021】
Mitsunagaによる厳密な寿命予測式(非特許文献8参照)は、実験で決定すべきパラメータをいくつか含んでいる。このうちのBパラメータと呼ばれるパラメータは、後述する通り、事実上決定困難であることが過去の検討から分かってきている。これは、「B値問題」と呼ばれている。B値問題によって、従来は、厳密式を用いる寿命予測を行うことができていない。
【0022】
長距離伝送用ファイバの機械的強度に関する信頼性の寿命予測には、Mitsunagaらによる(自身で導出した厳密式の)近似式が用いられてきている。この近似式は、「満永近似」と呼ばれる。これに対して、配線材用光ファイバの小径曲げの議論では、「Griffioenの式」と呼ばれる近似式が用いられていることが多い(非特許文献4参照)。しかし、これらの近似式の適用範囲などについて、あまり明確に示されていない。以下の説明では、これらの近似式の適用条件を説明する。
【0023】
実験で取得したデータに基づいて光ファイバの寿命予測を実現するためには、式の中に現れるパラメータの決定を実験で行う必要がある。Griffioenの式は近似式だが、その中には依然Bパラメータが残されており、素直に考えればこの近似式も使えないことになる。しかし、以下で説明する通り、Griffioenの近似式に含まれるBパラメータは見かけ上のものであり、新たに実験を追加することなく前記B値問題を回避している。
【0024】
本発明者は、実際に1780本の光ファイバの引っ張り試験データによる寿命予測を行っている。配線材用途の光ファイバの機械強度の信頼性を保証するためには、従来の長距離伝送用ファイバの場合と質的に異なる特徴が含まれる(非特許文献3参照)。この特徴についても、後ほど寿命予測結果とダイヤグラムを用いて説明する。
【0025】
IEC-TR62048(非特許文献7)に記載されているように、この分野は、論文で用いられている数式の表現の仕方が著者ごとに異なり、少なからず混乱を招いている。IECでは、努めてそれらを統一した表記で表そうとしているため、以下でも、IEC-TR62048(非特許文献7)に準拠した表現で表すことにする。
【0026】
<1.1 寿命予測式の直感的な理解>
<1.1.1 Mitsunagaらによる寿命予測理論>
Mitsunagaらによる理論の概要を説明する。光ファイバの故障モードとして、応力腐食反応(SCC:Stress-Corrosion Cracking)によるき裂の進展と破断のみを考える。破壊力学によれば、き裂の議論にはモードIからモードIIIが考えられるが(非特許文献10参照)、議論を単純引っ張りのモードIに限定して説明する。
【0027】
理論の基本は、ガラスの脆性破壊のPower-Law理論と、不活性強度のワイブル分布である。不活性強度分布は、SCCが起きない状態での光ファイバの強度の分布である。ガラスに入ったき裂の大きさをaとして、モードIの応力拡大係数をK
I、光ファイバの動疲労係数をnとした場合、き裂の成長はda/dt=AK
Inという方程式に従うというモデルを考える。き裂の時間進展が応力拡大係数の“べき乗”に比例するので、これは脆性破壊のPower-Law理論と呼ばれる。ここで、tは時間を表し、Aは比例係数である。き裂の成長とともにK
Iも増加し、K
I=K
Icになった場合に破断が起きる。K
Icを破壊靱性という。ファイバの強度をSとすると、破壊靱性は、K
Ic=YSa
1/2で表される。同様に、負荷応力σを用いて、応力拡大係数は、K
I=Yσa
1/2で表される。以上の関係を用いると、き裂進展の方程式は、次式の強度劣化の方程式に書き換えられる。
【0029】
ここで、B=2/{AY
2(n-2)K
ICn-2}である。式(1)は、決定論的であり、確率的な意味はない。測定でファイバの特性値としてnとBの値が決まれば、t=0における強度S(0)を初期条件として、応力σ(t)の下での強度の時間的変化が計算できる。負荷応力下では、疲労により、強度は時間と共に減少する。強度とは、光ファイバが耐えうる応力の上限であるため、破断条件は、S(t)=σ(t)で与えられる。このときの時刻を「寿命」と呼ぶ。以上のPower-Law理論に基づく機構の可視化手法としては、Fullerらによる、
図1に示す「strength degradation map」が知られている(非特許文献11参照)。
【0030】
図1は、Strength degradation mapを用いたpower-law理論による脆性材料の疲労破壊の過程の可視化を行うための概念図である。横軸は経過時間、縦軸は応力または強度を表す。
図1(a)は、負荷応力がない場合であり、ファイバの強度は、初期値S
iのまま変化しない。
図1(b)は、負荷応力がある場合であり、ファイバの強度は、式(1)に従って徐々に劣化する。そして、t=t
cで強度と応力が等しくなり、破断に至る。このときの時間t
cを寿命と呼ぶ。
図1(c)は、
図1(b)と同様、負荷応力がある場合であるが、初期値である不活性強度が大きいために、観測時間内では破断に至らない。
【0031】
一般に、「市場に出荷される製品としての光ファイバ」の不活性強度S(0)は、知り得ない。なぜなら、不活性強度S(0)を知るためには、破壊試験が必要になり、一度破壊したものは、製品になり得ないからである。この認識から、確率的な議論が導入されることになる。
【0032】
図1に示すように、光ファイバの寿命は、不活性強度S(0)にも強く依存する。このため、不活性強度を知り得ないことは、製品の寿命を決定論的に知り得ないことを意味する。そこで、同一材料で同一の工程から作られた光ファイバは、確率的に同一の母集団に属すると考える。その上で、抜取り検査による破壊試験で有限個の標本の強度から、全体の分布を推定する方法が用いられる。通常、この確率分布のモデルとしてワイブル分布が用いられる。ある一定の長さの光ファイバ素片の中で最も弱い部分の強度の分布は、一般には極値分布で表現される。過去の多くの実験から、極値分布のうちワイブル分布による表現が適切であることが分かっている(非特許文献8、13参照)。
