【文献】
KTN結晶への電子注入の過渡応答解析,電子情報通信学会大会講演論文集,2012年 3月 6日,Vol.2012 エレクトロニクス1,271
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対向する面に少なくとも2つの電極を形成した電気光学結晶であって、前記電極に制御信号に基づいた駆動信号を印加して、電気光学効果により内部の屈折率分布の傾斜を生成することによって、前記駆動電圧により形成される電界に概ね垂直に入射する入射光を偏向させる電気光学結晶を用いた光偏向器と、
偏向角を維持しながら、前記光偏向器から偏向を受けた出射光の一部を抽出する手段と、
2つの隣接する検出面を有し、前記抽出された出射光を受光して、前記検出面の各々に対応する前記偏向角を反映した2つの検出電流を出力する位置検出器と、
前記2つの検出面からの前記2つの検出電流の差異に基づいて、前記偏向角を表す差信号を生成する手段と、
前記制御信号と、前記差信号との誤差を比較して、誤差信号を生成する手段と、
前記制御信号および前記誤差信号に基づいて、前記駆動電圧と偏向角との間の非線形性を補償した駆動電圧を生成する手段と
を備え、
前記制御信号は、偏向動作を行う期間およびバースト電圧を印加する期間を含んでおり、
前記電気光学結晶は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3(0<x<1))結晶、またはリチウムを添加したK1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1)のいずれかであることを特徴とする光スキャナ装置。
前記出射光の一部を抽出する手段は、前記出射光の光路を概ね進行方向に垂直な方向に曲げるミラーであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の光スキャナ装置。
【背景技術】
【0001】
本発明は、光学スキャナ装置に関する。より詳細には、KTN結晶を使用したスキャナ装置の偏向角の線形性を向上させた、スキャナ装置に関する。
【0002】
現在、プロジェクタをはじめとする映像機器、レーザプリンタ、高分解能な共焦点顕微鏡、バーコードリーダ等において、レーザ光を偏向するための光制御素子に対する要求が高まっている。従来、ポリゴンミラーを回転させる技術、ガルバノミラーにより光の偏向方向を制御する技術、音響光学効果を利用した光回折技術、MEMSと呼ばれるマイクロマシーン技術が提案されている。
【0003】
さらに近年では、電気光学結晶への電荷注入により空間電荷制御状態を実現して電界の傾斜を発生させ、電気光学効果により屈折率の傾斜を生じさせた結果、光偏向させる光偏向器が提案されている(特許文献1)。この電気光学結晶を用いた光偏向器は、ガルバノミラーやポリゴンミラー、MEMSミラー等と異なり可動部を持たないため、高速の光偏向が可能となる。上述の電気光学結晶としては、タンタル酸ニオブ酸
カリウム(KTa
1-xNb
xO
3(0<x<1):以下KTN)結晶、またはKTNと同様な効果を持つ材料として、他にさらにリチウムを添加したK
1-yLi
yTa
1-xNb
xO
3(0<x<1、0<y<1)などが知られている。以下では、上述のような電気光学結晶として、KTNを用いた光偏向器を例に説明する。
【0004】
図5は、KTNを用いた光偏向器の構成を示す図である。KTN結晶101の上下面には、電極102、103が形成されている。2つの電極間には、制御電圧源104から制御電圧が印加される。入射光105は、KTN結晶101の図面左側端面からz方向に進み、KTN結晶101内において偏向を受けて、x軸方向に進行方向を変えた出射光106が得られる。制御電圧源104からの印加電圧の大きさに応じて、対応する偏向角θが得られる。
【0005】
KTNの電気光学効果の詳細については、KTNの結晶構造および比屈折率の変化について、温度との関係が解析されている(非特許文献1)。さらに、KTNにおいて特有の空間電荷制御電気光学効果に基づいて、光偏向器としての動作も定量的に解析されている。KTNは、既存の材料と比べて、より小さい駆動電圧およびより小さな結晶で駆動できるという特徴を持っている。さらに、KTNは、光の方向を変えるという基本的なデバイスであるため、光通信に限らず、光を扱う様々な分野への応用が考えられている。分光器や医療機器への実用化は既に始まっており、さらに加工機や顕微鏡の分野にも応用が検討されている(非特許文献1)。
