特許第5732851号(P5732851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5732851防汚塗料組成物、防汚塗膜の製造方法、および防汚塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732851
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物、防汚塗膜の製造方法、および防汚塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20150521BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150521BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20150521BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C09D133/00
   C09D5/16
   C09D4/02
   C09D7/12
   B05D5/00 H
   B05D7/24 302P
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-514738(P2010-514738)
(86)(22)【出願日】2010年4月6日
(86)【国際出願番号】JP2010056251
(87)【国際公開番号】WO2011125179
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2013年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】岩本 暁生
(72)【発明者】
【氏名】中村 末男
(72)【発明者】
【氏名】金澤 亘晃
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−077250(JP,A)
【文献】 特開2000−273384(JP,A)
【文献】 特開2010−001395(JP,A)
【文献】 特開2006−206873(JP,A)
【文献】 特開平08−283362(JP,A)
【文献】 特開2003−171579(JP,A)
【文献】 特開2002−241676(JP,A)
【文献】 特開2002−037827(JP,A)
【文献】 特開平08−209058(JP,A)
【文献】 特開平03−077677(JP,A)
【文献】 特開2001−200020(JP,A)
【文献】 特開2007−023243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/00
B05D 5/00
B05D 7/24
C09D 4/02
C09D 5/16
C09D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルポリマー(P)、ラジカル重合性モノマー(M)、および有機過酸化物(O)を含有する防汚塗料組成物であって、前記アクリルポリマー(P)および前記ラジカル重合性モノマー(M)の少なくとも一方が、2価の金属エステル構造を有する防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記アクリルポリマー(P)の酸価が25mgKOH/g以上である請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記アクリルポリマー(P)が、2価の金属エステル構造を有するラジカル重合性モノマーを重合させて得られたものである請求項1または2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
アクリルポリマー(P)、ラジカル重合性モノマー(M)、および有機過酸化物(O)を含有する防汚塗料組成物を基材に塗布した状態で、前記有機過酸化物(O)を分解させる工程を有し、前記アクリルポリマー(P)および前記ラジカル重合性モノマー(M)の少なくとも一方が、2価の金属エステル構造を有する防汚塗膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られた防汚塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物および防汚塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶や海洋構造物の浸水部分には、フジツボ、フナクイムシ、藻類など海中生物の付着による腐食防止や船舶の航行速度の低下を防ぐために防汚塗料が塗装されている。また、養殖用の網においては、海中生物の付着による網の目詰まりを防ぐために防汚塗料が塗装されている。
【0003】
このような防汚塗料としては、有機錫を含み、塗膜表面を徐々に溶解させて塗膜表面に常に防汚成分を露出させることによって長期の防汚性を発現させる自己研磨性を有する防汚塗料が知られていた。しかし、防汚塗料として有機錫を用いた場合、海水中に溶出する有機錫が魚介類に対して影響を及ぼすため、有機錫を使用しない自己研磨性を有する塗料の開発が進められている。例えば、特許文献1には、Mg、Zn、Cu等の金属エステル構造を有するアクリルポリマーを含む防汚塗料組成物が記載されている。
【0004】
さらに、塗料から揮発した有機溶剤による種々の影響を考慮して、塗料に含まれる有機溶剤の量を減らす検討も行われている。例えば、特許文献2には、側鎖に金属エステル構造を有するアクリル樹脂ワニスを含み、不揮発分が40質量%以上、25℃における粘度が18ポイズ以下、有機溶剤含量が400g/l以下の防汚塗料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−273384号公報