【0033】
以上に示したガラスの脆性破壊のPower-Law理論と不活性強度のワイブル分布から、寿命予測に関する以下の一連の「公式」が得られる(非特許文献7参照)。各々の光ファイバが所定時間経過時に故障(破断)する確率、すなわち故障確率FをF=1-exp(-H)とした場合、H=ln(1/(1-F))は、累積ハザード関数と呼ばれる(非特許文献12参照)。ここでHは、以下のようになる。
【0034】
・光ファイバの初期強度分布(ワイブル分布)
【数2】
【0035】
・スクリーニング後の強度分布
【数3】
【0037】
H=0でF=0であり、かつH→∞でF=1であるので、故障確率を0≦F≦1で議論するためには、H≧0である。
【0038】
式(2)は、初期強度分布として仮定したワイブル分布である。L
0は、ゲージ長と呼ばれ、適当な長さを与えて使用する。mは、ワイブル分布の形状パラメータを表す。S
0は、実効的な尺度パラメータを表す。
【0039】
式(3)は、スクリーニング後に生き残った光ファイバの強度S
pの分布を表す。S
p≧S
pminでなければH≧0にならないことから、S
pminが生き残った光ファイバの最小強度であることが分かる。m
s=m/(n-2)であり、β=BS
0n-2L
01/msである。立蔵(非特許文献4参照)が指摘したように、Miyajima(非特許文献14参照)がMitsunagaらの理論から抽出したファイバに固有のパラメータkは、この理論において重要である。上式に示したように、パラメータkは、IEC-TR62048(非特許文献7)ではβで記されている。σ
pは、スクリーニングの目的で行うプルーフ試験で付与する応力の最大値である。t
pは、プルーフ時間と呼ばれ、実効的にプルーフ試験で応力σ
pを付与した時間である。
【0040】
式(4)は、市場での寿命予測式である。式(4)によって、市場負荷σ
aの下で、市場時間t
fp経過した後での故障確率F(t
fp、σ
a)を与える。
【0041】
以上を用いれば、寿命予測は可能である。しかし、「公式」としてブラックボックス化してしまっているため、各々の内容は、見通し難い。
【0042】
<1.1.2 SSダイヤグラムを用いた寿命予測式の解釈>
以下の説明では、式(2)〜(4)の内容の可視化を試みる。前述したように、strength degradation mapは、不活性強度が分かっている光ファイバの強度劣化を記述する可視化手法である。しかし、実際には、市場に出荷される製品の不活性強度を知り得ない。そこで、式(2)〜(4)の意味を直感的に理解できるようにする観点から、ワイブル分布で確率的に記述される不活性強度をstrength degradation mapに埋め込み、「SS(stress-strength)ダイヤグラム」を作成した。
【0043】
図2は、SSダイヤグラムの概念図である。
図2の横軸は、光ファイバを線引きした時点から経過した時間を表す。
図2の縦軸は、光ファイバの強度および負荷応力を表す。ワイブル分布で仮定したファイバの不活性強度分布S
iを
図2の左端に示す。これは、長さLの1本の光ファイバの不活性強度の存在確率と解釈することもできるし、多くの光ファイバを製造した場合の製造ばらつきの分布と解釈することもできる。両者の解釈は、数学的には等価である。
【0044】
各々の光ファイバは、プルーフ試験の負荷応力を受け、式(1)に従って、最初の縦破線まで強度劣化する。このうち、強度より大きな負荷応力を受けた光ファイバは、プルーフ試験中に破断する。S(0)≧S
minを満足する初期強度の光ファイバは、プルーフ試験中に破断せずに生き残る。スクリーニングを通過した強度分布は、図中のS
pである。これらの光ファイバが市場に出荷され、市場時間t
fp=0から市場負荷応力σ
aに晒される。光ファイバの強度は、市場での負荷の下で、式(1)に従って、疲労を受けて劣化し、S(t
c)=σ
aを満足する時刻t
cで破断する。この時のt
cが寿命である。初期強度が確率的に与えられていることを受けて、下端に示される図のように、t
cもt
fp軸上に分布する。この分布が、寿命分布Hである。
【0045】
線引きされた光ファイバは、プルーフ試験によって
図2に示す引っ張り応力が負荷される。プルーフ試験は、載荷、負荷、除荷の過程からなる台形状のプロファイルで表される。この応力下で、光ファイバの強度は、Power-Lawの式(1)に従って劣化し、強度S(t)=σ(t)になった時点で破断する。こうして強度の大きい光ファイバのみが生き残り、スクリーニングが行われる。
図2では、生き残る最小強度S
pminの光ファイバが図示されている。光ファイバは、スクリーニングの過程で強度劣化するため、生き残った光ファイバの最小強度S
pminは、対応する不活性強度S
minよりも小さい。
【0046】
また、光ファイバは、除荷過程で疲労が加わるため、一般にS
pmin<σ
pになる。除荷に時間がかかるとファイバに余分な疲労が蓄積され、S
pminがσ
pよりも過度に小さくなり、機械的強度が弱い光ファイバが市場に出荷されることになる。このようなプルーフ試験は適切ではなく、TIA/EIA-455-31C(非特許文献15)では、Mitsunagaらの議論(非特許文献8参照)に基づいて、試験を適切にする条件を示している。これは、具体的には、t
uを除荷時間として、α=σ
p2t
u/((n-2)B)が、1よりも小さくなる条件と表現されている。なお、この条件を、プルーフ試験の成功条件という。
【0047】
図2に示すスクリーニングを通過した光ファイバの強度分布S
