特許第5733533号(P5733533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733533
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】重心検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 1/12 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   G01M1/12
【請求項の数】6
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2012-515753(P2012-515753)
(86)(22)【出願日】2011年5月17日
(86)【国際出願番号】JP2011002734
(87)【国際公開番号】WO2011145332
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-117232(P2010-117232)
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 豊
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/062867(WO,A1)
【文献】 特開平11−304663(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/074804(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/034580(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0235724(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体の走行時の自重方向の縦揺れ、および、前記走行時の幅方向の横揺れを検知する揺動検知器と、
演算ユニットと、を備え、
前記演算ユニットは、前記揺動検知器を用いて前記自重方向の縦揺れの周波数および前記走行体の幅寸法に対応する前記幅方向の横揺れの周波数を取得し、
前記自重方向の縦揺れの周波数、前記幅方向の横揺れの周波数、前記幅方向の横揺れの中心角度、および、前記走行体の幅寸法を用いて、前記走行体の走行方向に垂直な断面での前記自重方向の重心位置および前記幅方向の重心位置を演算し、
前記走行体の幅寸法と前記幅方向の横揺れの周波数との間の関係が定式化された演算式の係数を、前記自重方向の重心位置、前記幅方向の重心位置、前記自重方向の縦揺れの周波数、および、前記幅方向の横揺れの中心角度を用いて導き、
前記演算式の係数を用い、前記演算式において、前記走行体の幅寸法を前記走行体の走行方向の長さにした場合の前記走行方向の横揺れの周波数を演算し、
前記自重方向の縦揺れの周波数、前記走行方向の横揺れの周波数、前記自重方向の重心位置、および、前記走行体の走行方向の長さを用いて、前記走行体の走行方向についての重心位置を演算する、重心検知装置。
【請求項2】
前記演算式は、前記走行体の幅寸法(b)を独立変数とし、前記走行体の幅方向の横揺れの周波数(ν)を従属変数として定式化された下記式(X)で表され、
前記演算ユニットは、式(X)の独立変数に前記走行体の走行方向の長さを代入することにより、前記走行体の走行方向の横揺れの周波数を演算する請求項1に記載の重心検知装置。
ν=Kb+K・・・(X)
ただし、
K:前記自重方向の重心位置、前記幅方向の重心位置、前記自重方向の縦揺れの周波数、および、前記幅方向の横揺れの中心角度を変数として含み、K:前記自重方向の重心位置、前記幅方向の重心位置、および、前記幅方向の横揺れの中心角度を変数として含む。
【請求項3】
前記走行体が、牽引車両に牽引されるコンテナ貨物車両である請求項1または2に記載の重心検知装置。
【請求項4】
前記自重方向の縦揺れが、前記走行体の重心を質点とした上下方向の往復運動に対応し、前記幅方向の横揺れが、前記走行体の幅方向の車軸の中心を支点とし、前記走行体の重心を質点とした左右方向の単振子運動に対応する場合、
前記演算ユニットは、前記揺動検知器の出力データを、前記単振子運動の周波数と振幅との間の相関を表す横揺れデータに変換して、前記横揺れデータを基にして、前記幅寸法に由来する前記単振子運動のピーク振幅に対応して前記単振子運動の周波数を取得し、
前記揺動検知器の出力データを、前記往復運動の周波数と振幅との間の相関を表す縦揺れデータに変換して、前記縦揺れデータを基にして、前記往復運動の最大振幅に対応する前記往復運動の周波数を取得し、
前記幅寸法、前記取得された単振子運動の周波数、前記取得された往復運動の周波数、および、前記単振子運動の中心角度を用いて、前記垂直な断面での前記自重方向の重心位置および前記幅方向の重心位置を演算している、請求項1乃至3のいずれかに記載の重心検知装置。
【請求項5】
前記自重方向の縦揺れおよび前記幅方向の横揺れは、前記走行体の路面上での走行時に、前記路面の凹凸に応じて前記走行体に与えられる外乱による運動である請求項1乃至4のいずれかに記載の重心検知装置。
【請求項6】
前記揺動検知器は、前記走行体に配置され、角速度の感度軸が前記自重方向および前記幅方向に調整された角速度センサを備える請求項1乃至5のいずれかに記載の重心検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行体の走行時における3次元空間上の重心位置(以下、必要に応じて「3次元重心位置」と略す)を検知できる重心検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行体の走行時における3次元重心位置を高精度に予測できると、走行体の運用に有益である。例えば、国際間の輸出入により商取引されるコンテナ貨物を運ぶコンテナ輸送車両を例にとると、コンテナ貨物車両の3次元重心位置は、コンテナ内の貨物の偏荷重を直接的に反映する貴重なデータである。このため、この3次元重心位置の正確な予測によって、コンテナの扉開封時の貨物の荷崩れ落下やコンテナ輸送車両の不安定走行(例えば、曲路における不安定走行)の防止に役立つ。
【0003】
なお、ここでのコンテナ内の貨物の「偏荷重」とは、コンテナ貨物の設置状態に依存する空間上の重心によって生じる荷重点の偏倚を指し、コンテナ輸送業界で一般的に理解されているコンテナの底面における平面上の荷重点の偏倚を指すものではない。
【0004】
ところで、四輪トラック等の車両の貨物積載の状態を計測する技術や貨物の積載異常への対処法がすでに提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。しかし、これらの特許文献1〜7は、走行体の走行時における3次元重心位置の重要性すら認識していないので、3次元重心位置の導出において、これらの特許文献1〜7を参酌できない。
【0005】
そこで、本件発明者は、貨物を搭載可能な、牽引車両に牽引される車両の3次元重心位置を論理的な力学理論に基づいて導き、本技術を報告した(特許文献8参照)。これにより、コンテナ輸送車両が引き起こす様々な社会問題に対処できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−313879号公報
【特許文献2】特開2000−28427号公報
【特許文献3】特開2000−302063号公報
【特許文献4】特開平5−213108号公報
【特許文献5】特開平5−124543号公報
【特許文献6】特開2001−97072号公報
【特許文献7】特開昭64−9047号公報
【特許文献8】国際公開2008/062867
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献8では、コンテナ貨物車両の前部のカプラとコンテナ貨物車両の後横梁との間で、コンテナ貨物車両の幅方向の実質長が異なることに着目して、コンテナ貨物車両の前後方向(走行方向)についての重心位置の特定が行われている。
【0008】
具体的には、路面の凹凸によってコンテナ貨物車両に外乱が与えられと、コンテナ貨物車両が揺らされる。このようなコンテナ貨物車両の横揺れは、コンテナ貨物車両の幅方向のローリング(以下、単に「ローリング」と略す場合がある)という回転(円)運動として捉えることができる。従って、重心直下において外乱がコンテナ貨物車両に与えられるよりも、コンテナ貨物車両の前後部において外乱がコンテナ貨物車両に与えられる方が、コンテナ貨物車両を幅方向にねじる力が強い。その結果、コンテナ貨物車両の前後部において外乱がコンテナ貨物車両に与えられる場合に、ローリング振幅が極大ピークとなる。なお、この物理現象は、コンテナ貨物車両の前後部がコンテナ貨物車両の重心位置から遠くに離れている結果、梃子の原理が有効に発揮され、コンテナ貨物車両の幅方向のローリングが強く起こると推し量れば容易に理解できる。
【0009】
そして、特許文献8では、コンテナ貨物車両の走行方向についての重心位置定式化の過程において、コンテナ貨物車両のローリング周波数が、コンテナ貨物車両の幅方向の実質長に依存することを理論的に導いた。
【0010】
以上の結果、時系列の角速度データに対し高速フーリエ変換(FFT)をかけて、コンテナ輸送車両のトラクタに搭載された揺動検知器の出力データを、ローリング周波数とローリング振幅との相関を表すローリングデータに変換した場合、コンテナ貨物車両の前部のカプラの直径とコンテナ貨物車両の後横梁の長さとの間で寸法が異なるので、異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅を捉えることができる。
【0011】
例えば、図7には、異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅「P1」、「P2」が存在する例が示されている。つまり、図7には、カプラ13に由来するローリング運動の極大ピーク振幅「P1」と、後横梁21に由来するローリング運動の極大ピーク振幅「P2」と、が存在する。また、コンテナ貨物車両の走行方向での重心Wに由来するローリング運動の極小ピーク振幅「P3」(負のピーク;ボトム振幅)も存在する。
【0012】
その結果、特許文献8では、ピーク振幅「P1」、「P2」、「P3」に対応する周波数「ν」、「ν」、「ν」を用いてコンテナ貨物車両の走行方向についての重心位置を特定でき、ひいては、コンテナ貨物車両の3次元重心位置を演算できると結論付けられている(詳細は後述する)。
【0013】
ところが、コンテナ輸送車両50が、滑らかな路面、例えば、舗装したての路面上を走る場合、コンテナ貨物車両に与えられる外乱がその重心を揺らす影響力が弱まる。特に、カプラ13の直径が短い程、外乱がコンテナ貨物車両を揺らす影響力が弱まるとともに、カプラ13に由来するローリングの周波数も小さい方向に移動する。つまり、カプラ13に由来するローリング運動の振幅のピークについては、その周波数および振幅の双方とも小さくなる。その結果、路面が滑らかすぎる場合、或いは、カプラ13の直径が短すぎる場合、カプラ13に由来するローリング運動の極大ピーク振幅「P1」が観測し難くなる現象が起こり、最悪、消滅することがある。
