特許第5732199号(P5732199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732199
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】基板の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   H01L21/304 647A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-170(P2010-170)
(22)【出願日】2010年1月4日
(65)【公開番号】特開2011-139004(P2011-139004A)
(43)【公開日】2011年7月14日
【審査請求日】2012年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】光岡 宏明
(72)【発明者】
【氏名】入澤 潤
(72)【発明者】
【氏名】生津 英夫
【審査官】 溝本 安展
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/114448(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/518857(WO,A1)
【文献】 特開2009−267368(JP,A)
【文献】 特開2006−041065(JP,A)
【文献】 特開2003−327999(JP,A)
【文献】 特開2005−079239(JP,A)
【文献】 特表2009−518857(JP,A)
【文献】 特開2006−278956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質の粒子の除去のために基板を洗浄液で洗浄する方法であって、
前記洗浄液、電気陰性度が前記汚染物質よりも大きく、分子容積が130Å以下である鎖状のハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルから選ばれる溶剤を含む(ただし、含フッ素アルコールをさらに含む場合、および前記溶剤と混合したときにフッ化物イオン類の形成を導く有機試薬と、前記溶剤とを混合することによって得られる反応生成物から本質的に成るものである場合を除く。)ことを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記溶剤と前記汚染物質との電気陰性度の差が7.0以上である請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルは、炭素原子と酸素原子との合計数が5以下である請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
無機酸化物粒子の除去のために基板を洗浄液で洗浄する方法であって、
前記洗浄液、CFCHOCFCHF、CFCFCHFCHFCFおよびCFCHCFCHから選ばれる少なくとも1種の溶剤を含む(ただし、含フッ素アルコールをさらに含む場合、および前記溶剤と混合したときにフッ化物イオン類の形成を導く有機試薬と、前記溶剤とを混合することによって得られる反応生成物から本質的に成るものである場合を除く。)ことを特徴とする洗浄方法。
【請求項5】
前記無機酸化物粒子が、少なくともシリカを含むものである請求項4に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の除去を目的とした基板の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスプロセスでは、その目的により組成が異なる種々の洗浄液を用いた洗浄処理が行われている。たとえばシリコン基板表面に付着するシリカ粒子等の粒子の除去を目的とする場合、洗浄液としてアンモニア水−過酸化水素水を用いたSC−1洗浄(Standard Clean 1)が実施されてきた。また、該洗浄に物理力を利用することも行われている。物理力を利用した洗浄方法としては、超音波洗浄、2流体スプレー洗浄、キャビテーションジェット洗浄、バブルジェット洗浄、ブラシ洗浄などが挙げられる。
しかし、SC−1洗浄は、洗浄液がシリコン基板表面を酸化、エッチングすることを基本的な洗浄メカニズムとしているため、エッチングによって洗浄後のシリコン基板表面のマイクロラフネスが増大する問題がある。導体デバイスの微細化に伴いゲート酸化膜の薄膜化が進むなか、該問題の解決が非常に深刻な課題となっている。
マイクロラフネスの改善のために、洗浄液として、シリコン基板表面を酸化、エッチングしない中性の水溶液を用いる技術が検討されている。
しかし、中性の水溶液中では粒子汚染の主要因となるシリカ粒子などを基板から剥離させることが困難である。また中性水溶液の場合、アルミナ粒子など、除去効率が悪くなるものもある。
【0003】
一方、洗浄プロセスにおける粒子の吸着・脱離は、粒子と基板表面との間に働く相互作用のうち、ファンデルワールス引力と静電気相互作用により説明されている。たとえば基板と粒子の表面電位が共に負となることによる静電反発力が、粒子を脱離しやすくし、再付着を抑制することで、除去効率の向上に寄与すると考えられている。
