特許第5733315号(P5733315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5733315シクロペンテン開環重合体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733315
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】シクロペンテン開環重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20150521BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20150521BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20150521BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C08G61/12
   C08L65/00
   C08K3/00
   B60C1/00 A
   B60C1/00 C
   B60C1/00 B
   B60C1/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-536586(P2012-536586)
(86)(22)【出願日】2011年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2011072580
(87)【国際公開番号】WO2012043802
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-222616(P2010-222616)
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】角替 靖男
(72)【発明者】
【氏名】早野 重孝
(72)【発明者】
【氏名】杉村 岳史
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037362(JP,A)
【文献】 特開昭54−050598(JP,A)
【文献】 特開昭48−066698(JP,A)
【文献】 特開昭48−066699(JP,A)
【文献】 特開2010−150383(JP,A)
【文献】 特開2011−122117(JP,A)
【文献】 特開2011−126966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00
C08L 65/00
C08K 3/00
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体鎖末端に、重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造を有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000である、シクロペンテン開環重合体。
【請求項2】
前記重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造が、下記の一般式(1)で表される構造である、請求項1に記載のシクロペンテン開環重合体。
【化2】
(一般式(1)中、pCPはシクロペンテン開環重合体鎖を表し、AおよびAは、それぞれ、単結合または炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表す。Rは炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rで表される基が複数個存在する場合は、それらは互いに同じ基であってもよいし、異なる基であってもよい。Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリロキシ基およびハロゲン原子から選択される基を表し、Xで表される基が複数個存在する場合は、それらは互いに同じ基であってもよいし、異なる基であってもよい。nは1〜3の整数である。)
【請求項3】
(前記重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造が導入されたシクロペンテン開環重合体鎖末端数/シクロペンテン開環重合体鎖末端全数)の百分率の値として表される、重合体鎖末端に対する前記重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造の導入率が、20%以上である請求項1または2に記載のシクロペンテン開環重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のシクロペンテン開環重合体を製造する方法であって、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を製造し、次いで、そのシクロペンテン開環重合体の水酸基と、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物のイソシアネート基とを反応させることを特徴とするシクロペンテン開環重合体の製造方法。
【請求項5】
水酸基を有するオレフィン化合物の存在下で、水酸基に対する耐性を有する開環重合触媒を用いて、シクロペンテンを開環重合することにより、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を製造する請求項4に記載のシクロペンテン開環重合体の製造方法。
【請求項6】
保護基によって保護された水酸基を有するオレフィン化合物の存在下で、水酸基に対する耐性を有しない開環重合触媒を用いて、シクロペンテンを開環重合し、得られた重合体の末端に導入される保護基によって保護された水酸基を脱保護することにより、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を製造する請求項4に記載のシクロペンテン開環重合体の製造方法。
【請求項7】
前記アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物が、下記の一般式(3)で表される化合物である請求項4に記載のシクロペンテン開環重合体の製造方法。
O=C=N−Y−Si(OR(R3−a (3)
(一般式(3)中、RおよびRは炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Yは炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表す。aは1〜3の整数である。)
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のシクロペンテン開環重合体と無機粒子とを含有してなる重合体組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の重合体組成物を架橋してなる架橋物。
【請求項10】
請求項9に記載の架橋物を用いてなるタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンテン開環重合体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、カーボンブラックやシリカなどの無機粒子との親和性が高いことから、低燃費タイヤの材料として好適な、優れた低発熱性を有する重合体組成物を与えることができる、シクロペンテン開環重合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロペンテンをメタセシス開環重合して得られるシクロペンテン開環重合体は、ゴム材料として広く知られており、カーボンブラックやシリカなどの無機粒子を配合して、ゴム材料として使用される。一般に、シクロペンテン開環重合体は、例えば特許文献1に開示されるように、WClやMoClなどの周期表第6族遷移金属化合物と、アルミニウム化合物やスズ化合物などの有機金属化合物とからなる、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒を用い、バルク重合や溶液重合で製造され、場合によっては分子量調整剤としてα−オレフィンが添加される。そのようにして得られるシクロペンテン開環重合体は、炭素原子と水素原子のみからなるので、カーボンブラックやシリカなどの無機粒子に対する親和性が低い。そのため、そのようなシクロペンテン開環重合体に無機粒子を配合して組成物を構成しても、無機粒子による機械物性の改良効果が充分に発揮されない。
【0003】
シクロペンテン開環重合体の無機粒子に対する親和性を改良する手法としては、特許文献2において、官能基およびエチレン性不飽和結合を有する化合物(例えば、アリルトリメトキシシランなど)の存在下で、ルテニウムカルベン錯体を触媒として用いて、シクロペンテンを開環重合し、シクロペンテン開環重合体鎖末端とエチレン性不飽和結合とのメタセシス反応により、シクロペンテン開環重合体の末端に官能基を導入する方法が提案されている。この方法により得られる末端に官能基を有するシクロペンテン開環重合体は、官能基を有さないものに比べ、無機粒子との親和性が大幅に改良される。
【0004】
