(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族縮環系の構造を有する電荷輸送性分子ユニットAと、側鎖としてユニットBを有し、−20〜200℃においてN相、SmA相及びSmC相以外の相を示す液晶化合物により形成される膜であって、
前記膜は、2つの電荷輸送性分子ユニットAが向かい合わせに一対になって、一つの層を形成した2分子膜状の構造を有していることを特徴とする有機薄膜。
前記液晶化合物が更に、電荷輸送性分子ユニットAと単結合で連結された、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4の低級アルキル基、又は環状構造ユニットCを有する請求項1に記載の有機薄膜。
前記「N相、SmA相及びSmC相以外の相」が、SmB、SmBcrystal、SmI、SmF、SmG、SmE、SmJ、SmK、およびSmHからなる群から選ばれる液晶相である請求項1又は2に記載の有機薄膜。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0027】
即ち、本発明は、以下の項目から構成される。
(I)芳香族縮環系の構造を有する電荷輸送性分子ユニットAと、側鎖としてユニットBを有する化合物により形成される膜であって、該化合物がバイレイヤー構造を有して形成されることを特徴とする有機薄膜。
(II)前記化合物が更に、電荷輸送性分子ユニットAと単結合で連結された、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4の低級アルキル基、又は環状構造ユニットCを有する(I)に記載の有機薄膜。
(III)芳香族縮環系の構造を有する電荷輸送性分子ユニットAと、側鎖としてユニットBを有する化合物が液晶化合物である請求項1又は2に記載の有機薄膜。
(IV)(I)〜(III)のいずれかに記載の化合物が、N相、SmA相及びSmC相以外の相を示す(I)〜(III)のいずれかに記載の有機薄膜。
(V)前記「N相、SmA相及びSmC相以外の相」が、SmB、SmBcrystal、SmI、SmF、SmG、SmE、SmJ、SmK、およびSmHからなる群から選ばれる液晶相である(I)〜(IV)のいずれか一つに記載の有機薄膜。
(VI)前記電荷輸送性分子ユニットAの縮環の数(NA)が3以上5以下である(I)〜(V)のいずれか一つに記載の有機薄膜。
(VII)前記電荷輸送性分子ユニットAのそれぞれの縮環を構成する個々の環が、炭素数5〜6の環である(I)〜(VI)のいずれか一つに記載の有機薄膜。
(VIII)前記環状構造ユニットCを構成する環の数(NC)と、電荷輸送性分子ユニットAの縮環数の数(NA)が下記の関係を満たす(II)〜(VII)のいずれか一つに記載の有機薄膜。
NA≧NC
(IX)前記電荷輸送性分子ユニットAが一般式(1)で表される(I)〜(VIII)のいずれか一つに記載の有機薄膜。
【0029】
(X)前記側鎖ユニットBが、置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキルオキシ基、炭素数2〜20のアルキルチオ基、若しくは一般式(2)
【0031】
(式中、Xは、S、O、NHを表し、mは0〜17の整数、nは2以上の整数である。)
で表される基である(I)〜(IX)のいずれか一つに記載の有機薄膜。
(XI)前記環状構造ユニットCが、無置換、或いは、ハロゲン又は炭素数1〜4の低級アルキル基を置換基として持つ芳香族炭化水素基、又は、無置換、或いは、ハロゲン又は炭素数1〜4の低級アルキル基を置換基として持つ複素芳香族基で表される基であるか、又は、下記(3)又は(4)の何れかである(II)〜(X)のいずれか一つに記載の有機薄膜。
【0034】
(Ar
1は無置換、或いは、ハロゲン又は炭素数1〜4の低級アルキル基を置換基として持つ芳香族炭化水素基、又は、無置換、或いは、ハロゲン又は炭素数1〜4の低級アルキル基を置換基として持つ複素芳香族基、Ar
2は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、R’は無置換、或いは、ハロゲン又は炭素数1〜4の低級アルキル基を置換基として持つ芳香族炭化水素基、又は、無置換、或いは、ハロゲン又は炭素数1〜4の低級アルキル基を置換基として持つ複素芳香族基である。)
(XII)(I)〜(XI)の何れかに記載の有機薄膜の製造方法において、
該有機薄膜をアニール化する工程を含むことを特徴とする有機薄膜の製造方法。
(XIII)(I)〜(XI)のいずれか一つに記載の有機薄膜を用いてなる有機半導体デバイス。
(XIV)(I)〜(XI)のいずれか一つに記載の有機薄膜を有機半導体層として用いる有機トランジスタ。
(XV)(XII)の有機薄膜の製造方法により得られる有機薄膜を用いてなる有機半導体デバイス。
(XVI)(XII)の有機薄膜の製造方法により得られる有機薄膜を有機半導体層として用いる有機トランジスタ。
【0035】
(バイレイヤー構造)
本発明の有機薄膜がとるバイレイヤー構造について記載する。
本発明のバイレイヤー構造とは、2つの電荷輸送性分子ユニットAが向かい合わせに一対になって、一つの層を形成した2分子膜状の構造をいう。2つの電荷輸送性ユニットAが対になることで、相対的にπ電子雲が拡がり、移動度が高くなる。更に、液晶物質の自己組織化能により、このバイレイヤー構造が連続的に成長した結晶になることで、電荷移動の欠陥の少ない、即ち、高い性能安定性の有機薄膜を得ることができる。
【0036】
本発明のバイレイヤー構造は、放射光X線散乱測定により確認することができる。ここで、述べる放射光X線散乱測定とは、小角X線散乱と広角X線散乱を含んでいる。
【0037】
まず、小角X線散乱(small angle X-ray scattering)とは、X線を物質に照射して散乱するX線のうち、散乱角が小さいものを測定することにより物質の構造情報を得る手法であり、内部構造の大きさや形状、規則性、分散性を評価するものである。散乱角の小さいところほど対応する構造の大きさは大きいことを示す。
【0038】
また、広角X線散乱(wide angle X-ray scattering)とは、X線を物質に照射して散乱するX線のうち、散乱角が大きいものを測定することにより物質の構造情報を得る手法であり、小角X線散乱よりも小さな構造情報が得られる。結晶構造解析などに用いられる他に、試料の配向度の情報も得られる。
【0039】
小角X線散乱測定および広角X線散乱測定は市販の汎用X線装置でも測定可能であるが、有機トランジスタに使用されるような、小面積で、100nm以下の有機薄膜の測定には、大型放射光施設SPring−8(スプリングエイト)等の大型放射光施設により、放射光X線による小角X線散乱測定および広角X線散乱測定を行なうことが好ましい。
【0040】
SPring-8とは、兵庫県の播磨科学公園都市内にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設のことであり、放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことである。
【0041】
小角X線散乱測定および広角X線散乱測定ではX線の強度が強いほど短時間での測定が可能となるが、SPring-8で利用可能な放射光X線は市販の汎用X線装置によるX線の1億倍以上の輝度を持つので、極小面積、極薄膜の測定でも十分な強度が得られる。
放射光X線散乱の測定の一例を以下に示す。
【0042】
高輝度放射光実験施設SPring−8内のフロンティアソフトマター開発産学連合体が所有するビームラインBL03XU 第1ハッチを使用して、測定モードがすれすれ入射小角/広角エックス線散乱法(Grazing Incident Small Angle Scattering/Wide Angle Scattering:GISAXS/WAXS)にて、カメラ長140mm、2300mm、波長0.1nm、エックス線入射角0.08°または0.16°、露光時間1〜5秒、測定温度25℃、散乱角範囲2θ=0.1〜20°の条件などで、本発明の有機薄膜を測定した。
【0043】