粒子の表面電位の指標としてゼータ電位が用いられている。ゼータ電位は、固体と液体の界面における電位差のうち界面動電現象に有効に作用する部分であり、界面動電位とも称される。これまで、水系の洗浄液中におけるゼータ電位の制御については種々の検討がなされている。ゼータ電位には水溶液のpHと、固体(粒子、基板等)の材質が大きく影響する。一般には酸性条件下では正、アルカリ条件下では負となる傾向がある。たとえばシリカ粒子のゼータ電位はpH4〜5付近で正から負となり、pH6〜11付近では−40〜−60mV程度となる。一方、アルミナ粒子の場合、pH9以下の水溶液中ではゼータ電位は正である。水系の洗浄液中での粒子のゼータ電位を変化させる機構としては、固体表面に存在する水酸基が水のpH変化とともに等電位点(中和状態でゼータ電位ゼロとなる)を境界としてカチオン型、アニオン型に変化するために表面電位が正、負に変化することが要因と考えられている(たとえば非特許文献1参照)。
【0004】
そのため、粒子の除去効率の向上には基板や粒子の表面電位やゼータ電位の制御が有効と考えられ、基板の洗浄に利用されている。上記SC−1洗浄はその典型的例である。それ以外にも、たとえば特許文献1では、pH7の水溶液中におけるゼータ電位が−10mVより小さな材料で構成された洗浄部材(多数のナイロンモヘアを植設したブラシやスポンジなど)で基板表面ラビングして基板表面に付着している粒子を転写除去する方法が開示されている。特許文献2では、物理力を併用した洗浄を行う際の洗浄液として、酸性の水溶液に特定の極性基を2以上有する化合物を配合したものを用いる方法が開示されている。特許文献3では、pH9以上のアルカリ水溶液、または基板および粒子のゼータ電位を負にする界面活性剤を入れた酸性水溶液に、ガスを飽和濃度まで溶解させ、これにガスの気泡を含ませた洗浄液を用いることにより、洗浄時に粒子と基板界面でマイクロバブルを発生させて粒子を剥離除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ウェットサイエンスが拓くプロダクトイノベーション」,II汚染除去編,2.ウェット洗浄プロセスにおける粒子の吸着・脱離のメカニズム、編著:大見忠広、発行所:サイペック(株)REALIZE事業部門、発行日:平成13(2001)年7月31日、第41〜53頁
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−256206号公報
【特許文献2】特開2007−214412号公報
【特許文献3】特開2008−300429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし従来の水系の洗浄液の場合、ゼータ電位を負とするためにpHを高くすると、基板にダメージが生じる問題もある。また、界面活性剤等の添加剤を加えると、それ自身が汚染原因になる問題がある。
さらに、最先端デバイスプロセスでは低消費電力、高速化を実現するために、high−k膜やメタルゲート膜などに従来材料と異なる金属材料(以下、特殊金属材料という。)が使用され始めている。特殊金属材料の中には、水による腐食など、中性の水溶液であってもダメージを受けるものがある(たとえばW、SiGe、CoSi、Si、ZrO、HfO、La、SrRiO等)。
したがって、それらの特殊金属材料を含め、洗浄による基板へのダメージが少なく、しかも粒子の除去効率にも優れた洗浄技術が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、汚染物質の粒子の除去効率に優れ、洗浄による基板へのダメージも少ない洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、従来、イオン化しないためゼータ電位はほとんど生じないものと考えられていた非水系溶剤中で、シリカ粒子、アルミナ粒子などの粒子のゼータ電位が負となることを見出した。かかる知見にもとづきさらに検討を進めた結果、該ゼータ電位が、特定の要件を満たす非水系溶剤中で特に大きな値を示すことを見出し、本発明を完成させた。
上記の課題を解決する本発明は以下の態様を有する。
[1]汚染物質の粒子の除去のために基板を洗浄液で洗浄する方法であって、
前記洗浄液、電気陰性度が前記汚染物質よりも大きく、分子容積が130Å以下である鎖状のハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルから選ばれる溶剤を含む(ただし、含フッ素アルコールをさらに含む場合、および前記溶剤と混合したときにフッ化物イオン類の形成を導く有機試薬と、前記溶剤とを混合することによって得られる反応生成物から本質的に成るものである場合を除く。)ことを特徴とする洗浄方法。
[2]前記溶剤と前記汚染物質との電気陰性度の差が7.0以上である[1]に記載の洗浄方法。
[3]前記ハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルは、炭素原子と酸素原子との合計数が5以下である[1]または[2]に記載の洗浄方法。
[4]無機酸化物粒子の除去のために基板を洗浄液で洗浄する方法であって、
前記洗浄液、CFCHOCFCHF、CFCFCHFCHFCFおよびCFCHCFCHから選ばれる少なくとも1種の溶剤を含む(ただし、含フッ素アルコールをさらに含む場合、および前記溶剤と混合したときにフッ化物イオン類の形成を導く有機試薬と、前記溶剤とを混合することによって得られる反応生成物から本質的に成るものである場合を除く。)ことを特徴とする洗浄方法。