しかしながら、近年のタイヤに対する低燃費性能の要請の高まりを鑑みると、シクロペンテン開環重合体をタイヤ用途の組成物として用いる場合においては、特許文献2に記載された方法により得られるシクロペンテン開環重合体についても、その組成物の低発熱性の改良が望まれている。例えば、現在タイヤ用途で広く用いられているスチレンブタジエンゴムなどに対して、無機粒子との親和性改善のために導入する官能基として優れた性能を有するとされているアルコキシシリル基を、特許文献2の方法でシクロペンテン開環重合体に導入しても、それにより得られる重合体組成物には、未だ低発熱性改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−50598号公報
【特許文献2】特開2010−37362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた低発熱性を有する重合体組成物を与えることができる、無機粒子との親和性が改良されたシクロペンテン開環重合体を提供し、また、そのようなシクロペンテン開環重合体を効率よく製造できる、シクロペンテン開環重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体と、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物とを反応させることにより得られるシクロペンテン開環重合体が、従来のシクロペンテン開環重合体に比して無機粒子との親和性に優れ、これを用いて得られる重合体組成物が、優れた低発熱性を有することを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして、本発明によれば、重合体鎖末端に、重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造を有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000である、シクロペンテン開環重合体が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記のシクロペンテン開環重合体を製造する方法であって、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を製造し、次いで、そのシクロペンテン開環重合体の水酸基と、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物のイソシアネート基とを反応させることを特徴とするシクロペンテン開環重合体の製造方法が提供される。さらに、本発明によれば、上記のシクロペンテン開環重合体と無機粒子とを含有してなる重合体組成物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた低発熱性を有する重合体組成物を与えることができる、無機粒子との親和性が改良されたシクロペンテン開環重合体が提供される。また、そのようなシクロペンテン開環重合体を効率よく製造できる、シクロペンテン開環重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のシクロペンテン開環重合体は、重合体鎖末端に、重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造を有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000である、シクロペンテン開環重合体である。
【0012】
本発明のシクロペンテン開環重合体は、シクロペンテンを開環重合してなる繰返し単位によって構成される重合体鎖の末端と、アルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造(以下において、特定末端構造と称する場合がある)を有してなるものである。本発明のシクロペンテン開環重合体の特定末端構造を構成するアルコキシシリル基を含有する基は、少なくとも1つのアルコキシシリル基を含有する基であれば、特に限定されない。
【0013】
アルコキシシリル基は、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基のいずれであっても良く、また、アルコキシシリル基においてケイ素原子と結合しているアルコキシ基も特に限定されないが、通常炭素数1〜20のアルコキシ基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基である。アルコキシシリル基が、モノアルコキシシリル基やジアルコキシシリル基である場合において、アルコキシ基以外のケイ素原子と結合している基も特に限定されず、例えば、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリロキシ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
【0014】
アルコキシシリル基の具体例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基、ジメトキシメチル基、ジエトキシメチル基、ジエトキシメチル基、ジエトキシエチル基などのジアルコキシアルキルシリル基、メトキシジメチル基、エトキシジメチル基、エトキシジメチル基、エトキシジエチル基などのモノアルコキシジアルキル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
特定末端構造を構成するアルコキシシリル基を含有する基は、アルコキシシリル基そのものであって良く、アルコキシシリル基とウレタン結合基とを結合する2価以上の結合基をさらに含有するものであっても良いが、重合体の製造を容易にする観点からは、2価以上の結合基を含有するものであることが好ましい。2価以上の結合基は、アルコキシシリル基とウレタン結合基とを結合できるものであれば、特に限定されないが、炭素数1〜20の2価以上の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜10の2価の炭化水素基であることがより好ましい。
【0016】
アルコキシシリル基を含有する基の具体例としては、2−(トリメトキシシリル)エチル基、3−(トリメトキシシリル)プロピル基、4−(トリメトキシシリル)ブチル基、6−(トリメトキシシリル)ヘキシル基、8−(トリメトキシシリル)オクチル基、2−(トリエトキシシリル)エチル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基、4−(トリエトキシシリル)ブチル基、6−(トリエトキシシリル)ヘキシル基、8−(トリエトキシシリル)オクチル基、2−(ジメトキシメチルシリル)エチル基、3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル基、4−(ジメトキシメチルシリル)ブチル基、2−(ジエトキシメチルシリル)エチル基、3−(ジエトキシメチルシリル)プロピル基、4−(ジエトキシメチルシリル)ブチル基、2−(ジメトキシエチルシリル)エチル基、2−(ジエトキシエチルシリル)エチル基、2−(ジエチルメトキシシリル)エチル基、2−(ジメチルエトキシシリル)エチル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
また、本発明のシクロペンテン開環重合体における、重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造は、ウレタン結合中の窒素原子が重合体鎖と結合したものであっても良いし、ウレタン結合基中の窒素原子がアルコキシシリル基を含有する基と結合したものであっても良いが、重合体の製造を容易にする観点からは、ウレタン結合基中の窒素原子がアルコキシシリル基を含有する基と結合したものであることが好ましい。この構造として、特に好ましく用いられる構造は、下記の一般式(1)で表すことができる。
【0018】
【化1】
【0019】
(一般式(1)中、pCPはシクロペンテン開環重合体鎖を表し、AおよびAは、それぞれ、単結合または炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表す。Rは炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rで表される基が複数個存在する場合は、それらは互いに同じ基であってもよいし、異なる基であってもよい。Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリロキシ基およびハロゲン原子から選択される基を表し、Xで表される基が複数個存在する場合は、それらは互いに同じ基であってもよいし、異なる基であってもよい。nは1〜3の整数である。)
【0020】
本発明のシクロペンテン開環重合体は、一方の重合体鎖末端(片末端)のみに特定末端構造が導入されたものであっても、両方の重合体鎖末端(両末端)に特定末端構造が導入されたものであっても良く、また、これらが混在したものであっても良い。さらに、これらと、特定末端構造が導入されていないシクロペンテン開環重合体が混在していても良い。
【0021】
本発明のシクロペンテン開環重合体において、重合体鎖末端に対する特定末端構造の導入率は、特に限定されないが、シクロペンテン開環重合体と無機粒子との親和性を特に良好にする観点からは、(特定末端構造が導入されたシクロペンテン開環重合体鎖末端数/シクロペンテン開環重合体鎖末端全数)の百分率の値として、20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることが好ましい。なお、本発明のシクロペンテン開環重合体において、重合体鎖末端に対する特定末端構造の導入率は、H‐NMRスペクトル測定およびゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求めることができる。具体的には、H‐NMRスペクトル測定によるシクロペンテン開環重合体主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合のプロトンに由来するピークの積分値および特定末端構造に由来するピークの積分値、ならびにGPC測定による数平均分子量(Mn)を比較することにより求めることができる。