【0014】
例えば、図8には、カプラ13に由来するローリング運動の極大ピーク振幅が消滅した例が示されている。つまり、図8では、後横梁21に由来するローリング運動の極大ピーク振幅「P2」のみが存在する。
【0015】
よって、以上の状況では、特許文献8の重心検知装置による3次元重心位置の演算が困難となる。
【0016】
また、トラック、バス、乗用車などの自動車では、その車幅が走行方向において一定なので、異なる二つの周波数のところで、極大ピーク振幅は、理論上、現れない。この場合、特許文献8の重心検知装置による3次元重心位置の演算が行えない。
【0017】
以上のとおり、従来の特許文献8の重心検知装置には、走行体の3次元重心位置の演算の普遍的な適用において未だ改善の余地があると考えられる。
【0018】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、走行体の走行時における3次元重心位置を従来よりも普遍的に導くことができる重心検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明は、走行体の走行時の自重方向の縦揺れ、および、前記走行時の幅方向の横揺れを検知する揺動検知器と、
演算ユニットと、を備え、
前記演算ユニットは、前記揺動検知器を用いて前記自重方向の縦揺れの周波数および前記走行体の幅寸法に対応する前記幅方向の横揺れの周波数を取得し、
前記自重方向の縦揺れの周波数、前記幅方向の横揺れの周波数、前記幅方向の横揺れの中心角度、および、前記走行体の幅寸法を用いて、前記走行体の走行方向に垂直な断面での前記自重方向の重心位置および前記幅方向の重心位置を演算し、
前記走行体の幅寸法と前記幅方向の横揺れの周波数との間の関係が定式化された演算式の係数を、前記自重方向の重心位置、前記幅方向の重心位置、前記自重方向の縦揺れの周波数、および、前記幅方向の横揺れの中心角度を用いて導き、
前記演算式の係数を用い、前記演算式において、前記走行体の幅寸法を前記走行体の走行方向の長さにした場合の前記走行方向の横揺れの周波数を演算し、
前記自重方向の縦揺れの周波数、前記走行方向の横揺れの周波数、前記自重方向の重心位置、および、前記走行体の走行方向の長さを用いて、前記走行体の走行方向についての重心位置を演算する、重心検知装置を提供する。
【0020】
なお、ここで、前記演算式は、前記走行体の幅寸法(b)を独立変数とし、前記走行体の幅方向の横揺れの周波数(ν)を従属変数として定式化された下記式(X)で表されてもよい。そして、前記演算ユニットは、式(X)の独立変数に前記走行体の走行方向の長さを代入することにより、前記走行体の走行方向の横揺れの周波数を演算してもよい。
【0021】
ν=Kb+K・・・(X)
ただし、
K:前記自重方向の重心位置、前記幅方向の重心位置、前記自重方向の縦揺れの周波数、および、前記幅方向の横揺れの中心角度を変数として含み、K:前記自重方向の重心位置、前記幅方向の重心位置、および、前記幅方向の横揺れの中心角度を変数として含む。
【0022】
このように、本発明は、走行体の走行方向の横揺れ周波数を推定演算することを特徴としているが、このような周波数は、一見すると、上記揺動検知器によって容易に実測できそうにも考えられる。
【0023】
そこで、走行体の走行方向の横揺れ周波数のピーク振幅を、揺動検知器を用いて実測することを試みたが、このような周波数のピーク振幅を確認できなかった(詳細は後述の実施例において述べる)。
【0024】
ところで、船舶の運航において、船舶の幅方向を軸とした固有の回転運動(なお、船舶の運航では、これを「ピッチング」と呼ぶことも多い)は、船舶が前後方向に揺れるときに、船舶がその方向に浮き沈みする際に押しのける水量が多いので、回転運動のエネルギーが消費されてしまい、このような運動は長続きせずに、消え失せるという現象が知られている。
【0025】
本件発明者は、走行体の走行方向の横揺れについても、上記船舶の運航における現象と同じ現象が起こっていると推察している。このような観点に立つと、上記ピーク振幅を確認できない理由を自ずと理解できる。
【0026】
そして、この事実が、以上の周波数の推定演算の有用性を明りょうに裏付けている。
【0027】
以上の構成により、本発明の重心検知装置では、走行体が走る路面が滑らかでも、走行体の走行時における3次元重心位置を演算できる。また、トラック、バス、乗用車などの走行方向に車幅が一定の自動車についても、3次元重心位置を演算できる。
【0028】
よって、本実施形態の重心検知装置は、走行体の走行時における3次元重心位置を従来よりも普遍的に導くことができる。
【0029】
また、本発明の重心検知装置では、前記走行体が、牽引車両に牽引されるコンテナ貨物車両であってもよい。
【0030】
ところで、物体の運動の定式化には、一般的に、質点系の力学の問題として捉える方法と、剛体系の力学の問題として捉える方法と、がある。しかし、剛体系の力学では、剛体の質量分布が均一であることを前提とするので、様々な大きさや形を有する物体の集合である走行体の運動を、剛体系の力学の問題として捉えることは適切でないと考えられる。
【0031】
そして、本件発明者は、走行体の運動を、走行体の重心を質点とした質点系の力学の問題として捉えると、3次元重心位置を適切に演算できることに気がついた。
【0032】
つまり、本発明の重心検知装置では、前記自重方向の縦揺れが、前記走行体の重心を質点とした上下方向の往復運動に対応し、前記幅方向の横揺れが、前記走行体の幅方向の車軸の中心を支点とし、前記走行体の重心を質点とした左右方向の単振子運動に対応する場合、
前記演算ユニットは、前記揺動検知器の出力データを、前記単振子運動の周波数と振幅との間の相関を表す横揺れデータに変換して、前記横揺れデータを基にして、前記幅寸法に由来する前記単振子運動のピーク振幅に対応して前記単振子運動の周波数を取得し、
前記揺動検知器の出力データを、前記往復運動の周波数と振幅との間の相関を表す縦揺れデータに変換して、前記縦揺れデータを基にして、前記往復運動の最大振幅に対応する前記往復運動の周波数を取得し、
前記幅寸法、前記取得された単振子運動の周波数、前記取得された往復運動の周波数、および、前記単振子運動の中心角度を用いて、前記垂直な断面での前記自重方向の重心位置および前記幅方向の重心位置を演算してもよい。
【0033】
また、本発明の重心検知装置では、前記自重方向の縦揺れおよび前記幅方向の横揺れは、前記走行体の路面上での走行時に、前記路面の凹凸に応じて前記走行体に与えられる外乱による運動であってもよい。
【0034】
これにより、走行体、例えば、トラックであれば周囲の車の流れに合わせて任意走行させれば、本発明の重心検知装置は、走行体の走行時における3次元重心位置を容易に演算できる。
【0035】
なお、路面は、例えば、凹凸が設けられた回転ロールなどの回転により、人工的に走行状態を作るものでもよい。
【0036】
また、本発明の重心検知装置では、前記揺動検知器は、前記走行体に配置され、角速度の感度軸が前記自重方向および前記幅方向に調整された角速度センサを備えてもよい。
【0037】
これにより、揺動検知器を安価な2軸の角速度センサによって構成できる。
【0038】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、走行体の走行時における3次元重心位置を従来よりも普遍的に導くことができる重心検知装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は本発明の実施形態の重心検知装置の構成例を示した概略図である。
図2図2は本発明の実施形態の重心検知装置中の揺動検知器および演算ユニットの内部構成の一例を示したブロック図である。
図3図3図1のコンテナ貨物車両の走行時におけるその走行方向に垂直な断面での重心位置の導出法を説明する模式図である。
図4図4図1のコンテナ貨物車両の走行時におけるその走行方向に垂直な断面での重心位置の導出法を説明する模式図である。
図5図5図1のコンテナ貨物車両の走行時におけるその走行方向についての重心位置の導出法を説明する模式図である。
図6図6図1のコンテナ貨物車両の走行時におけるその走行方向についての重心位置の導出法を説明する模式図である。
図7図7は異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅が存在する例を示した模式図である。
図8図8はカプラに由来するローリング運動の極大ピーク振幅が消滅した例を示した模式図である。
図9図9は本発明の実施形態の重心検知装置によるコンテナ貨物車両の走行時の3次元重心位置の演算ルーチン例を示したフローチャートである。
図10図10は本発明の実施形態の重心検知装置によるコンテナ貨物車両の走行時の3次元重心位置の演算ルーチン例を示したフローチャートである。
図11図11は本発明の実施形態の重心検知装置によるコンテナ貨物車両の走行時の3次元重心位置の演算ルーチン例を示したフローチャートである。
図12図12はローリング運動のピーク振幅が一つだけの場合の「ピッチング周波数/振幅分布」の一例を示した図である。
図13図13は、本発明の変形例の重心検知装置による鉄道車両の走行時の3次元重心位置の演算結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0042】
なお、全ての図面を通じて、同一ないし相当する構成要素には同じ参照番号を付し、以下、このような構成要素の重複的記載を省略する場合がある。
【0043】
また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。つまり、以下の具体的な説明は、本発明の重心検知装置の特徴を例示しているに過ぎない。よって、本発明の重心検知装置を特定した構成要素に対応する用語に適宜の参照符号を付して以下の具体例を説明する場合、当該具体的な装置は、これに対応する本発明の重心検知装置の構成要素の一例である。
【0044】
例えば、以下に述べる「コンテナ輸送車両50(コンテナ貨物車両)」は、本発明の構成要素である「走行体」の一例に過ぎない。
【0045】
よって、本明細書に記載の技術は、コンテナ輸送車両(コンテナ貨物車両)の他、トラック、バス、乗用車、鉄道車両、船舶、航空機(例えば、離着陸時)などの様々な移動手段に適用できる。例えば、本技術を乗用車や鉄道車両に適用した例を変形例(後述)に記載している。
【0046】
また、本明細書において、「コンテナ貨物車両」とは、トラクタ50(牽引車両)以外のコンテナ輸送車両50の部分、つまり、貨物を搭載可能なコンテナ11と、このコンテナ11を載せるコンテナシャーシ12(台車)とからなる車両を指すものとする。
(実施形態)
<重心検知装置の構成例>
図1は、本発明の実施形態の重心検知装置の構成例を示した概略図である。図1(a)は、この重心検知装置を、コンテナ貨物車両の幅方向(側面)から見た図であり、図1(b)は、この重心検知装置を、コンテナ貨物車両の後側から見た図である。
【0047】
