【実施例1】
【0016】
まず、本発明の
窒化物半導体装置の製造方法による窒化物半導体装置について、製造工程に従い、説明する。
図1は、本発明の
窒化物半導体装置の製造方法による窒化物半導体装置の断面図である。
図1に示すように、基板1上に、MOCVD(有機金属気相エピタキシャル成長)法もしくはMBE(分子線エピタキシャル成長)法等により、バッファ層2を介して、第一の窒化物半導体からなる電子走行層3と、第二の窒化物半導体からなる電子供給層4が順に積層されている。電子供給層4上には、ソース電極5、ドレイン電極6および浮遊電極8が形成され、ソース電極5とドレイン電極6間の電子供給層4表面と浮遊電極8上に、珪素膜11が形成されている。そして珪素膜11と浮遊電極8上に、絶縁膜9が全面に形成されている。ゲート電極7は、浮遊電極8直上に、絶縁膜9を介して形成されている。
【0017】
基板1は、半導体材料をエピタキシャル成長させるための成長基板として機能し、かつ機械的に支持するための支持基板として機能する。基板1は、一般にサファイア(Al
2O
3)、炭化ケイ素(SiC)あるいはシリコン(Si)が用いられ、格子定数の整合性、熱伝導率、熱膨張係数等を考慮し、基板1上に成長させる窒化物半導体層に応じて選択することができる。本実施例では、後述する窒化物半導体層との格子定数の整合性等を考慮し、サファイアを使用した。
【0018】
バッファ層2は、基板1とその上にエピタキシャル成長される第一の窒化物半導体との緩衝層として用いられる。本実施例では、基板1として用いるサファイアと窒化物半導体との格子不整合が大きいため、バッファ層2として、低温成長のGaNを厚く成長させた。なお、このバッファ層2は窒化物半導体装置の動作に直接的には関係しないので、バッファ層2の半導体材料をAlN、GaN以外の窒化物半導体またはIII−V族化合物半導体に置き換えたり、多層構造のバッファ層にすることもできる。
【0019】
電子走行層3は、厚さ2.5μmのアンドープGaN層で構成する。この電子走行層3は、後述する電子供給層4で用いる窒化物半導体よりも小さいバンドギャップを有する窒化物半導体で構成され、電子供給層4とのヘテロ接合近傍に二次元電子ガス10を生成する。また、アンドープGaN層とすることで、イオン不純物散乱による二次元電子ガス10の移動度低下を防ぐことができる。なお、電子走行層3はGaN以外に、例えば、In
aGa
1-aNで構成することもできる。ここで、aは0≦a<1を満足する数値である。
【0020】
電子供給層4は、厚さ25nmのn型あるいはアンドープのAl
0.35Ga
0.65N層で構成する。また、電子供給層4は、n型あるいはアンドープのAl
xIn
yGa
1-x-yNで構成することもできる。ここで、xは0<x≦1、yは0≦y<1、およびx+yはx+y≦1を満足する数値であり、xの好ましい値は0.1〜0.4である。
【0021】
ソース電極5およびドレイン電極6は、電子供給層4にオーミック接触している。なお、ソース電極5およびドレイン電極6は、
図1に示すように電極を形成する部分の電子供給層4の一部もしくは全部をドライエッチング法などにより除去し、オーミックリセス構造とした後に、電極を形成することもできる。オーミックリセス構造とすることにより、二次元電子ガス10とソース電極5あるいはドレイン電極6との距離が近くなり、コンタクト抵抗の低いオーミック接触を形成することができる。
【0022】
浮遊電極8は、電子供給層4にショットキー接触するような金属材料で構成する。本実施例では、Ti(30nm)およびAl(200nm)を順に積層させ、熱処理せずに使用している。浮遊電極8の長さ(浮遊電極長)L
fは6μmである。
【0023】
珪素膜11は、表面保護層となる。本実施例では、ECRスパッタリング法を用い、5nmの厚さに形成する。ECRスパッタリング法は、圧力などの条件を変えることによって、試料表面に入射される粒子のエネルギーを変えることが可能である。たとえば、0.01Pa台の低圧力で安定な高密度プラズマを維持することが可能で、10〜30eV程度のエネルギーで試料表面に入射される。この程度のエネルギーでは試料表面に与えるダメージは小さく、成膜に適したエネルギーを試料表面に入射する粒子に与えることで、エネルギー制御された高密度の粒子が試料表面に入射した状態で薄膜形成が進行する。その結果、AlGaNからなる電子供給層4表面からの窒素抜けを低減し、反応生成物などによる汚染を発生させず、化学的に安定した高い結合力を有する良質な薄膜を形成することができる。
【0024】
絶縁膜9は、厚さ50nmのSi
3N
4で構成され、ソース電極5、ドレイン電極6間の電子供給層4表面および浮遊電極8上を被覆するように形成される。この絶縁膜9は、Si
3N
4以外の絶縁膜材料、例えばSiO
2、Al
2O
3、HfO