[5]前記無機酸化物粒子が、少なくともシリカを含むものである[4]に記載の洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、汚染物質の粒子の除去効率に優れ、洗浄による基板へのダメージも少ない洗浄方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、汚染物質の粒子の除去のために基板を洗浄する洗浄液として、電気陰性度が前記汚染物質よりも大きく、分子容積が130Å以下である鎖状のハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルから選ばれる溶剤(以下、溶剤(F1)という。)を用いる。
該溶剤(F1)を用いることで、除去対象の汚染物質の粒子(以下、パーティクルという。)のゼータ電位を負にすることができる。そのため、該パーティクルを効果的に除去できる。つまり、基板を汚染するパーティクルは、主に、基板表面を構成する材料に由来し、たとえば表面に酸化ケイ素膜が形成されるシリコン基板の場合、シリカ粒子による汚染が生じる。また、表面に窒化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜等を有するシリコン基板の場合、窒化ケイ素粒子、アルミナ粒子等による汚染が生じる。そのため、それらの無機材料のパーティクルのゼータ電位が負となる場合、シリコン基板およびその表面に存在する無機膜表面のゼータ電位も負となるため、それらの間に静電反発力が働いて、該パーティクルが脱離しやすくなり、脱離後の再付着も抑制される。そのため、上記溶剤(F1)を用いることで、静電反発力が得られ、該パーティクルを除去できる。
また、溶剤(F1)は非水系であることから、水系の洗浄剤を用いる場合に比べて、洗浄による基板へのダメージが少なく、前述した特殊金属材料に対してもダメージを与えない。しかも従来の水系洗浄剤のように界面活性剤等の添加剤を配合しなくてもパーティクルのゼータ電位を負に制御できるため、該添加剤による汚染も防止できる。
【0011】
本明細書および特許請求の範囲において、「ハイドロフルオロカーボン」(以下、HFCという。)は、パラフィン炭化水素の水素原子の一部がフッ素原子で置換された、炭素、水素、フッ素原子のみから構成される化合物である。
「ハイドロフルオロエーテル」(以下、HFEという。)はHFCの炭素原子間にエーテル結合性の酸素原子を含む化合物である。HFE1分子中に含まれるエーテル結合性酸素原子の数は、1であってもよく、2以上であってもよい。溶剤として使いやすい沸点である点や安定性の点から、1または2が好ましく、1がより好ましい。
HFC、HFEの分子構造は鎖状であればよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。本発明の効果に優れることから、直鎖状が好ましい。
HFC、HFEは、それぞれ、洗浄時の温度および圧力条件下において液状であればよく、好ましくは25℃、1×10Paの条件下で液状であるものが用いられる。この条件を満たすものであれば、HFC、HFEの炭素数は特に限定されない。25℃、1×10Paの条件下で液状である鎖状のHFCまたはHFEとしては、炭素数3〜20のものが挙げられる。
HFC、HFEのうち、本発明の効果に優れることから、HFEが好ましい。
【0012】
HFCの具体例として、たとえば以下の化合物が挙げられる。
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(CFCHCFCH)、
1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(CFCFCHFCHFCF)、
1H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、
3H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、
1H−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、
1H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、
3H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、
1H−ヘプタデカフルオロオクタン(C17H)、
1H−ノナデカフルオロノナン(C19H)、
1H−パーフルオロデカン(C1021H)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(CCHCH)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、−トリデカフルオロオクタン(C13CHCH)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデカン(C17CHCH)等。
【0013】
HFEの具体例として、たとえば以下の化合物が挙げられる。
メチルパーフルオロブチルエーテル(COCH)、
エチルパーフルオロブチルエーテル(COCHCH)、
メチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCH)、
エチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCHCH)、
メチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCH)、
エチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCHCH)、
メチルパーフルオロヘプチルエーテル(C15OCH)、
エチルパーフルオロへプチルエーテル(C15OCHCH)、
メチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCH)、
エチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCHCH)、
メチルパーフルオロノニルエール(C19OCH)、
エチルパーフルオロノニルエーテル(C19OCHCH)、
メチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCH)、
エチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCHCH)、
1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CFCHOCFCFH)、
1,2,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CFCHFOCHCF)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CFCHOCFCFHCF)、
1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(CHFCFCHOCFCFH)、
1,1,2,2,3,3、−ヘキサフルオロ−1−(1,2,2,2,−テトラフルオロエトキシ)プロピル−パーフルオロプロピルエーテル(COCOCFHCF)、
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−(メトキシ)ペンタン(CFCF(CF)CF(OCH)CFCF)、
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−(エトキシ)ペンタン(CFCF(CF)CF(OC)CFCF)、
1,1,2,2,−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(CF(OCHCF)CFH)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)プロパン(CF(OCHCF)CFHCF)、
1,1,2,2,−テトラフルオロ−1−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)エタン(CF(OCHCFCFH)CFH)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)プロパン(CF(OCHCFCFH)CFHCF)。
【0014】
溶剤(F1)としては、上記のような公知のHFC、HFEの中から、所望の電気陰性度および分子容積を有するものを適宜選択すればよい。
本明細書および特許請求の範囲において、「電気陰性度」は、mullikenの定義に基づくものであり、計算科学的手法で算出した第1イオン化ポテンシャル(IP)と電子親和力(EA)から算出される。具体的には、PBE1PBE/DGDZVP法により構造最適化した後、その構造に対して、それぞれBMK/D95++**により中性およびプラスイオン、マイナスイオン状態の電子エネルギー計算を実施し、算出された各電子エネルギー(E)から下記式(1)〜(3)により算出する(計算ソフトはGaussian社のGaussian03を使用する)。
IP=E(プラスイオン)−E(中性) …(1)
EA=E(中性)−E(マイナスイオン) …(2)
電気陰性度=(IP+EA)÷2 …(3)
【0015】
溶剤(F1)の電気陰性度は、除去対象のパーティクルを構成する汚染物資の電気陰性度に応じて設定される。たとえば後述する実施例に示すとおり、パーティクルがシリカ粒子の場合、(HO)Si−O−Si(OH)をシリカの分子モデルとして算出される電気陰性度は124.5であるため、溶剤(F1)としては、電気陰性度が124.5よりも大きなものが用いられる。また、パーティクルがアルミナ粒子の場合、(HO)Al−O−Al(OH)をシリカの分子モデルとして算出される電気陰性度は127.4であるため、溶剤(F1)としては、電気陰性度が127.4よりも大きなものが用いられる。
【0016】
本発明の洗浄方法が除去対象とするパーティクルを構成する汚染物資としては、上記シリカ、アルミナのほか、high−k膜、ゲート周辺に使用される特殊金属や金属酸化物(具体的にはW、SiGe、CoSi、Si、ZrO、HfO、La、SrRiO等)、配線材料に使われるCu等が挙げられる。パーティクルを構成する汚染物質は1種であっても2種以上であってもよい。
【0017】
ここで、汚染対象物質の電気陰性度を求める際、シリカ、アルミナの分子モデルとしてそれぞれ(HO)Si−O−Si(OH)、(HO)Al−O−Al(OH)を用いたのは、巨大分子の計算科学的解析を実施することが困難であるためであり、計算負荷を低減することを目的として、最も単純化されたモデル分子を利用している。
同様の理由から、他の汚染物質の電気陰性度を求める場合の分子モデルは、その構造を決定できる最も単純化された分子を用いる。
【0018】