【特許文献2】特開2002−241676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の防汚塗料組成物は、アクリルポリマーの粘度が高いため、多量の有機溶剤を使用して塗装に適した粘度まで希釈する必要があった。このため、塗膜の乾燥にも時間がかかっていた。また、特許文献2に記載の防汚塗料で形成した塗膜は、分子量が低く塗膜強度が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、塗膜を形成する際に使用する有機溶剤の量が少なく、強度と自己研磨性を長期間維持し、優れた防汚性を発揮する塗膜を形成可能な防汚塗料組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、強度と自己研磨性を長期間維持し、優れた防汚性を発揮する防汚塗膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の要旨は、アクリルポリマー(P)、ラジカル重合性モノマー(M)、および有機過酸化物(O)を含有する防汚塗料組成物であって、前記アクリルポリマー(P)および前記ラジカル重合性モノマー(M)の少なくとも一方が、2価の金属エステル構造を有する防汚塗料組成物にある。
【0009】
本発明の第二の要旨は、アクリルポリマー(P)、ラジカル重合性モノマー(M)、および有機過酸化物(O)を含有する防汚塗料組成物を基材に塗布した状態で、前記有機過酸化物(O)を分解させる工程を有し、前記アクリルポリマー(P)および前記ラジカル重合性モノマー(M)の少なくとも一方が、2価の金属エステル構造を有する防汚塗膜の製造方法にある。
【0010】
本発明の第三の要旨は、上記防汚塗膜の製造方法により得られた防汚塗膜にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗膜を形成する際に使用する有機溶剤の量を少なくでき、強度と自己研磨性を長期間維持し、優れた防汚性を発揮する塗膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<防汚塗料組成物>
本発明の防汚塗料組成物は、アクリルポリマー(P)、ラジカル重合性モノマー(M)、および有機過酸化物(O)を含有する。本発明の防汚塗料組成物中はラジカル重合性モノマー(M)を含んでいるので、アクリルポリマー(P)の粘度が高い場合でも、多量の有機溶剤を使用することなく塗装に適した粘度に調整することができる。また、アクリルポリマー(P)の分子量が低い場合であっても、本発明の防汚塗料組成物を用いて形成した塗膜は有機過酸化物(O)によってラジカル重合性モノマー(M)が重合して得られるポリマーを含むことになるため、塗膜の強度が維持できる。
【0013】
さらに、本発明では、アクリルポリマー(P)およびラジカル重合性モノマー(M)の少なくとも一方が、2価の金属エステル構造を有する。これにより、本発明の防汚塗料組成物から得られた塗膜中には、2価の金属エステル構造をもったポリマーが存在する。そして、このポリマーの2価の金属エステル構造が海水中で加水分解することにより、塗膜が自己研磨性を示す。これにより、塗膜の表面に常に防汚成分が露出し、長期の防汚効果が発揮される。
【0014】
また、形成した塗膜の溶解度が高くなる点で、アクリルポリマー(P)が2価の金属エステル構造を有していることが好ましく、アクリルポリマー(P)とラジカル重合性モノマー(M)の両方が2価の金属エステル構造を有していることがより好ましい。
【0015】
なお、2価の金属エステル構造を構成する2価の金属としては、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)が好ましい。
【0016】
[アクリルポリマー(P)]
アクリルポリマー(P)は(メタ)アクリル系モノマー(Ma)を単独重合または共重合して得られるポリマーである。(メタ)アクリル系モノマー(Ma)は、1つの(メタ)アクリロイル基を有していてもよく、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有していてもよく、(メタ)アクリロイル基以外に他のラジカル重合性官能基を有していてもよい。(メタ)アクリル系モノマー(Ma)と共重合するモノマーとしては、非アクリル系モノマー(Mb)も使用できる。
【0017】
また、アクリルポリマー(P)が2価の金属エステル構造を有する場合(以下、このポリマーを「金属含有アクリルポリマー(Pm)」とも称する。)、(メタ)アクリル系モノマー(Ma)として2価の金属エステル構造を有する(メタ)アクリル系モノマー(Mc)(以下、「金属含有アクリルモノマー(Mc)」とも称する。)を用いるか、(メタ)アクリル系モノマー(Ma)と共重合するモノマーとして2価の金属エステル構造を有する非アクリル系モノマー(Md)(以下、「金属含有非アクリルモノマー(Md)」とも称する。)を用いればよい。あるいは、(メタ)アクリル酸を単独重合または共重合した後、その(メタ)アクリル酸ユニットの少なくとも一部を2価の金属の酸化物、水酸化物または塩を用いてエステル化すればよい。なかでも、金属含有アクリルモノマー(Mc)を共重合して得られるポリマーが好ましい。
【0018】
アクリルポリマー(P)は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
金属含有アクリルモノマー(Mc)以外の(メタ)アクリル系モノマー(Ma)としては、
(メタ)アクリル酸;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、t−アミル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトンまたはε−カプロラクトン等との付加物;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの二量体または三量体;
グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基を複数有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等の第一級および第二級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第三級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
が挙げられる。金属含有アクリルモノマー(Mc)以外の(メタ)アクリル系モノマー(Ma)は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
