(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732385
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】三環性縮合複素環化合物、その製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
C12P 17/04 20060101AFI20150521BHJP
C07D 307/93 20060101ALI20150521BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20150521BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20150521BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
C12P17/04
C07D307/93
A61K31/343
A61K35/74 F
A61P35/00
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-507118(P2011-507118)
(86)(22)【出願日】2010年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2010055111
(87)【国際公開番号】WO2010113725
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2012年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2009-81345(P2009-81345)
(32)【優先日】2009年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11109
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠造
(72)【発明者】
【氏名】岩田 史恵
(72)【発明者】
【氏名】山田 彰一
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 仁良
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晃久
(72)【発明者】
【氏名】川原 裕之
【審査官】
小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−517710(JP,A)
【文献】
特表2003−509508(JP,A)
【文献】
岩田史恵 外,‘遺伝子相同性を鍵とした海洋希少放線菌が産生する新規生体機能分子’,第51回天然有機化合物討論会講演要旨集,2009年 9月 1日,p.515-520
【文献】
SATO S. et al.,'Indoxamycins A-F. Cytotoxic tricycklic polypropionates from a marine-derived actinomycete',J. Org. Chem.,2009年 7月 2日,Vol.74,p.5502-5509
【文献】
BUCHANAN O.G. et al.,'Sporolides A and B: structurally unprecedented halogenated macrolides from the marine actinomycete Salinispora tropica',Org. Lett.,2005年,Vol.7, No.13,p.2731-2734
【文献】
HUGHES C.C. et al.,'The marinopyrroles, antibiotics of an unprecedented structure class from a marine Streptomyces sp',Org. Lett.,2008年,Vol.10, No.4,p.629-631
【文献】
KWON H.C. et al.,'Marinomycins A-D, antitumor-antibiotics of a new structure class from a marine actinomycete of the recently discovered genus "Marinispora"',J. Am. Chem. Soc.,2006年,Vol.128,p.1622-1632
【文献】
SEDAKOVA L.A. et al.,'Antitumor and toxic effects of amotin',Eksperimental'naya Onkologiya,1987年,Vol.9, No.5,p.76-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00− 41/00
CA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)、又は(II)のいずれかで示される化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【化1】
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシル基、あるいは、R
1とR
2又はR
5とR
6が結合した二重結合を表し、R
3、R
4、R
7、R
8は、それぞれ独立にメチル基又はヒドロキシメチル基を表し、R
9は、水素原子またはヒドロキシル基を表す。)
【請求項2】
式(IV)、又は(V)のいずれかで示される請求項1の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【化4】
【化5】
(式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシル基を表し、R
3、R
4、R
7、R
8は、それぞれ独立にメチル基又はヒドロキシメチル基を表し、R
9は、水素原子またはヒドロキシル基を表す。)
【請求項3】
式(IV)で示される化合物であって、R3、R4、R5、R6、R7及びR8がいずれもメチル基である請求項2記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【請求項4】
式(IV)で示される化合物であって、R3がヒドロキシメチル基であり、R4、R5、R6、R7及びR8がいずれもメチル基である請求項2記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【請求項5】