本発明においては、溶剤(F1)と汚染物質との電気陰性度の差が7.0以上であることが好ましく、7.9以上がより好ましく、9.5以上がさらに好ましく、10.8以上が特に好ましい。該差が大きいほど、パーティクルのゼータ電位の絶対値が大きくなり、洗浄効果が向上する傾向があり、該差が7.0以上であると、シリカ粒子、アルミナ粒子の双方のゼータ電位を負にすることができる。特に該差が9.5以上であると、当該溶剤(F1)中のシリカ粒子のゼータ電位を−70mV以下の極めて大きな値にできる。
該差の上限は特に限定されない。
【0019】
「分子容積」は、ケンブリッジ社のChem3Dソフトを用いて、mopac AM1にて構造最適化を行った後に、Connoly solvent excluded volume法を用いて算出される値である。
【0020】
溶剤(F1)の分子容積は130Å(130×10−30)以下であり、120Å以下が好ましく、110Å以下がさらに好ましい。該分子容積が小さいほど、パーティクルの表面に多くの分子が配位できるため同じ電気陰性度の化合物であればゼータ電位の絶対値が大きくなり、洗浄効果が向上する傾向がある。該分子容積の下限は特に限定されない。
【0021】
溶剤(F1)としては、一般式R−(O)−R(式中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜19のフルオロアルキル基またはアルキル基であり、RおよびRの少なくとも一方はフルオロアルキル基であり、RおよびRの少なくとも一方は水素原子を含む。nは0または1である。)で表される化合物が好ましい。
該化合物は、nが0の場合はHFCに該当し、nが1の場合はHFEに該当する。nは0であっても1であってもよく、本発明の効果の点から、1が好ましい。
、Rにおけるフルオロアルキル基またはアルキル基の炭素数は1〜4が好ましい。該フルオロアルキル基またはアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、直鎖状が好ましい。
【0022】
およびRのうち、少なくとも一方はフルオロアルキル基である。RおよびRのうち、両方がフルオロアルキル基であってもよく、一方がフルオロアルキル基であり、他方がアルキル基であってもよい。本発明の効果の点から、RおよびRの両方がフルオロアルキル基であることが好ましい。
およびRのうち、少なくとも一方は水素原子を含む。RおよびRの両方がフルオロアルキル基である場合、少なくとも一方のフルオロアルキル基は、アルキル基の炭素数の一部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基(以下、含水素フルオロアルキル基という。)である。
含水素フルオロアルキル基として具体的には、一般式−C(式中、xは1〜4の整数であり、yおよびzはそれぞれ独立に1以上の整数であり、y+zは(2x+1)である。)で表される基が挙げられる。xは2または3が好ましく、2が特に好ましい。
およびRの一方がフルオロアルキル基である場合、つまり他方がアルキル基である場合、該フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であってもよく、含水素フルオロアルキル基であってもよい。
【0023】
溶剤(F1)としては、特に、炭素原子と酸素原子との合計数(HFCの場合は炭素原子数)が10以下のHFCまたはHFEが好ましく、5以下のHFCまたはHFEがより好ましい。なかでも該合計数が5以下のHFEが好ましい。該合計数は分子容積とほぼ対応しており、該合計数が小さいほど本発明の効果に優れる。
該合計数の下限は特に限定されず、HFCまたはHFEが、洗浄条件下にて液体として存在し得る範囲であればよい。通常、3以上であり、4以上が好ましい。
溶剤(F1)のフッ素化率(HFCまたはHFE中のフッ素原子および水素原子の合計数に対するフッ素原子数の割合)(%)は、20〜95%が好ましく、40〜90%がより好ましい。
【0024】
溶剤(F1)としては、上記の中でも、CFCHOCFCHF、CFCFCHFCHFCFおよびCFCHCFCHから選ばれる少なくとも1種が好ましく、CFCHOCFCHFが特に好ましい。これらの溶剤は、シリカ粒子、アルミナ粒子等の無機酸化物粒子の除去に特に有効である。
特に、シリカ粒子(シリカのみから構成される粒子)等の、シリカを含む無機酸化物粒子の除去のために基板を洗浄する場合は、溶剤(F1)として、CFCHOCFCHF、CFCFCHFCHFCFおよびCFCHCFCHから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
アルミナ粒子(アルミナのみから構成される粒子)等の、アルミナを含む無機酸化物粒子の除去のために基板を洗浄する場合は、溶剤(F1)として、CFCHOCFCHFおよびCFCFCHFCHFCFから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
溶剤(F1)としては、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明においては、溶剤(F1)に、溶剤(F1)以外の他の溶剤を配合してもよい。ただし、溶剤(F1)と該他の溶剤との合計量に対する溶剤(F1)の割合が40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましい。
該他の溶剤としては、たとえば、溶剤(F1)以外の非水系含フッ素溶剤、含フッ素アルコール、非含フッ素有機溶剤、等が挙げられる。