2などを用いることもできる。また、絶縁膜の厚さは、絶縁膜材料固有の誘電率、あるいはターゲットとする周波数帯およびシステムなどによって変更することもできる。例えば、絶縁膜9の厚さを薄くすると、gmおよびC
gsは同じ割合で増加する。一方、f
Tは、gmに比例し、C
gsに反比例する。つまり、絶縁膜9の厚さを変えることで、f
Tを変えないで、任意のgmを得ることが可能となる。
【0025】
ゲート電極7は、浮遊電極8の直上に、絶縁膜9を介して形成される。本実施例のゲート長L
gは2μmである。本実施例におけるゲート長L
gと浮遊電極長L
fとの関係は、L
g<L
fであるが、L
g≧L
fにすることもできる。
【0026】
このような構造として、ゲート電極7に+5V程度の正バイアスを印加すると、浮遊電極8に電子が蓄積し、閉じ込められる。この浮遊電極8への負電荷の蓄積により、ゲート電極7に制御電圧を印加しない状態にしたときに浮遊電極8の電位が上昇し、窒化物半導体装置のチャネルを消失させることができる。つまり、ノーマリオフ動作が可能となる。
【0027】
浮遊電極8に負電荷が蓄積させ、チャネルを消失させる機構について、
図2に示すエネルギーバンド図を用いて説明する。なお、
図2のエネルギーバンド図は、ゲート電極7直下の絶縁膜9、浮遊電極8、電子供給層4および電子走行層3のエネルギーバンド図であり、バッファ層2および基板1は省略している。また、本発明の窒化物半導体装置は多数キャリア(電子)のみを考慮すればよいため価電子帯についても省略して示している。
【0028】
まず、
図2(a)は定常状態におけるエネルギーバンド図である。
図2(a)に示すように、定常状態では、ゲート電極7に電圧が印加されていないため、ゲート電極7および浮遊電極8の電位はフェルミレベルと同じである。この場合、電子走行層3と電子供給層4とのヘテロ接合近傍には、自発分極およびピエゾ分極による大きな分極電荷を生じ、電子走行層の伝導帯がフェルミレベルより下側に位置する。いわゆる二次元電子ガス10である。この二次元電子ガス10は、高い電子移動度を有し、チャネルとなる。つまり、定常状態ではチャネルが形成されてしまい、ノーマリオン(
デプレッション)動作となる。
【0029】
次に、ゲート電極7に+5V程度のバイアス電圧を印加したときのエネルギーバンド図を
図2(b)に示す。
図2(b)に示すように、ゲート電極7に正バイアス電圧を印加すると、ゲート電極7の電位はフェルミレベルより下がり、浮遊電極8の電位もゲート電極7の電位に追随して下がることになる。このとき内蔵電位Vbiが低くなるため、電子供給層4内の電子が、浮遊電極8中に流れ、蓄積する。その後、ゲート電極7に電圧を印加しない定常状態に戻すと、
図2(c)に示すように、浮遊電極8の電位がフェルミレベルより上側に位置し、チャネルとなる二次元電子ガス10を消失する。つまり、ノーマリオフ(
エンハンスメント)動作の本発明の
窒化物半導体装置の製造方法による窒化物半導体装置となる。
【0030】
以上のように形成した本実施例の窒化物半導体装置において、浮遊電極8中への電子の蓄積前および後の伝達特性を
図3に示す。浮遊電極8への電子蓄積により、しきい値電圧V
thを正方向にシフトさせることが可能となる。
【0031】
次に、本発明の
窒化物半導体装置の製造方法による窒化物半導体装置の動作について説明する。本発明の
窒化物半導体装置の製造方法による窒化物半導体装置は、定常状態において浮遊電極8直下に二次元電子ガス10が発生しない。そこで、ゲート電極7に正バイアス電圧を印加すると、ゲート電極7の電位が下がり、浮遊電極8の電位もゲート電極7の電位に追随して下がる。このとき、浮遊電極8直下に二次元電子ガスが発生し、チャネルとして動作する。このように、本発明の
窒化物半導体装置の製造方法による窒化物半導体装置は、ノーマリーオフ動作となり、ゲート電極7に負電圧を印加せず、正電圧のみで、ドレイン電流を制御することが可能となる。また、本発明の窒
窒化物半導体装置の製造方法による化物半導体装置は、珪素膜11を備える構成であるため、ゲートリーク電流を十分に抑制することもできる。
【0032】
さらに本発明の
窒化物半導体装置の製造方法による窒化物半導体装置のDC測定およびパルス測定のドレイン電流−ドレイン電圧特性は、特性変動が少ないことが確認されている。本発明では、珪素膜11を備える構造とすることによって、絶縁膜9と窒化物半導体層との界面状態の不安定さが解消され、電流コラプスを抑制する効果が大きいことが確認された。
【0033】
さらにオン抵抗についても、特性改善されることが確認されている。これは、珪素膜11が、電子供給層4の表面ポテンシャルを下げ、その結果、二次元電子ガス濃度が高くなったためと考えられる。このようにオン抵抗が低減することで、ドレイン電流を大きくできるという効果もある。