【実施例】
【0047】
以下、本発明の好適な実施例を
図1乃至
図3(
図8も参照)に基づいて説明する。
図1は本実施例に係るダイシング装置21を示す平面図である。同図に示すように、ダイシング装置21の本体部である方形匡体22は平面視で方形に形成されている。又、方形匡体22は斜辺縁部を有し、この斜辺縁部には開閉カバー付きの開口部23が設けられている。
【0048】
又、方形匡体22上には、ウェーハWをチャック(図示せず)で固定して載置される回転可能なワークテーブル24と、該ウェーハWを切断するブレード25,25と、ワークテーブル24をブレード25,25に対して相対的に移動させるワークテーブル送り機構26とが設けられている。ワークテーブル送り機構26は、方形匡体22におけるワーク送り方向の第1対角線上に設置されている。
【0049】
更に、方形匡体22上にはスピンドル移動機構28が設置され、該スピンドル移動機構28はガイドレール29を備えている。スピンドル移動機構28は、方形匡体22におけるY方向と直角なX方向(スピンドル移動方向)の第2対角線上に設置されている。
【0050】
このように、スピンドル移動機構28は、ワークテーブル送り機構26に対して直交するように配置されているため、ガイドレール29はワーク送り方向に対して直交している。
【0051】
ガイドレール29には、2つのスピンドル30,30が移動可能に支持され、該スピンドル30,30は同一軸線上にて互いに対向して配設されている。各スピンドル30,3
0には、ブレード25,25が回転可能に取り付けられている。又、スピンドル移動機構28とワークテーブル送り機構26とが直交する部分にはワーク切断加工部32が配設され、このワーク切断加工部32でブレード25,25によりウェーハWが切断加工される。
【0052】
更に、方形匡体22の右前側部分にはワーク交換部33が設けられ、このワーク交換部33において、オペレータMはワークテーブル24上のウェーハWを容易に交換できる。尚、図中の符号34は、ワーク切断加工部32から流れ出る冷却水等(切削水や洗浄水の廃液を含む)を受けるオイルパンであり、オイルパン34はワークテーブル送り機構26を包囲している。
【0053】
更に又、方形匡体22における左後側隅部には、排水口35を有する排水機構36と、排気口37を有する排気機構38とが配設されている。排水口35は、高速回転するブレード25,25でウェーハWを切断する際に、ブレード25,25の回転方向に沿って冷却水等が飛散する方向の延長線上に配置されている。
【0054】
上記ダイシング装置21で切断加工を行う際は、先ず、スピンドル30,30にブレード25,25を取り付けると共に、ワークテーブル24にウェーハWを載置固定する。次いで、ウェーハWは、ワークテーブル24の移動(ウェーハWとワークテーブル24の相対移動に相当)と、スピンドル30,30の移動とによってストリートが切断される。
【0055】
即ち、ワークテーブル24をワークテーブル送り機構26により、方形匡体22の略中央部側に搬送させて、ワーク切断加工部32にウェーハWを搬入させる。この後、ワーク切断加工部32の中心に向かってスピンドル30,30を移動させ、該スピンドル30,30に取り付けたブレード25,25を高速回転させながら、ウェーハWの切断加工を行う。
【0056】
最初のストリートが切断されると、ブレード25をストリートのピッチ分だけ移動させ、そして、ワークテーブル24を再びワーク送り方向に移動させて、次のストリートが切断される。このような切断動作を繰り返して、全てのストリートの切断が終了すると、ワークテーブル24を90°回動させて、切断したストリートに直交する方向のストリートを同様な動作の繰り返しにより順次切断する。これにより、ウェーハWは最終的にダイス状に切断される。
【0057】
この加工中、スピンドル30,30の先端に設けた後述のノズル(
図2中の符号41)から冷却水をウェーハWの切削加工ポイントに供給する。尚、供給された冷却水は、オイルパン34により受けられた後に、排水口35等を経て外部に排出される。
【0058】
次に、本実施例による冷却水供給システムについて詳述する。この冷却水供給システムは、第一にワーク支持面が、ワーク切断方向に向かって冷却液体が流れるように下方に傾斜して形成されていること、第二に、ノズルは、ワーク支持面上におけるブレードよりも傾斜方向上方側にてブレード側面に対して略直角方向又は斜め方向に配設されていること、第三に、ノズルから吐出した冷却液体が、ブレードとワークとの接触・摩擦点よりも傾斜方向上方側の地点に着水するように設けたことを特徴とする。