金属含有アクリルモノマー(Mc)以外の(メタ)アクリル系モノマー(Ma)としては、海水への溶解性や塗膜硬度の調整が可能となることから、極性の高い(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましく、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0021】
金属含有非アクリルモノマー(Md)以外の非アクリル系モノマー(Mb)としては、
ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール等の複素環族系塩基性単量体;
スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体;
が挙げられる。金属含有非アクリルモノマー(Md)以外の非アクリル系モノマー(Mb)は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
金属含有アクリルモノマー(Mc)としては、
酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、酢酸銅(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸銅(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸銅(メタ)アクリレート、プロピオン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、プロピオン酸亜鉛(メタ)アクリレート、プロピオン酸銅(メタ)アクリレート、カプロン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、カプロン酸亜鉛(メタ)アクリレート、カプロン酸銅(メタ)アクリレート、カプリル酸マグネシウム(メタ)アクリレート、カプリル酸亜鉛(メタ)アクリレート、カプリル酸銅(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル酸亜鉛(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル酸銅(メタ)アクリレート、カプリン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、カプリン酸亜鉛(メタ)アクリレート、カプリン酸銅(メタ)アクリレート、バーサチック酸マグネシウム(メタ)アクリレート、バーサチック酸亜鉛(メタ)アクリレート、バーサチック酸銅(メタ)アクリレート、イソステアリン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、イソステアリン酸亜鉛(メタ)アクリレート、イソステアリン酸銅(メタ)アクリレート、パルミチン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、パルミチン酸亜鉛(メタ)アクリレート、パルミチン酸銅(メタ)アクリレート、クレソチン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、クレソチン酸亜鉛(メタ)アクリレート、クレソチン酸銅(メタ)アクリレート等の飽和脂肪族カルボン酸(メタ)アクリル酸金属エステルモノマー;安息香酸マグネシウム(メタ)アクリレート、安息香酸亜鉛(メタ)アクリレート、安息香酸銅(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸銅(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸銅(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸亜鉛(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸銅(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸亜鉛(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸銅(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸亜鉛(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸銅(メタ)アクリレート、プルビン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、プルビン酸亜鉛(メタ)アクリレート、プルビン酸銅(メタ)アクリレート等の芳香族カルボン酸(メタ)アクリル酸金属エステルモノマー;
ジ(メタ)アクリル酸マグネシウム、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛、ジ(メタ)アクリル酸銅等のジ(メタ)アクリル酸金属エステルモノマー;
オレイン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、オレイン酸亜鉛(メタ)アクリレート、オレイン酸銅(メタ)アクリレート、エライジン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、エライジン酸亜鉛(メタ)アクリレート、エライジン酸銅(メタ)アクリレート、リノール酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リノール酸亜鉛(メタ)アクリレート、リノール酸銅(メタ)アクリレート、リノレン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リノレン酸亜鉛(メタ)アクリレート、リノレン酸銅(メタ)アクリレート、ステアロール酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ステアロール酸亜鉛(メタ)アクリレート、ステアロール酸銅(メタ)アクリレート、リシノール酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