(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3工程では、表面が平坦なアンビルの前記表面に前記第2工程で変形させつつ接合された前記金属母材をその表裏面を反対にして設置し、前記金属母材との接触面が平坦な前記回転ツールを前記変形部位に回転させつつ当接させることによって前記変形部位を平坦にする、請求項2に記載の金属材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のような技術でスポットFSWを行なった場合は、
図50(A)に示すように、アンビル(裏板)20上に重ね合わせた金属母材100,101の上からプローブ11及びショルダー部12を有する回転ツール10を押し込み回転させる。そのため、
図50(B)に示すように、接合面102に対して平行なメタルフローが発生する。そのため、接合に有効である接合面102に垂直な板厚方向のメタルフローが発生し難い。この場合、プローブ11にねじ山を切る等の対策も考えられるが、特に、鉄鋼材料等の高融点の材料を被接合材とする際には、回転ツール10の寿命を短くしてしまう可能性がある。そのため、従来のスポットFSWでは、接合強度の向上が望まれている。
【0006】
本発明は、このような実情に考慮してなされたものであり、その目的は、接合強度を増大させることが可能な金属材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材同士を互いに接触させて配置する第1工程と、第1工程で前記アンビルの表面に配置した金属母材を摩擦熱によって加熱しながら塑性加工を加えることによって、金属母材をアンビルの形状に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する第2工程とを含む金属材の製造方法である。
【0008】
この構成によれば、第1工程でアンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材同士を互いに接触させて配置する。次に、第1工程でアンビルの表面に配置した金属母材を摩擦熱によって加熱しながら塑性加工を加えることによって、金属母材をアンビルの形状に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する。アンビルの形状に沿って変形させられた金属母材は、摩擦熱によって加熱されながら塑性加工を加えられる。このため金属母材同士の接合面を横切る方向に摩擦熱による加熱によるメタルフローが生じる可能性が生じるとともに、変形にともなう塑性加工を導入することになり、接合強度を増大させることができる。
【0009】
なお、本願における「摩擦熱によって加熱しながら塑性加工を加えることによって、金属母材をアンビルの形状に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する」とは、回転ツール等の摩擦熱を金属母材に与える媒体を金属母材同士の接触面方向等に向けて移動させる態様、回転ツール等の摩擦熱を金属母材に与える媒体を移動させない態様、金属母材同士を接合部位で突き合わせて接合する態様、及び金属母材同士を重ね合わせて接合する態様の4つの態様並びにこれらを組み合わせた態様が含まれる。
【0010】
また、本発明は、表面に凹部を有するアンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材を重ね合わせて配置する第1工程と、第1工程でアンビルの表面に配置した金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する第2工程とを含む金属材の製造方法である。
【0011】
この構成によれば、第1工程で表面に凹部を有するアンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材を重ね合わせて配置する。次に、第1工程でアンビルの表面に配置した金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する。アンビルの凹部に沿って変形させられた金属母材は、凹部内で回転ツールによって摩擦攪拌接合をなされる。このため金属母材同士の接合面を横切る方向に攪拌によるメタルフローが生じるとともに、変形にともなう塑性加工を導入することになり、摩擦攪拌接合における接合強度を増大させることができる。
【0012】
この場合、第2工程で変形させつつ接合された金属母材の変形部位に圧力を加えることによって変形部位を平坦にする第3工程をさらに含むことが好適である。
【0013】
この構成によれば、第3工程で第2工程により変形させつつ接合された金属母材の変形部位に圧力を加えることによって変形部位を平坦にする。このため、凹凸となった変形部位を平坦にされた板状の金属材を製造することができる。また、変形部位を平坦とすることで、金属材の強度をさらに増大させることができる。
【0014】
また、第2工程では、金属母材に回転軸が実質的に垂直となるようにして金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合することが好適である。
【0015】
