(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切換制御手段の電流の切り換えは、前記固定子歯の歯頭部の全体が前記回転子の同一の磁極の面内に含まれている間中には支持力発生用に電流が継続され、前記回転子の回転により該歯頭部が異なる磁極に対峙する前に切り換えられ、前記固定子歯の歯頭部に前記回転子磁極の極間が対峙している間中にはトルク発生用に電流が継続されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のベアリングレスモータ。
サージ電圧を低減させるサージ電圧低減手段を備え、該サージ電圧低減手段が、前記歯頭部が前記回転子磁極の極間が対峙している途中でトルク発生用の電流供給を遮断し前記電源に対し所定期間(デッドタイム)エネルギーの回生をさせ、
又は、スナバ回路によるエネルギーの吸収をさせることを特徴とする請求項4記載のベアリングレスモータ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の第1実施形態である巻線統合型ベアリングレスモータの巻線配置図を
図1に、また駆動回路を
図2に示す。なお、
図53と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。
【0021】
図1及び
図2において、巻線統合型ベアリングレスモータ10は、例えば12スロット6極構造で構成される。
図3の固定子付近の部分拡大図に示すように、固定子歯13には従来のベアリングレスモータ110(
図3(a))が電動機巻線3と磁気支持巻線5の2種類の巻線を巻いていたのに対し、本実施形態の巻線統合型ベアリングレスモータ10(
図3(b))では1種類の巻線15のみが巻かれている。
【0022】
そして、180度隔てて対峙する固定子歯13に捲回された巻線同士は
図2に示すように直列に接続されている。例えば、180度隔てて対峙する固定子歯13に捲回された巻線であるU1+巻線とU1−巻線とはa点を介して直列に接続されている。なお、
図2中には巻線抵抗も記載されている。
【0023】
また、このU1+巻線とU1−巻線に対しそれぞれ120度隔てた位置に同様にV1+巻線とV1−巻線が捲回され、更に、このV1+巻線とV1−巻線に対しそれぞれ120度隔てた位置にW1+巻線とW1−巻線が捲回されている。V1+巻線とV1−巻線とはb点を介して直列に接続され、W1+巻線とW1−巻線とはc点を介して直列に接続されている。
【0024】
更に、U1−巻線の一端とV1−巻線の一端とW1−巻線の一端とはO点で接続され、三相に結線されている。
【0025】
三相インバータ20はU1+巻線とV1+巻線とW1+巻線に接続され、これらの巻線に対し電源を供給するようになっている。また、スイッチング素子N1、N2、N3のコレクタ端子がそれぞれa点、b点、c点に接続され、一方、エミッタ端子は一つにまとめられた上でスイッチング素子N4のエミッタ端子に接続されている。
【0026】
スイッチング素子N1、N2、N3、N4にはそれぞれ寄生ダイオードが図示の方向に形成されている。スイッチング素子N4のコレクタ端子は三相インバータ20の接地線に接続されている。三相インバータ20は、U
H、V
H、W
H、U
L、V
L、W
Lの6個の素子からなるスイッチング素子で構成されている。
【0027】
固定子1には、更に、U1+巻線、V1+巻線、W1+巻線、U1−巻線、V1−巻線、W1−巻線に対してそれぞれ回転方向に30度隔てた位置にU2+巻線、V2+巻線、W2+巻線、U2−巻線、V2−巻線、W2−巻線が配設されている。U2+巻線、V2+巻線、W2+巻線、U2−巻線、V2−巻線、W2−巻線の接続構造、駆動回路は
図2と同様である。
なお、回転子11には、径方向に着磁された永久磁石17が周方向において交互に極性を異ならせてリング状に6個配設されている。
【0028】
次に、本発明の第1実施形態である巻線統合型ベアリングレスモータ10の支持力の発生原理について説明する。以下、x軸正方向に力を発生させるときの支持力の発生原理を説明するが、y軸についても同様である。
【0029】
まず、