リシノール酸亜鉛(メタ)アクリレート、リシノール酸銅(メタ)アクリレート、リシノエライジン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リシノエライジン酸亜鉛(メタ)アクリレート、リシノエライジン酸銅(メタ)アクリレート、ブラシジン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ブラシジン酸亜鉛(メタ)アクリレート、ブラシジン酸銅(メタ)アクリレート、エルカ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、エルカ酸亜鉛(メタ)アクリレート、エルカ酸銅(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸亜鉛(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸銅(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸亜鉛(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸銅(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸(メタ)アクリル酸金属エステルモノマー;
が挙げられる。金属含有アクリルモノマー(Mc)は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
金属含有アクリルモノマー(Mc)としては、ジ(メタ)アクリル酸金属エステルモノマーが好ましい。ジ(メタ)アクリル酸金属エステルモノマーを用いることにより、ポリマーが3次元架橋した構造をとることで塗膜強度が著しく向上し、2価の金属エステル構造が海水中で安定的に加水分解して塗膜の表面が溶解することによる長期の防汚効果が効果的に発揮されるようになる。
【0024】
なお、金属含有アクリルモノマー(Mc)を共重合する場合、そのモノマーの使用量は、共重合モノマーの合計100質量部に対して、1〜60質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましく、10〜40質量部がさらに好ましい。
【0025】
金属含有非アクリルモノマー(Md)としては、
ジオレイン酸マグネシウム、ジオレイン酸亜鉛、ジオレイン酸銅、ジエライジン酸マグネシウム、ジエライジン酸亜鉛、ジエライジン酸銅、ジリノール酸マグネシウム、ジリノール酸亜鉛、ジリノール酸銅、ジリノレン酸マグネシウム、ジリノレン酸亜鉛、ジリノレン酸銅、ジステアロール酸マグネシウム、ジステアロール酸亜鉛、ジステアロール酸銅、ジリシノール酸マグネシウム、ジリシノール酸亜鉛、ジリシノール酸銅、ジリシノエライジン酸マグネシウム、ジリシノエライジン酸亜鉛、ジリシノエライジン酸銅、ジブラシジン酸マグネシウム、ジブラシジン酸亜鉛、ジブラシジン酸銅、ジエルカ酸マグネシウム、ジエルカ酸亜鉛、ジエルカ酸銅、ジα−ナフトエ酸マグネシウム、ジα−ナフトエ酸亜鉛、ジα−ナフトエ酸銅、ジβ−ナフトエ酸マグネシウム、ジβ−ナフトエ酸亜鉛、ジβ−ナフトエ酸銅等のジ不飽和カルボン酸金属エステルモノマー;
が挙げられる。金属含有非アクリルモノマー(Md)は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
なお、金属含有アクリルポリマー(Pm)は、(メタ)アクリル酸を単独重合または共重合した後、2価の金属の酸化物、水酸化物または塩を用いてエステル化する方法によって得られるポリマーでもよいが、金属含有アクリルモノマー(Mc)と金属非含有アクリルモノマーとを共重合して得られるポリマーが好ましい。
【0027】
また、2価の金属エステル構造を有さないアクリルポリマー(P)(以下、「金属非含有アクリルポリマー(Pn)」とも称する。)としては、(メタ)アクリル系モノマー(Ma)のうち、エステル部の炭素数が1〜4の(メタ)アクリル系モノマーを、共重合モノマーの合計100質量部に対して50質量部以上共重合して得られるポリマーが好ましい。このポリマーは海水への溶解性が比較的高いので、塗膜の表面の溶解による長期の防汚効果が効果的に発揮されるようになる。
【0028】
アクリルポリマー(P)の酸価は、25mgKOH/g以上が好ましい。ここでいう酸価とは、アクリルポリマー(P)の固形分に対する酸価を意味する。アクリルポリマー(P)中の酸基に対し、末端に水素が結合されている場合のみでなく、金属塩となっている場合も含まれる。アクリルポリマー(P)の酸価は、計算によって、または後述の酸価測定によって求めることができる。アクリルポリマー(P)の酸価は、良好な溶解性を発現させる観点から、40mgKOH/g以上がさらに好ましく、60mgKOH/g以上が最も好ましい。
【0029】
また、アクリルポリマー(P)中のカルボキシル基(−COOHで表される。金属塩となっている場合を除く)の含有量は1.5mol/kg以下が好ましく、0.3mol/kg以下がより好ましい。アクリルポリマー(P)中のカルボキシル基の含有量が1.5mol/kg以下であれば、塗膜の耐水性が良くなり、貯蔵安定性も良好となる。アクリルポリマー(P)中のカルボキシル基の含有量は、計算によって求められる。
【0030】
アクリルポリマー(P)の重量平均分子量は、30,000以下が好ましく、15,000以下がより好ましく、7,000以下がさらに好ましい。アクリルポリマー(P)の重量平均分子量が30,000以下であると、塗料としての粘度が低くなり、ハイソリッド型とし易い。特にアクリルポリマー(Pm)においては加水分解性が良好となり防汚塗料に適用できるようになる。
【0031】
[ラジカル重合性モノマー(M)]
ラジカル重合性モノマー(M)としては、前述した(メタ)アクリル系モノマー(Ma)や、非アクリル系モノマー(Mb)が使用できる。
【0032】
ラジカル重合性モノマー(M)として、金属含有アクリルモノマー(Mc)以外のアクリルモノマー(Ma)のみを用いることもでき、金属含有アクリルモノマー(Mc)のみを用いることもできるが、両者を併用することが好ましい。この場合、金属含有アクリルモノマー(Mc)の使用量は、ラジカル重合性モノマー(M)の合計100質量部に対して、10〜90質量部が好ましく、20〜80質量部がより好ましく、30〜70質量部がさらに好ましい。