この構成によれば、第2工程では、金属母材に回転軸が実質的に垂直となるようにして金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する。このため、第1工程で表面に凹部を有するアンビルを用意する以外は従来の摩擦攪拌接合とほぼ同様の装置により、接合強度を増大させた摩擦攪拌接合を行なうことができる。なお、本願で「回転軸が実質的に垂直」とは、厳密に板状の金属母材の法線と回転軸とが平行である場合だけに限定されず、0°〜10°の傾斜角が金属母材の法線と回転軸との間にある場合も含む。
【0016】
この場合、第1工程では、表面に溝状の凹部を有するアンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材を重ね合わせて配置し、第2工程では、アンビルの溝状の凹部に沿って回転ツールを移動させながら、金属母材をアンビルの溝状の凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合するものとできる。
【0017】
この構成によれば、第1工程では、表面に溝状の凹部を有するアンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材を重ね合わせて配置し、第2工程では、アンビルの溝状の凹部に沿って回転ツールを移動させながら、金属母材をアンビルの溝状の凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する。このため、長い接合範囲にわたって接合強度を増大させた摩擦攪拌接合を行なうことができる。
【0018】
また、第1工程では、表面の一部を進退動させることにより凹部を有する表面と平坦な表面とを形成可能であって凹部を形成したアンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材を重ね合わせて配置し、第2工程では、金属母材との接触面の一部及び全部のいずれかを進退動させることにより平坦な接触面を形成可能であって平坦な接触面及び平坦でない接触面のいずれかを形成した回転ツールを金属母材に回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合し、第3工程では、平坦な表面を形成したアンビルと、平坦な接触面を形成した回転ツールとによって金属母材の変形部位に圧力を加えることによって変形部位を平坦にすることが好適である。
【0019】
この構成によれば、第1工程では、表面の一部を進退動させることにより凹部を有する表面と平坦な表面とを形成可能であって凹部を形成したアンビルの表面に2枚以上の板状の金属母材を重ね合わせて配置する。つまり、アンビルの表面は平坦にしたり凹部を形成したりすることが自在とされている。
【0020】
また、第2工程では、金属母材との接触面の一部及び全部のいずれかを進退動させることにより平坦な接触面を形成可能であって平坦な接触面及び平坦でない接触面のいずれかを形成した回転ツールを金属母材に回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する。つまり、回転ツールは、例えばプローブ部が進退動することにより、プローブ部がショルダー部から突出していたり、プローブ部がショルダー部に引っ込んでプローブ部の無い平坦な接触面とすることが自在とされている。なお、第2工程では、回転ツールの接触面の形状はいずれでも良い。
【0021】
さらに、第3工程では、平坦な表面を形成したアンビルと、平坦な接触面を形成した回転ツールとによって金属母材の変形部位に圧力を加えることによって平坦にする。これにより、アンビル及び回転ツールを変更することなく、第1〜第3工程までを行なうことができるため、作業の効率を向上させることができる。
【0022】
この場合、第2工程では、金属母材に回転軸が実質的に垂直となるようにしてアンビルを回転させながら、金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合し、第3工程では、金属母材に回転軸が実質的に垂直となるようにしてアンビル及び回転ツールの少なくともいずれかを回転させつつ金属母材の変形部位に圧力を加えることによって変形部位を平坦にすることが好適である。
【0023】
この構成によれば、第2工程では、金属母材に回転軸が実質的に垂直となるようにしてアンビルを回転させながら、金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合し、第3工程では、金属母材に回転軸が実質的に垂直となるようにしてアンビル及び回転ツールの少なくともいずれかを回転させつつ金属母材の変形部位に圧力を加えることによって変形部位を平坦にする。このため、アンビルや回転ツールの回転により、第2工程及び第3工程をさらに効率良く行なうことができる。
【0024】
また、第2工程では、アンビルと回転ツールとを金属母材に平行に移動させながら、金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合することが好適である。
【0025】
この構成によれば、第2工程では、アンビルと回転ツールとを金属母材に平行に移動させながら、金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する。これにより、長い接合範囲にわたって接合強度を増大させた摩擦攪拌接合をさらに効率良く行なうことができる。
【0026】
また、第2工程では、金属母材に回転軸が平行となるようにして金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合するものとできる。
【0027】
