特許第5732042号(P5732042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732042
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】有機発光材料および素子
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/10 20060101AFI20150521BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20150521BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20150521BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C08G61/10
   H05B33/14 B
   H05B33/22 D
   H05B33/10
   C09K11/06 680
【請求項の数】23
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2012-505235(P2012-505235)
(86)(22)【出願日】2010年4月15日
(65)【公表番号】特表2012-524139(P2012-524139A)
(43)【公表日】2012年10月11日
(86)【国際出願番号】GB2010000802
(87)【国際公開番号】WO2010119276
(87)【国際公開日】20101021
【審査請求日】2013年4月3日
(31)【優先権主張番号】0906588.9
(32)【優先日】2009年4月16日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597063048
【氏名又は名称】ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】230105223
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ピロウ,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】グリッツィ,イラリア
(72)【発明者】
【氏名】ハンフリーズ,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ワーバートン,イアン
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−529976(JP,A)
【文献】 特開2005−113144(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/066666(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/013681(WO,A1)
【文献】 C EGO,ATTACHING PERYLENE DYES TO POLYFLUORENE: THREE SIMPLE,EFFICIENT METHODS 以下備考,J.AM.CHEM.SOC.,2003年,V125,P437-443
【文献】 S BECKER,OPTIMISATION OF POLYFLUORENES FOR LIGHT EMITTING APPLICATIONS,SYNTHETIC METALS,2002年,V125,P73-80
【文献】 G KLAERNER,EXCITON MIGRATION AND TRAPPING IN COPOLYMERS BASED ON DIALKYLFLUORENES,ADV.MATER.,1999年,V11,P115-119
【文献】 J LEE,COLOR TUNING IN POLYFLUORENES BY COPOLYMERIZATION WITH LOW BAND GAP COMONOMERS,SYNTHETIC METALS,1999年,V102,P1087-1088
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00−61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光性繰り返し単位と、非発光性多環芳香族炭化水素単位とを含む、エレクトロルミネッセンスポリマーであって、
非発光性多環芳香族炭化水素単位が、エレクトロルミネッセンスポリマー主鎖に、側鎖として共有結合しており、式Iを有する構造単位:
【化1】
を含み、発光性繰り返し単位が、非発光性多環芳香族炭化水素単位のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを有する、エレクトロルミネッセンスポリマー
【請求項2】
非発光性多環芳香族炭化水素単位が置換されている、請求項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項3】
電子輸送繰り返し単位および/または正孔輸送繰り返し単位をさらに含む、請求項1または2に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項4】
非発光性多環芳香族炭化水素単位が、発光性繰り返し単位と、電子輸送繰り返し単位および/または正孔輸送繰り返し単位のバンドギャップのにあるバンドギャップを有する、請求項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項5】
前記非発光性多環芳香族炭化水素単位が、式IIを有する構造単位:
【化2】
[式中、R1'、R2'およびR3'は、それぞれ独立に、任意選択の置換基を表す]
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項6】
非発光性多環芳香族炭化水素単位が、スペーサー基を介してエレクトロルミネッセンスポリマーの骨格に連結している、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項7】
スペーサー基がフェニルである、請求項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項8】
スペーサー基がアルキルである、請求項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項9】
エレクトロルミネッセンスポリマーの骨格が、式IVを有する繰り返し単位:
【化3】
[式中、R1は、水素、または場合により置換されているアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールもしくはヘテロアリールアルキルを表し;R5'はスペーサー基であり;かつ、PAHは式Iの構造単位を表す]
を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項10】
式IVを有する繰り返し単位が、式VからVIII:
【化4】
【化5】
[式中、R1'、R2'およびR3'は、それぞれ独立に、任意選択の置換基を表し;R1は、水素、または場合により置換されているアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールもしくはヘテロアリールアルキルを表し;R5'はスペーサー基であり;かつ、nは1から10までの整数である]