なお、適宜の図面において、コンテナ貨物車両の自重のかかる方向を「上下」で図示し、コンテナ貨物車両の幅方向を「左右」で図示し、コンテナ貨物車両の走行方向を「前後」で図示している。そして、以下の説明では、「自重方向」のことを「上下方向」と言い換える場合があり、「幅方向」を「左右方向」と言い換える場合があり、「走行方向」を「前後方向」と言い換える場合がある。
【0048】
重心検知装置100は、図1に示す如く、コンテナ輸送車両50と、コンテナ貨物車両の走行時の上下方向(自重方向)の揺れ(つまり、縦揺れ)、および、その左右方向(幅方向)の揺れ(つまり、横揺れ)を検知できる揺動検知器14と、演算ユニット15と、を備える。このように揺動検知器14は、コンテナ貨物車両の互いに直交する2方向(ここでは、自重方向と幅方向)を含む断面(ここでは、図1(b)の向きの断面)において、これらの2方向の揺れを検知できるように構成されている。
【0049】
以上のコンテナ輸送車両50の典型的な一形態は、トラクタ10を牽引車両とするトレーラトラックである。よって、本実施形態では、世界的な標準仕様の40フィートの海上コンテナを搭載したコンテナシャーシをトラクタにより牽引するトレーラトラック輸送を例にとり、コンテナ輸送車両50の構成および動作の説明を行う。
【0050】
トレーラトラック50は、図1(a)に示す如く、コンテナ貨物(図示せず)を搭載可能な直方形のコンテナ11と、コンテナ11を載せる台車としてのコンテナシャーシ12と、コンテナシャーシ12と連結してコンテナシャーシ12を牽引または駆動させるトラクタ10(牽引車両)と、を備える。
【0051】
トラクタ10は、コンテナシャーシ12に連結する円盤形のカプラ13(連結部材)を有し、これにより、コンテナシャーシ12およびトラクタ10が互いに、カプラ13を介して左右方向にスイング可能なように連結されている。
【0052】
なお、本実施形態の重心検知装置による検知技術は、理論上、コンテナ11へのコンテナ貨物の積載の有無に拘わらず適用可能である。よって、本明細書においては、上述のコンテナ11とは、コンテナ貨物積載の有無を問わないものとする。
【0053】
また、図1に示されたトレーラトラック50の形態は、飽くまで一例に過ぎず、本実施形態の検知技術は、様々なタイプのトレーラトラックに対して適用できる。
【0054】
図2は、本実施形態の重心検知装置中の揺動検知器および演算ユニットの内部構成の一例を示したブロック図である。
【0055】
揺動検知器14は、トレーラトラック50の左右方向の中央であって、トラクタ10側の輸送業務に支障の無い場所(例えばカプラ13の近傍)に固着されている。演算ユニット15は、トラクタ10の運転室内の適所に配置されている。そして、両者は、適宜のデータ入出力ポート(図示せず)を介して有線通信や無線通信等によりデータ送信可能なように接続されている。
【0056】
揺動検知器14は、図2に示すように、トレーラトラック50の走行時のコンテナ貨物車両の上下方向および幅方向の揺れを検知するよう、角速度の感度軸が調整された2軸(2次元)の角速度センサ14aと、この角速度センサ14aから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D(アナログ/デジタル)変換器14bと、を備える。
【0057】
なお、このA/D変換器14bによりデジタル化された角速度信号の大きさは、トレーラトラック50の走行時のコンテナ貨物車両の上下方向または幅方向の揺れの角速度に比例している。2軸の角速度センサ14aには、例えば水晶音叉式のセンサや振動式のセンサを用いるとよい。但し、この角速度センサ14aに代えて、3軸(3次元)の角速度センサを用いてもよい。
【0058】
また、ここでは、揺動検知器14の使用の際の利便性に配慮して、A/D変換器14b内蔵型の揺動検知器14を例示しているが、このA/D変換器14bを外付けにしてもよい。更には、揺動検知器14には、フィルタ(図示せず)やアンプ(図示せず)等の各種の信号処理回路が内蔵されているが、これらは慣用技術であり、ここでは、詳細な説明は省く。
【0059】
また、演算ユニット15は、図2に示すように、マイクロプロセッサ等からなる演算部15aと、ROM(リードオンリーメモリ)やRAM(ランダムアクセスメモリ)等からなる記憶部15bと、操作設定/表示部15cと、を備える。このような演算ユニット15としては、ノートブックタイプのパーソナルコンピュータ等の情報携帯端末がある。
【0060】
記憶部15bは、演算部15aに接続され、コンテナ貨物車両の走行時の3次元重心位置を適切に導くための演算プログラムや、当該演算に必要な各種の入力用の定数(後述)を記憶している。
【0061】
演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている演算プログラムに従って動作し、例えば、後述のとおり、揺動検知器14(A/D変換器14b)から出力されたデジタル信号に基づいてコンテナ貨物車両の走行時の3次元重心位置を導くことができる。
【0062】
操作設定/表示部15cは、上述の入力用定数の設定ボタンを配設した操作部(例えばキーボード;図示せず)と、演算部15aから出力されたコンテナ貨物車両の走行時の3次元重心位置についての出力データを、作業者(運転者や同乗者)が認識できるように表示通知や音声通知する通報装置(例えば液晶パネル画面やスピーカ;図示せず)と、を備える。
【0063】
次に、コンテナ貨物車両の3次元重心位置の導出法について図面を参照しながら詳しく説明する。
<運動モデル>
図3および図4は何れも、図1のコンテナ貨物車両の走行時におけるその走行方向に垂直な断面での重心位置の導出法を説明する模式図である。図5および図6は、図1のコンテナ貨物車両の走行時におけるその走行方向についての重心位置の導出法を説明する模式図である。
【0064】
なお、図3図4図5および図6図7図8でも同じ)では、重心検知装置100の構成については、コンテナ貨物車両の走行時の3次元重心位置の導出法を理解し易くなるように、簡略乃至省略して図示されている。
【0065】
また、図6については、図4の構成要素に対応する構成要素には、図4の参照番号と同じ参照番号の後にダッシュマークを付し、ここでの<運動モデル>の説明および後述の<定式化>の説明を省略する場合がある。
【0066】
図3に示すように、コンテナ11は、コンテナシャーシ12に積載された状態では、トラクタ10とコンテナシャーシ12に配設されたサスペンション205(懸架装置;図4参照)の緩衝用弾性力(例えば空気圧やバネ力)に支えられ、路面204から一定の高さで中立する。この状態で、トレーラトラック50が走行すると、タイヤが路面204の凹凸を踏み続けることにより、ランダムな外乱がサスペンション205を通してトレーラトラック50の車体(コンテナ11)に伝わる。このような外乱によって、トレーラトラック50は、サスペンション205の弾性力、コンテナ貨物車両の総重量およびその重心位置に依存する固有の周期(周波数)を持つ運動に基づいて揺動(固有振動)する。そして、この運動は、コンテナ貨物車両の重心Wの上下方向の往復運動(例えば、単振動)およびコンテナ貨物車両の重心Wの左右方向の単振子運動として揺動検知器14により検知される。
【0067】
なお、本明細書において、サスペンション205とは、トレーラトラック50の車体の路面204からの振動を緩衝できる部材を指し、例えば、車軸に連結されたバネ式の緩衝器の他、車軸の端に配されて空気が充填されているタイヤなども含むものとする。
【0068】
前者の往復運動(単振動)は、トラクタ10のピッチングと呼ばれる縦揺れの挙動に対応する。コンテナ貨物車両が上下方向に往復運動(上下動;直線運動)すると、トラクタ10とコンテナシャーシ12とを連結するカプラ13が上下に押される。カプラ13の位置は、トラクタ10の後方に存在するので、カプラ13が上下に押されることにより、トラクタ10の前部が逆に、浮き沈みする。このような現象が、トラクタ10のピッチング(回転運動)である。つまり、コンテナ貨物車両の上下方向の往復運動が、カプラ13を通じてトラクタ10に伝わり、これにより、トラクタ10のピッチングが起こり、図3のピッチングが揺動検知器14によって検知される。
【0069】
また、後者の単振子運動は、トレーラトラック50の前後を軸としたローリングと呼ばれる横揺れの挙動に対応し、図3のローリングが揺動検知器14によって検知される。
【0070】
なお、トレーラトラック50では、コンテナ貨物車両の上下方向の単振動に連動するピッチングの他、図5に示すような、トレーラトラック50の左右を軸とした固有の回転運動(横揺れ)も存在し、このような運動を、例えば、船舶の運航では、「ピッチング」と呼ぶことも多い。そこで、本明細書では、図5の横揺れを、便宜上、本明細書中の「ピッチング」と区別する趣旨から「前後方向(走行方向)のローリング」といい、図3の横揺れを、便宜上、「左右方向(幅方向)のローリング」という。
【0071】
ところで、トレーラトラック50には、通常、前後左右の車軸ごとにサスペンション205が取り付けているが、上下方向の往復運動および左右方向の単振子運動の挙動が同時に起きるので、力学上の弾性係数(バネ定数)を考慮するに当たり、簡易的に左右(図6の場合は前後)に一つずつ弾性体(バネ)があると仮定して挙動解析することが妥当であると考えられる。
【0072】
なお、付言するに、上述の従来技術の中には、サスペンションの弾性係数の測定を前提として車両の慣性モーメント等固有量を判定する例(特許文献2)や試験走行時のサスペンションの強度を予めデータベース化する例(特許文献6)が提案されているが、これらの技術は、トレーラトラック50については、コンテナ輸送業務の実情から見て役に立たない。
【0073】
つまり、サスペンション205の弾性係数は、トラクタ10とコンテナシャーシ12のメーカ、車種、年代および老朽度により変化する一方で、これらのメーカ、車種、年代および老朽度の特定は事実上、コンテナ11の輸送業務の実情に鑑みると不可能に近い。コンテナ11の輸送業務では、不特定多数のトラクタ10と不特定多数のコンテナシャーシ12との間の任意の組合(事実上、無数の組合)からなるトレーラトラック50により、コンテナ11が日々輸送されている。このため、両者のメーカ、車種および年式を予め特定する有効な方策はなく、まして、双方の車両の老朽度などは特定不可能である。更に、トラクタ10にはエアサスペンションが導入されているものがほとんどであることから、個々の車軸に配設されるサスペンション205の弾性係数は、牽引されるコンテナシャーシ12上のコンテナ11の積載状態、路面204の状況、および走行状況によって随時可変する場合もある。
【0074】
また、上述の従来技術の中には、多数の検知器をコンテナ側シャーシ(本明細書のコンテナシャーシに相当)に配設することを前提とした技術(例えば特許文献1)もあるが、コンテナ輸送業務に取り扱われる多量のコンテナシャーシの数量に鑑みれば容易に想像できるとおり、このような方策は、コスト面で成り立たない。
<定式化>
