特許第5733299号(P5733299)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733299
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】安定なアクリルアミド水溶液
(51)【国際特許分類】
   C07C 231/22 20060101AFI20150521BHJP
   C07C 233/09 20060101ALI20150521BHJP
   C12P 13/02 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C07C231/22
   C07C233/09 A
   C12P13/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-500681(P2012-500681)
(86)(22)【出願日】2011年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2011053673
(87)【国際公開番号】WO2011102510
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-35922(P2010-35922)
(32)【優先日】2010年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】FERM  BP-1478
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】加納 誠
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 典史
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−062716(JP,A)
【文献】 特開昭48−103512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 231/00−237/52
C12P 13/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアルデヒドをアクリルアミドに対して1.5mg/Kg〜4mg/Kg含有する、アクリルアミド水溶液。
【請求項2】
アクリルアミド濃度が25〜60%である、請求項1に記載のアクリルアミド水溶液。
【請求項3】
アクリルアミドが、生体触媒の存在下、アクリロニトリルを水和させて生成させたものである、請求項1または2に記載のアクリルアミド水溶液。
【請求項4】
アセトアルデヒドを含む、アクリルアミド水溶液の安定剤。
【請求項5】
アセトアルデヒドをアクリルアミドに対して1.5mg/Kg〜4mg/Kgの濃度となるように調整する工程を含む、アクリルアミド水溶液の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定なアクリルアミド水溶液に関する。詳しくは、極めて重合し易いアクリルアミドを製造及び/又は保存する際に、品質に悪影響を及ぼさないで重合を抑制することにより安定化したアクリルアミド水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミドは、凝集剤、石油回収剤、製紙工業における紙力増強剤、抄紙用増粘剤など、多くの用途を有しており、重合体の原料として有用な物質である。
アクリルアミドの工業的製造方法として、古くはアクリロニトリルを硫酸および水とともに加熱してアクリルアミド硫酸塩を得る工程からなる硫酸加水分解法があるが、その後アクリロニトリルを銅触媒(金属銅、還元銅、ラネー銅等)の存在下で水和させてアクリルアミドを得る銅触媒法に転換されている。さらに近年、副生成物の少ない製造方法として、微生物由来のニトリル水和酵素を利用してアクリルアミドを得る微生物法の工業的製造も行われている。
アクリルアミドは多くの不飽和単量体と同様に、光や熱によって重合しやすい上、鉄表面に接触すると極めて容易に重合してしまうという性質を有しており、製造の各工程や貯蔵および保管において、重合を抑制させて安定に取り扱うことが困難であった。
【0003】
そのため、アクリルアミドを安定化させるために、様々な安定剤が提案されている。例えば、チオ尿素、ロダンアンモン、ニトロベンゾール(特許文献1)、フェロン(特許文献2)、フリルジオキシム(特許文献3)、クロムのシアン錯化合物(特許文献4)、p−ニトロソジフェニルヒドロキシアミン(特許文献5)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭30−10109号
