特許第5732941号(P5732941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5732941プラズマエッチング装置及びプラズマエッチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732941
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】プラズマエッチング装置及びプラズマエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20150521BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   H01L21/302 101G
   H01L21/302 101B
   H05H1/46 M
   H05H1/46 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-58602(P2011-58602)
(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公開番号】特開2012-195463(P2012-195463A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】本田 昌伸
【審査官】 杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−251723(JP,A)
【文献】 特開2005−353812(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0213171(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内の載置部に載置された基板に対してプラズマによりエッチングを行うためのプラズマエッチング装置において、
前記載置部を囲むと共に冷媒により冷却される支持部と、
この支持部の上に設けられ、プラズマの状態を調整するためのリング部材と、
このリング部材を加熱するための加熱機構と、
前記リング部材の熱を前記支持部側に放熱して当該リング部材を冷却するために、当該リング部材と前記支持部との間に伝熱用のガスを供給するためのガス供給機構を含む冷却機構と、
前記リング部材の温度を検出するための温度検出部と、
エッチング対象となる基板上の膜に対応付けて各々設定された前記リング部材の設定温度、前記加熱機構の出力及び前記冷却機構の伝熱用のガス圧力が含まれ、基板をエッチングするための処理条件が膜に応じて書き込まれた処理レシピを記憶するレシピ記憶部と、
前記レシピ記憶部からエッチング対象である膜に対応する処理レシピを読み出し、前記温度検出部の温度検出値がリング部材の設定温度よりも低い下方側閾値よりも低いときに前記加熱機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記加熱機構をオフにすると共に、前記温度検出値がリング部材の設定温度よりも高い上方側閾値よりも高いときに前記冷却機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記冷却機構をオフにするように、制御信号を出力する実行部と、を備えたことを特徴とするプラズマエッチング装置。
【請求項2】
前記処理レシピは、処理の単位である複数のステップを含み、
前記リング部材の設定温度は、前記ステップごとに設定されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマエッチング装置。
【請求項3】
前記基板は、前記処理容器内にて連続してエッチングされる複数種の膜が積層され、
前記処理レシピに含まれる複数のステップは、前記複数種の膜をエッチングするステップに夫々対応していることを特徴とする請求項2記載のプラズマエッチング装置。
【請求項4】
前記リング部材は、前記支持部の表面部に配置された静電チャックに静電吸着され、
前記伝熱用のガス供給機構は、前記リング部材と前記静電チャックとの間に伝熱用のガスを供給するものであることを特徴とする請求項1ないし3にいずれか一項に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項5】
前記加熱機構は、前記リング部材の下部に設けられた絶縁体と、前記処理容器の外部に設けられ、前記絶縁体を介して加熱用の光を前記リング部材に照射するための光源部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし4にいずれか一項に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項6】
