(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732014
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】ドハティ増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/07 20060101AFI20150521BHJP
H03F 1/42 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
H03F1/07
H03F1/42
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-207156(P2012-207156)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-64113(P2014-64113A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2014年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】宮下 清
【審査官】
緒方 寿彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−124840(JP,A)
【文献】
特開2012−129635(JP,A)
【文献】
特開昭62−278813(JP,A)
【文献】
米国特許第04725767(US,A)
【文献】
特開平07−038368(JP,A)
【文献】
国際公開第97/006596(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00− 3/45、3/50− 3/52、
3/62− 3/64、3/68− 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号が分配される分配器と、
該分配器からの分配された一方の信号が入力されるメイン増幅器と、
前記分配器からの分配された他方の信号の位相を90度遅らせる第1の移相器と、
該第1の移相器からの信号が入力されるピーク増幅器と、
前記メイン増幅器からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器と、
前記ピーク増幅器からの信号と前記第2の移相器からの信号を加算する加算器とを備え、
前記メイン増幅器及び前記ピーク増幅器の少なくとも一方は、第1の差動対を含む第1の増幅部と、前記第1の差動対の負荷である1次側トランス及び前記1次側トランスと対になる2次側トランスを含む第1のトランス部と、前記2次側トランスが接続される第2の差動対を含む第2の増幅器と、を備え、
前記メイン増幅器及び前記ピーク増幅器の少なくとも一方からの信号の位相を可変にする位相制御信号を用いて、前記1次側トランス及び前記2次側トランスが有する負荷の少なくとも一方を可変とすることを特徴とするドハティ増幅器。
【請求項2】
前記メイン増幅器及び前記ピーク増幅器の少なくとも一方は、前記第1の増幅器の前段に接続され、1次側トランス及び前記1次側トランスと対になる2次側トランスを含む第2のトランス部とをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のドハティ増幅器。
【請求項3】
前記メイン増幅器及びピーク増幅器の少なくとも一方は、前記第2の増幅器の差動対の負荷である1次側トランス及び前記1次側トランスと対になる2次側トランスを含む第3のトランス部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のドハティ増幅器。
【請求項4】
前記1次側トランス及び前記2次側トランスが有する負荷は、可変容量素子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のドハティ増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用の電力増幅器としてのドハティ増幅器に関し、より詳細には、増幅器をトランスで接続してその同調周波数を調整することにより、トランスの1次側・2次側の同調周波数をずらして増幅器の広帯域化を図りようにしたドハティ増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信や無線LAN(Local Area Network)などの進歩は著しく、特に、携帯電話の爆発的な普及と、それに伴うインフラ整備により、携帯端末のみならず基地局にも低消費電力化が要求されてきている。そこで、基地局において送信に使用される増幅器についても、効率及び線形性の向上に対する要求が一層高まってきている。
【0003】