【0059】
図2及び
図3は、夫々本冷却水供給システムを上面及び側面から視た解説図である。前記ダイシング装置21は、
図2に示すように、ワーク切断部用の冷却水Cを吐出するためのノズル41,41を複数本(
図2では2本を例示する)備え、ノズル41,41は、前記スピンドル30の先端部にてブレード25に近接して取り付けられている。
【0060】
本実施例では、冷却水用のノズル41,41は、スピンドル30,30の先端部分に付帯させる形態で配設されている。具体的には、スピンドル30,30の先端のブレード25,25取付部分には、ブレード25,25を覆うようにフランジカバー(
図8中の符号72)が取り付けられており、フランジカバー72におけるブレード25と対応する箇所には、冷却液体供給用のノズル41がブレード25を挟んで一対設けられている。このフランジカバーに対して前記ノズル41,41は、高さ調整自在及び方向調整自在に装着されている。勿論、ノズル41,41の取り付け形態は之に限定されず種々の形態方式を採択し得る。
【0061】
ウェーハWの切断加工時にノズル41,41から吐出した冷却水Cは、ブレード25とウェーハWとの接触・摩擦点(切削加工ポイント)を冷却・潤滑すべく、両者25、W間に供給される。なお、ブレード25の刃先側外周縁部40は、電着(又は電鋳等)により作製されている。
【0062】
又、前記ワークテーブル24のワーク支持面42は、冷却水Cが自然流下するように、水平方向に対して所定角度θだけ傾斜して形成されている。ワーク支持面42の傾斜方向は、前記ワークテーブル24のY方向において、ワークテーブル24の中心よりもノズル41,41側の位置が上方となるよう、即ち、冷却水Cが自然流下する方向Dに向かってワーク支持面42が下方傾斜して設定されている。
【0063】
前記ノズル41,41は、ブレード25の向きに対して完全に垂直方向ではないが、ノズル41,41はブレード方向を一部包含して向いている。そのため、冷却水Cは、ブレード25の側面とウェーハWの切断面(材料面)との間に一様に供給される。
【0064】
又、ノズル41,41は、冷却水供給方向におけるブレード25の上流側から冷却水Cを吐出して、冷却水Cをブレード25の略側面方向に向かって送給する。更に、ノズル41,41から吐出された冷却水は、ウェーハW上におけるブレード
25の上流側地点Pに着水するように設定されている。
【0065】
ワーク支持面42、すなわち、ウェーハWは傾斜して設けられ、具体的には、ウェーハWを把持するチャック(図示せず)ごと、ノズル41,41側が上流側となるように傾斜している。ブレード25がウェーハWを相対的に切り進めるに従って、ノズル41,41は制御手段(図示せず)を介して、ブレード25と相対的な位置関係を保持するように、ブレード25の移動と同期して移動する。
【0066】
ここで、上記ノズル41の仕様などに関しては、ノズル径は2mm(内径は1mm)、ノズル1本当たりの流量は100ml/min、冷却液体(水)吐出方向は+X方向若しくは−X方向、冷却液体の着水点はX方向:約±12mmかつY方向:約30mm、ノズル先端位置はX方向:±15mmかつY方向:約30mmである。
【0067】
又、ブレード25はダイヤモンド砥粒電着ブレード、ブレード径は2インチ、ワーク支持面42の傾斜角度θ(ウェーハ傾斜角度θ)は15°、切断材料はシリコンウェーハである。但し、前記傾斜角度θは之に限定されず、重力による冷却水Cの自然流下を確保できれば、ブレード回転速度等に応じて5°乃至20°の範囲、より好ましくは7°乃至18°の範囲に設定しうる。
【0068】
上記冷却水供給システムによれば、ワーク支持面42は、ウェーハW上面における冷却水Cの自然流下を確保すべく、水平方向に対して15°だけ傾斜し、且つ、ノズル41,41は冷却水Cの流れ方向Dにおいてブレ−ド25の上流側地点に配置されている。
【0069】
依って、ブレード25によるウェーハWの切断加工中、ノズル41,41からの冷却水Cは、
図2に示すように、ブレード25の両側面に対し略直角方向に吐出されて、ブレード25の上流側の着水点Pに向かう。その結果、ブレード25が毎分何万回転という高速で回転していても、冷却水Cの殆ど全てがブレード25の側面に無駄なく供給される。
【0070】
そのため、冷却水Cを従来例に比べ少量使用しても、ウェーハWの切断部全面が満遍なく効率良く冷却・潤滑される。
【0071】