図4に基づき回転子11が回転角度0度の位置にあるときについて説明する。
図6にはU1巻線、V1巻線、W1巻線に対し回転角度に応じて流す電流波形の一例を示す。同様に、
図7には、U2巻線、V2巻線、W2巻線に対し回転角度に応じて流す電流波形の一例を示す。
【0030】
回転角度0度の位置にあるときには、支持力発生のため、
図7に示す通り、U2+巻線及びU2−巻線に対し、−1.39Aを流し、一方、V2+巻線、V2−巻線に対し、+1.39Aを流す。このときに発生する支持磁束は
図4に示す通りに発生し、永久磁石17の界磁磁束との間で
図4中のイ点、ロ点では磁束は同方向になり、ハ点、ニ点では互いに磁束が逆方向になる。このため、イ点、ロ点での吸引と、ハ点、ニ点での反発によりF
XU、F
XV方向の力を生じる。そして、このF
XU、F
XV方向の吸引力の合成によりx軸正方向への力F
Xを生ずる。
【0031】
次に、回転角度30度の位置にあるときには、支持力発生のため、
図6に示す通り、U1+巻線及びU1−巻線に対し、1.6Aを流し、一方、V1+巻線、V1−巻線に対し、−0.8A、W1+巻線、W1−巻線に対しても同様に−0.8Aを流す。駆動回路には
図8に示すようにインバータ回路の丸で囲まれたU
H、U
L、W
LがONされ、図示の通りに電流が流れる。
【0032】
このときに発生する支持磁束は
図5に示す通りに発生し、永久磁石17の界磁磁束との間で
図5中のホ点、へ点、ト点では磁束は同方向になり、チ点、リ点、ヌ点では互いに磁束が逆方向になる。このため、ホ点、へ点、ト点での吸引と、チ点、リ点、ヌ点での反発によりそれぞれF
XW、F
XU、F
XV方向の力を生じる。そして、このF
XW、F
XU、F
XV方向の吸引力の合成によりx軸正方向への力F
Xを生ずる。
【0033】
次に、トルクの発生原理について説明する。
図9に従来のベアリングレスモータのトルク発生原理を説明する。
図9において、電動機巻線U1に電流を流すと電動機磁束が図示の通り生ずるが、永久磁石の磁極との間で吸引、反発の作用が働き、結果として回転方向に力を生ずる。180度隔てた巻線においても同様に回転方向に力を生ずる。同様に電動機巻線V1、W1においても回転方向に力を生ずる。
【0034】
これに対し、本願の巻線統合型ベアリングレスモータ10のトルク発生原理を
図10に基づき説明する。
図10において、電動機巻線U1に電流を流すと電動機磁束が図示の通り生ずるが、永久磁石の磁極との間で吸引、反発の作用が働き、結果として反時計回りに回転方向の力を生ずる。この点は
図9と同様である。
【0035】
一方、180度隔てた巻線においては一種類の巻線で構成されている構造上回転方向とは逆の時計回り方向に力を生ずる。従って、トルク発生の際には+側のみを励磁し、−側の巻線は逆方向のトルクが発生するため電流を流さないこととする。
【0036】
回転角度0度の位置にあるときには、
図6に示すようにU1+巻線、V1+巻線、W1+巻線に対し2.4Aを流すことで回転方向のトルクを生ずる。このとき、駆動回路は
図11に示すように三相インバータ20のU
H、V
H、W
HをONすると共にスイッチング素子N1、N2、N3もONする。なお、a点、b点、c点を介してスイッチング素子N4には寄生ダイオードを通り電流が流される。
【0037】
このように回転角度0度の位置にあるときのトルク発生にはU1+巻線、V1+巻線、W1+巻線のみを励磁し、U1−巻線、V1−巻線、W1−巻線は励磁しない。同様に回転角度30度の位置にあるときのトルク発生は
図7に示すように、U2+巻線、V2+巻線、W2+巻線のみを励磁し、U2−巻線、V2−巻線、W2−巻線は励磁しない。
【0038】
また、
図6、
図7の電流波形を見て分かるように、U1巻線、V1巻線、W1巻線に対してトルクを発生させている期間(回転子の回転角度範囲)ではU2巻線、V2巻線、W2巻線に対しては支持力を発生させる。これとは逆にU1巻線、V1巻線、W1巻線に対して支持力を発生させている期間(回転子の回転角度範囲)ではU2巻線、V2巻線、W2巻線に対してはトルクを発生させる。このように回転子の回転角度に応じて、それぞれの巻線には支持力を発生させるための電流と、トルクを発生させるための電流とが選択的に供給される。なお、以上説明した実施形態では、各巻線には、回転子の回転角度に応じて一定の角度範囲毎にトルクと支持力を交互に発生させるように電流の供給が制御されている。