この構成によれば、第2工程では、金属母材に回転軸が平行となるようにして金属母材に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材をアンビルの凹部に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する。このため、回転軸に沿った回転ツールの長さを変更することにより、所望の長さの接合範囲にわたって接合強度を増大させた摩擦攪拌接合を行なうことができる。
【0028】
また、第3工程では、表面が平坦なアンビルの表面に第2工程で変形させつつ接合された金属母材を設置し、金属母材との接触面が平坦な回転ツールを変形部位に回転させつつ当接させることによって変形部位を平坦にするものとできる。
【0029】
この構成によれば、第3工程では、表面が平坦なアンビルの表面に第2工程で変形させつつ接合された金属母材を設置し、金属母材との接触面が平坦な回転ツールを変形部位に回転させつつ当接させることによって変形部位を平坦にする。これにより、簡単な手法で効率良く変形部位を平坦にすることができる。
【0030】
この場合、第3工程では、表面が平坦なアンビルの表面に第2工程で変形させつつ接合された金属母材をその表裏面を反対にして設置し、金属母材との接触面が平坦な回転ツールを変形部位に回転させつつ当接させることによって変形部位を平坦にするものとできる。
【0031】
この構成によれば、表面が平坦なアンビルの表面に第2工程で変形させつつ接合された金属母材をその表裏面を反対にして設置し、金属母材との接触面が平坦な回転ツールを変形部位に回転させつつ当接させることによって変形部位を平坦にする。金属母材をその表裏面を反対にして設置することにより、変形部位をさらに効率良く平坦にできる場合がある。
【発明の効果】
【0032】
本発明の金属材の製造方法によれば、接合強度を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】(A)〜(D)は第1実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す図である。
【
図2】第2実施形態に係るアンビルを示す斜視図である。
【
図3】第2実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す斜視図である。
【
図4】(A)〜(C)は第3実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す図である。
【
図5】第4実施形態に係る摩擦攪拌接合の第1ステップを示す斜視図である。
【
図6】第4実施形態に係る摩擦攪拌接合の第2ステップを示す斜視図である。
【
図7】(A)〜(D)は第5実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す図である。
【
図8】第6実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す斜視図である。
【
図9】(A)〜(C)は第7実施形態及び第8実施形態に係る摩擦攪拌接合を示す図である。
【
図10】実験例1における6061−T6Al材の金属組織を示す図である。
【
図11】(A)は実験例1の第1ステップ後における試料表面を示す図であり、(B)は実験例1の第1ステップ後における試料裏面を示す図である。
【
図12】(A)は実験例1の第2ステップ後における試料表面を示す図であり、(B)は実験例1の第1ステップ後における試料裏面を示す図である。
【
図13】実験例1の第1ステップ後における試料断面を示す図である。
【
図14】実験例1の第2ステップ後における試料断面を示す図である。
【
図15】(A)〜(D)は実験例1の第2ステップ後における各部の金属組織を示す図である。
【
図16】実験例1の第2ステップ後における試料断面の各部を示す図である。
【
図17】
図16の各部におけるビッカース硬度を示すグラフである。
【
図18】実験例1の第1ステップ後及び第2ステップ後のせん断試験の結果を示すグラフである。
【
図19】回転ツールの回転速度を変えた場合の実験例1の第2ステップ後のせん断試験の結果を示すグラフである。
【
図20】実験例1における十字引張強度試験の結果を示す表である。
【
図21】実験例2における5052Al−O材の金属組織を示す図である。
【
図22】実験例2の第1ステップ後における試料断面を示す図である。
【
図23】実験例2の第2ステップ後における試料断面を示す図である。
【
図24】実験例2の第2ステップ後における試料断面の各部を示す図である。
【
図28】実験例2の第2ステップ後における試料断面の各部を示す図である。
【
図29】
図28の各部におけるビッカース硬度を示すグラフである。
【
図30】実験例2の第1ステップ後及び第2ステップ後のせん断試験の結果を示すグラフである。
【
図31】実験例2の第1ステップ後及び第2ステップ後のせん断試験の結果と従来のスポットFSWによるせん断試験の結果とを比較したグラフである。
【
図32】実験例2における十字引張強度試験の結果を示す表である。
【
図33】実験例3におけるSPCCの金属組織を示す図である。
【
図34】実験例3の第1ステップ後における試料表面を示す図である。
【
図35】実験例3の第2ステップ後における試料表面を示す図である。
【
図36】実験例3の第1ステップ後における試料断面を示す図である。
【
図37】実験例3の第2ステップ後における試料断面を示す図である。
【
図38】実験例3の第2ステップ後における試料表層部の金属組織を示す図である。