得られた2次元エックス線散乱像を以下の方法で解析することで薄膜の構造を求めた。測定時のエックス線入射角から2次元散乱像における反射エックス線ビーム中心位置を決めて、その反射ビーム中心からみて水平方向の直線上の散乱・回折強度Iをとり、反射ビーム中心からの散乱角2θに対する散乱強度Iとして1次元化した散乱プロファイルHを得た。同様に、反射ビーム中心からみて垂直上方向の直線上の散乱・回折強度Iをとり、反射ビーム中心からの散乱角2θに対する散乱強度Iとして1次元化した散乱プロファイルVを得た。それぞれ散乱プロファイルH,Vに現れたもっとも強度の強いピークに着目し、ピーク位置の散乱角2θの値から2dsin(2θ/2)=λの式を用いて周期長d[nm]を算出した。ここでλ[nm]はエックス線波長0.1nmである。
【0044】
その結果、散乱プロファイルHからは、当該分子の配列構造の中で分子鎖とほぼ直交する方位の周期構造(面間隔)に由来する約4Åの周期長等が算出され、散乱プロファイルVからは化合物の分子長さに由来する約30Åの周期長が算出された。GISAXS/WAXSの測定原理から、散乱プロファイルHからは薄膜の面内の周期構造の情報が得られ、散乱プロファイルVからは薄膜の積層状態の周期構造の情報が得られる。高次スメクチック相に特徴的な回折プロファイル、および該液晶相の構造的特徴から、この有機薄膜は基板に対して化合物分子が垂直に立っており、分子長さに相当する約30Åごとに積層したバイレイヤー構造を形成していることが確認できた。
【0045】
本発明では、芳香族縮環系の構造を有する電荷輸送性分子ユニットAと、側鎖としてユニットBを有する化合物が液晶化合物を示す場合、より、好ましく用いることができる。その理由は、液晶物質、中でも、スメクチック液晶物質は自己組織的に層状構造を有する凝集相(スメクチック液晶相)を形成するため、結晶相を形成するための前駆体として利用することにより、表面平滑性にすぐれ。大きな面積にわたり均一な結晶膜を、容易に得ることができるからである。また、液晶相を持つことから、液晶相温度での熱処理を行なうことができるという点でも、非液晶物質に比べて有利である。スメクチック液晶物質の中でも、中でも以下に説明する液晶相を示す液晶化合物が特に好ましい。
【0046】
(所定の液晶相)
本発明において、上記の「N相、SmA相およびSmC相以外の液晶相」は、SmB,SmBcryst、SmI、SmF、SmE、SmJ、SmG、SmK、およびSmHからなる群から選ばれる液晶相であることが好ましい。この理由は、本発明に関わる液晶物質を液晶相で有機半導体して用いる場合、既に述べたように、これらの液晶相は流動性が小さいためイオン伝導を誘起しにくく、また、分子配向秩序が高いため液晶相において高い移動度が期待できるからである。また、本発明に関わる液晶物物質を結晶相で有機半導体として用いる場合には、これらの液晶相は、N相、SmA相およびSmC相に比べて流動性が小さいため、温度の上昇により液晶相に転移した場合にも素子の破壊が起こりにくいためである。液晶相の発現が降温過程においてのみみられる場合は、一旦結晶化すると、結晶温度領域が広がるため、結晶相で応用する場合に好都合である。本発明では、降温過程において、「N相、SmA相及びSmC相以外の相」が、SmBcryst、SmE、SmF、SmI、SmJ、SmG、SmK、又はSmHであることを特徴とする。
【0047】
更に、この「SmA相およびSmC相以外の液晶相」のうち、より高次のSm相であるSmE、SmGが、前記有機半導体材料を結晶相から昇温させた際に、液晶相に隣接した温度領域で現れる液晶相として特に好ましい。また、液体性の強い低次の液晶相(N相、SmA相やSmC相)に加えてそれ以外の高次の液晶相が出現する液晶物質では、低次の液晶相では液体性が強いため、分子配向の制御が高次の液晶相に比べて容易であるので、低次の液晶相で分子をあらかじめ配向させておき、高次の液晶相へ転移させることにより、分子配向の揺らぎや配向欠陥の少ない液晶薄膜を得ることができるので、液晶薄膜や結晶薄膜の高品質化が実現できる。
【0048】
液晶物質を有機半導体として用いる場合、それを用いたデバイスに求められる動作温度は通常−20℃〜80℃であるので、本願発明では、「N相、SmA相及びSmC相以外の相」が出現する温度領域が−20℃以上であることが求められる。また、本発明に関わる液晶物質を結晶相において有機半導体として用いる場合、液晶状態の薄膜(液晶薄膜)を結晶薄膜の作製の前駆体として利用することがその高品質化に有効である。このため、プロセスの簡便さや基材の選択の容易さを考慮すると、液晶物質の液晶相が出現する温度は200℃以下が望ましい。
【0049】
(有機半導体材料)
本発明に使用できる有機半導体材料は、芳香族縮環系の構造を有する電荷輸送性分子ユニットAと、側鎖としてユニットBを有する有機半導体材料であり、好ましくは更に、ユニットAと単結合で連結された、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4の低級アルキル基、又は環状構造ユニットCを有する有機半導体材料である。
【0050】
(好適な電荷輸送性分子ユニットA)
有機半導体においては電荷輸送にあずかる分子部位は芳香環などからなる共役したπ電子系ユニットで、一般には共役したπ電子系のサイズが大きいほど電荷輸送には有利であるが、π電子系のサイズが大きくなると、有機溶媒に対する溶解度が低下し、また、高融点となるため、合成時、あるいは、有機半導体として利用する際のプロセスが難しくなるという問題がある。このため、電荷輸送性分子ユニットの縮環数は3以上5以下であることが好ましい。電荷輸送性分子ユニットAは、ヘテロ環を含んでもよい。該縮環を構成する個々の環の炭素数は、合成の利便性から5〜6個(すなわち、5員環〜6員環)であることが好ましい。
電荷輸送性分子ユニットAを構成するヘテロ環も、5員環〜6員環であることが好ましい。ヘテロ環の数は、特に制限されないが、以下のような数であることが好ましい。
【0051】
<ユニットAの環数> <ヘテロ環の数>
3個 1個
4個 1〜2個
5個 1〜3個(特に1〜2個)
高次の液晶相の発現を目指す観点からユニットAを構成する化合物を選択する場合、その融点を目安とすることができる。融点はその化合物の凝集エネルギーの目安を与えるからである。融点が高い化合物は凝集時の分子間の相互作用が強いことを意味し、結晶化しやすいことにも対応し、高次の液晶相の発現を誘起するのに都合がよい。したがって、ユニットAを構成する化合物(ユニットB及びユニットCとの結合がないとした場合に構成される化合物)の融点は、120℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上であり、更に好ましくは180℃以上、特に、好ましくは200℃以上である。融点が、120℃以下であると、低次の液晶相の発現が起こりやすく、好ましくない。
【0052】
上記ユニットAを構成する化合物について、以下に実例で具体的に説明する。
対象とする化合物が下記式(5)である場合、ここで問題とするユニットAを構成する化合物は、ユニットCとの単結合を排除し、当該単結合していた、以下のユニットAの位置に水素原子が置換された、下記式(1)の化合物となる。
【0055】
即ち、本例では、ユニットAを構成する化合物はベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンであり、該ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンの融点が、ユニットAを構成する化合物の融点となる。
【0056】
本例の場合には、単結合がユニットAとユニットBとの間で存在していたが、ユニットCとの間で単結合が形成されている場合も同様にして、ユニットAを構成する化合物の融点を規定することが可能である。
また、ユニットAの繰り返し数は1であっても良いし、2であってもよい。
【0057】
(好適な環状構造ユニットC)
本発明において、ユニットCは、フリップーフロップ運動の自由度を与えるための、「もう一つの構造」部である。ユニットCは、単結合で電荷輸送性ユニットAと連結された芳香族縮環、または、脂環式分子構造であることが好ましい。環数は1以上5以下(更には、3以下、特に1〜2)であることが好ましい。