又、ノズル41,41から吐出された冷却水Cは、ウェーハWの傾斜によって、扇状に自然と広がりつつウェーハWの加工地点に向かって供給される。そのため、冷却水Cの拡散作用と自然流下作用により、ブレード25とウェーハWの接触部分に冷却水Cが確実かつ十分に供給される。よって、ブレード25が高速に回転しても、ウェーハWの表面に沿ってウェーハWの加工点、即ち、ブレード25とウェーハWとの接触摩擦点に自動的に供給される。
【0072】
このため、殆どの冷却水Cがブレード25とウェーハWの接触・摩擦点に十分供給され、当該部分を極めて効率良く冷却・潤滑することができる。依って、従来技術の如くウェーハWの接触・摩擦点にて摩擦熱が増大することが防止される。
【0073】
更に、冷却水Cの殆ど全部が無駄なくブレード25とウェーハWの接触・摩擦点に十分供給されることで、ウェーハWの切削で生じた切り屑は、冷却水Cと共に洗い流される。そのため、切り屑の排出作用の促進に伴い、切り屑の滞留現象によるウェーハWのクラック発生が未然に防止される。
【0074】
更に、供給された冷却水Cは、ブレード25に接触した後、そのままウェーハWの傾きに沿って流される。そのため、次に供給される冷却水Cを邪魔することなく、冷却水Cの交換が効率良く行われることとなる。仮に、ウェーハWが傾斜していない場合は、冷却水Cを強制的に吐出しながら滞留水を押し除けなければならない。
【0075】
しかし、本発明のように、ウェーハWが適度に傾斜していると、たとえ少量の冷却水Cであっても、冷却水CがウェーハW面上をスムーズに自然流下して、冷却水Cの交換、即ち、ウェーハ下傾方向Dに沿う冷却水Cの重力による排出作用が促進される。
【0076】
又、ウェーハWの切断で生じた切り屑(スラッジ)については、従来技術のように一方向に広がるのではなく、双方のノズル41,41から吐出した冷却水Cが、ブレード25で既に切断したウェーハWの延長方向(傾斜方向D)に収斂することにより、冷却水Cの自然流下に伴い効率良く洗い流される。
【0077】
次に、本発明の他の実施例を
図4に基づいて説明する。本実施例も
図1のダイシング装置21に適用したものである。以下、本実施例の技術的特徴についてのみ説明し、前記実施例と共通の構成部分については、その説明を省略するものとする。
【0078】
図4に示すように、本実施例の冷却供給システムは、冷却水Cを吐出するノズル43,43を複数本(
図4では2本を例示する)備え、ノズル43,43は、スピンドル30(
図1参照)におけるブレード44の近傍箇所に取り付けられている。切断加工時、ノズル43,43から吐出した冷却水Cは、ブレード44及びウェーハWに向けて供給される。
【0079】
ノズル43,43は、ブレード44の側面に対して正確に垂直方向ではないが、ノズル43,43の吐出領域にブレード44の上流側端面が包含されるように、ノズル43,43の向きは、ブレード44の切削回転方向と順方向に設定されている。そのため、ブレード44の側面とウェーハWとの接触・摩擦点に冷却水Cが一様に供給される。
【0080】
ここで、ノズル43の仕様等に関しては、ノズル径は2mm(内径は1mm)、ノズル1本当たりの流量は150ml/min、冷却液体吐出方向は315度方向もしくは225度方向、冷却液体の着水点はX方向:約±16mmかつY方向:約35mm、ノズル先端位置はX方向:±20mmかつY方向:約40mmである。尚、ブレードの種類や直径、ワーク支持面の傾斜角度θ及び切断材料は前記実施例と同様である。
【0081】
依って、本実施例においても、上記実施例と同様に、ブレード44によるウェーハWの切断加工中、ノズル43,43からの冷却水Cは、ブレード44の側面に対し斜め方向から吐出され、この冷却水Cは、ブレード44の上流側の着水点Pに到達する。その結果、ブレード44が高速回転していても、冷却水Cの略全てがブレード44の側面とウェーハWとの接触・摩擦点に無駄なく供給され、これゆえ、少量の冷却水Cの使用で、ウェーハWの切断部全面が満遍なく効率良く冷却・潤滑される。
【0082】
又、別の実施例では、図示はしないが、ブレード面に沿って水を広げる目的であれば、ノズルをブレードより下流側に位置させて、ノズル向きをブレード側に向けつつ傾斜方向の上流側に向けて冷却水を供給する。ワーク上における着水点を接触摩擦点よりも上流側にしておけば、ワーク上に着水後、冷却水は傾斜したワークに沿って下方に流れながらも自然に広がり、ブレード側面を効果的に冷却することが可能となる。
【0083】
本発明の応用例として、冷却水供給装置に毛管現象を有する線状部材(刷毛部材)を設け、この線状部材を介してブレード及びウェーハに冷却水を供給することもできる。
