(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粗蛋白質含量9〜12質量%の薄力系小麦粉を80〜100℃で湿熱処理してなり、グルテンバイタリティが45〜55%でありかつ実質的にα化されていない熱処理薄力小麦粉を50質量%以上含有することを特徴とするアメリカンドッグ用ミックス。
【背景技術】
【0002】
アメリカンドッグは、串付きのソーセージやフランクフルトに衣をつけた後、油で揚げてなる食品であり、主にスナックとして、露店や商店などで、調理済みの商品が保温状態で販売されている。アメリカンドッグの衣材としては、衣付けの際には、粘らずスムースな衣付けが可能なバッター液となり、調理後はボリュームのある外観と、表面はなめらかで歯もろくサクサクとし、内相は口溶けのよい食感が求められる。この衣は、通常は、薄力小麦粉に膨張剤、卵、砂糖、牛乳又は水などを添加して製造されている。しかしながら、ボリュームがある外観を求めると、食感は硬くなり、逆に口溶けのよい食感を求めると、ボリュームに乏しく、しかも表面も柔らかいものとなってしまうという、相反する条件を満たす必要があり、安定して最適な衣を製造することは極めて困難であった。このような状況で、各種の添加物や改質穀粉が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モノグリセリドを含有するバッターから作製された衣を有するアメリカンドッグが記載されている。しかしながら、モノグリセリドのような合成乳化剤は、使用が望まれない場合があった。
【0004】
また、特許文献2には、加圧条件下で湿熱処理された小麦粉であって、実質的にα化されておらず、グルテンバイタリティが未処理小麦粉を100としたときに80〜92で、かつグルテン膨純度が未処理小麦粉を100としたときに105〜155である揚げ物用熱処理小麦粉が記載されている。しかしながら、この熱処理小麦粉は、加圧条件下で湿熱処理されているため、天ぷらの衣のような薄い衣にする場合には、サクサクとして歯もろい良好な衣となるが、アメリカンドッグの衣材として用いる場合には、口溶けのよい食感が得られなかった。
【0005】
また、特許文献3には、粗蛋白質含量が8.5〜9.5%の小麦粉を加圧条件下で湿熱処理された小麦粉であって、実質的にα化されておらず、グルテンバイタリティが未処理小麦粉を100としたときに70〜95で、かつグルテン膨純度が未処理小麦粉を100としたときに105〜160であるお好み焼き用の湿熱処理小麦粉が記載されている。しかしながら、この湿熱処理小麦粉は、加圧条件下で湿熱処理されているため、お好み焼にする場合には、ふっくらとしながらシットリとした良好な生地となるが、アメリカンドッグの衣材として用いる場合には、口溶けのよい食感が得られなかった。
【0006】
通常、アメリカンドッグの衣材として用いられている薄力粉は、粗蛋白質含量は8.0〜8.8%程度であり、口溶けはよいが、ボリュームに欠けるものであった。しかし、ここに中力粉や強力粉を加えたとしても、逆に歯もろさがなく、食感の重いものになってしまっていた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いる原料粉である薄力系小麦粉は、軟質系小麦又は中間質小麦から得られる小麦粉である。小麦粒から製粉して小麦粉を得る際に、中心に近い部分から先に粉砕され、外皮に近い部分は後から粉砕されるため、外皮に近い部分を取り分けることができる。この外皮に近い部分は、蛋白質含量が高いが、灰分も高いため、2等粉や3等粉として流通している。
本発明で用いる薄力系小麦粉は、これらのうち、粗蛋白質含量9〜12%、好ましくは9.5〜11.5%のものを用いる。これより粗蛋白質含量が低いと、ボリュームが足りないものとなり、逆に高いと、口溶けのよい食感が得られない。
【0012】
上記薄力系小麦粉の湿熱処理の方法は、湿熱処理後の薄力系小麦粉(熱処理薄力小麦粉)が、そのグルテンバイタリティが45〜55%でありかつ実質的にα化されていない条件であればよいが、好ましくは、原料粉をそのままか又は加水した後、品温80〜100℃、好ましくは85〜95℃で、4〜60秒間、好ましくは5〜30秒間、飽和水蒸気を用いて湿熱処理する方法が挙げられる。湿熱処理は、密閉系で行うと、加圧条件となり好ましくなく、開放系において常圧条件で行うことが好ましい。このような常圧条件で湿熱処理を行う装置の好ましい例として、特許第2784505号公報の第1図に記載の粉粒体の滅菌装置において、該装置の容器3bに適切な蒸気排出口を設けるなどして、該容器3bを開放系容器としたものなどが挙げられる。また本発明では、上記湿熱処理終了後は、薄力系小麦粉を加熱装置から取り出すなどして急速冷却することが好ましい。
