特許第5731292号(P5731292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731292
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】真空処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   H01L21/302 101G
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-138925(P2011-138925)
(22)【出願日】2011年6月22日
(65)【公開番号】特開2013-8755(P2013-8755A)
(43)【公開日】2013年1月10日
【審査請求日】2014年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊也
【審査官】 杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−274136(JP,A)
【文献】 特開昭64−028823(JP,A)
【文献】 特開平03−050723(JP,A)
【文献】 特開平02−224330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で処理対象物に対して所定処理を施す真空処理装置において、
真空チャンバの壁面に覗き窓が設けられ、この覗き窓が、内部に、通電により加熱するための導線が埋め込まれた透光性板材を備え、透光性板材の中心からその周囲に向かう方向を径方向とし、この透光性板材の中心と、当該中心から径方向の距離が最短となる透光性板材の周囲までの距離の中点とを結ぶ線を半径とする仮想円領域内で透光性板材の中央領域を除く領域に、前記導線が蛇行させて配置され、その自由端を透光性板材外表面に延出させてなり、
前記透光性板材は、2枚の石英製の板材を、前記導線を埋め込んだ状態で溶着して構成され、前記導線が、Pt、Au、W及びMoの中から選択された材料製であることを特徴とする真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内で処理対象物に対して所定処理を施す真空処理装置に関し、より詳しくは、内部で行われる処理状態を把握するための覗き窓が真空チャンバの壁面に設けられたものに関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着装置やプラズマを用いるエッチング装置またはスパッタリング装置等の真空処理装置においては、真空チャンバ内で行われるプラズマ処理の終点検知、赤外線サーモグラフィによる温度測定や目視確認等、内部で行われる処理の状況を把握するために、真空チャンバの壁面に覗き窓を設けておくことが多い。例えば、特許文献1には、覗き窓を臨んで真空チャンバ外にプラズマ終点検出装置を設けて真空処理装置内のプラズマの発光スペクトル強度を検出し、このスペクトル強度が所定値以下に低下すると、プラズマ処理の終点として検出する(発光スペクトル強度に基づいてプラズマを生成するパラメータを制御し、プラズマ状態を制御する)ことが知られている(例えば、従来技術の欄参照)。
【0003】
ここで、真空処理装置として、例えばCF等のフッ素系ガスを用いてシリコンウエハ等の処理対象物をエッチングするエッチング装置を例に説明すると、エッチング時に生成されたガス(生成ガス)は、真空チャンバ内に設けた防着板だけでなく、覗き窓にも付着、堆積するようになる。生成ガスが付着して堆積すると、覗き窓の透過率が低下し、これに起因してプラズマ終点検出装置に入力されるプラズマ発光強度の絶対値も減少する。その結果、効果的にプラズマ処理の終点を検知できなくなる。このことは、生成ガスの堆積量が時間と共に増加するのに従い、より顕著になる。
【0004】
上記特許文献1では、覗き窓に加熱手段を設けて当該覗き窓を加熱(真空処理装置内で行われる処理にもよるが、エッチング装置の場合には経験的に200℃以上)することで、上記生成ガスの堆積を防止することを提案している。具体的には、覗き窓からの電磁波の漏洩を効果的に防止すべく、覗き窓の外側に密着配置した所定材質の多孔質またはメッシュ状の電磁波シールドを加熱手段として兼用し、電磁波シールドに通電したときの当該電磁波シールドからの伝熱で覗き窓を加熱するようにしている。然し、真空チャンバ外側から覗き窓を加熱する構成では、覗き窓から真空チャンバ壁面に熱引けするため、特に覗き窓のうち真空雰囲気に接する表面(即ち、生成ガスが付着、堆積する面)を効果的に所定温度まで昇温することができず、生成ガスの付着、堆積を効果的に抑制できないことが判明した。