処理容器内の載置部に載置された基板に対してプラズマによりエッチングを行うためのプラズマエッチング方法において、
前記載置部を囲むと共に冷媒により冷却される支持部と、
この支持部の上に設けられ、プラズマの状態を調整するためのリング部材と、
このリング部材を加熱するための加熱機構と、
前記リング部材の熱を前記支持部側に放熱して当該リング部材を冷却するために、当該リング部材と前記支持部との間に伝熱用のガスを供給するためのガス供給機構を含む冷却機構と、
エッチング対象となる基板上の膜に対応付けて各々設定された前記リング部材の設定温度、前記加熱機構の出力及び前記冷却機構の伝熱用のガス圧力が含まれ、基板をエッチングするための処理条件が膜に応じて書き込まれた処理レシピを記憶するレシピ記憶部と、を用い、
前記レシピ記憶部からエッチング対象である膜に対応する処理レシピを読み出す工程と、
前記リング部材の温度を検出する工程と、
前記工程で検出された温度検出値がリング部材の設定温度よりも低い下方側閾値よりも低いときに前記加熱機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記加熱機構をオフにすると共に、前記温度検出値がリング部材の設定温度よりも高い上方側閾値よりも高いときに前記冷却機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記冷却機構をオフにする工程と、を含むことを特徴とするプラズマエッチング方法。
【請求項7】
前記基板は、前記処理容器内にて連続してエッチングされる複数種の膜が積層され、
前記処理レシピは、前記複数種の膜を夫々エッチングするための複数の処理単位であるステップを含み、
前記リング部材の設定温度は、前記ステップごとに設定されていることを特徴とする請求項6記載のプラズマエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対してプラズマによりエッチングを行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程に用いられる例えば平行平板型のプラズマエッチングの装置は、真空容器内に、例えば半導体ウエハである基板を載置する下部電極をなす載置台と、この載置台に対向配置される上部電極をなすガスシャワーヘッドと、載置台上の基板を囲むフォーカスリングと呼ばれるリング部材と、を設けて構成されている。半導体デバイスのパターンの微細化などの背景から、基板間あるいは基板の面内において均一性の高い処理が要求されており、このような要求に応えるために、処理パラメータや装置のハード構成などについて検討、改善が行われている。例えば特許文献1には、エッチング装置の立ち上げ直後とその後の連続運転中とでは処理容器内の温度が違うため、ウエハのエッチングの面内均一性を改善するために、立ち上げ直後とその後の連続運転中とでエッチング処理時のフォーカスリングの温度を変更して調整することが記載されている。
【0003】
一方、半導体デバイスの複雑化などにより、基板上の多層膜を同一の真空容器内でエッチングすることが検討されており、この場合各膜に応じてガス種や圧力などの処理パラメータが設定される。今後益々エッチング処理の均一性を高めることが必要であるが、例えばこのような多層膜をいわば一気に抜く場合においても、高い面内均一性を得るための検討が必要である。
【0004】
特許文献2には、伝熱手段に接触させることにより温度調整可能なフォーカスリングが記載されており、また特許文献3には、フォーカスリングに接する消耗リングの内部にヒータを有する半導体処理容器内の装置が記載されているが、面内均一性の高い処理を行うためには更なる工夫が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−159931号公報(段落0007)
【特許文献2】米国特許第6767844号公報
【特許文献3】米国特許第6795292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような背景の下になされたものであり、その目的は基板のプラズマエッチングにおいて、エッチングについて高い面内均一性が得られる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラズマエッチング装置は、処理容器内の載置部に載置された基板に対してプラズマによりエッチングを行うためのプラズマエッチング装置において、
前記載置部を囲むと共に冷媒により冷却される支持部と、
この支持部の上に設けられ、プラズマの状態を調整するためのリング部材と、
このリング部材を加熱するための加熱機構と、
前記リング部材の熱を前記支持部側に放熱して当該リング部材を冷却するために、当該リング部材と前記支持部との間に伝熱用のガスを供給するためのガス供給機構を含む冷却機構と、