【特許文献2】特公昭40−7171号
【特許文献3】特公昭40−7172号
【特許文献4】特公昭41−1773号
【特許文献5】特公昭45−111284号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の安定剤は、アクリルアミド製造工程での重合防止やアクリルアミド水溶液の安定化に用いられるが、いずれも重合禁止剤に相当するものである。重合禁止効果の小さい安定剤は、多量にアクリルアミドに添加しなければならず、アクリルアミドの着色や純度低下等、アクリルアミドの品質が低下する問題があった。反対に、高い重合禁止効果を有する安定剤は、少量の使用でも、アクリルアミド重合体を製造する際に、所望とする高い分子量の重合体が得られ難くなったり、重合速度が低下する等、重合操作に悪影響を及ぼすことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アセトアルデヒドをアクリルアミドに含有させることで、アクリルアミドの品質を低下させることなく、アクリルアミドの製造及び/又は保存時の重合を抑制して安定性を大幅に向上させることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の安定なアクリルアミド水溶液は、以下のとおりである。
本発明は、アセトアルデヒドをアクリルアミドに対して1.5mg/Kg〜4mg/Kg含有することを特徴とするアクリルアミド水溶液である。
また、本発明の安定化させたアクリルアミド水溶液は、アクリルアミド濃度を25〜60%とすることができる。
さらに、本発明の安定化させたアクリルアミド水溶液には、生体触媒の存在下、アクリロニトリルを水和させて生成させたアクリルアミド水溶液を用いることができる。
本発明は、アセトアルデヒドを含む、アクリルアミド水溶液の安定剤も提供する。
さらに、本発明は、アセトアルデヒドをアクリルアミドに対して1.5mg/Kg〜4mg/Kgの濃度となるように調整する工程を含む、アクリルアミド水溶液の安定化方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
アセトアルデヒドをアクリルアミドに含有させることで、アクリルアミドの品質を低下させることなく、アクリルアミドの重合を抑制することによって安定性を大幅に向上させることができる。また、本発明のアクリルアミド水溶液においては、鉄表面に対する腐食作用も抑制されて、より一層の安定化効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することが可能である。
本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2010-035922号明細書(出願日:2010年2月22日)の内容を包含する。本明細書において引用した全ての刊行物、例えば、技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参考として組み込まれる。
【0010】
本発明におけるアクリルアミド水溶液は、初期の工業的製法である硫酸水和法、現在の主な工業製法である銅触媒法、さらには近年工業化された微生物法で製造された何れのものでもよいが、反応副生物が少なく高純度なアクリルアミドが得られる微生物法で製造されたものがより好ましい。なお、微生物によるアクリルアミド製造法に関しては、例えば、特許第2548051号、特公昭56−17918号公報、特公昭59−37951号公報、特開平2−470号公報および国際公開第2009/113654号公報記載の方法を挙げることができる。
【0011】
生体触媒を用いたアクリルアミドの製造方法は、連続反応により行う方法(連続的にアクリルアミドを生成させる方法)であってもよいし、バッチ反応により行う方法(非連続的にアクリルアミドを生成させる方法)であってもよく、限定はされないが、連続反応により行う方法が好ましい。
【0012】
ここで、連続反応により行う方法とは、反応原料(生体触媒及びアクリロニトリルを含む)の連続的又は間歇的な供給と、反応混合物(生成したアクリルアミドを含む)の連続的又は間歇的な取り出しを行いながら、反応器内の反応混合物を全量抜き出すことなく連続的にアクリルアミドを製造する方法を意味する。
【0013】
本発明のアクリルアミド水溶液を生成するために使用する生体触媒としては、目的とする反応を触媒する酵素を含有する動物細胞、植物細胞、細胞小器官、菌体(生菌体又は死滅体)又はその処理物が含まれる。処理物としては、細胞から抽出された粗酵素又は精製酵素、さらに動物細胞、植物細胞、細胞小器官、菌体(生菌体又は死滅体)又は酵素自体を包括法、架橋法、担体結合法等で固定化したものが挙げられる。