このような場合、電磁波シールドに例えば大電流を流して覗き窓への伝熱量を増加することも考えられるが、これではコスト高を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−35262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、内部で行われる処理の状況を把握するといった機能は損なわれることなく、真空雰囲気に接する覗き窓表面を効果的に加熱して生成ガスの付着、堆積を効果的に抑制できるようにした低コストの真空処理装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、真空チャンバ内で処理対象物に対して所定処理を施す真空処理装置において、真空チャンバの壁面に覗き窓が設けられ、この覗き窓が、内部に導線が埋め込まれた透光性板材を備え、透光性板材の中心からその周囲に向かう方向を径方向とし、この透光性板材の中心と、当該中心から径方向の距離が最短となる透光性板材の周囲までの距離の中点とを結ぶ線を半径とする仮想円領域内で透光性板材の中央領域を除く領域に、前記導線が蛇行させて配置され、その自由端を透光性板材外表面に延出させてなることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、覗き窓のうち、内部で行われる処理の状況を把握するために必要な中央領域の周囲に電線をその略全周に亘るように蛇行して内蔵し、これに直流電流を通電して加熱する構成を採用したため、真空チャンバへの熱引けが抑制され、少ない通電電流で覗き窓のうち真空雰囲気に接する表面であってその中央領域を効果的に所定温度(200℃以上)まで昇温することができる。これにより、真空処理装置内で行われる処理に応じて覗き窓への生成ガスの付着、堆積を効果的に抑制できる。しかも、この中央領域には配線がないため、内部で行われる処理の状況を把握するといった機能は損なわれない。ここで、本発明にいう中央領域とは、例えば、当該中央領域を通したプラズマ終点検知、温度測定や目視確認等、内部で行われる処理の状況を把握するために必要な領域をいい、目的に応じてその面積が設定される。
【0009】
前記透光性板材は、2枚の石英製の板材を、導線を埋め込んだ状態で溶着して構成され、前記導線が、Pt、Au、W及びMoの中から選択された材料製であることが好ましい。これにより、内部の所定領域に導線が埋め込まれた覗き窓を実現できる。この場合、導線をPt、Au、W及びMoの中から選択されたものとしたため、熱電伝導がよく、しかも、2枚の石英製の板材を、導線を埋め込んだ状態で溶着する際に導線が破損する等の不具合も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の覗き窓を備えたドライエッチング装置の構成を示す模式断面図。
図2図1中、A部の拡大断面図。
図3図2のIII−III線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、真空処理装置をICP型ドライエッチング装置とした場合を例に本発明の実施形態を説明する。図1は本実施形態のドライエッチング装置EMを示す、ドライエッチング装置EMは、真空雰囲気を形成可能な真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1の天板11は、石英やセラミックスなどの誘電体材料で形成され、天板11上方には、径の異なる2本のアンテナコイル2a、2bが同心に配置されている。導電率が高い金属製のアンテナコイル2a、2bにはマッチングボックス3aを介して第1の高周波電源3が接続されている。
【0012】
真空チャンバ1の底板上にはシリコンウエハ等の処理対象物Sが保持される基板ステージ4が設けられている。この場合、基板ステージ4上面には、図示省略の基板電極が設けられ、ブロッキングコンデンサ5aを介して第2の高周波電源5に接続され、エッチング中、処理対象物Sに対して所定のバイアス電位を印加できる。真空チャンバ1の底板にはまた、複数の排気口12が開設され、各排気口12には、図示省略したターボ分子ポンプやロータリーポンプ等からなる真空排気手段に通じる排気管6が接続されている。真空チャンバ1の側壁には、マスフローコントローラ4aが介設されたガス導入管4が接続され、処理対象物Sに応じて所定のエッチングガス(例えば、CF等のフッ素系ガス)が一定の流量で真空チャンバ1内に導入できるようになっている。真空チャンバ1の側壁にはまた、透孔13が開設され、覗き窓8が気密保持した状態で取り付けられている。
【0013】
覗き窓8は、図2及び図3に示すように、内部に導線Wが埋め込まれた透光性部材81とこの透光性部材81を保持する真空フランジ82とを備える。透光性部材81は、同一の輪郭を備えた2枚の板材81a、81bを、気密保持されるように相互に溶着により接合して構成される。本実施形態では、両板材81a、81bは石英製でかつ平面視円形である。一方の板材81aのうち他方の板材81bとの接合面(片面)には、板材81aの中心Cpと、当該板材81aの半径の中点Mpとを結ぶ線を半径Rvとする仮想円領域内で板材81aの中央領域を除く領域に、周方向略全体に亘るように蛇行させて所定形状の溝部811が形成されている。この場合、溝部811の両自由端が幅広となるように形成されている。ここで、溝部811の形状は、導線Wを収納できるものであれば、特に限定はなく、また、径方向外方に見た溝部811の数は、加熱温度または後述の配線の材質や径を考慮して適宜設定される。
【0014】
上記溝部811には所定径の導線Wが埋設される。この場合、溝部811の自由端に板状電極W1を埋設し、板状電極W1に導線Wの両自由端を接続している。この状態で、他の板材81bを重ね合わせて溶着される。板材81aの他面には板状電極W1に通じる孔(図示せず)が夫々穿設され、当該孔を通して接続ピンW2が板状電極W1に夫々接続する。この場合、接続ピンW2が板材81aの外側まで延出する導線Wの自由端を構成する。なお、板状電極W1や接続ピンW2を用いることなく、導線Wの自由端を直接板材81aの外側まで延びるようにしてもよい。そして、後述のように、透光性部材81を真空フランジ82に保持させた後、真空チャンバ1の壁面に取り付けるのに際しては、一方の板材81aが真空チャンバ1外側に配置され、一方の板材81aから外側に突出する両接続ピンW2には、AC電源が接続されて通電できるようになっている。