ユニットCの環数は、特に制限されないが、ユニットAを構成する環の数を「NA」とし、ユニットCを構成する環の数を「NC」とした場合に、NA≧NCであることが好ましい。より具体的には、以下のような数であることが好ましい。
【0058】
<ユニットAの環数> <ユニットCの環数>
3個 1〜3個、更には1〜2個(特に、1個)
4個 1〜4個、更には1〜3個(特に、1〜2個)
5個 1〜5個、更には1〜4個(特に、1〜3個)
【0059】
ユニットCは、ヘテロ環を含んでもよい。該ヘテロ環は、5員環〜6員環であることが好ましい。
【0060】
また、ユニットCは、下記に具体例を挙げるような芳香族化合物、芳香族縮環化合物、あるいは、シクロアルカン、シクロアルケン、ヘテロ原子を含む脂環式飽和化合物等が好ましい。シクロアルケンである場合には、シクロヘキセンより、平面性がより高いと考えられるシクロペンテンの方が好ましい。本発明において、上記のユニットAとユニットCとは直接単結合で連結する必要がある。
【0061】
(ユニットB)
ユニットBは、例えば、上記のユニットA又はユニットCに連結することができる。結晶薄膜として用いる場合の結晶温度領域を広げるという点からは、上記のユニットAまたはユニットCの「いずれか一方」に連結していることが好ましい。好ましいユニットBとしては、炭化水素、或いはヘテロ原子を有する飽和化合物等の直線状構造を有する化合物が好ましく、特に好ましくは、炭素数2〜20の炭化水素、又は一般式(2)
【0063】
(式中、Xは、S、O、NHを表し、mは0〜17の整数、nは2以上の整数である。)
で表される基を挙げることができる。
前記ユニットAと、ユニットCとの少なくとも一方に、側鎖として存在するユニットBは、該ユニットが結合している環状構造(AまたはC)において、該環状構造が他の環状構造(すなわち、CまたはA)と連結ないし縮合している位置に対して、隣接しない位置にあることが好ましい。その結合位置の例は、後述の例示する構造に示す通りである。
【0064】
上記のユニットBの結合位置について、本発明の有機半導体材料に用いられる具体的な化合物で説明すると、例えば、下記式(5)の場合には、ユニットAがベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン、ユニットCがフェニル基、ユニットBがC
10H
21であるが、ユニットCのベンゼンのパラ位で、ユニットA;ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンと、ユニットB;C
10H
21が結合している関係にあることを示す。
【0066】
他のユニットを有する本発明の化合物についても同様に結合位置を示すことができる。
【0067】
二つの環状化合物を単結合で連結した場合、二つの化合物の軸周りの回転運動は、近くに置換基や立体的に大きな構造があるとその相互作用のために阻害され、分子の凝集時のコンフォメーションに揺らぎを与え、また、分子間の電荷移動速度に影響を与える再構築エネルギーを大きくする結果となる。このため、このような分子構造をもつ液晶物質は高次の液晶相が発現したとしても、電荷輸送特性が低下する場合が多い。
【0068】
前記で、ユニットAの繰り返し数は1であっても良いし、2であってもよいことを述べたが、化合物58のように化合物の全体構造を繰り返したものであってもよく、その場合の繰り返し数は1であっても良いし、2であってもよい。
【0069】
(分子設計の要点)
本発明においては、高い移動度を持つ液晶物質を実現するためには、次の点を考慮して分子設計を行うことが好ましい。
【0070】
(1)本発明においては、分子配向した液晶相や結晶相において、電荷の移動速度を支配する因子として、コア部と呼ばれる電荷の輸送関わるπ−電子系分子ユニットのTransfer積分の値が大きいことが重要となる。この値を実際に量子化学的手法により計算するためには、目的とする分子凝集状態における隣接する分子間の具体的な分子配置決定し、計算を行うことが必要となるが、相対的に言えば、互いの相対的な分子位置に対する揺らぎに対して、冗長性のある拡張されたπ−電子系を有する分子構造が有利となる。
【0071】
つまり、スメクチック液晶物質の場合、電荷輸送のサイトとなるπ−電子共役系からなる電荷輸送性分子ユニットには棒状でかつある程度大きなサイズのπ−電子共役系を選ぶ。この場合、液晶分子の構造としてしばしば採用される小さな芳香環、例えば、ベンゼンやチオフェンなどを複数、単結合で連結し、大きなπ−電子共役系を構成した分子ユニットを用いるのではなく、縮環構造による大きなπ−電子共役系を持つ分子ユニットを用いる。縮環の環数は3以上が好ましいが、環数が大きすぎると溶媒に対する溶解度が低下するため5以下が現実的である。
【0072】
すなわち、本発明においては、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、チオフェン、チアゾール、イミダゾール、フランを芳香環構造として、これらが縮環して棒状の3環構造、4環構造、5環構造をとったものが、芳香族π−電子共役系縮環構造として好ましい。
【0073】
(2)本発明においては、高い移動度を実現するためには、高次の液晶相を発現させることが必要となる。一般に、スメクチック液晶相では、分子層内の分子配置に秩序性を持たないSmA相やSmC相から、高次の液晶相になるに従い、液晶分子の分子運動は逐次、凍結されて行き、最も秩序性の高いSmE相やSmG相などでは、最終的に、分子のフリップーフロップ運動(フラッピング運動と表現されることもある)が残ると考えられる。
【0074】
この点を考慮し、液晶分子を構成する主たるコア構造に、前述の芳香族π−電子共役系縮環構造に単結合を介して、少なくとももう一つの剛直な構造を連結させた構造を用いることが好ましい。この場合、連結するもう一つの剛直な構造ユニットは、前述の芳香族π−電子共役系縮環構造と同数以下の環数を持つ構造が選ばれ、1または2でも良い。また、その構造には、必ずしも、ヘテロ環を含む広い意味での芳香環ばかりでなく、シクロヘキサンやシクロペンタン、あるいは、二重結合を含むシクロヘキセンやシクロペンテン、などの脂環式の環状構造であっても良い。
【0075】
(3)本発明においては、スメクチック液晶性を発現させるためには、前述のようにコア部と呼ばれる剛直な分子ユニットに棒状の分子形状の異方性と液体性を与えるためのフレキシブルな炭化水素ユニットを連結し、基本的に、直線状に配置した構造を持たせることが、棒状液晶物質の基本デザインである。
【0076】
本発明ではコア部とは、前述の芳香族π−電子共役系縮環構造に単結合を介して、少なくとももう一つの剛直な構造を連結させた構造がそれにあたる。コア部におけるユニットBの連結位置は、分子全体として棒状の異方性を与えることが重要となる。その場合、コア部に連結するユニットBの位置は、ユニットAとユニットCを連結した単結合から見て、それぞれのユニットの遠い位置であればユニットAあるいは、ユニットCのいずれか、あるいは、その両方に連結しても良い。ユニットBを連結した際の分子形状に関して、分子全体の構造が大きな折れ曲がりを持つ場合は、一般に、スメクチック相が誘起されにくくなることに注意が必要である。
【0077】
この目安として、本分子設計においては、ユニットBとコア部の単結合を軸として、コア部の分子を回転させた場合のぶれ幅で与えることができる。より詳しくは、ユニットBが結合している炭素原子と、分子を回転させた場合のユニットBに直接結合していないユニットAまたはユニットCのコア部の最も外側にある炭素もしくはヘテロ元素を結んだ直線と、軸とのなす角をθとし、ぶれ幅を記述すると、このぶれ幅θは、液晶相の発現と、移動度を高くすることが可能なことから、90度以下、より好ましくは60度以下、さらに好ましくは30度以下となるような構造が好ましい。
【0078】
さらにまた、別の目安として、ユニットAとユニットCを連結する単結合と、ユニットBとユニットA、もしくは、ユニットBとユニットCを連結する単結合が一直線上に並ぶ、あるいは、平行であるか、あるいは、二つの単結合のなす角が、90°以上であること、より好ましくは120°以上であることが好ましい。
