特許第5731732号(P5731732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731732リチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材、その製造方法、該負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731732
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材、その製造方法、該負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20150521BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2008-98291(P2008-98291)
(22)【出願日】2008年4月4日
(65)【公開番号】特開2009-117334(P2009-117334A)
(43)【公開日】2009年5月28日
【審査請求日】2011年3月7日
【審判番号】不服2014-5055(P2014-5055/J1)
【審判請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2007-270075(P2007-270075)
(32)【優先日】2007年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】片山 宏一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清志
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/024980(WO,A1)
【文献】 特開平11−354122(JP,A)
【文献】 特開2001−39705(JP,A)
【文献】 特開平11−199211(JP,A)
【文献】 特開平8−195197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04M 4/36
H04M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の扁平状粒子が互いに非平行に集合又は結合した塊状構造を有し、アスペクト比が5以下である黒鉛質粒子を、窒素含有高分子化合物とこれを溶解する溶媒の混合溶液に分散、混合する工程と、
前記溶媒を除去して、前記窒素含有高分子化合物に被覆された黒鉛質粒子を作製する工程と、
前記窒素含有高分子化合物に被覆された黒鉛質粒子を焼成して、ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度(ID)と1560〜1650cm−1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比であるR値(ID/IG)が0.3以下であり、X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される表面の窒素元素濃度が1.5〜10at%である炭素被覆黒鉛負極材を得る工程と、を含む、
リチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で作製されたリチウムイオン二次電池用黒鉛負極材を用いたリチウムイオン二次電池用黒鉛負極。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用黒鉛負極を用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材、その製造方法、該負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。さらに詳しくは、ポータブル電子機器、電気自動車、電力貯蔵用等に用いるのに好適な、放電負荷特性、サイクル特性、充電特性に優れたリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材、その製造方法、該負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
負極材として用いられる黒鉛質粒子には、例えば、天然黒鉛質粒子、コークス、有機系高分子材料、ピッチ等を黒鉛化した人造黒鉛質粒子、これら天然黒鉛質粒子や人造黒鉛質粒子を粉砕した黒鉛質粒子等がある。
【0003】
これらの黒鉛質粒子は、負極材として有機系結着剤及び溶剤と混合して、黒鉛ペーストとし、この黒鉛ペーストが銅箔の表面に塗布され、溶剤を乾燥、成形させてリチウムイオン二次電池用負極として使用されている。例えば、負極材に黒鉛を使用することで、リチウム金属を負極材として用いた場合に起こる、リチウムのデンドライトによる内部短絡の問題を解消し、サイクル特性の改良を図ったことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、黒鉛結晶が発達している天然黒鉛質粒子及びコークスを黒鉛化した人造黒鉛質粒子は、c軸方向の結晶の層間の結合力が結晶の面方向の結合に比べて弱いため、負極材料に適した粒子径に調製するための粉砕により黒鉛層間の結合が切れ、アスペクト比の大きい、いわゆる鱗状の黒鉛質粒子となる。
【0005】
この鱗状の黒鉛質粒子はアスペクト比が大きいため、バインダと混練して集電体に塗布して電極を作製した時に鱗状の黒鉛質粒子が集電体の面方向に配向し、その結果、黒鉛質粒子へのリチウムの吸蔵・放出の繰り返しによって発生するc軸方向の歪みにより電極内部の破壊が生じ、サイクル特性が低下する問題があるばかりでなく、放電負荷特性が悪くなる傾向がある。
【0006】
さらに、アスペクト比の大きな鱗状の黒鉛質粒子は比表面積が大きいため、集電体との密着性が悪く、多くのバインダが必要となる問題点がある。集電体との密着性が悪いと、集電効果が低下し、放電容量、放電負荷特性、サイクル特性等が低下する問題がある。
【0007】
また、比表面積が大きな鱗状黒鉛質粒子は、電解液の分解を起こしやすく、これを用いたリチウムイオン二次電池は初回サイクルの不可逆容量が大きいという問題がある。