【0039】
なお、このようにトルクと支持力を交互に発生させるときの励磁する対象となる巻線を
図12〜
図15に示す。
図12及び
図13は回転角度0度の位置にあるときを示し、このときにはU1巻線、V1巻線、W1巻線に対してトルクを発生させるため
図12に示す方向に電流を流す一方で、U2巻線、V2巻線、W2巻線に対しては支持力を発生させるため
図13に示す方向に電流を流す。
【0040】
また、回転角度30度の位置にあるときには
図14及び
図15に示す通り、U1巻線、V1巻線、W1巻線に対して、今度は支持力を発生させるため
図14に示す方向に電流を流す一方で、U2巻線、V2巻線、W2巻線に対しては、今度はトルクを発生させるため
図15に示す方向に電流を流す。
【0041】
電流の切り換えは、固定子歯13の歯頭部13Aの全体が回転子11の永久磁石17の同一の磁極の面内に含まれている間中には支持力発生用に電流が継続され、回転子11の回転により歯頭部13Aが異なる磁極に対峙する前にトルク発生用に切り換えられる。本実施形態の12スロット6極構造ではこの切り換えは30度毎に行われる。
【0042】
次に、トルク発生から支持力発生に切り換えるときにスイッチング素子に生ずるサージ電圧の低減方法について説明する。
図16にトルク発生時の駆動回路に流れる電流の様子を示す。また、
図17には支持力発生時の駆動回路に流れる電流の様子を示す。この切り換え時のゲート電圧波形は
図18のように各スイッチング素子を短時間で遮断することになるが、このトルク発生から支持力発生に切り換えるときに
図19に示すように電流遮断時の起電力によりスイッチング素子N1、N2、N3、N4にはサージ電圧がかかる。
【0043】
次に、かかるサージ電圧の低減対策について説明する。
図20に示すように、三相インバータ20のスイッチング素子U
H、V
H、W
H側をスイッチング素子N1、N2、N3より先にOFFさせることで、電磁エネルギーを電源側に回生させる。このとき、スイッチング素子N1、N2、N3をON状態を維持させるが、スイッチング素子N4には寄生ダイオードを通り電流が流れる。即ち、
図21の電流波形及びゲート電圧波形に対し、
図22に示すように、トルク発生から支持力発生に切り換える際にデッドタイムを設ける。
【0044】
但し、
図23に示すようにスイッチング素子N1、N2、N3、N4にはサージ電圧を吸収するためそれぞれスナバ回路31A〜31Dを配設するようにしてもよい。
【0045】
このようにデッドタイム及びスナバ回路を配設したときの効果を調べたのが
図24である。
図24より、サージ対策前に比べ、デッドタイム及びスナバ回路による対策を施した後にはサージ電圧が消えていることが分かる。なお、デッドタイム及びスナバ回路は必ずしも両方を対策として施す必要は無く、一方だけでも実用上支障ない。
【0046】
次に、第1実施形態について有限要素法で電磁界解析を行った結果について説明する。解析モデルを
図25及び
図26に示す。
図25の従来のベアリングレスモータ110と
図26の第1実施形態の巻線統合型ベアリングレスモータ10とで巻線部分を除く構造は同じである。即ち、従来のベアリングレスモータ110と第1実施形態の巻線統合型ベアリングレスモータ10とで大きさは同じである。
【0047】
表1の諸元に示す通り、巻線については、従来のベアリングレスモータ110のスロット9には電動機巻線が242ターン、磁気支持巻線が243ターンの合計485ターン巻かれている。これに対し、第1実施形態の巻線統合型ベアリングレスモータ10のスロット9には巻線が485ターン巻かれている。
【0049】
解析結果を
図27に示す。トルクは従来のベアリングレスモータ110と同じ大きさであった一方で、支持力は約2倍になっていることが分かる。すなわち、従来のベアリングレスモータと外径サイズ、重量が同じ巻線統合型ベアリングレスモータは磁気支持力を2倍にすることが可能であり、磁気支持力を従来のベアリングレスモータと同じで良いとするならば、電動機巻線と磁気支持巻線を兼ねる巻線は従来モデルと同じ243ターンで良いから、242ターン分の巻線が不要となり、外径サイズ並びに重量の低減が可能であることは容易に理解されるであろう。