【0022】
本発明のシクロペンテン開環重合体は、その主鎖を構成する繰返し単位が、シクロペンテンを開環重合してなる繰返し単位のみからなるものであって良いが、シクロペンテンと共重合可能なその他の単量体に由来する繰返し単位を含有していても良い。ただし、シクロペンテン開環重合体の特性を良好にする観点からは、その他の単量体に由来する繰返し単位の割合は、全繰返し単位に対して20モル%以下であることが好ましく、15%モル以下であることがより好ましく、10%モル以下であることがさらに好ましい。シクロペンテンと共重合可能なその他の単量体としては、シクロペンテン以外のモノ環状オレフィン、モノ環状ジエン、モノ環状トリエンや多環の環状オレフィン、多環の環状ジエン、多環の環状トリエンなどが挙げられる。シクロペンテン以外のモノ環状オレフィンとしては、置換基を有するシクロペンテンや、置換基を有していてもよいシクロオクテンやシクロオクタジエンが例示される。モノ環状ジエンとしては、置換基を有していてもよい1,5−シクロオクタジエンが例示される。モノ環状トリエンとしては、置換基を有していてもよい1,5,9−シクロドデカトリエンが例示される。また、多環の環状オレフィンとしては置換基を有していてもよいノルボルネン化合物が例示される。
【0023】
本発明のシクロペンテン開環重合体の分子量は、重量平均分子量(Mw)の値として、100,000〜1,000,000であり、好ましくは150,000〜900,000であり、より好ましくは200,000〜800,000である。シクロペンテン開環重合体がこのような分子量を有することにより、優れた機械物性を有する重合体組成物を与えることが可能となる。
【0024】
また、本発明のシクロペンテン開環重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)は、特に限定されないが、通常4.0以下であり、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3.0以下である。このようなMw/Mnを有することにより、より優れた機械物性を有する重合体組成物を与えることが可能となる。
【0025】
なお、本発明において、重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値として測定するものとする。
【0026】
本発明のシクロペンテン開環重合体を構成する繰返し単位中に存在する二重結合において、そのシス/トランス比は、特に限定されないが、通常10/90〜90/10の範囲で設定されるが、低温下で優れた特性を示す重合体組成物を与えることができるシクロペンテン開環重合体を得る観点からは、30/70〜90/10の範囲であることが好ましい。
【0027】
以上のような本発明のシクロペンテン開環重合体を製造する方法は特に限定されないが、好適に用いられる製造方法は、以下に述べる本発明のシクロペンテン開環重合体の製造方法である。
【0028】
本発明のシクロペンテン開環重合体の製造方法は、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を製造し、次いで、そのシクロペンテン開環重合体の水酸基と、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物のイソシアネート基とを反応させることを特徴とするとするものである。
【0029】
本発明のシクロペンテン開環重合体の製造方法では、まず、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を製造する。重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体は、公知の手法により製造すればよく、その手法は特に限定されるものではないが、(I)水酸基を有するオレフィン化合物の存在下で、水酸基に対する耐性を有する開環重合触媒を用いて、シクロペンテンを開環重合する方法、または(II)保護基によって保護された水酸基を有するオレフィン化合物の存在下で、水酸基に対する耐性を有しない開環重合触媒を用いて、シクロペンテンを開環重合し、得られた重合体の末端に導入される保護基によって保護された水酸基を脱保護する方法が好適である。
【0030】
水酸基を有するオレフィン化合物の存在下で、水酸基に対する耐性を有する開環重合触媒を用いて、シクロペンテンを開環重合する方法において、用いられ得る水酸基を有するオレフィン化合物は、分子内にエチレン性不飽和結合および水酸基を少なくとも1つずつ含有する化合物であれば、特に限定されない。
【0031】
水酸基を有するオレフィン化合物の具体例としては、アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、4−ヘキセン−1−オール、4−ヘプテン−1−オール、5−デセン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、5−オクテン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール、4−ヒドロキシスチレン、2−アリルフェノール、4−ヒドロキシ安息香酸アリル、1−シクロヘキシル−2−ブテン−1−オール、エチレングリコールモノアリルエーテル、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオールなどの水酸基を含有する末端オレフィン化合物や、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ヘキセン−2,5−ジオールなどの水酸基を炭素−炭素二重結合の両側に含有する内部オレフィン化合物を挙げることができる。なお、水酸基を有するオレフィン化合物は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用することもできる。水酸基を有するオレフィン化合物として、水酸基を含有する末端オレフィン化合物を用いる場合には、一方の重合体鎖末端(片末端)のみに水酸基が導入され、水酸基を炭素−炭素二重結合の両側に含有する内部オレフィン化合物を用いる場合には、両方の重合体鎖末端(両末端)に水酸基が導入される。
【0032】
水酸基を有するオレフィン化合物は、水酸基に対する耐性を有する開環重合触媒を用いた開環重合反応系において連鎖移動剤として働き、分子量調整剤としての機能を果たすことができる。したがって、水酸基を有するオレフィン化合物の使用量は、目的とするシクロペンテン開環重合体の分子量に応じて決定すればよい。水酸基を有するオレフィン化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、重合反応に用いる単量体1モルあたり、通常0.00001〜0.01モルの範囲で選択され、好ましくは0.00005〜0.005モルの範囲で選択される。
【0033】
また、水酸基を有するオレフィン化合物の存在下でシクロペンテンを開環重合する方法において用いることができる、水酸基に対する耐性を有する開環重合触媒としては、ルテニウムカルベン錯体を挙げることができる。
【0034】
ルテニウムカルベン錯体は、シクロペンテンの開環重合触媒となるものであれば、特に限定されない。好ましく用いられるルテニウムカルベン錯体の具体例としては、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)−3,3−ジフェニルプロペニリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)t−ブチルビニリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジイソプロピルイミダゾリン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリドを挙げることができる。
【0035】
ルテニウムカルベン錯体の使用量は、特に限定されるものではないが、(触媒中の金属ルテニウム:単量体)のモル比として、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,500,000、より好ましくは1:10,000〜1:1,000,000の範囲である。使用量が少なすぎると、重合反応が十分に進行しない場合がある。一方、多すぎると、得られるシクロペンテン開環重合体からの触媒残渣の除去が困難となる。
【0036】
重合反応は、無溶媒中で行ってもよく、溶液中で行ってもよい。溶液中で重合する場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であり、重合に用いるシクロペンテンや重合触媒などを溶解させ得る溶媒であれば特に限定されないが、炭化水素系溶媒またはハロゲン系溶媒を用いることが好ましい。炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素を挙げることができる。また、ハロゲン系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなどのアルキルハロゲン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族ハロゲンを挙げることができる。