さらに、比表面積の大きな鱗状黒鉛質粒子は、リチウムイオンを吸蔵した状態での熱安定性が低く、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた場合、安全性に問題がある。そこで、放電負荷特性、サイクル特性、初回サイクルの不可逆容量を改善できる黒鉛質粒子が要求されている。
【0008】
上記の要求を解決するものとして、扁平状の粒子を複数配向面が非平行となるように集合又は結合させた黒鉛質粒子(以下、「非配向性黒鉛質粒子」と称する)が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この非配向性黒鉛質粒子を負極材として用いたリチウムイオン二次電池は、高い充放電容量を有し、且つ充放電負荷特性、サイクル特性、初回サイクルの充放電効率に優れるためリチウムイオン二次電池に好適に使用できるものである。
【0009】
しかしながら、上記非配向性黒鉛質粒子においては、充電初期に負極材表面に発生すると言われる導電性の高い被膜(SEI)が、充放電容量により影響するために、高速充電した場合、この被膜(SEI)の抵抗のため、充放電容量(充電負荷特性)が低いという課題がある。その課題を解決するものとして上記非配向性黒鉛質粒子のアスペクト比、細孔容積を規定し、それに炭素層を被覆した負極材が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、充電特性、特に低温における充電性能が十分に満足できるものではないため、より良い充電特性さらには低温における充電性能がリチウムイオン二次電池用負極材に求められている。
【0010】
また、黒鉛質粒子表面に低結晶性炭素を被覆することが、提案されている(例えば、特許文献4参照)。詳しくは、核となる炭素質物と、それを被覆する炭素表層からなる多相構造を有する炭素質物粒子と、単相構造を有する炭素質物粒子との混合物を用いた負極材料をリチウムイオン二次電池負極に用いることで、電極容量の大きい、充放電サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池が提案されている。しかし、多相構造を有する炭素質物粒子と、単相構造を有する炭素質物粒子との混合物を用いた負極材料では、初回サイクルの不可逆容量や充放電特性を十分に改善していない。
【0011】
【特許文献1】特公昭62−023433号公報
【特許文献2】特開平10−158005号公報
【特許文献3】国際公開2005/024980号パンフレット
【特許文献4】特開平05−307977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、非配向性黒鉛質粒子の特長を維持し、高速充放電負荷特性及び低温充電性能を向上させるリチウムイオン二次電池用負極材、その製造方法、該負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記非配向性黒鉛質粒子表面に低結晶性炭素を被覆して検討した結果、充電負荷特性が向上することを見出した。
しかしながら、単に非配向性黒鉛質粒子表面に低結晶性炭素を被覆しても、低結晶性炭素自体も不可逆容量が大きいため、初回サイクルの不可逆容量が大きいことに起因する初回充放電効率の低下が生ずる。また、低結晶性炭素により粒子が硬くなり、それによりプレス後の電極で剥離が生じやすいという問題が生じ、非配向性黒鉛質粒子の特長が失われ、得られるリチウムイオン二次電池の特性は低下することがわかった。
そこで、本発明者等は、不可逆容量を小さく、プレス後の電極での剥離を回避すべく、また低温充電性能を高めるべく鋭利検討した結果、窒素の存在により、集電体である金属、特にリチウムイオンとの親和性が強くなること、また、非配向性黒鉛質粒子表面に被覆する炭素層の割合、負極材全体の窒素元素濃度を特定の値とすることで、炭素層で被覆された黒鉛質粒子が硬くなりすぎるのを回避できることを見出し、上記問題を解決できる、本発明のリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材に至った。
【0014】
本発明は、次の事項に関する。
(1)核となる黒鉛質粒子と、該黒鉛質粒子を被覆する炭素層と、を有する炭素被覆黒鉛負極材であり、
前記核となる黒鉛質粒子は、複数の扁平状粒子が互いに非平行に集合又は結合した構造を有しており、
ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度(ID)と1560〜1650cm−1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比であるR値(ID/IG)が0.3以下であり、
X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される炭素被覆黒鉛負極材表面の窒素元素濃度が1.5〜10at%であるリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材。
【0015】
(2)前記黒鉛質粒子に対する炭素の比率(質量比)は、0.001〜0.02であることを特徴とする上記(1)記載のリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材。
(3)前記炭素被覆黒鉛負極材は、平均粒径が10〜30μm、真比重が2.10以上、窒素ガス吸着による比表面積が0.5〜10m/g、ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度(ID)と1560〜1650cm−1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比であるR値(ID/IG)が0.3以下である上記(1)又は(2)記載のリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材。
【0016】
(4)複数の扁平状粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造で、アスペクト比が5以下である黒鉛質粒子を、窒素含有高分子化合物とこれを溶解する溶媒の混合溶液に分散、混合する工程と、