pは、式(3)で表される。市場での故障確率は、スクリーニングを通過した光ファイバを新たな母集団として計算される。ここで、市場の負荷σ
aは一定であるとしている。市場時間t
fpに対して、方程式(1)を解くことで強度劣化が計算される。光ファイバは、寿命t
cで破断する。この様子が
図2の右半分に図示されている。不活性強度が確率的に分布しているため、
図2に示すように、寿命も確率的に分布する。これが寿命分布Hであり、式(4)で表される。
【0048】
以上のように、
図2に例示するSSダイヤグラムを用いれば、光ファイバの信頼性の議論に現れる統計量の意味が直感的に理解できる。これが、IEC-TR62048(非特許文献7)で議論している計算の概要である。SSダイヤグラムから分かるように、計算式の複雑さに比して、扱っている内容は簡潔であることが分かる。
【0049】
<1.2 実際の光ファイバの寿命予測における課題と解決原理>
寿命予測は、前述の議論に基づいて行われるが、不活性強度分布が単純なワイブル分布では表せないという実験事実と、前述したようにB値が評価できないことから、実際の議論は多少複雑になる。以下では、実際の光ファイバの寿命予測における課題及び解決原理について説明する。
【0050】
<1.2.1 高強度部と低強度部の存在>
図3は、本発明者らが行った光ファイバの引っ張り試験の結果を示している。光ファイバの長さは10mであり、引っ張り試験は、1780本の光ファイバに対して行った。
図3は、破断強度をワイブル確率紙に表現したものである。横軸は破断強度、縦軸は累積ハザード関数を表す。直線は、各々高強度部と低強度部を表す。
【0051】
図3の結果から、光ファイバの強度分布は、高強度部と低強度部の二つのワイブル分布からなることが分かる。これは一般的な性質である。高強度部はファイバ固有の強度であり、低強度部はファイバ中の欠陥や製造時に入ったき裂に起因すると理解されている(非特許文献8、13参照)。この事実に即して、式(2)〜(4)における累積ハザード関数Hは、高強度部の寄与H
1と低強度部の寄与H
2に分けて表現し、全体H=H
1+H
2で考える必要がある。通常、高強度部と低強度部で、方程式(1)で表される疲労の仕方に変化はないものされている(非特許文献7参照)。
【0052】
<1.2.2 B値問題と近似式>
寿命予測式に現れるBの値を決定することは、現状では困難であることが分かっている。B値は不活性強度に関係するため、液体窒素雰囲気での引っ張り試験もしくは非常に高速での引っ張り試験によるデータを使って推定する必要がある。このような試験の困難さに加えて、過去に行われた実験から、Bの推定値は、2×10
-8GPa
2.s≦B≦0.5GPa
2.s、のように、8桁もの範囲にばらついて報告されている(非特許文献17参照)。これが、「B値問題」である。現状では、B値問題を回避するため、厳密な寿命予測式(2)〜(4)を用いることを諦めて、近似式を使っている。その代表格が、「Griffioenの式」と「満永近似」である。
【0053】
通常、Griffioenの式は、累積ハザード関数による表現で以下のように与えられる(非特許文献4、16参照)。
【0056】
ここで、m
s1=m
1/(n-2)、m
s2=m
2/(n-2)は、不活性強度分布のワイブル形状パラメータmが2種類あることに対応している。また、式(5)のS
01は、高強度部の実効的なワイブル尺度パラメータである。N
pは、破断率と呼ばれ、プルーフ試験の間に単位長さあたり光ファイバが何回破断するかを示す量である。プルーフ試験の際の破断には、距離の指数分布モデルが仮定されている。N
pは、そのパラメータになる。
【0057】
満永近似は、低強度部のみを考え、市場での疲労がプルーフ試験で受けた疲労よりも十分に小さい、すなわちσ
ant
fp<<σ
pnt
pとすることで、以下のように得られる。
【0059】
すなわち、満永近似は、Griffioenの式の特別な場合であることが分かる。
【0060】
<1.2.3 Griffioenの式を用いた寿命予測の課題と解決原理>
Griffioenの式を用いて寿命予測を行う場合の課題は、高強度部の式の中にBとS
01を含むことに起因する。これらは、どちらも実測が困難であるため、このままではデータに基づいてパラメータを決定できない。また、これらの式(5)、(6)と、IEC-TR62048(非特許文献7)において示されている式(4)との対応が見難く、近似式の適用領域も明確ではない。以下、この問題について説明する。
【0061】
議論を簡単にするために、まず低強度部の式(6)から考える。スクリーニングにおける破断確率のモデルは、指数分布である。このモデルの下で、N
pは、N
p={(σ
pnt
p+BS
pminn-2)/β
2}
ms2と表されるため、この関係を使って式(6)を書き換えると、次式のようになる。
【0063】
式(8)は、式(4)でB→0の極限になっており、このためにB値問題を回避している近似と理解できる。しかし、B→0の極限で成り立つ式は、物理的にどういう近似なのかが分かり難い。近似式(8)と厳密式(4)を比較すると、式(8)は、σ
ant
fp>>σ
pnt
pとした近似になっていることが分かる。すなわち、Griffioenの低強度部の式は、物理的には市場での疲労がプルーフ試験での疲労よりも十分に大きい場合の近似になっている。式(8)から分かるように、Griffioenの式では、t
fpmin=0である。このことは、プルーフ試験を経た後の光ファイバの最小強度S
pminが0であることを意味する。
【0064】
次に、高強度部の式(5)を考える。これを前述の関係式β
1=BS
01n-2L
01/ms1を用いて書き替えると、次式のようになる。
【0066】
式(9)は、式(8)のパラメータの添字を2から1にした上で、σ
