特許第5732046号(P5732046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732046
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/38 20060101AFI20150521BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20150521BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
   C10M105/38
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N40:02
   C10N40:04
   C10N40:08
   C10N40:18
   C10N50:10
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-509561(P2012-509561)
(86)(22)【出願日】2011年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2011058177
(87)【国際公開番号】WO2011125819
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2013年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-81324(P2010-81324)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(72)【発明者】
【氏名】倉富 格
(72)【発明者】
【氏名】長野 克己
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−069234(JP,A)
【文献】 特開2009−074017(JP,A)
【文献】 特開2000−336383(JP,A)
【文献】 特開2005−154726(JP,A)
【文献】 国際公開第04/018595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、(2)及び(3)で示される群れから選ばれる1種類以上のジエステルを含有し、式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルにおいて、総炭素数に対する分岐構造として存在するメチル基及びエチル基にかかわる炭素数の割合が11%以下であり、かつ(1)、(2)及び(3)の存在比率(モル比)が、(1):(2):(3)=45〜100:0〜45:0〜12の範囲にあることを特徴とする潤滑油基油。
【化1】
式中、C3H7及びC4H9は、n-C3H7及びn-C4H9である。
【請求項2】
式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルの合計が、基油の70wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油基油。
【請求項3】
40℃での動粘度が9mm2/s未満であり、粘度指数100以上のネオペンチルグリコール骨格を有したポリオールエステルである低粘度油を30wt%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油基油。
【請求項4】
低粘度油が、カプリル酸又はカプリン酸と、ネオペンチルグリコールから得られるポリオールエステルである請求項3に記載の潤滑油基油。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油基油を含むことを特徴とする潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低揮発性で低温流動性に優れる特長を持ち、低温から高温までの広い領域で潤滑性を長期間発現できる潤滑油基油及びそれを用いた潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油基油には、長期間安定して性能を発揮できること、すなわち、低揮発性、優れた熱・酸化安定性や低温始動性(低温流動性)、高粘度指数(ワイドレンジ)が求められる。特に、低粘度で低揮発性という特長を持つことは究極の目標といっても過言ではない。
【0003】
AV・OA機器の高性能化に伴い、それらの回転部に使用される小型スピンドルモータには、高速化、省電力化の要求が強く、そのため、回転支持部に用いられる軸受には常に低トルク化の要求がある。また、最近では特に、モバイル機器としての利用を考慮して、様々な環境(温度)にも適用できる性能が求められる。軸受のトルクに影響を及ぼす因子には、軸受すきま、軸径などがあるが、取りわけ低温環境では潤滑油の粘度が一つの大きな要因となる。
【0004】
潤滑油は一般的に低粘度になるほど蒸発しやすい傾向にある。潤滑油が蒸発等によって減少すると、適切な油膜圧力が得られず、回転精度が著しく低下し寿命とみなされるため、潤滑油の蒸発特性は軸受の耐久性を左右する重要な特性である。したがって、流体動圧軸受、多孔質含油軸受、動圧型多孔質含油軸受などすべり軸受の潤滑には、低粘度でしかも低温域でも極端な粘度上昇がなく、比較的蒸発特性に優れる潤滑油を選択する必要がある。そして多くの場合、エステル系の潤滑油が使用される。