前記溶媒を除去して、前記窒素含有高分子化合物に被覆された黒鉛質粒子を作製する工程と、
前記窒素含有高分子化合物に被覆された黒鉛質粒子を焼成して、リチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材を得る工程と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材の製造方法。
【0017】
(5)前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材又は前記(4)記載の製造方法で作製されたリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材を用いたリチウムイオン二次電池用黒鉛負極。
(6)前記(5)記載のリチウムイオン二次電池用黒鉛負極を用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明になるリチウムイオン二次電池用黒鉛負極材は、放電容量、充放電効率及び充電負荷特性に優れるため、これを用いたリチウムイオン二次電池は、急速充電が必要なポータブル電子機器、電気自動車、電力貯蔵用等に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、核となる黒鉛質粒子と、該黒鉛質粒子を被覆する炭素層と、を有する炭素被覆黒鉛負極材であり、
前記核となる黒鉛質粒子は、複数の扁平状粒子が互いに非平行に集合又は結合した構造を有しており、ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度(ID)と1560〜1650cm−1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比であるR値(ID/IG)が0.3以下であり、
X線光電子分光スペクトル(XPS)で測定される炭素被覆黒鉛負極材表面の窒素元素濃度が1.5〜10at%であることを特徴とする。
また、前記黒鉛質粒子に対する炭素の比率(質量比)は、0.001〜0.02であることが好ましい。
【0020】
炭素層の炭素の比率が、前記黒鉛質粒子に対して0.001未満の場合、充電負荷特性の向上幅が小さい傾向がある。一方、炭素層の炭素比率が0.02を越える場合、初回充放電効率が低下する傾向がある。さらに、炭素被覆黒鉛負極材の粒子が硬くなり、電極プレス時に弾性変形によるスプリングバックが大きくなり、プレス後に電極の剥離が起こりやすくなる。炭素の比率は、0.005〜0.018がより好ましく、0.008〜0.016が更に好ましい。
炭素層の炭素の比率は、後に述べる炭素層の前駆体の炭素化率と黒鉛質粒子に被覆した炭素層の前駆体の質量より算出することができる。なお、「炭素層の前駆体」とは、炭素層となる窒素含有高分子化合物のことをさすが、詳細は後述する。
炭素層の前駆体の炭素化率は、以下のようにして測定する。炭素層の前駆体となる窒素含有高分子化合物単独を窒素気流中、20℃/hで900℃まで昇温、1時間保持した場合の炭素化率を測定する。
本発明において、「炭素の比率」とは、炭素層の炭素化された窒素含有高分子化合物の炭素量に対する、黒鉛質粒子の炭素量の質量比率である。
本発明の炭素被覆黒鉛負極材は、表面の窒素元素濃度が1.5〜10at%である。より好ましくは、1.5〜8at%である。炭素被覆黒鉛負極材表面の窒素元素濃度が1.5at%未満の場合、炭素層の割合が小さいことになるため、充電初期に負極材表面に発生する被膜(SEI)の影響を大きく受け、充電特性が低下する傾向がある。また、10at%を超える場合は、炭素層の割合が大きすぎることとなるため、初回充放電効率が低下する傾向がある。
炭素被覆黒鉛負極材表面の窒素元素濃度測定方法としては、X線光電子分光スペクトル(XPS)を用いて行うことが好ましい。本発明においては、例えば、(株)島津製作所/(株)クレイトスアナリティカル製の「AXIS165」を用いることができる。
【0021】
前記核となる黒鉛質粒子としては、塊状の人造黒鉛であると、得られた黒鉛質粒子を用いたリチウムイオン二次電池の特性(サイクル性、放電負荷特性等)を高められることから好ましい。特に該塊状人造黒鉛質粒子は、複数の扁平状粒子が互いに非平行に集合又は結合した構造を有する黒鉛質粒子(以下、「非配向性黒鉛質粒子」ともいう)であることが好ましい。このような非配向性黒鉛質粒子の表面に、窒素元素が含有された炭素層を被覆処理すると、負極材としてより優れたサイクル特性及び放電負荷特性、充電特性が達成できる。
【0022】
本発明において、「扁平状粒子」とは、長軸と短軸を有する形状のことであり、完全な球状でないものをいう。例えば、鱗状、鱗片状、一部の塊状等の形状のものがこれに含まれる。本発明において、扁平状粒子は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察した際に認められる粒子単位をいう。
また、「複数の扁平状粒子が互いに非平行」とは、それぞれの扁平状粒子の形状において有する扁平した面、換言すれば最も平らに近い面を配向面として、複数の扁平状の一次的な粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合し、黒鉛質粒子を形成している状態をいう。
【0023】
黒鉛質粒子において、扁平状粒子は互いに非平行に集合又は結合しているが、結合とは、互いの扁平状粒子が、後述の、黒鉛化可能な黒鉛質粒子用バインダを黒鉛化した炭素質を介して、化学的に結合している状態をいう。集合とは、互いの粒子が化学的に結合してはいないが、その形状等に起因して、その集合体としての形状を保っている状態をいう。機械的な強度の面から、結合しているものが好ましい。
また、塊状構造とは、上記のように扁平状粒子が非平行に集合又は結合している構造のことをいう。1つの炭素粒子において、扁平状粒子の集合又は結合する数としては、3個以上であることが好ましい。個々の扁平状粒子の大きさとしては、特に制限はないが、これらが集合又は結合した黒鉛質粒子の平均粒径の2/3以下であることが好ましい。
【0024】
本発明における非配向性黒鉛質粒子は、アスペクト比が5以下であることが好ましい。