pnt
p→0としたものと同じ形である。従って、高強度部の式は、プルーフ試験の影響が完全に無視できる時に成り立つ近似式であると理解できる。低強度部の式(8)には、σ
pnt
pの項が残っており、最小強度S
pminが0であるとしても、プルーフ試験の疲労で確率分布が歪む効果までは無視していない。
【0067】
式(9)のように書き換えることにより、高強度部の式は、BもS
01も含まない。つまり、測定でこれらのパラメータを決定する必要がなくなる。このことが重要である。すなわち、式(5)におけるB値問題は、見かけ上のものであったことが分かる。σ
pnt
p→0とした理由については、プルーフ試験におけるダイヤグラムで表現できる。
【0068】
図4は、スクリーニングの際の強度劣化の概念図である。スクリーニングで除去される、もしくは分布が歪む箇所は、一般的には低強度部である。高強度部は、ほとんど疲労を受けない。このことから、スクリーニングによる疲労σ
pnt
p→0という近似が妥当であると言える。
【0069】
以上から、パラメータn、β
1、β
2、m
s1、m
s2を実験で決めれば、データに基づく寿命予測を行えることが分かる。n値は、動疲労試験の結果を用いて決定できる。残りのパラメータは、引っ張り試験の結果を用いて決定できる。
【0070】
前述の説明は、単なる式の変形に過ぎないかもしれないが、先行技術文献に現れるGriffioenの式(5)、(6)をそのまま用いて評価しようとした場合に陥る見かけ上のB値問題を回避し、実験データから評価できるパラメータだけで高強度部の寿命予測式を表現したことに技術的意義がある。この書き換えにより、IEC-TR62048(非特許文献7)の厳密式との関係も直感的に理解することができるはずである。
【0071】
<1.3 小径曲げでの寿命予測>
<1.3.1 パラメータ近似による寿命予測>
実際に、
図3に示す引っ張り試験の結果を用いた寿命推定を行う。前述の通り、B値問題のために、データから全てのパラメータを決定した上で厳密式による評価を行うことは不可能である。Griffioenの式は、B→0という極限を考えて、B値問題を回避している。Mitsunagaら(非特許文献8、9)の検討によれば、B値が小さくなるほど評価の安全係数が大きくなる。Griffioenの式は、Bの効果による安全係数を最大とする極限であるが、場合によっては安全係数を極端に大きくした扱いになることが分かる。
【0072】
B値は、正確な値を推定できないにせよ、もう少し適切な安全係数のとり方が存在する。前述した通り、スクリーニングが成功する条件は、α=σ
p2t
u/((n-2)B)≦1、と表現できる。このことから、適切なスクリーニング試験を経て市場に供給された光ファイバ、すなわちスクリーニングで余分な疲労を受けていない光ファイバのB値は、次式の条件を満たすはずである。
【0074】
すなわち、パラメータBの下限B
minを制限できる。IEC-TR62048(非特許文献7)では、B
minは、transitional valueと呼ばれている。この近似の下では、B≠0であるために、S
pmin>0となり、非特許文献18による批判も回避できる。以下では、B=B
minの近似値を厳密式に適用する方法を説明する。
【0075】
<1.3.2 光ファイバの寿命予測>
図3は、スクリーニング後引っ張り試験を行った結果であり、理論的には以下に示す分布に従う(非特許文献7参照)。
【0078】
ここで、σ
fpは、破断時の応力である。V
σaは、ストレスレートと呼ばれる応力の増加速度である。これらの分布が各領域のデータに合うようにパラメータ決定を行う。具体的には、最小二乗法または最尤法を用いて、m
sとβを決める。こうして推定されるパラメータおよび動疲労試験で推定されるパラメータnから、寿命予測式によって故障確率が計算される。一般的に光ファイバの寿命に関して期待される情報は、次の2つである。(イ)所定の寿命時間までファイバが破断しないでいるためには、どの程度まで大きな市場負荷応力が許容できるか。(ロ)所定の市場負荷応力の元で、破断までに何年かかるか。
【0079】
以上を、小径曲げの場合について考える。まず、(イ)に対する予測結果を
図5に示す。ここで、曲げによる応力は、次式に示す実効的な最大応力を用いて評価している(非特許文献7参照)。
【0081】
E
0は、石英ガラスのヤング率である。a
fは、ファイバのガラス部の半径である。Rは、曲げ半径である。
【0082】
また
図5の予測結果を算出する際には、長さLについて、次式で求められた実行長L
effを用いることにより、補正をする必要があった(非特許文献7参照)。
【0084】
ここで、L´は、市場負荷が加わる光ファイバ長である。
【0085】
図5は、市場時間t
fp=15(年)経過後の曲げ半径Rに対する故障確率の予測結果である。曲げは、2.5周加えている。Rが4mmまでは高強度部の寄与が大きく、それよりも大きなRでは、低強度部の寄与が支配的になる。前述した通り、曲げ半径が小さく、市場疲労が大きい場合、厳密式とGriffioen近似が一致する。また、市場での疲労が小さい場合、満永近似は、Griffioen近似に漸近する。従来の長距離伝送路の用途では、曲げ半径R≧30mmでしか使用しなかったが、この領域では満永近似が有効である。
【0086】
図5には、併せて平均故障率0.1FITから10FITに対応する故障率を示している。平均故障率は、累積ハザード関数を市場時間で割った値で計算できる(非特許文献12参照)。試験に用いた光ファイバでは、0.1FITよりも大きな故障率では高強度部が支配的になる。低強度部の寄与が小さい理由は、曲げ半径を小さくすると、曲げに寄与するファイバ長も短くなり、結果としてその中にき裂を含む確率が小さくなるからである。
【0087】