【0006】
図5に示したように、KTNに偏向動作をさせるためには、KTN結晶101に制御電圧を加える必要がある。制御電圧源104からその応用分野に適合した信号形式の駆動電圧をKTN結晶に印加する。例えば、一定の期間内で光をスキャンするような応用の場合には、交流信号が印加される。さらに、KTN結晶において高速に偏向動作を行うためには、駆動電圧を印加する前に、バースト電圧を印加して、KTN結晶中への電子の注入、およびトラップへの電子の捕獲を行うことが好ましい。
【0007】
図6は、KTN結晶の駆動方法の一例を説明する図である。
図6において、バースト電圧は正の定電圧と負の定電圧とを一定時間ずつ印加し、その電圧の振幅201は、正負ともに同じV´=400Vとし、正と負の電圧印加時間202の合計t´は例えば5msecとした。駆動電圧の振幅203は、V=400Vのサイン波で継続時間を30msecとした場合、バースト電圧と駆動電圧を繰り返し印加することで、十分な偏向角の振れ幅を維持できる。
【0008】
図6に示したように駆動電圧の前にバースト電圧を印加することによって、バースト電圧を印加中に結晶中への電子の注入、及びトラップへの電子の捕獲が行われる。駆動電圧印加期間204中には電子の注入無しでも、トラップに捕獲された電子により電界の傾斜が発生し、その結果電気光学効果による屈折率の傾斜が生じるため、駆動電圧を高速化しても広角な光偏向を実現することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、KTN結晶への駆動電圧と実際に得られる偏向角の間には、線形性が十分でない問題があった。KTN結晶に印加される駆動電圧と得られる偏向角との間に完全な線形性があれば、駆動電圧を生成するための制御電圧信号として、応用分野に応じた波形を持つ信号を準備することで、所望の偏向制御が可能となる。
【0012】
特許文献2によれば、偏向角θと駆動電圧Vとの関係は次式のように、駆動電圧Vに比例するものとなる。
【0013】
【数1】
【0014】
ここで、nは結晶の屈折率、g
ijは電気光学係数、Lは電極長さ、eは電子素量、εはKTNの誘電率、dは電極間の距離である。バースト電圧はここでは正の定電圧と負の定電圧を一定時間ずつ印加しており、その電圧の振幅が、正負ともにV´、正と負の電圧印加時間の合計102は、t´とする(
図6を参照)。N(V´,t´,ε)は、KTN結晶中にトラップされる電子の捕獲量を示す。駆動電圧の前にバースト電圧を印加したとき、結晶中に電子が注入され、結晶中のトラップに電子が捕獲される。その捕獲量Nは、V´、t´および結晶の誘電率εに依存し、この捕獲量NをN(V´,t´,ε)とする。
【0015】
図7は、光偏向器における駆動電圧と偏向角との関係を説明する図である。理想的なKTN結晶を考えた場合には、直線301で表されるように、駆動電圧と偏向角との間に完全な線形性があり、どのような応用分野の偏向動作にも利用できる。しかしながら、現実のKTN結晶を偏向させたときに得られる制御特性は、非常に低速の制御の場合であっても、曲線302に示すように完全な直線からは逸脱している。その逸脱量は、数%以上にも及ぶ場合がある。
【0016】
偏向角と駆動電圧との間に非線形性があれば、偏向制御によって得られる結果は歪みを含んだものとなる。例えば、2つのKTN結晶を組み合わせて、x軸およびy軸の2つの軸を含む2次元で光を偏向させる2次元スキャナの場合でも、偏向を受けた光で形成される面は歪んだものになることは容易に理解されるだろう。端的には、この非線形性は、2つの軸における最大偏向角のばらつきという形でも現れる。
【0017】
KTNにおける上述の非線形性は、KTN結晶の不均一性に伴う、電極面(
図5のy−z面)上での比誘電率の不均一、トラップの不均一、さらにこれに伴う電界分布の不均一など
の、様々な原因が考えられている。しかし、結晶の生成方法も関連する問題を含み、未だ完全な解決には至っていない。
【0018】