以上の重心Wの運動モデルに鑑み、コンテナ貨物車両の重心Wを質点とする場合、コンテナ11の前後方向(走行方向)に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置が、以下の如く定式化できる。
【0075】
なお、以下の式(1)〜式(10)についての定式化の手法は、上述の本件出願人による先行の特許文献8に記載された方法に倣っている。
【0076】
まず、コンテナ貨物車両の重心Wを質点として、コンテナ貨物車両の重心Wの上下方向の往復運動の周期「T’」(トラクタ10のピッチング周期に対応する周期)を定式化する。
【0077】
図3に示すように、車両の左右に二つの弾性体の弾性力が存在すると考えると、コンテナ貨物車両の往復運動の固有周期は以下の式により表される。
【0078】
【数1】
【0079】
この式において、「T’」はコンテナ貨物車両の重心Wの上下方向の往復運動の周期である。「k」はサスペンション205の左右片方の弾性係数(バネ定数)である。「m」はコンテナ貨物車両の重量であり、「π」は円周率である。
【0080】
次に、コンテナ貨物車両の重心Wを質点として、コンテナ貨物車両の重心Wの左右方向の単振子運動の周期「T」(トレーラトラック50のローリング周期)を定式化する。
【0081】
図4に示すように、コンテナ貨物車両のローリングは、コンテナ貨物車両の重心Wの車軸の中心500(図4に示した垂直中心ライン201と車軸位置ライン202との交点)を支点とした左右方向の単振子運動であることから、コンテナ貨物車両のローリング中のローリング円の接線方向における回転モーメントの釣り合いにより、以下の式が得られる。
【0082】
【数2】
【0083】
この式において、「f」はコンテナ貨物車両の重心Wに対しローリング円(回転円)の接線方向に与えられる力である。「θ」はローリング角である。「L」は車軸の中心500からコンテナ貨物車両の重心Wまでの長さである。「b」はコンテナ11の荷重を支えている部分の長さであり、コンテナ11毎に定められる定数である。「l(スモールエル)」は車軸からコンテナ貨物車両の重心Wまでの上下方向の長さであり、図1(b)に示す如くコンテナ11の前後方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの垂直方向の位置を表す値である。「s」は車軸の中心500からコンテナ貨物車両の重心Wまでの左右方向の長さであり、図1(b)に示す如くコンテナ11の前後方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの水平方向の位置を表す値である。「x」は左右のサスペンションの変位量である。「g」は重力加速度である。
【0084】
つまり、「l」は、コンテナ11の前後方向(走行方向)に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置、より詳しくは、コンテナ貨物車両の自重方向の重心位置に相当する。また、「s」は、コンテナ11の前後方向(走行方向)に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置、より詳しくは、コンテナ貨物車両の幅方向の重心位置に相当する。
【0085】
ここで、x=(b/2)sinθであるから、上述の回転モーメントの釣り合い式は、式(1)のように表すことができる。
【0086】
【数3】
【0087】
また、この式(1)は、括弧内の三角関数を合成すれば、式(2)の如く展開される。なお、上述の式(2)において、三角関数の合成により得られるサイン関数の角度(θ+α)のことを、ローリング角度θ’として表している。
【0088】
【数4】

【0089】
ところで、コンテナ貨物車両の重心Wの水平方向の位置が垂直中心ライン201上に存在すれば、重心Wのローリング(単振子運動)の中心角度「α」はゼロになる。本明細書において、この中心角度「α」とは、図4に示すように、垂直中心ライン201とローリング中心ライン206との間のなす角を指す。
【0090】
上述の位置が左右の何れかに偏倚していれば(つまり、「s」≠0であれば)、このローリングの中心角度「α」はゼロ以外の一定の値を持つようになる。このような状態で、トレーラトラック50が停止すれば、その中心角度「α」を保ったまま傾斜して中立する。そこで、式(1)のθを、重心Wのローリングの中心角度「α」に置き換えることにより、重心Wがローリングの中心を通る場合またはトレーラトラック50が停止する場合を想定して、式(3)が成り立つ。
【0091】
【数5】
【0092】
ここで、コンテナ貨物車両の重心Wのローリングの中心角度「α」が、コンテナ貨物車両の走行時の傾斜角に相当するので、以下、この中心角度「α」のことを、コンテナ貨物車両の走行時の傾斜角「α」と言い換える場合がある。
【0093】
次いで、式(3)を、式(2)に代入して整理すれば、以下の式になる。
【0094】
【数6】
【0095】
ところで、上述のローリング角度θ’は、高々、数度程度の微小な値であると想定される。よって、「θ’」が充分に微小値である場合の三角関数の特性(つまり、sinθ’≒θ’の関係)から上述の式の「f」を、以下の式のように記述できる。
【0096】
【数7】
【0097】
この式形は、Lを半径とした振子の円運動の方程式と同値であることから、
【0098】
【数8】
【0099】
と書き直せる。
【0100】
ここで、「θ’」の角振動数を「ω」とおくと、
【0101】
【数9】
【0102】
となる。
【0103】
また、トレーラトラック50のローリング周期をTとおくと、T=2π/ωであることから、
【0104】
【数10】
【0105】
と書き直せる。
【0106】
そして、L=√(l+s)であることから、最終的には、ーリング周期「T」について、以下の式が得られる。
【0107】
【数11】
【0108】
このようにして、コンテナ貨物車両の重心Wの上下方向の往復運動の周期「T’」およびコンテナ貨物車両の重心Wの左右方向の単振子運動の周期「T」が導かれる。
【0109】
ところで、揺動検知器14(角速度センサ14a)により検知される角速度は、通常は、角度/時間に相当する角周波数(以下、「周波数」と略す)であり、この周波数は、周期の逆数(1/周期)で表される。そこで、重心Wの上下方向の往復運動の周期「T’」に対応する、トラクタ10のピッチングの周波数(上下動の周波数)を「ν’」とおき、重心Wの左右方向の単振子運動の周期「T」に対応するローリングの周波数を「ν」とおくと、上述の式は各々、
【0110】
【数12】
【0111】
と整理できる。
【0112】
ここで、式(3)、(4)および(5)の比較から理解できるとおり、周波数「ν」および周波数「ν’」が既知である場合(つまり、演算ユニット15が、揺動検知器14を用いてこれらの値「ν」および「ν’」を導くことができる場合)、未知数は「l」、「s」および「α」の3個である。なお、傾斜角「α」を導く方法は、後述する。
【0113】
これにより、コンテナ11の前後方向(走行方向)に垂直な断面についての、コンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す数値「l」と数値「s」が、コンテナ貨物車両の走行時の傾斜角「α」との関係で、以下のように定式化される。つまり、式(4)および(5)は各々、式(6)および(7)に展開される。
【0114】
【数13】
【0115】
次いで、式(7)に、式(6)を代入すれば、式(8)が得られる。
【0116】
【数14】
【0117】
同様に、式(3)に、式(6)を代入すれば、式(9)が得られる。
【0118】
【数15】
【0119】
なお、ここで、式(9)を式(8)に代入して「l」による二次方程式化すれば、式(10)のように書き直される。
【0120】
【数16】
【0121】
ここで、「l」の二次係数、一次係数および定数項を特定すれば、「l」が求まり、それを式(9)に代入すれば「s」も求まる。
【0122】
以上のとおり、これらの式(8)、(9)および(10)によれば、傾斜角「α」が特定できた場合、コンテナ11の前後方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」および「s」のみを未知数とする単純な連立方程式の問題に帰着できることが分かる。
【0123】
この連立方程式では、サスペンション205の弾性係数「k」およびコンテナ貨物車両の重量「m」を入力値としないように内在化させている。つまり、サスペンション205の弾性係数「k」およびコンテナ貨物車両の重量「m」が、上述の連立方程式の定式化の過程でこれらの式から除かれている。そして、このことは、弾性係数「k」および重量「m」の計測に費やされる膨大な手間を省くことを可能にし、不特定多数のトラクタ10と不特定多数のコンテナシャーシ12との間の任意の組合からなるトレーラトラック50により、コンテナ11が日々輸送されている状況を直視すれば、その意義は極めて大きい。
【0124】
次に、コンテナ貨物車両の走行方向(コンテナ11の前後方向)についてのコンテナ貨物車両の重心Wの位置を導く方法を説明する。
【0125】
以上のとおり、コンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置は、式(9)および(10)の連立方程式を「l」および「s」について解くと導くことができるが、これだけでは、コンテナ貨物車両の3次元重心位置は未だ特定できていない。つまり、これらの「l」および「s」に加えて、コンテナ貨物車両の走行方向についての重心Wの位置を求める必要がある。
【0126】
コンテナ貨物車両の走行方向についての重心Wの位置は、以下の2通りの方法により導くことができる。
第1の方法
図7に示すように、異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅が現れる場合、特許文献8に記載された方法に倣い、コンテナ貨物車両の前後方向の重心Wの位置は、以下の如く定式化できる。
【0127】
トレーラトラック50は、図7に示すように、コンテナシャーシ12上に載ったコンテナ11を、コンテナシャーシ12の後横梁21および前横梁20によって支える。これらの前後横梁20、21は、コンテナ11の左右方向(幅方向)に延びており、前後方向に走る縦梁(不図示)に固定されている。これにより、コンテナ11の荷重は、後横梁21および前横梁20並びに縦梁を介してコンテナシャーシ12の前部に連結されているトラクタ10と、コンテナシャーシ12の後部のサスペンション205とに分散されている。
【0128】
ところで、コンテナ11を積載して走行中のトレーラトラック50では、図1(a)に示すように、路面204の凹凸による外乱の前後方向の作用中心において、このような外乱に応じて発生するローリングの強弱(振幅)が異なる。例えば、図1(a)に示すように、外乱の作用中心が重心位置から離れると、外乱に対抗するトレーラトラック50の荷重は小さくなるので、ローリングの振幅は大きくなる。逆に、外乱の作用中心が重心位置に近づくと、トレーラトラック50の大きな荷重が抗力として機能して、ローリングの振幅は小さくなる。このため、前後方向の重心Wの位置は前後横梁20、21の間にあると見做せる。よって、ローリングの振幅が増加する方向にローリング現象が顕著に現れる外乱の作用中心は、コンテナ11の前後部に対応するコンテナシャーシ12の前後横梁20、21の位置であると考えられる。