【0037】
重合温度は、特に限定されないが、通常−50〜100℃の範囲で設定される。また、重合反応時間は、好ましくは1分間〜72時間、より好ましくは5時間〜20時間である。重合転化率が所定の値に達した後、公知の重合停止剤を重合系に加えることにより、重合反応を停止させることができる。
【0038】
以上のようにすれば、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を含む、重合体溶液を得ることができる。重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体は、重合体溶液から回収してからイソシアネート化合物(アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物)との反応に供しても良いし、重合体溶液をそのままイソシアネート化合物との反応に供することもできる。重合体溶液から重合体を回収する場合は、公知の回収方法を採用すればよく、例えば、スチームストリッピングなどで溶媒を分離した後、固体をろ別し、さらにそれを乾燥して固形状ゴムを取得する方法などが採用できる。
【0039】
なお、ルテニウムカルベン錯体を用いて得られるシクロペンテン開環重合体は、繰返し単位中に存在する二重結合において、トランス構造の割合が高くなり易い傾向があり、そのため比較的低温で結晶性を有するものとなる場合があるため、ゴム材料としての特性に劣るものとなる場合がある。これを防止する観点からは、シクロペンテンに、その他の単量体を共重合させることが好ましい。この場合に用いられ得るシクロペンテンと共重合できるその他の単量体の具体例としては、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、1,5,9−シクロドデカトリエンを挙げることができる。
【0040】
水酸基に対する耐性を有しない開環重合触媒を用いて、シクロペンテンを開環重合する場合は、保護基によって保護された水酸基を有するオレフィン化合物の存在下で、重合反応を行う。保護の対象は、前述の水酸基を有するオレフィン化合物とすれば良く、また、水酸基の保護は、水酸基の保護基として公知の保護基を用いて行えば良い。水酸基の保護基の具体例としては、アルキル基、アシル基、RC(O)−基(ただしRは炭素数1〜10の飽和炭化水素基)、シリル基、金属アルコキシドを挙げることができる。また、水酸基を有するオレフィン化合物とトリアルキルアルミニウム化合物とを反応させることにより保護された水酸基を有するオレフィン化合物としても良い。なお、水酸基を有するオレフィン化合物とトリアルキルアルミニウム化合物との反応物を用いる場合は、この反応物は、後述する助触媒として用いられる有機金属化合物としての機能を果たすこともできる。
【0041】
保護された水酸基を有するオレフィン化合物は、開環重合反応系において連鎖移動剤として働き、分子量調整剤としての機能を果たすことができる。したがって、保護された水酸基を有するオレフィン化合物の使用量は、目的とするシクロペンテン開環重合体の分子量に応じて決定すればよい。保護された水酸基を有するオレフィン化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、重合反応に用いる単量体1モルあたり、通常0.00001〜0.01モルの範囲で選択され、好ましくは0.00005〜0.005モルの範囲で選択される。
【0042】
保護基によって保護された水酸基を有するオレフィン化合物の存在下で、重合反応を行う場合に用いる開環重合触媒は、シクロペンテンを開環重合できるものである限りにおいて限定されないが、好ましく用いられる開環重合触媒としては、モリブデン化合物やタングステン化合物を挙げることができる。開環重合触媒として用いられ得るモリブデン化合物の具体例としては、モリブデンペンタクロリド、モリブデンオキソテトラクロリド、モリブデン(フェニルイミド)テトラクロリドを挙げることができ、タングステン化合物の具体例としては、タングステンヘキサクロリド、タングステンオキソテトラクロリド、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド、モノカテコラートタングステンテトラクロリド、ビス(3,5−ジターシャリブチル)カテコラートタングステンジクロリド、ビス(2−クロロエテレート)テトラクロリド、タングステンオキソテトラフェノレートを挙げることができる。
【0043】
モリブデン化合物やタングステン化合物を開環重合触媒として用いる場合には、助触媒として、有機金属化合物を組み合わせて使用しても良い。この助触媒として用いられ得る有機金属化合物としては、炭素数1〜20の炭化水素基を有する周期表第1、2、12、13または14族金属原子の有機金属化合物が挙げられる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく用いられ、有機リチウム化合物、有機スズ化合物、有機アルミニウム化合物がより好ましく用いられ、有機アルミニウムが特に好ましく用いられる。
【0044】
助触媒として用いられ得る、有機リチウム化合物の具体例としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムが挙げられる。有機マグネシウム化合物の具体例としては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドが挙げられる。有機亜鉛化合物の具体例としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛が挙げられる。有機スズ化合物の具体例としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズが挙げられる。有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリドなどのアルキルアルミニウムハライドの他、下記の一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
(R3−xAl(OR (2)
【0046】
(一般式(2)中、RおよびRは炭素数1〜20の炭化水素基を表し、xは0<x<3である。)
【0047】
一般式(2)において、RやRで表される炭素数1〜20の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、ナフチル基などのアリール基、を挙げることができる。なお、RとRで表される炭素数1〜20の炭化水素基は、それぞれ同じものであっても、異なるものであっても良いが、シクロペンテン開環重合体の繰返し単位中に存在する二重結合において、シス構造の割合を高くして、ゴム材料としての物性に優れるシクロペンテン開環重合体を得る観点からは、少なくとも、Rで表される炭化水素基が、炭素原子が4個以上連続して結合してなるアルキル基であることが好ましく、特に、n−ブチル基、2−メチル−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基のいずれかであることが好ましい。
【0048】
また、一般式(2)において、xは、0<x<3であるが、シクロペンテン開環重合体の繰返し単位中に存在する二重結合において、シス構造の割合を高くして、ゴム材料としての特性に優れるシクロペンテン開環重合体を得る観点からは、一般式(2)におけるxが、0.5<x<1.5の範囲である有機アルミニウム化合物を助触媒として用いることが好ましい。
【0049】
モリブデン化合物やタングステン化合物を開環重合触媒として用いる場合の重合反応条件などは、ルテニウムカルベン錯体を用いる場合で述べた条件の範囲で適宜設定すれば良い。
【0050】
以上のようにして得られる、重合体鎖末端に保護基によって保護された水酸基を有するシクロペンテン開環重合体の脱保護は、用いた保護基に応じた公知の手法により行えば良い。具体的には、加熱による脱保護、加水分解または加アルコール分解による脱保護などの方法が挙げられる。
【0051】
以上のようにして得られる、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を含む重合体溶液については、前述したものと同様に、イソシアネート化合物との反応に供することができる。
【0052】
本発明のシクロペンテン開環重合体の製造方法は、例えば以上のようにして重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体を製造した後、そのシクロペンテン開環重合体の水酸基と、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物のイソシアネート基とを反応させることにより、ウレタン結合基を形成させて、本発明のシクロペンテン開環重合体を得るものである。本発明のシクロペンテン開環重合体の製造方法で用いるアルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物は、分子内にアルコキシシリル基およびイソシアネート基を少なくとも1つずつ含有する化合物であれば、特に限定されない。本発明において、好ましく用いられ得る、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物としては、下記の一般式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0053】
O=C=N−Y−Si(OR(R3−a (3)
【0054】