前記リング部材の温度を検出するための温度検出部と、
エッチング対象となる基板上の膜に対応付けて各々設定された前記リング部材の設定温度、前記加熱機構の出力及び前記冷却機構の伝熱用のガス圧力が含まれ、基板をエッチングするための処理条件が膜に応じて書き込まれた処理レシピを記憶するレシピ記憶部と、
前記レシピ記憶部からエッチング対象である膜に対応する処理レシピを読み出し、前記温度検出部の温度検出値がリング部材の設定温度よりも低い下方側閾値よりも低いときに前記加熱機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記加熱機構をオフにすると共に、前記温度検出値がリング部材の設定温度よりも高い上方側閾値よりも高いときに前記冷却機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記冷却機構をオフにするように、制御信号を出力する実行部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また本発明のプラズマエッチング方法は、処理容器内の載置部に載置された基板に対してプラズマによりエッチングを行うためのプラズマエッチング方法において、
前記載置部を囲むと共に冷媒により冷却される支持部と、
この支持部の上に設けられ、プラズマの状態を調整するためのリング部材と、
このリング部材を加熱するための加熱機構と、
前記リング部材の熱を前記支持部側に放熱して当該リング部材を冷却するために、当該リング部材と前記支持部との間に伝熱用のガスを供給するためのガス供給機構を含む冷却機構と、
エッチング対象となる基板上の膜に対応付けて各々設定された前記リング部材の設定温度、前記加熱機構の出力及び前記冷却機構の伝熱用のガス圧力が含まれ、基板をエッチングするための処理条件が膜に応じて書き込まれた処理レシピを記憶するレシピ記憶部と、を用い、
前記レシピ記憶部からエッチング対象である膜に対応する処理レシピを読み出す工程と、
前記リング部材の温度を検出する工程と、
前記工程で検出された温度検出値がリング部材の設定温度よりも低い下方側閾値よりも低いときに前記加熱機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記加熱機構をオフにすると共に、前記温度検出値がリング部材の設定温度よりも高い上方側閾値よりも高いときに前記冷却機構をオンにし、前記温度検出値が設定温度に達した時に前記冷却機構をオフにする工程と、を含むことを特徴とする。



【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板をエッチングするための処理条件が書き込まれた処理レシピの中にリング部材の設定温度が書き込まれ、リング部材の温度を温度検出部により検出し、リング部材の設定温度と前記温度検出値とに基づいて、前記加熱機構及び前記冷却機構を制御しているため、エッチング処理について高い面内均一性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態におけるプラズマエッチング装置を示す縦断側面図である。
図2】本実施形態におけるフォーカスリング温度の制御を説明するブロック図である。
図3】前記温度制御における冷却モードを説明する縦断側面図である。
図4】前記温度制御における加熱モードを説明する縦断側面図である。
図5】本実施形態におけるウエハ上に形成された多層膜を示す縦断面図である。
図6】本実施形態における処理レシピの一例を示す表である。
図7】本実施形態における冷却機構及び加熱機構の動作する条件をまとめた表である。
図8】前記処理レシピをプログラムにより実行するステップを説明するフロー図である。
図9】前記温度制御時におけるフォーカスリング温度の経時変化の一例を示すグラフである。
図10】エッチング処理後の前記多層膜を示す縦断面図である。
図11】前記処理レシピのステップの実行タイミングとフォーカスリング温度との関係を模式的に示した温度推移図である。
図12】本発明の実施例結果を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るプラズマエッチング装置を示し、1は例えばアルミニウムからなる気密な処理容器(真空容器)である。処理容器1の底部の中央部には、支持台2が設けられている。支持台2は、円柱体の上面部の周縁部が全周に亘って切り欠かれていて、段部8が形成された形状、即ち上面部において周縁部以外の部分が円柱状に突出した形状に構成されている。この突出した部位は基板である半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)Wが載置される載置部20をなすものであり、この載置部20を囲む段部8は後述のリング部材の配置領域に相当する。