から選択される、請求項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項11】
式Iの構造単位が、繰り返し単位の全モル数の10mol%未満以下の濃度で、エレクトロルミネッセンスポリマー中に提供されている、請求項1〜10のいずれか1項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項12】
式Iの構造単位が、繰り返し単位の全モル数の2mol%未満の濃度で、エレクトロルミネッセンスポリマー中に提供されている、請求項11に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項13】
式Iの構造単位が、繰り返し単位の全モル数の1mol%以下の濃度で、エレクトロルミネッセンスポリマー中に提供されている、請求項11に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項14】
共役主鎖を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマー。
【請求項15】
各モノマーが少なくとも2個の反応基を有するモノマーを重合させるスズキ重合またはヤマモト重合を使用して、請求項1〜14のいずれか1項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマーを作製するための方法。
【請求項16】
反応基が、ホウ素誘導体基、ハロゲン、トシレート、メシレートおよびトリフレートから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ホウ素誘導体基がボロン酸およびボロン酸エステルから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に請求項1〜14のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマーを含むエレクトロルミネッセンス層を含む、有機発光素子(OLED)。
【請求項19】
アノードとエレクトロルミネッセンス層との間に、アノードからエレクトロルミネッセンス層への正孔注入を補助するための導電性正孔注入層を含む、請求項18に記載のOLED。
【請求項20】
溶液処理により、溶液から請求項1〜14のいずれか1項に記載のエレクトロルミネッセンスポリマーを堆積させて、OLEDの層を形成するステップを含む、請求項18または19に記載のOLEDを作製する方法。
【請求項21】
溶液処理技術が、スピンコーティングまたはインクジェットプリンティングである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項18または19に記載のOLEDを含む光源。
【請求項23】
フルカラーディスプレイである、請求項22に記載の光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光材料およびそのような材料を含有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な有機発光素子(OLED)は、アノード、カソード、および該アノードとカソードとの間にあり、少なくとも1種の有機エレクトロルミネッセンス材料を含む発光層がその上に支持される基板を含む。操作において、正孔はアノードを経由して素子に注入され、電子はカソードを経由して素子に注入される。正孔および電子は、発光層中で結合して励起子を形成し、次いで、これが放射性崩壊を受けて発光する。
【0003】
OLED中には、他の層、例えば、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)等の正孔注入材料の層が存在し得、アノードから発光層への正孔の注入を補助するために、アノードと発光層との間に設けられていてよい。さらに、アノードと発光層との間に、発光層への正孔の輸送を補助するための正孔輸送層を設けてよい。
【0004】
共役ポリマー等のエレクトロルミネッセンスポリマーは、次世代の情報テクノロジーをベースとした消費者製品のための有機発光素子において使用されるであろう重要なクラスの材料である。ポリマーの使用における主な(principle)関心は、無機半導体および有機色素材料とは対照的に、膜形成材料の溶液処理を使用する低コストの素子製造の見通しがあることにある。エレクトロルミネッセンスポリマーのさらなる利点は、鈴木または山本重合によって容易に形成され得ることである。これにより、得られるポリマーの位置規則性(regioregulatory)に対する高度な制御が可能になる。
【0005】
この10年ほどの間、高効率の材料または効率的な素子構造のいずれかを開発することによる、有機発光素子の発光効率の改善に多大な努力が捧げられてきた。加えて、同じく新たな材料または素子構造を開発することによる、有機発光素子の寿命の改善に多大な努力が捧げられてきた。特に問題となったのは、青色の有機発光性材料の寿命の短さであった。当技術分野において公知の発光性材料のいくつかの例について以下で論じる。
【0006】
「Synthesis of a segmented conjugated polymer chain giving a blue−shifted electroluminescence and improved efficiency」、P.L.Burn、A.B.Holmes、A.Kraft、D.D.C.Bradley、A.R.BrownおよびR.H.Friend著、J.Chem.Soc、Chem.Commun.、1992、32では、主鎖中に共役および非共役配列を有し、かつ、508nmにおいて発光極大を有する青緑色のエレクトロルミネッセンスを呈する発光ポリマーの調製を記載した。青色発光は、2つの共役ポリマーにおいて観察された。酸化インジウムスズとアルミニウム接点(contact)との間に挟まれたポリ(p−フェニレン)は、G.Grem、G.Leditzky、B.UllrichおよびG.Leisingにより、Adv.Mater.、1992、4、36において公開されている。同様に、Y.Ohmori、M.Uchida、K.MuroおよびK.Yoshinoは、Jpn.J.Appl.Phys.、1991、30、L1941において、「Blue electroluminescent diodes utilizing poly(alkylfluorene)」について報告した。
【0007】
Applied Physics Letters、75巻、26号、1999年12月27日、4055〜4057、「Reduction of molecular aggregation and its application to the high−performance blue perylene−doped organic electroluminescent device」は、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(パラ−フェニルフェノラト)アルミニウム(III)中のドーパントとしてペリレンを使用して作製したエレクトロルミネッセンス素子を開示している。
【0008】