【
図39】実験例3の第2ステップ後における試料底層部の金属組織を示す図である。
【
図40】各部におけるビッカース硬度を示すグラフである。
【
図41】実験例3の第1ステップ後及び第2ステップ後のせん断試験の結果を示すグラフである。
【
図42】回転ツールの回転速度を変えた場合の実験例3の第2ステップ後のせん断試験の結果を示すグラフである。
【
図43】実験例4の第1ステップ後における試料表面を示す図である。
【
図44】実験例4の第2ステップ後における試料表面を示す図である。
【
図45】実験例4の接合部界面のBSE像を示す図である。
【
図46】実験例4のAl材中に混入した粒子のEDS分析の結果を示すグラフである。
【
図47】実験例4の接合部界面の金属組織を示す図である。
【
図48】(A)は実験例4の第2ステップ後における試料を示す図であり、(B)は引張せん断試験後に破断した試料を示す図である。
【
図49】実験例4の第1ステップ後及び第2ステップ後のせん断試験の結果を示すグラフである。
【
図50】(A)〜(B)は従来のスポット摩擦攪拌接合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の第1実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1(A)に示すように、本実施形態では、凹部21aが表面に設けられたアンビル(裏板)20aが用意される。アンビル20aの表面には、板状の金属母材100,101が互いに接合面102で接しつつ重ね合わされて設置される。以下、本発明の金属材の製造方法では、重ね合わせられる金属母材の枚数は、
図1(A)のような2枚に限定されず、3枚以上とすることができる。
【0035】
金属母材100,101の凹部21aに対応する位置の上方には、回転ツール10aが用意される。回転ツール10aは略円筒状をなし、先端のショルダー部12aより小径の略円柱状のプローブ部11aを備えている。プローブ部11aの形状は、アンビル20aの凹部21aに対応した形状となっている。後述するように、本実施形態では、金属母材100,101同士の接合面102を横切る方向に攪拌によるメタルフローが生じるため、プローブ部11aの側面にねじ山を切る必要は無い。しかし、必要に応じてプローブ部11aの側面にねじ山を切っても良い。回転ツール10aの材質は、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)を主成分とする超硬合金、Si
3N
4、PCBN等のセラミックス、またはW合金、Ir合金等の高融点金属からなるものとすることができる。なお、本実施形態ではプローブ部11aが設けられておらず平坦な接触面を有する回転ツールと、プローブ部11aが設けられていない平坦な接触面を有する回転ツールの形状に対応した凹部21aを有するアンビル20aとを組み合わせても良い。
【0036】
図1(B)に示すように、アンビル20aの表面に配置した金属母材100,101に回転ツール10aを回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20aの凹部21aに沿って変形させつつ金属母材同士100,101が接合される。
図1(B)に示すように、本実施形態では、金属母材100,101同士の接合面102を横切る方向に攪拌によるメタルフローが生じる。なお、本発明の金属材の製造方法では、回転ツール10aの回転軸の角度は、
図1(B)のように金属母材100,101の表面の法線に平行であるものに限定されず、0°〜10°の傾斜角が金属母材100,101の法線と回転ツール10a回転軸との間に設けられていても良い。
【0037】
図1(C)に示すように、接合後の凹部103が形成されつつ接合された金属母材100,101の表面及び裏面の両側から表面が平坦なアンビル30,40が当接させられる。
図1(D)に示すように、金属母材100,101の表面及び裏面の両側からアンビル30,40により圧力が加えられ、凹部103が平坦にされる。この場合において、アンビル30,40のいずれか一方あるいは両方が、凹部103を中心として回転しつつ金属母材100,101に圧力を加えても良く、アンビル30,40のいずれも回転せずに金属母材100,101に圧力を加えても良い。
【0038】
本実施形態では、表面に凹部21aを有するアンビル20aの表面に板状の金属母材100,101を重ね合わせて配置する。次に、アンビル20aの表面に配置した金属母材100,101に回転ツール10aを回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20aの凹部21aに沿って変形させつつ金属母材100,101同士を接合する。アンビル20aの凹部21aに沿って変形させられた金属母材100,101は、凹部21a内で回転ツール10aによって摩擦攪拌接合をなされる。このため金属母材100,101同士の接合面102を横切る方向に攪拌によるメタルフローが生じる。このため、摩擦攪拌接合における接合強度を増大させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、変形させつつ接合された金属母材100,101の凹部103に圧力を加えることによって凹部103を平坦にする。このため、凹凸となった凹部103を平坦にされた板状の金属材を製造することができる。また、凹部103を平坦とすることで、金属材の強度を増大させることができる。
【0040】