式(IV)で示される化合物であって、R4がヒドロキシメチル基であり、R3、R5、R6、R7及びR8がいずれもメチル基である請求項2記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【請求項6】
式(IV)で示される化合物であって、R5がヒドロキシメチル基であり、R3、R4、R6、R7及びR8がいずれもメチル基である請求項2記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【請求項7】
式(IV)で示される化合物であって、R6がヒドロキシメチル基であり、R3、R4、R5、R7及びR8がいずれもメチル基である請求項2記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【請求項8】
式(V)で示される化合物であって、R9がヒドロキシル基であり、R3、R5、R6、R7及びR8がいずれもメチル基である請求項2記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【請求項9】
請求項3又は8に記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項10】
抗腫瘍剤である請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1ないし8いずれか1項記載の化合物を生産する能力を有するストレプトミセス属に属する微生物を培養し、その培養物から請求項1ないし8いずれか1項記載の化合物を単離することを特徴とする、請求項1ないし8いずれか1項記載の化合物の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし8いずれか1項記載の化合物を生産する能力を有する微生物がストレプトミセスNPS643株(Streptomyces sp. NPS643)、又はその変異株である請求項11の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし8いずれか1項記載の化合物、その光学異性体又はそれらの製薬学的に許容される塩を出発原料として誘導することを特徴とする式(VII)で表される化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩の製造方法。
【化7】
(式中、
R
1、R
4、R
7、R
10、R
11及びR
13はそれぞれ独立に、-CH
2OH、-CH
2O-低級アルキル、-CH
2NH
2、-CH
2NH-低級アルキル、-CH
2N(低級アルキル)
2、-CH
2-ハロゲン、-COOH、-CO
2-アルキル、-CONH
2及び-COHから選ばれる任意のものであり、
R
2及びR
3は、(以下ハロゲンをXと略称する)(X,X)、(H,X)、(H,OH)、(OH,H)、(H,NH
2)の組み合わせ(カッコ内の置換基の順序は問わない)、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
R
5及びR
6、R
8及びR
9、R
12及びR
14は、それぞれ独立に(X,X)、(H,X)、(H,OH)、(OH,X)、(H,NH
2)の組み合わせ(カッコ内の置換基の順序は問わない)、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
a〜fで示される結合はそれぞれ独立に単結合または二重結合である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な三環性縮合複素環化合物、その製造方法および用途に関する。本発明の三環性縮合複素環化合物は癌細胞の増殖阻害活性を有し、医薬特に抗腫瘍活剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
これまでの精力的研究により、多くの抗腫瘍活性を有する化合物が実用化されている。一方、現在臨床で使用されている抗癌剤は癌の一時的な退縮、消失が見られるものの正常な細胞に対しても非選択的な毒性を併せ持つことから重篤な副作用を引き起こし、使用が制限されている。また、抗癌剤が無効な自然耐性癌の他にも、再発症を中心として見られる抗癌剤に対する耐性の獲得も臨床上の問題となっている。このような状況下、新たな抗腫瘍剤の創製が今なお切望されている。
放線菌は抗生物質を生産する菌が多いことで知られており、放線菌由来の新規化合物探索は広く行われてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、天然物由来の新規物質を見出し、抗腫瘍活性を有する新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはストレプトミセス属に属する放線菌の培養液より新規化合物の探索を行っていたところ、新規骨格を有する化合物を見出した。さらにそれら化合物の活性を探索したところ、腫瘍細胞に対して細胞増殖阻害活性を有することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記(1)〜(14)に関する。
【0005】
(1) 式(I)、(II)、又は(III)のいずれかで示される化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【化1】
【化2】
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシル基、あるいは、R
1とR
2又はR
5とR
6が結合した二重結合を表し、R
3、R
4、R
7、R
8は、それぞれ独立にメチル基又はヒドロキシメチル基を表し、R
9は、水素原子またはヒドロキシル基を表す。)
【0006】
(2) 式(IV)、(V)、又は(VI)のいずれかで示される(1)の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【化4】
【化5】
【化6】
(式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシル基を表し、R
3、R
4、R
7、R
8は、それぞれ独立にメチル基又はヒドロキシメチル基を表し、R
9は、水素原子またはヒドロキシル基を表す。)
【0007】
(3) 式(IV)で示される化合物であって、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7及びR