【0079】
(スキーム1)「a」には、θが30°以下で、二つの単結合一直線上に並ぶ例を、(スキーム1)「b」には、θが30°以下で、二つの単結合が平行である例を、(スキーム2)「a」には、θが30°以上、60°以下で、二つの単結合のなす角が120°である例を、(スキーム2)「b」には、θが30°以上60°以下で、二つの単結合のなす角が120°以上である例を、(スキーム3)「a」には、θが30°以下で、二つの単結合が平行である例を、(スキーム3)「b」には、θが30°以下で、二つの単結合が一直線上に並ぶ例を、それぞれ記す。
【0084】
液晶相を発現させる場合、また、ユニットBの構造にニ重結合や三重結合、あるいは、酸素、硫黄、窒素などのヘテロ元素を含んだものを用いることもできる。しかし、移動度という観点では、コア部に、酸素、硫黄、窒素などを介することなく直接、ユニットBを連結させたものの方が好都合である。
【0085】
(スクリーニング法)
本発明において、上記の分子設計を満足する化合物中から、高次のスメクチック液晶相を発現し、有機半導体として有用な物質を、必要に応じてスクリーニングすることができる。このスクリーニングにおいて、基本的には、液晶相で有機半導体として用いる場合は高次のスメクチック相を発現すること、結晶相で有機半導体として用いる場合は、結晶相温度より高い温度から冷却したときに、結晶相に隣接して低次の液晶相を発現しないものを選ぶことが好ましい。この選択の方法は、後述する「スクリーニング法」にしたがって判定することにより、有機半導体材料として有用な物質を選択することができる。
【0086】
スキームAは、本発明に関する基本的な概念を示したものである。ユニットAとユニットCは、液晶分子においてはコア部と呼ばれるもので、このコア部の片側、または両側に、ユニットB(好ましくは、炭素数3以上のユニット)を、コア部の分子長軸方向に連結させたものが本発明における液晶物質の基本デザインとなる。
【0089】
(電荷輸送性分子ユニット)
液晶分子におけるコア部に対応する電荷輸送性分子ユニットとして、環数3以上の芳香族π−電子縮環系の分子ユニットを用いることにより、分子位置の揺らぎに対するtransfer積分の冗長性を確保でき、同様に、ベンゼンやチオフェンなどを複数、単結合で連結したπ−電子共役系の分子ユニットではなく、縮環構造を持つ分子ユニットを採用することにより、分子配座が固定されるため、transfer積分の増大が期待でき、移動度の向上に役立つ。
【0090】
一方、大きな縮環構造を電荷輸送性分子ユニットをコア部として採用しても、dialkylpentaceneやdialkylbenzothienobenzothiopheneなどの例のように、コア部に直接、炭化水素鎖を連結させた物質では、液晶相の安定化がはかれず、一般に、液晶相を発現しないか、液晶相を発現したとしてもSmA相などの低次の液晶相しか発現しない(非特許文献 Liquid Crystal.Vol.34.No.9(2007)1001−1007. Liquid Crystal.Vol.30.No.5(2003)603−610)。このため、単に電荷輸送性分子ユニットに大きな縮環構造を用いても、液晶相で高い移動度を実現することはできない。図に示したように、電荷輸送性分子ユニットに分子のフリップーフロップ運動の自由度を与えるためのもう一つの構造ユニットを連結した分子構造をコア部に採用することにより、初めて、高次の液晶相の発現と液晶相における高い移動度の実現が期待される。
【0091】
このような電荷輸送性分子ユニットにもう一つの剛直な構造ユニットを連結した構造(コア部)に炭化水素鎖を連結し、分子に、棒状の分子形状の異方性と液体性を付与することによって、高い確率で液晶相の発現を誘起することができる。炭化水素鎖を連結する場合、2本の炭化水素鎖を連結することが一般であるが、炭化水素鎖が1本の場合でも、液晶相はしばしば発現させることができる。この場合、液晶相の出現温度領域は、一般に、降温過程と昇温過程で非対称となることが多い。これは降温過程では、一般に液晶相温度領域が低温まで広がり、逆に、昇温過程では結晶相を高温領域まで広げることに役立つ。この特性は液晶物質の多結晶薄膜を有機半導体として利用する際に、液晶薄膜(液晶相状態の薄膜)をその前駆体として多結晶薄膜を作製する際により低い温度で液晶薄膜を作製できることを意味し、プロセスがより容易になるというメリットがある。また、昇温過程における結晶相温度が高領域まで広がることは、作製された多結晶膜の熱的安定性が向上することを意味し、材料として都合が良い。一方、炭化水素鎖を2本付与すると、一般に、発現した液晶相を安定化されるため、液晶相を用いたデバイス等への応用には都合が良い。
【0092】
以上述べた基本的な分子設計に基づいて物質を合成した場合、その物質の本発明に関わる有用性は、基本的には、液晶相で有機半導体として用いる場合は高次のスメクチック相を発現すること、結晶相で有機半導体として用いる場合は、結晶相温度より高い温度から冷却したときに結晶薄膜に亀裂や空隙を形成しにくく、かつ、結晶相に隣接して、低次の液晶相を発現しないものを選ぶことにより、生かされる。言い換えれば、液晶相で有機半導体として用いる場合は、結晶相に隣接する温度領域において、ネマチック相やSmA相やSmC相以外の液晶相を発現すること、また、結晶相で有機半導体として用いる場合には、結晶相より高い温度領域から冷却して結晶相へ転移させたとき、亀裂や空隙が形成されにくいことが判定基準となる。
【0093】
これは、以下に述べるスクリーニング法(判定法)によって、容易に判定することができる。このスクリーニング法に用いる各測定法の詳細に関しては、必要に応じて、下記の文献を参照することができる。
文献A:偏光顕微鏡の使い方:実験化学講第4版1巻、丸善、P429〜435
文献B:液晶材料の評価:実験化学講座第5版27巻P295〜300、丸善
:液晶科学実験入門日本液晶学会編、シグマ出版
【0094】
(S1)単離した被検物質をカラムクロマトグラフィーと再結晶により精製した後、シリカゲルの薄層クロマトグラフィーにより、該被検物質が単一スポットを示す(すなわち、混合物でない)ことを確認する。
【0095】
(S2)等方相に加熱したサンプルを毛細管現象を利用して、スライドガラスをスペーサーを介して張り合わせた15μm厚のセルに注入する。一旦、セルを等方相温度まで加熱し、偏光顕微鏡でそのテクスチャーを観察し、等方相より低い温度領域で暗視野とならないことを確認する。これは、分子長軸が基板に対して水平配向していることを示すもので、以後のテクスチャー観察に必要な要件となる。
【0096】
(S3)適当な降温速度、例えば、5℃/分程度の速度でセルを冷却しながら、顕微鏡によるテクスチャーを観察する。その際、冷却速度が速すぎると、形成される組織が小さくなり、詳細な観察が難しくなるので、再度、等方相まで温度を上げて、冷却速度を調整して、組織が容易に観察しやすい、組織のサイズが50μm以上となる条件を設定する。
【0097】
(S4)上記(S3)項で設定した条件で、等方相から室温(20℃)まで冷却しながらテクスチャーを観察する。この間にセル中で試料が結晶化すると、格子の収縮に伴い、亀裂や空隙が生じ、観察されるテクスチャーに黒い線、または、ある大きさを有する領域が現れる。サンプルを注入する際に空気がはいると同様の黒い領域(一般には丸い)が局所的に生じるが、結晶化によって生じた黒い線や領域は組織内や境界に分布して現われるので容易に区別できる。これらは、偏光子、及び、検光子を回転させても、消失や色の変化が見られないことから、テクスチャーに見られるこれ以外の組織とは容易に識別できる。このテクスチャーが現れる温度を結晶化温度として、その温度より高い温度領域で現れるテクスチャーがネマチック相、SmA相、SmC相でないことを確認する。サンプルがネマチック相を示す場合は、糸巻き状と表現される特徴的なシュリーレンテクスチャーが観察され、SmA相やSmC相を示す場合は、fan−likeテクスチャーと呼ばれる扇型でその領域内は均一組織を有する特徴的なテクスチャーが観察されるので、その特徴的なテクスチャーから容易に判定することができる。
【0098】