しかしながら、一般的な増幅器では、効率と線形性との間にはトレードオフの関係があり、また、効率は増幅器への入力レベルに比例する。したがって、高い効率は、増幅器の出力が最大出力電力に近づくまで得られないので、増幅器の線形性を実現することは難しい。そこで、ドハティ増幅器(Doherty Amplifier)などのような高効率で信号を増幅する技術と、その低歪化やフィードフォワード等の歪補償技術とを組み合わせることにより、より高効率で低歪な増幅器が開発されている。このドハティ増幅器は、基本的にAB級のキャリア増幅器とC級のピーク増幅器を組み合わせ、これらの増幅器の出力を合成して高効率の増幅を実現するものである。
【0004】
図1は、従来のエミッタ増幅器を用いたドハティ増幅器を説明するための回路構成図で、図中符号1は分配器、2はメイン増幅器(キャリア増幅器)、3はピーク増幅器、4,5は90°移相器を示している。この従来のドハティ増幅器は、入力信号を2つの入力信号に分配する分配器1と、この分配器1の出力信号が直接入力されるメイン増幅器2と、分配器1の出力位相を90°遅らせる第1の90°移相器4と、この第1の90°移相器4の出力信号を入力信号とするピーク増幅器3と、メイン増幅器2の出力位相を90°移相させる第2の90°移相器5とで構成され、ピーク増幅器3の出力と第2の90°移相器5の出力が、同相となることを利用して高効率を達成する回路構成図である。この
図1に示したドハティ増幅器において、メイン増幅器2とピーク増幅器3との各々は、電流を出力し、負荷抵抗Rによって加算されて電圧に変換されて出力される。
【0005】
図2(a),(b)は、非特許文献1に開示されているドハティ増幅器を説明するための回路構成図で、
図2(a)はドハティ増幅器の利得低下を説明するための回路構成図、
図2(b)は
図2(a)のピーク増幅器の等価回路を示す図である。
メイン増幅器2の出力は、第2の90°移相器5を経由する必要があるため、ピーク増幅器3のバース電流と逆相となり、ピーク増幅器3の効率を低下させる様子が開示されている。
【0006】
図3は、
図2(a),(b)と同様に、非特許文献1に開示されているドハティ増幅器を説明するための回路構成図である。ピーク増幅器3のベース電流をメイン増幅器2の出力成分が打ち消されないようにするために、メイン増幅器2の入力と分配器1との間に可変位相器6を挿入することが開示されている。
【0007】
また、例えば、特許文献1に記載のものは、高周波帯域において変調波信号を増幅するための高出力増幅器に関するもので、特に、バックオフが大きな動作状態においても効率の高い高出力増幅器を実現するドハティ型増幅器に関するものである。この特許文献1のものは、可変減衰器及び可変移相器をピーク増幅器の入力側に設けたもので、ピーク増幅器の入力側に配置される可変減衰器及びピーク増幅器の入力側に配置される可変移相器を備えるようにしたので、キャリア増幅器とピーク増幅器との利得の差及び通過位相量の差を補償して、出力端におけるキャリア増幅器の出力電力とピーク増幅器の出力電力との合成を良好に実施することができ、マイクロ波ドハティ型増幅器全体としての出力電力や効率を向上することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−124840号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“Linearity Improvement of HBT−based Doherty Power Amplifiers Based on a Simple Analystical Model” Yu Zhao他4名 IEEE 2006 pp.877−880
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年、レーダ・移動体検知の用途では、最大検知距離実現のために高出力を広い周囲条件範囲にわたって一定に保つことが求められている。上述したような従来技術では、増幅度がメイン増幅器からピーク増幅器への回り込みで低下するという問題や、メイン増幅器とピーク増幅器のバイアス条件が異なるために位相差が生じるという問題や、さらには、メイン増幅器とピーク増幅器との位相干渉によって3次相互変調歪が劣化するというような問題がある。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、増幅器をトランスで接続してその同調周波数を調整することにより、トランスの1次側・2次側の同調周波数をずらして増幅器の広帯域化を図るようにしたドハティ増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、入力信号が分配される分配器と、該分配器からの分配された一方の信号が入力されるメイン増幅器と、前記分配器からの分配された他方の信号の位相を90度遅らせる第1の移相器と、該第1の移相器からの信号が入力されるピーク増幅器と、前記メイン増幅器からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器と、前記ピーク増幅器からの信号と前記第2の移相器からの信号を加算する加算器とを備え、前記メイン増幅器及び前記ピーク増幅器の少なくとも一方は、
第1の差動対を含む第1の増幅部と、前記
第1の差動対の負荷である1次側トランス及び前記1次側トランスと対になる2次側トランスを含む第1のトランス部と
、前記2次側トランスが接続される第2の差動対を含む第2の増幅器と、を備え、