上述のように、KTN結晶を用いた光偏向器における、駆動電圧と偏向角との間の線形性を向上させることが必要とされている。本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、駆動電圧と偏向角との間の線形性を向上させた、KTN結晶を用いた光偏向器および光スキャナ装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、対向する面に少なくとも2つの電極を形成した電気光学結晶であって、前記電極に制御信号に基づいた駆動信号を印加して、電気光学効果により内部の屈折率分布の傾斜を生成することによって、前記駆動電圧により形成される電界に概ね垂直に入射する入射光を偏向させる電気光学結晶を用いた光偏向器と、偏向角を維持しながら、前記光偏向器から偏向を受けた出射光の一部を抽出する手段と、
2つの隣接する検出面を有し、前記抽出された出射光を受光して
、前記検出面の各々に対応
する前記偏向角を反映した
2つの検出電流を出力する位置検出器と、前記
2つの検出面からの前記
2つの検出電流の差異に基づいて、前記偏向角を表す差信号を生成する手段と、前記制御信号と、前記差信号との誤差を比較して、誤差信号を生成する手段と、前記制御信号および前記誤差信号に基づいて、前記駆動電圧と偏向角との
間の非線形性を補償した駆動電圧を生成する手段とを備え、
前記制御信号は、偏向動作を行う期間およびバースト電圧を印加する期間を含んでおり、前記電気光学結晶は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3(0<x<1))結晶、またはリチウムを添加したK1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1)のいずれかであることを特徴とする光スキャナ装置である。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1の光スキャナ装置であって、記電極に前記駆動電圧を生成する手段は、前記誤差信号をPID制御するPID制御部と、前記PID制御部からの出力と、前記PID制御部によってPID制御された誤差信号および前記制御信号と加算する加算器とを含むことを特徴とする。
【0021】
請求項3の発明は、
対向する面に少なくとも2つの電極を形成した電気光学結晶であって、前記電極に第1の制御信号に基づいた第1の駆動信号を印加して、電気光学効果により内部の屈折率分布の傾斜を生成することによって、前記第1の駆動電圧により形成される電界に概ね垂直に入射する入射光を第1の偏向方向に偏向させる電気光学結晶を用いた第1の光偏向器と、第2の制御信号に基づく第2の駆動信号によって、
前記第1の光偏向器からの出射光を
、前記
第1の偏向方向に直交する
第2の偏向方向にさらに偏向する
電気光学結晶を用いた第2の光偏向器と、
偏向角を維持しながら、前記第1の光偏向器および前記第2の光偏向器からそれぞれ偏向を受けた出射光の一部を抽出する手段と、1つの検出面を直交する4つの検出面に分割した4分割位置検出器であって、前記4つの検出面から、前記第1の偏向方向および前記第2の偏向方向の各偏向角に対応する2組の検出電流を生成する4分割位置検出器と、前記2組の検出電流の内の一方の組の検出電流間の差異に基づいて、前記第1の偏向方向の前記偏向角を表す第1の差信号を生成する手段と、
前記第1の制御信号と、前記第1の差信号との誤差を比較して、第1の誤差信号を生成する手段と、前記第1の制御信号および前記第1の誤差信号に基づいて、前記第1の駆動電圧と前記第1の偏向方向の偏向角との間の非線形性を補償した駆動電圧を生成する手段と、前記2組の検出電流の内の他方の組の検出電流間の差異に基づいて、前記第2の光偏向器に対応する第2の差信号を生成する手段と、前記第2制御信号と、前記第2の差信号との誤差を比較して、第2の誤差信号を生成する手段と、前記第2の制御信号および前記第2の誤差信号に基づいて、前記第2の駆動電圧と
前記第2の偏向方向の偏向角との
間の非線形性を補償した駆動電圧を生成する手段とを備え
、前記第1の制御信号および前記第2の制御信号は、偏向動作を行う期間およびバースト電圧を印加する期間を含んでおり、
前記電気光学結晶は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3(0<x<1))結晶、またはリチウムを添加したK1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1)のいずれかであることを特徴とする
光スキャナ装置である。
【0022】
請求項4の発明は、請求項
3の光スキャナ装置であって、