【0015】
上記により、透光性板材81の中心Cpと、中心Cpから半径の中点Mp(径方向の距離が最短となる透光性板材の周囲までの距離の中点)とを結ぶ線を半径Rvとする仮想円領域内で透光性板材81の中央領域を除く領域に、周方向略全長に亘って導線Wが蛇行させて配置される構成となる。透光性板材81の中心Cpから半径Rcの領域たる中央領域は、例えば、当該中央領域を通したプラズマ終点検知、温度測定や目視確認等、内部で行われる処理の状況を把握するために必要を確保できるように、目的に応じて適宜設定される。また、導線Wとしては、熱伝導の良く、しかも、板材81a、81b相互を溶着する際に特性が変化する等の不具合が生じ難いPt、Au、W及びMoの中から選択された材料製のものが用いられる。
【0016】
一方、真空フランジ82は、透光性部材81の輪郭より僅かに大きな径の中央開口82aを備えた金属製のものである。また、中央開口82aのうち、真空チャンバ1と背向する側の内縁部には、径方向内側に向かって延出する、透光性板材81用の保持部82bが形成されている。そして、真空チャンバ1の壁面(平坦面)に形成した環状溝1aに嵌合したOリング9に透光性板材81の外周縁部をその全面に亘って当接させ、この状態で、保持部82bにより透光性板材81の外周縁部がOリング9に押圧されるように、真空フランジ82に形成した複数の透孔82cを夫々挿通するボルトBにより真空フランジ82が取り付けられる。これにより、透光性板材81が真空チャンバ1の壁面に気密保持された状態で固定される。
【0017】
上記実施形態によれば、覗き窓8のうち、内部で行われる処理の状況を把握するために必要な中央領域の周囲に電線Wを周方向略全体に亘り配置し、これに直流電流を通電して加熱する構成を採用したため、真空チャンバ1への熱引けが抑制され、少ない通電電流で覗き窓8のうち真空雰囲気に接する表面であってその中央領域を効果的に所定温度(200℃以上)まで昇温することができる。これにより、ドライエッチング装置EMによりフッ素含有ガスにて処理対象物Sをエッチングする際に、生成ガスが覗き窓8に付着、堆積することを効果的に抑制できる。しかも、この中央領域には導線Wがないため、内部で行われる処理の状況を把握するといった機能は損なわれない。
【0018】
次に、以上の効果を確認するために、図1に示すドライエッチング装置EMを用いて次の実験を行った。この場合、透光性板材81として、石英製でφ66mm、板厚9mmと1mmの2枚の板材を用い、径方向7.5mm〜15.5mmの範囲に、全長430mmのPt製の導線を周方向全体に跨るように蛇行させて配置したものとした。そして、ドライエッチング装置EMを所定圧力(10−5Pa)まで真空引きした後、AC電源より電圧30.1V、電流0.74Aの条件で通電し、透光性板材81の中央領域うち真空雰囲気に接する表面を熱電対にて温度測定したところ、約200℃に加熱されることが確認された。
【0019】
比較実験として、透光性板材として、石英製でφ66mm、板厚10mmの板材を用い、これを真空チャンバ1に取り付け、透光性板材の外表面に、電熱ヒータを設けて加熱することとした。この場合、AC電源より電圧5.2V、電流6.7Aの条件で通電し、電熱ヒータの透光性板材の大気側温度を200℃まで加熱した。このとき、透光性板材の中央領域うち真空雰囲気に接する表面を熱電対にて温度測定したところ、146℃であり、200℃にまで加熱するには、AC電源より電圧6.1V、電流7.9A以上の条件で通電する必要があることが確認された。
【0020】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、真空処理装置としてドライエッチング装置に適用したものを例に説明したが、内部で行われる処理に応じて覗き窓に何らかの生成物が付着、堆積し、これを加熱することで抑制したり、または、除去できるものであれば、本発明の覗き窓は広く適用できる。また、上記実施形態では、石英製の2枚の板材を接合して透光性部材を構成したものを例に説明したが、導線を埋め込むことができるものであれば、その形態は特に問わず、また、導線Wを配置するパターン等も上記に限定されるものではない。例えば、インクジェット装置により、透光性部材81表面に直接電線を形成するようにしてもよい。
【0021】
更に、上記実施形態では、覗き窓の透光性部材81が円形の輪郭を有するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、矩形等種々のものを用いることができる。この場合、透光性板材の中心からその周囲に向かう方向を径方向とし、この透光性板材の中心と、当該中心から径方向の距離が最短となる透光性板材の周囲までの距離の中点Mpとを結ぶ線を半径Rvとする仮想円領域内で中央領域を除く範囲に上記同様に導線を蛇行して配置すればよい。
【符号の説明】
【0022】
EM…ドライエッチング装置(真空処理装置)、1…真空チャンバ、8…覗き窓、81…透光性部材、81a、81b…板材、W…導線、W2…接続ピン(導線の自由端)、基板S…処理対象物。
図1
図2
図3