J.Am.Chem.Soc、2003、125、437〜443、「Attaching Perylene Dyes to Polyfluorene:Three Simple,Efficient Methods for Facile Color Tuning of Light−Emitting Polymers」は、(i)主鎖中のコモノマーとして、(ii)鎖末端におけるエンドキャップ基として、または(iii)ペンダント側基としてのいずれかでの、ポリフルオレン鎖へのペリレン色素の結合を開示している。
【0009】
Polymer(Korea)、2004、28(5)、367〜373、「Electroluminescence characteristics of blue light emitting copolymer containing perylene and triazine moieties in the side chain」は、ポリマー側鎖中の発光単位および電子輸送単位としてペリレンおよびトリアジン部分を含有する青色発光コポリマーを開示している。
【0010】
Chem.Commun.、2005、2172〜2174、「Selective Ir−catalysed borylation of polycyclic aromatic hydrocarbons:structures of naphthalene−2,6−bis(boronate),pyrene−2,7−bis(boronate) and perylene−2,5,8,11−tetra(boronate)esters」は、共役系および光学材料を生成するためのピレン−ビス(ボロネート)およびペリレン−テトラ(ボロネート)エステルの生成を開示している。
【0011】
WO2005/043640は、ペリレン誘導体を有機発光性素子中の有機発光性材料と混和することにより、素子の寿命におけるわずかな増加を付与し得ることを開示している。しかしながら、より高濃度のペリレン誘導体は、より大きな寿命の改善を付与する一方で、放出スペクトルにおける大幅な赤方偏移をもたらす。
【0012】
上記を踏まえて、発光性単位として作用するために、ペリレン誘導体等の多環芳香族炭化水素を発光性ポリマーに組み込むことが公知であるのが明らかである。素子の寿命を増加させるために、ペリレン誘導体を有機発光性素子中の有機発光性材料と混和することが公知であるが、寿命の増加はわずかしか観察されず、放出スペクトルにおける大幅な赤方偏移という代償を払っていることも明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の実施形態の目的は、有機発光性素子の寿命におけるはるかに大きい改善をもたらしつつも、その発光スペクトルを大幅に変化させない材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本出願人は、驚くべきことに(surprising)、大きな多環芳香族炭化水素単位、すなわち12個を超える芳香族sp2混成炭素原子を有する該単位を、発光性ポリマー中に非発光性(non-emissive)単位として組み込むことにより、そのような単位を発光性ポリマーと単に混和することと比較して、発光性ポリマーの発光スペクトルにおける大きな変化を招くことなく、発光性ポリマーの寿命を大幅に増加させることを見出した。
【0015】
この知見を踏まえ、かつ本発明の第一の態様に従って、発光性繰り返し単位と、12個を超える芳香族sp2混成炭素原子を有する非発光性多環芳香族炭化水素単位とを含む、エレクトロルミネッセンスポリマーが提供される。好ましくは、非発光性多環芳香族炭化水素単位は、少なくとも16個の芳香族sp2混成炭素原子、より好ましくは少なくとも18個の芳香族sp2混成炭素原子、最も好ましくは少なくとも20個の芳香族sp2混成炭素原子を有する。ある特定の好ましい実施形態によれば、非発光性多環芳香族炭化水素単位はペリレン単位を含む。
【0016】
エレクトロルミネッセンスポリマーへの大きな非発光性多環芳香族炭化水素単位の組み込みが、その発光スペクトルを大幅に変化させることなくエレクトロルミネッセンスポリマーの寿命を増加させる理由については、いくつかの説明が考えられる。理論に縛られることなく、1つの考えられる説明は、大きな多環芳香族炭化水素単位が、表面積の大きい強固な共役系を提供し、これがポリマーに沿った電荷移動の改善を可能にすることである。このことは、単位を発光性ポリマー内に非発光性電荷輸送単位として組み込むことが、単位を放出性材料との混和物として単に混合するよりもむしろ、そのような改善を提供する理由を説明することができる。単位をポリマーに組み込むことにより、大きな板状の単位は対面配向で整列して、混和物中に無作為に配向された場合とは対照的に、ポリマーの長さに沿って良好な電荷輸送を提供することができる。代替的にまたは付加的に、エレクトロルミネッセンスポリマーに大きな非発光性多環芳香族炭化水素単位を組み込むことにより、それらは発光性単位とより密接に会合し、故に、発光性単位に電荷を移動させる上でより効率的に機能する。
【0017】
さらに、大きな多環芳香族炭化水素単位は、発光性ポリマーの残りの共役にほとんど影響を及ぼさず、故に発光の色の変化は些細であるような、比較的局在性のバンドギャップを有すると思われる。大きな多環芳香族炭化水素単位からの発光は実質的にない。これは、例えば、大きな多環芳香族炭化水素単位のバンドギャップが発光性単位のバンドギャップより大きくなるように、大きな多環芳香族炭化水素単位および発光性単位を選択することによって、確実にすることができる。
【0018】
本出願人は、本発明の有利な効果が、本発明の大きな多環芳香族炭化水素単位のものと同様のバンドギャップを有する、より小さい電荷輸送単位を組み込むことでは実現されないことも立証した。これは、観察された有利な効果を司るのは大きな板状の単位のサイズであるという、前述した仮説を支持するように思われる。
【0019】
大きな多環芳香族炭化水素単位は、エレクトロルミネッセンスポリマーの主鎖に繰り返し単位として、および/またはポリマー主鎖にペンダントしている(pendant)1つもしくは複数の側鎖に、および/またはポリマー主鎖のエンドキャップ基として、組み込まれ得る。驚くべきことに、少数の大きな多環芳香族炭化水素単位がエレクトロルミネッセンスポリマーに組み込まれただけでも、寿命の大幅な増加が観察されることが分かった。故に、エレクトロルミネッセンスポリマー中の大きな多環芳香族炭化水素単位の濃度は、ポリマー中の繰り返し単位の全モル数の10mol%未満、より好ましくは2mol%未満、さらに一層好ましくは1mol%以下であってよく、0.5mol%未満であってもよい。故に、微小装填量の大きな多環芳香族炭化水素単位(0.001から1mol%の範囲内等)を使用して、発光の色を大幅に変化させることなく、寿命の大幅な増加を付与することができる。
【0020】
発光性単位は、好ましくは、大きな多環芳香族炭化水素単位よりも小さいバンドギャップを有する任意の発光性単位から選択され得る。
【0021】
好ましくは、エレクトロルミネッセンスポリマーは、電荷輸送繰り返し単位をさらに含み、非発光性多環芳香族炭化水素単位のバンドギャップは、電荷輸送繰り返し単位と発光性繰り返し単位との間の中間のエネルギーである。この配置において、非発光性多環芳香族炭化水素単位は、電荷輸送繰り返し単位から発光性繰り返し単位に電荷を輸送するように機能し得る。電荷輸送繰り返し単位は、正孔輸送および/または電子輸送繰り返し単位を含み得る。電荷輸送繰り返し単位は、フルオレンベースの繰り返し単位および/またはトリアリールアミンベースの繰り返し単位を含み得る。
【0022】