アスペクト比は、非配向性黒鉛質粒子の長軸方向の長さをA、短軸方向の長さをBとしたとき、A/Bで表される。本発明におけるアスペクト比は、電子顕微鏡で非配向性黒鉛質粒子を拡大し、任意に20個の非配向性黒鉛質粒子を選択し、A/Bを測定し、その平均値をとったものである。
ここで非配向性黒鉛質粒子の長軸と短軸を決定する際は、走査型電子顕微鏡(SEM)で非配向性黒鉛質粒子を拡大し、色々な方向から非配向性黒鉛質粒子を観察して非配向性黒鉛質粒子の三次元的な特徴を考慮した上で非配向性黒鉛質粒子の長軸方向の長さをA、短軸方向の長さをBとを決定する。
例えば、非配向性黒鉛質粒子が球状、球塊状、塊状等の様に近似的に球状をなす場合は、SEM画像で二次元視野内に投影された非配向性黒鉛質粒子について、最も長い部分の長さを長軸Aとし、上記長径に直交する最も長い部分の長さを短軸Bとする。
また、非配向性黒鉛質粒子が、鱗状、板状、ブロック状等のように薄く平たく厚さ方向を有する場合には、短軸Bは粒子の厚みとなる。また、棒状、針状等のような非配向性黒鉛質粒子の場合、長軸Aは非配向性黒鉛質粒子の長さであり、短軸Bは棒状(又は針状等)非配向性黒鉛質粒子の太さとなる。また、例えば、非配向性黒鉛質粒子を機械的な力等を加え形状を変化させたような場合は、色々な方向から非配向性黒鉛質粒子を観察して非配向性黒鉛質粒子の三次元的な特徴を考慮し近似的に非配向性黒鉛質粒子の形状を判断した上で上記のように長軸A及び長軸Bの値を決定する。
【0025】
本発明における非配向性黒鉛質粒子は、真比重が2.2以上であることが好ましく、ラマンスペクトルピーク比は0.05以下が好ましく、窒素元素濃度は0.1at%以下です。
【0026】
非配向性黒鉛質粒子は、例えば、特開平10−158005号公報に開示されている方法によって作製することができる。具体的には以下のとおりである。
即ち、非配向性黒鉛質粒子は、扁平状の黒鉛化可能な骨材又は扁平状の黒鉛と、黒鉛化可能な黒鉛質粒子用バインダの混合物に黒鉛化触媒を添加して混合し、焼成、黒鉛化して黒鉛化物を得、粉砕することにより得られる。
前記黒鉛化可能な骨材としては、フルードコークス、ニードルコークス等の各種コークス類が使用可能である。
また、天然黒鉛や人造黒鉛などの既に黒鉛化されている扁平状の骨材を使用しても良い。
骨材や黒鉛の粒径は、上記黒鉛化物を粉砕した後の粒径よりも小さいことが好ましい。
【0027】
黒鉛化可能な黒鉛質粒子用バインダとしては、石炭系、石油系、人造等の各種ピッチ、タールが使用可能である。
黒鉛化触媒としては、鉄、ニッケル、チタン、ホウ素等、これらの炭化物、酸化物、窒化物等が使用可能である。
【0028】
黒鉛化触媒は、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能な黒鉛質粒子用バインダの合計量100質量部に対して1〜50質量部添加することが好ましい。1質量部未満であると黒鉛質粒子の結晶の発達が悪くなり、充放電容量が低下する傾向がある。一方、50質量部を超えると均一に混合することが困難となり、作業性が低下する傾向がある。
【0029】
焼成は、前記混合物が酸化し難い雰囲気で行うことが好ましく、そのような雰囲気としては、例えば窒素雰囲気中、アルゴンガス中、真空中で焼成する方法が挙げられる。
黒鉛化の温度は2000℃以上が好ましく、2500℃以上であることがより好ましく、2800℃以上であることがさらに好ましい。黒鉛化の温度が2000℃未満では、黒鉛の結晶の発達が悪くなると共に、黒鉛化触媒が作製した黒鉛質粒子に残存し易くなり、得られた黒鉛質粒子をリチウムイオン二次電池として用いた際に、充放電容量低下やサイクル特性低下、安全性の低下といった傾向が出る。
【0030】
次に、得られた黒鉛化物を粉砕して非配向性黒鉛質粒子を得る。黒鉛化物の粉砕方法については特に制限はないが、ジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法を用いることができる。粉砕後の平均粒径(メディアン径)は10〜30μmとすることが好ましい。平均粒径の調整は、例えば、粉砕機や篩を用いて所望の大きさの粒子を得ればよい。
平均粒径は、例えば以下のように測定する。(株)島津製作所製のレーザー回折粒度分布装置「SALD−3000」を用い、50%Dでの粒径を平均粒径とする。
非配向性黒鉛質粒子のアスペクト比を5以下とするには、過激な粉砕を行わないようにする等、粉砕法を調整すればよい。
本発明において、非配向性黒鉛質粒子の真比重は、2.2以上が好ましく、ラマンスペクトルピーク比は0.05以下であることが好ましく、窒素元素濃度は0.1at%以下が好ましい。
非配向性黒鉛質粒子の真比重を2.2以上とするには、2000℃以上で熱処理を施せばよい。
また、ラマンスペクトルピーク比を0.05以下とするには、例えば、核となる黒鉛の黒鉛化温度と炭素層の被覆量及び炭素の比率の制御とにより調整すればよい。
窒素元素濃度0.1at%以下とするには、例えば、炭素層の被覆量及び炭素の比率の制御により調整すればよい。
【0031】
本発明のリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材は、窒素含有高分子化合物を溶解した溶液に、核となる上記非配向性黒鉛質粒子を分散、混合し、次いで溶媒を除去して、炭素層の前駆体となる窒素含有高分子化合物に被覆された黒鉛質粒子を作製し、これを焼成して炭素層に被覆された炭素被覆黒鉛負極材を作製することができる。
炭素被覆黒鉛負極材表面の窒素元素濃度を1.5〜10at%とするには、具体的には、炭素層の炭素の比率及び炭素層の被覆量を調整すればよい。
また、核である非配向性黒鉛質粒子に対する炭素の比率(質量比)が0.001〜0.02とするには、炭素層の前駆体となる窒素含有高分子化合物の炭素化率を考慮し、非配向性黒鉛質粒子に被覆する窒素含有高分子化合物の量を適宜調整すればよい。
【0032】
本発明に用いられる窒素含有高分子化合物としては、ポリアクリロニトリル、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレア樹脂、ポリ(メタ)アクリレート等に、共重合体として又硬化剤として窒素含有物を用いた、窒素原子を含有する高分子化合物が挙げられる。
【0033】