特殊なケースとして、SmA相からSmB相、SmC相からSmF、SmI相に転移する物質では、相転移温度で一瞬に、視野の変化が見られるが、相転移したテクスチャーにはほとんど変化が見られない場合があり、形成されたSmB相やSmF相、SmI相のテクスチャーをSmA相、SmC相と誤認する場合があるので注意が必要である。その場合は、相転移温度で見られる一瞬の視野の変化に気をつけることが重要である。この確認が必要な場合は、DSCにより、中間相の数を確認した後、それぞれの温度領域でX線回折を測定し、各相に特有の高角度領域(θ−2θの判定において15〜30度)においてピークの有無を確認すれば、SmA相、SmC相(いずれもピークなし)とSmB相、SmF相、SmI相(いずれもピーク有り)を容易に判定することができる。
【0099】
(S5)室温(20℃)で、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって、黒い組織が見られないものは、有機半導体材料として利用可能であるので、この物質が室温で高次の液晶相、あるいは、結晶相(準安定な結晶相を含む)の如何に関わらず、本発明の範疇として取り扱うものとする。
【0100】
本発明に関わる有機半導体材料をデバイスに応用する観点からみると、コア部のHOMO、LUMOのエネルギー準位も重要となる。一般に、有機半導体のHOMOレベルは、脱水されたジクロロメタンなどの有機溶媒に被検物質を、例えば、1mmol/Lから10mmol/Lの濃度となるように溶解し、テトラブチルアンモニウム塩などの支持電解質を0.2mol/L程度加え、この溶液にPtなどの作用電極とPtなどの対向電極、およびAg/AgClなど参照電極を挿入後、ポテンショスタットにて50mV/sec程度の速度で掃引し、CV曲線を書かせ、ピークの電位および基準となる、例えばフェロセンなどの既知物質との電位の差より、HOMOレベル、LUMOレベルを見積ることができる。HOMOレベル、LUMOレベルが用いた有機溶媒の電位窓よりも外れている場合、紫外可視吸収スペクトラムの吸収端より、HOMO−LUMOレベルを計算し、測定できたレベルから差し引くことでHOMOレベルやLUMOレベルを見積ることができる。この方法は、J. Pommerehne, H. Vestweber, W. Guss、 R. F. Mahrt, H. Bassler, M. Porsch, and J. Daub, Adv. Mater.,7,551(1995)を参照にすることができる。
【0101】
一般に、有機半導体材料のHOMO,LUMOレベルは、それぞれ陽極、陰極と電気的な接触の目安を与え、電極材料の仕事関数との差によって決まるエネルギー障壁の大きさによって電荷注入が制限されることになるので、注意が必要である。金属の仕事関数は、しばしば、電極として用いられる物質の例をあげると、銀(Ag)4.0eV、アルミニウム(Al)4.28eV、金(Au)5.1eV、カルシウム(Ca)2.87eV、クロム(Cr)4.5eV、銅(Cu)4.65eV、マグネシウム(Mg)3.66eV、モリブデン(Mo)4.6eV、白金(Pt)5.65eV、インジウムスズ酸化物(ITO)4.35〜4.75eV、酸化亜鉛(ZnO)4.68eVであるが、前述の観点から、有機半導体材料と電極物質との仕事関数の差は1eV以下が好ましく、より、好ましくは0.8eV以下、さらに好ましくは、0.6eV以下である。金属の仕事関数は、必要に応じて、下記の文献を参照することができる。
文献D:化学便覧 基礎編 改訂第5版II−608−610 14.1 b仕事関数 (丸善出版株式会社)(2004)
【0102】
コア部の共役したπ−電子系の大きさによりHOMO,LUMOエネルギー準位は影響を受けるため、共役系の大きさは材料を選択する際に参考となる。また、HOMO、LUMOエネルギー準位を変化させる方法として、コア部にヘテロ元素を導入することは有効である。
【0103】
(好適な電荷輸送性分子ユニットAの例示)
本発明において好適に使用可能な「電荷輸送性分子ユニットA」を例示すれば、以下の通りである。Xは、S、O、NHを表す。
【0106】
(好適な環状構造ユニットCの例示)
本発明において好適に使用可能な「環状構造ユニットC」を例示すれば、以下の通りである。ユニットCはユニットAと同一でも良い。
【0108】
或いは、エチニル構造を持つ下記一般式(3)又は(4)の置換基でもよい。
【0111】
一般式(3)で表される置換基のAr
1は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または置換基を有してもよい複素芳香族基であれば、特に制限はないが、例えば以下のものを挙げることができる。
【0112】
置換基を有してもよい芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、アセナフテニル基、アントラニル基、フェナントリル基、ナフタセニル基、フルオレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ペリレニル基、ビフェニル基、p−ターフェニル基、クォーターフェニル基などの無置換の炭素数6〜24の単環または多環式芳香族炭化水素基、
【0113】
o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,4−キシリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、ジュリル基、4−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基など、前記芳香族炭化水素基が炭素数1〜4のアルキル基で置換されたアルキル置換芳香族炭化水素基、
【0114】
また、置換基を有してもよい複素芳香族基としては、ピロリル基、インドリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ベンゾフリル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、ベンゾチエニル基、ピラゾリル基、インドリジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、インドリニル基、チアゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、チアジアジニル基、オキサジアゾリル基、ベンゾキノリニル基、チアジアゾリル基、ピロロチアゾリル基、ピロロピリダジニル基、テトラゾリル基、オキサゾリル基など、5員環または6員環の複素芳香族基や、該複素芳香族基にベンゼンが縮合した多環式複素芳香族基、
5−メチルチエニル基など、前記複素芳香族基が炭素数1〜4のアルキル基で置換されたアルキル置換複素芳香族基、
【0115】
また、一般式(3)で表される置換基のAr
2は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であれば、特に制限はないが、例えば以下のものを挙げることができる。
【0116】
フェニレン基、ナフチレン基、アズレニレン基、アセナフテニレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、ナフタセニレン基、フルオレニレン基、ピレニレン基、クリセニレン基、ペリレニレン基、ビフェニレン基、p−ターフェニレン基、クォーターフェニレン基などの炭素数6〜24の単環または多環式芳香族炭化水素基、
トリレン基、キシリレン基、エチルフェニレン基、プロピルフェニレン基、ブチルフェニレン基、メチルナフチレン、9,9‘−ジヘキシルフルオレニレン基など、前記芳香族炭化水素基が炭素数1〜10のアルキル基で置換されたアルキル置換芳香族炭化水素基、
【0117】
フルオロフェニレン基、クロロフェニレン基、ブロモフェニルン基など、前記の芳香族炭化水素基がフッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲンで置換されたハロゲン化芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0118】