【0005】
エステル油においても他の潤滑油同様、低粘度になるにしたがって蒸発特性が劣る傾向にある。したがって、軸受のトルクを低減するために、単に現行より低粘度のエステル油を選択するだけでは、蒸発特性を損なうことになり、軸受の耐久性を低下させることになる。また、常温で低粘度であっても低温域で粘度が急激に上昇したり、流動性を失えば、急激なトルクの上昇や機器の停止に繋がる。
【0006】
特に近年ハードディスクの家電搭載が進み、低温下において使用される場合も多く想定されることを受け、安定駆動を確保するため低温領域における低粘性が強く要求されている。これらの性質を満足させるべく多くの潤滑油基油が提案されているが、ある程度の領域までは満足できるものの、究極の目標である低粘度で低揮発性の領域を満足できていないのが現状である。
【0007】
低粘度と低揮発性を同時に得ることは相反する面が強く、例えば同一構造で低粘度化を図ると分子量が低くなり、当然揮発性が増大する。その様な欠点を解決する手段として低粘度でしかも比較的蒸発特性に優れるエステル系の基油が使用される。
【0008】
特許文献1には、炭素数6〜12で直鎖状の二価アルコールと炭素数6〜12の分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とから得られたジエステルを基油として用いる潤滑油組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、上記した従来技術は、アルコールと脂肪酸を適切に選択することにより低粘度特性を有した潤滑油を得ることができるが、40℃粘度が10mm2/s以下のジエステルでは、低分子量化に伴い蒸発量が多くなると共に、分子量が均一なゆえに蒸発がほぼ一斉に生じるため、一定条件下を境として急激に耐久性が落ちる場合がある。その原因として、多くのエステルが左右対称の化学構造を持つことに由来する。つまり、単一組成物であるが故にその限界点が明確で、蒸発によるモーターの急停止を余儀なくされる場合がある。これは、上記した従来技術が特に適切だとする1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールと2−エチルヘキサン酸、3,3,5−トリメチルペンタン酸の組み合わせでは、分子量に比して分岐炭素構造成分の割合が大きいため、粘度指数が小さく、特に低温下において高粘性となり、慣例環境下におけるモーターの駆動性に悪影響を及ぼすためと考えられる。また、ジエステルにおける分岐構造の割合が大きくなると蒸発性が大きくなるためと考えられる。
【0010】
特許文献2には、炭素数8の一価アルコールと炭素数6の二価カルボン酸から合成されるエステルを主成分とし、主成分とは異なるジエステルであって、40℃での動粘度が10mm2/s以上で分子の総炭素数が23〜28のジエステルを1〜5wt%含む潤滑油組成物と、この潤滑油組成物を用いた流体軸受ユニットが開示されている。
【0011】
特許文献3には、炭素数9以下の2価又は3価カルボン酸と、炭素数が3〜25のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等の1価グリコールエーテルから合成されるジエステル体又はトリエステル体を主成分として含む潤滑油基油が記載されている。
【0012】
しかし、これらに記載された潤滑油又は潤滑油基油は、低粘度で低揮発性であるという要望を十分に満足するものとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−69234号公報
【特許文献2】特開2007−39496号公報
【特許文献3】WO2007/116725号公報
【発明の開示】
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、低揮発性で低温流動性に優れる特長を持ち、低温から高温までの広い領域で潤滑性を長期間発現できる潤滑油基油及びそれを用いた潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、下記式(1)、(2)及び(3)で示される群れから選ばれる1種類以上のジエステルを含有し、式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルにおいて、分岐構造として存在するメチル基及びエチル基にかかわる炭素数の合計が総炭素数の11%以下であり、かつ(1)、(2)及び(3)の存在比率(モル比)が、(1):(2):(3)=45〜100:0〜45:0〜12の範囲にあることを特徴とする潤滑油基油に関する。

(式中、C3H7及びC4H9は、n-C3H7及びn-C4H9である)
【0016】
上記潤滑油基油は、式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルの合計が、基油の70wt%以上であることが好ましい。
【0017】
上記潤滑油基油は、40℃での動粘度が9mm2/s未満であり、粘度指数100以上のネオペンチルグリコール骨格を有したポリオールエステルである低粘度油を30wt%以下含むことが好ましく、低粘度油が、カプリル酸又はカプリン酸と、ネオペンチルグリコールから得られるポリオールエステルであることがより好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記の潤滑油基油を用いて得られることを特徴とする潤滑油組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0020】