また、本実施形態では、金属母材100,101に回転軸が実質的に垂直となるようにして金属母材100,101に回転ツール10aを回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20aの凹部21aに沿って変形させつつ金属母材100,101同士を接合する。このため、表面に凹部21aを有するアンビル20aを用意する以外は従来の摩擦攪拌接合とほぼ同様の装置により、接合強度を増大させた摩擦攪拌接合を行なうことができる。
【0041】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、
図2に示すように、表面に溝状の凹部21bを有するアンビル20bが用意される。
図3に示すように、表面に溝状の凹部21bを有するアンビル20bの表面に板状の金属母材100,101が重ね合わされて配置される。アンビル20bの溝状の凹部21bに沿って回転ツール10aが回転させられつつ移動させられることにより、金属母材100,101がアンビル20bの溝状の凹部21bに沿って変形させられつつ金属母材100,101同士が接合される。本実施形態においても、溝状の凹部21bと回転ツール10aのプローブ部11aの形状は対応したものとされている。また、接合後の金属母材100,101に形成された凹部103は、上記第1実施形態と同様に、金属母材100,101の表面及び裏面の両側から表面が平坦なアンビル30,40により圧力が加えられることにより、凹部103が平坦にされる。
【0042】
本実施形態では、表面に溝状の凹部21bを有するアンビル20bの表面に板状の金属母材100,101を重ね合わせて配置し、アンビル20bの溝状の凹部21bに沿って回転ツール10aを移動させながら、金属母材100,101をアンビル20bの溝状の凹部21bに沿って変形させつつ金属母材100,101同士を接合する。このため、長い接合範囲にわたって接合強度を増大させた摩擦攪拌接合を行なうことができる。
【0043】
以下、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、
図4(A)に示すように、アンビル20cは、ショルダー部22から表面の一部を進退動させることにより凹部21cを有する表面と平坦な表面との両方を形成可能とされている。まず、アンビル20cには、ショルダー部22から表面の一部が引き込まれ、凹部21cが形成される。凹部21cが形成されたアンビル20cの表面に板状の金属母材100,101を重ね合わせて配置される。
【0044】
また、
図4(A)に示すように、回転ツール10bは、プローブ部11bをショルダー部12bとは独立して進退動させることにより、金属母材100,101との接触面をプローブ部11bがショルダー部12bから突出した接触面とプローブ部11bがショルダー部12bから引き込まれて平坦となった接触面との両方を形成することが可能とされている。まず、プローブ部11bがショルダー部12bから突出させられた状態の回転ツール10bが用意される。なお、本実施形態では、プローブ部11bがショルダー部12bから引き込まれて平坦となった接触面を有する回転ツール10bや、はじめからプローブ部11bが設けられておらず平坦な接触面を有する回転ツールと、平坦な接触面を持つ回転ツール10c等の形状に合わせた凹部21cを有するアンビル20cとを組み合わせても良い。
【0045】
図4(B)に示すように、アンビル20cの表面に配置した金属母材100,101に回転ツール10bを回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20cの凹部21cに沿って変形させて凹部103を形成させつつ金属母材同士100,101が接合される。本実施形態では、アンビル20cも同様に回転させられる。なお、回転ツール10bとアンビル20cとの回転方向は同じ方向でも反対方向でも良い。また、アンビル20cを回転させず、回転ツール10bのみを回転させても良い。また、回転ツール10bとアンビル20cとの回転速度も同じでも異なっていても良い。
【0046】
図4(C)に示すように、アンビル20cは回転させられつつ、アンビル20cの凹部21cはショルダー部22と平坦になるように押し出され、金属母材100,101の凹部103に対して圧力をかける。また、回転ツール10bは回転させられつつ、プローブ部11bはショルダー部12bから引き込まれ金属母材100,101と平坦な接触面を形成する。この場合、回転ツール10b及びアンビル20cのいずれかのみを回転させるようにしても良い。また、はじめからプローブ部11bが設けられておらず平坦な接触面を有する回転ツールが使用されている場合は、回転ツールを金属母材100の表面に合わせて後退させるようにする。このようにして、金属母材100,101の凹部103に圧力が加えられることによって凹部103は平坦にされる。
【0047】
本実施形態では、表面の一部を進退動させることにより凹部21cを有する表面と平坦な表面とを形成可能であって凹部21cを形成したアンビル20cの表面に板状の金属母材100,101を重ね合わせて配置する。つまり、アンビル20cの表面は平坦にしたり凹部21cを形成したりすることが自在とされている。
【0048】