【0050】
以上述べたように、
図28(a)に示す本実施形態の巻線統合型ベアリングレスモータ10は、
図28(b)に示す従来の機械的軸受をもつモータ100と外径は同じに構成可能である。また、従来のベアリングレスモータ110と比べて巻線構造が簡単である。
【0051】
なお、本実施形態では、
図11に示すように、トルク発生時にはa点、b点、c点から電流をスイッチング素子N1、N2、N3方向へ流す一方で、支持力発生の際には
図8に示すようにO点を介して流すように構成したが、これとは逆に、支持力発生の際にa点、b点、c点で分流させる一方で、トルク発生の際にはO点を介して流すように構成することも可能である。この場合には、外径及び支持力が従来と同じ大きさである一方で、トルクを約2倍にできる。
【0052】
また、従来のベアリングレスモータ110では支持力発生用に三相インバータが2台、モータ駆動用に2相インバータが1台必要であったが、本実施形態では
図2に示す駆動回路がU1巻線、V1巻線、W1巻線の駆動用に1台、U2巻線、V2巻線、W2巻線の駆動用にもう1台の合計2台であればよい。従って、安価かつ簡素に構成可能である。
【0053】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態である巻線統合型ベアリングレスモータの巻線配置図を
図29に示す。なお、
図1と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。
【0054】
図29において、巻線統合型ベアリングレスモータ40は9スロット6極構造であり、スロット9にはトルク発生用と支持力発生用の両機能を兼用した巻線25が巻かれている。巻線統合型ベアリングレスモータ40は、一種類の固定子巻線でトルクだけでなく、磁気支持力も発生することができるベアリングレスモータである。巻線統合型ベアリングレスモータ40は、dq座標系を用い、電流のq軸成分でトルクを発生し、d軸成分で磁気支持力を発生するようになっている。
【0055】
図29において、固定子1は3つのセクション1、2、3に区切られ、セクション1には三相の巻線N
U1、N
V1、N
W1、セクション2にはN
U2、N
V2、N
W2、セクション3にはN
U3、N
V3、N
W3がそれぞれ巻かれている。回転子11は円筒型のコアで表面に6極の永久磁石(PM)17が周方向において交互に極性を異ならせてリング状に貼り付けられている。
【0056】
次に、トルクと磁気支持力の発生原理を回転座標系のdq座標系を用いて説明する。
トルクの発生原理は従来のモータと同様であり、固定子巻線のq軸電流を制御する。
図30(a)(b)にそれぞれ回転角度0度、15度のときのq軸電流を示す。ωtは回転角度であり、ω[rad/sec]は回転角速度である。各セクションにq軸電流i
qを流すことにより、反時計方向にトルクを発生する。
【0057】
また、磁気支持力は各セクションのd軸電流を制御してギャップ磁束密度をアンバランスにし発生する。
図31(a)(b)に回転角度0度、15度のときのd軸電流を示す。d軸電流はセクション1、2、3のd軸電流をそれぞれi
d1、i
d2、i
d3とし、それぞれ独立に制御する。
【0058】
まず例としてセクション1に注目し、i
d1を磁束強めの方向へ流した時の磁気支持力の発生原理を述べる。
図32に回転角度0度における磁気支持力の発生原理を示す。
図32においてi
d1を流すと磁気支持力F
11、F
12、F
13が発生し、F
11、F
12、F
13の合力として磁気支持力F
1が機械角度0度方向(正負方向)に発生する。セクション2、3におけるF
2、F
3も同様にF
2は120度方向(正負方向)、F
3は240度方向(正負方向)へ磁気支持力を発生する。
【0059】
その結果、F
1、F
2、F
3の合力Fによって回転子を安定に支持する。磁気支持力F
1、F
2、F
3はそれぞれd軸電流i
d1、i
d2、i
d3に比例し、それらの方向はd軸電流の向きによって決まる。例えば、x軸正方向へ力を発生する場合を例に述べる。