本発明の潤滑油基油は、上記式(1)、(2)及び(3)で示される群れから選ばれる1種類以上のジエステルを含有し、かつ(1)、(2)及び(3)の存在比率(モル比)が、(1):(2):(3)=45〜100:0〜45:0〜12の範囲にある。そして、式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルにおいて、分岐構造として存在するメチル基及びエチル基にかかわる炭素数の合計が総炭素数の11%以下である。この潤滑油基油は、過度に分岐鎖を有さないため、粘度指数が高く、特に低温領域において低粘性である。また、低蒸発性に優れる。
【0021】
本発明の潤滑油基油は、1,12−ドデカンジオールと、2−メチルペンタン酸及び2−エチルヘキサン酸から選ばれる1種もしくは2種の酸とのエステル化反応により得られるが、2−メチルペンタン酸は必須であり、2−エチルヘキサン酸は任意である。
【0022】
酸として2−メチルペンタン酸のみを使用したときは、式(1)で示されるジエステルが生成する。2−エチルヘキサン酸のみを使用したときは、式(3)で示されるジエステルが生成する。酸として2−メチルペンタン酸と2−エチルヘキサン酸の両者を使用したときは、式(1)〜(3)で示されるジエステルを含むジエステルが混合物として生成する。この場合の、各ジエステルの割合は、2−メチルペンタン酸と2−エチルヘキサン酸の使用割合によって変化する。なお、式(1)で示されるジエステルと式(3)で示されるジエステルを別個に製造し、これを混合すれば式(1)と(3)で示されるジエステルを含むジエステルが混合物として得られる。
【0023】
本発明の潤滑油基油においては、式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルの存在比率を一定の範囲にすることによって、低温における粘性、蒸発性、低温流動性を向上させることができる。式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルの存在比率を、(1):(2):(3)で表わすと、45〜100:0〜45:0〜12であり、好ましくは40〜85:10〜45:1〜15の範囲である。
【0024】
しかし、本発明の潤滑油基油においては、分岐する炭素数の割合(以下、分岐炭素率という)一定以下とする必要がある。ここで、分岐する炭素数とは、式(1)、(2)及び(3)において、側鎖として示されるメチル基及びエチル基の炭素数の合計から計算される。ここで、側鎖とは式(1)、(2)及び(3)において、両末端のC3H7又はC4H9を結ぶ線状の炭素鎖を含む主鎖に置換するアルキル基をいう。例えば、式(1)は側鎖のメチル基を2つ有する総炭素数24のジエステルと理解され、この場合の分岐炭素率は2/24となる。これに対し、式(3)は側鎖のエチル基を2つ有する総炭素数28のジエステルと理解され、この場合の分岐炭素率は4/28となる。式(2)は側鎖のメチル基とエチル基を各1つ有する総炭素数26のジエステルと理解され、この場合の分岐炭素率は3/26となる。混合物の場合の分岐炭素率はこれらの加重平均値として計算される。したがって、これからも式(3)で示されるジエステルの存在量が制限される。なお、総炭素数は、上記各式で表されるジエステルに含まれる合計の炭素数をいう。
【0025】
本発明の潤滑油基油において、上記ジエステルの含有量は、基油の50wt%以上であることがよく、70wt%以上であれば、潤滑油の低温における低粘性、低蒸発性を十分に向上させることができる。他の基油成分と混在させる方法として、合成による方法では、1,12−ドデカンジオール以外のジオールを混在させてエステル化する方法、2−メチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸以外の酸を混在させてエステル化する方法が挙げられる。混合による方法ではエステル、ポリアルファオレフィンなど、既存の基油と混合する方法が挙げられる。
【0026】
中でも、40℃での動粘度が9mm2/s未満であり、粘度指数100以上のネオペンチルグリコール骨格を有したポリオールエステルである低粘度油を含むことは、潤滑油の低温における低粘性、低蒸発性を維持しながら、さらなる低温流動性を付与できる点で有利である。この低粘度油成分は、ネオペンチルグリコールと、カプリン酸又はカプリル酸のエステル化物であることが好ましい。そして、この低粘度油を含む場合、基油の30wt%以下であることが好ましい。
【0027】
式(1)、(2)又は(3)で示されるジエステルは、上記の酸成分とジオール成分とを常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下又は無触媒下で加熱撹拌等によってジエステル化することにより調製される。具体的な方法として、高温下、縮合反応で生成する水を除去しながらエステル化を進行させる合成方法が挙げられる。この反応には無触媒でも、あるいは硫酸、パラトルエンスルホン酸、テトラキスアルコキシチタネートなどの触媒を用いることが可能であるし、またトルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの脱水溶媒を併用することも可能である。エステル化反応を行うに際し、酸成分は、例えばジオール成分1モルに対して2.0モル以上、好ましくは2.01〜4.5モルが用いられる。