本発明では、窒素含有高分子化合物を核となる黒鉛質粒子表面に炭素層の前駆体として被覆するために溶液とする。このとき用いる溶媒としては高分子化合物を溶解するものであれば特に制限はない。例えば、水、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、ベンゼン、キノリン、ピリジン、N−メチル−2−ピロリドン等を単独又は混合して用いることができる。また、石炭乾留の際に生成する比較的低沸点の液状物の混合物(クレオソート油)も使用することができる。
【0034】
窒素含有高分子化合物を溶解した溶液に、核となる前記非配向性黒鉛質粒子を分散・混合し、次いで溶媒を除去して、炭素層の前駆体である窒素含有高分子化合物で被覆された黒鉛質粒子を作製する。水を溶媒とする場合、溶液中での黒鉛質粒子の分散を促進させ、窒素含有高分子化合物と黒鉛質粒子との密着性を向上させるため、界面活性剤を添加すると好適である。
【0035】
溶媒の除去は、常圧又は減圧雰囲気で加熱することによって行うことができる。溶媒除去の際の温度は、雰囲気が大気の場合、200℃以下が好ましい。200℃を超えると、雰囲気中の酸素と窒素含有高分子化合物及び溶媒(特に、クレオソート油を用いた場合)
が反応し、焼成によって生成する炭素量が変動、また炭素層の多孔質化が進み、負極材としての本発明の特性範囲(炭素被覆黒鉛負極材表面の窒素元素濃度、ラマンスペクトルの強度比R値、炭素層の黒鉛質粒子に対する炭素比率)を逸脱し、所望の特性を発現できなくなる場合がある。
【0036】
溶媒除去後、次いで、窒素含有高分子化合物を炭素層前駆体として被覆した黒鉛質粒子を焼成し、窒素含有高分子化合物を炭素化することで、炭素層で被覆された炭素被覆黒鉛質粒子を得る。この焼成に先だって、窒素含有高分子化合物で被覆された黒鉛質粒子を150〜300℃の温度で加熱して前焼成処理しても良い。例えば、ポリアクリロニトリルを用いた場合、このような加熱処理により炭素層の炭素の比率を増加させることができ、炭素層の結晶性も向上させることができる。
【0037】
窒素含有高分子化合物で被覆された黒鉛質粒子の焼成は、非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。このような雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、循環された燃焼排ガス雰囲気等が挙げられる。
【0038】
焼成する際の最高温度は、700〜1400℃とすることが好ましく、800〜1200℃とすることがより好ましく、850〜1100℃がさらに好ましい。700℃未満では、負極材として用いた場合、初回サイクルの不可逆容量が大きくなる傾向がある。一方、1400℃を超えると含有していた窒素原子が脱離して、炭素被覆黒鉛負極材の窒素元素濃度が著しく減少することから好ましくない。
【0039】
以上のようにして作製された炭素被覆黒鉛質粒子を、必要に応じて、解砕処理、分級処理、篩分け処理を施すことで本発明のリチウム二次電池用負極材を得ることができる。
【0040】
本発明のリチウムイオン二次電池用炭素被覆黒鉛負極材は、平均粒径10〜30μm、真比重が2.10以上、窒素ガス吸着による比表面積が0.5〜10m/g、ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度(ID)と1560〜1650cm−1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比であるR値(ID/IG)が0.3以下であるであることを特徴とする。
【0041】
平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置(例えば、(株)島津製作所製の「SALD−3000」)を用い50%D(メディアン径)として測定される値である。炭素被覆黒鉛負極材の平均粒径が10μm未満の場合、比表面積が大きくなり初回充放電効率が低下する傾向がある。一方、炭素被覆黒鉛負極材の平均粒径が30μmを超える場合、粒径の大きさに起因して電極面に凸凹が発生し易くなり、電池の短絡の原因となることがある。
平均粒径の調整は、粉砕機や篩を用いて所望の大きさの粒子を得ればよい。
【0042】
炭素被覆黒鉛負極材の真比重が2.10未満の場合、黒鉛化が十分進行していないことを意味し、放電容量が低下する傾向がある。真比重を調整するには、例えば、2000℃以上で熱処理を施せばよい。
真比重の測定は、ブタノールピクノメーターを用いたブタノール置換法によって測定できる。
比表面積は液体窒素温度での窒素吸着量を測定し、BET法に従って算出される。炭素被覆黒鉛負極材の比表面積が0.5m/g未満の場合、黒鉛質粒子の炭素層が一般に過剰であり、初回サイクルの不可逆容量が増加、電極密着性が低下する傾向がある。一方、比表面積が10m/gを超えることは、炭素層が何らかの原因で多孔質化した場合に見られ、これは炭素層の結晶性が低下することとなるため初回サイクルの不可逆容量が増加する傾向があり、好ましくない。
【0043】
上記R値は、ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度(ID)と1560〜1650cm−1の範囲にあるピーク強度(IG)の強度比(ID/IG)である。
波長5145Åのアルゴンレーザー光を用いて測定されたラマンスペクトル中、1580〜1620cm−1の範囲のピークIGは高結晶性炭素、1350〜1370cm−1の範囲のピークIDは低結晶性炭素に対応する。
【0044】
本発明においてこれらのピーク高さの比(R=ID/IG)は0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。R値が0.3を超える場合、炭素層が過剰であり、初回サイクルの不可逆容量が増加、電極密着性が低下する傾向がある。
前記R値の測定は、例えば日本分光(株)製の「NRS−2100」を用い、アルゴンレーザー出力10mW、分光器Fシグナル、入射スリット幅800μm、積算回数2回、露光時間30秒にてIG、IDの測定を行い、算出する。
R値を0.3以下とするには、黒鉛質粒子の炭素層の、黒鉛質粒子に対する炭素の比率(質量比)が0.001〜0.02となるようにすればよい。
【0045】