【0129】
ここで、コンテナシャーシ12の前部とトラクタ10との間は、コンテナシャーシ12の前横梁20より短いカプラ13と呼ばれる円盤形の連結部材により連結されている。カプラ13の直径は、通常は、コンテナシャーシの前横梁20の長さの半分にも満たない。このため、コンテナ11を積載するコンテナシャーシ12に対するトラクタ10との連結部支えの左右方向の長さは、実際上、コンテナシャーシ12の前横梁20の長さではなく、カプラ13の直径「b」である。
【0130】
以上の状況において、式(5)を参酌すれば、「k/m」が一定値であれば、ローリングの周波数「ν」は、コンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」および「s」とコンテナ11を支えている部分の長さ「b」に依存する。上述のとおり、この長さ「b」は、コンテナシャーシ12の前後部で相違するので、ローリングの振幅が増加する方向にローリング現象が顕著に現れる極大ピーク振幅(凸状ピークの頂点)は、2つ存在すると考えられる。
【0131】
つまり、このような極大ピーク振幅には、コンテナシャーシ12の前部とトラクタ10との連結部材としてのカプラ13に由来する極大ピーク振幅と、コンテナシャーシ12の後部に位置する後横梁21に由来する極大ピーク振幅と、がある。そして、式(5)の参酌から、後者の極大ピーク振幅に対応する周波数の方が、前者のそれより大きくなる。
【0132】
また、これらの周波数の間に、ローリングの振幅が減少する方向にローリング現象が現われ難い極小ピーク振幅(凹状の負のピークの谷間)がある。この極小ピーク振幅が、コンテナ貨物車両の前後方向の重心Wに由来するピークである。
【0133】
以上の考察に基づいて、コンテナ貨物車両の前後方向についての重心Wの位置が、以下の如く定式化される。
【0134】
ローリングの周波数「ν」とコンテナ11を支えている部分の左右方向の長さ「b」との間の関係は、式(5)によれば、
【0135】
【数17】
【0136】
と表される。
【0137】
ここで、ローリングの周波数「ν」と左右方向の長さ「b」以下は定数項として、CとCとしてまとめてしまうと、式(11)のように略して表される。
【0138】
【数18】
【0139】
よって、コンテナ11の前後部に外乱が作用した場合の双方のローリングの周波数「ν」と、両者の位置においてコンテナ11を支えている部分の左右方向の実質的な長さが得られれば、CおよびCを求めることができ、式(11)は、任意のローリングの周波数「ν」に対して、左右方向の長さ「b」を導くことができる方程式になる。
【0140】
ここで、コンテナ11の前後部のそれぞれに対応する、左右方向の長さ「b」とローリングの周波数「ν」との組合せを、それぞれ(b、ν)、(b、ν)とおけば、
【0141】
【数19】
【0142】
と組める。そして、この連立方程式を解くと、式(12)が得られる。
【0143】
【数20】
【0144】
この式(12)において、「b」はコンテナ11の後部の位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ(以下、「後横梁21の長さ」と略す場合がある)であり、定数として決まる値である。「b」はコンテナ11の前部の位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さであり、トラクタ10のカプラ13の直径「b」とから幾何学的に定数として決まる値である。「ν」は、コンテナ11の前部において路面204から垂直方向に外乱が作用した場合に発生するローリングの周波数である。「ν」は、コンテナ11の後部において路面204から垂直方向に外乱が作用した場合に発生するローリングの周波数である。
【0145】
次に、コンテナ貨物車両の前後方向の重心Wの位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ「b」を特定する。
【0146】
この長さ「b」は、周波数「ν」、「ν」および「ν」が何れも既知である場合(つまり、演算ユニット15が、揺動検知器14を用いて、周波数「ν」、「ν」および「ν」を特定できた場合)、式(13)により求まる。なお、「ν」は、重心Wの位置において路面204から垂直方向に外乱が作用した場合のローリングの周波数である。
【0147】
【数21】
【0148】
ここで、図7から理解されるとおり、コンテナ11の前部の位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ「b」と、トラクタ10カプラ13の直径「b」と、重心Wの位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ「b」と、コンテナ11の前部からカプラ13の中心までの長さ「k」と、コンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」と、コンテナ11の前後方向の長さ「p」との間の幾何学的な関係は、線形比として表現することができる。そこで、この関係を定式化すると、式(14)が得られる。
【0149】
【数22】
【0150】
式(14)においてコンテナ貨物車両の前後方向の重心Wの位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ「b」(式(13)を用いて演算)を代入すれば、このコンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」が導くことができる。
【0151】
更に、この長さ「k」に対応する、コンテナ11の前後方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」および「s」は、上述の長さ「b」を、式(10)中の「b」に用いて、式(9)と連立させて導くことができる。
第2の方法
図8に示すように、カプラ13に由来するローリング運動の極大ピーク振幅が消滅した場合、コンテナ貨物車両の走行方向についての重心Wの位置は、以下の如く定式化できる。
【0152】
まず、走行体が舗装したて路面204上を走行する場合であっても、路面204の微小な凹凸による走行体への外乱(以下、「微小外乱」という)は必ず起こると考えられる。このことは、トレーラトラック50特有のカプラ13の有無およびカプラ13の直径の大小を問わない。単に、微小外乱を伝達するトレーラトラック50の支えの幅(車幅)が、カプラ13の直径「b」の如く短くなると、微小外乱がトレーラトラック50に伝わり難くなるに過ぎない。
【0153】
よって、トレーラトラック50が舗装したて路面204上を走行する場合でも、トレーラトラック50の車幅が、微小外乱を伝達できる程度に長ければ、微小外乱によるトレーラトラック50のローリングの振幅が増加する方向にローリング現象が顕著に現れる極大ピーク振幅を観測できるはずである。実際に、図8に示すように、コンテナシャーシ12の後部に位置する後横梁21に由来する極大ピーク振幅「P2」が存在する。
【0154】
以上により、コンテナシャーシ12の後部でのコンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」および「s」は、コンテナ11の後部の位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ「b」を、式(8)、式(9)中の「b」に用い、コンテナ11の後部において路面204から垂直方向に外乱が作用した場合に発生するローリング周波数「ν」を、式(8)、式(9)の「ν」に用いて導くことができる。
【0155】
ところで、コンテナ貨物車両の走行中の振動(揺動)では、ピッチングもローリングも同一のばね力から生じると仮定できる。
【0156】
そして、本件発明者は、このような仮定を取る場合、コンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の左右方向のローリング(図3および図4参照)か、コンテナ貨物車両の幅方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の前後方向のローリング(図5および図6参照)か、どちらか計測可能な方によって得られた運動方程式上の係数は、他方の係数としてそのまま適用できると考えた。
【0157】
そこで、式(8)の運動方程式を、ローリング周波数「ν」と、ローリング周波数「ν」に対応するコンテナ貨物車両の車幅の長さ「b」で括るように変形すると、以下の式(15)が得られる。
【0158】
式(15)は、コンテナ貨物車両の車幅(幅寸法「b」)を独立件数とし、コンテナ貨物車両の左右方向(幅方向)のローリング周波数「ν」を従属変数として定式化された関係式となっている。
【0159】
ここで、式(15)の係数「K」は、コンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」および「s」、コンテナ貨物車両の上下動に連動するトラクタ10のピッチング周波数「ν’」、および、コンテナ貨物車両の左右方向(幅方向)のローリングの中心角度「α」を変数として含み、係数「K」は、コンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」および「s」、および、コンテナ貨物車両の左右方向(幅方向)のローリングの中心角度「α」を変数として含んでいる。
【0160】
【数23】
【0161】
コンテナ貨物車両の左右方向のローリング(図3および図4参照)では、後横梁21に由来する極大ピーク振幅「P2」に対応するローリング周波数「ν」(実測値)、コンテナ貨物車両の上下動に連動するトラクタ10のピッチングの周波数「ν’」(実測値)、後横梁21の長さ「b」(実測値)が既知となる。また、コンテナ貨物車両の左右方向(幅方向)のローリングの中心角度「α」も実測(後述)できる。
【0162】
よって、以上の実測値を用いて、式(8)および式(9)により、コンテナシャーシ12の後部でのコンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」および「s」を導くことができる。すると、コンテナ貨物車両の左右方向のローリング(図3および図4参照)において、係数「K」、「K」を演算することができる。
【0163】
このとき、上記仮定に基づいて、演算された係数「K」、「K」は、図5および図6に示したコンテナ貨物車両の前後方向のローリングの係数でもあると推定する。よって、式(15)の長さ「b」に、コンテナ貨物車両の全長(コンテナ11の前後方向(走行方向)の長さ「p」)を代入することにより、式(15)を用いてコンテナ貨物車両の前後方向のローリングの周波数「ν前後」の推定値を演算できる。なお、図5および図6のコンテナ貨物車両の上下動に連動するトラクタ10のピッチングの周波数「ν’」は、図3および図4のコンテナ貨物車両のそれの周波数「ν’」(実測値)と同じである。
【0164】