【0033】
アクリルポリマー(P)とラジカル重合性モノマー(M)の配合割合は、ラジカル重合性モノマー(M)の重合性に応じて適宜選択することができるが、形成される塗膜の自己研磨性向上の観点から、アクリルポリマー(P)/ラジカル重合性モノマー(M)の質量比で、30/70〜95/5が好ましく、50/50〜90/10がより好ましく、60/40〜85/15がさらに好ましい。ここでいうアクリルポリマー(P)の質量とは、有機溶剤を除いたポリマー固形分の質量である。
【0034】
アクリルポリマー(P)とラジカル重合性モノマー(M)の合計質量中に含まれる金属量は、2〜40質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましく、4〜25質量%がさらに好ましい。金属量が2質量%以上であると、良好な自己研磨性が得られる。金属量が質量40%以下であると、得られる塗膜のワレが生じ難くなる。ここでいうアクリルポリマー(P)の質量とは、有機溶剤を除いたポリマー固形分の質量である。
【0035】
[有機過酸化物(O)]
有機過酸化物(O)は、−O−O−結合を有する有機化合物であって、分解により遊離ラジカルを生成するものである。この遊離ラジカルにより、ラジカル重合性モノマー(M)がラジカル重合する。
【0036】
有機過酸化物(O)としては、
ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド等のヒドロパーオキシド;
ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキシド;
ジイソブチリルパーオキシド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノニル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジスクシニックアシッドパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド等のジアシルパーオキシド;
メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサンパーオキシド、アセチルアセトンパーオキシド等のケトンパーオキサイド;
が挙げられる。有機過酸化物(O)は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
有機過酸化物(O)の配合量は、ラジカル重合性モノマー(M)の硬化性に応じて適宜選択することができるが、形成される塗膜のタック防止の観点から、アクリルポリマー(P)、ラジカル重合性モノマー(M)および溶媒の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜8質量部がより好ましく、1〜6質量部がさらに好ましい。有機化酸化物(O)の配合量を0.1質量部以上とすることにより、硬化性が良好となる傾向にあり、10質量部以下とすることにより、防汚塗料組成物の塗装作業性、得られる塗膜の各種物性が向上する傾向にある。
【0038】
[分解促進剤(A)]
防汚塗料組成物には、有機過酸化物(O)の分解を促進するために分解促進剤(A)を配合することが好ましい。この分解促進剤(A)の作用により、常温(例えば20℃)で有機過酸化物(O)が分解し、ラジカル重合性モノマー(M)がラジカル重合するのを促進することができる。
【0039】
分解促進剤(A)の具体例としては、
N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N−メチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンまたはそのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンまたはそのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等のN,N−置換−p−トルイジン;4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]ベンズアルデヒド、4−(N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒド等の4−(N,N−置換アミノ)ベンズアルデヒド;N,N−ジメチルアニリン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のN,N−置換アニリン等の芳香族3級アミン;
アニリン、p−トルイジン、N−エチル−m−トルイジン、トリエタノールアミン、m−トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニルモルホリン、ピペリジン等のその他のアミン;
メチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、アセチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素等のチオ尿素化合物;
ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸ニッケル、バナジルアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート等の金属塩;
が挙げられる。分解促進剤(A)は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