前記駆動電圧を生成する手段は、前記第1の誤差信号または前記第2の誤差信号をPID制御するPID制御部と、前記PID制御部からの出力と、前記PID制御部によってPID制御された第1の誤差信号および前記第1の制御信号と加算し、または、前記PID制御部によってPID制御された第2の誤差信号および前記第2の制御信号と加算する加算器とを含むことを特徴とする。
【0023】
請求項5の発明は、請求項1乃至4いずれかの光スキャナ装置であって、前記出射光の一部を抽出する手段は、前記出射光の光路を概ね進行方向に垂直な方向に曲げるミラーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、駆動電圧と偏向角との間の線形性を向上させたKTN結晶を用いた光偏向器、光スキャナ装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の光スキャナ装置では、KTN結晶の光出射側に、光量の一部を抽出する例えばミラーを配置して、抽出した光を2分割位置検出器に導く。2分割位置検出器からの信号に基づいて、偏向角を反映させた信号を生成し、制御信号との誤差信号を求めて、KTN結晶の駆動電圧にフィードバックする。4分割位置検出器を用いることで、2次元の光スキャナ装置にも拡大できる。
【0027】
図1は、本発明の光スキャナ装置の構成を示す図である。KTN結晶1は、その上下(y−z面)に2つの電極2、3を有しており、高電圧駆動電源4から駆動電圧が電極2および電極3の間に印加される。入射光50は、z軸に沿って図面の左側から入射して、KTN結晶1によってx軸方向に偏向を受けて出射光6a、6bが得られる。2つの出射光6a、6bは、それぞれ最大偏向角の状態を示している。以上は、通常の光偏向器に含まれる構成である。
【0028】
本発明の光スキャナ装置では、さらに、出射光の一部を取り出すミラー5を備え、ミラー5からの反射光を受ける2分割位置検出器(2P−PSD:2 Positions - Position Sensitive Detector)8を有する。PSD8は、光検出器を2つの検出面領域(1、2)に分割した構成を持っている。
図1では、PSD8の2つの領域は、x−z面を向いているかのように描かれているが、実際にはミラー5の反射面と対向する向きに配置されることに留意されたい。
【0029】
PSD8からの2つの光検出電流出力は、それぞれ、増幅器9、10に接続され、後の処理に必要なレベルI
1、I
2にまで電流レベルを増幅される。増幅器9、10の各出力は、電流差検出器11に接続され、PSD8からの出力電流に対応した2つの電流I
1、I
2の差分電流ΔIに対応する出力が、検出器11から得られる。この差分電流値ΔIは、後述するように、KTN結晶によって与えられる偏向角の大きさを反映している。
【0030】
信号発生器13によって制御電圧(制御信号)が生成され、加算器15を経由して、高電圧駆動電源4に与えられる。高電圧駆動電源4によって、数百V程度まで増幅した駆動電圧が、KTN結晶1に対して印加される。
【0031】
本発明では、電流差検出器11の出力および信号発生器13からの制御信号が反転誤差アンプ12へ入力されて、制御信号と、実際に生じた偏向角との間の誤差を反映した偏向角誤差信号を生じる。偏向角誤差信号は、PID制御部14を経て、加算器15に加えられる。すなわち、信号発生器13から直接与えられる制御信号と、偏向角誤差信号を加算することによって、KTN結晶による実際の偏向特性で生じる非線形成分が補償される。
【0032】
PID(Proportional Integral Differential)制御部14は、一般に良く知られたフィードバック制御の1つである。
【0033】
上述の構成では、誤差アンプ12に対して、反転端子に
電流差検出器11の出力を、非反転端子に制御信号をそれぞれ入力する構成で示したが、これに限られず、上述のPSD8から高電圧駆動電源4に至るフィードバック系内の具体的な構成によっては、逆にもなる得ることに留意されたい。PSD8を使用して、偏向角を反映させた差分電流ΔIを利用している限り、具体的なフィードバック系の構成は、様々なものを利用できる。また、KTN結晶からの出射光の一部を抽出してPSD8に導く手段としてミラー5を用いているが、これに限られず、光束分割器を用いても良い。次に、出射光を受けるPSD8において、偏向角を反映した差分電流が得られることを説明する。
【0034】
図2は、光位置検出器の出力と差分電流の関係を説明する図である。