また、プローブ部11bを進退動させることにより平坦な接触面を形成可能であって平坦な接触面及び平坦でない接触面のいずれかを形成した回転ツール10bを金属母材100,101に回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20cの凹部21cに沿って変形させつつ金属母材100,101同士を接合する。つまり、回転ツール10bは、例えばプローブ部11bが進退動することにより、プローブ部11bがショルダー部12bから突出していたり、プローブ部111bがショルダー部12bに引っ込んでプローブ部11bの無い平坦な接触面とすることが自在とされている。
【0049】
さらに、平坦な表面を形成したアンビル20cと、平坦な接触面を形成した回転ツール10bとによって金属母材100,101の凹部103に圧力を加えることによって平坦にする。これにより、アンビル20c及び回転ツール10bを変更することなく、全ての工程を行なうことができるため、作業の効率を向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、金属母材100,101に回転軸が実質的に垂直となるようにしてアンビル20cを回転させながら、金属母材100,101に回転ツール10bを回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20cの凹部21cに沿って変形させつつ金属母材100,101同士を接合し、金属母材100,101に回転軸が実質的に垂直となるようにしてアンビル20c及び回転ツール10bの少なくともいずれかを回転させつつ金属母材100,101の凹部103に圧力を加えることによって凹部103を平坦にする。このため、アンビル20cや回転ツール10bの回転により、各工程をさらに効率良く行なうことができる。
【0051】
以下、本発明の第4実施形態について説明する。
図5に示すように、本実施形態では、上記第3実施形態のようなアンビル20cと回転ツール10bとを金属母材100,101に平行に移動させながら、金属母材100,101に回転ツールを回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20cの凹部21cに沿って変形させつつ金属母材100,101同士が接合される。この場合、通常のFSWと同様に、アンビル20cと回転ツール10bとが移動した後には、金属母材100,101には溝状の凹部103は形成されない。次に、
図6及び上記第3実施形態の
図4(C)に示すように、アンビル20cと回転ツール10bとの移動の終端部において、アンビル20cと回転ツール10bとによって金属母材100,101の溝状の凹部103に圧力を加えることによって、アンビル20cと回転ツール10bとの移動の終端部における凹部103が平坦にされる。
【0052】
本実施形態では、長い接合範囲にわたって接合強度を増大させた摩擦攪拌接合をさらに効率良く行なうことができる。
【0053】
以下、本発明の第5実施形態について説明する。
図7(A)に示すように、本実施形態では、金属母材100,101の表面に回転軸が平行となる略円筒形状の回転ツール10cが用意される。アンビル20dの凹部21dの形状は、円筒形状の回転ツール10cに対応した形状とされる。
図7(B)に示すように、金属母材100,101に回転軸が平行となるようにして金属母材100,101に回転ツール10cが回転させられつつ当接させられることによって、金属母材100,101をアンビル20dの凹部21dに沿って変形させられつつ金属母材100,101同士が接合される。
図7(C)〜(D)の金属母材100,101の凹部103を平坦にする工程は、上記第1実施形態の
図1(C)〜(D)と同様に行なわれる。この場合、
図8に示す本発明の第6実施形態のように、長い円筒形状の回転ツール10cを用い、長い接合範囲を一度に接合するようにしても良い。
【0054】
本実施形態では、金属母材100,101に回転軸が平行となるようにして金属母材金属母材100,101に回転ツール10cを回転させつつ当接させることによって、金属母材100,101をアンビル20dの凹部21dに沿って変形させつつ金属母材100,101同士を接合する。このため、回転軸に沿った回転ツール10cの長さを変更することにより、所望の長さの接合範囲にわたって接合強度を増大させた摩擦攪拌接合を行なうことができる。
【0055】
以下、本発明の第7実施形態について説明する。本実施形態では、
図9(A)に示すように、上記第1実施形態の
図1(A)〜(B)と同様に金属母材100,101の接合が行なわれた後、
図9(B)に示すように、表面が平坦なアンビル40の表面に変形させられつつ接合された金属母材100,101を設置し、金属母材100,101との接触面が平坦なプローブ部が設けられていない回転ツール10dを凹部103に回転させつつ当接させることによって凹部103を平坦にする。本実施形態によれば、簡単な手法で効率良く変形部位を平坦にすることができる。
【0056】
あるいは、
図9(A)に示すように金属母材100,101の接合が行なわれた後、
図9(C)に示す本発明の第8実施形態のように、表面が平坦なアンビル40の表面に変形させられつつ接合された金属母材100,101をその表裏面を反対にして設置し、金属母材100,101との接触面が平坦なプローブ部が設けられていない回転ツール10dを凹部103に回転させつつ当接させることによって凹部103を平坦にしても良い。本実施形態によれば、金属母材100,101をその表裏面を反対にして設置することにより、凹部103をさらに効率良く平坦にできる場合がある。
【0057】
(実験例1:6061−T6Al材の摩擦攪拌接合)
以下、本発明の実験例について説明する。
図9(A)〜(B)に示す方法で6061−T6Al材の摩擦攪拌接合を行なった。