図33に回転角度0度におけるx軸正方向への磁気支持力Fの発生原理を示す。F
1、F
2、F
3の合成によりFが発生する。
【0060】
次に回転角度15度における磁気支持力を示す。まず、前述した回転角度0度の場合と同様にしてセクション1に注目する。
図34にセクション1の回転角度15度における磁気支持力の発生原理を示す。なおi
d1の大きさは
図32と同じとする。セクション1にはd軸が2つ存在し、それぞれのd軸方向の磁気支持力F
11、F
12の合力によりF
1が発生する。
【0061】
しかし、0度方向より機械角θ
fずれた方向に力が発生し、力の大きさも
図32に示した0度方向に発生する場合と異なっている。これは回転子11の回転に合わせてd軸が回転するためである。F
2、F
3はF
1と同様であるため、
図35に示すように力の方向は同じ角度だけずれ、同じ割合で力の大きさが変化する。そのため、各セクションにおいて
図33と同じ方向にd軸電流を流した場合、
図36に示すようにF
1、F
2、F
3の合力Fが
図33とは変化してしまう。
【0062】
次に、力の変動を確認するため有限要素法解析を行った。解析の詳細は後述するがi
d1、i
d2、i
d3をそれぞれ一定とし、x軸正方向へ磁気支持力を指令する。
図37に解析によって得たx軸方向磁気支持力Fxおよびy軸方向磁気支持力Fyを示す。
図37より磁気支持力に周期性が認められ、周期は60度である。
図38に回転角度75度におけるF
1を示す。
図38は
図34より回転角度60度進んでいるが、F
1は同じである。このことからセクション1に一定のd軸電流を流した時F
1は周期性をもつことが分かる。
【0063】
次に、第2実施形態のシステム構成について説明する。
図39に制御システム構成図を示す。制御システム50は、電動機制御系51、位置制御系53、電流制御系55で構成されている。電動機制御系51では回転速度を制御し、位置制御系53では回転子11の位置を制御する。電流制御系55ではセクションの巻線電流を決定する。以下、電動機制御系51、位置制御系53、電流制御系55それぞれについて分けて述べる。
【0064】
まず、電動機制御系51において、巻線統合型ベアリングレスモータ40の回転速度ωを検出し、速度の指令値ω
*との誤差Δωを生成する。ΔωをPI制御によって増幅し、q軸電流指令値i
q*を生成する。i
q*を電流制御系へ出力する。
【0065】
次に、位置制御系53について説明する。
位置制御系53は回転子11の位置x、yを検出し位置指令値x
*、y
*との誤差Δx
*、Δy
*を計算し、PID制御によって増幅することで2軸の力の指令値F
x*、F
y*を生成する。F
x*、F
y*を数1により2軸3軸変換することで3軸の力の指令値F
1*、F
2*、F
3*に変換する。
【0067】
そして、F
1*、F
2*、F
3*に比例したd軸電流指令値i
d1*、i
d2*、i
d3*を生成し、電流制御系55の各セクションのブロック毎へ出力する。
【0068】
次に、電流制御系55について説明する。
電流制御系55はセクション毎に分かれており、それぞれの電流指令値を決定し、電流を制御する。電流制御系55についてセクション1を例に述べる。まず電動機制御系51、位置制御系53により生成された回転座標系の電流指令値i
d1*、i
q*を入力し、固定座標系における二相の電流指令値i
a1*、i
b1*に座標変換する。
【0069】
図40に回転座標dq軸、固定座標ab軸の関係を示す。図中のiは固定子巻線電流であり、6極モータなので電気角は3ωtになる。
図40のab軸上のベクトルi
a1*、i
b1*をそれぞれi
d1*、i
q*の式で表すと数2、数3となり、行列式数4で表せる。
【0073】
続いて巻線は三相三線式であるため、二相電流指令値i
a1*、i
b1*を三相電流指令値i
u1*、i
v1*、i
w1*に変換する。i
a1*、i
b1*をi
u1*、i
v1*、i
w1*に二相三相変換する式は数5の通りであり、各相の電流指令値を生成する。
【0075】