一般的な議論では、市場において早期に故障する箇所は低強度部であり、これが製品の信頼性に影響する。しかし、ここで問題にしているような短尺の光ファイバの場合には、許容される故障確率が存在し、その許容故障確率よりも低強度部の存在確率が小さいために、このような説明が成り立っている。厳密式では、ある曲げ半径R
max以上の曲げ半径では故障確率Fが0になる。このことは、ダイヤグラムを用いて説明できる。低強度部だけを考慮すれば十分であるため、低強度部だけを考慮しているダイヤグラムを
図6に示す。
【0088】
図6では、スクリーニングを通過した最小強度S
pminの光ファイバに注目したダイヤグラムを示している。前述の通り、スクリーニングを通過したファイバには最小強度S
pminが存在するため、市場で破断するまでの最小時間t
fpminが存在する。
図6から分かるように、t
fpminは、市場負荷応力が小さいほど長くなる。曲げ応力の場合、曲げ半径の大小関係R
1<R
2、に対応して、t
fpmin1<t
fpmin2、となる。従って、Rを大きくしていくと、t
fpmin=15(年)を満足する曲げ半径R=R
maxが存在する。R
maxよりも大きな曲げ半径であれば、市場時間15年では故障が起きない。
図6に示す結果は、このことを表している。
【0089】
図7は、ガラス径の大きな光ファイバに対する、15年経過後の故障確率の予測結果である。
図7に示す結果は、スクリーニングレベル(プルーフ歪の値)を0.5%から2.5%まで変えて、Griffioenの式を用いて計算した。参考に、スクリーニング条件(プルーフ試験の条件)から式(10)で算出したB
min値をB値として厳密式(4)に代入して計算した結果を示す。
図7から、スクリーニングレベルを上げても、すなわち、プルーフ試験の条件、特にプルーフ試験で付与する応力の最大値σ
pを大きくしても、光ファイバの強度保証には効果がないことが分かる。この結果は、小径曲げが想定される用途に用いられる光ファイバをスクリーニングする際に考慮すべき特徴の一つである。
【0090】
次に、光ファイバの寿命に関して期待されるもう一つの情報である、前記(ロ)、すなわち、所定の曲げ半径の下で破断までに何年かかるかという寿命予測に参考となる結果を
図8に示す。
図8は、ガラス径が大きい光ファイバを、曲げ半径R=9mmで2.5周巻いた状態で所定時間経過したときの、故障確率を示している。厳密式による予測結果は、スクリーニング条件(プルーフ試験の条件)から式(10)で算出したB
min値をB値として厳密式(4)に代入して計算した結果である。
Griffioenの式は、市場での疲労σ
ant
fpが大きい場合の近似であるから、光ファイバに強い曲げ応力が加わっていても、市場時間t
fpが非常に小さければ、市場負荷応力による疲労が少ないため、近似が悪くなる。
図8には、このことが表現されている。すなわち、市場時間t
fpが非常に小さい部分では、Griffioenの式での計算結果は、厳密式による計算結果から大きくかい離している。
なお、厳密式(4)に代入するB値が大きくなれば、立ち上がり時間t
fpminが値の大きい方(図中矢印A)にずれる。
【0091】
一般に、長距離信頼性を念頭においた光ファイバの寿命予測が必要な期間では、Griffioenの式のずれが問題になるほど小さなt
fpを考慮する必要はない。
他方、車載用光ファイバなどでは、組付作業工程で起きる破断など短いt
fp範囲での破断が問題になるから、Griffioenの式で求めた寿命予測は妥当な判断を行えない可能性がある。
【0092】
<1.4 まとめ>
以上の説明では、光ファイバの機械的強度に関する信頼性について、本発明者が考案したSSダイヤグラムを用いて、従来行われてきた議論を整理し直した。このSSダイヤグラムを用いれば、寿命予測の結果だけでなく、途中の議論の過程も可視化できていると言える。途中の議論の過程も可視化することで、より直観的な議論ができるようになることが期待される。また、以上の説明では、プルーフ試験の条件と動疲労試験と引っ張り試験からパラメータを決定すれば、厳密式による寿命予測をデータに基づいて行うことができることを示した。Griffioenが示した式(5)、(6)のままでは、光ファイバの不活性強度を測定するという、非常に困難な課題の克服が求められる。一方、前述した本発明の解決原理のように、関係式を上手く利用して書き換えれば、引っ張り試験のデータから必要な情報を抽出できる。以上の説明では、実際に、光ファイバの引っ張り試験のデータを用いてパラメータ推定を行い、そこから寿命予測を行えることを示した。
【0093】
小径曲げが想定されるような短い光ファイバを用いる用途では、製造技術が十分に成熟していれば、光ファイバの本質的な強度の部分(高強度部)が効いてくる。この場合、単純にスクリーニングの強度を上げれば信頼性が増す、と考えることはできない。なぜなら、市場で許容されている故障確率よりも、低強度部の存在確率が小さいからである。この結果は、冨田と倉嶋による報告と整合する(非特許文献3参照)。
【0094】
また、以上の説明では、本発明の解決原理の1つとして、寿命予測のモデルについても示した。従来用いられてきた満永近似は、小径曲げの機械強度が問題になる、これからの新しい応用分野で扱うには適切ではないことを示した。以上の説明によれば、Griffioenの式の方が満永近似より実用的である。
【0095】
更に、以上の説明では、本発明の解決原理の1つとして、スクリーニングの成功条件からB=B
minという近似パラメータの下で厳密式を使うことも説明した。有限のB値を使えるということは、式(1)を直接使った計算ができることを意味する。モンテカルロ法とSSダイヤグラムを組み合わせることによって、光ファイバの破断の直接的なシミュレーションが可能となる。つまり、後述するように、本発明によれば、Griffioenの式ではできなかった、より応用範囲が広い評価を行うことが可能となる。