【0028】
本発明の潤滑油基油は、液状潤滑油及びグリース等の潤滑油組成物の基油となる。本発明の潤滑油組成物は、この基油を使用し、これに潤滑油組成物の性能を向上させるための成分を配合したものであり、かかる成分としては公知の酸化防止剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属不活性剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡性等の添加剤や増ちょう剤がある。かかるの添加剤は、1種以上を適宜配合することができる。これらの添加剤は、潤滑油基油に対して好ましくは0.01〜10wt%、更に好ましくは0.03〜5wt%添加される。
【0029】
本発明の潤滑油組成物がグリースである場合、それに使用される増ちょう剤は、特に限定されず、通常のグリースに使用されているものを適宜使用できる。例えば、金属石けん、複合石けん、ウレア、有機ベントナイト、シリカ等が挙げられる。グリース中の増ちょう剤の含有量は、通常3〜30wt%が適当である。また、グリースには一般に配合される酸化防止剤、極圧剤、防錆剤、金属腐食防止剤、油性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、付着性向上剤等の添加剤の1種又は2種以上を適宜配合することができる。これらの添加剤は、通常グリース基油に対して好ましくは0.01〜10wt%、更に好ましくは0.03〜5wt%添加される。
【0030】
本発明の潤滑油基油を使用した潤滑油組成物は、作動油、ギヤ油、スピンドル油、軸受油などの工業用潤滑剤をはじめ、動圧軸受油、焼結含油軸受油、ヒンジ油、ミシン油、摺動面油などの各種用途に適用できる。グリースとしては、軸受部(ボール、コロ、ニードル)、摺動部、ギヤ部などの各種潤滑部に適用することができる。特に、流体軸受ユニット、流体動圧軸受ユニット、多孔質含油軸受ユニット、及びこれらのユニットを備えたスピンドルモータに有利に適用することができる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物が好適に使用される例を以下に示す。
1)流体軸受ユニット:軸外周面とスリーブ内周面のすきまに介在する潤滑油の油膜圧力によって回転軸を支持する軸受部を設け、潤滑剤として本発明の潤滑油組成物を用いた軸受ユニットである。2)流体動圧軸受ユニット:軸外周面とスリーブ内周面の何れか一方に動圧発生溝を設け、潤滑剤として本発明の潤滑油組成物を用いた軸受ユニットである。3)多孔質含油軸受ユニット:本発明の潤滑油組成物を含浸した多孔質含油軸受を有するものである。4)多孔質含油軸受:本発明の潤滑油組成物を含浸した軸受である。この多孔質含油軸受としては、動圧型多孔質含油軸受が好ましく挙げられる。5)スピンドルモータ:上記の軸受ユニットを備えたスピンドルモータである。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
500cc四つ口フラスコ、加熱装置、撹拌装置、温度計、窒素通気管および窒素ライン、ディーンスターク管、冷却管と冷却ラインから構成される反応装置に、1,12−ドデカンジオール80.93g、2−メチルペンタン酸185.81gを入れ、触媒としてテトラキス(IV)(2−エチル−1−ヘキシロキシ)チタネートを触媒とし、窒素雰囲気にて170℃、48時間攪拌しフルエステル化まで反応させた。反応油中に残ったカルボン酸の大部分を10Torr、170℃にて留去し、その後触媒を失活せしめ、エステル中に残った酸を中和し、吸着処理にてエステル中の未反応物や不純物を除去し、ジエステル(d1)を得た。ジエステル組成の決定は、ガスクロマトグラフィーにおける面積比からモル比を算出して用いた。式(1)で示されるジエステルは、全体の99.3wt%であった。
【0034】
実施例2
実施例1と同様の方法で、1,12−ドデカンジオール80.93g、2−メチルペンタン酸91.97g及び2−エチルへキサン酸12.69gを使用し、これをエステル化し、ジエステル(d2)を得た。ジエステル(d2)は、式(1)、(2)及び(3)で示されるジエステルの混合物であり、式(1)、(2)及び(3)の比(モル比)は、(1):(2):(3)=81.1:17.9:1.0であり、これらの合計は全体の99.0wt%であった。
【0035】
実施例3
実施例2と同様の方法で、1,12−ドデカンジオール80.93g、2−メチルペンタン酸89.39g及び2−エチルへキサン酸27.75gを使用し、ジエステル(d3)を得た。ジエステル(d3)は、(1):(2):(3)=63.2:32.6:4.1であり、これらの合計は全体の99.3wt%であった。
【0036】
実施例4
実施例2と同様の方法で、1,12−ドデカンジオール80.93g、2−メチルペンタン酸78.06g及び2−エチルへキサン酸41.54gを使用し、ジエステル(d4)を得た。ジエステル(d4)は、(1):(2):(3)=57.8:36.5:5.7であり、これらの合計は全体の99.3wt%であった。
【0037】
実施例5