一実施形態において、エレクトロルミネッセンスポリマーは青色発光である。背景の項において既述の通り、青色発光ポリマーの寿命の短さは、本発明のある特定の実施形態が対象とする特定の問題である。
【0023】
本発明の目的のために、用語「青色発光」は、フォトルミネッセンス発光が、400から500nm、好ましくは430から500nmまでの範囲内のピーク波長を有することを意味する。
【0024】
非発光性多環芳香族炭化水素単位は、好ましくは、1個または複数の置換基を含む。置換基の例は、C1〜20アルキルまたはアルコキシ等の可溶化基;フッ素、ニトロまたはシアノ等の電子求引基;ポリマーのガラス転移温度(Tg)を上昇させるための置換基;および、場合により置換されているフェニル、非置換フェニル、または1個もしくは複数のアルキルもしくはアルコキシ基で置換されているフェニル等のアリール基を含む。好ましい置換基は、t−ブチルである。
【0025】
適切に位置づけられている場合、置換基は、例えば非発光性多環芳香族炭化水素単位の反応性部位をブロックすることによって、非発光性多環芳香族炭化水素単位の縮合芳香族環を保護するように作用することができる。置換基は、材料の凝集を防止するのにも役立ち得る。
【0026】
場合により、非発光性多環芳香族炭化水素単位上に存在する置換基は、直接結合によって、または連結基もしくは連結原子によってのいずれかで、一緒に連結していてよい。
【0027】
ここで、ほんの一例として下記の図面を参照し、本発明について記述する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に従う有機発光性素子を示す図である。
図2】大きな非発光性多環芳香族炭化水素単位が組み込まれた本発明によるいくつかのポリマーについて、また、比較のために、大きな非発光性多環芳香族炭化水素単位が中に組み込まれていない対応するポリマーについての輝度対時間プロットを図示するグラフを示す図である。
図3図2のポリマーの発光スペクトルを示す図である。
図4】ポリマーのみ(実線)およびペリレンと混和したポリマー(点線)についての輝度対時間プロットを図示するグラフを示す図である。
図5】ポリマーのみ(実線)および非発光性ペリレン誘導体単位が組み込まれた本発明によるポリマー(点線)についての輝度対時間プロットを図示するグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
好ましい非発光性多環芳香族炭化水素単位は、下記の式A:
【0030】
【化1】
[式中、R1’〜R4’は、アルキル、場合により置換されているアリール、アルコキシ、チオエーテルおよびアミンからなる群から独立に選択される任意選択の置換基である]を有する。好ましい置換基は、アルキル、より好ましくは分枝鎖アルキル;およびフェニル、より好ましくはアルキル置換フェニルである。置換基R1’〜R4’は、2、5、8および11位に存在し得る。R−基の少なくとも1つは、エレクトロルミネッセンスポリマーとの結合を含まなくてはならない。
【0031】
非発光性多環芳香族炭化水素がエレクトロルミネッセンスポリマーの骨格に側鎖として共有結合している場合、該炭化水素は、式Iを有する構造単位:
【0032】
【化2】
を含み得る。
【0033】
式Iによって示される構造単位は、以下で式II:
【0034】
【化3】
[式中、R’、R’およびR’は、それぞれ独立に、上記で定義された通りの任意選択の置換基を表す]に示す通り、例えば、C2、C5およびC8位の任意の1つまたは複数において置換されていてよい。1つの好ましい実施形態において、置換基R’、R’およびR’のすべてが存在する。R’、R’およびR’は、非発光性多環芳香族炭化水素の縮合環を保護するように作用し得る。好ましくは、R’、R’およびR’のそれぞれは、t−ブチルを表す。
【0035】
非発光性多環芳香族炭化水素(PAH)は、式III:
【0036】
【化4】
中の繰り返し単位によって示される通り、スペーサー基を介してエレクトロルミネッセンスポリマーの骨格に連結していてよい。
【0037】
スペーサー基は、共役であっても非共役であってもよい。
【0038】
共役スペーサー基は、例えばフェニルを含む。非共役スペーサー基は、例えばアルキルを含む。
【0039】
非発光性多環芳香族炭化水素は、ポリマー骨格に直接連結していてもよい。
【0040】
エレクトロルミネッセンスポリマーの骨格は、1つまたは複数の異なる繰り返し単位を含み得る。
【0041】
一実施形態において、非発光性多環芳香族炭化水素が結合しているポリマーの骨格中の繰り返し単位は、フルオレン、より好ましくは9,9二置換フルオレンを含むことが好ましい。フルオレン単位は、総じて繰り返し単位に安定性を提供する。
【0042】
非発光性多環芳香族炭化水素がエレクトロルミネッセンスポリマーと結合している場合、エレクトロルミネッセンスポリマーは、式IVを有する繰り返し単位:
【0043】
【化5】
を含み得る。
【0044】
式IVを有する好ましい繰り返し単位を、式VからVIII:
【0045】
【化6】
【化7】
[式中、R、R’、R’およびR’は上記で定義された通りであり;R’はスペーサー基、好ましくは、アルキレン、アリーレン(特にフェニレン)、酸素、窒素、硫黄またはそれらの組合せ、特にアリールアルキルであり;かつ、nは1〜10である]に示す。好ましくは、Rは、場合により置換されているC〜C20アルキルまたはアリール基を表す。
【0046】
非発光性多環芳香族炭化水素単位が、共役ポリマーの骨格中に繰り返し単位として設けられている実施形態を参照すると、非発光性多環芳香族炭化水素単位は、隣接する繰り返し単位と直接結合していてよく、またはスペーサー基を介して結合していてよい。非発光性多環芳香族炭化水素単位は、任意の位置を経由して結合していてよく、任意の位置において置換されていてよい。この実施形態による好ましい繰り返し単位は、式IXおよびX:
【0047】
【化8】
[式中、R1’、R2’およびR5’は上記で定義された通りである]を含む。
【0048】
式IXおよびXは、その8位および11位を経由する非発光性多環芳香族炭化水素単位の結合を図示するものであるが、2、5、8および11位のうち2つの任意の組合せを介して単位が連結している類似の繰り返し単位を設けてよいことが理解されよう。
【0049】
非発光性多環芳香族炭化水素単位がエレクトロルミネッセンスポリマーの末端基として共有結合している実施形態を参照すると、好ましい末端基は、式XIおよびXII:
【0050】
【化9】
[式中、R1’、R2’、R3’およびR5’は上記で定義された通りである]を有する。
【0051】
ポリマーは、好ましくは線状ポリマーであり、非発光性多環芳香族炭化水素末端基は、ポリマー鎖の一端または両端に存在する。
【0052】
ポリマーは、好ましくは最大5mol%、より好ましくは0.1から2mol%、さらに一層好ましくは約0.2〜0.5mol%の、上記式IIIからXの1つを有する繰り返し単位を含有する。
【0053】
本発明のエレクトロルミネッセンスポリマーを製造するための適切な多環芳香族炭化水素モノマーのいくつかの例を以下に示す。
【0054】
【化10】
【0055】
好ましい電子輸送繰り返し単位は、フルオレンを含む。本明細書において使用される用語「フルオレン」は、スピロフルオレンおよびインデノフルオレンをその意味内に含む。電子輸送を最適化するために、フルオレン単位は、当技術分野において公知の通り、好ましくはポリマー骨格に沿って3以上の鎖で連結している。