【0012】
この載置部20の上面部には、絶縁膜にチャック電極22を配置してなる第1の静電チャック21が設けられており、チャック電極22は処理容器1の外に設けられた直流電源23とスイッチ24を介して電気的に接続されている。第1の静電チャック21には図示しない複数の吐出口が穿設されており、熱媒体ガス例えばHeガスを、第1の静電チャック21とウエハWとの間の微小空間に図示しないガス供給部から供給することができるようになっている。
なお、支持台2の内部には図示しない昇降ピンが設けられており、当該装置の外に設けられた図示しない搬送アームと第1の静電チャック21との間にてウエハWの受け渡しを行うことができる。
【0013】
支持台2の内部には冷媒通流室35が設けられており、冷媒が冷媒供給路82→冷媒通流室35→冷媒排出路83の経路で通流するように構成される。冷媒排出路83から排出された冷媒は、チラーにより所定の設定温度まで冷却され、冷媒供給路82から冷媒通流室35に戻ってくる。このため支持台2は、冷媒により予め設定された基準温度に維持されることになり、ウエハWはプラズマからの入熱とHeガスを介して支持台2に放熱される作用との熱バランスにより温度が決まってくる。
また支持台2は下部電極を兼用しており、プラズマ中のイオンを引き込むためのバイアスを下部電極に印加するためのバイアス電源である高周波電源4に整合器41を介して接続されている。
【0014】
処理容器1の天井部には、絶縁部材12を介して、載置部20に対向するように、処理ガスを処理領域に供給するガス供給部であるシャワーヘッド5が設けられている。このシャワーヘッド5には多数の吐出口51が穿設されており、処理容器の外に設けられたガス供給系52より配管53及びバッファ室54を介して、吐出口51より所定の処理ガスが吐出される。このシャワーヘッド5は上部電極を兼用しており、整合器55を介してプラズマ生成用の高周波電源56が接続されている。
【0015】
処理容器1の側壁にはシャッター13により開閉可能なウエハWの搬送口14が設けられている。処理容器1の底部には排気ポート15が設けられており、この排気ポート15にはバルブ17及び圧力調整部18が介設された排気管19を介して真空排気機構である真空ポンプが接続されている。
【0016】
支持台2の上面の周縁部に形成された段部8の底面(段面)には、絶縁膜にチャック電極26を配置してなるリング状の第2の静電チャック25が設けられている。また支持台2の側周には、支持台2を囲むように絶縁部材である筒状の石英部材36が設けられている。そして、第2の静電チャック25及び石英部材36の上には、両者を跨ぐようにフォーカスリング3が設けられている。このフォーカスリング3の内周縁は全周に亘って切り欠かれて段部が形成されており、第1の静電チャック21に保持されたウエハWの第1の静電チャック21から突出した周縁部がフォーカスリング3の前記段部に収まるようになっている。
【0017】
第2の静電チャック25は、フォーカスリング3の吸着固定用のものであり、前述の第1の静電チャック21とは電気的に絶縁されている。チャック電極26は、処理容器1の外に設けられた直流電源27に第1の静電チャック21のスイッチ24とは別のスイッチ28を介して電気的に接続されている。このため、第1の静電チャック21と第2の静電チャック25とは夫々独立して吸着のオンオフを切り替えることができる。
また第2の静電チャック25には、フォーカスリング3と第2の静電チャック25との間の微小空間に、熱媒体ガスである例えばHeガスを供給するための図示しない吐出口が複数設けられている。この吐出口は、処理容器1の外に設けられたHeガス供給源31に、供給制御部81を介して配管34で接続されている。この供給制御部81は、図2に示すように、圧力調整部32及びバルブ33などを含むため、前記吐出口へのHeガスの供給及びその遮断を行うことができ、また圧力コントローラ38を介してHeガスの供給圧力調整が可能となっている。このため、フォーカスリング3と第2の静電チャック25との間の微小空間にHeガスを供給することにより、図3に示すように、フォーカスリング3の熱がHeガスを介して支持台2に放熱され、フォーカスリング3を冷却することができる。
【0018】
処理容器1の外には光源例えばLED(Light Emitting Diode)37が設けられており、フォーカスリング3のを加熱する加熱用の光であるレーザを放射できるようになっている。このLED37により放射されたレーザは、石英部材36内を透過しながら分散し、この石英部材36の上にあるフォーカスリング3全体に均一に照射されるようになっている。このため、図4に示すように、LED37により石英部材36を介してフォーカスリング3にレーザを照射することにより、フォーカスリング3を加熱することができる。
【0019】