該非水系含フッ素溶剤としては、たとえば、上記で挙げたHFCおよびHFEのうち、所望の電気陰性度および分子容積のいずれか一方または両方を満たさないもの、環状のHFCまたはHFE(たとえば1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(例えば、ジクロロペンタフルオロプロパン、ジクロロフルオロエタン等);含フッ素ケトン類;含フッ素エステル類、含フッ素不飽和化合物;含フッ素芳香族化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
含フッ素アルコールとはフッ素原子およびヒドロキシ基を有する化合物を意味する。含フッ素アルコールは公知の化合物の中から、洗浄時の温度および圧力条件下において液状であるものを選択して用いることが好ましい。また、溶剤(F1)と共沸混合物を構成することがより好ましい。
含フッ素アルコールの具体例としては2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
【0027】
非含フッ素有機溶剤は公知のものから、洗浄時の温度および圧力条件において液状であるものを選択して用いることが好ましい。また、溶剤(F1)と共沸混合物を構成することがより好ましい。
非含フッ素有機溶剤の具体例としては、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸塩類;ジメチルエタノールアミン、アリルアミン、アミノベンジルアミン等のアミン類等が挙げられる。これらの有機溶剤はpH調整剤として用いることもでき、これらの添加によって、パーティクル再付着を防ぐために必要なゼータ電位を調整できる。
【0028】
溶剤(F1)に配合する他の溶剤は、洗浄を行う段階を考慮し、必要に応じて適宜設定できる。たとえば半導体製造工程中、レジスト膜等の有機膜、該有機膜のエッチングにより生じる有機残渣、基板のエッチングの際に形成されるCFデポジット等、除去すべき有機物が存在する段階で洗浄を行う場合、溶剤(F1)に、該有機物を溶解する溶剤を配合したものを洗浄液として用いると、上記ゼータ電位を利用したパーティクルの除去に加えて、該有機物の溶解除去が可能である。
たとえばLSIやMEMSを製作するためには微細パターンが必要となる。このような微細パターンは、露光、現像、リンスを経て形成されるレジストパターンをマスクとして、基板のエッチングを行い、その後洗浄を行って形成されるエッチングパターンである。エッチングには主としてCF系ガスを用いたプラズマエッチングが使用される。該プラズマエッチングにおいては、サイドエッチングを防止してパターン寸法精度を向上させるために、CFデポジットをパターン側壁に堆積させながらエッチングを施すことが行われている。たとえばシリコン酸化膜エッチングではCFガスプラズマ中に添加したハイドロトリフルオロカーボンCHFによりCFフラグメントが生じて(CFからなる構造を有するCFデポジットが生じる。シリコンエッチングでは六フッ化イオウSFと、(CF源になるCのプラズマを交互に生じさせることにより、エッチングとCFデポジットの堆積を繰り返してサイドエッチングを防止できる。CFデポジットは、詳細には上記(CFからなる重合体だけで構成されるわけではなく、シリコン等のエッチング反応物や被エッチング膜の下地膜成分(例えばタングステン等の金属)が含まれている。該CFデポジットは、残存していると欠陥、汚染、パーティクルの原因となり、製造歩留まりの低下を引き起こすため、エッチング終了後には除去することが必要である。該CFデポジットの溶解除去には、前記HFCおよびHFEのうち、炭素数5以上のパーフルオロアルキル基を有するものが有効である。
【0029】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、溶剤(F1)に添加剤を配合してもよい。添加剤としては、従来、洗浄液に配合されているものが利用でき、たとえば界面活性剤、有機酸、無機酸、過酸化物等の酸化剤、金属キレート剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、たとえばソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド、アルキルモノグリセリルエーテル等のノニオン界面活性剤;アルキルジメチルアミンオキシド等の両性界面活性剤;モノアルキル硫酸塩等のアニオン界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤;等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種類以上組み合わせて添加してもよい。
ただし界面活性剤はそれ自身が基板の汚染原因となるため、界面活性剤の配合量は少ないほど好ましく、界面活性剤を含まないことが最も好ましい。
【0030】
洗浄液の調製方法は特に限定されない。
洗浄液として1種の溶剤(F1)を用いる場合は該溶剤(F1)をそのまま洗浄液として使用できる。
洗浄液として2種以上の溶剤(F1)を用いる場合、または溶剤(F1)に他の成分(他の溶剤、添加剤等)を配合して用いる場合、洗浄液は、各成分を均一に混合することにより調製できる。
【0031】