8がいずれもメチル基である(2)記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
(4) 式(IV)で示される化合物であって、R
3がヒドロキシメチル基であり、R
4、R
5、R
6、R
7及びR
8がいずれもメチル基である(2)記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
(5) 式(IV)で示される化合物であって、R
4がヒドロキシメチル基であり、R
3、R
5、R
6、R
7及びR
8がいずれもメチル基である(2)記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
(6) 式(IV)で示される化合物であって、R
5がヒドロキシメチル基であり、R
3、R
4、R
6、R
7及びR
8がいずれもメチル基である(2)記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
(7) 式(IV)で示される化合物であって、R
6がヒドロキシメチル基であり、R
3、R
4、R
5、R
7及びR
8がいずれもメチル基である(2)記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
(8) 式(V)で示される化合物であって、R
9がヒドロキシル基であり、R
3、R
5、R
6、R
7及びR
8がいずれもメチル基である(2)記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩。
【0008】
(9)(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物。
(10)抗腫瘍剤である(9)記載の医薬組成物。
【0009】
(11)(1)ないし(8)いずれか1項記載の化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、その培養物から(1)ないし(8)いずれか1項記載の化合物を単離することを特徴とする、(1)ないし(8)いずれか1項記載の化合物の製造方法。
(12)(1)ないし(8)いずれか1項記載の化合物を生産する能力を有する微生物がストレプトミセス属に属する微生物である(11)の製造方法。
(13)(1)ないし(8)いずれか1項記載の化合物を生産する能力を有する微生物がストレプトミセスNPS643株(Streptomyces sp.NPS643)、又はその変異株である(11)の製造方法。
【0010】
(14)(1)ないし(8)いずれか1項記載の化合物、その光学異性体又はそれらの製薬学的に許容される塩を出発原料として誘導することを特徴とする式(VII)で表される化合物、その光学異性体またはそれらの薬剤学的に許容される塩の製造方法。
【化7】
(式中、
R
1、R
4、R
7、R
10、R
11及びR
13はそれぞれ独立に、-CH
2OH、-CH
2O-低級アルキル、-CH
2NH
2、-CH
2NH-低級アルキル、-CH
2N(低級アルキル)
2、-CH
2-ハロゲン、-COOH、-CO
2-アルキル、-CONH
2及び-COHから選ばれる任意のものであり、
R
2及びR
3は、(以下ハロゲンをXと略称する)(X,X)、(H,X)、(H,OH)、(OH,H)、(H,NH
2)の組み合わせ(カッコ内の置換基の順序は問わない)、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
R
5及びR
6、R
8及びR
9、R
12及びR
14は、それぞれ独立に(X,X)、(H,X)、(H,OH)、(OH,X)、(H,NH
2)の組み合わせ(カッコ内の置換基の順序は問わない)、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
a〜fで示される結合はそれぞれ独立に単結合または二重結合である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は新規な骨格を有する化合物であり、癌細胞に対する増殖阻害活性を有することから、新規な抗癌剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願明細書中で用いられる用語「ハロゲン基」とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかの基を意味する。
本願明細書中で用いられる用語「低級アルキル基」とは、例えば、直鎖状もしくは分枝状のC1−6アルキル基を意味する。C1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル又はn−ヘキシルなどが用いられる。
本発明化合物の塩としては、とりわけ医薬上あるいは生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩、あるいはアルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、ピリジン、トリエチルアミン)との塩などが用いられる。
【0013】
本発明化合物の製造方法を以下に述べる。
本発明化合物はストレプトミセス属に属する当該物質の生産菌を培養し、その培養液より定法によって抽出、精製することにより得ることができる。ストレプトミセス属に属する当該物質生産菌としては、例えばストレプトミセスNPS643株(Streptomyces sp.NPS643)を挙げることができる。
【0014】
ストレプトミセスNPS643株は新たに海洋より分離された菌株であり、細胞壁のアミノ酸組成の分析を内田(微生物の化学分類実験法p5-45、学会出版センター、1982年)及び鈴木(放線菌の分離と同定p50-55、日本学会事務センター、2001年)の手法に準じ行った結果、グルタミン酸、グリシン、アラニン、LL-ジアミノピメリン酸が検出され細胞壁のタイプはI型と推測された。菌体の主要メナキノンはNishijimaら(J. Microbiol.Methods、28、p113-122、1997年)の方法に従い抽出し、山田ら(微生物の化学分類実験法p143-155、学会出版センター、1982年)の方法にてキノン分子種の帰属を調べた結果、MK-9(H4)と MK-9(H6)であった。NPS643株の16SrDNA配列1386bpをblast検索にて相同性検索した結果、最近縁種はStreptomyces cacaoi subsp. cacaoi NBRC12748(96.0%)、Streptomyces albus subsp.albus DSM40313(95.7%)、Streptomyces gibsonii NBRC15415(95.6%)、Streptomyces rangoonensis NBRC13078(95.6%)、Streptomyces violaceoruber KCTC9787(95.6%)であった。また系統樹解析よりNPS643株は既知株とのクラスターを形成しなかった。