図5及び
図6は、線状部材45,45を冷却水供給装置に付設した構成例を示す。
【0084】
線状部材45,45は毛細管作用を有し、上記スピンドル側の保持部材46に取り付けられている。更に、保持部材46の先端部は、ブレード47の両側面近傍に及び、当該先端部にはスリット状の水受け部48,48が開穿されている。又、水受け部48,48は、上記ノズルによる冷却水吐出領域内に属するように配置され、水受け部48,48内には上記ノズルから冷却水Cが供給される。
【0085】
水受け部48,48の下部側には線状部材45,45の上端部が固定され、該線状部材45,45の下端部は、ブレード47の側面外周縁部(外周側刃先部)に接触している。ここで、ブレード47の側面外周縁部に溝49が刻設されている場合には、ブレード47によるウェーハWの切断加工の際、線状部材45,45の下端部がブレード47の側面外周縁部の溝49に常に接触する。
【0086】
本実施例においては、線状部材46の下端部がブレード回転方向Rに沿ってブレード47の側面外周縁部に接触するので、ウェーハWの切断加工の際、上記ノズルより水受け部48,48内に送給された冷却水Cは、毛細管現象で線状部材45,45からブレード47の側面外周縁部に塗り込むように供給される。
【0087】
その結果、冷却水Cがブレード47の側面外周縁部に確実に到達して付着する。又、ブレード47の側面外周縁部に溝49が刻設されている場合、当該溝49が奥まった形状を有していても、溝49の内奥部に冷却水Cを確実に送給することができる。これにより溝49を介して冷却水Cの略全てが、ブレード47の側面とウェーハWとの接触・摩擦点に無駄なく供給され、これゆえ、少量の冷却水Cの使用でも、ウェーハWの切断部全面が満遍なく効率良く冷却・潤滑される。
【0088】
叙上の如く本発明によると、ノズルから吐出された冷却水は、ウェーハの上流側に着水
した後、ウェーハ上面の傾斜によって、広がりをもってウェーハの上面に沿って自然流下する。そのため、ブレードが高速に回転しても、吐出した冷却水の殆どをブレードとウェーハとの接触・摩擦点に供給でき、以て、少量の冷却水でワーク切断部全面を効率良く冷却・潤滑することができ、冷却水を多量に使用する必要がない。
【0089】
更に、ブレードとウェーハとの接触・摩擦点に供給した冷却水は、ウェーハの傾斜下方側に重力で自然流下するため、次に供給される冷却水の流入を促し、冷却水の交換が円滑になる。ウェーハが水平である場合は、冷却水を強制的に噴射して、ウェーハ上面に滞留した冷却水を押しのけないといけないが、ウェーハ上面が排出側に傾斜していると、たとえ少量の冷却水でも自然に流れて、冷却水の交換がスムーズになる。
【0090】
又、ウェーハの切断で発生した切り屑(スラッジ)は、従来技術のように一方向に広がるのではなく、本発明では、ブレードで既に切断したウェーハの延長方向に冷却水が収斂して移動するため、前記切り屑が効果的に洗い流されてその排出作用が促進する。
【0091】
更に、ウェーハを把持するチャックごと、ワーク支持面を含むワークテーブルが傾斜する構成では、傾斜した分だけワークテーブルの平面視での占有面積が減少し、ダイシング装置全体の小型化が可能になる。
【0092】
更に又、ウェーハの切断加工時、ブレードの移動と同期してノズルを移動させることで、ブレードとノズルの相対的な位置関係が常時維持される。依って、ブレードの移動速度が変化しても、ノズルから吐出された冷却水は、ワーク上面における上流側の所定位置に常に着水するため、少ない冷却水でワーク切断部全面を効率良く冷却・潤滑することができる。
【0093】
冷却水は、線状部材に着水させた後、毛細管現象によりブレード側面外周縁部に付着させる構成では、ブレードとワークとの接触・摩擦点に冷却水を供給でき、従って、ブレードが高速に回転しても、冷却水の殆どをブレードとワークとの接触・摩擦点に確実に供給することができる。特に、ブレード側面外周縁部に沿って溝が刻設されている場合は、高い粘度の冷却水であっても、ブレードの側面に冷却水を安定して供給できる。
【0094】
この場合、ブレードの回転の遠心力による風圧が高くても、この風圧で冷却水が吹き飛ばされる恐れもない。
【0095】
本発明は、上記の実施例の内容に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。例えば、ブレード側面に対するノズルの吐出角度は、任意の角度に調整可能に構成することができる。