【0014】
ただし、包括法とは、菌体又は酵素を高分子ゲルの微細な格子の中に包み込むか、半透膜性の高分子の皮膜によって被覆する方法である。また、架橋法とは、酵素を2個又はそれ以上の官能基を持った試薬(多官能性架橋剤)で架橋する方法である。また、担体結合法とは、水不溶性の担体に酵素を結合させる方法である。
【0015】
固定化に用いる固定化担体としては、例えば、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸、寒天及びゼラチン等が挙げられる。
【0016】
上記の菌体としては、例えば、ノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobavter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属及びシュードノカルディア(Pseudonocardia)属等に属する微生物等が挙げられる。より好ましい菌体としては、ロドコッカス・ロドクロウス J1株(FERM BP-1478)が挙げられる。
ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス・ロドクロウス Rodococcus rhodochrous J1株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、受託番号:FERM BP-1478として1987年9月18日に国際寄託されている。
なお、寄託者についての情報は以下の通りである。
名称:山田 秀明
あて名:京都府京都市左京区松ヶ崎木ノ本町19番地の1
酵素としては、例えば、前記微生物が産生するニトリルヒドラターゼが挙げられる。
【0017】
生体触媒の使用量は、用いる生体触媒の種類、形態によっても異なるが、反応器中に導入する生体触媒の活性が、反応温度10℃で乾燥菌体1mg当たり50〜200U程度となるように調整することが好ましい。ただし、前記単位U(ユニット)とは、1分間にアクリロニトリルからアクリルアミドを1マイクロモル生成させることを意味し、製造に用いるアクリロニトリルを用いて測定した値である。
【0018】
反応中のアクリロニトリル濃度は、用いる生体触媒の種類、形態によっても異なるが、0.5〜15.0重量%程度であることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法を連続反応により行う場合、反応器中から反応混合物を取り出す際の流体速度は、反応器内の反応混合物を全量抜き出すことなく連続的に製造できるように、アクリロニトリル及び生体触媒の導入速度に合わせて決定すればよい。
【0020】
以上のようにして製造されるアクリルアミドは、25〜60重量%の水溶液として使用することが好ましい。アクリルアミド濃度が25重量%よりも低いと、貯蔵や保管に用いるタンク容積が過大となったり、輸送コストが増大して、工業的には経済的に不利となる。また濃度が60重量%よりも高いと、常温近くでアクリルアミドの結晶が析出するため、加熱装置が必要となり設備コストが増加するだけでなく、温度管理などの操作性も複雑化する。したがって、本発明のアクリルアミド水溶液の上限の濃度は、常温近くでもアクリルアミドの結晶が析出することのない範囲であるかぎり、例えば、60重量%、より好ましくは55重量%、最も好ましくは50重量%とすることができる。また、本発明のアクリルアミド水溶液の下限の濃度は、例えば、25重量%、より好ましくは35重量%、最も好ましくは40重量%とすることができる。
【0021】
本発明における安定なアクリルアミド水溶液は、アセトアルデヒドをアクリルアミドに対して重量比で1.5mg/Kg〜4mg/Kg含有したものが好ましく、より好ましくは2〜3mg/Kgである。含有量が1.5mg/Kgよりも低いとアクリルアミドの重合を抑制する安定効果はほとんどない。また、4mg/Kgより多く含有させると安定効果は小さくなる。
【0022】
本発明におけるアクリルアミド水溶液には、安定化を補助する目的で、アセトアルデヒドに加えて、さらに炭素数2以上の水溶性モノカルボン酸塩の少なくとも1種をアクリルアミドに対し酸として重量比で20〜5000mg/Kg添加することもできる。モノカルボン酸塩は、飽和モノカルボン酸および不飽和モノカルボン酸の塩のいずれでもよく、具体的には、例えば、飽和カルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、n−カプロン酸などが挙げられる。また、不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸などが挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が代表的である。