その中でも芳香族3級アミンが好ましい。芳香族3級アミンとしては、少なくとも1個の芳香族残基が窒素原子に直接結合しているものが好ましい。そのような芳香族3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N−(2−ヒドロキシエチル)N−メチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン;N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンまたはN,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。また、芳香族3級アミンはp(パラ)体に限定されず、o(オルト)体、m(メタ)体でもよく、防汚塗料組成物の反応性、硬化性の点から、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンが好ましい。
【0041】
分解促進剤(A)としてのアミンの添加量は、硬化性とポットライフ(作業性)とのバランス等の点から、アクリルポリマー(P)の固形分とラジカル重合性モノマー(M)のモノマー純分の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜8質量部がより好ましく、0.2〜6質量部が特に好ましい。分解促進剤(A)としてのアミンの添加量を10質量部以下にすることによって適切な可使時間を有する防汚塗料組成物となる。
【0042】
分解促進剤(A)としてのチオ尿素化合物または金属塩の添加量は、アクリルポリマー(P)の固形分とラジカル重合性モノマー(M)のモノマー純分の合計100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜4質量部がより好ましい。
【0043】
分解促進剤は、防汚塗料組成物を硬化させる直前に添加してもよく、あらかじめ防汚塗料組成物に添加しておいてもよい。
【0044】
有機過酸化物(O)および分解促進剤(A)の添加量は、防汚塗料組成物の可使時間が5〜120分となるように適宜調整することが好ましい。
【0045】
[その他の成分]
また、本発明の防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させる目的で、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,4−ジメチル−t−ブチルフェノールのような重合抑制剤を添加することができる。
【0046】
防汚塗料組成物には、要求性能に応じて、防汚剤を配合することができる。防汚剤としては、亜酸化銅、チオシアン銅、銅粉末等の銅系防汚剤、鉛、亜鉛、ニッケル等その他の金属化合物、ジフェニルアミン等のアミン誘導体、ニトリル化合物、ベンゾチアゾール系化合物、マレイミド系化合物、ピリジン系化合物等が挙げられる。
【0047】
特に、(社)日本造船工業会等によって選定されたものが好ましい。具体的には、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメイト、ジンクジメチルジチオカーバメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,5,6,テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバメイ−ト、ロダン銅、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩、テトラメチルチウラムジサルファイド、Cu−10%Ni固溶合金、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピニールブチルカーバメート、ジヨードメチルパラトリルスルホン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、ピリジン−トリフェニルボランから選択することが好ましい。
【0048】
また、亜酸化銅等の遷移金属化合物を防汚剤として用いた場合、分解促進剤(A)を配合しなくても硬化が進行する。これは、アクリルポリマー(P)およびラジカル重合性モノマー(M)の少なくとも一方と2価金属エステルとの作用により、分解促進剤としての働きをするためと考えられる。そのため、分解促進剤(A)の機能を補う点では、亜酸化銅などの遷移金属化合物を防汚剤として用いることが好ましい。
【0049】
防汚剤は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0050】
防汚剤の配合量は、目的とする防汚性に応じて適宜選択することができるが、効率よく防汚性を発揮させる観点から、アクリルポリマー(P)の固形分およびラジカル重合性モノマー(M)のモノマー純分の合計量100質量部に対して、0.1〜500質量部が好ましく、5〜350質量部がより好ましい。
【0051】
防汚塗料組成物には、塗膜表面における酸素の重合禁止効果を抑え、耐水性の向上を目的として、40℃以上の融点を有するワックス(C)を配合することができる。ワックス(C)としては、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸等の高級脂肪酸等が挙げられ、融点の異なる2種以上を併用することもできる。
【0052】
ワックス(C)の使用量は、アクリルポリマー(P)の固形分およびラジカル重合性モノマー(M)のモノマー純分の合計量100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜2質量部がより好ましい。ワックス(C)の多量の使用は塗膜表面の外観を損なう場合がある。
【0053】
防汚塗料組成物には、塗膜表面に潤滑性を付与し、生物の付着を防止する目的で、ジメチルポリシロキサン、シリコーンオイル等のシリコン化合物や、フッ化炭素等の含フッ素化合物等を配合することができる。さらに、防汚塗料組成物には、必要に応じて、体質顔料、着色顔料、可塑剤、各種塗料用添加剤、その他の樹脂等を配合することができる。
【0054】
防汚塗料組成物は、必要に応じて有機溶剤で希釈した上で、防汚塗料として用いることができる。
【0055】
<防汚塗膜およびその製造方法>
本発明の防汚塗膜は、アクリルポリマー(P)、ラジカル重合性モノマー(M)、および有機過酸化物(O)を含有する防汚塗料組成物を基材に塗布した状態で、有機過酸化物(O)を分解させて得ることができる。このとき、アクリルポリマー(P)およびラジカル重合性モノマー(M)の少なくとも一方が、2価の金属エステル構造を有する。具体的には、前述の防汚塗料組成物を含む防汚塗料を被塗工物となる基材に塗工し、有機過酸化物(O)の分解温度以上で得られた塗工膜を乾燥させると共に、有機過酸化物(O)の分解によってラジカル重合性モノマー(M)を重合させることで、防汚塗膜を得ることができる。有機過酸化物(O)の分解温度が室温より低い場合は室温で乾燥できる。分解促進剤(A)を加えた場合は、有機過酸化物(O)の分解が起こる温度であれば、分解温度以下で乾燥できる。防汚塗料組成物は、塗工直前に混合することが好ましい。