【0056】
好ましい電子輸送繰り返し単位は、最も好ましくは式I:
【0057】
【化11】
[式中、RおよびRは、水素、または場合により置換されているアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアリールアルキルから独立に選択される]を有する、場合により置換されている2,7連結フルオレンを含む。より好ましくは、RおよびRの少なくとも一方は、場合により置換されているC〜C20アルキルまたはアリール基を含む。
【0058】
好ましい正孔輸送繰り返し単位は、アミン、特に、好ましくは式2を有するトリアリールアミン:
【0059】
【化12】
[式中、ArおよびArは、場合により置換されているアリールまたはヘテロアリール基であり、nは1以上、好ましくは1または2であり、かつ、Rは、Hまたは置換基、好ましくは置換基である]を含む。Rは、好ましくはアルキルまたはアリールまたはヘテロアリールであり、最も好ましくはアリールまたはヘテロアリールである。式2の単位中のアリールまたはヘテロアリール基のいずれかは置換されていてよい。好ましい置換基は、アルキルおよびアルコキシ基を含む。式2の繰り返し単位中のアリールまたはヘテロアリール基のいずれかは、直接結合または二価連結原子もしくは基によって連結していてよい。好ましい二価連結原子および基は、O、S、置換N、および置換Cを含む。
【0060】
式2を満たす特に好ましい単位は、式3から5の単位:
【0061】
【化13】
[式中、ArおよびArは上記で定義された通りであり;かつ、Arは、場合により置換されているアリールまたはヘテロアリールである]を含む。存在する場合、Arのための好ましい置換基は、アルキルおよびアルコキシ基を含む。
【0062】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様に関して定義した通りの材料を作製するための方法を提供する。
【0063】
共役ポリマーの調製のための好ましい方法は、例えばWO00/53656において記載されている通りのスズキ重合、および例えばT.Yamamoto、「Electrically Conducting And Thermally Stable π−Conjugated Poly(arylene)s Prepared by Organometallic Processes」、Progress in Polymer Science 1993、17、1153〜1205において記載されている通りのヤマモト重合である。これらの重合技術はいずれも、アリール基とモノマーの脱離基との間に金属錯体触媒の金属原子が挿入される「金属挿入」を介して操作するものである。ヤマモト重合の場合はニッケル錯体触媒が使用され、スズキ重合の場合はパラジウム錯体触媒が使用される。
【0064】
例えば、ヤマモト重合による線状ポリマーの合成においては、2個の反応性ハロゲン基を有するモノマーが使用される。同様に、スズキ重合の方法によれば、少なくとも1個の反応基はボロン酸またはボロン酸エステル等のホウ素誘導体基であり、他の反応基はハロゲンである。好ましいハロゲンは、塩素、臭素およびヨウ素、最も好ましくは臭素である。
【0065】
したがって、本出願全体を通して例証される通り、アリール基を含む繰り返し単位および末端基は、適切な脱離基を担持するモノマーから誘導され得ることが理解されよう。
【0066】
スズキ重合を使用して、位置規則性、ブロックおよびランダムコポリマーを調製することができる。特に、ホモポリマーまたはランダムコポリマーは、1個の反応基がハロゲンであり、かつ他の反応基がホウ素誘導体基である場合に調製され得る。代替として、ブロックまたは位置規則性コポリマー、特にABコポリマーは、第一のモノマーの両方の反応基がホウ素であり、かつ、第二のモノマーの両方の反応基がハロゲンである場合に調製され得る。
【0067】
ハロゲン化物の代替として、金属挿入に関与することができる他の脱離基は、トシレート、メシレートおよびトリフレートを含む基を含む。
【0068】
故に、第二の態様は、各モノマーが少なくとも2個の反応基を有するモノマーを重合させるスズキ重合またはヤマモト重合を使用して、本発明の第一の態様に関して定義した通りの材料を作製するための方法を提供する。好ましくは、反応基は、ボロン酸またはボロン酸エステル等のホウ素誘導体基、ハロゲン、トシレート、メシレートおよびトリフレートから選択される。
【0069】
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様に関して定義した通りの材料を含有する有機発光素子(OLED)を提供する。典型的には、前記材料は、単独でまたは1種もしくは複数の他の材料と組み合わせてのいずれかで、素子の層に含まれる。該素子は、例えば1つまたは複数のダイオードからなってよい。
【0070】
図1を参照すると、本発明の第三の態様によるOLEDの構成は、典型的には、透明ガラスまたはプラスチック基板1と、アノード2と、カソード4とを含む。第一の態様に関して定義した通りの発光材料を含むエレクトロルミネッセンス層3は、アノード2とカソード4との間に設けられている。
【0071】
実用的素子において、光が吸収(光応答性素子の場合)または放出(OLEDの場合)され得るように、電極の少なくとも一方は半透明である。アノードが透明である場合、該アノードは、典型的には酸化インジウムスズを含む。
【0072】
電荷輸送層、電荷注入層または電荷ブロック層等のさらなる層を、アノード2とカソード3との間に設置してよい。
【0073】
特に、アノードから半導体ポリマーの(1つまたは複数の)層への正孔注入を補助するために、アノード2とエレクトロルミネッセンス層3との間に設けられた導電性有機または無機材料から形成され得る導電性正孔注入層を提供することが望ましい。ドープされた有機正孔注入材料の例は、ドープされたポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)、特に、EP0901176およびEP0947123において開示されている通りのスルホン酸ポリスチレン(PSS)、ポリアクリル酸またはフッ素化スルホン酸、例えばNafion(登録商標)等の電荷平衡化ポリ酸(charge−balancing polyacid)でドープされたPEDT;US5723873およびUS5798170において開示されている通りのポリアニリン;ならびにポリ(チエノチオフェン)を含む。導電性無機材料の例は、Journal of Physics D:Applied Physics(1996)、29(11)、2750〜2753において開示されている通りのVOx MoOxおよびRuOx等の遷移金属酸化物を含む。
【0074】
存在するならば、アノード2とエレクトロルミネッセンス層3との間に設置される正孔輸送層は、好ましくは5.5eV以下、より好ましくは4.8〜5.5eV前後のHOMO準位を有する。HOMO準位は、例えばサイクリックボルタンメトリーによって計測できる。
【0075】
存在するならば、エレクトロルミネッセンス層3とカソード4との間に設置される電子輸送層は、好ましくは3〜3.5eV前後のLUMO準位を有する。
【0076】
エレクトロルミネッセンス層3は、発光材料単独からなってよく、または発光材料を1種もしくは複数のさらなる材料と組み合わせて含んでもよい。特に、発光材料は、例えばWO99/48160において開示されている通り、正孔および/もしくは電子輸送材料と混和されてよく、または半導体ホストマトリクス中にルミネッセンスドーパントを含んでもよい。代替として、発光材料は、電荷輸送材料および/またはホスト材料と共有結合していてよい。