前記メイン増幅器及び前記ピーク増幅器の少なくとも一方からの信号の位相を可変にする位相制御信号を用いて、前記1次側トランス及び前記2次側トランスが有する負荷の少なくとも一方を可変とすることを特徴とする。
【0013】
また、請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の発明において、前記メイン増幅器及び前記ピーク増幅器の少なくとも一方は、前記第1の増幅器の前段に接続され、1次側トランス及び前記1次側トランスと対になる2次側トランスを含む第2のトランス部とをさらに備えていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項
3に記載の発明は、請求項
1に記載の発明において、前記メイン増幅器及びピーク増幅器の少なくとも一方は、前記第2の増幅器の差動対の負荷である1次側トランス及び前記1次側トランスと対になる2次側トランスを含む第3のトランス部とを備えていることを特徴とする。
また、請求項
4に記載の発明は、請求項1乃至
3のいずれかに記載の発明において、前記1次側トランス及び前記2次側トランスが有する負荷は、可変容量素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、増幅器をトランスで接続してその同調周波数を調整することにより、トランスの1次側・2次側の同調周波数をずらして増幅器の広帯域化を図りようにしたドハティ増幅器を実現することができる。また、トランスの1次側・2次側の同調周波数をずらして設計することで、増幅器の広帯域化も同時に達成できる。また、複数のトランスの同調周波数をずらして設計することで、増幅器の広帯域化も同時に達成できる。また、カスコード中間ノードの寄生容量を緩和することで、寄生のPoleを高周波側に移動させ、広帯域化を同時に達成することができる。さらに、ドハティ増幅器は、通常、メイン増幅器をClassAB、ピーク増幅器をClassCで実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来のエミッタ増幅器を用いたドハティ増幅器を説明するための回路構成図である。
【
図2】(a),(b)は、非特許文献1に開示されているドハティ増幅器を説明するための回路構成図である。
【
図3】
図2(a),(b)と同様に、非特許文献1に開示されているドハティ増幅器を説明するための回路構成図である。
【
図4】本発明に係るドハティ増幅器の実施形態を説明するための回路構成図である。
【
図5】
図4に示したメイン増幅器及びピーク増幅器の具体的な実施例1を示す回路構成図である。
【
図6】(a),(b)は、トランスの1次側と2次側のそれぞれをLCR並列回路で表した図である。
【
図7】(a)乃至(d)は、メイン増幅器とピーク増幅器のパスの利得・位相周波数特性を示す図である。
【
図12】
図4に示したメイン増幅器及びピーク増幅器の具体的な実施例2を示す回路構成図である。
【
図13】
図4に示したメイン増幅器及びピーク増幅器の具体的な実施例3を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図4は、本発明に係るドハティ増幅器の実施形態を説明するための回路構成図である。図中符号11は分配器、12はメイン増幅器(トランス付)、13はピーク増幅器(トランス付)、14は第1の90°移相器、15は第2の90°移相器、16は加算器を示している。
【0018】
本実施形態におけるドハティ増幅器は、上述した非特許文献1のような新たな回路を追加することなく位相可変を実現した。トランス間負荷非対称性に起因した回路は、1)新たな素子挿入がないので、回路損失が最小である。2)10GHz以上では一般的にQ
L>Q
Cなので、DC−Cut容量を付加するより、Transを用いてAC結合を実現する方が損失が少ない。3)高周波ではL自身も小さくない回路規模の縮小が期待できる。
【0019】
このことを、
図4に基づいて説明する。
図4に示した高線形ドハティ増幅器は、入力信号が分配される分配器11と、この分配器11からの分配された一方の信号が入力されるメイン増幅器12と、分配器11からの分配された他方の信号の位相を90度遅らせる第1の移相器14と、この第1の移相器14からの信号が入力されるピーク増幅器13と、メイン増幅器12からの信号の位相を90度遅らせる第2の移相器15と、ピーク増幅器13からの信号と第2の移相器15からの信号を加算する加算器16とを備えている。
【0020】
メイン増幅器12とピーク増幅器13は、それぞれトランスと増幅器とで構成され、1次と2次のトランス負荷が異なることを利用して、メイン増幅器12とピーク増幅器13との間に位相差を生じさせるものである。
【実施例1】
【0021】
図5は、
図4に示したメイン増幅器及びピーク増幅器の具体的な実施例1を示す回路構成図である。図中符号20は第1のトランス部、21は差動負荷トランス(1次側)、22は差動負荷トランス(2次側)、23は差動対増幅器を示している。