【0096】
<2.第1の実施形態>
以下図面に基づいて、本発明の第1の実施形態を詳細に説明する。第1の実施形態は、スクリーニングのための適切なプループ試験条件を設計する方法と、データに基づいて光ファイバの機械的強度に関する情報として、破断寿命確率を算出する方法を説明する。第1の実施形態は、前述した本発明の基礎となる理論に基づくものである。
【0097】
<2.1 光ファイバの製造工程及び各種試験の内容>
図9は、光ファイバの製造工程を説明する図である。
図9では、光ファイバの線引き工程を図示している。線引き工程は、まず、プリフォーム(光ファイバ用ガラス母材)1をプリフォーム送り2によって線引き炉3に挿入し、ファイバ外径測定器4によってファイバ外径を測定し、所定外径の光ファイバ芯線とする。次に、光ファイバ芯線の外周に被覆ダイス5により紫外線硬化樹脂6を塗布した後、紫外線照射灯7を有する硬化装置によって硬化させ、被覆外径測定器8によって被覆外径を測定し、巻き取りスプール9に巻き取る。
【0098】
<2.2 プルーフ試験の条件決定方法>
光ファイバの機械的強度を保証するために、スクリーニングが実施される。スクリーニングは、被覆した光ファイバに一定の荷重をかけるプルーフ試験を行い、その荷重で断線したものを除外することにより行う。スクリーニングは、
図9に示したように、巻き取りスプール9に巻き取る前に行う場合と、巻き取りスプール9に巻いた後、改めて別の工程で行う場合がある。
以下では、
図10を参照しながら、プルーフ試験の適切な条件を決定する方法について説明する。
【0099】
自動車等の新しい用途に用いられる光ファイバでは、過去に十分な実績が無いため、妥当なプルーフ試験の条件を決めることは難しい。例えば、過剰に安全側に考え過ぎて、厳しすぎるプルーフ試験の条件でスクリーニングを行うと、健全な光ファイバも不良と判定してしまう可能性がある。そこで、
図10に示すフローチャートに従ってプルーフ試験の条件設定を行う。
なお、ここで新しい用途に用いられる光ファイバには、実績のある光ファイバと構造が異なるものだけでなく、同一構造のもの含まれる。同一構造の光ファイバであっても、新しい用途に用いる場合は、求められる機械的強度その他の仕様が異なるので、これに適したスクリーニングを行うためにプルーフ試験の条件を改めて再検討する必要があるからである。
【0100】
この方法では、
図10に示すように、まず、動疲労試験を行い、プルーフ試験の条件を決める対象の光ファイバの動疲労係数nを求める(S11)。
【0101】
次に、予め「除荷による過剰な疲労がない」ことが確認されているプルーフ試験の条件のσ
p*(プルーフ試験で付与された応力の最大値)、t
u*(除荷時間)と、S11において求められるnとを次式に代入し、B
minを求める(S12)。
なお、“予め「除荷による過剰な疲労がない」ことが確認されているプルーフ試験の条件”とは、プルーフ試験の条件を決める対象の光ファイバと構造の異なる光ファイバについて確認されているものであっても、同じ構造の光ファイバについて確認されているものであっても良い。同じ構造の光ファイバについても、用途や保証条件が変わる場合は、プルーフ試験の条件を新たに求める必要がある。
【0103】
次に、実際にスクリーニングする対象の光ファイバ、すなわち対象となる光ファイバに対して市場で加わることを許容する応力(許容負荷応力)と保証期間とを考慮して、プルーフ試験のσ
p(プルーフ試験で付与する応力の最大値)を決める(S13)。
【0104】
次に、S13において決められるσ
pと、S12において求められるB
minとを次式に代入し、次式が満たされるようにプルーフ試験のt
u(除荷時間)を求める(S14)。
【0106】
そして、S13において決められるσ
p(プルーフ試験で付与する応力の最大値)と、S14において求められるt
u(除荷時間)を、プルーフ試験の条件とする(S15)。
なお、既存のプループ試験装置を用いて光ファイバをスクリーニングする場合は、用いるプルーフ試験装置で設定できる引張速度など、試験装置の能力も考慮して、除荷時間t
uを選択する。
【0107】
<2.3 光ファイバの破断寿命確率算出方法>
光ファイバが、新しい用途である自動車の信号伝送用ワイヤーハーネスに用いられる場合を考える。この場合、ワイヤーハーネスの製造工程の中で光ファイバが破断する確率を保証する必要がある。市場時間で考えると、ワイヤーハーネスの製造工程は、光ファイバの出荷直後の短い時間である。例えば、前述したGriffioenの近似式を用いて、短時間で光ファイバが破断する確率を計算すると、過剰に厳しい評価となる。そこで、本発明では、式(10)に示すパラメータBの下限B
minを用いて、光ファイバの破断寿命確率(故障確率)Fを算出する。
【0108】
図11は、光ファイバの破断寿命確率算出方法のフローチャートである。
図11に示すように、S15の条件でスクリーニングされた光ファイバを引っ張り試験に供し、その結果を示す破断強度−累積ハザードのグラフの高強度部には以下に示す累積ハザード関数H1の式、低強度部には以下に示す累積ハザード関数H2の式が、それぞれフィットするように、β
1、β
2、m
s1、m
s2を求める(S21)。フィッティングは、最小二乗法又は最尤法を用いて行う。
【0110】
ここで、σ
fp:破断時の応力、V
σa:応力の増加速度、t
p:プルーフ時間、n:S11の値、B:S12のB
minの値、σ
p:S13の値、である。また、S
pminは、次式で定義される。
【0113】
次に、S11において求められるn、S12において求められるB
min、S13において決められるσ
p、市場負荷(要求仕様)σ