【0013】
熱処理薄力小麦粉のグルテンバイタリティが上記範囲(45〜55%)外であると、外観、内相、及び食感のいずれもが劣る衣となる。
なお、本発明において、熱処理薄力小麦粉が実質的にα化されていないとは、熱処理薄力小麦粉のα化度の値が、未処理の薄力系小麦粉のα化度の値とほぼ同じ程度(0〜8%程度)であることを意味する。
【0014】
本発明において、熱処理薄力小麦粉のグルテンバイタリティーは以下のようにして測定する。
〔グルテンバイタリティーの測定法〕
(1)
小麦粉の可溶性粗蛋白質含量の測定:
(a)100mL容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(b)上記のビーカーに0.05規定酢酸40mLを加えて、室温で60分間攪拌して懸濁液を調製する。
(c)上記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)上記で用いたビーカーを0.05規定酢酸40mLで洗って洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)上記(c)及び(d)で回収した濾液を一緒にして100mLにメスアップする。
(f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに上記(e)で得られた液体の25mLをホールピペットで入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」;硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(重量比)1錠及び濃硫酸15mLを加える。
(g)上記したケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型) を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、さらにダイヤル9又は10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的にかつ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型) を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量を求める。
【0015】
(数1)
可溶性粗蛋白質含量(%)=0.14×(T−B)×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するか又は力価の表示のある市販品を用いる)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0016】
(2)
小麦粉の全粗蛋白質含量の測定:
(a)上記(1)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに上記(1)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠及び濃硫酸5mLを加える。
(b)上記(1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9又は10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的にかつ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている上記(1)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の全粗蛋白質含量を求める。
【0017】
(数2)
全粗蛋白質含量(%)=(0.14×T×F×N)/S
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0018】
(3)
グルテンバイタリティーの算出:
上記(1)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量及び上記(2)で求めた試料(小麦粉)の全粗蛋白質含量から、下記の数式により、試料(小麦粉)のグルテンバイタリティーを求める。
【0019】
(数3)
グルテンバイタリティー(%)=(可溶性粗蛋白質含量/全粗蛋白質含量)×100
【0020】