実施例2と同様の方法で、1,12−ドデカンジオール80.93g、2−メチルペンタン酸75.00g及び2−エチルへキサン酸44.50gを使用し、ジエステル(d5)を得た。ジエステル(d5)は、(1):(2):(3)=53.9:39.1:7.0であり、これらの合計は全体の99.3wt%であった。
【0038】
実施例6
実施例2と同様の方法で、1,12−ドデカンジオール80.93g、2−メチルペンタン酸71.70g及び2−エチルへキサン酸50.54gを使用し、ジエステル(d6)を得た。ジエステル(d6)は、(1):(2):(3)=45.0:44.1:10.8であり、これらの合計は全体の99.3wt%であった。
【0039】
実施例7
実施例4で合成したジエステル(d4)を90wt%と、ネオペンチルグリコールのジエステル(Hatco社製H2962:分岐メチル基を有し、エステルの分岐炭素率8.9%)を10wt%混合し、ジエステル(d7)を得た。
【0040】
実施例8
実施例4で合成したジエステル(d4)を72.5wt%と、H2962を27.5wt%混合し、ジエステル(d8)を得た。
【0041】
比較例1
実施例1と同様の方法で、1,8−オクタンジオールと2−エチルへキサン酸を原料として使用し、これをエステル化して、ジエステル(d9)を得た。
【0042】
比較例2
実施例1と同様の方法で、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールとカプリル酸を原料として使用し、これをエステル化して、ジエステル(d10)を得た。
【0043】
実施例及び比較例で得られたジエステル(d1)〜(d10)の組成及び各種物性を表1に示す。表中、実施例7〜8及び比較例1〜2における分岐炭素率の計算には、上記式(1)、(2)及び(3)のいずれでも表すことができないジエステルについての分岐炭素率が含まれているが、これは参考である。実施例7〜8における本発明でいう分岐炭素率は、ジエステル(d4)の分岐炭素率と同じと理解される。
【0044】
【表1】
【0045】
表1において、動粘度は−10℃における値である。蒸発減量はジエステルを熱天秤中で窒素雰囲気中、120℃で8h保持した後の重量減量(%)である。
【0046】
添加剤及び略号
L57:アルキルジフェニルアミン(BASF製イルガノックスL57、酸化防止剤)
IR39:ベンゾトリアゾール誘導体(BASF製イルガメット39、金属不活性剤)
OAS1200:コハク酸イミド(シェブロンケミカル製OAS1200、無灰系分散剤)
【0047】
実施例11〜14
実施例1、4、7、8で得たジエステル(d1)、(d4)、(d7)、(d8)を基油とし、L57を0.5wt%、IR39を0.03wt%、OAS1200を1.5wt%配合して潤滑油組成物とした。
【0048】
比較例3
比較例1で得たジエステル(d9)を基油として、L57を0.5wt%、IR39を0.03wt%、OAS1200を1.5wt%配合して潤滑油組成物とした。
【0049】
上記の潤滑油組成物について、蒸発試験と、含油軸受に使用したときの軸受トルクをシミュレーションする目的で−10℃における回転粘度の評価を行った。
【0050】
蒸発試験は、100℃、6000時間の条件で実施した。なお、蒸発試験はラボランスクリュー管瓶#3(容積9ml)に試料を2g入れて行った。n数は2とし、その平均値を蒸発減量として求めた。100℃、6000時間の条件下で蒸発減量が0.5%以下を基準値とした。0.5%以上の蒸発減量を示す潤滑油は、知見として6000時間以上になると指数関数的に蒸発減量が増加する傾向にある。
【0051】
含油軸受に使用する際に問題となる回転特性は低温トルクである。特に−10℃における回転トルクが大きいとバッテリーへの負担が増加する。そのため、−10℃における回転粘度を測定して実機械における軸受トルクをシミュレーションした。なお、モーターメーカーより、−10℃の回転粘度が100mPa・s以下であるという要求仕様がある。そのため、基準値を100mPa・s以下とした。
測定機器はアントンパール製SVM-3000を用いた。
【0052】
【表2】
【0053】
潤滑油組成物について、実態に近い評価試験を実施した結果を表2に示す。動粘度は−10℃における値である。いずれの実施例においても、蒸発減量が低く、基準値を満足する0.5%以下の値を示した。また、同時に回転特性も基準値以下であることが確認され、今までトレードオフの関係にあり両立が困難であった低温−低トルクと高温−低蒸発の潤滑油組成物を得ることができた。
個別には、実施例12の蒸発減量が最も少なく、回転粘度も基準値以下であるが、ポリオールエステルを添加した実施例13、14も蒸発減量を殆ど阻害することなく優れることがが確認できた。
なお、比較例3は既存基油の中で最もバランスが良いとされ、多くの小型モーターで採用されている。今回、その最適油と呼ばれる比較例3を凌駕する性能を持つ潤滑油を開発したことは、小型モーターの高性能化(長寿命、省エネ)に寄与するものといえる。
【産業上の利用の可能性】
【0054】
本発明に係る潤滑油基油は、低揮発性で低温流動性に優れる特長を持ち、低温から高温までの広い領域で潤滑性を長期間発現できる潤滑油組成物を提供することが出来る。特に情報機器関連の小型スピンドルモータ用軸受に適用すると、耐久性を損なうことなく、低トルク化(特に低温駆動性)を実現することができる。