更に、一般式(4)で表されるR‘は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子である。
【0119】
(好適な単結合の例示)
本発明において好適に使用可能な、上記のユニットAおよびCを連結するための「単結合」は、ユニットAとユニットCの環状構造を構成する炭素のうち分子長軸方向にある炭素どうしを分子全体が棒状となる様に選ぶ。すなわち、本発明においては、ユニットAを構成する炭素と、ユニットCを構成する炭素とが、直接に「単結合」(single bond)で連結されている。
【0120】
(好適なユニットAおよびユニットCの組合せの例示)
本発明において好適に使用可能な「ユニットAおよびユニットCの組合せ」(前記に従って連絡したもの)を例示すれば、以下の通りである。
【0122】
(好適なユニットB)
ユニットBは、直鎖状でも、分枝状でも使用可能であるが、直鎖状である方が、より好ましい。該ユニットBの炭素数は、2個以上であることが好ましい。この炭素数は、更には3〜20個であることが好ましい。炭素数の増加は一般に液晶相温度を低下させることになるため、特に、液晶相で有機半導体として用いる場合は都合が良い。しかし、一方で、炭素数が長すぎると有機溶媒に対する溶解度を低下させることになるため、プロセス適性を損なう場合がある。炭素数を用いる場合、ユニットB中に酸素、硫黄、窒素を含む構造の用いると、溶解度の改善には有効である。その際、直接、酸素、硫黄、窒素原子がユニットA、または、ユニットCを連結されない構造が移動度の点からは好ましく、化学的安定性の点からは、ユニットA,または、ユニットBとの連結は2以上の炭素を介した後、酸素、硫黄、窒素が連結する構造が好ましい。上記例示の中で、本発明の課題を解決するのに特に好適なユニットA、ユニットB、ユニットCの具体例として、以下を挙げることができる。
【0125】
これらの中でも[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンは電荷移動度が高いため特に好ましい。
【0126】
上記で挙げたユニットAの化合物には、ユニットAに置換が可能な公知慣用の置換基を有していてもよい。このような置換基は、本発明の課題を解決するのに支障がなければ、限定がないが、好ましい置換基としては、下記を挙げることができる。
アルキル基、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有する脂肪族化合物、アルケニル基、アルキニル基、置換基としてのチオフェン、チエノチオフェン、ベンゾチオフェン、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、フルオレン、ピリジン、イミダゾール、ベンゾチアゾール、フラン等の芳香族化合物。
【0127】
<ユニットC>
チオフェン、チエノチオフェン、ベンゾチオフェン、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、フルオレン、ピリジン、イミダゾール、ベンゾチアゾール、フラン、シクロペンテン、シクロヘキセン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、ピペリジン
上記で挙げたユニットCの化合物には、公知慣用の置換基を有していてもよい。
【0128】
このような置換基は、本発明の課題を解決するのに支障がなければ、限定がないが、好ましい置換基としては、下記を挙げることができる。
【0129】
アルキル基、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有する脂肪族化合物、アルケニル基、アルキニル基、置換基としてのチオフェン、チエノチオフェン、ベンゾチオフェン、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、フルオレン、ピリジン、イミダゾール、ベンゾチアゾール、フラン等の芳香族化合物。
【0130】
上記で挙げたユニットC中でも、ベンゼン、ナフタレン、チオフェン、チエノチオフェン、ベンゾチオフェン等においては、化合物の結晶構造への平面性付与による移動度の向上が見込まれ、特に好ましい。
【0131】
<ユニットB>
炭素数2〜20の直鎖アルキル基、
【0133】
(アニール工程)
本発明の有機薄膜を作製する際には、アニール工程を行っても行わなくてもよいが、移動度の向上のためには、アニール工程を行った方がより好ましい。アニール工程は、溶液等から作製した膜の結晶性の向上や、結晶多系による準安定相から最安定相への転移など、デバイス材料として用いる結晶相の制御に活用することができる。
【0134】
アニールを行う温度は、本発明に用いられる芳香族縮環系の構造を有する電荷輸送性分子ユニットAと、側鎖としてユニットBを有する化合物が、結晶から液晶に転移する温度より低い温度であって、当該結晶から液晶転移する温度になるべく近い温度で行うことが好ましい。ここで、近い温度とは、対象とする化合物により異なるが、例えば、前記転移温度と、当該転移温度より10〜20℃程度低い温度の範囲内である温度を挙げることができ、化合物24の場合には、120℃近辺の温度を挙げることができる。アニール化を行う時間に制限はないが、5〜60分前後の時間を挙げることができる。
【0135】
(半導体デバイス動作の確認)
Time−of−flight法による過渡光電流の測定は、光照射による光電荷の発生と電荷輸送を観測することを意味しており、この測定系は、有機半導体材料を用いた光センサーを実現していることに対応する。したがって、この測定により、本発明の有機半導体材料が、半導体デバイス動作に使用可能なことが確認可能である。このような方法による半導体デバイス動作確認の詳細に関しては、例えば非特許文献Appl.Phys.Lett.,74 No.18 2584−2586(1999)を参照することができる。
【0136】
また、有機トランジスタを作製し、その特性を評価することにより本発明の有機半導体材料が、有機トランジスタとして使用可能であることを確認可能である。このような方法による半導体デバイス動作確認の詳細に関しては、例えば文献S.F.Nelsona, Y.−Y.Lin, D,J,Gundlach, and T.N.Jackson, Temperature−independent Transistors, Appl.Phys.Lett.,72No.15 1854−1856(1998)などを参照することができる。
【0137】
(好適な構造)
本発明に使用する液晶物質は、基本的に、3環以上の5環以内の芳香環が棒状(すなわち、概ね直線状)に連結した縮環系に、単結合を介して、少なくとももう一つの環状構造を縮環系の分子長軸方向に連結させた構造のいずれか一方に、炭素数3以上の炭化水素鎖ユニットを分子長軸方向に連結させた構造であることが好ましい。
【0138】
上述したように、本発明に使用する液晶物質は、3環以上の5環以内の芳香環の棒状に連結した縮環系に単結合を介して、少なくとももう一つの環状構造を縮環系の分子長軸方向に連結させた構造のいずれか一方に、炭素数3以上の炭化水素鎖ユニットを分子長軸方向に連結させた構造である。これを下記の物質(図参照)を例として、例示する。
【0145】
さらに、本発明で用いられる化合物群は、上記のユニットA〜Cを適宜組み合わせて分子設計を行うことが可能であり、具体的化合物としては下記を挙げることができるが、もとより本発明で対象とする化合物群はこれらに限定されるものではない。
【0148】
更に、上記化合物の他にも、下記で表される液晶物質も有効である。
【0152】
上記の液晶物質の特性を以下の表に纏める。表中、各記号の意味は、以下の通りである。
【0153】
(a)化学構造式
(b)相転移挙動(冷却過程)
*I:等方相、
N:ネマチック相、
SmA:スメクチックA相、
SmC:スメクチックC相、
SmE:スメクチックE相、
SmG:スメクチックG相、
SmX:高次のスメクチック相もしくは準安定な結晶、
K:結晶相
【実施例】
【0161】
本発明を実施例でさらに詳細に説明する。
【0162】
(合成例1)