図2では、2分割検出器(PSD)8の2つの検出面8a、8bとミラー5からの反射光7のビームスポットとの関係によって、(a)x軸の上方へビームが偏向された状態、(b)ビームがz軸に平行で検出器の中央に当たっている状態、(c)x軸の下方へビームが偏向された状態に分けている。ここで、PSD8は、円形の形状を持ち、中央部によって半分に分割された半円状の第1の検出面8aおよび残り半分の第2の検出面8bを持つものとして説明する。しかし、円形の形状であることに限定されない。後に述べるように、受光面上におけるビームの最大スキャン幅が、2つの受光面の最大距離よりも小さい限り、PSDはどのような形状であっても良い。
【0035】
(a)の状態では、
図1の出射光6aの状態に対応し、x軸の上方へ偏向されており、反射光7aのビームスポットは第1の検出面8aの方により大きい面積が当たっている。したがって、第2の検出面8bから出力される電流I2よりも、第1の検出面8aから出力される検出電流I
1がほとんどを占める。したがって、差分電流ΔI=I
1−I
2は、正の値を持つ。このときは、ビームスポットは、受光面上でビームのスキャン範囲の一方の端にあり、検出面中央の分割線からL1の距離までビームが当たっている。
【0036】
(b)の状態では、
図1において出射光はz軸と平行で偏向を受けていない状態にある。反射光のビームスポットはPSDの中央部であって2つの検出面のちょうど中央に当たっている。このときは、差分電流ΔI=I
1−I
2はほぼ0となる。
【0037】
(c)の状態では、
図1の出射光6bの状態に対応し、x軸の下方へ偏向されており、反射光7bのビームスポットは第2の検出面8bの方により大きい面積が当たっている。したがって、第1の検出面8aから出力される電流I
1よりも、第2の検出面8bから出力される検出電流I
2がほとんどを占める。したがって、差分電流ΔI=I
1−I
2は、負の値を持つ。このときは、ビームスポットは、受光面上でビームのスキャン範囲のもう一方の端にあり、L1とは反対側で、検出面中央の分割線からL2の距離までビームが当たっている。
【0038】
結局、
図2の右側に示したグラフのように、横軸の受光面上のビームスキャン範囲L1〜L2で、差分電流ΔIとして直線的な出力が得られる。ΔIは偏向角を反映した値となる。このような差分電流ΔIは、受光面に当たるビームの最大スキャン幅よりも、受光面の径または長さが大きければ良い。また、KTN結晶1によって偏向を受けていない状態(b)のときに、ΔIが0となるようにPSD8の位置を微調整することができる。
【0039】
したがって、上述の(a)〜(c)の3つの状態の関係がそれぞれ成り立つように、KTNの出射面からPSDまでの距離を設定する。ミラー5の位置を含めて、PSD8とKTN結晶1の位置関係を適切に配置する必要がある。KTN結晶1、ミラー5、PSD8のそれぞれの間に何らかの光学機器を挿入し、ビームスポットと受光面に当たるビームの最大スキャン幅の関係を調整しても良い。
【0040】
上述のように、2分割されたPSD8を利用してKTN結晶による偏向角θを反映した差分電流ΔI=I
1−I
2を得ることができる。
図1に示した光スキャン装置を動作させる場合には、フィードバックループ内の各要素で飽和などが生じないように、アンプのゲインなどのパラメータを適切に設定する必要がある。また、本スキャン装置によってKTNにより高周波で高速偏向するためには、ループ帯域をその偏向周波数に対応するように十分に広くする必要がある。例えば、ループの帯域は、偏向周波数×スキャン装置の解像点数×2以上とする必要がある。
【0041】
図1の構成は、x軸方向にのみ偏向を行う1次元のスキャナ装置であったが、
図1と同様の仕組みを2次元のスキャナ装置に適応することもできる。すなわち、x軸方向とy方向の2つの方向で偏向する場合は、x軸およびy軸にそれぞれにおいて独立にPSDを用いて偏向角を検出して、駆動電圧に対してフィードバックを掛ければ良い。
【0042】
図3は、本発明の別の構成の2次元の光スキャナ装置の構成を示す図である。
図3の構成では、
図1の構成と同様にx軸方向の偏向のほかに、y軸方向の偏向機能も持っており、y軸方向に対する偏向角の検出と、フィードバック系を持っている。したがって、基本的な動作は
図1の場合と同様であるので、x軸方向について構成は
図1と多くが共通している。
図1の構成と異なる点に絞って、以下説明する。