a、S21において求められるβ
1、β
2、m
s1、m
s2を次式に代入し、市場時間t
fpにおける破断寿命確率Fを求める(S22)。
【0115】
<2.4 評価結果の提示方法>
<2.4.1 破断寿命確率>
S22において求められる破断寿命確率Fは、ある一定の市場負荷σ
aを仮定したときに、光ファイバの機械強度を評価する値である。例えば、自動車メーカーやワイヤーハーネスメーカなどから、ある市場負荷(要求仕様)σ
aを提示されたときに、その市場負荷(要求仕様)σ
aの条件の下、光ファイバの機械強度を保証するものである。
【0116】
<2.4.2 無故障時間>
光ファイバの機械強度に関する他の寿命評価方法として、ある一定の市場負荷σ
aの下で光ファイバの破断が(全く)起きないことを保証できる時間(=無故障時間t
fpmin)で評価することも考えられる。
図12は、この無故障時間に関するSSダイヤグラムである。無故障時間t
fpminは、次式に従って求める。
【0118】
式(23)の無故障時間t
fpminを具体的に計算するためには、Bの値が必要である。本発明では、この値として、S12で求めた式(15)に示すパラメータBの下限B
minを用いる。
【0119】
<2.4.3 許容最大市場負荷>
また、式(15)に示すパラメータBの下限B
minを用いて、希望する時間t
fpの間無故障の状態を維持できる市場負荷σ
aの最大値σ
amaxを逆算することもできる。こうして求めた情報は、複数の光ファイバを束ねて製造される光ファイバケーブルの構造設計に利用することもできる。
図13は、市場負荷の最大値σ
amaxに関するSSダイヤグラムである。
【0120】
時間t
fpの間無故障の状態を維持することを保証できる市場負荷の最大値σ
amaxは、式(23)をσ
aについて解くことによって得られる。一般的には、数値的に解を求めることになる。
【0121】
<2.5 プログラム>
第1の実施形態のプルーフ試験の条件決定方法をコンピュータによって実行することもできる。コンピュータは、制御部(CPU、ROM、RAM等)、記憶部(ハードディスクドライブ等)、入力部(キーボード、マウス、タッチパネル、ネットワークや周辺機器との入出力インタフェース装置等)、及び出力部(液晶ディスプレイ、ネットワークや周辺機器との入出力インタフェース装置等)等を備える。コンピュータの記憶部は、第1の実施形態のプルーフ試験の条件決定方法をコンピュータに実行させる為のプログラム及び各種情報を記憶する。コンピュータの制御部は、記憶部に記憶されているプログラム及び各種情報を読み出し、入力部及び表示部を介したユーザとの対話処理によって、以下に示すように、
図10のフローチャートの各ステップを実行する。
【0122】
コンピュータの制御部は、動疲労試験の結果を記憶部から読み出し、又は入力部を介して入力し、対象の光ファイバの動疲労係数nを求める(S11)。
【0123】
次に、コンピュータの制御部は、予め除荷による疲労の影響を無視できることを確認済の条件のプルーフ試験で付与された応力の最大値σ
p*及び除荷時間t
u*を記憶部から読み出し、又は入力部を介して入力し、これらの情報とS11において求められる動疲労係数nに基づいて、光ファイバの厳密な寿命予測式に含まれるパラメータBの下限B
minを求める(S12)。
【0124】
次に、コンピュータの制御部は、対象の光ファイバの市場における許容負荷応力と保証期間を記憶部から読み出し、又は入力部を介して入力し、これらの情報に基づいて、対象の光ファイバに関するプルーフ試験で付与する応力の最大値σ
pを決める(S13)。
【0125】
次に、コンピュータの制御部は、S11において求められる動疲労係数nと、S12において求められるパラメータBの下限B
minと、S13において決めた応力の最大値σ
pとを、プルーフ試験の成功条件を示す所定の不等式に代入して、不等式を満たすように、対象の光ファイバに関するプルーフ試験での除荷時間t
uを決める(S14)。
【0126】
次に、コンピュータの制御部は、S13において決められる応力の最大値σ
pと、S14において決められる除荷時間t
uとを、プルーフ試験の条件とし、出力部に出力する(S15)。
【0127】
同様に、第1の実施形態の光ファイバの機械的強度に関する情報の算出方法をコンピュータによって実行することもできる。コンピュータの記憶部は、第1の実施形態の光ファイバの機械的強度に関する情報の算出方法をコンピュータに実行させる為のプログラム及び各種情報を記憶する。コンピュータの制御部は、記憶部に記憶されているプログラム及び各種情報を読み出し、入力部及び表示部を介したユーザとの対話処理によって、以下に示すように、
図11のフローチャートの各ステップを実行する。
【0128】
コンピュータの制御部は、
図10のS15において求めたプルーフ試験の条件でスクリーニングされた光ファイバの引っ張り試験の結果を示す破断強度−累積ハザードのグラフを記憶部から読み出し、又は入力部を介して入力し、高強度部と低強度部とに分けて所定の累積ハザード関数の式へのフィッティングを行い、所定のパラメータを決定する(S21)。
【0129】
次に、コンピュータの制御部は、
図10のS11において求められる動疲労係数nと、
図10のS12において求められるパラメータBの下限B
minと、
図10のS13において求められる応力の最大値σ
pと、記憶部から読み出される、又は入力部を介して入力される要求仕様としての市場負荷σ
aと、S21において求められる所定のパラメータとに基づいて、市場時間t
fpにおける破断寿命確率Fを求めて、出力部に出力する(S22)。
【0130】
以上、第1の実施の形態によれば、新規の光ファイバであっても、健全な光ファイバに不要なダメージを与えることのない適切なプルーフ試験の条件で妥当なスクリーニングを早期に実施することが可能になる。