化合物24はWO2012/121393号公報に記載の方法によって、[1]benzothieno[3,2−b][1]benzothiophene(BTBTと略す)から、以下の(化32)示すスキームにより合成した。
【0163】
【化32】
【0164】
化合物24−1(2−decylBTBT)は文献(Liquid Crystals 2004,31,1367−1380及びCollect.Czech.Chem.Commun.2002,67,645−664)に従いBTBTから2工程(Friedel−Craftsアシル化、Wolff−Kishner還元)で合成した。
【0165】
化合物24−2(2−decyl−7−nitroBTBT)の合成
化合物24−1(2.48g,6.52 mmol)のジクロロメタン(160mL)溶液を−50℃に冷却し(固体を析出する)、発煙硝酸の1.2Mジクロロメタン溶液(12mL)を30分で滴下した。−50℃で更に2時間撹拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(〜13mL)を加え反応を停止した。分液して下層を取り、10%食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥し濃縮乾固して粗製固体(2.75g)を得た。この固体を2‐ブタノン(〜40mL)から再結晶化し、化合物24−2の黄色結晶、1.86g (収率、67%)を得た。
【0166】
H−nmr(270MHz,CDCl
3):δ8.83(d,1H,J2.2Hz,H−6),8.31(dd,1H,J8.8,2.2Hz,H−8),7.92(d,1H,J8.8Hz,H−9),7.84(d,1H,J8.2Hz,H−4),7.75(d,1H,J1.4Hz,H−1),7.33(dd,1H,J8.2,1.4Hz,H−3),2.78(t,2H,J〜7.5Hz,ArCH
2),1.71(quint.2H,J〜7.5Hz,ArCH
2CH
2),〜1.2〜1.4(m,14H,CH
2x7),0.88(t,3H,J〜7Hz,CH
3)
【0167】
化合物24−3(7−decylBTBT−2−amine)の合成
化合物24−2(1.28g,30mmol),錫(0.92g)を酢酸(15mL)に懸濁し、約70℃で加熱、撹拌下、濃塩酸(2.7mL)をゆっくりと滴下した。さらに100℃で1時間反応後、10℃以下に冷却し固体を濾取した。この固体をクロロホルム(〜100mL)に取り、濃アンモニア水、飽和食塩水で順次洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮乾固し粗製固体(1.1g)を得た。この固体をシリカゲルカラム(クロロホルム−シクロヘキサン1:1、1%トリエチルアミンを添加)で分離精製し、石油ベンジンから結晶化し、微灰色の化合物24−3の化合物0.86g(収率、72%)を得た。
【0168】
H−nmr(270MHz,CDCl
3):δ7.68(d,1H,J8.2Hz,H−9),7.67(broadeneds,1H,H−6),7.62(d,1H,J8.4Hz,H−4),7.23(dd,1H,J1.5,8.2Hz,H−8),7.16(d,1H,J〜2Hz,H−1),6.81(dd,1H,J〜2,8.4Hz,H−3),3.84(slightlybroadeneds,〜2H,NH
2),2.73(t,2H,J〜7.5Hz,ArCH
2),1.68(quint.2H,J〜7.5Hz,ArCH
2CH
2),〜1.2〜1.4(m,14H,CH
2x7),0.87(t,3H,J〜7Hz,CH
3)
【0169】
化合物24−4(2−decyl−7−iodoBTBT)の合成
化合物24−3(396mg,1mmol)のジクロロメタン(15mL)溶液に−15℃冷却下、BF
3−Et
2O(216mg),亜硝酸t‐ブチル(126mg)を滴下した。約1時間で反応温度を5℃まで上げた後、沃素(400mg),沃化カリウム(330mg)、沃化テトラブチルアンモニウム(25mg)のジクロロメタン−THF混液(1:2,3mL)の溶液を加えた。さらに加熱環流下、8時間反応した後、クロロホルムで希釈し、10%チオ硫酸ナトリウム、5M水酸化ナトリウム、10%食塩水で順次洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮乾固した。得られた濃褐色の粗製固体(500mg)をシリカゲルカラム(クロロホルム−シクロヘキサン、1:1)で精製し、クロロホルム−メタノールから結晶化した。さらに、リグロインから再結晶化し、化合物24−4の化合物228mg(収率、45%)を得た。
【0170】
H−nmr(500MHz,CDCl
3):δ8.23(d,1H,J1.4Hz,H−6),7.77(d,1H,J8.2Hz,H−4),7.72(dd,1H,J1.4,8.2Hz,H−8),7.71(d,1H,J1.4Hz,H−1),7.59(d,1H,J8.2Hz,H−9),7.29(dd,1H,J1.4,8.2Hz,H−3),2.76(t,2H,J7.8Hz,ArCH
2),1.69(quint.,2H,J〜7.5Hz,ArCH
2CH
2),〜1.2〜1.4(m,14H,CH
2x7),0.88(t,3H,J〜7Hz,CH
3)
【0171】
化合物24(2−decyl−7−phenylBTBT)の合成
化合物24−4(228mg,0.45mmol)のジオキサン(8mL)溶液に、2Mリン酸三カリウム(0.45mL)、フェニルボロン酸(東京化成工業、110mg,0.9mmol)を加え、20分アルゴンガスをバブリングした後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業、30mg,0.025mmol),トリシクロヘキシルホスフィン(和光純薬工業、13mg、0.045mmol)を加え、95℃で22時間加熱撹拌した。反応液をクロロホルムで希釈し、10%食塩水で洗い、下層を濃縮乾固して粗製固体(293mg)を得た。この固体をトルエンから再結晶化し、化合物24の化合物130mg(収率、63%)を得た。
【0172】
H−nmr(500MHz,CDCl
3):δ8.12(d,1H,J1.8Hz,H−6),7.92(d,1H,J8.2Hz,H−9),7.79(d,1H,J7.8Hz,H−4),7.73(br.s,1H,H−1),7.69(dx2,3H,H−8,2’,6’(‘denotePh)),7.49(t,2H,J〜8Hz,H−3’,5’),7.38(tt,1H,J>1,〜8Hz,H−4’),7.29(dd,1H,J>1,7.8Hz,H−3),2.77(t,2H,J〜7Hz,ArCH
2),1.70(quint.2H,J〜7Hz,ArCH
2CH
2),〜1.2〜1.4(m,14H,CH
2x7),0.88(t,3H,J〜7Hz,CH
3)
【0173】
(合成例2)
合成例1において、C
9H
19COClの替わりに、C
11H
23COClを用いて化合物64(2−dodecyl−7−phenylBTBT)を合成した。
【0174】
(実施例1)
合成例1で得た化合物(化合物24)を用いて、以下の方法により、バイレイヤー構造およびトランジスタ特性を確認した。
【0175】
(薄膜の作製)
熱酸化膜付シリコンウエハー(ヘビードープp型シリコン(P+−Si)、熱酸化膜(SiO
2)厚さ:300nm)を20×25mmに切断後、この切断したシリコンウエハー(こののち基板と略す)を中性洗剤、超純水、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、IPAの順に超音波洗浄を行った。
次に、合成例1の化合物をキシレンに溶解させ、溶液を調整した。溶液の濃度は1wt%から0.5wt%とした。この溶液、および、溶液を基板に塗布するガラス製のピペットを予め、ホットステージ上で所定の温度に加熱しておき、上記の基板をオーブン内に設置したスピンコータ上に設置し、オーブン内を約100℃に昇温した後、溶液を基板上に塗布し、基板を回転(約3000rpm、30秒)させた。回転停止後、基板を素早く取り出し室温まで冷却させた。更に、得られた有機薄膜を120℃、5分間の熱アニールを行った。
【0176】
(XRD測定)