(一般式(3)中、RおよびRは炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Yは炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表す。aは1〜3の整数である。)
【0055】
一般式(3)で表される化合物の中でも、特に好ましく用いられる化合物としては、2−(トリメトキシシリル)エチルイソシアネート、3−(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート、4−(トリメトキシシリル)ブチルイソシアネート、6−(トリメトキシシリル)ヘキシルイソシアネート、8−(トリメトキシシリル)オクチルイソシアネート、2−(トリエトキシシリル)エチルイソシアネート、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート、4−(トリエトキシシリル)ブチルイソシアネート、6−(トリエトキシシリル)ヘキシルイソシアネート、8−(トリエトキシシリル)オクチルイソシアネート、2−(ジメトキシメチルシリル)エチルイソシアネート、3−(ジメトキシメチルシリル)プロピルイソシアネート、4−(ジメトキシメチルシリル)ブチルイソシアネート、2−(ジエトキシメチルシリル)エチルイソシアネート、3−(ジエトキシメチルシリル)プロピルイソシアネート、4−(ジエトキシメチルシリル)ブチルイソシアネート、2−(ジメトキシエチルシリル)エチルイソシアネート、2−(ジエトキシエチルシリル)エチルイソシアネート、2−(ジエチルメトキシシリル)エチルイソシアネート、2−(ジメチルエトキシシリル)エチルイソシアネートを挙げることができる。
【0056】
シクロペンテン開環重合体の水酸基と、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物のイソシアネート基とを反応させる条件は特に限定されず、例えば、溶媒中または無溶媒下で、これらを混合し、20〜200℃に加熱することによって行うことができる。溶媒を用いる場合の溶媒としては、重合反応で用いる溶媒と同様の溶媒を用いることができる。また、必要に応じて、反応系にウレタン反応触媒を添加して反応を行っても良い。用いるウレタン反応触媒に特に制限はなく、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレートなど)、ビスマス化合物などの金属触媒、有機アミンなどの塩基触媒、DMC触媒を用いることができる。
【0057】
シクロペンテン開環重合体の水酸基と、アルコキシシリル基およびイソシアネート基を分子中に含有する化合物のイソシアネート基との反応比は、所望の特定末端構造の導入率などに応じて決定すれば良く、特に限定されないが、水酸基:イソシアネート基のモル比が、通常1:1〜1:200の範囲で設定され、好ましくは1:1〜1:100の範囲で設定される。
【0058】
以上述べたような本発明のシクロペンテン開環重合体の製造方法によれば、本発明のシクロペンテン開環重合体を効率よく製造することができる。なお、得られるシクロペンテン開環重合体には、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤を添加してもよい。老化防止剤の添加量は、その種類などに応じて適宜決定すればよい。さらに、所望により、伸展油を配合してもよい。重合体溶液としてシクロペンテン開環重合体を得た場合において、重合体溶液から重合体を回収するためには、公知の回収方法を採用すればよく、例えば、スチームストリッピングなどで溶媒を分離した後、固体をろ別し、さらにそれを乾燥して固形状ゴムを取得する方法などが採用できる。
【0059】
本発明の重合体組成物は、本発明のシクロペンテン開環重合体と無機粒子とを含有してなる重合体組成物である。無機粒子は、特に限定されず、公知の無機粒子から任意に選択することができるが、シリカまたはカーボンブラックが好ましく用いられ、特に低発熱性に優れる重合体組成物を得る観点からは、少なくともシリカを含む無機粒子が好ましく用いられる。
【0060】
本発明の重合体組成物において、無機粒子として用いられ得るシリカの具体例としては、例えば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、特開昭62−62838号公報に開示されている沈降シリカが挙げられる。これらの中でも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。また、カーボンブラック表面にシリカを担持させたカーボン−シリカ デュアル・フェイズ・フィラーを用いてもよい。これらのシリカは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
シリカの窒素吸着比表面積(ASTM D3037−81に準じBET法で測定される。)は、好ましくは50〜400m/g、より好ましくは100〜220m/gである。また、シリカのpHは、pH7未満であることが好ましく、pH5〜6.9であることがより好ましい。これらの範囲であると、シクロペンテン開環重合体とシリカとの親和性が特に良好となる。
【0062】
シリカの配合量は、特に限定されないが、重合体組成物における全重合体成分100重量部に対して、好ましくは10〜150重量部、より好ましくは20〜120重量部、特に好ましくは40〜100重量部である。
【0063】
無機粒子としてシリカを用いる場合は、シクロペンテン開環重合体とシリカとの密着性を向上させる目的で、重合体組成物に、さらにシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィドなどや、特開平6−248116号公報に記載されているγ−トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、γ−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドなどのテトラスルフィド類などを挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100重量部に対して、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは1〜15重量部である。
【0064】
本発明の重合体組成物において、無機粒子として用いられ得るカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられる。これらの中でも、ファーネスブラックが好ましく、その具体例としては、SAF、ISAF、ISAF−HS、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF、HAF−HS、HAF−LS、FEFなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。カーボンブラックの配合量は、重合体組成物の全重合体成分100重量部に対して、通常、150重量部以下である。また、シリカとカーボンブラックを併用する場合は、シリカとカーボンブラックの合計量が、重合体組成物の全重合体成分100重量部に対して、10〜150重量部となるようにすることが好ましい。
【0065】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは5〜200m/g、より好ましくは80〜130m/gであり、ジブチルフタレート(DBP)吸着量は、好ましくは5〜300ml/100g、より好ましくは80〜160ml/100gである。
【0066】
本発明の重合体組成物は、さらに本発明のシクロペンテン開環重合体以外のゴムを含んでいてもよい。本発明の重合体以外のゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、乳化重合SBR(スチレン−ブタジエン共重合ゴム)、溶液重合ランダムSBR(結合スチレン5〜50重量%、ブタジエン部分の1,2−結合含有量10〜80%)、高トランスSBR(ブタジエン部のトランス結合含有量70〜95%)、低シスBR(ポリブタジエンゴム)、高シスBR、高トランスBR(ブタジエン部のトランス結合含有量70〜95%)、スチレン−イソプレン共重合ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、乳化重合スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、高ビニルSBR−低ビニルSBRブロック共重合ゴム、ポリイソプレン−SBRブロック共重合ゴム、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。なかでも、NR、BR、IR、SBRが好ましく用いられる。これらのゴムは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
本発明の重合体組成物が、本発明のシクロペンテン開環重合体以外のゴムを含有する場合、当該シクロペンテン開環重合体の割合を、重合体成分の全量に対して、10重量%以上とすることが好ましく、20〜90重量%の範囲とすることがより好ましく、30〜80重量%の範囲とすることが特に好ましい。この割合が低すぎると、重合体組成物の物性に劣るおそれがある。
【0068】
本発明の重合体組成物には、上記成分以外に、常法に従って、架橋剤、架橋促進剤、架橋活性化剤、老化防止剤、活性剤、プロセス油、可塑剤、滑剤、充填剤などの配合剤をそれぞれ必要量配合できる。
【0069】