本発明による洗浄対象の基板としては、たとえば半導体基板、フォトマスク用ガラス基板、光ディスク用基板等として用いられている基板が挙げられ、具体的には、シリコン基板、ガラス基板、アルミ基板等が挙げられる。該基板は、表面に異なる材質の層(たとえば酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の酸化物膜、窒化ケイ素、炭化酸化ケイ素等)を有していてもよい。
【0032】
基板の洗浄は、洗浄液として上記溶剤(F1)を用いる以外は、従来、パーティクルの除去のための基板の洗浄に用いられている公知の方法が利用できる。
たとえば基板を洗浄液中に浸漬するだけでもよいが、基板を揺動もしくは回転させながら洗浄すると、より効果的である。さらには、物理力を利用して洗浄しても良い。物理力を利用した洗浄方法としては、たとえば、洗浄またはリンス時に超音波を照射する超音波洗浄、Nなどのガスを使用して洗浄剤またはリンス剤を高速で噴霧する2流体スプレー洗浄、高圧の媒体流中で発生するキャビテーションを利用して洗浄するキャビテーションジェット洗浄、微細な気泡を含む高圧媒体流を利用して洗浄するバブルジェット洗浄、洗浄剤またはリンス剤を噴霧しながら回転するブラシやスポンジを基板に押し当てて洗浄するブラシ洗浄、等が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下に、試験例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
以下の各試験例において、シリカ粒子としては、日本アエロジル株式会社製「AEROSIL OX50」(一次粒子の平均粒子径40nmのSiOナノ粒子)を用いた。
アルミナ粒子としては、微細粉体に破砕したγ−Al粒子(平均粒子径100〜200nm)を用いた。
該平均粒子径は、メーカーカタログ値および大塚電子株式会社製 ゼータ電位・粒径測定システム「ELSZ−2」により測定した値である。
【0034】
<試験例1>
市販のいくつかの溶剤について、電気陰性度、分子容積、および当該溶剤中におけるシリカ粒子またはアルミナ粒子のゼータ電位をそれぞれ以下の手順で測定した。結果は表1に示した。
(電気陰性度)
各溶剤分子の電気陰性度は、計算科学的手法で算出した第1イオン化ポテンシャル(IP)と電子親和力(EA)から算出した。具体的には、PBE1PBE/DGDZVP法により構造最適化した後、その構造に対して、それぞれBMK/D95++**により中性およびプラスイオン、マイナスイオン状態の電子エネルギー計算を実施し、算出された各電子エネルギー(E)から下記式(1)〜(3)により算出した(計算ソフトはGaussian社のGaussian03を使用した)。
IP=E(プラスイオン)−E(中性) …(1)
EA=E(中性)−E(マイナスイオン) …(2)
電気陰性度=(IP+EA)÷2 …(3)
また、シリカ、アルミナそれぞれの分子モデルとして(HO)Si−O−Si(OH)、(HO)Al−O−Al(OH)を用い、上記と同様に電気陰性度を算出した。
【0035】
(分子容積)
各溶剤分子の分子容積は、ケンブリッジ社のChem3Dソフトを用いて、mopac AM1にて構造最適化を行った後に、Connoly solvent excluded volume法を用いて計算した。
【0036】
(シリカ粒子のゼータ電位)
表1に示す溶剤中にシリカ粒子を、超音波洗浄機を用いて分散させた後、ゼータ電位測定セル中に導入しゼータ電位を測定した。
測定は、レーザードップラー方式のゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製「ELSZ−2」)と、同社の標準セルユニットと測定プログラムを使用して、測定温度25℃、印加電圧300Vで行った。ゼータ電位計算は下記式(ヒュッケル式)を用いた。
3回測定したデータの平均値を表1に示した。
下記式中、溶媒の粘度は、ゼータ電位測定温度における粘度である。該粘度および誘電率はそれぞれ公知の値(市販品についてはカタログ値、HFE−458については 、(独)産業技術総合研究所から公開されているフッ素化合物のデータベース(http://riodb.ibase.aist.go.jp/FCD/index_jp.html)に記載の値)を用いた。移動度は前記ゼータ電位測定装置で測定した。
【0037】
【数1】
【0038】
(アルミナ粒子のゼータ電位)
シリカ粒子の代わりにアルミナ粒子を用い、溶剤としてAE−3000、VertrelXFを用いた以外は前記と同様にゼータ電位の測定を行った。その結果、それぞれ−50mV、−15mVという値を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
上記溶剤の入手先はそれぞれ以下のとおりである。
AE−3000:旭硝子社製。
HFE−458:ラボ合成品。CAN140:255296(RU2203881)のAbstractに記載の方法に従って合成した。
HFE−7100:住友3M社製。
HFE−7200:住友3M社製。
VertrelXF:三井デュポン社製。
ゼオローラH:日本ゼオン社製。
ソルカン365:日本ソルベイ社製。
IPA:分析グレード市販試薬。
【0041】
表1に示すとおり、電気陰性度がシリカよりも大きく、かつ分子容積の小さい溶剤中では、シリカ粒子のゼータ電位が負となった。特に、AE−3000、VertrelXF、ソルカン365を用いた場合、シリカ粒子のゼータ電位が−70mV以下の極めて大きい値となっていた。従来の水系の洗浄液の場合、シリカ粒子のゼータ電位は−60mV程度が限界で、上記のような値とすることは困難である。