【0077】
カソード4は、エレクトロルミネッセンス層への電子の注入を可能にする仕事関数を有する材料から選択される。カソードとエレクトロルミネッセンス材料との間の有害な相互作用の可能性等の他の要因は、カソードの選択に影響を与える。カソードは、アルミニウムの層等の単一材料からなってよい。代替として、カソードは、複数の金属、例えば、WO98/10621において開示されている通りのカルシウムおよびアルミニウム等、低仕事関数材料および高仕事関数材料の二重層;WO98/57381、Appl.Phys.Lett.2002、81(4)、634およびWO02/84759において開示されている通りの元素バリウム;または、金属化合物、特に、電子注入を補助するためのアルカリもしくはアルカリ土類金属の酸化物もしくはフッ化物、例えばWO00/48258において開示されている通りのフッ化リチウムの薄層;Appl.Phys.Lett.2001、79(5)、2001において開示されている通りのフッ化バリウム;ならびに酸化バリウムを含み得る。素子への効率的な電子の注入を提供するために、カソードは、好ましくは3.5eV未満、より好ましくは3.2eV未満、最も好ましくは3eV未満の仕事関数を有する。金属の仕事関数は、例えば、Michaelson、J.Appl.Phys.48(11)、4729、1977において見ることができる。
【0078】
カソードは、不透明であっても透明であってもよい。透明なカソードは、そのような素子中の透明なアノードを経由する発光が、発光性ピクセルの下に設置されている駆動回路によって少なくとも部分的にブロックされるため、アクティブマトリクス素子に特に有利である。透明なカソードは、透明であるために十分に薄い電子注入材料の層を含むことになる。典型的には、その薄さの結果として、この層の側方導電率(lateral conductivity)は低くなる。この場合、電子注入材料の層は、酸化インジウムスズ等の透明な導電性材料のより厚い層と組み合わせて使用される。
【0079】
透明なカソード素子は、透明なアノードを有する必要はなく(当然ながら、完全に透明な素子が望まれる場合は除く)、そのため、底部発光素子に使用される透明なアノードは、アルミニウムの層等の反射性材料の層で置き換えられ、または補われていてよいことが理解されよう。透明なカソード素子の例は、例えばGB2348316において開示されている。
【0080】
光学素子は、水分および酸素に対して感受性の高い傾向がある。したがって、基板は、好ましくは、素子への水分および酸素の侵入を防止するために良好なバリア特性を有する。基板は一般にガラスであるが、特に素子の柔軟性が望ましい場合、代替的な基板を使用してよい。例えば、基板は、代替のプラスチックの基板およびバリア層を開示しているUS6268695にあるようなプラスチック、またはEP0949850において開示されているような薄ガラスとプラスチックのラミネートを含み得る。
【0081】
素子は、好ましくは、水分および酸素の侵入を防止するために、封止材(図示せず)で封止されている。適切な封止材は、ガラスシート、例えばWO01/81649において開示されている通りのポリマーおよび誘電体の交互スタック等、適切なバリア特性を有する膜、または、例えばWO01/19142において開示されている通りの気密容器を含む。基板または封止材を透過し得るあらゆる大気中の水分および/または酸素の吸収のためのゲッター材料を、基板と封止材との間に置いてよい。
【0082】
図1の実施形態は、素子を例証するものであり、ここで、該素子は、最初に基板上にアノードを形成し、続いてエレクトロルミネッセンス層およびカソードを堆積させること(deposition)によって形成されるが、本発明の素子は、最初に基板上にカソードを形成し、続いてエレクトロルミネッセンス層およびアノードを堆積させることによっても形成され得ることが理解されよう。
【0083】
本発明の第四の態様は、第三の態様に関して定義した通りのOLEDを作製する方法を提供する。好ましくは、第一の態様に関して定義した通りの発光材料を、溶液処理によって溶液から堆積させて(場合により、1種または複数のさらなる材料と組み合わせて)、OLEDの層を形成する。
【0084】
ポリアリーレン、特にポリフルオレンに適した溶媒は、トルエンおよびキシレン等のモノ−またはポリ−アルキルベンゼンを含む。特に好ましい溶液堆積技術は、スピンコーティングおよびインクジェットプリンティングである。
【0085】
スピンコーティングは、エレクトロルミネッセンス材料のパターニングが不要な素子、例えば照明用途または単純なモノクロ分割ディスプレイに特に適している。
【0086】
インクジェットプリンティングは、高情報量ディスプレイ、特にフルカラーディスプレイに特に適している。OLEDのインクジェットプリンティングは、例えばEP0880303において記載されている。
【0087】
他の溶液析出技術は、ディップコーティング、ロールプリンティングおよびスクリーンプリンティングを含む。
【0088】
OLEDの多重層が溶液処理によって形成される場合、当業者であれば、これらの層のうち最初のものを形成する材料が、第二の層を堆積させるために使用する溶媒に非可溶性となるように、例えば、後続の層の堆積前に一層を架橋させることによって、または隣接する層の材料の選択によって、隣接する層の混合を防止するための技術を認識するであろう。
【0089】
本発明の第五の態様は、本発明の第三の態様に関して定義した通りの素子を含むフルカラーディスプレイ等の光源を提供する。
【0090】
第五の態様によれば、エレクトロルミネッセンス層3は、パターニングされていてもされていなくてもよい。パターニングされていない層を含む素子は、例えば照明源として使用され得る。白色発光素子はこの目的に特に適している。パターニングされた層を含む素子は、例えば、アクティブマトリクスディスプレイまたはパッシブマトリクスディスプレイとなり得る。アクティブマトリクスディスプレイの場合、パターニングされたエレクトロルミネッセンス層は、典型的にはパターニングされたアノード層およびパターニングされていないカソードと組み合わせて使用される。パッシブマトリクスディスプレイの場合、アノード層は、アノード材料の平行ストライプ(stripes)、ならびに該アノード材料に垂直に配置されたエレクトロルミネッセンス材料およびカソード材料の平行ストライプから形成されており、ここで、エレクトロルミネッセンス材料およびカソード材料のストライプは、典型的には、フォトリソグラフィーによって形成された絶縁材料(「カソード隔離体」)のストライプによって隔離されている。
【0091】
第三の態様による素子を参照すると、共役ポリマーについて下記の概評が為され得る。
【0092】
エレクトロルミネッセンスおよび/または電荷輸送ポリマーは、ポリ(p−フェニレンビニレン)およびポリアリーレン等のポリ(アリーレンビニレン)を含む。
【0093】