架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄などのハロゲン化硫黄;ジクミルパーオキシド、ジターシャリブチルパーオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;メチロール基をもったアルキルフェノール樹脂;などが挙げられ、これらの中でも、硫黄が好ましく、粉末硫黄がより好ましい。これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋剤の配合量は、全重合体成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0070】
架橋促進剤としては、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系架橋促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジンなどのグアニジン系架橋促進剤;ジエチルチオウレアなどのチオウレア系架橋促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩などのチアゾール系架橋促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどのチウラム系架橋促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛などのジチオカルバミン酸系架橋促進剤;イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛などのキサントゲン酸系架橋促進剤;などの架橋促進剤が挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系架橋促進剤を含むものが特に好ましい。これらの架橋促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋促進剤の配合量は、全重合体成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0071】
架橋活性化剤としては、例えば、ステアリン酸などの高級脂肪酸や酸化亜鉛などを用いることができる。酸化亜鉛は、表面活性の高い粒度5μm以下のものが好ましく、例えば、粒度が0.05〜0.2μmの活性亜鉛華や0.3〜1μmの亜鉛華などを挙げることができる。また、酸化亜鉛としては、アミン系の分散剤や湿潤剤で表面処理したものなどを用いることもできる。架橋活性化剤の配合量は適宜選択されるが、高級脂肪酸の配合量は、全重合体成分100重量部に対して、好ましくは0.05〜15重量部、より好ましくは0.5〜5重量部であり、酸化亜鉛の配合量は、全重合体成分100重量部に対して、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0072】
プロセス油としては、鉱物油や合成油を用いてよい。鉱物油は、アロマオイル、ナフテンオイル、パラフィンオイルなどが通常用いられる。その他の配合剤としては、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シリコーンオイルなどの活性剤;炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの充填剤;石油樹脂、クマロン樹脂などの粘着付与剤;ワックスなどが挙げられる。
【0073】
本発明の重合体組成物は、常法に従って各成分を混練することにより得ることができる。例えば、架橋剤と架橋促進剤を除く配合剤とシクロペンテン開環重合体などの重合体(ゴム)を混練後、その混練物に架橋剤と架橋促進剤を混合して重合体組成物を得ることができる。架橋剤と架橋促進剤を除く配合剤とシクロペンテン開環重合体の混練温度は、好ましくは80〜200℃、より好ましくは120〜180℃であり、その混練時間は、好ましくは30秒間〜30分間である。架橋剤と架橋促進剤の混合は、通常100℃以下、好ましくは80℃以下まで冷却後に行われる。
【0074】
本発明の重合体組成物は、通常、架橋物として使用される。重合体組成物の架橋方法は、特に限定されず、架橋物の形状、大きさなどに応じて選択すればよい。金型中に重合体組成物を充填して加熱することにより成形と同時に架橋してもよく、予め成形しておいた重合体組成物を加熱して架橋してもよい。架橋温度は、好ましくは120〜200℃、より好ましくは140〜180℃であり、架橋時間は、通常、1〜120分程度である。
【0075】
本発明の重合体組成物は、無機粒子との親和性に優れるため、機械物性、低発熱性、ウェットグリップ性および耐摩耗性に優れるゴム架橋物を与える。したがって、その特性を生かす各種用途、例えばトレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部などのタイヤ各部位への利用、あるいはホース、窓枠、ベルト、靴底、防振ゴム、自動車部品などのゴム製品への利用、さらには耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂などの樹脂強化ゴムとして利用が可能になる。特に低燃費タイヤのタイヤトレッド用として優れており、その他にもオールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、スタッドレスタイヤなどのタイヤトレッド、サイドウォール、アンダートレッド、カーカス、ビート部などの材料としても好適である。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、各種の試験および評価は、下記の方法にしたがって行った。
【0077】
〔分子量〕
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム HLC−8220(東ソー社製)で、HタイプカラムHZ−M(東ソー社製)を用い、テトラヒドロフランを溶媒として40℃で測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0078】
〔シス/トランス比〕
13C−NMRスペクトル測定により決定した。
【0079】
〔重合体鎖末端に官能基を有するシクロペンテン開環重合体の官能基の導入率〕
H−NMRスペクトル測定により、各種の官能基に由来するピーク積分値とシクロペンテン開環重合体主鎖中の炭素−炭素二重結合に由来するピーク積分値との比率を求め、このピーク積分値の比率とGPCによる数平均分子量(Mn)の測定値に基づいて、各種の官能基の導入率〔(官能基が導入されたシクロペンテン開環重合体鎖末端数/シクロペンテン開環重合体鎖末端全数)の百分率〕を計算した。
【0080】
〔シクロペンテン開環重合体の特定末端構造の導入率〕
H−NMRスペクトル測定により、アルコキシシリル基に由来するピーク積分値とシクロペンテン開環重合体主鎖中の炭素−炭素二重結合に由来するピーク積分値との比率を求め、このピーク積分値の比率とGPCによる数平均分子量(Mn)の測定値に基づいて、特定末端構造の導入率〔(特定末端構造が導入されたシクロペンテン開環重合体鎖末端数/シクロペンテン開環重合体鎖末端全数)の百分率〕を計算した。なお、H−NMRスペクトル測定においては、3.8ppm付近に現れるアルコキシシリル基に由来するピークと、4.5ppmおよび4.9ppm付近に現れるウレタン結合基に由来するピークとの存在を確認することにより、特定末端構造の導入の確認を行なった。
【0081】
〔シクロペンテン開環重合体の無機粒子に対する親和性評価〕
試料となるシクロペンテン開環重合体1部をデカリン18部に溶解した後、この溶液にシリカ(商品名「Zeosil 1165MP」、ローディア社製)1部を加え、150℃で6時間攪拌した。次に、この溶液を大過剰のイソプロパノールに加え、これにより生じた凝固物を回収して、40℃で2日間真空乾燥した。そして、真空乾燥した凝固物をかごに入れて、大過剰のトルエンに23℃で3日間浸漬することにより、シリカに結合していないシクロペンテン開環重合体を溶解させた。かごの中に残った凝固物については、トルエンで洗浄した後、真空乾燥機で乾燥し、乾燥後の重量を測定し、用いたシリカ1部から増加した重量を求めた。この増加した重量は、シリカに結合したシクロペンテン開環重合体であるといえ、この値が高いものほど、無機粒子に対する親和性に優れるといえる。
【0082】
〔重合体組成物の低発熱性評価〕
試料となる重合体組成物を、160℃で20分間プレス架橋することで、架橋された試験片を作製し、この試験片について、粘弾性測定装置(商品名「EPLEXOR」、GABO社製)を用い、初期歪み0.5%、動的歪み1%、10Hzの条件で60℃におけるtanδを測定した。この値は、比較例4の試料の測定値を100とする指数とした。この指数が小さいものほど、低発熱性に優れるといえる。
【0083】
〔製造例1〕(水酸基に対する耐性を有しない開環重合触媒を用いた、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体の製造1)