また、コンテナ貨物車両の前後方向のローリング(図5および図6参照)では、これらのコンテナ貨物車両の上下動に連動するトラクタ10のピッチングの周波数「ν’」(実測値)およびコンテナ貨物車両の前後方向のローリングの周波数「ν前後」(推定値)を、上記式(8)および式(9)に代入できる。すると、これらの数値を代入した後の連立方程式(式の展開は省略)の未知数は、コンテナ貨物車両の幅方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の傾斜角「α前後」と、コンテナ貨物車両の幅方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「s前後」となる。なお、コンテナ貨物車両の幅方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l前後」は、コンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l左右」(=上記「l」;図3および図4参照)と等しい。つまり、重心Wからコンテナシャーシ12の平面に垂直に引いた垂線の長さは、理論的に唯一であり、それを幅方向からコンテナシャーシ12の平面を基準に見るか、前後方向からそう見るか、の違いでしかない。
【0165】
よって、以上の連立方程式を用いて、コンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「s前後」を演算できる。例えば、式(8)および式(9)の連立方程式において、「l」を消去すれば、未知数が「s前後」と「α前後」である関係式が得られ(式の展開は省略する)、「α前後」は、適宜の検知器(図示せず)を用いて、重心Wの左右方向のローリングの中心角度「α(α左右)」(傾斜角「α」)を導く方法と同じ方法で導くことができる。
【0166】
その結果、「s前後」が求まり、この「s前後」を用いてこのコンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」に換算できる。
【0167】
このようにして、本実施形態の重心検知装置100は、第1の方法でも、第2の方法でも、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す3つの数値「l」、「s」および「k」を全て取得できる。
<重心検知装置の動作例>
次に、本実施形態の重心検知装置100によるコンテナ貨物車両の3次元重心位置の検知動作の一例について図面を参照しながら説明する。
【0168】
図9図10および図11は、本発明の実施形態の重心検知装置による3次元重心位置の演算ルーチン例を示したフローチャートである。
【0169】
演算ユニット15の操作設定/表示部15cの電源スイッチが押されると、操作設定/表示部15cの表示画面(不図示)には複数のメニューが表示される。そして、操作設定/表示部15cの適宜のボタン操作により、トレーラトラック50の走行中に、以下の3次元重心位置の検知動作を開始することができる。
【0170】
なお、本検知動作を以下のように実行するにあたり、作業者(例えばトラクタ10の運転者や同乗者)が行う必要がある指示内容は、操作設定/表示部15cの表示画面にメッセージ表示される。3次元重心位置の検知動作が選択されると、演算ユニット15の演算部15aは、記憶部15bから3次元重心位置検知用の演算プログラムおよび予め記憶された適宜の定数を読み出し、この演算プログラムが、以下の処理を演算部15a、記憶部15bおよび操作設定/表示部15cを制御しながら実行する。
【0171】
なお、この定数には、例えば、コンテナ11の前後方向の長さ「p」と、トラクタ10のカプラ13の直径「b」と、コンテナ11の前部からカプラ13の中心までの長さ「k」と、コンテナ11の前後部の位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ「b」、「b」と、重力加速度「g」と、円周率「π」と、がある。
【0172】
標準仕様の40フィートの海上コンテナでは、定数「p」、「b」、「k」、「b」および「b」は、標準値になっている場合が多く、当該定数「p」、「b」、「k」、「b」および「b」を記憶部15bに予め記憶させる方が、上述の定数の確認作業や入力作業が省けて好適である。
【0173】
なお、3次元重心位置の検知動作を実行する度に、作業者が、演算ユニット15の操作設定/表示部15cを介して、これらの定数「p」、「b」、「k」、「b」および「b」を記憶部15bに入力するという制御法を採用してもよい。
【0174】
まず、コンテナ貨物車両の3次元重心位置検知の準備段階動作として、貨物を搭載したコンテナ11をコンテナシャーシ12とともに牽引するトラクタ10が、路面204を走行する(ステップS1)。
【0175】
そして、路面204の適度の凹凸により、ランダムな外乱がサスペンション205を通してトレーラトラック50の車体(コンテナ11)に伝わり、これにより、揺動検知器14が、コンテナ貨物車両の自重方向および幅方向の揺れを検知できる。
【0176】
なお、付言するに、上述の従来技術の中には、トラックの曲路走行中のデータ(例えば遠心力や横加速度)を意図的に検知しようとする例(例えば特許文献1、5および6)があるが、このような手法は、却って、トラックの曲路走行中(データ取得時)にトラックの走行不安定(最悪の場合、トラックの横転)を招く可能性があり、本当に実用可能か疑問である。
【0177】
作業者(例えばトラクタ10の運転者や同乗者)の操作設定/表示部15cのボタン操作により、3次元重心位置の検知動作が開始すれば、揺動検知器14の角速度センサ14aにより、重心Wの上下方向の往復運動に対応するピッチング(縦揺れ;上下方向の単振動)および重心Wのローリング(横揺れ;左右方向の単振子運動)の角速度データがアナログ信号として計測される(ステップS2)。そして、このアナログの角速度データは、演算ユニット15(演算部15a)により、記憶部15bに予め記憶された一定のサンプリング期間毎(例えば0.002S(秒)毎)に、揺動検知器14のA/D変換器14bを経たデジタル信号としてサンプリングされ(ステップS3)、サンプリングされたデジタルの角速度データは、時系列データとともに記憶部15bに記憶される(ステップS4)。
【0178】
なお、ここでは、角速度センサ14aによる角速度データの検知例を述べたが、車の流れに乗って車両が直進している状況では、ローリングの状態は、sinθ=θと仮定できるので、角速度センサに代えて、速度センサによりデータを検知してもよい。
【0179】
次に、演算部15aは、角速度センサ14aによる角速度データの計測を終了してよいか否かを判定する(ステップS5)。演算部15aが、角速度データの計測を終了してよいと判定した場合(ステップS5において「Yes」の場合)、次の処理ステップ(ステップS6以降)に進み、角速度データの計測を終了してよいと判定しなかった場合(ステップS5において「No」の場合)、上述のステップS2〜S4の動作が継続される。
【0180】
このような計測終了の良否判定は、記憶部15bに予め記憶された必要なトータルサンプル個数と上述のサンプル時間とから導かれる、所定の計測時間を基準にしてなされてもよい。例えば、サンプリングの統計誤差が充分に小さくなるサンプル個数が4096個(FFTが2の整数乗の個数を対象とした分析であることから、ここでは、212個を例示)であり、サンプル時間が0.002Sである場合、最低限必要な計測時間は、4096×0.002S≒8Sとなる。よって、この場合、演算部15aは、角速度センサ14aによる角速度データの計測開始時から8S以上、経過したら、角速度データの計測を終了してよいと判定する。なお、トレーラトラック50の走行中、リアルタイムにコンテナ11の3次元重心位置を更新するような使用形態を想定すれば、この計測時間はなるべく短い方が好ましい一方、短過ぎると、サンプル個数が少なく統計誤差が増える。
【0181】
また、このような判定動作に代えて、作業者による操作設定/表示部15cの計測終了用ボタン操作の有無に基づいて、演算部15aが、角速度データの計測終了の良否を判定してもよい。
【0182】
なお、以上のような短時間の角速度データの測定は、角速度データの測定期間中、サスペンション205の弾性係数「k」およびコンテナ貨物車両の重量「m」が不変であるという前提条件の下、これらの数値「k」、「m」を、上述の連立方程式の定式化において除ける根拠になる。
【0183】
角速度センサ14aによる角速度データの計測が終了したら、演算部15aは、記憶部15bに記憶された時系列の角速度データを読み出す。すると、ローリングの振幅(角度)の時間変化を表した分布(以下、「ローリング振幅の経時変化」と略す)から、ローリング振幅の経時変化の時間平均値に相当するコンテナ貨物車両の重心Wの左右方向のローリングの中心角度「α」(傾斜角「α」)を特定することができる(ステップS6)。
【0184】
次いで、演算部15aは、記憶部15bに記憶された時系列の角速度データに対し高速フーリエ変換(FFT)をかけて、この角速度データを周波数に対する振幅のデータに変換する(ステップS7)。詳しくは、上記角速度データを、コンテナ貨物車両の左右方向のローリング周波数とコンテナ貨物車両の左右方向のローリング振幅との間の相関を表す横揺れデータ(ローリングデータ)に変換し、コンテナ貨物車両の上下動に連動するトラクタ10のピッチングの周波数とこのピッチングの振幅との間の相関を表す縦揺れデータ(ピッチングデータ)に変換する。
【0185】
これにより、コンテナ貨物車両の上下動に連動するトラクタ10のピッチングの周波数とこのピッチングの振幅との相関関係を示した分布(例えば、後述の図12に示した分布;以下、「ピッチング周波数/振幅分布」と略す)が得られる。また、コンテナ貨物車両の左右方向のローリング周波数と、コンテナ貨物車両の左右方向のローリング振幅との相関関係を示した分布(例えば、図7図8に示した分布;以下、「ローリング周波数/振幅分布」と略す)も得られる。
【0186】
次いで、上記「ピッチング周波数/振幅分布」から、コンテナ貨物車両の上下動に連動するトラクタ10のピッチング周波数「ν’」が特定される(ステップS8)。つまり、ピッチングの最大振幅に対応する周波数を、ピッチング周波数「ν’」として選べばよい。
【0187】
次いで、「ローリング周波数/振幅分布」において、異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅が存在するか否かが判定される。換言すると、カプラ13に由来するローリング運動の極大ピーク振幅が消滅したか否かが判定される。
【0188】
上記判定の手法として、ここでは、「ローリング周波数/振幅分布」の振幅(実測データ)の平均と標準偏差に基づいた方法を例示するが、この類の判定の手法は、統計数学を用いて様々に構築できる。よって、本明細書の技術は、これに限定されない。
【0189】