以上のことからNPS643株はStreptomyces属と判断され、Streptomyces sp. NPS643と命名した。なお本菌株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに
受託番号FERM BP-11109として
ブタペスト条約に基づく国際寄託されている(原寄託日2008年6月4日)。
【0015】
NPS643物質生産菌の培養法
放線菌に属するNPS643物質生産菌を通常の微生物が利用しうる栄養物を含有する培地で培養する。栄養源としては、従来放線菌の培養に利用されている公知のものが使用できる。例えば、炭素源としては、グルコース、水飴、デキストリン、澱粉、糖蜜、動・植物油等を使用しうる。また、窒素源としては、大豆粉、小麦胚芽、コーン・スティープ・リカー、綿実粕、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等を使用しうる。その他必要に応じ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸およびその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することは有効である。また、菌の発育を助け、NPS643物質の生産を促進するような有機および無機物を適当に添加することができる。培養法としては、好気的条件での培養法が適している。培養に適当な温度は25〜30℃であるが、多くの場合28℃付近で培養する。NPS643物質の生産は培地や培養条件により異なるが、振盪培養、タンク培養のいずれにおいても通常2〜10日間でその蓄積が最高に達する。培養中のNPS643物質の蓄積量が最高になった時に培養を停止し、培養液から目的物質を単離精製する。
【0016】
NPS643株は、他の放線菌に見られるようにその性状が変化し易い。例えば、NPS643株に由来する突然変異株(自然発生または誘発性)、形質接合体または遺伝子組換え体であっても、NPS643物質を生産するものは全て本発明に使用できる。
NPS643株以外のストレプトミセスの微生物でも本発明化合物を生産する微生物であれば本発明化合物の生産菌として使用できる。微生物の培養液を確認することにより容易に本発明化合物を生産する微生物であるかどうか区別することができる。ストレプトミセス属以外の微生物についても同様である。
ストレプトマイセス属に属し、本発明化合物を生産する能力を有する放線菌は、他の放線菌の場合と同様に、たとえば紫外線、エックス線、放射線などの照射、単胞子分離、種々の変異処理あるいはその他の手段で変異させることができ、このような変異株あるいは自然に得られる突然変異株であっても、上記した菌株と分類学的性状との比較において実質的に別種というには足りず、しかも本発明化合物を生産する能力を有するものは、すべて本発明の方法に利用し得る。
【0017】
放線菌培養液から本発明化合物を単離するには、放線菌代謝産物の抽出、精製の手段が利用できる。例えば、有機溶媒分画、シリカゲルやODSを用いたカラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて、あるいは反復して使用することで精製できる。
【0018】
上記微生物培養物から単離した本発明化合物を原料としてさらに、官能基に対して化学修飾することにより本発明化合物を中間体とする誘導体を合成することができる。本発明化合物にはカルボン酸、二重結合、ヒドロキシル基などの反応しやすい官能基が存在するのでそれらの化学修飾を容易に行うことができる。
誘導体化の手法としては、自体公知の方法、例えば、実験化学講座第5版13(日本化学会編)355−356頁、420−422頁のジハロゲン化反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第5版13(日本化学会編)428−430頁のハロゲン化水素の付加反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第4版20(日本化学会編)75−76頁のBrownヒドロホウ素化反応あるいはそれに準ずる反応、Comprehensive Organic Synthesis,(1991年),4巻,300-305頁のヒドロキシ水銀化−脱水銀化反応あるいはそれに準ずる反応、Journal of Organic Chemistry,(2005年),70巻,6721−6734頁のハロゲン化ヒドリンを経由するヒドロキシル化反応あるいはそれに準ずる反応、Journal of American Chemical Society,(1964年),86巻,3565−3566頁のBrownヒドロホウ素化アミノ化反応、実験化学講座第4版20(日本化学会編)213−214頁のエポキシドの合成反応あるいはそれに準ずる反応などが挙げられる。
【0019】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
<培養>
Humic Acid-Vitamin agar(J. Ferment. Technol., 65, 501-509 (1987).)に1.8%の人工海水を加えた培地にてよく生育したストレプトミセスNPS643株(Streptomyces sp. NPS643)1白金耳を3%soytoneと1.8%人工海水含む液体培地に接種し、28℃、200rpmの条件で5日間振とう培養した。そのうち1mlを500ml容量三角フラスコに100mlの液体培地(2.5%グルコース、1.5%soytone、0.2%酵母エキス、0.4%炭酸カルシウム、1.8%人工海水、pH7.2)に植菌して200rpmの条件で6日間培養を行った。
【0021】
<抽出>