【0056】
混合の方法としては、アクリルポリマー(P)/ラジカル重合性モノマー(M)混合物を調整し、塗工直前に有機過酸化物(O)を加える方法が好ましい。また、アクリルポリマー(P)に、ラジカル重合性モノマー(M)/有機過酸化物(O)混合物とを混合してもよいし、ラジカル重合性モノマー(M)に、アクリルポリマー(P)/有機過酸化物(O)混合物とを混合してもよい。アクリルポリマー(P)およびラジカル重合性モノマー(M)は、それぞれ溶剤と混合したものを用いるのが好ましいが、アクリルポリマー(P)は粉体を用いてもよい。
【0057】
防汚塗料を用いて塗膜を形成(塗工)するには、上記した防汚塗料を、船舶、各種漁網、港湾施設、オイルフェンス、橋梁、海底基地等の水中構造物等の基材表面に直接、または基材にウオッシュプライマー、塩化ゴム系、エポキシ系等のプライマー、中塗り塗料等を塗布した塗膜の上に、刷毛塗り、吹き付け塗り、ローラー塗り、沈漬塗り等の手段で塗布することができる。塗布量は、一般的には、乾燥塗膜の厚さが50〜400μmになるような量とする。塗膜の乾燥は、一般的には室温で行われるが、加熱乾燥を行っても差し支えない。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。実施例中の「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0059】
〔製造例1:金属含有アクリルモノマー(Mc1)の溶液〕
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM(プロピレングリコールメチルエーテル)66.3部および酸化亜鉛41部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸43部、アクリル酸36部および水5部からなる混合物を、滴下ロートから3時間かけて滴下した。さらに2時間撹拌した後PGMを10部添加して、金属含有アクリルモノマー(Mc1)の溶液を得た。モノマー純分は54.8%であった。ここでモノマー純分とは、前記溶液中に含まれる金属含有アクリルモノマー(Mc1)の質量割合を意味する。
【0060】
〔製造例2:金属含有アクリルモノマー(Mc2)の溶液〕
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM58.7部および酸化亜鉛41部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸39部、アクリル酸32部、オレイン酸28部、キシレン24.6部からなる混合物を、滴下ロートから3時間かけて滴下した。さらに2時間撹拌した後PGMを15部添加して、金属含有アクリルモノマー(Mc2)の溶液を得た。モノマー純分は54.9%であった。
【0061】
〔製造例3:金属含有非アクリルモノマー(Md1)の溶液〕
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM50部、キシレン100部、オレイン酸283部および酸化亜鉛41部を仕込み、撹拌しながら85℃に昇温し、85℃で3時間攪拌した。さらに2時間撹拌した後PGMを50部添加して、金属含有非アクリルモノマー(Md1)の溶液を得た。モノマー純分は60.2%であった。
【0062】
〔製造例4:金属含有アクリルポリマー(Pm1)の溶液〕
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM10部、キシレン47.1部およびエチルアクリレート4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、メチルメタクリレート10部、エチルアクリレート62.6部、2−メトキシエチルアクリレート5.4部、製造例1で得られた金属含有モノマー(Ma1)の溶液32.7部(モノマー純分18部)、連鎖移動剤(日本油脂社製、商品名:ノフマーMSD)1部、AIBN(2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル))2.5部およびAMBN(2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル))5.5部からなる混合物を、滴下ロートから6時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにt−ブチルパーオクトエート0.5部およびキシレン5部の混合物を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後キシレンを5部添加して、固形分が56.0%、ガードナー粘度がZ6、酸価が84.5mgKOH/g、重量平均分子量が4,300の金属含有アクリルポリマー(Pm1)の溶液を得た。
【0063】
〔製造例5:金属含有アクリルポリマー(Pm2)の溶液〕
金属含有モノマー(Ma1)の溶液に替えて金属含有モノマー(Ma2)の溶液を用いた以外は製造例4と同様にして、固形分が56.0%、ガードナー粘度が+Z4、酸価が77.2mgKOH/g、重量平均分子量が5,300の金属含有アクリルポリマー(Pm2)の溶液を得た。
【0064】
〔製造例6:金属含有アクリルポリマー(Pm3)の溶液〕