【0043】
2次元の光スキャナ装置では、第1のKTN結晶1に加えて、y軸方向について偏向する第2のKTN結晶20をさらに備える。第2のKTN結晶は、その上下面(x−z面)に2つの電極21a、21b(21bは図示せず)を有しており、第2の高電圧駆動電源36から駆動電圧が2つの電極21a、21bの間に印加される。入射光50は、
図3に明示的に示はされていないが、x軸方向に加えて、図面の手前から奥に向かってy軸方向にも偏向を受ける。すなわち、まずX方向に偏波面のある入射光50が第1のKTN結晶においてX方向に偏向される。第1の偏向器と第2の偏向器との間には、1/2波長板19が偏波面を90°回転するために挿入される。引き続き入射光は、第2のKTN結晶において、Y方向に偏向される。
【0044】
ミラー5で抽出された反射光は、4分割位置検出器18によって検出される。4分割PSD18は、光検出器を4つの検出領域(1、2、3、4)に分割した構成を持っている。
図3では概念的にPSD18を示しており、PSD18の4つの検出領域は、x−z面を向いているように描かれているが、実際にはミラー5の反射面と対向する向きに配置されることに留意されたい。
【0045】
4つの領域からの光検出電流出力は、それぞれ、増幅器22、23、24、25に接続され、後の処理に必要なレベルI
1、I
2、I
3、I
4にまで電流レベルを増幅される。増幅器22、23、24、25の各出力に基づいて、4つの加算器26、27、28、29によって、x軸方向、y軸方向それぞれについて、検出面が2分割されたのと同等の2つの電流が得られる。すなわち、x軸方向については、加算器26からI
1+I
4、加算器27からI
2+I
3、y軸方向については、加算器28からI
1+I
2、加算器29からI
3+I
4が得られる。
【0046】
x軸方向については、加算器26、27の出力が電流差検出器30に接続され、PSD18からのx軸方向についての出力電流に対応した2つの電流の差分電流ΔIxに対応する出力が、検出器30から得られる。この差分電流値ΔIxは、KTN結晶1によって与えられるx軸方向の偏向角の大きさを反映している。
【0047】
図1と同様に、信号発生器13によって制御電圧X
0が生成され、加算器15を経由して、高電圧駆動電源4に与えられる。高電圧駆動電源4によって、数百V程度まで増幅した駆動電圧が、KTN結晶1に対して印加される。
【0048】
電流差検出器30の出力および信号発生器13からの制御信号が反転誤差アンプ12へ入力されて、制御信号と、実際に生じたx軸方向の偏向角との間の誤差を反映したx軸の偏向角誤差信号を生じる。x軸の偏向角誤差信号は、PID制御部14を経て、加算器15に加えられる。すなわち、信号発生器13から直接与えられる制御信号X
0と、x軸の偏向角誤差信号を加算することによって、KTN結晶1によるx軸の実際の偏向特性で生じる非線形成分が補償される。
【0049】
y軸方向についても、x軸に関するフィードバックループと同様の構成が備えられる。y軸方向については、加算器28、29の出力が電流差検出器31に接続され、PSD18からのy軸方向についての出力電流に対応した2つの電流の差分電流ΔIyに対応する出力が、検出器31から得られる。この差分電流値ΔIyは、第2のKTN結晶20によって与えられるy軸方向の偏向角の大きさを反映している。
【0050】
y軸方向に関する信号発生器32によって制御電圧Y
0が生成され、加算器35を経由して、第2の高電圧駆動電源36に与えられる。第2の高電圧駆動電源36によって、数百V程度まで増幅した駆動電圧が、第2のKTN結晶20に対して印加される。
【0051】
電流差検出器31の出力および信号発生器32からの制御信号Y
0が反転誤差アンプ33へ入力されて、制御信号Y
0と、実際に生じたy軸方向の偏向角との間の誤差を反映したy軸の偏向角誤差信号を生じる。y軸の偏向角誤差信号は、PID制御部34を経て、加算器35に加えられる。すなわち、信号発生器32から直接与えられる制御信号Y
0と、y軸の偏向角誤差信号を加算することによって、第2のKTN結晶20によるy軸の実際の偏向特性で生じる非線形成分が補償される。
【0052】
上述の構成では、反転誤差アンプ33に対して、反転端子にy軸の偏向角誤差信号を、非反転端子に制御信号Y
0をそれぞれ入力する構成で示したが、これに限られず、上述のフィードバック系内の具体的な構成によっては、逆にもなり得る。