上記培養により得られた培養液5Lを遠心分離により上清と菌体に分離した。上清は酢酸エチル500 mL、ブタノール500 mLにより抽出した。菌体はメタノール、エタノール混合溶液により抽出した後、濾過した。減圧濃縮により溶媒を留去し、濃縮物を得た後、濃縮物は水200 mLに溶解させ、酢酸エチル200 mL、ブタノール200mLで抽出した。有機層は前記上清の有機層と合わせた後濃縮し、9.75 gの残渣を得た。この残渣をODS(富士シリシア化学株式会社 DM1020T)を直径7 cmのクロマトグラム管に9 cm充填したカラムに付し、水/メタノール=3/1, 1/1, 1/3, 0/1の混合溶媒を用いて各400 mL溶出した。そのうち水/メタノール=1/3画分を濃縮して401.2 mgの残渣を得た。この残渣をシリカゲル(関東化学 シリカゲル 60N 球状、中性 40-50 mm)を直径5 cmのクロマトグラム管に14 cm充填したカラムに付し、クロロホルム/メタノール=1/0, 19/1, 9/1, 3/1, 1/1, 0/1の混合溶媒を用いて展開した。そのうちクロロホルム/メタノール=9/1-3/1画分を濃縮して150.2 mgの残渣を得た。この残渣をTLC(Merck silicagel 60F
254 20×10 cm)4枚に付し、ヘキサン/ジエチルエーテル=1/2の混合溶媒を用いて展開した。UV吸収を指標に分離を行い、化合物1〜6をそれぞれ109.0mg, 0.5mg, 0.5mg, 1.0mg, 0.5mg, 2.0mg単離した。
【0022】
<化合物の同定>
単離した化合物1〜6の物理的性状は下記の通りであった。またNMRスペクトルの結果を表1(
1H NMRスペクトル(400 MHz, CD
3OD))、表2(
13C NMRスペクトル(100 MHz, CD
3OD))に示す。これらの情報から化合物1〜6の構造を以下のとおり決定した。
【0023】
化合物1
(1)色及び性状:無色オイル状
(2)分子式:C
22H
30O
3
(3)高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 343.2270(C
22H
30O
3+H
+)
理論値 m/z 343.2275
(4)赤外吸収スペクトルλ
max(KBr)cm
-1:3431,
2964, 2925, 2860, 1701, 1655, 1648, 1638, 1560, 1543, 1113
(5)構造式
【0024】
【化8】
【0025】
化合物2
(1)色及び性状:無色オイル状
(2)分子式:C
22H
30O
4
(3)高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 359.2227(C
22H
30O
4+H
+)
理論値 m/z 359.2224
(4)赤外吸収スペクトルλ
max(KBr)cm
-1:3422, 2967, 2929, 2870,
1645, 1559, 1454, 1398, 1060
(5)構造式
【0026】
【化9】
【0027】
化合物3
(1)色及び性状:無色オイル状
(2)分子式:C
22H
30O
4
(3)高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 359.2224(C
22H
30O
4+H
+)
理論値 m/z 359.2224
(4)赤外吸収スペクトルλ
max(KBr)cm
-1:3421, 2968, 2923, 2869,
1637, 1560, 1458, 1394, 1314, 1087
(5)構造式
【0028】
【化10】
【0029】
化合物4
(1)色及び性状:無色オイル状
(2)分子式:C
22H
30O
4
(3)高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 359.2224(C
22H
30O
4+H
+)
理論値 m/z 359.2224
(4)赤外吸収スペクトルλ
max(KBr)cm
-1:3410, 2968, 2930, 2878,
1647, 1559, 1448, 1394, 1314, 1217, 1085
(5)構造式
【0030】
【化11】
【0031】
化合物5
(1)色及び性状:無色オイル状
(2)分子式:C
22H
30O
4
(3)高分解能質量分析(Waters LTC-Premier
XE)
実測値 m/z 351.2084(C
22H
29O
3+)
理論値 m/z 351.2038
(4)赤外吸収スペクトルλ
max(KBr)cm
-1: 3420, 2965,
2929, 2869, 1637, 1569, 1457, 1396, 1314, 1191, 1097, 1042.
(5)構造式
【0032】
【化12】
【0033】
化合物6
(1)色及び性状:無色オイル状
(2)分子式:C
22H
30O
4
(3)高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 359.2223(C
22H
30O
4+H
+)
理論値 m/z 359.2224
(4)赤外吸収スペクトルλ
max(KBr)cm
-1:3420, 2970, 2926, 2870,
1647, 1559, 1448, 1397, 1314, 1251, 1086, 1033
(5)構造式
【0034】
【化13】
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
<薬理活性>
化合物1について4種類の癌細胞を用いて細胞増殖阻害活性を評価した。癌細胞はヒト癌細胞(HT-29、A431、NCI-H460、H-937)を用いた。化合物1はDMSOに溶解した。癌細胞懸濁液を96穴マイクロプレートに100 mlずつ幡種した(1.0-3.0 x 10
3 cells/well)。24時間後に培養液100 mlに各化合物1〜6の溶液を最終濃度が3, 1, 0.3, 0.1, 0.03 mMとなるように各々2 mlを添加し、72時間培養した。その後Almar Blue試薬を20 mlずつ添加し、6時間培養した。増殖阻害活性の測定はマルチマイクロプレートリーダー(GENios plus microplate reader, Tecan)を用いて蛍光波長590 nm、励起波長530 nmで蛍光強度を求め、非線形回帰分析よりそれぞれの細胞に対するIC
50値を算出した。化合物1の細胞増殖阻害活性IC
50値を下記に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
化合物6について癌細胞(HT-29)を用いて細胞増殖阻害活性を評価した。方法は前記化合物1について評価した方法と同様である。化合物6の細胞増殖阻害活性IC
50値は0.31μMであった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の化合物は抗腫瘍活性を有する。新規抗腫瘍剤を提供することができる。