電流指令値は電流制御器へ出力され、電流制御器では各相の巻線に流れる電流を検出して、電流指令値に追従するように電流を制御する。セクション2、セクション3についても上記セクション1と同様の処理が行われ、電流が制御される。
【0076】
次に、第2実施形態である巻線統合型ベアリングレスモータ40において磁気支持力が出ることを確認するために解析モデルを用いて、FEM解析を行い、解析の結果からモデルのトルク、磁気支持力を評価した。
表2に解析モデルの諸元を示す。
【0078】
回転子11及び固定子1の材料15HTH1000は新日本製鉄株式会社製の0.15mm厚の薄手電磁鋼板で、炭素鋼S45Cに相当する材料である。
図41に解析モデルの寸法を示す。解析ソフトは株式会社JSOLの電磁界解析ソフトウェアJMAG(Ver.9.1)を用いた。
また、スロット数、極数の増加によりトルクと磁気支持力がどの様に変化するかを確認するため、18スロット12極、36スロット24極のモデルを作成し解析を行った。
【0079】
図42及び
図43にそれぞれのモデルの寸法を、また表3に両モデルの解析条件を示す。寸法は9スロット6極のモデルとほぼ同じで、変更箇所のみ記している。
【0081】
また
図43(b)の巻線の方向は一部のみ示しているが、図示したパターンで一周配置されている。
まずトルクについて表4と
図44に各モデルの解析結果を示す。
【0083】
図45に各モデルのトルクリプルを示す。平均トルクはスロット数の増加によって巻線が減るためであると考えられる。またトルクリプルはスロット数、極数の増加により減少している。
【0084】
次に磁気支持力の解析結果を示す。表5と
図46に各モデルの磁気支持力Fx、
図47に磁気支持力Fyを示す。
【0086】
平均トルクと同様に巻線が減ることにより平均磁気支持力が減少している。また、
図48に支持力振動、干渉についての評価を示す。スロット数、極数の増加により振動、干渉が減っていることが分かる。
このように、巻線統合型ベアリングレスモータ40は、一種類の固定子巻線でトルクだけでなく、磁気支持力も発生することができるように構成したので、巻線構造が簡単である。
【0087】
なお、スロット数、極数が少ない場合(例えば9スロット6極のモデル)は、トルクリプルや支持力振動、干渉の割合が大きいので、力の大きさと方向を補償する必要がある。
【0088】
次に、この補償について説明する。
図39のシステム構成では、モータのスロット数や極数が少ないと支持力振動や干渉の割合が大きい。
図49は回転角度ωtに対する支持力の大きさ|F|と方向θを示している(有限要素法解析の結果)。その結果、支持力の大きさや方向の変動が大きく、安定な軸支持は困難であると思われる。
【0089】
そこで、支持力の補償方法を提案する。
図50に支持力補償付き制御システムの構成図を示す。ここに、支持力補償付き制御システム60は、
図39の制御システム50とは位置制御系63の部分において一部異なる。検出した(発生した)支持力Fと支持力指令値F
*はベクトルを用いて
図51のように描くことができる。発生した支持力Fは指令値F
*と一致せず、その結果、回転軸は不安定になる(このとき制御システムも不安定になる)。
【0090】
今、
図51において実際に発生する力Fは指令値F
*に対して大きさがkf倍で、方向がθfだけ進んでいるとする。安定に軸支持するには、
図52に示すように、F=F
*になるように支持力を補償する。すなわち、検出した力のFとその指令値F
*から支持力係数kfと方向の差θfを計算し、数6により力の指令値の補償を行う。
【0092】
図52中に補償後の指令値Fc
*と実際に発生する力F、補償前の指令値F
*の関係を示した。
図50の補償器付き制御システム構成は、
図39の制御システム構成に対し支持力の大きさ|F|と方向θを補償する補償手段を追加したものである。
図39の制御システム構成と同様の機能については説明を省略する。
【0093】
図50において、回転子軸心へ直交して配置された位置検出器により回転子11の変位x、yを検出し、このデータを元に加速度検出器において加速度を検出し、更に、この加速度を元に磁気支持力Fx、磁気支持力Fy算出器においてFx、Fyを算出する。この磁気支持力Fx、磁気支持力Fyの算出については、スイッチ51を開いた状態(即ち、支持力の大きさ|F|と方向θを補償していない状態)で1回のみ検出すればよい。