具体的には、ローリング振幅(実測データ)の平均とその標準偏差(σ)と、を求め、この平均をゼロとして標準偏差(σ)の倍数で見て、ローリング振幅(標準偏差倍数)が標準偏差の3倍(3σ)を超える場合、この値は、母集団中の0.3%以下となる。このため、ローリング振幅(標準偏差倍数)が、標準偏差の3倍(3σ)を超える場合、当該ローリング振幅は、明確なピークを示すと判定することができる。また、異なる二つの周波数のところでの、ローリング運動の極大ピーク振幅の間には、谷間が存在するはずである。このような谷間の存否は、ローリング振幅(標準偏差倍数)が、平均(=0)を下回る値を取るか否かで判定することができる。
【0190】
以上により、演算部15aは、異なる二つの周波数のところで、ローリング振幅(標準偏差倍数)が、標準偏差の3倍(3σ)を超えているか否かを判定する(ステップS9)。また、これらの二つの周波数の間において、ローリング振幅(標準偏差倍数)が平均を下回ることがあるか否かも判定する(ステップS9)。
【0191】
つまり、異なる二つの周波数のところで、ローリング振幅(標準偏差倍数)が、標準偏差の3倍(3σ)を超える場合、かつ、これらの二つの周波数の間において、ローリング振幅(標準偏差倍数)が平均を下回ることがある場合(ステップS9において「Yes」の場合)、「ローリング周波数/振幅分布」において、異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅が存在する場合と判定され、図11のステップS201〜S216の動作が行われる。
【0192】
一方、異なる二つの周波数のところで、ローリング振幅(標準偏差倍数)が、標準偏差の3倍(3σ)を超えない場合、または、これらの二つの周波数の間において、ローリング振幅(標準偏差倍数)が平均を下回ることがない場合(ステップS9において「No」の場合)、「ローリング周波数/振幅分布」において、異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅が存在しない場合と判定され、図10のステップS101〜S109の動作が行われる。
【0193】
まず、図10のステップS101〜S108の動作について述べる。
【0194】
ステップS9において、異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅が存在しない場合と判定された場合であっても、一つの周波数のところで、ローリング振幅(標準偏差倍数)が、標準偏差の3倍(3σ)を超える場合がある。この場合、ローリング運動の極大ピーク振幅が一つだけ存在すると考えられる。具体的には、コンテナ貨物車両では、図8の如く、コンテナシャーシ12の後部に位置する後横梁21に由来する極大ピーク振幅「P2」が一つだけ観測される。
【0195】
そこで、演算部15aは、一つの周波数のところで、ローリング振幅(標準偏差倍数)が、標準偏差の3倍(3σ)を超えるか否かを判定する(ステップS101)。
【0196】
ステップS101において「Yes」の場合、後横梁21に由来する極大ピーク振幅「P2」に対応するローリング周波数「ν」が存在すると判定される。これにより、ローリング周波数「ν」が「ローリング周波数/振幅分布」に基づいて特定される(ステップS102)。そして、このローリング周波数「ν」を用いて、上記「第2の方法」により、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す3つ値「l」、「s」、「k」が、以下のステップS103〜ステップS107の如く演算される。
【0197】
一方、ステップS101において「No」の場合、ローリング振幅に、明確なピークが存在しないと判定される。その結果、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す3つ値「l」、「s」、「k」を演算できないので、ステップS2に戻り(ステップS109)、ステップS2以降の動作が再び行われる。
【0198】
ステップS103において、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている定数「b」を読み出し、ステップS8のピッチング周波数「ν’」、ステップS102のローリング周波数「ν」、ステップS6のコンテナ貨物車両の重心Wの左右方向のローリングの中心角度「α」、および、コンテナ貨物車両の後横梁21の長さ「b」を用いて、以下の式(8)、式(9)(但し、式(8)、式(9)の「b」は、「b」とする)により、コンテナ貨物車両の走行方向に垂直な断面におけるコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「l」、「s」を、演算する。
【0199】
【数24】
【0200】
【数25】
【0201】
次いで、演算部15aは、ステップS103の演算値「l」、「s」、ステップS8のピッチング周波数「ν’」、および、ステップS6のコンテナ貨物車両の重心Wのローリングの中心角度「α」を用いて、以下の係数「K」、「K」を演算する(ステップS104)。
【0202】
【数26】
【0203】
そして、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されているコンテナ貨物車両の前後方向の長さ「p」(定数)を読み出し、以下の式(15)の「b」に、この定数「p」を代入する。そして、演算部15aは、ステップS104の係数「K」、「K」を用いて、式(15)によりコンテナ貨物車両の前後方向のローリングの周波数「ν前後」(推定値)を演算する(ステップS105)。
【0204】
【数27】
【0205】
その後、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている定数「p」を読み出し、ステップS8のピッチング周波数「ν’」、ステップS105のローリングの周波数「ν前後」(推定値)、および、定数「p」を用いて、上記式(8)および式(9)(但し、式(8)、式(9)の「b」は「p」とし、「ν」は「ν前後」とする)により、コンテナ貨物車両の左右方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「s前後」を演算する(ステップS106)。例えば、以上の式(8)および式(9)の連立方程式において、「l」を消去すれば、未知数が「s前後」と「α前後」である関係式が得られ、「α前後」は、適宜の検知器(図示せず)を用いて、上記ステップS6の方法と同じ方法で導くことができる。これにより、「s前後」が求まる。
【0206】
最後に、演算部15aは、ステップS106の演算値「s前後」を用いて、コンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」を演算(換算)し(ステップS107)、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す3つ値「l」、「s」、「k」を操作設定/表示部15cの表示画面に表示させ(ステップS108)、一連の3次元重心位置の検知ルーチンを終える。
【0207】
次に、図11のステップS201〜S217の動作について述べる。
【0208】
異なる二つの周波数のところで、ローリング運動の極大ピーク振幅が存在する場合、「第1の方法」でも「第2の方法」でも、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す値「s」、「k」を演算できる。
【0209】
なお、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す値「l」については、「第1の方法」でも「第2の方法」でも、同じ値となるので、後述するステップS203またはステップS205において適宜、導くことができる。また、後述するステップS213において、「l」を用いずに「S前後」を演算できる。よって、ここでは、数値「l」の演算動作の図示および説明を省略する。
【0210】
本実施形態の重心検知装置100では、以下のとおり、「第1の方法」および「第2の方法」から得られる重心位置データ「s」、「k」の比較がなされ、これにより、高精度な重心位置演算が行われる。
【0211】
まず、「ローリング周波数/振幅分布」から、周波数「ν」、「ν」および「ν」が特定される(ステップS201、ステップS204)。
【0212】
つまり、ローリングの周波数の低い方の値から見て、ローリングの極大ピーク振幅(頂点)に対応する周波数を2つ選ぶとともに、これらの極大ピーク振幅の間(本実施形態では、ほぼ中間)に位置する極小ピーク振幅(負のピーク振幅;ボトム振幅)に対応する周波数を選べばよい。そうすれば、これらの選択された3つの周波数は、低い方から順番に、周波数「ν」、周波数「ν」および周波数「ν」に相当する。
【0213】
また、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている定数「b」、「b」および「b」を読み出し、ステップS201の周波数「ν」「ν」および「ν」を用いて、式(13)により、重心Wの位置における、コンテナ11を支えている部材の左右方向の実質的な長さ「b」を演算する(ステップS202)。
【0214】
【数28】

【0215】
次いで、演算部15aは、ステップS8のピッチング周波数「ν’」、ステップS201のローリング周波数「ν」、ステップS6のコンテナ貨物車両の重心Wのローリングの中心角度「α」、および、ステップS202の「b」を用いて、上記式(8)、式(9)(但し、式(8)、式(9)の「b」は「b」とし、「ν」は「ν」とする)により、コンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「s」を演算する(ステップS203)。
【0216】
同時に、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている定数「b」を読み出し、ステップS8のピッチング周波数「ν’」、ステップS204のローリング周波数「ν」、ステップS6のコンテナ貨物車両の重心Wのローリングの中心角度「α」、および、定数「b」を用いて、式(8)、式(9)(但し、式(8)、式(9)の「b」は「b」とし、「ν」は「ν」とする)により、コンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値「s」を演算する(ステップS205)。
【0217】
ここで、車軸の中心500からコンテナ貨物車両の重心Wまでの左右方向の長さ「s」を高精度に演算するには、「s」と、「s」との誤差を見積もり、両者の誤差の大小を評価する必要がある。ここでは、誤差の評価判断の基準として、コンテナ貨物車両の後横梁21の長さ「b」を選ぶ手法を例示されているが、この類の手法は、統計数学を用いて様々に構築できる。よって、本明細書の技術は、これに限定されない。
【0218】
コンテナ貨物車両の車幅の最大値は、コンテナ貨物車両の後横梁21の長さ「b」である。このため、車軸の中心500からコンテナ貨物車両の重心Wまでの左右方向の長さ「s」は、コンテナ貨物車両の後横梁21の長さ「b」/2よりも必ず小さいはずである(つまり、「s」<0.5×「b」の関係が必ず成り立つ)。