【0023】
アセトアルデヒドは、アクリルアミドの原料であるアクリロニトリル中に、通常、不純物として極微量存在する。アセトアルデヒド含有量の低いアクリロニトリルを使用してアクリルアミドを製造し、アセトアルデヒドがアクリルアミドに対して1.5mg/Kgよりも低いアクリルアミド水溶液が得られる場合は、アセトアルデヒドを添加して所望の濃度にすればよい。
【0024】
アセトアルデヒドをアクリルアミドに添加する方法としては、アクリルアミドの原料であるアクリロニトリルまたは原料水もしくは触媒に添加する方法、アクリルアミドを製造する任意の工程で添加する方法、製品アクリルアミドに添加する方法が挙げられるが、アセトアルデヒド濃度の調整が容易な製品アクリルアミドへ添加する方法が好ましい。
【0025】
アセトアルデヒドは、市販されているものを用いてもよいし、当該分野で公知の方法によって合成されたものを用いてもよい。アクリルアミド水溶液へのアセトアルデヒド添加量が極微量となる場合は、添加し易いようにアセトアルデヒドを希釈した液を添加することもできる。その際、希釈液には水を用いても良いが、アセトアルデヒド希釈液添加によるアクリルアミド濃度の低下が好ましくない場合は、アセトアルデヒドを所望の濃度のアクリルアミド水溶液に希釈し、この希釈液をアクリルアミド水溶液に添加してもよい。
【0026】
一方、アクリロニトリル中のアセトアルデヒド含有量が多く、アセトアルデヒドがアクリルアミドに対して4mg/Kgよりも多いアクリルアミド水溶液が得られる場合は、アクリロニトリルを精製してアセトアルデヒドを除去することで、本発明のアクリルアミド水溶液を得ることができる。
【0027】
アセトアルデヒドを除去または添加した場合に、所定の濃度範囲にあるかどうかを調べるためには、アクリルアミド水溶液中のアセトアルデヒド含有量は、ガスクロマトグラフィー質量分析法、液体クロマトグラフィー質量分析法、MBTH法(3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラジン法)などにより測定することができる。
【0028】
アクリロニトリル中のアセトアルデヒドを除去する方法としては、イオン交換樹脂にアクリロニトリルを接触させればよい。イオン交換樹脂を用いて、アクリロニトリル中のアルデヒド化合物を除去する方法としては、例えば、特開平7−145123や特開2000−16978などに記載されている。
【0029】
本発明の安定化したアクリルアミド水溶液は、アクリルアミド重合体を製造する際、上記アセトアルデヒド含有量の範囲内において重合への影響はほとんどない。したがって、本発明の安定化したアクリルアミド水溶液は、その後の用途に応じて、アセトアルデヒドを含有したまま重合工程に供して所望のアクリルアミド重合体を得ることができる。
【0030】
また別の実施形態において、本発明は、アセトアルデヒドを含むアクリルアミド水溶液の安定剤を提供する。アクリルアミドに対する本発明の安定剤の添加量は、特に限定されるものではなく適宜加減することができるが、当該安定剤が添加されたアクリルアミド水溶液において、所望のアセトアルデヒド濃度(例えば、アクリルアミド重量比で1.5mg/Kg〜4mg/Kg、好ましくは、2mg/Kg〜3mg/Kg)を達成できる量とすることが好ましい。本発明の安定剤は、アセトアルデヒドの安定化効果を低下させるものでないかぎり、アセトアルデヒド以外の他の成分を含んでいてもよい。本発明の安定剤は、単独で用いても十分な効果を発揮するが、他の既知の安定剤と混合して用いることもできる。
【0031】
他の実施形態において、本発明は、アクリルアミド水溶液に対してアセトアルデヒドを1.5mg/Kg〜4mg/Kgの濃度となるように調整する工程を含む、アクリルアミド水溶液の安定化方法を提供する。アセトアルデヒド濃度の調整は、アセトアルデヒドの添加または除去によって行うことができるが、これらに限定されるものではない。この方法において、アセトアルデヒドのアクリルアミドへの添加は、アクリルアミドの原料であるアクリロニトリルまたは原料水もしくは触媒に対して行われてもよいし、アクリルアミドを製造する任意の工程で行われてもよいし、または、製品アクリルアミドに対して行われてもよい。好ましくは、アセトアルデヒドは、アセトアルデヒド濃度の調整が容易な製品アクリルアミドへ添加される。一方で、アセトアルデヒドを除去する場合は、アクリルアミドの原料であるアクリロニトリルを精製しても良いし、製品アクリルアミドを精製しても良い。好ましくは、アセトアルデヒドは、精製が容易な原料アクリロニトリルから除去される。さらに、アセトアルデヒドの濃度の調整は、ある濃度(例えば4mg/Kg超)でアセトアルデヒドを含むアクリルアミド水溶液を希釈することによって、目的のアセトアルデヒドの濃度となるように調整することもできる。希釈用いる溶液としては、アクリルアミド水溶液のほか、モノカルボン酸塩水溶液などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