【0094】
この補償前のデータを検出した後、スイッチ51を閉じ、ここで検出した力のFとその指令値F
*から支持力係数kfと方向の差θfを計算する。そして、この支持力係数kfと方向の差θfを基に指令値F
*に対し数6により力の指令値の補償を行い、指令値Fc
*を算出する。その後、この指令値Fc
*を2軸3軸変換する。
【0095】
以上の補償により、支持力の大きさや方向の変動の少ない安定した軸支持が可能になる。
【実施例】
【0096】
次に、本発明の第2実施形態の実施例について説明する。
図53に本実施例であるモータ装置の試作機の縦断面図を示す。
図53において、巻線統合型ベアリングレスモータ40は9スロット6極構造であり、スロット9にはトルク発生用と支持力発生用の両機能を兼用した巻線25が巻かれている。巻線統合型ベアリングレスモータ40は、dq座標系を用い、電流のq軸成分でトルクを発生し、d軸成分で磁気支持力を発生するようになっている。
【0097】
回転子11の中心には回転軸12が貫通されており、この回転軸12の上部と下部とにはそれぞれタッチダウンベアリング41、43が配設されている。このタッチダウンベアリング41、43は、それぞれ外筒48の上端面49に設けられた開口60と外筒48の下端に取り付けられたベース61に設けられた開口63とに取り付けられている。
【0098】
そして、回転軸12の径方向位置を検出するためにX軸用ギャップセンサ45が図示しないY軸用ギャップセンサに対して直交するように配設されている。
また、回転軸12の下部には回転角及び回転速度を検出するためのエンコーダ65がそれぞれ配設されている。
なお、本実施例については9スロット6極構造のため支持力の補償制御を付加している。
【0099】
次に本実施例の試験結果について説明する。
【0100】
1.静止浮上試験
静止時からd軸電流を流し、磁気支持実験を行った。ここに静止時とは電流が0で、タッチダウンベアリング41、43に対し回転軸12がタッチダウンの状態である。
【0101】
図54で分かるように、d軸電流が0の磁気支持制御OFFのときは、中心位置(x=0、y=0)から偏心しているが、磁気支持制御ONにすると、回転子11は中心位置で安定に支持されている。なお、電流追従制御を行っているため、磁気支持制御OFF、すなわちd軸電流指令値が0でも微小な電流が流れ、図のように半径方向に振れが生じている。
【0102】
2.回転浮上試験
磁気支持制御OFFのタッチダウン状態において、1000r/minで運転しているとき、d軸電流を流し、磁気支持実験を行った。
図55で分かるように、磁気支持制御OFFのときは、回転子11の変位は±100μm程度と大きいが、磁気支持制御をONにすると、回転子11の変位は中心位置より±30μm程度となり、中心位置付近で安定に支持されている。
【0103】
3.加速試験
磁気支持制御ONの状態で回転子11を0r/minから1000r/minにステップ状に加速した。
図56で分かるように、加速時、加速後において、回転子11の変位は±30μm以内であり、安定に磁気支持されていることがわかる。
【0104】
4.インバータ入力電力
モータを無負荷で運転し、回転子11がタッチダウン時(磁気支持制御OFF)と磁気浮上時、それぞれのインバータの入力電力を測定した。
図57より、500r/min以上で磁気浮上時のインバータ入力はタッチダウン時より小さく、回転速度が速くなるほど、その差は増加する。1500r/minでは、磁気浮上により入力は10%削減できる。従って、省エネである。
【0105】
入力の減少は、磁気浮上によりベアリングの摩擦が無くなるため、回転に必要な電力が減少するためであると考えられる。さらに高速運転すると磁気浮上の効果は大きくなると思われる。この他、磁気浮上により振動、騒音が減少することが確認できた。従って、環境に優しい。
【0106】
5.dq軸電流制御ベアリングレスモータの発生トルクの比較
【0107】
【表6】
【0108】
本モータは機械的軸受を使用する従来モータと同じ電力で、ほぼ同じトルクを発生させながら回転子11の自重の2倍の支持力を発生できることが確認された。