本発明におけるリチウムイオン二次電池負極用炭素被覆黒鉛負極材は、有機系結着剤、溶剤又は水等の溶媒、及び必要により増粘剤と混合し、集電体に塗布し溶剤又は水を乾燥し、加圧成形することによりリチウム二次電池用負極とすることができる。
次に、リチウムイオン二次電池負極について説明する。本発明の炭素被覆黒鉛負極材は、一般に、有機系結着剤及び溶媒等と混練して、シート状、ペレット状等の形状に成形される。
【0046】
有機系結着剤としては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、メチル(メタ)アクリレー、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、さらに、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸や、イオン導電性の大きな高分子化合物が使用できる。
【0047】
前記イオン導電率の大きな高分子化合物としては、ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル等が使用できる。
有機系結着剤の含有量は、負極材と有機系結着剤等との原料混合物100質量部に対して1〜20質量部含有することが好ましい。
【0048】
さらに、粘度を調整するための負極スラリーの増粘剤として、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等を、前述した有機系結着剤と共に使用することも好ましい。
有機系結着剤の混合に使用する溶剤としては特に制限はないが、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン等が用いられる。
【0049】
負極材は、有機系結着剤及び溶媒等と混練し、上記増粘剤で粘度を調整した後、これを例えば集電体に塗布し、乾燥し、加圧成形して該集電体と一体化してリチウムイオン二次電池用負極とされる。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の好ましい電極密度は、1.6〜1.9g/cmであり、より好ましくは1.65〜1.85/cmである。
集電体としては、例えばニッケル、銅等の箔、メッシュ等が使用できる。一体化は、例えばロール、プレス等の成形法で行うことができる。
【0050】
このようにして得られた負極は、例えば、セパレータを介して正極を対向して配置し、電解液を注入することにより、リチウムイオン二次電池とすることができ、該リチウムイオン二次電池も本発明の範囲内である。
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来の炭素材料を負極に用いたリチウムイオン二次電池と比較して、急速充放電特性、サイクル特性、充電特性に優れ、不可逆容量が小さく、安全性に優れたものとなる。
【0051】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極に用いられる材料については、特に制限はなく、リチウム及び鉄、コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる一種類以上の金属を少なくとも含有するリチウム含有金属複合酸化物が好ましい。例えば、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物等が用いられる。これらのリチウム含有複合酸化物としては、さらに、Al、V、Cr、Fe、Co、Sr、Mo、W、Mn、B、Mgから選ばれる少なくとも一種の金属でリチウムサイト又はマンガン、コバルト、ニッケル等のサイトを置換したリチウム含有金属複合体も使用することができる。
【0052】
リチウムイオン二次電池の正極に用いられる活物質は、好ましくは、一般式LiMn(xは0.2≦x≦2.5の範囲であり、yは0.8≦x≦1.25の範囲である)で表されるリチウムマンガン複合酸化物である。これらの活物質は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。なお、正極活物質は、導電助剤を組み合せて使用してもよい。
【0053】
導電助剤としては、例えば、黒鉛粒子、カーボンブラック等が挙げられる。これらの導電助剤は、単独で又は2種類以上組み合せて使用してもよい。
正極は、上記の正極活物質と、負極で用いる有機系結着剤と同じポリ弗化ビニリデン等の有機系結着剤と、同じく負極で用いられる溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチルラクトン等の溶媒と、を混合して正極スラリーを調製し、この正極スラリーをアルミニウム箔等の集電体の少なくとも1面に塗布し、次いで溶媒を乾燥除去し、必要に応じて圧延して作製することができる。
【0054】
電解液としては、LiClO、LiBF、LiI、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C)、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、Li{(CO等のリチウム塩を、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチルラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1、2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトニトリル、ニトロメタン、N−メチル−2−ピロリドン等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホラン類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1、3−プロパンスルトン、4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類;等の単体及び混合物等の非水系溶剤に溶解したいわゆる有機電解液を使用することができる。
【0055】
セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はこれらを組み合せたものを使用することができる。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池の作製方法については、本発明の炭素被覆黒鉛負極材又は本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いること以外は特に制限はなく、公知の正極、リチウムイオン二次電池用電解液、セパレータ等の材料を用い、また公知のリチウムイオン二次電池の製造方法を利用することにより作製することができる。
【0057】
リチウムイオン二次電池の製造方法については特に制約はないが、いずれも公知の方法が利用できる。例えば、まず、正極と負極の2つの電極を、ポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを介して捲回する。得られたスパイラル状の捲回群を電池缶に挿入し、予め負極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池缶底に溶接する。得られた電池缶に電解液を注入し、さらに予め正極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池の蓋に溶接し、蓋を絶縁性のガスケットを介して電池缶の上部に配置し、蓋と電池缶とが接した部分をかしめて密閉することによって電池を得る。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明をこれらによって制限するものではない。
(黒鉛質粒子の作製)
黒鉛質粒子の骨材として平均粒径が5μmのコークス粉末100質量部、黒鉛質粒子用バインダとしてタールピッチ40質量部及びコールタール20質量部、黒鉛化触媒として平均粒径が48μmの炭化珪素25質量部を混合し、270℃で1時間混合した。
【0059】
得られた混合物を粉砕し、ペレット状に加圧成形、窒素中、900℃で焼成、アチソン炉を用いて3000℃で黒鉛化、ハンマーミルを用いて粉砕、200mesh標準篩を通過させ、黒鉛質粒子を作製した。
【0060】
得られた黒鉛質粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真によれば、この黒鉛質粒子は、偏平状粒子が複数、配向面が非平行となるように集合又は結合した構造をしていた。得られた黒鉛質粒子の物性値を表1に示す。黒鉛質粒子の各物性値の測定方法は以下の通りである。
【0061】
(1)平均粒径:(株)島津製作所製のレーザー回折粒度分布測定装置「SALD−3000」を用い、50%Dでの粒子径を平均粒径とした。試料を界面活性材(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)を添加したイオン交換水に混合し、超音波を1分照射して分散させた後、測定を行った。
【0062】
(2)真比重:ブタノール置換法によって測定した。
(3)比表面積:maicromeritics社製、ASAP 2010を用い、液体窒素温度での窒素吸着を多点法で測定、BET法に従って算出した。
【0063】
(4)ラマンスペクトルピーク強度比:日本分光株式会社製の「NRS−2100」を用い、アルゴンレーザー出力10mW、分光器Fシングル、入射スリット幅800μm、積算回数2回、露光時間30秒にて測定を行った。
(5)アスペクト比:走査型電子顕微鏡(SEM)で黒鉛質粒子を拡大した画像を得、任意に20個の黒鉛質粒子を選択し、A/Bを測定し、その平均値をとった。
【0064】
【表1】
【0065】
(実施例1)
まず、ポリアクリロニトリルを以下の方法で合成した。
攪拌機、温度計、冷却管を装着した1.0リットルのセパラブルフラスコ内に、窒素雰囲気下、ニトリル基含有単量体のアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製)45.0g、ラウリルアクリレート(Aldrich社製)5.0g(アクリロニトリル1モルに対して0.0232モルの割合)、重合開始剤の過硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)1.175mg、連鎖移動剤のα−メチルスチレンダイマー(和光純薬工業株式会社製)135mg、精製水(和光純薬工業株式会社製)450mlを加えて反応液を調製した。反応液を激しく攪拌しながら、60℃で3時間、80℃で3時間攪拌した。室温に冷却後、反応液を吸引ろ過し、析出した樹脂をろ別した。ろ別した樹脂を精製水(和光純薬工業株式会社製)300ml、アセトン(和光純薬工業株式会社製)300mlで順に洗浄した。洗浄した樹脂を60℃/1torrの真空管乾燥機で24時間乾燥して、ポリアクリロニトリルを得た。
上記で得られたポリアクリロニトリル10gを溶解したN−メチル−2−ピロリドン溶液900gを凝縮器を取り付けたフラスコに入れ、これに表1に示した黒鉛質粒子500gを添加した。攪拌しながらオイルバスにて200℃に加熱し、1時間、混合した。
【0066】
次いで、黒鉛質粒子を含む溶液をロータリーエバポレータに移し、N−メチル−2−ピロリドンを除去、さらに真空乾燥機を用いて120℃で1時間、乾燥して、炭素層前駆体としてポリアクリロニトリルで被覆された黒鉛質粒子を得た。
【0067】
得られたポリアクリロニトリル被覆黒鉛質粒子を170℃で5時間熱処理した後、窒素流通下、20℃/hの昇温速度で900℃まで昇温し、1時間保持して、黒鉛質粒子が炭素層で被覆された炭素被覆黒鉛質粒子とした。
【0068】
得られた炭素被覆黒鉛質粒子をカッターミルで解砕、250meshの標準篩を通し、炭素被覆黒鉛負極材1とした。
なお、核としての黒鉛質粒子に対する炭素層の炭素比率を求めるために、ポリアクリロニトリル単独を窒素気流中、20℃/hで900℃まで昇温、1時間保持した場合の炭素化率を測定した。炭素化率は52%であった。この値及びポリアクリロニトリル被覆量より炭素層の黒鉛質粒子に対する炭素率を計算したところ、0.01であった。
炭素被覆黒鉛負極材1の平均粒径、真比重、比表面積、R値(ラマンスペクトルピーク比)、窒素元素濃度を上記の黒鉛質粒子と同様に測定した。その結果を表2に示す。
【0069】
(実施例2)