窒素雰囲気下、攪拌子の入ったガラス容器に、トルエン173部および濃度25.4重量%のトリイソブチルアルミニウム/n−ヘキサン溶液(東ソー・ファインケム社製)13.8部を加えた。次いで、容器を−45℃に冷却し、激しく攪拌しながら、n−ブテノール1.27部(トリイソブチルアルミニウムに対して当モル量)をゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながら室温になるまで放置することにより、トリイソブチルアルミニウムとn−ブテノールとの反応物溶液を得た。次いで、窒素雰囲気下、攪拌機付き耐圧ガラス反応容器に、濃度2.0重量%のWCl/トルエン溶液43部、および上記のようにして得られたトリイソブチルアルミニウムとn−ブテノールとの反応物溶液48部を加え、10分間攪拌し、次に、得られる重合体のシス/トランス比を調節する目的で酢酸エチル0.39部を加え、10分間攪拌した。続いて、シクロペンテン150部を加えて、25℃で6時間重合反応を行った。重合反応後、過剰の含水イソプロパノールを加えることにより、重合を停止して、さらに保護された水酸基の脱保護を行った。得られた溶液を大過剰のイソプロパノールに注いだところ、重合体の沈殿が生じた。沈殿した重合体を回収し、イソプロパノールで洗浄した後、40℃で3日間、真空乾燥することにより、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体74部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は278,300、分子量分布(Mw/Mn)は2.50で、シス/トランス比は60/40であった。また、重合体鎖末端への水酸基の導入率は34%であった。
【0084】
〔製造例2〕(水酸基に対する耐性を有する開環重合触媒を用いた、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環(共)重合体の製造1)
窒素雰囲気下、磁気攪拌子を入れた耐圧ガラス反応容器に、シクロペンテン100部、シクロペンテンと共重合させる単量体である1,5,9−シクロドデカトリエン15部、および4−ブテノール0.02部を加えた。次に、トルエン10部に溶解した(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.0062部を加え、0℃で10時間重合反応を行った。重合反応後、過剰のビニルエチルエーテルを加えることにより重合を停止した後、得られた溶液を大過剰のイソプロパノールに注いだところ、重合体の沈殿が生じた。沈殿した重合体を回収し、イソプロパノールで洗浄した後、40℃で3日間、真空乾燥することにより、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環(共)重合体60部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は344,700、分子量分布(Mw/Mn)は1.89で、シス/トランス比は17/83であった。また、重合体鎖末端への水酸基の導入率は50%であった。
【0085】
〔製造例3〕(水酸基に対する耐性を有しない開環重合触媒を用いた、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体の製造2)
窒素雰囲気下、攪拌子の入ったガラス容器に、トルエン173部および濃度25.4重量%のトリイソブチルアルミニウム/n−ヘキサン溶液(東ソー・ファインケム社製)13.8部を加えた。次いで、容器を−45℃に冷却し、激しく攪拌しながら、2−ブテン−1,4−ジオール0.78部(トリイソブチルアルミニウムに対して1/2モル量)をゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながら室温になるまで放置することにより、トリイソブチルアルミニウムと2−ブテン−1,4−ジオールとの反応物溶液を得た。次いで、窒素雰囲気下、攪拌機付き耐圧ガラス反応容器に、シクロペンテン150部、および上記のようにして得られたトリイソブチルアルミニウムと2−ブテン−1,4−ジオールとの反応物溶液96部を加え、さらに、濃度2.0重量%のWCl/トルエン溶液8.6部を加えて、25℃で6時間重合反応を行った。重合反応後、過剰の含水イソプロパノールを加えることにより、重合を停止して、さらに保護された水酸基の脱保護を行った。得られた溶液を大過剰のイソプロパノールに注いだところ、重合体の沈殿が生じた。沈殿した重合体を回収し、イソプロパノールで洗浄した後、40℃で3日間、真空乾燥することにより、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体87部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は328,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.34で、シス/トランス比は55/45であった。また、重合体鎖末端への水酸基の導入率は89%であった。
【0086】
〔製造例4〕(水酸基に対する耐性を有する開環重合触媒を用いた、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環(共)重合体の製造2)
4−ブテノール0.02部に代えて、2−ブテン−1,4−ジオール0.018部を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環(共)重合体65部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は283,600、分子量分布(Mw/Mn)は1.90で、シス/トランス比は18/82であった。また、重合体鎖末端への水酸基の導入率は91%であった。
【0087】
〔実施例1〕
窒素雰囲気下、攪拌機付き耐圧ガラス反応容器に、製造例1で得られた重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体70部およびトルエン630部を加えて、重合体をトルエンに溶解し、さらに3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート11部を加えて、100℃で20時間攪拌することにより、重合体鎖末端の水酸基と3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネートのイソシアネート基とを反応させて、ウレタン結合基を形成させた。反応終了後、容器内の溶液を2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)を含む大過剰のイソプロパノールに注いだところ、重合体の沈殿が生じた。沈殿した重合体を回収し、イソプロパノールで洗浄した後、40℃で3日間、真空乾燥することにより、特定末端構造を有するシクロペンテン開環重合体70部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は334,400、分子量分布(Mw/Mn)は2.53であった。また、重合体鎖末端への特定末端構造の導入率は35%であった。なお、原料とした製造例1で得られたシクロペンテン開環重合体の水酸基導入率よりも、特定末端構造の導入率が高くなったのは、末端構造の変化がGPC測定に影響を及ぼした結果、見かけの分子量が変化したことによるものと考えられ、実際上は、ほぼ100%の水酸基が特定末端構造に変換されたと考えられる。さらに、得られた重合体の一部を用いて、無機粒子に対する親和性評価を行った。
【0088】
そして、得られたシクロペンテン開環重合体50部、市販のスチレンブタジエンゴム(商品名「Nipol SBR1723」、結合スチレン量23.5%、伸展油含有量27.3%、日本ゼオン社製)55部、および市販のポリブタジエンゴム(商品名「Nipol BR1220」、日本ゼオン社製)10部をブラベンダータイプミキサー中で30秒間素練りし、次いで、シリカ(商品名「Zeosil 1165MP」、ローディア社製)50部、シランカップリング剤(商品名「Si75」、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、デグッサ社製)5.6部、およびプロセスオイル(商品名「フッコール・アロマックス#3」、富士興産社製)15部を添加して、80℃を開始温度として1.5分間混練後、さらに、シリカ(商品名「Zeosil 1165MP」、ローディア社製)20部、カーボンブラック(商品名「シースト7HM」、東海カーボン社製)10部、プロセスオイル(商品名「フッコール・アロマックス#3」、富士興産社製)20部、酸化亜鉛3部、ステアリン酸2部、老化防止剤(商品名「ノクラック6C」、大内新興社製)2部、およびパラフィンワックス1部を添加し、さらに2.5分間混練し、ミキサーから混練物を排出させた。混錬終了時の混練物の温度は150℃であった。混練物を、室温まで冷却した後、再度ブラベンダータイプミキサー中で、80℃を開始温度として2分間混練した後、ミキサーから混練物を排出させた。次いで、50℃のオープンロールで、得られた混練物と、硫黄1.7部および架橋促進剤(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド1.6部とジフェニルグアニジン1.5部との混合物)とを混練した後、シート状の重合体組成物を取り出した。この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。実施例1における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0089】
【表1】
【0090】
〔実施例2〕