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM10部、キシレン47.1部およびエチルアクリレート4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、メチルメタクリレート11.4部、エチルアクリレート72.0部、2−メトキシエチルアクリレート6.2部、製造例1で得られた金属含有モノマー(Ma1)の溶液11.6部(モノマー純分6.4部)、キシレン9.5部、連鎖移動剤(日本油脂社製、商品名:ノフマーMSD)1部、AIBN(2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル))2.5部およびAMBN(2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル))2部からなる混合物を、滴下ロートから6時間かけて等速滴下した。滴下終了後、さらにt−ブチルパーオクトエート0.5部およびキシレン5部の混合物を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後キシレンを5部添加して、固形分が55.5%、ガードナー粘度がZ3、酸価が30.2mgKOH/g、重量平均分子量が9,000の金属含有アクリルポリマー(Pm3)の溶液を得た。
【0065】
〔製造例7:金属非含有アクリルポリマー(Pn1)の溶液〕
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM10部、キシレン48.8部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、メチルメタクリレート10.6部、エチルアクリレート70.3部、2−メトキシエチルアクリレート5.7部、メタクリル酸7.3部、アクリル酸6.1部、キシレン13部、AIBN2.5部、AMBN4部からなる混合物を、滴下ロートから6時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにt−ブチルパーオクトエート0.5部およびキシレン5部の混合物を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後キシレンを5部添加して、固形分が55.4%、ガードナー粘度酸価がN、酸価が94.8mgKOH/g、重量平均分子量が6,500の金属非含有アクリルポリマー(Pn1)の溶液を得た。
【0066】
なお、アクリルポリマー(P)の酸価(mgKOH/g)としては、アクリルポリマーの固形分1gを中和するのに要する水酸化カリウムの質量を測定した。アクリルポリマー(P)の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製、HLC−8120GPC(商品名)、東ソー社製カラムTSK−gel αタイプ(α−M)2本、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて見積もった。表1にアクリルポリマー(P)の組成および物性を示した。
【0067】
【表1】
【0068】
〔実施例1〜13、比較例1〜2〕
表2に示す配合割合で、ラジカル重合性モノマー(M)とアクリルポリマー(P)を混合した。その後、表2に示す配合割合で、20℃において分解促進剤を添加し、続いて有機過酸化物(O)を添加して、塗料の理論固形分が50〜60%となるように防汚塗料組成物を調製した。ここで理論固形分とは、防汚塗料組成物中に含まれるラジカル重合性モノマー(M)とアクリルポリマー(P)の質量割合を意味する。そして、得られた防汚塗料組成物を速やかに所定の基板上に塗布し、室温で48時間乾燥して、乾燥膜厚が約180μmの塗膜を得た。防汚塗料組成物および塗膜に関し、以下の測定および評価を行った。
【0069】
(1)防汚塗料組成物の粘度
防汚塗料組成物の粘度を、B型粘度計によりNo.2〜4のローターを用いて測定した。結果を表2に示した。
【0070】
(2)防汚塗料組成物のゲル化時間
防汚塗料組成物を50g測りとり、室温にて攪拌し防汚塗料組成物の流動性がなくなるまでの時間を測定した。結果を表2に示した。
【0071】
(3)塗膜の透明性
ガラス板上に塗膜を形成し、その塗膜の透明性を目視にて観察して、以下の基準で判定した。結果を表2に示した。
○ :透明。
△ :やや濁りあり。
× :濁りあり。ただし、析出物はなし。
××:濁りあり。析出物もあり。
【0072】
(4)塗膜の耐キシロールラビング性
あらかじめ防錆塗料が塗布されているサンドブラスト鋼板上に塗膜を形成し、その塗膜の面に対してキシレンを浸したガーゼで荷重500gをかけてラビングした。そして、塗膜が溶解してサンドブラスト鋼板が露出するまでの往復回数をカウントした。結果を表2に示した。
【0073】
(5)塗膜の碁盤目剥離性
あらかじめ防錆塗料が塗布されているサンドブラスト鋼板上に塗膜を形成し、得られた試験片を滅菌濾過海水中に浸漬した後、20℃で1週間乾燥した。そして、塗膜に対し2mm間隔で基材まで達するクロスカットを入れ、2mmの碁盤目を25個作り、その上にセロハンテープを貼り付けた後に急激に剥がした際の碁盤目の状態を観察して、以下の基準で判定した。結果を表2に示した。
◎:碁盤目の剥離および碁盤目の角の剥がれが全く観察されない。
○:碁盤目の剥離はないが、碁盤目の角の剥がれがみられる。
△:1〜12個の碁盤目が剥離する。
×:13〜25個の碁盤目が剥離する。
【0074】
(6)塗膜の消耗度試験
50mm×50mm×2mm(厚さ)の硬質塩化ビニル板上に塗膜を形成し、得られた試験片を海水中に設置した回転ドラムに取り付けた。そして、周速7.7m/s(15ノット)で回転させて、1ヵ月後および3ヵ月後の消耗膜厚を測定した。結果を表2に示した。
【0075】
(7)塗膜の耐水性
あらかじめ防錆塗料が塗布されているサンドブラスト鋼板上に塗膜を形成し、得られた試験片を人工海水中に1ヶ月間および3ヶ月間浸漬した後、20℃で1週間乾燥した。そして、塗膜表面を観察し、以下の基準で判定した。結果を表2に示した。
◎:クラックおよび剥離が全く観察されない。
○:クラックがわずかに観察される。
△:クラックおよび剥離が一部に観察される。
×:クラックおよび剥離が全面に観察される。
【0076】
実施例1〜13で得られた防汚塗料組成物は、固形分を50%以上としても塗装に適した粘度とすることができた。また、海水中における耐水性に優れ、自己研磨性、碁盤目剥離試験(密着性)も良好であり、防汚性も良好であった。
【0077】
一方、ラジカル重合性モノマー(M)を含まない比較例1は極めて粘度が高く、塗料のハイソリッド型へ適応させるのは困難であった。アクリルポリマー(P)を含まない比較例2は、粘度が低いものの、碁盤目剥離試験、耐水性ともに低位であった。
【0078】
【表2】