フォーカスリング3を図3に示すように冷却する場合、図4に示すように加熱する場合のいずれにおいても、フォーカスリング3の温度は、プラズマから入熱される熱と、冷却機構に逃げる熱あるいは加熱機構から入熱される熱とのバランスで決定される。
【0020】
フォーカスリング3及び石英部材36の外周側にはそれらを囲むように、反応生成物の付着を防止するための筒状の絶縁部材であるガイドリング11が設けられている。
本プラズマエッチング装置には温度検出部である干渉式温度計61が設けられており、図2に示すように、その検出端はフォーカスリング3に接触している。光ファイバー62は、第2の静電チャック25を貫通して、この温度計61の本体と検出端とを接続している。この温度検出値は、温度計コントローラ63を介して制御部6に入力される。
【0021】
上述の静電チャック用のスイッチ24、28、Heガスの供給制御部81の一部をなすバルブ33、圧力コントローラ38及びレーザ出力コントローラ39は、制御部6からの制御信号に基づいて動作するように構成されている。制御部6は、図2に示すように、バス68と、処理レシピ64を記憶するレシピ記憶部65と、CPU67と、プログラムを格納したROM(便宜上、図ではROMを省略してプログラムに符号66を割り当てている)とを備えている。処理レシピ64とは処理の作業手順が処理パラメータと共に記載されたデータであり、プログラム66が処理レシピ64の内容を読み出して、各事項に応じた制御信号を作成し、各作業を実行する。この例では、CPU67とプログラム66とが、制御信号を出力する実行部に相当する。本実施形態におけるエッチング対象物であるウエハWは、図5に示すように、その表面が多層膜構造となっており、このための処理レシピ64には図6に示すようにこれらの膜を上から順次エッチングしていくためのステップSが書かれている。具体的には、処理レシピ64には各ステップS毎に、そのステップSにおける多層膜のエッチング対象膜とその処理ガスの種類及び流量、上部電極5及び下部電極2への供給電力値、エッチングパターンによるマスクの開口率、フォーカスリング3の温度の設定値、ウエハW及びフォーカスリング3夫々の冷却用Heガスの圧力設定値及びレーザ出力の設定値などが記載されている。図6には、処理レシピ64の一例を示しているが、フォーカスリング3の温度に関連する事項のみを記載しており、その他は省略している。
【0022】
フォーカスリング3の温度設定に関するプログラム66のステップ群は、図7に示すように、干渉式温度計61による温度検出値が上方側閾値よりも大きくなると冷却機構が作動し、その後温度検出値が設定温度よりも小さくなると冷却機構が停止するように構成されており、また逆に温度検出値が下方側閾値よりも小さくなると加熱機構が作動し、その後温度検出値が設定温度よりも大きくなるとその加熱機構が停止するように構成されている。この詳細については、次に述べる実施形態の作用説明において述べることとする。
【0023】
本実施形態における作用について説明する。まず図示しない真空搬送室からウエハWが図示しない搬送アームを介して処理容器1内に搬送され、図示しない昇降ピンを介して第1の静電チャック21上に受け渡され吸着保持される。このウエハWの表面部には、図5に示すように、例えば下から順に炭化ケイ素(SiC)膜71、低誘電率膜72、有機膜73、低誘電率膜74、有機膜75、反射防止膜76が積層してなる多層膜7が形成されている。77及び78は夫々、レジスト膜及びチタンナイトライド膜のパターンマスクである。
【0024】
そしてプログラム66は、レシピ記憶部65に記憶されている処理レシピの群の中から、当該ウエハWに対応する処理レシピの内容を読み出す。図8は、フォーカスリング3の温度制御を行う、プログラム66に含まれるステップ群であり、エッチング処理においてフォーカスリング3の温度制御を中心に図8図11を参照しながら動作説明を進める。図8のフローのステップについては、図6に示す処理レシピに含まれるステップSと区別するために「ステップK」で表示する。初めに処理レシピに含まれるステップの番号(n)を「1」に設定し、ステップK2を介してステップK3に進み、ステップSn(S1)のフォーカスリング3の設定温度、レーザ出力値及びHeガス圧力値を読み出し、設定信号を出力する。これにより、レーザ出力コントローラ39がLED37のパワーを設定値になるように調整し、またHeガス圧力コントローラ38がHeガスの圧力を設定値に調整する。
【0025】
続いて設定温度に対して下方側閾値(設定温度−Δt℃)と上方側閾値(設定温度+Δt℃)を設定する(ステップK4)。そしてフォーカスリング3の温度調整を行いながらステップSn(この段階ではS1)のエッチングプロセスを実行する(ステップK5、K6)。ここで温度調整に関して図9を参照しながら説明する。フォーカスリング3の温度調整のルールとしては、次のように決められている。