製造例1で得られた重合体70部に代えて製造例2で得られた重合体70部を用いたこと、および3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート11部に代えて3−(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート8部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、特定末端構造を有するシクロペンテン開環重合体70部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は387,200、分子量分布(Mw/Mn)は1.90であった。また、重合体鎖末端への特定末端構造の導入率は50%であった。得られたシクロペンテン開環重合体については、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。実施例2における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0091】
〔実施例3〕
製造例1で得られた重合体70部に代えて製造例3で得られた重合体70部を用いたこと、および3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネートの使用量を23部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、特定末端構造を有するシクロペンテン開環重合体70部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は387,700、分子量分布(Mw/Mn)は2.05であった。また、重合体鎖末端への特定末端構造の導入率は84%であった。得られたシクロペンテン開環重合体については、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。実施例3における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0092】
〔実施例4〕
製造例2で得られた重合体70部に代えて製造例4で得られた重合体70部を用いたこと、および3−(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネートの使用量を18部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、特定末端構造を有するシクロペンテン開環重合体70部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は351,600、分子量分布(Mw/Mn)は1.95であった。また、重合体鎖末端への特定末端構造の導入率は94%であった。得られたシクロペンテン開環重合体については、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。実施例4における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0093】
〔比較例1〕
製造例1で得られた重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体の一部について、無機粒子に対する親和性評価を行った。さらに、製造例1で得られた重合体を、重合体鎖末端への特定末端構造の導入を行なわずに、そのまま、実施例1と同様のシート状の重合体組成物の製造(スチレンブタジエンゴムやポリブタジエンゴムともに素練りする工程以降の工程)に供したこと以外は、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。比較例1における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0094】
〔比較例2〕
窒素雰囲気下、攪拌子の入ったガラス容器に、濃度1.0重量%のWCl/トルエン溶液8.7部、および濃度2.5重量%のジイソブチルアルミニウムモノ(n−ヘキソキシド)/トルエン溶液4.3部を加え、15分間攪拌することにより、触媒溶液を得た。そして、窒素雰囲気下、攪拌機付き耐圧ガラス反応容器に、シクロペンテン150部およびアリルトリエトキシシラン0.22部を加え、ここに、上記にて調製した触媒溶液13部を加えて、25℃で6時間重合反応を行った。重合反応後、過剰のイソプロパノールを加えることにより、重合を停止した。得られた溶液を大過剰のイソプロパノールに注いだところ、重合体の沈殿が生じた。沈殿した重合体を回収し、イソプロパノールで洗浄した後、40℃で3日間、真空乾燥することにより、重合体鎖末端に、メタセシス反応で導入されたアルコキシシリル基(トリエトキシシリル基)を有するシクロペンテン開環重合体76部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は312,800、分子量分布(Mw/Mn)は2.05で、シス/トランス比は60/40であった。また、重合体鎖末端へのアルコキシシリル基の導入率は50%であった。得られた重合体の一部については、無機粒子に対する親和性評価を行った。さらに、得られた重合体を、そのまま、実施例1と同様のシート状の重合体組成物の製造(スチレンブタジエンゴムやポリブタジエンゴムともに素練りする工程以降の工程)に供したこと以外は、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。比較例2における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0095】
〔比較例3〕
窒素雰囲気下、磁気攪拌子を入れた耐圧ガラス反応容器に、シクロペンテン100部、シクロペンテンと共重合させる単量体である1,5,9−シクロドデカトリエン15部、およびアリル(トリメトキシ)シラン0.12部を加えた。次に、トルエン10部に溶解した(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.0062部を加え、0℃で10時間重合反応を行った。重合反応後、過剰のビニルエチルエーテルを加えることにより重合を停止した後、得られた溶液を大過剰のイソプロパノールに注いだところ、重合体の沈殿が生じた。沈殿した重合体を回収し、イソプロパノールで洗浄した後、40℃で3日間、真空乾燥することにより、重合体鎖末端に、メタセシス反応で導入されたアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基)を有するシクロペンテン開環(共)重合体60部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は297,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.98で、シス/トランス比は17/83であった。また、重合体鎖末端へのアルコキシシリル基の導入率は50%であった。得られた重合体の一部については、無機粒子に対する親和性評価を行った。さらに、得られた重合体を、そのまま、実施例1と同様のシート状の重合体組成物の製造(スチレンブタジエンゴムやポリブタジエンゴムともに素練りする工程以降の工程)に供したこと以外は、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。比較例3における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0096】
〔比較例4〕
アリルトリエトキシシラン0.22部に代えて、1−ヘキセン0.090部を用いたこと以外は、比較例2と同様にして、重合体鎖末端に、官能基を有さないシクロペンテン開環重合体68部を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は291,100、分子量分布(Mw/Mn)は2.15で、シス/トランス比は61/39であった。得られた重合体の一部については、無機粒子に対する親和性評価を行った。さらに、得られた重合体を、そのまま、実施例1と同様のシート状の重合体組成物の製造(スチレンブタジエンゴムやポリブタジエンゴムともに素練りする工程以降の工程)に供したこと以外は、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。比較例4における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0097】
〔比較例5〕
製造例3で得られた重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体の一部について、無機粒子に対する親和性評価を行った。さらに、製造例3で得られた重合体を、重合体鎖末端への特定末端構造の導入を行なわずに、そのまま、実施例1と同様のシート状の重合体組成物の製造(スチレンブタジエンゴムやポリブタジエンゴムともに素練りする工程以降の工程)に供したこと以外は、実施例1と同様にして、シート状の重合体組成物として、この重合体組成物について、低発熱性の評価を行った。比較例5における、それぞれの測定・評価結果は、表1にまとめて示した。
【0098】
表1から分かるように、本発明の、重合体鎖末端に、重合体鎖とアルコキシシリル基を含有する基とがウレタン結合基を介して結合されてなる構造を有するシクロペンテン開環重合体(実施例1〜4)は、重合体鎖末端に官能基を有さないシクロペンテン開環重合体(比較例4)、重合体鎖末端に水酸基を有するシクロペンテン開環重合体(比較例1および5)、および重合体鎖末端にメタセシス反応で導入されたアルコキシシリル基を有するシクロペンテン開環重合体(比較例2および3)よりも、無機粒子との親和性に優れ、低発熱性に優れる重合体組成物を与えるものである。したがって、本発明のシクロペンテン開環重合体は、従来のシクロペンテン開環重合体に比して、優れた低発熱性を有する重合体組成物を与えることができる、無機粒子との親和性が改良されたシクロペンテン開環重合体であるといえる。