ポリマーは、好ましくは、例えばAdv.Mater.2000 12(23)1737〜1750およびその中の参考文献において開示されている通りのアリーレン繰り返し単位から選択される第一の繰り返し単位を含む。例示的な第一の繰り返し単位は、J.Appl.Phys.1996、79、934において開示されている通りの1,4−フェニレン繰り返し単位;EP0842208において開示されている通りのフルオレン繰り返し単位;例えばMacromolecules 2000、33(6)、2016〜2020において開示されている通りのインデノフルオレン繰り返し単位;ならびに例えばEP0707020において開示されている通りのスピロフルオレン繰り返し単位を含む。これらの繰り返し単位のそれぞれは、場合により置換されている。置換基の例は、C1〜20アルキルまたはアルコキシ等の可溶化基;フッ素、ニトロまたはシアノ等の電子求引基;および、ポリマーのガラス転移温度(Tg)を上昇させるための置換基を含む。
【0094】
特に好ましいポリマーは、場合により置換されている2,7連結フルオレン、最も好ましくは式6の繰り返し単位:
【0095】
【化14】
[式中、RおよびRは、水素、または場合により置換されているアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアリールアルキルから独立に選択される]を含む。より好ましくは、RおよびRの少なくとも一方は、場合により置換されているC〜C20アルキルまたはアリール基を含む。
【0096】
ポリマーは、素子のどの層において使用されるか、および共繰り返し単位の性質に応じて、正孔輸送、電子輸送および発光の機能の1つまたは複数を提供し得る。
【0097】
特に、
− 電子輸送を提供するために利用され得る、9,9−ジアルキルフルオレン−2,7−ジイルのホモポリマー等、フルオレン繰り返し単位のホモポリマー。
− トリアリールアミン繰り返し単位、特に繰り返し単位7:
【0098】
【化15】
[式中、ArおよびArは、場合により置換されているアリールまたはヘテロアリール基であり、nは1以上、好ましくは1または2であり、かつ、Rは、Hまたは置換基、好ましくは置換基である]を含むコポリマー。Rは、好ましくはアルキルまたはアリールまたはヘテロアリールであり、最も好ましくはアリールまたはヘテロアリールである。式1の単位中のアリールまたはヘテロアリール基のいずれかは置換されていてよい。好ましい置換基は、アルキルおよびアルコキシ基を含む。式1の繰り返し単位中のアリールまたはヘテロアリール基のいずれかは、直接結合または二価連結原子もしくは基によって連結していてよい。好ましい二価連結原子および基は、O、S、置換N、および置換Cを含む。
【0099】
式1を満たす特に好ましい単位は、式8〜10の単位:
【0100】
【化16】
[式中、ArおよびArは上記で定義された通りであり;かつ、Arは、場合により置換されているアリールまたはヘテロアリールである]を含む。存在する場合、Arのための好ましい置換基は、アルキルおよびアルコキシ基を含む。
【0101】
この種の特に好ましい正孔輸送ポリマーは、第一の繰り返し単位およびトリアリールアミン繰り返し単位のコポリマーである。
【0102】
エレクトロルミネッセンスコポリマーは、例えばWO00/55927およびUS6353083において開示されている通り、エレクトロルミネッセンス領域、ならびに正孔輸送領域および電子輸送領域の少なくとも一方を含み得る。正孔輸送領域および電子輸送領域の一方しか設けられていない場合、エレクトロルミネッセンス領域は正孔輸送および電子輸送機能性の他方も提供し得る。代替として、エレクトロルミネッセンスポリマーを、正孔輸送材料および/または電子輸送材料と混和してもよい。正孔輸送繰り返し単位、電子輸送繰り返し単位および発光性繰り返し単位の1つまたは複数を含むポリマーは、ポリマー主鎖またはポリマー側鎖中に前記単位を提供し得る。
【0103】
そのようなポリマー内の異なる領域は、US6353083のようにポリマー骨格に沿って、またはWO01/62869のようにポリマー骨格からペンダントしている基として提供され得る。
【0104】
本発明のポリマーを含有する非発光性多環芳香族炭化水素は、リン光放出体のためのホスト材料として使用され得、この場合、ポリマー/リン光放出体組成物の発光は、リン光材料の発光の色に偏移することになる。
【0105】
好ましいリン光放出体は、式(26)の場合により置換されている錯体:
ML
26
[式中、Mは金属であり;L、LおよびLのそれぞれは配位基であり;qは整数であり;rおよびsは、それぞれ独立に、0または整数であり;かつ、(a.q)+(b.r)+(c.s)の和は、M上で利用可能な配位部位の数と等しく、ここで、aはL上の配位部位の数であり、bはL上の配位部位の数であり、かつ、cはL上の配位部位の数である]を含む金属錯体を含む。
【0106】
重元素Mは、三重項以上の状態からの迅速な項間交差および発光(リン光)を可能にするための強いスピン軌道カップリングを含む。適切な重金属Mは、
− セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ツリウム、エルビウムおよびネオジム等のランタノイド金属、ならびに
− d−ブロック金属、特に、2行目および3行目のもの、すなわち、元素39から48および72から80、特に、ルテニウム、ロジウム、パラジウム(pallaidum)、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金および金
を含む。
【0107】
f−ブロック金属に適した配位基は、カルボン酸、1,3−ジケトネート、ヒドロキシカルボン酸、アシルフェノールおよびイミノアシル基を含むシッフ塩基等の酸素または窒素供与系を含む。公知の通り、ルミネッセンスランタノイド金属錯体は、金属イオンの第一励起状態よりも高い三重項励起エネルギー準位を有する増感基(複数可)を必要とする。発光は金属のf−f遷移からのものであり、そのため、発光色は金属の選択によって決定される。鋭い発光は概して狭く、ディスプレイ用途に有用な純色発光をもたらす。
【0108】
d−ブロック金属は、三重項励起状態からの発光に特に適している。これらの金属は、式27のポルフィリンまたは二座配位子:
【0109】
【化17】
[式中、ArおよびArは、同じであっても異なっていてもよく、場合により置換されているアリールまたはヘテロアリールから独立に選択され;XおよびYは、同じであっても異なっていてもよく、炭素または窒素から独立に選択され;かつ、ArおよびArは、一緒に縮合していてよい]等の炭素または窒素供与体と有機金属錯体を形成する。配位子[式中、Xは炭素であり、かつYは窒素である]が特に好ましい。
【0110】
二座配位子の例を以下に図示する。
【0111】
【化18】
【0112】
ArおよびArのそれぞれは、1個または複数の置換基を担持していてよい。これらの置換基の2個以上は、連結して、環、例えば芳香族環を形成し得る。特に好ましい置換基は、WO02/45466、WO02/44189、US2002−117662およびUS2002−182441において開示されている通りの、錯体の発光を青方偏移させるために使用され得るフッ素またはトリフルオロメチル;JP2002−324679において開示されている通りのアルキルまたはアルコキシ基;WO02/81448において開示されている通りの、発光性材料として使用される際に、錯体への正孔輸送を補助するために使用され得るカルバゾール;WO02/68435およびEP1245659において開示されている通りの、さらなる基の結合のための配位子を官能化するのに役立ち得る臭素、塩素またはヨウ素;ならびに、WO02/66552において開示されている通りの、金属錯体の溶液処理可能性を取得または増強するために使用され得るデンドロンを含む。