(1)LED37は、干渉式温度計61の温度検出値が下方側閾値よりも低いときにオンとなり、設定温度に達したときにオフとなる。
(2)Heガスは、前記温度検出値が上方側閾値よりも高いときにオンとなり、設定温度に達したときにオフとなる。
【0026】
そしてステップK5及びK6が繰り返され、処理レシピ64のステップS1が終了すると(処理時間が経過してタイムオーバーになると)、ステップ6からステップK7に抜け出して処理レシピ64のステップ番号を1つ繰り上げ、ステップS2のエッチングプロセスがステップK3〜K6にて同様にして実施される。
【0027】
図9は、フォーカスリング3の設定温度、下方側閾値、上方側閾値及びフォーカスリング3の温度推移を、LED37及びHeガスのオン、オフと関連付けて示した温度推移図である。今、温度検出値が下方側閾値よりも低いとすると、図9に示すように、LED37がオンとなり、このためフォーカスリング3の温度が上昇する。このときHeガスがオフの状態(停止の状態)となっている。そして温度検出値が設定温度に達するとLED37がオフとなるが、LED37からのレーザによる加熱箇所と温度計61による検出箇所との距離による熱伝達のタイムラグにより、温度検出値は設定温度をオーバーシュートする。このオーバーシュートにより温度検出値が上方側閾値を超えると、Heガスがオンとなり(Heガスの供給が開始され)、フォーカスリング3の冷却が始まる。実際には、Heガスが設定圧力まで充填されるのにかかる時間やHeガスの充填箇所と温度計61の検出箇所との間の距離などにより、温度検出値が低下に転ずるまでにタイムラグが発生する。そして温度検出値が設定温度に達すると、Heガスの供給が停止する。しかし実際には、Heガスの充填箇所と温度計61による検出箇所との間の距離、Heガスの供給停止後におけるHeガスの残留及びフォーカスリング3と第2の静電チャック25との点接触箇所箇所からの抜熱などにより、温度検出値は設定温度よりも低下しアンダーシュートが発生する。温度検出値が更に低下し下方側閾値を下回ると、LED37がオンとなりフォーカスリング3の加熱が開始される。その後も温度検出値の挙動や本装置の状況に応じて上述した作用を繰り返すことにより、フォーカスリング3の温度は、設定温度近傍に調整及び維持される。なお温度検出値が上方側許容値あるいは下方側許容値を超過した場合には、その時点でウエハWの処理を中止し、そのウエハWは不良ウエハとして扱う。
【0028】
一方プログラム66は、処理レシピ64のステップS1におけるフォーカスリング3に関連する事項以外の処理パラメータについても読み出しており、この処理パラメータによって、上部電極5側の高周波電力のパワー、下部電極2側の高周波電力(バイアス電力)のパワー、処理ガスの種別、ガス流量、圧力などが設定されて処理雰囲気内にプラズマが生成され、バイアス電力によりプラズマ中のイオンがウエハWに引き込まれながら、薄膜のエッチングが進行する。ステップS1のエッチング時間が終了すると、次にステップS2の前記処理パラメータが読み出され、当該処理パラメータに基づいて、ステップS2が対象としている薄膜のエッチングが行われる。
【0029】
図8に戻って、処理パラメータのステップの番号が最終番号(この例ではn=6)になると、ウエハWに対する一連のエッチングが終了する。図10は、ウエハW上に形成された多層膜7のエッチング終了時点における状態を模式的に示した縦断面図である。その後、処理済みのウエハWが搬入動作と逆の動作で真空容器1から搬出され、次のウエハWが当該真空容器1内に搬入されることとなる。
【0030】
図11は、処理レシピ64のステップ(S1〜S3を代表して示している)の実行タイミングとフォーカスリング3の温度との関係を模式的に示したものであり、一のステップに対して次のステップにおけるフォーカスリング3の設定温度が高い場合には、一のステップが終了した後、LED37がオンとなって昇温し、逆に次のステップにおけるフォーカスリング3の設定温度が低い場合には、一のステップが終了した後、Heガスがオンとなって降温する。なお図11では、温度推移の理解を容易にするために、設定温度については、図6に示したエッチング対象の膜の設定温度と対応させていない。
【0031】
上述の実施形態によれば、ウエハWに形成された多層膜7の各々に対して面内均一性の高いエッチングを行うことができる適切なフォーカスリング3の温度を事前に把握して、設定温度として処理レシピ64に反映すると共に、連続してエッチングされる各膜毎に、フォーカスリング3の温度をその設定温度を含む適切な温度域に収まるように加熱機構及び冷却機構を制御しているため、面内均一性の高いエッチング処理を行うことができる。またフォーカスリング3の加熱機構としてレーザによる熱輻射を利用しているため、フォーカスリング3を迅速に加熱することができる。またフォーカスリング3の冷却では、熱媒体であるヒータを介さずにフォーカスリング3の熱を支持台2に逃がすように構成し、加熱機構と冷却機構とを互いに独立させて切り分けているので、フォーカスリング3を迅速に冷却することができる。