本実施例1は、メイン増幅器12及びピーク増幅器13の少なくとも一方は、差動対を含む第1の増幅部23と、差動対の負荷である1次側トランス21及び1次側トランス21と対になる2次側トランス22を含む第1のトランス部20とを備え、1次側トランス21及び2次側トランス22が有する負荷の少なくとも一方を可変とする。
【0022】
つまり、
図5における差動対増幅部23は、差動対を入力し、負荷部には、トランスの1次側が実装され、トランスの2次側は出力端子となっている。トランスの1次側と2次側の結合係数はkで、第1のトランス部20の負荷を位相制御信号を用いて可変にすることで差動出力位相を変化させることができる。
図6(a),(b)は、トランスの1次側と2次側のそれぞれをLCR並列回路で表した図で、
図6(a)は、メイン増幅器及びピーク増幅器の1次側モデル、
図6(b)は、シミュレーションのテスト回路を示す図である。なお、
図6(a)におけるLCR並列回路は、
図6(b)におけるそれぞれにLCR回路に相当している。
図6(b)におけるLCR_Lはメイン増幅器の2次側、LCR_Mはメイン増幅器とピーク増幅器の1次側、LCR_Hはピーク増幅器の2次側を示している。LCR_LとLCR_MとLCR_Hを模擬して利得を変えることなく位相を可変できることを示している。
【0023】
図6(a),(b)においては、負荷が1次側と2次側で並列接続されるモデルを用いている。1次側の負荷は、メイン増幅器とピーク増幅器が共通であり、2次側の負荷は、メイン増幅器が4×1次側、ピーク増幅器が1/4×1次側である。メイン増幅器とピーク増幅器の1次側と2次側の負荷条件は、表1に示してある。
【0024】
【表1】
【0025】
図7(a)乃至(d)は、メイン増幅器とピーク増幅器のパスの利得・位相周波数特性を示す図で、位相・利得変化の様子をシミュレーションで確認した図である。
図7(a)は、総合特性であるメイン増幅器対ピーク増幅器間の位相180°で周波数が2GHzほど異なることが確認できた図で、
図7(b)は、LCR_H単体の信号結果を示す図で、
図7(c)は、LCR_M単体の信号結果を示す図で
図7(d)は、LCR_L単体の総合(Sim)結果を示す図である。
【0026】
図中、fl(エル)はメイン増幅器の2次側、fmはメイン増幅器とピーク増幅器の1次側、fhはピーク増幅器の2次側を示している。また、N1PH(破線)fl/fmはメイン増幅器のパスの位相特性、N2PH(一点鎖線)fm/fhはピーク増幅器のパスの位相特性を示している。
図8乃至
図11は、
図7(a)乃至(d)に「それぞれ対応した拡大図である。つまり、
図8は
図7(a)の拡大図、
図9は
図7(b)の拡大図、
図10は
図7(c)の拡大図、
図11は
図7(d)の拡大図である。
【0027】
図中のN1DB(実線)はメイン増幅器の利得特性、N1PH(破線)はメイン増幅器の位相特性、N2DB(一点鎖線)はピーク増幅器の利得特性、N2PH(二点鎖線)はピーク増幅器の位相特性を示している。
【実施例2】
【0028】
図12は、
図4に示したメイン増幅器及びピーク増幅器の具体的な実施例2を示す回路構成図である。図中符号30は第1のトランス部、31は差動負荷トランス(1次側)、32は差動負荷トランス(2次側)、33は第1の差動対増幅器、34は第1の増幅器、35は第2の負荷、36は第2の差動対増幅器、37は第2の増幅器を示している。
本実施例2では、メイン増幅器12及びピーク増幅器13の少なくとも一方は、2次側トランス32が接続される第2の差動対増幅器36を含む第2の増幅器37をさらに備えている。
【0029】
本実施例2は、増幅器を縦続接続させた場合を示し、本実施例2の実施に際しては、
図12に示した回路構成図をメイン増幅器とピーク増幅器の少なくともどちらか一方に用いて、メイン増幅器のパスとピーク増幅器のパスとの間の位相差を調整することが必要である。
入力は、第1の増幅器34の入力部を構成する第1の差動対増幅器33に入力され、第1の増幅器34の第1の負荷へ出力される。第1の負荷はトランスの1次側として構成され、2次側は第2の増幅器37の入力である第2の差動対増幅器36に接続されている。第2の増幅器37は、第2の差動対増幅器36と第2の負荷35とで構成され、第2の差動対増幅器36と第2の負荷35との接続端子が出力として外部との接続に用いている。
【0030】
位相制御信号は、トランスの1次側のみに印加される。トランスの2次側の可変容量C
2PとC
2Nには同一電圧が印加される。トランスの1次側の可変容量はV
CIP≠V
CIN V
CIPはC
1Pの位相制御信号、V
CINはC
1Nの位相制御信号である。C
1PとC
1NのC−V特性は等しく、かつ電圧に比例して容量値が増えるものとする。P
1NとN
1Nとの位相差は180°で、いわゆる差動信号が入力される。L
1P=L
1N=L
2P=L
2N=Lとする。
【0031】
V
CIP=V
CINの時、V
1PとV
1N、さらにはV
2PとV
2Nの位相差は180°で、差動増幅器の縦続接続の動作を行う。
V
CIP>V
CINの時、L
1P・C
1P>L
1P・C
1Pとなり、V
1P側の位相は“位相遅れ増”、V