【0113】
発光デンドリマーは、典型的に、1つまたは複数のデンドロンと結合している発光コアを含み、ここで、各デンドロンは、分枝点および2つ以上の樹状分枝を含む。好ましくは、デンドロンは、少なくとも部分的に共役しており、コアおよび樹状分枝の少なくとも1つは、アリールまたはヘテロアリール基を含む。1つの好ましい実施形態において、分枝基は含む。
【0114】
d−ブロック元素とともに使用するのに適している他の配位子は、ジケトネート、特にアセチルアセトネート(acac);トリアリールホスフィンおよびピリジンを含み、そのそれぞれは置換されていてよい。
【0115】
主族金属錯体は、配位子ベースの、または電荷移動発光を示す。これらの錯体について、発光色は、配位子および金属の選択によって決定される。
【0116】
ホスト材料および金属錯体は物理的混和物の形態で組み合わせられ得る。代替として、金属錯体はホスト材料と化学的に結合していてよい。ポリマー性ホストの場合、金属錯体は、例えばEP1245659、WO02/31896、WO03/18653およびWO03/22908において開示されている通り、ポリマー骨格に結合した置換基として化学的に結合していてよく、ポリマー骨格に繰り返し単位として組み込まれてよく、またはポリマーの末端基として提供されてよい。
【0117】
広範な蛍光性低分子量金属錯体も公知であり、有機発光素子において実証されている[例えば、Macromol.Sym.125(1997)1〜48、US−A5,150,006、US−A6,083,634およびUS−A5,432,014を参照]。ここでも、非発光性多環芳香族炭化水素単位または末端基(複数可)を含むポリマーを、そのような発光体のホスト材料として使用することができる。二価または三価金属に適した配位子は、例えば、酸素−窒素または酸素−酸素供与原子を有するオキシノイド(概して、置換基酸素原子を有する環窒素原子、または8−ヒドロキシキノレートおよびヒドロキシキノキサリノール−10−ヒドロキシベンゾ(h)キノリナト(II)等の置換基酸素原子を有する置換基窒素原子もしくは酸素原子)、ベンザゾール(III)、シッフ塩基、アゾインドール、クロモン誘導体、3−ヒドロキシフラボン、ならびにサリチラトアミノカルボキシレートおよびエステルカルボキシレート等のカルボン酸を含む。任意選択の置換基は、発光色を変更し得る(ヘテロ)芳香族環上の、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、シアノ、アミノ、アミド、スルホニル、カルボニル、アリールまたはヘテロアリールを含む。
【実施例】
【0118】
モノマー実施例1
主鎖ペリレン繰り返し単位を形成するためのモノマーは、以下のスキームに従って調製した。
【0119】
【化19】
(i)3当量の1−I−4−Br−C、0.2当量のPd(PPh、4当量のAgCO、無水THF、還流2時間。カラムクロマトグラフィー、続いて昇華および再結晶化の繰り返しによって精製した。
【0120】
モノマー実施例2
ポリマーのエンドキャップ基を形成するためのエンドキャップ反応性材料は、以下のスキームに従って調製した。
【0121】
【化20】
(i)10当量の1−I−4−Br−C、0.1当量のPd(PPh、2当量のAgCO、無水THF、還流3時間。カラムクロマトグラフィー、続いて昇華および再結晶化の繰り返しによって精製した。
【0122】
モノマー実施例3
ペンダント(pendent)ペリレン基を含むモノマーは、以下に提示する方法に従って調製した。
【0123】
【化21】
i)8当量のHexPh、2当量のCFSOH、室温45℃、3時間
ii)0.2当量の3−メルカプトプロパンスルフィン酸ナトリウム、45℃、6時間。HexPhを蒸留によって除去した。生成物をメタノールに沈殿させ、IPA/トルエンから2回再結晶させた。
iii)1.2当量の4−F−CNO、1.5当量のKCO、DMF、6時間。水に沈殿させ、乾燥させた。
iv)3.75当量のSnCl、EtOH、還流、12時間。2/3のEtOHを除去し、NaOH水溶液でpHを10に上昇させた。トルエンで水性ワークアップし、5体積当量のヘキサンを加えたトルエンから沈殿させた。
v)6MのHCl/MeCNに溶解し、0℃に冷却した。1.05当量のNaNO(水溶液)を滴下添加した。0℃で1時間撹拌する。2当量のKCOの溶液に、2当量のNEtHを0℃でゆっくり添加した。0℃で2時間撹拌した。室温に加温し、CHCl中に抽出した。カラムクロマトグラフィーによって精製した。
vi)過剰のMeI、2当量のI、80℃、8時間。MeIを減圧下で除去し、CHClで抽出し、Naで洗浄する。カラム(colum)クロマトグラフィー、続いてトルエン/メタノールからの再結晶化の繰り返しによって精製する。
【0124】
【化22】
vii)0.2当量のPd(PPh、2.5当量のCsCO、無水DMF、室温、16時間。カラムクロマトグラフィーおよびBuOAc/MeOHからの再結晶化の繰り返しによって精製した。
【0125】
ポリマー実施例1
発光性単位、式6のフルオレン単位、式7のアミン繰り返し単位、およびモノマー実施例1のモノマーから誘導される主鎖多環芳香族炭化水素を含むポリマーは、WO00/53656において記載されている通りのスズキ重合によって調製した。
【0126】
ポリマー実施例2
発光性単位、式6のフルオレン単位、式7のアミン繰り返し単位、およびモノマー実施例2のモノマーから誘導される側鎖多環芳香族炭化水素を含むポリマーは、WO00/53656において記載されている通りのスズキ重合によって調製した。
【0127】
ポリマー実施例3
発光性単位、式6のフルオレン単位、式7のアミン繰り返し単位、およびモノマー実施例3の材料から誘導されるエンドキャップ基を含むポリマーは、WO00/53656において記載されている通りのスズキ重合によって調製した。
【0128】
比較を目的として、大きな多環芳香族炭化水素を式7のアミンによって置き換えたことを除き、ポリマー実施例1に対応するポリマーを調製した。
【0129】
素子性能
図2は、非発光性多環芳香族炭化水素単位が組み込まれた本発明によるいくつかのポリマー(高位線群)について、また、比較のために、大きな非発光性多環芳香族炭化水素単位が中に組み込まれていない対応するポリマー(低位線群)についての輝度対時間プロットを図示するグラフを示す。プロットから分かるように、本発明のポリマーは、比較例と比較して著しく長い寿命を有する。
【0130】
図3は、ポリマーの発光スペクトルを示す。プロットから分かるように、本発明および比較例のポリマーの発光スペクトルにおける有意差はない。
【0131】
図4は、ポリマーのみ(実線)およびペリレンと混和したポリマー(点線)についての輝度対時間プロットを図示するグラフを示す。図5は、ポリマーのみ(実線)および非発光性ペリレン誘導体単位が組み込まれた本発明によるポリマー(点線)についての輝度対時間プロットを図示するグラフを示す。図4および5において、ポリマーは、電子輸送単位、正孔輸送単位および発光体単位を含有する。素子構造は、層状構造:アノード/正孔注入層/正孔輸送層/エレクトロルミネッセンス層/カソードを含む。プロットから分かるように、ペリレン誘導体がモノマーとしてまたは混和物中でのいずれかで導入されると、該誘導体はポリマーの寿命を改善する。効果は、混和物と比較してコポリマー中でより顕著であることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5