【0032】
上述の実施形態では、膜の種別とフォーカスリング3の設定温度とを対応付けているが、本発明者は同じ膜であっても開口率(デバイスの面積全体に対する、膜の上のマスクの開口部の面積の占有率)が異なればフォーカスリング3の適正な温度が変わってくることを把握しており、このため膜種と開口率との組み合わせ毎にフォーカスリング3の温度を設定するようにしてもよい。
【0033】
上述の実施形態では、加熱モード及び冷却モードのオン、オフに伴い第2の静電チャック25のオン、オフ制御も行ったが、第2の静電チャック25は加熱モード時も含めて常時オンに維持していてもよい。
【0034】
フォーカスリング3の温度制御の手法としては、上述のオン、オフ制御に限らず、例えばフォーカスリング3の設定温度よりも若干低い閾値L1及び若干高い閾値L2を夫々設定し、次のように加熱、冷却を行うようにしてもよい。温度検出値と設定温度との差分に応じてPIDアンプによりLED37の出力パワーをコントロールし、温度検出値が設定温度を越えたときにLED37をオフにし、温度検出値が閾値L1以下になったときに、LED37の出力パワーコントロールを再開する。また温度検出値と設定温度との差分に応じてPIDアンプによりHeガスの圧力をコントロールし、温度検出値が設定温度よりも低くなったときにHeガスをオフにし、温度検出値が閾値L2を越えたときにHeガスの圧力コントロールを再開する。
【0035】
加熱機構としては、上述のLEDの他に、レーザ光を発生させるその他のレーザ光源やヒータなどでもよい。また冷却機構としては、上述のようにHeガスのような熱媒体ガスを用いるものに限らず、例えば粘着性のあるシートの間にペルチェ素子を挟み込んだ冷却用の積層体をフォーカスリング3と支持台2との間に介在させ、ペルチェ素子によりフォーカスリング3を冷却するものであってもよい。この場合第2の静電チャック25は用いない。また熱媒体ガスとして、Heガスの代わりに、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、四フッ化メタン(CF4)、六フッ化硫黄(SF6)等のガスを用いてもよいが、これらのガスの熱伝導係数及びこれらのガスがプラズマ空間中に漏れ出した場合におけるエッチングプロセスへの影響を考慮すると、Heガスが好ましい。更にまた熱媒体として、ガスではなく、例えば水や有機溶剤(例えば、ガルデン)等の液体でもよいが、フォーカスリングの冷却機構の構成が複雑になること、及び冷却を止める時における熱媒体液体の引き抜きの困難性を考えると、Heガスが好ましい。
【0036】
各ウエハWについて、上述のように処理レシピ64におけるステップ数が複数あるのではなく、一層の膜だけをエッチングする、つまり既述のステップが一つだけの場合も本発明に含まれる。またウエハWの多層膜7をエッチングする場合に限らず、ウエハWの一層の膜だけをエッチングする場合に、このウエハWに対応する処理レシピ64中に前記膜に応じたフォーカスリング3の設定温度を書き込んでおき、この設定温度に応じてフォーカスリング3の温度をコントロールする場合も本発明に含まれる。
【実施例】
【0037】
本発明における実施例について説明する。直径300mmのシリコンウエハ上に形成された低誘電率層膜であるSiCHO膜に対してC4F8を含むプロセスガスをプラズマ化して得たプラズマによりトレンチ形状のパターンのエッチングを行った。フォーカスリングの温度を70℃、180℃、270℃、350℃と変えたが、それ以外の処理条件は同じにしてウエハ面上のエッチングレートについて調べた。その結果を図12に示す。
フォーカスリングの温度が70℃の場合には、ほぼ均一なエッチング処理結果であったが、フォーカスリング温度が上がるにつれて、ウエハ周縁部の膜厚が中央部と比較して小さくなった。このことから、フォーカスリング温度を調整することでウエハ周縁部のエッチングレートを調整でき、フォーカスリングの温度を適正化することによりエッチングについてウエハの面内均一性の向上を図れることが確認された。
【符号の説明】
【0038】
W ウエハ
1 処理容器
2 支持台
21 第1の静電チャック
25 第2の静電チャック
3 フォーカスリング
31 ヘリウム供給源
32 圧力調整部
35 冷媒通流室
36 石英部材
37 LED
38 圧力コントローラ
39 レーザ出力コントローラ
4 下部電極の交流電源
5 ガスシャワーヘッド
6 制御部
61 干渉式温度計
64 処理レシピ
7 多層膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12