本発明のミックスは、上記の熱処理薄力小麦粉を含有する。ミックス中の配合量は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上である。
本発明のミックスには、その他、アメリカンドッグ用のミックスとして通常用いられる、膨張剤;砂糖、塩などの調味料;小麦粉;澱粉;卵粉;粉乳類;油脂;香料;着色料などを配合してもよい。
【0021】
本発明のミックスは、水を加え、混合・攪拌して、アメリカンドッグ用バッター液として用いられる。バッター液の調製に際しては、好ましくは、本発明のミックス100質量部に対して、水70〜90質量部を加える。この範囲外では、バッター液の粘度・流動性が好ましくなく、操作が困難になりやすい。水の一部又は全部を牛乳に置き換えることもできる。また、ミックスと水を混合・攪拌する際、油脂を別途添加することも可能である。
【0022】
本発明のミックスから調製したバッター液は、従来のバッター液と同様にして用いられる。すなわち、ソーセージ、フランクフルトなど、通常アメリカンドッグに用いられる具材の表面に直接付着させて用いることができる。その際、ソーセージ、フランクフルトなどの具材に前もって澱粉などの打ち粉をすることも可能である。
本発明のミックスから調製したバッター液を具材の表面に付着させた後は、従来と同様にして油で揚げればよい。油で揚げて得られたアメリカンドッグは、そのまま喫食に供してもよいし、冷凍保存することも可能である。冷凍保存した場合には、自然解凍した後、再度油で揚げることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら限定されるものではない。
【0024】
(製造例1〜7)
飽和水蒸気が12kg/時で吹き込まれた高速撹拌機(特許第2784505号公報の第1図に記載の装置において、ロータリーバルブ5を取り除き、容器3bを開放系容器としたもの)中に、薄力小麦2等粉(雪、日清製粉(株)製;粗蛋白質含量10%、α化度2%、グルテンバイタリティ59%)を200kg/時の割合で供給し、周速度10.5m/秒で攪拌しながら湿熱処理し、小麦粉の排出時品温が表1の温度となるようにして熱処理小麦粉をそれぞれ得た。なお、高速撹拌機中の小麦粉の滞留時間は、約10秒であった。
各製造例の熱処理小麦粉を用いて、表1の配合でアメリカンドッグ用ミックスをそれぞれ製造した。
【0025】
(試験例1)
ホバートミキサーに水750gと、製造例1〜7のアメリカンドッグ用ミックスのいずれか1kgとを投入して、ビーターで1分間、低速で攪拌して、各バッター液を調製した。ソーセージ(長さ10cm、重さ40g)を串に長軸に沿って刺し、調製した各バッター液をそれぞれ、製品重量が約100gになるよう付着させた。次いで、170〜180℃に熱した大豆白絞油で4分間揚げ、アメリカンドッグを得た。
得られたアメリカンドッグを一旦冷凍し、自然解凍した後、更に大豆白絞油で4分間再油ちょうした。再油ちょう直後のアメリカンドックについて、衣の外観、内相及び食感を表2の評価基準により10名のパネラーで評価した。さらに、再油ちょう後のアメリカンドッグを室温で3時間保存した後、衣の食感を同じ基準で評価した。それらの評価結果(パネラー10名の平均点)を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
(製造例8〜12)
粗蛋白質含量が表3に示す値の各種薄力系小麦粉に代えた以外は、製造例4と同様にして各種熱処理小麦粉を得た。この熱処理小麦粉を用いて、表3の配合でアメリカンドッグ用ミックスをそれぞれ製造した。
【0029】
(製造例13)
薄力系小麦粉に代えて強力小麦粉(粗蛋白質含量13.0%)に代えた以外は、製造例4と同様にして熱処理小麦粉を得た。この熱処理小麦粉を用いて、表3の配合でアメリカンドッグ用ミックスを製造した。
【0030】
(製造例14)
特許第2784505号公報の第1図に記載の装置を用いて、加圧状態(1.2kgf/cm
2 )で湿熱処理した以外は、製造例4と同様にして熱処理小麦粉を得た。この熱処理小麦粉を用いて、表3の配合でアメリカンドッグ用ミックスを製造した。
【0031】
(試験例2)
製造例8〜14のアメリカンドッグ用ミックスを用いて、試験例1と同様にしてアメリカンドッグをそれぞれ得、一旦冷凍し、自然解凍した後、更に大豆白絞油で4分間再油ちょうした。再油ちょう直後のアメリカンドックについて、衣の外観、内層及び食感を表2の評価基準により10名のパネラーで評価した。さらに、再油ちょう後のアメリカンドッグを室温で3時間保存した後、衣の食感を同じ基準で評価した。それらの評価結果(パネラー10名の平均点)を表3に示す。
【0032】
【表3】