低角の面外XRD測定をRIGAKU RAD−2B(X線源 CuKα線 波長1.54Å、発散スリット1/6°、散乱スリット0.15mm、受光スリット1/6°)を用いてθ−2θスキャンで1°から5°まで測定した。
化合物24に関するデータを
図5に示した。
【0177】
(トランジスタの作製)
更に、有機半導体層を塗布した基板に、真空蒸着法(2×10
−6Torr)を用いて、金をメタルマスクを介してパターン蒸着することにより、ソース・ドレイン電極を形成した(チャネル長:チャネル幅=100μm:500μm)。
【0178】
作製した有機トランジスタの評価は、通常の大気雰囲気下において、2電源のソース・メジャーメントユニットを用いて、ソース電極、ドレイン電極間に流れる電流を、ゲート電極(P+−Si)に電圧をスイープ印加(Vsg:+10〜−100V)しながら測定(伝達特性)することによりおこなった(ソース電極、ドレイン電極間電圧Vsd:−100V)。移動度は、該伝達特性における、√Id−Vgの傾きから、飽和特性の式を用いた周知の方法により算出した(
図6)。
【0179】
図6において、薄膜作製そのままのサンプルを「As coated」、得られた有機薄膜を120℃で5分間の熱アニールをしたものを「after anneal」、液晶相温度である160℃に加熱後急冷したサンプルを「160℃ fast cool」とした。160℃に加熱後急冷したサンプルでは、移動度の低下が確認された。
なお、移動度の測定は5つのトランジスタについて行い、その平均値と標準偏差を記載した。その結果を表8に示した。
【0180】
(バイレイヤー構造の確認)
抵抗率0.02Ω・cmのシリコン基板に、厚さ200nmの熱酸化膜(SiO
2)を形成した。この上に、合成例1の化合物の0.5wt%キシレン溶液を直径1インチのシリコン基板上にバーコーター#26にて塗布、乾燥し、膜厚が約80nmの有機薄膜の測定試料を作製した。
【0181】
次に、高輝度放射光実験施設SPring−8内のフロンティアソフトマター開発産学連合体が所有するビームラインBL03XU第1ハッチを使用して、測定モードがすれすれ入射小角/広角エックス線散乱法(GrazingIncidentSmallAngleScattering/WideAngleScattering:GISAXS/WAXS)にて、カメラ長140mm、2300mm、波長0.1nm、エックス線入射角0.08°または0.16°、露光時間1〜5秒、測定温度25℃、散乱角範囲2θ=0.1〜20°の条件などで、上記の測定試料を測定した。
【0182】
得られた2次元エックス線散乱像を以下の方法で解析することで薄膜の構造を求めた。測定時のエックス線入射角から2次元散乱像における反射エックス線ビーム中心位置を決めて、その反射ビーム中心からみて水平方向の直線上の散乱・回折強度Iをとり、反射ビーム中心からの散乱角2θに対する散乱強度Iとして1次元化した散乱プロファイルHを得た。同様に、反射ビーム中心からみて垂直上方向の直線上の散乱・回折強度Iをとり、反射ビーム中心からの散乱角2θに対する散乱強度Iとして1次元化した散乱プロファイルVを得た。それぞれ散乱プロファイルH,Vに現れたもっとも強度の強いピークに着目し、ピーク位置の散乱角2θの値から2dsin(2θ/2)=λの式を用いて周期長d[nm]を算出した。ここでλ[nm]はエックス線波長0.1nmである。
【0183】
散乱プロファイルHからは、当該分子の配列構造の中で分子鎖とほぼ直交する方位の周期構造(面間隔)に由来する約4Åの周期長等が算出され、散乱プロファイルVからは化合物の分子長さに由来する約30Åの周期長が算出された。GISAXS/WAXSの測定原理から、散乱プロファイルHからは薄膜の面内の周期構造の情報が得られ、散乱プロファイルVからは薄膜の積層状態の周期構造の情報が得られる。高次スメクチック相に特徴的な回折プロファイル、および該液晶相の構造的特徴から、この有機薄膜は基板に対して化合物分子が垂直に立っており、分子長さに相当する約30Åごとに積層したバイレイヤー構造を形成していることが確認できた。その結果を表8に示した。
【0184】
また、得られた2次元エックス線散乱像を
図1に示した。散乱像から、ビーム中心からY軸方向に一定の積層周期に由来するピークが観察されるのに対し、X軸方向にはピークが観察されないことからもバイレイヤー構造が確認できる。
【0185】
(実施例2)
実施例1において、合成例1の化合物の代わりにWO2012/121393号公報に従って得た化合物9の液晶物質を用い、有機薄膜成膜後のアニール条件をトルエン蒸気による1分間のアニールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価した結果を表8に示した。
【0186】
(実施例3)
実施例1において、合成例1の化合物の代わりに化合物64の液晶物質を用い、有機薄膜成膜後のアニール条件を130℃、30分間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表8に示した。
【0187】
(実施例4)
実施例1において、合成例1の化合物の代わりに化合物23の液晶物質を用い、トルエンの替わりにエチルベンゼンを用い、有機薄膜成膜後のアニール条件を110℃、30分間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価した結果を表8に示した。
【0188】
(比較例1)
実施例1において、120℃の熱アニールを行わなかった以外、実施例1記載の方法と同様の評価を行った。結果を表8に示す。
また、得られた2次元エックス線散乱像を
図2に示した。散乱像から、ビーム中心から同心円がX軸方向とY軸方向に観察されることからも、該液晶物質が配向せずバラバラに存在することが確認できる。
【0189】
(比較例2)
実施例2において、1分間のトルエン蒸気アニールを行わなかった以外、実施例2記載の方法と同様の評価を行った。結果を表8に示す。
【0190】
(比較例3)
実施例3において、130℃の熱アニールを行わなかった以外、実施例3記載の方法と同様の評価を行った。結果を表8に示した。
【0191】
(比較例4)
実施例4において、110℃の熱アニールを行わなかった以外、実施例4記載の方法と同様の評価を行った。結果を表8に示した。
【0192】
【表8】
【0193】
実施例と比較例との比較より、同一液晶物質であっても、バイレイヤー構造が観察される有機薄膜、またはアニール工程を行ったものは、高い移動度を示すことが明らかである。
【0194】
(化合物24の単結晶構造解析と多結晶薄膜の分子配向の検討)
化合物24の単結晶は、キシレン溶液から再結晶化により作製した。単結晶構造解析はRigaku社製のR−AXIS RAPID II/Rを用いて行った。多結晶薄膜における分子の配向の情報を得るためTOF−SIMSによる厚さ方向の組成分析を行なった。また、単結晶における分子配置よりTransferIntegralについても検討を加えた。
【0195】
X線構造解析の結果から、化合物24のコア部(フェニル環とベンゾチエノベンゾチオフェンから構成される部分)はHerringbone構造をとり、レイヤー間ではコア部が向かい合ったバイレイヤー構造をとっていることが明らかになった。
モノレイヤー構造をとる製膜直後の膜では、コア部にのみ存在する硫黄原子の厚さ方向のTOF−SIMSによるプロファイルには分布が見られないのに対し(
図7;1分子長である約2.5nmごとに硫黄原子が存在)、120℃5分間の熱アニールを行った薄膜では、硫黄原子の分布プロファイルには2分子長に対応した約5nmごとのピークが観測され(
図8)、バイレイヤー構造であることが判明した。
これらの結果を総合すると、多結晶薄膜は製膜直後ではモノレイヤー構造であるが、120℃の熱アニールにより、溶液から再結晶により得られた単結晶と同様に、コア部が向かい合ったバイレイヤー構造に変化するものと考えられる。
【0196】
この単結晶構造解析の分子配置をもとにTransferIntegralを計算すると、レイヤー内のT1、T2、T3がそれぞれ55、17、43meVであるのに加えて(
図9)、コア部が向かい合ったレイヤー間にも8meV程度の有意な値を持つことが分かった(
図10)。