ポリイミド(日立化成工業(株)製の商品名「HCI−7000」)10gを溶解したN−メチル−2−ピロリドン溶液900gを凝縮器を取り付けたフラスコに入れ、これに表1に示した黒鉛質粒子500gを添加した。攪拌しながらオイルバスにて200℃に加熱し、1時間、混合した。
【0070】
次いで、黒鉛質粒子を含む溶液をロータリーエバポレータに移し、N−メチル−2−ピロリドンを除去、さらに真空乾燥機を用いて120℃で1時間、乾燥して、炭素層前駆体としてポリイミドが被覆された黒鉛質粒子を得た。
【0071】
得られたポリイミド被覆黒鉛質粒子を窒素流通下、20℃/hの昇温速度で900℃まで昇温し、1時間保持して炭素被覆黒鉛質粒子とした。
次に、得られた炭素被覆黒鉛質粒子をカッターミルで解砕、250meshの標準篩を通し、炭素被覆黒鉛負極材2とした。
【0072】
核としての黒鉛質粒子に対する炭素層の炭素比率を求めるために、ポリイミド単独を窒素気流中、20℃/hで900℃まで昇温、1時間保持した場合の炭素化率を測定した。炭素化率は50%であった。この値及びポリイミド被覆量より炭素層の黒鉛質粒子に対する炭素率を計算したところ、0.01であった。
炭素被覆黒鉛負極材2の平均粒径、真比重、比表面積、R値(ラマンスペクトルピーク比)、窒素元素濃度を上記の黒鉛質粒子と同様に測定した。その結果を表2に示す。
【0073】
(比較例1)
比較例1として、炭素被覆黒鉛負極材の代わりに表1に示した黒鉛質粒子を負極材1aとした。
負極材1aの平均粒径、真比重、比表面積、R値(ラマンスペクトルピーク比)、窒素元素濃度を上記の黒鉛質粒子と同様に測定した。その結果を表2に示す。
(比較例2)
比較例2として、炭素層の前駆体としてポリアクリロニトリル10gの代わりにコールタールピッチ添加量を10gとし、溶媒をテトラヒドロフランに変えた以外は、実施例1と同様にして負極材2aを作製した。
核としての黒鉛質粒子に対する炭素層の炭素比率を求めるために、コールタールピッチ単独を窒素気流中、20℃/hで900℃まで昇温、1時間保持した場合の炭素化率を測定した。炭素化率は54%であった。この値及びコールタールピッチ被覆量より炭素層の黒鉛質粒子に対する炭素率を計算したところ、0.01であった。
負極材2aの平均粒径、真比重、比表面積、R値(ラマンスペクトルピーク比)、窒素元素濃度を上記の黒鉛質粒子と同様に測定した。その結果を表2に示す。
(比較例3)
比較例3として、炭素層の前駆体としてポリイミド10gの代わりにコールタールピッチ添加量を10gとし、溶媒をテトラヒドロフランに変えた以外は、実施例2と同様にして負極材3aを作製した。
黒鉛質粒子に対する炭素層の炭素比率を求めるために、コールタールピッチ単独を窒素気流中、20℃/hで900℃まで昇温、1時間保持した場合の炭素化率を測定した。炭素化率は52%であった。この値及びコールタールピッチ被覆量より炭素層の黒鉛質粒子に対する炭素率を計算したところ、0.01であった。
負極材3aの平均粒径、真比重、比表面積、R値(ラマンスペクトルピーク比)、窒素元素濃度を上記の黒鉛質粒子と同様に測定した。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
(負極材の評価)
上記で得られた負極材1、2及び1a〜3aを以下の方法で評価した。
(1)負極材スラリーの調製
実施例1、2及び比較例1〜3で得られた各負極材1、2、1a〜3a98質量部に対し、増粘材としてカルボキシメチルセルロース(CMC2200)1質量部をイオン交換水222質量部で混ぜ合わせ、さらに有機系結着剤としてスチレン−ブタジエン−ラバー(日本ゼオン株式会社製の「BM−400B」)1質量部を加えて各負極材スラリーを調製した。
【0076】
(2)負極の作製
上記のように調製した各負極材スラリーを、圧延銅箔(厚さ11μm)上に連続塗布し、大気中130℃の乾燥帯中を15cm/分の速度で乾燥させた後、120℃の乾燥機で1時間乾燥した。
次に、ロールプレスを用いて電極の密度が1.75g/cmとなるように調整し、直径14mm(φ)の円形に打ち抜き、実施例1、2及び比較例1〜3の各負極を得た。
【0077】
(3)2016型コインセルの作製
得られた各負極について、対極にリチウム金属、電解液に1M LiPF/エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート(3:7体積比)、セパレータに厚さ25μmのポリエチレン製微孔膜、スペーサーとして厚さの適した銅板を用いて2016型コインセルを作製した。
【0078】
(4)充放電試験条件
<充放電容量及び初回充放電効率の評価>
充放電試験方法は、始めに0.434mA/cmの定電流密度で電池電圧が0Vになるまで充電を行った後、0Vの定電圧で電流密度が0.043mA/cmに減衰するまでさらに充電した。充電後、30分間の休止を入れた後放電を行った。放電は0.433mA/cmの定電流密度で電池電圧が1.5Vに達するまで行った。
【0079】
放電終了後、30分間の休止を行った後再び充放電試験を行った。なお、初回充放電効率は、初回充電容量に対する初回放電容量の比率((初回放電容量)/(初回充電容量)×100)として算出した。
【0080】
<充電負荷特性の評価>
充電負荷特性は、0.434mA/cmの定電流から4.34mA/cmに増加させた時の定電流充電容量の比率((4.3mA/cmの定電流充電容量)/(0.434mA/cmの定電流充電容量)×100)として算出した。
【0081】
<低温充電特性の評価>
低温充電特性は、0.434mA/cmの定電流において25℃充電時の定電流充電容量と0℃充電時の定電流充電容量の比率((0℃の定電流充電容量)/(25℃の定電流充電容量)×100)として算出した。
各負極の特性を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示されるように、本発明(実施例1、2)は放電容量、充放電効率及び充電負荷特性に優れることが明らかである。
【0084】
また、本発明のリチウムイオン二次電池負極用炭素被覆黒鉛負極材又は本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いることにより、高容量で、低温充電性能に優れ、かつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。