図9(A)に示す回転ツール10aには、SKD61鋼からなるショルダー部12aの直径が12mm、プローブ部11aの直径が4mmで長さが1mmのものを用いた。
図9(B)に示す回転ツール10dには、WCからなるショルダー部12aの直径が15mmでプローブ部が設けられていないものを用いた。荷重はアンビル40からの荷重を含めて400〜600kgとし、回転ツール10a,10dの回転速度は300〜600rpmとし、保持時間は5秒とした。
【0058】
6061−T6Al材の組成は、Si:0.59質量%,Fe:0.38質量%,Cu:0.26質量%,Mn:0.03質量%,Mg:0.96質量%,Cr:0.25質量%,Zn:0.02質量%,Ti:0.04質量%で残余がAlである。試料として用いた金属母材100,101のサイズは150×50mm、厚さ1.0mmのものを用いた。引張試験は、JIS Z3137規格の十字引張試験を行なった。
【0059】
本実験例の6061−T6Al材は
図10に示す金属組織を有する。平均粒径は約17.6μmである。
図9(A)の工程(以下、実験例1〜4に限定して第1ステップと呼ぶことがある)を行なった後の金属母材100,101の表面は
図11(A)に示すように凹部が形成され、裏面は
図11(B)に示すように隆起が形成された。隆起の側は、接合条件と入熱とに依存する。回転速度を大きくするほど、隆起は大きくなる。アンビル40から接合した金属母材100,101を取り除くことは容易に行なえた。
図9(B)の工程(以下、実験例1〜4に限定して第2ステップと呼ぶことがある)を行なった後の金属母材100,101の表面は
図12(A)に示すように凹部が回転ツール10dによる押圧により除去された。第2ステップ後の金属母材100,101の裏面は
図12(B)に示すように表面と同様に隆起が除去された。
【0060】
図13に第1ステップ後の接合部の断面図を示し、
図14に第2ステップ後の接合部の断面図を示す。いずれも、回転ツール10a,10dの荷重500kg、回転数500rpm及び保持時間5秒の結果である。
図14のSZは攪拌部SZを示し、Fは破断が生じる破断箇所Fを示す。第2ステップ後には、表面の凹部と裏面の隆起とは除去された。攪拌部SZには、いかなる欠陥も観測されなかった。
図15(A)〜(D)に示すように、
図15(B)の表層部、
図15(C)の中層部及び
図15(D)の底層部のいずれにおいても、第2ステップ後の粒径は非常に小さくなっていた。接合部の表層部では最も粒径が小さく、2.0μmであり、接合部の底層部では最も粒径が大きく、6.5μmであった。これは、接合時の異なる塑性変形のためである。
【0061】
第2ステップ後の攪拌部SZの硬度は、
図16及び
図17に示すようになる。
図18及び
図19にせん断試験の結果を示す。
図18及び
図19に示すように、第2ステップ後のせん断強度は第1ステップのみの場合よりも非常に増大している。破断強度は、条件の最適化により、回転ツール10dの荷重500kg、回転数400rpm及び保持時間5秒のときに最大の4222Nに達する。また、十字引張試験の結果を
図20に示す。
【0062】
(実験例2:5052Al−O材の摩擦攪拌接合)
以下、本発明の実験例2について説明する。本実験例では、上記実験例1と同様の実験を5052Al−O材について行なった。5052Al−O材の組成は、Si:0.1質量%,Fe:0.22質量%,Cu:0.01質量%,Mn:0.01質量%,Mg:2.24質量%,Cr:0.22質量%,Zn:0.01質量%,Ti:0.01質量%で残余がAlである。本実験例の5052Al−O材は
図21に示す金属組織を有する。平均粒径は約19.4μmである。
【0063】
図22に第1ステップ後の接合部の断面図を示し、
図23に第2ステップ後の接合部の断面図を示す。いずれも、回転ツール10a,10dの荷重500kg、回転数400rpm及び保持時間5秒の結果である。本実験例2の接合部の形状は、実験例1の6061−T6Al材と類似している。
【0064】
図24〜
図27に示すように、
図25の表層部、
図26の中層部及び
図27の底層部のいずれにおいても、第2ステップ後の粒径は非常に小さくなっていた。接合部の表層部では最も粒径が小さく、接合部の底層部では最も粒径が大きかった。これは、接合時の異なる塑性変形のためである。
【0065】
第2ステップ後の攪拌部SZの硬度は、
図28及び
図29に示すようになる。
図28及び
図29に示すように、接合前の金属母材100,101に比べて攪拌部SZの硬度は増大する。金属母材100,101がアニールされた状態であったため、硬度の増加は、攪拌部の粒径の減少、固溶硬化及び転位密度が増大することによって生じる。第2ステップ後では、攪拌部SZの中央部の極めて高い硬度が分布している幅は約14mmであり、回転ツール10aのプローブ部11aの直径及び第1ステップ後の金属母材100,101の凹部103の径よりも広い。
【0066】
図30及び
図31にせん断試験の結果を示す。接合条件に依存するせん断負荷1800〜2850Nの通常のスポットFSWと比較すると、本実験例のせん断負荷は、第1ステップ後で2500Nに達し、第2ステップ後で3310Nに達している。これにより、本実験例による接合部の機械的特性は非常に向上していることが判る。また、十字引張試験の結果を
図32に示す。
【0067】
(実験例3:SPCC鋼材の摩擦攪拌接合)
以下、本発明の実験例3について説明する。本実験例では、上記実験例1と同様の実験をSPCC鋼材について行なった。本実験例のSPCC鋼材は