(アセトアルデヒド1.5mg/Kg含有アクリルアミド水溶液)
製品50%アクリルアミド水溶液(ダイヤニトリックス社製:微生物法によりアクリロニトリルを水和させて製造、pH6.8、アクリル酸を200mg/Kg含む(対アクリルアミド))のアセトアルデヒド濃度を液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。
より詳細には、特許第2548051号公報の実施例2に記載の方法に従って、アクリロニトリルからアクリルアミド水溶液を製造した。その後、得られたアクリルアミド水溶液を試験管に1ml取り、アセトニトリルに過剰の2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(2,4−DNPH)を加えた飽和2,4−DNPH溶液を50μl加えた。試験管を振り攪拌した後、濃塩酸を10μl加え、試験管を振とう機付きの恒温槽に浸けて、50℃で20分間、振とうさせた。20分後、試験管内の液20μlをHPLCに注入し、アセトアルデヒド濃度を測定した。なお、HPLC分析は、以下の条件で測定した。
【表1】

その結果、アセトアルデヒド1.1mg/Kg(対アクリルアミド)であった。
アセトアルデヒド(関東化学株式会社、鹿特級)を純水で希釈して100mg/Kgアセトアルデヒド水溶液を調整し、アクリルアミドに対してアセトアルデヒドが1.5mg/Kgとなるように、製品50%アクリルアミド水溶液300gに100mg/Kgアセトアルデヒド水溶液を0.6g添加した。
アセトアルデヒドを1.5mg/Kg含有した50%アクリルアミド水溶液を30g取り、50mlのポリプロピレン製容器(アズワン株式会社製、アイボーイ広口びん)に入れた。
ドーナツ型の鉄片(株式会社ミスミ製、型番WSS6、内径6mm、外径13mm)をアセトンで洗浄した後、純水で洗浄し乾燥させた。乾燥後、この鉄片を、アセトアルデヒドを添加したアクリルアミド水溶液の入っている50mlのポリプロピレン製容器内へ入れた。
70℃に保持した恒温器内へこのポリプロピレン製容器を入れ、アクリルアミド水溶液が重合するまでの日数を測定した。
40日後、ポップコーン状の重合物が生成した。鉄片に錆びは見られなかった。
【0034】
[実施例2]
(アセトアルデヒド4mg/Kg含有アクリルアミド水溶液)
アクリルアミドに対して、アセトアルデヒド濃度が4mg/Kgとなるように、製品50%アクリルアミド水溶液300gに、純水で希釈した1000mg/Kgアセトアルデヒド水溶液を0.435g添加した液を調整した以外は、実施例1と同様にアクリルアミド水溶液が重合するまでの日数を測定した。
44日後、ポップコーン状の重合物が生成した。鉄片に錆びは見られなかった。
【0035】
[比較例1]
(アセトアルデヒド1.1mg/Kg含有アクリルアミド水溶液)
製品50%アクリルアミド水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にアクリルアミド水溶液が重合するまでの日数を測定した。
3日後、ポップコーン状の重合物が生成した。鉄片は錆びていた。
【0036】
[比較例2]
(アセトアルデヒド5mg/Kg含有アクリルアミド水溶液)
アクリルアミドに対して、アセトアルデヒド濃度が5.0mg/Kgとなるように、製品50%アクリルアミド水溶液300gに、純水で希釈した1000mg/Kgアセトアルデヒド水溶液を0.585g添加した液を調整した以外は、実施例1と同様にアクリルアミド水溶液が重合するまでの日数を測定した。
7日後、ポップコーン状の重合物が生成した。鉄片は錆びていた。
以上の結果から明らかなように、アセトアルデヒドを1.5mg/Kg〜4mg/Kg(対アクリルアミド)含有しているアクリルアミド水溶液は、重合抑制効果が高く極めて安定に維持され、同時に鉄片の錆びも抑制される。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、アクリルアミド水溶液を簡便に安定化することができるので、アクリルアミド水溶液の製造、貯蔵および/または輸送の際にアクリルアミドの重合を防止する方法として有用である。