1N側の位相は“位相遅れ減”の関係を保持したまま、ピーク増幅器の入力に至る。元来、180°の位相差があったため、ピーク増幅器のベース入力に大きく干渉し、線形性、利得を劣化させていたが、位相差≠180°となり、線形性・利得ともに改善される。
【0032】
V
CIP<V
CINの時、L
1P・C
1P<L
1P・C
1Pとなる。このときもV
CIP>V
CINの時と同様に、位相差180°の関係が崩れているため、線形性・利得が改善される。
以下に、L
1P=L
1N=L
2P=L
2N=Lとして説明する。トランスの1次側は、L
1PとL
1Nの縦続接続、C
1PとC
1Nの縦続接続が並列配置され、C
1PとC
1Nは位相制御信号によって容量値が増減できるようになっている。トランスの2次側も、1次側と同様の構成で、1次側と2次側間の結合係数はkである。
【0033】
このような構成の増幅器のC
1PとC
1N又はC
2PとC
2Nの少なくともいずれか一方の容量を変化させることで増幅器の位相を変化させる。
つまり、
図12に示した本実施例2の構成では、増幅器をメイン増幅器又はピーク増幅器の少なくともどちらか一方に用いて、メイン増幅器の系(パス)とピーク増幅器の系(パス)との間の位相差を発生/調整させ、
図2に示したメイン増幅器の信号がピーク増幅器のベース電流を抑圧することを軽減させ、ドハティ増幅器の線形性を向上させる。また、ピーク増幅器のベース信号レベルが低下するのを防止しているとみなすことができるので、ドハティ増幅器の利得・出力パワーの向上にも寄与する。
【実施例3】
【0034】
図13は、
図4に示したメイン増幅器及びピーク増幅器の具体的な実施例3を示す回路構成図である。図中符号40は第1のトランス部、41は差動負荷トランス(1次側)、42は差動負荷トランス(2次側)、43は第1の差動対増幅器、44は第1の増幅器、45は第2のトランス部、46は差動負荷トランス(1次側)、47は差動負荷トランス(2次側)、48は第2の差動対増幅器、49は第2の増幅器、50は第3のトランス部、51は差動負荷トランス(1次側)、52は差動負荷トランス(2次側)を示している。
【0035】
メイン増幅器12及びピーク増幅器13の少なくとも一方は、第1の増幅器44の前段に接続され、1次側トランス46及び1次側トランス46と対になる2次側トランス47を含む第2のトランス部45とをさらに備えている。
また、メイン増幅器12及びピーク増幅器13の少なくとも一方は、第2の増幅器49の差動対の負荷である1次側トランス51及び1次側トランス51と対になる2次側トランス52を含む第3のトランス部50とを備えている。
【0036】
本実施例3は、増幅器を2つの縦続接続させた場合を示し、本実施例3の実施に際しては、
図13に示した回路構成図をメイン増幅器とピーク増幅器の少なくともどちらか一方に用いて、メイン増幅器のパスとピーク増幅器のパスとの間の位相差を調整することが必要である。
入力は、第1の増幅器44の入力部を構成する第1のトランス部40を経由して第1の差動対増幅器43に入力され、第1の増幅器44の第1の負荷46が1次側を構成している第2のトランス部45を経由して第2の差動対増幅器48に入力され、さらに、増幅された後に、第2の増幅器49の第2の負荷51が1次側を構成している第3のトランス50を経由して出力される。
【0037】
以下に、L
1P=L
1N=L
2P=L
2N=L
3P=L
3N=L
4P=L
4N=L
5P=L
5N=L
6P=L
6N=Lとして説明する。他方、全ての容量素子は可変容量素子で、少なくともその中の1つが位相制御信号によってその容量値が増減される。
図13に示している3つのトランスである第1のトランス、第2のトランス、第3のトランスは、その1次側が、L
XPとL
XNの縦続接続(X=1〜N)、C
XPとC
XNの縦続接続(X=1〜N)で、LとCは並列配置され、1次側と2次側間の結合係数はkである。また、トランスの2次側の構成は、1次側と相似である。このような構成により、容量を変化させることで増幅器の位相を変化させる。
【0038】
つまり、
図13に示した本実施例3の構成では、増幅器をメイン増幅器又はピーク増幅器の少なくともどちらか一方に用いて、メイン増幅器の系(パス)とピーク増幅器の系(パス)との間の位相差を発生/調整させ、
図2に示したメイン増幅器の信号がピーク増幅器のベース電流を抑圧することを軽減させ、ドハティ増幅器の線形性を向上させる。また、ピーク増幅器のベース信号レベルが低下するのを防止しているとみなすことができるので、ドハティ増幅器の利得・出力パワーの向上にも寄与する。
【符号の説明】
【0039】
1,11 分配器
2 メイン増幅器(キャリア増幅器)
3 ピーク増幅器
4,5 90°移相器
6 可変位相器
12 メイン増幅器(トランス付)
13 ピーク増幅器(トランス付)
14 第1の90°移相器
15 第2の90°移相器
16 加算器
20,30,40 第1のトランス部
21,31,41,46,51 差動負荷トランス(1次側)
22,32,42,47,52 差動負荷トランス(2次側)
23 差動対増幅器
33,43 第1の差動対増幅器
34,44 第1の増幅器
35 第2の負荷
36,48 第2の差動対増幅器
37,49 第2の増幅器
45 第2のトランス部
50 第3のトランス部