図33に示す金属組織を有する。平均粒径は約19.4μmである。
図34に示すように、第1ステップ後に金属母材100,101の表面に形成された凹部は、
図35に示すように、回転ツール10dによる押圧により除去された。
【0068】
図36に第1ステップ後の接合部の断面図を示し、
図37に第2ステップ後の接合部の断面図を示す。
図38に示すように、第2ステップ後の攪拌部SZの表層部の平均粒径は3.72μmと極めて微細化されており、
図39に示すように、底層部でも平均粒径18.89μmと微細化されていた。
【0069】
図40に示すように、第2ステップ後では、攪拌部SZの中央部の極めて高い硬度が分布している幅は約4mmであり、回転ツール10aのプローブ部11aの直径及び第1ステップ後の金属母材100,101の凹部103の径と同じである。第2ステップ後では、極めて複雑な塑性流動が生じたため、粒径は極めて小さくなる。
図41及び
図42に引張せん断試験の結果を示す。
【0070】
図41中の「第1ステップ後」においては第1ステップのみを回転ツール10aの荷重500kg、回転速度500rpm及び保持時間2秒で行なった結果を示す。
図41中の「第2ステップ後−01」においては第1ステップを回転ツール10aの荷重500kg、回転速度400rpm及び保持時間2秒で行なった後に第2ステップを回転ツール10dの荷重900kg、回転速度500rpm及び保持時間5秒で行なった結果を示す。
図41中の「第2ステップ後−02」においては第1ステップを回転ツール10aの荷重500kg、回転速度300rpm及び保持時間4秒で行なった後に第2ステップを回転ツール10dの荷重700kg、回転速度500rpm及び保持時間5秒で行なった結果を示す。
図41中の「第2ステップ後−03」においては第1ステップを回転ツール10aの荷重500kg、回転速度400rpm及び保持時間2秒で行なった後に第2ステップを回転ツール10dの荷重1000kg、回転速度500rpm及び保持時間5秒で行なった結果を示す。
図41中の「第2ステップ後−04」においては第1ステップを回転ツール10aの荷重500kg、回転速度300rpm及び保持時間4秒で行なった後に第2ステップを回転ツール10dの荷重500kg、回転速度400rpm及び保持時間5秒で行なった結果を示す。
【0071】
図41に示すように、第2ステップ後における引張せん断特性は、第1ステップ後の物と変化が見られなかった。また、
図42に示すように、第2ステップにおける回転ツール10dの荷重の増加に伴い、引張せん断負荷は増加した。第2ステップにおける回転ツール10dの回転速度と引張せん断負荷との関係は、摩擦圧(荷重)が100MPaの場合は、回転ツール10dの回転速度が2500rpmの場合の引張せん断負荷が、回転速度が3000rpm及び3500rpmの場合よりも低くなったが、摩擦圧が120〜140MPaの場合においては、回転ツール10dの回転速度による引張せん断負荷の相違は微差であった。
【0072】
(実験例4:Al材とFe材との摩擦攪拌接合)
以下、本発明の実験例4について説明する。本実験例では、上記実験例1と同様の実験をAl材とFe材との摩擦攪拌接合について行なった。
図43に第1ステップ後の接合部の断面図を示し、
図44に第2ステップ後の接合部の断面図を示す。第1ステップ及び第2ステップ後に強固な接合が形成された。欠陥は観察されなかった。
図45に接合面102のBSE像を示し、
図46に接合面102のEDS分析を示す。
図45より、Al材にパーティクルが混入していることが判る。
図46のEDS分析により、パーティクルはAl
3Feであると同定された。
図47に接合部界面の金属組織を示す。
【0073】
図48(A)に接合した金属母材100,101を示し、
図48(B)に引張せん断試験により破断した金属母材100,101を示す。また、
図49に引張せん断試験の結果を示す。第1ステップ及び第2ステップとも、回転ツール10a,10dの回転速度500rpm、負荷500kgで行なった。第1ステップでは回転ツール10aの保持時間を2秒とし、第2ステップでは回転ツール10dの保持時間を2秒又は5秒とした。
図49より、保持時間の相違は第2ステップ後の引張特性に何ら影響を及ぼさないことが判る。第1ステップ後に比べると、400Nのせん断負荷が第2ステップ後に増大している。なお、同一のAl材及びFe材を
図9(A)及び(C)に示す方法で接合したところ、引張特性がわずかに向上した。
【0074】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明は、2枚の板材を接合する場合だけではなく、素材を塑性加工によって高強度化する摩擦攪拌プロセスとしても使用することができる。この場合には、必ずしも2枚以上の板ではなく、1枚の板に対して本発明を利用した摩擦攪拌プロセスを行なうことができる。また、本発明は、特に、3枚以上の板材の接合の際に、その有効性が顕著である。加えて、本発明において、摩擦熱によって加熱しながら塑性加工を加えることによって、金属母材をアンビルの形状に沿って変形させつつ金属母材同士を接合する態様には、回転ツール等の摩擦熱を金属母材に与える媒体を金属母材同士の接触面方向等に向けて移動させる態様、回転ツール等の摩擦熱を金属母材に与える媒体を移動させない態様、金属母材同士を接合部位で突き合わせて接合する態様、及び金属母材同士を重ね合わせて接合する態様の4つの態様並びにこれらを組み合わせた態様が含まれる。