また、電気陰性度がアルミナよりも大きく、かつ分子容積の小さい溶剤中では、アルミナ粒子のゼータ電位が負となった。またその値も−15〜−50mVと充分に大きいものであった。従来の水系の洗浄液の場合、アルミナ粒子のゼータ電位を上記のような値とするには、pH10以上の強アルカリ性の水溶液を用いるか、または界面活性剤等の添加剤の添加が必要であったが、本発明では、特定の溶剤のみによって、アルミナ粒子のゼータ電位を負にできる。
上記のように、溶剤分子の電気陰性度が大きいほどゼータ電位の絶対値が大きくなるのは、溶剤分子の強い電気陰性度により、該溶剤分子と接触している粒子表面側に電子がひきつけられることに起因していると推測される。また、溶剤分子の分子サイズが小さいほどゼータ電位の絶対値が大きくなるのは、粒子表面に多くの溶剤分子が接触することに起因していると推測される。
【0042】
<試験例2>
シリカ粒子を水中に分散させた薬液中にシリコン基板を浸漬する方法で、シリコン基板を強制汚染させたサンプル基板を作成した。
該サンプル基板を、表2に示す溶剤(25℃)中に浸漬し、発振周波数25KHZで超音波洗浄を10分間実施した。
【0043】
洗浄前後のサンプル基板表面の汚染状態(汚染物(シリカ粒子)の残存状態)を、光学顕微鏡を用いて目視観測し、以下の基準で洗浄効果を評価した。結果を表2に示した。
(基準)
○:汚染物が残存しておらず、充分に洗浄効果が認められる。
△:若干汚染物が残存している。
×:かなり汚染物が残存している。
【0044】
【表2】
【0045】
上記結果に示すとおり、シリカよりも電気陰性度が大きく、分子容積が130Å以下の鎖状のハイドロフルオロエーテルまたはハイドロフルオロカーボン(AE−3000、HFE−458、VertrelXF、ソルカン365)を用いた例2−1、2−2、2−5、2−7は、シリカ粒子の除去効果が高かった。該効果は、溶剤とシリカとの電気陰性度の差が7.0以上である例2−1、2−5、2−7で特に高かった。
【0046】
<試験例3>
試験例2と同様にしてサンプル基板を作成した。
該サンプル基板を、直径1mmの先端穴を持ち、ノズル直前に窒素ガスを吸引するためのイジェクターを設置した2流体ジェットノズルを作成し、窒素ガスを吸引させながら溶剤を高速噴霧して2流体スプレー洗浄を実施した。具体的手順は以下の通りである。サンプル基板を100rpmで回転させつつ、ノズル手前に設置したイジェクターより洗浄室内の窒素ガスを吸引しながら、ノズルより窒素ガスとともに表3に記載の溶剤(25℃)を噴出させた。このときの溶剤の噴出速度は30〜50m/secとした。回転する基板の半径上を5cm/minの速度でノズルを掃引し、半径上を2往復して洗浄を実施した。
サンプル基板全面を洗浄した後に、洗浄前後のサンプル基板表面の汚染状態を試験例2と同様の手順で評価した。結果を表3に示した。
該結果に示すとおり、AE−3000、VertrelXF、ソルカン365を用いた例3−1、3−4、3−6はシリカ粒子の除去効果が高かった。該効果は、AE−3000を用いた例3−6で特に高かった。
【0047】
【表3】
【0048】
<試験例4>
シリカ粒子の代わりにアルミナ粒子を用いた以外は試験例2と同様にしてサンプル基板を作成した。
該サンプル基板について、試験例2と同様にして洗浄および評価を行った。結果を表4に示した。
該結果に示すとおり、AE−3000を用いた例4−1はアルミナ粒子の除去効果が高かった。
【0049】
【表4】
【0050】
上記試験例1〜4ではパーティクルとしてシリカ粒子またはアルミナ粒子を用いたが本発明はこれに限定されることはない。特に表面に酸素原子や窒素原子を含む極性基を有する汚染物や基板に対しても表1と同傾向となる。たとえば、窒化シリコンや金属酸化物がその代表例として挙げられる。金属粒子も表面は自然酸化膜で覆われているため、この範疇に入ることになる。また、一部有機基が入った酸化膜(テトラエトキシシランで熱堆積された膜等)なども同様であることは勿論である。
【0051】
参考例1>
感光性有機膜であるレジスト膜を塗布した半導体シリコン基板を、AE−3000に2,2,2−トリフルオロエタノールを11質量%添加した混合溶剤に浸して、室温下にて基板を揺動させながら洗浄を行った。2,2,2−トリフルオロエタノールによりレジストが溶解されるとともに、基板表面の汚染微粒子を除去することが顕微鏡観察により確認出来た。該汚染微粒子としては、シリコン基板に由来するシリカ含有粒子と、残存するレジスト微粒子が存在し、シリカ含有粒子の除去にはAE−3000が効果を奏し、レジスト粒子の除去には2,2,2−トリフルオロエタノールが効果を奏していると考えられる。
【0052】
<実施例2>
シリコン酸化膜が形成された半導体基板を公知の方法を用いてCFプラズマエッチングによりパタン形成を行い、酸素プラズマにより有機残渣(エッチングにより発生したCFデポジット)を除去した。この後、AE−3000に1H−トリデカフルオロヘキサンを30質量%添加した混合溶剤を用いて、密閉容器内で100℃にて洗浄を行った。洗浄後顕微鏡観察を行った結果、汚染微粒子が無いことを確認した。該汚染微粒子としては、シリコン基板に由来するシリカ含有粒子と、CFプラズマエッチングで発生した有機残渣に由来する有機微粒子が存在し、シリカ含有粒子の除去にはAE−3000が効果を奏し、有機微粒子の除去には1H−トリデカフルオロヘキサンが効果を奏していると考えられる。