【0053】
図4は、4分割位置検出器の場合の光位置検出器の出力と差分電流の関係を説明する一例である。
図4では、4分割検出器(PSD)18の4つの検出面18a、18b、18c、18dとミラー5からの反射光7のビームスポットとの位置関係によって、(a)x軸の上方およびy軸の手前へビームが偏向された状態、(b)ビームがz軸に平行で検出器の中央部に当たっている状態、(c)x軸の下方およびy軸の奥へビームが偏向された状態に分けている。ここで、PSD18は、円形の形状を持ち、中央部によって4つに分割された扇状の第1の検出面8aから第4の検出面8dを持つものとして説明する。しかし、円形の形状であることに限定されない。後に述べるように、受光面上におけるビームのx軸方向およびy軸方向のそれぞれの最大スキャン幅が、4つの受光面のx軸方向およびy軸方向のそれぞれの最大距離よりも小さい限り、PSD18はどのような形状であっても良い。
【0054】
(a)の状態では、
図3の出射光6aの状態に対応し、x軸の上方およびy軸の手前へ偏向されており、反射光7bのビームスポットは他の3つの検出面18a、18c、18dに比べて第2の検出面18bにより大きい面積が当たっている。したがって、他の3つの検出面18a、18c、18dから出力される電流I
1、I
3、I
4よりも、第2の検出面18bから出力される検出電流I
2がほとんどを占める。したがって、差分電流ΔIy=I
1+I
2−I
3−I
4は、正の値を持つ。一方、差分電流ΔIx=I
1+I
4−I
2−I
3は、負の値を持つ。このときは、ビームスポットは、受光面上でビームのスキャン範囲の一方の端にあり、検出面中央の各分割線からx軸はXrの距離まで、y軸はYuの距離までビームが当たっている。
【0055】
(b)の状態では、
図1において出射光はz軸と平行で偏向を受けていない状態である。反射光のビームスポットはPSD18のx軸、y軸のいずれについても中央部であって2つの検出面のちょうど中心に当たっている。このときは、差分電流ΔIxおよびΔIxは、いずれもほぼ0となる。
【0056】
(c)
図3の出射光6bの状態に対応し、x軸の下方およびy軸の奥へ偏向されており、反射光7aのビームスポットは他の3つの検出面18a、18b、18cに比べて第4の検出面18dにより大きい面積が当たっている。したがって、他の3つの検出面18a、18b、18cから出力される電流I
1、I
2、I
3よりも、第4の検出面18dから出力される検出電流I
4がほとんどを占める。したがって、差分電流ΔIy=I
1+I
2−I
3−I
4は、負の値を持つ。一方、差分電流ΔIx=I
1+I
4−I
2−I
3は、正の値を持つ。このときは、ビームスポットは、受光面上でビームのスキャン範囲のもう一方の端にあり、検出面中央の各分割線からx軸はXlの距離まで、y軸はYdの距離までビームが当たっている。
【0057】
結局、
図4の右側に示した1組のグラフのXのグラフで示したように、横軸の受光面上のx軸についてのビームスキャン範囲Xr〜Xlで、差分電流ΔIxとして直線的な出力が得られる。また、1組のグラフのYのグラフで示したように、横軸の受光面上のy軸についてのビームスキャン範囲Yu〜Ydで、差分電流ΔIyとして直線的な出力が得られる。ΔIxおよびΔIyはそれぞれ、x軸の偏向角およびy軸の偏向角を反映した値となる。このような差分電流ΔIxおよびΔIyは、受光面に当たるビームのx軸およびy軸の各最大スキャン幅よりも、受光面の各方向の径または長さが大きければ良い。また、KTN結晶1および第2のKTN結晶20によって偏向を受けていない状態(b)のときに、ΔIxおよびΔIyがそれぞれ0となるようにPSD18の位置を微調整するのは、
図1の構成の場合と同じである。
【0058】
図3に示した構成の光スキャナ装置では、x軸方向およびy軸方向の最大偏向角を調整する機構を備えることもできる。このような較正を行う機構は、種々のものが可能である。一例を挙げれば、同一の信号電圧をx軸の信号発生器13およびy軸の信号発生器32に印加して、そのときの、PSD18におけるXY2つの方向のスポットのPSD中心からの移動距離が同じになるように、誤差アンプ30、31のアンプゲインをそれぞれ微調整すれば良い。
【0059】
以上、詳細に述べたように、本発明によれば、駆動電圧と偏向角との間の非線形性を向上させたKTN結晶を用いた光偏向器、光スキャナ装置を提供できる。