また、従来より適切な機械的強度に関する情報を算出することが可能になる。すなわち、光ファイバの破断寿命確率を算出することができる。特に、短時間で光ファイバが破断する確率を算出する場合において、光ファイバの破断寿命確率を適切に評価することが可能となる。また、ある一定の市場負荷σ
aの下での無故障時間を適切に算出することができる。また、希望する時間t
fpの間無故障の状態を維持できる市場負荷σ
aの最大値σ
amaxを適切に算出することができる。
【0131】
<3.第2の実施形態>
以下図面に基づいて、本発明の第2の実施形態を詳細に説明する。第2の実施形態は、データに基づいたプルーフ試験の条件設計方法の他の例である。第2の実施形態は、前述した本発明の理論に基づくものである。
【0132】
<3.1 プルーフ試験の条件設計方法>
本実施形態では、予め確認済の成功条件でのσ
p*(プルーフ試験で付与する応力の最大値)、t
u*(除荷時間)を用いてBパラメータの下限B
minを算出し、算出されるB
minを用いて、新たなプルーフ試験の条件を設計する。
【0133】
図14は、プルーフ試験の条件設計方法のフローチャートである。
図14に示すように、まず、動疲労試験を行い、対象の光ファイバの動疲労係数nを求める(S31)。
【0134】
次に、予め確認済の成功条件でのσ
p*(プルーフ試験で付与された応力の最大値)、t
u*(除荷時間)と、S31において求められるnを次式に代入し、B
minを求める(S32)。ここで、予め確認済の成功条件とは、今回の対象となる光ファイバと異なる要求仕様(例えば許容曲げ半径Rなどの許容負荷応力)を勘案して行われたプルーフ試験の条件であって、成功と判断されたものを意味する。
【0136】
次に、対象の光ファイバの許容負荷応力を考慮して、プルーフ試験のσ
p(プルーフ試験で付与する応力の最大値)を決める(S33)。
【0137】
次に、対象の光ファイバをプルーフ試験する際に用いる装置の仕様(引張速度の設定可能範囲など)を考慮して、プルーフ試験のt
u(除荷時間)を決める(S34)。
【0138】
次に、S33において決められるσ
p(プルーフ試験で付与する応力の最大値)と、S34において決められるt
u(除荷時間)が、次式を満たすか否かを判定する(S35)。ここで、次式には、S31において求められる動疲労係数nと、S32において求められるパラメータBの下限B
minとが代入される。
【0140】
式(25)を満たさない場合(S35のNo)、S33から繰り返す。式(25)を満たす場合(S35のYes)、S33において決められるσ
p(プルーフ試験で付与する応力の最大値)と、S34において決められるt
u(除荷時間)を、プルーフ試験の条件とする(S36)。
【0141】
<3.2 プログラム>
第2の実施形態のプルーフ試験の条件決定方法をコンピュータによって実行することもできる。コンピュータの記憶部は、第2の実施形態のプルーフ試験の条件決定方法をコンピュータに実行させる為のプログラム及び各種情報を記憶する。コンピュータの制御部は、記憶部に記憶されているプログラム及び各種情報を読み出し、入力部及び表示部を介したユーザとの対話処理によって、以下に示すように、
図14のフローチャートの各ステップを実行する。
【0142】
コンピュータの制御部は、動疲労試験の結果を記憶部から読み出し、又は入力部を介して入力し、対象の光ファイバの動疲労係数nを求める(S31)。
【0143】
次に、コンピュータの制御部は、予め確認済の成功条件のプルーフ試験で付与された応力の最大値σ
p*及び除荷時間t
u*を記憶部から読み出し、又は入力部を介して入力し、これらの情報とS31において求められる動疲労係数nに基づいて、光ファイバの厳密な寿命予測式に含まれるパラメータBの下限B
minを求める(S32)。
【0144】
次に、コンピュータの制御部は、対象の光ファイバの市場における許容負荷応力と保証期間を記憶部から読み出し、又は入力部を介して入力し、これらの情報に基づいて、対象の光ファイバに関するプルーフ試験で付与する応力の最大値σ
pを決める(S33)。
【0145】
次に、コンピュータの制御部は、プルーフ試験に用いる装置の仕様を考慮して、対象の光ファイバに関するプルーフ試験での除荷時間t
uを決める(S34)。
【0146】
次に、コンピュータの制御部は、S31において求められる動疲労係数nと、S32において求められるパラメータBの下限B
minとが代入されたプルーフ試験の成功条件を示す所定の不等式を、S33において決められる応力の最大値σ
pと、S34において決められる除荷時間t
uとが満たすか否かを判定する(S35)。
【0147】
そして、コンピュータの制御部は、S35において所定の不等式を満たすと判定された場合、S33において決められる応力の最大値σ
pと、S34において決められる除荷時間t
uとを、プルーフ試験の条件とし、出力部に出力する(S36)。
【0148】
以上、第2の実施形態によれば、データに基づいて、プルーフ試験の条件を設計することができる。特に、短時間で光ファイバが破断する確率の保証が求められる場合において、プルーフ試験の条件を適切に設計することが可能となる。
なお、この第2の実施形態で求めたデータを利用して、光ファイバの機械的強度に関する情報、例えば、前記第1の実施形態の、<2.3 光ファイバの破断寿命確率算出方法><2.4 評価結果の提示方法>に記載した情報を求めることもできる。
【0149】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る光ファイバの破断寿命確率算出方法等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。