よって、「s」および「s」間の誤差の評価値として、『|「s」−「s」|/(0.5×「b」)』を選ぶのが妥当であると考えられる。そこで、本実施形態の重心検知装置100では、関係不等式『|「s」−「s」|/(0.5×「b」)<0.1』の場合、「s」および「s」間の誤差が小さいと判定する。換言すると、この場合、「s」と「s」と、がほぼ等しいと判定する。
【0219】
このようにして、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている定数「b」を読み出し、ステップS203の「s」、ステップS205の「s」、コンテナ貨物車両の後横梁21の長さ「b」を用いて、関係不等式『|「s」−「s」|/(0.5×「b」)<0.1』が成り立つか否かを判定する(ステップS206)。
【0220】
ステップS206において「Yes」の場合、「s」と「s」と、がほぼ等しいと判定される。
【0221】
この場合、「s」をコンテナ貨物車両の車軸の中心500からコンテナ貨物車両の重心Wまでの左右方向の長さ「s」とする(ステップS207)。
【0222】
そして、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている定数「p」、「k」および「b」を読み出し、定数「p」、「k」および「b」、および、ステップS202の長さ「b」を用いて、式(14)により、コンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値(以下、「k(第1の方法)」と略す)を演算し(ステップS208)、これをコンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」とする。
【0223】
【数29】
【0224】
最後に、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す3つ値「l」、「s」、「k」を操作設定/表示部15cの表示画面に表示させ(ステップS209)、一連の3次元重心位置の検知ルーチンを終える。
【0225】
一方、ステップS206において「No」の場合、「s」と「s」と、が等しくないと判定される。
【0226】
この場合、「s」をコンテナ貨物車両の車軸の中心500からコンテナ貨物車両の重心Wまでの左右方向の長さ「s」とする(ステップS210)。なお、ここで、極大ピーク振幅の方が、極小ピーク振幅(負のピーク振幅;ボトム振幅)よりも明確に現れ易いという理由により、「s」を選ぶ方が好ましいと考えられる。
【0227】
そして、演算部15aは、上記ステップS105〜ステップS107と同じ方法により、コンテナ貨物車両の重心Wの位置を表す値(以下、「k(第2の方法)」と略す)を演算するとともに(ステップS211〜ステップS214)、上記ステップS208と同じ方法により、「k(第1の方法)」を演算する(ステップS214)。
【0228】
ここで、コンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」を高精度に演算するには、「k(第1の方法)」と、「k(第2の方法)」との誤差を見積もり、両者の誤差の大小を評価する必要がある。
【0229】
コンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」は、コンテナ貨物車両の前後方向の全長「p」よりも必ず小さいはずである(つまり、「k」<「p」の関係が必ず成り立つ)。
【0230】
よって、「k(第1の方法)」および「k(第2の方法)」間の誤差の評価値として、『|「k(第1の方法)」−「k(第2の方法)」|/「p」|』を選ぶのが妥当であると考えられる。
【0231】
そこで、上記ステップS206と同様に、演算部15aは、記憶部15bに予め記憶されている定数「p」を読み出し、ステップS214の「k(第1の方法)」、ステップS214の「k(第2の方法)」、コンテナ11の前後方向の長さ「p」を用いて、関係不等式『|「k(第1の方法)」−「k(第2の方法)」|/「p」<0.1』が成り立つか否かを判定する(ステップS215)。
【0232】
ステップS215において「Yes」の場合、「k(第1の方法)」と「k(第2の方法)」と、がほぼ等しいと判定されるので、これらの値の平均を取り、その平均値をコンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」とする(ステップS216)。
【0233】
一方、ステップS215において「No」の場合、「k(第1の方法)」と「k(第2の方法)」と、が等しくないと判定されるので、「k(第2の方法)」をコンテナ11の前部から重心Wの位置までの長さ「k」とする(ステップS217)。
【0234】
なお、ここで、極大ピーク振幅の方が、極小ピーク振幅(負のピーク振幅;ボトム振幅)よりも明確に現れ易いという理由により、「k(第2の方法)」を選ぶ方が好ましいと考えられる。
【0235】
最後に、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心Wの位置を表す3つ値「l」、「s」、「k」を操作設定/表示部15cの表示画面に表示させ(ステップS218)、一連の3次元重心位置の検知ルーチンを終える。
【0236】
以上のとおり、本実施形態の重心検知装置100は、コンテナ貨物車両の走行時の自重方向の縦揺れ、および、コンテナ貨物車両の走行時の幅方向の横揺れを検知する揺動検知器14と、演算ユニット15と、を備える。
【0237】
そして、演算ユニット15は、揺動検知器14を用いて自重方向の縦揺れの周波数「ν’」およびコンテナ貨物車両の幅寸法「b」に対応する幅方向の横揺れの周波数「ν」を取得し、自重方向の縦揺れの周波数「ν’」、幅方向の横揺れの周波数「ν」、幅方向の横揺れの中心角度「α」、および、幅寸法「b」を用いて、走行体の走行方向に垂直な断面でのコンテナ貨物車両の自重方向の重心位置「l」および幅方向の重心位置「s」を演算する。
【0238】
また、演算ユニット15は、コンテナ貨物車両の幅寸法「b」とコンテナ貨物車両の横揺れの周波数「ν」との間の関係が定式化された演算式の係数「K」、「K」を、自重方向の重心位置「l」、幅方向の重心位置「s」、自重方向の縦揺れの周波数「ν’」、および、幅方向の横揺れの中心角度「α」を用いて導き、演算式の係数「K」、「K」を用い、この演算式において、幅寸法「b」をコンテナ貨物車両の走行方向の長さ「p」にした場合の走行方向の横揺れの周波数「ν前後」(推定値)を演算する。
【0239】
更に、演算ユニット15は、自重方向の縦揺れの周波数「ν’」、走行方向の横揺れの周波数「ν前後」(推定値)、自重方向の重心位置「l」、および、コンテナ貨物車両の走行方向の長さ「p」を用いて、コンテナ貨物車両の走行方向についての重心位置「k」を演算する。
【0240】
なお、ここで、上記演算式は、コンテナ貨物車両の幅寸法「b」を独立変数とし、コンテナ貨物車両の横揺れの周波数「ν」を従属変数として定式化された下記式(15)で表される。そして、演算ユニット15は、下記式(15)の独立変数にコンテナ貨物車両の走行方向の長さ「p」を代入することにより、コンテナ貨物車両の走行方向の横揺れの周波数「ν前後」を演算する。
【0241】
ν=Kb+K・・・(15)
ただし、係数「K」:自重方向の重心位置「l」、幅方向の重心位置「s」、自重方向の縦揺れの周波数「ν’」、および、幅方向の横揺れの中心角度「α」を変数として含み、係数「K」:自重方向の重心位置「l」、幅方向の重心位置「s」、および、幅方向の横揺れの中心角度「α」を変数として含んでいる。
【0242】
以上の構成により、本実施形態の重心検知装置100では、トレーラトラック50が走る路面が滑らかでも、コンテナ貨物車両の走行時における3次元重心位置を演算できる。また、トラック、バス、乗用車などの走行方向に車幅が一定の自動車についても、3次元重心位置を演算できる(後述の変形例参照)。
よって、本実施形態の重心検知装置100は、コンテナ貨物車両や自動車などの走行体の走行時における3次元重心位置を従来よりも普遍的に導くことができる。
(変形例)
本実施形態の重心検知装置100では、コンテナ貨物車両の3次元空間上の重心位置を演算する例を述べたが、本明細書に記載の重心検知装置の適用範囲は、これに限定されない。
【0243】
上述のとおり、本明細書に記載の技術は、コンテナ輸送車両(コンテナ貨物車両)の他、トラック、バス、乗用車、鉄道車両、船舶、航空機(例えば、離着陸時)などの様々な移動手段に適用できる。
【0244】
よって、本変形例では、乗用車の走行時の3次元重心位置を演算する場合の重心検知装置の構成例について概説する(図示は省略する)。
【0245】
また、本変形例では、鉄道車両の走行時の3次元重心位置を演算する場合の重心検知装置の構成例について概説し、この重心検知装置のよる鉄道車両の走行時の3次元重心位置の演算結果を例示する。
【0246】
まず、乗用車の走行時の3次元重心位置の演算について説明する。
【0247】
矩形状の乗用車の走行時の重心位置を演算する場合、トレーラトラック50の揺動検知器14とは異なり、角速度の感度軸が乗用車の幅方向に調整された極座標系の角速度センサと、加速度の感度軸が乗用車の上下方向に調整された直線座標系の加速度センサとを組み合わせる方が、前後方向の長さが短い矩形状の乗用車にとっては理論的に整合すると考えられる。そして、これらの角速度センサおよび加速度センサからなる揺動検知器を、乗用車の車体に直接に配し、乗用車を適宜の時間、路面上を走らせて、揺動検知器による角速度データおよび加速度データの計測を行うとよい。
【0248】
このとき、演算部(演算ユニット)は、記憶部に記憶された時系列の角速度データおよび加速度データに対し高速フーリエ変換(FFT)をかけて、角速度データおよび加速度データを、それぞれの周波数に対する振幅のデータに変換する。
【0249】
これにより、乗用車に関する「ローリング周波数/振幅分布」および「上下方向の加速度周波数/振幅分布」が得られる。
【0250】
但し、この場合の「ローリング周波数/振幅分布」では、乗用車の車幅が一定なので、FFTの分布は、異なる周波数のところで、二つのピーク振幅を示さず、ピーク振幅が一つとなる。
【0251】
以上により、「ローリング周波数/振幅分布」のピーク振幅に対応する周波数を、式(8)および式(9)でのローリング周波数「ν」とし、乗用車の車幅(乗用車の前後方向においてほぼ一定)を、式(8)および式(9)での長さ「b」とし、加速度周波数/振幅分布の最大振幅の対応する周波数を、式(8)および式(9)での周波数「ν’」とすれば、上記「第2の方法」に基づいた図10に示した動作フローを用いて、乗用車の走行時の3次元空間上の重心位置を演算できる。
【0252】
次に、鉄道車両の走行時の3次元重心位置の演算について説明する。
【0253】
図13は、本発明の変形例の重心検知装置による鉄道車両の走行時の3次元重心位置の演算結果を示した図である。
【0254】
矩形状の鉄道車両300の走行時の重心位置を演算する場合、トレーラトラック50の揺動検知器14とは異なり、角速度の感度軸が鉄道車両300の幅方向に調整された極座標系の角速度センサと、加速度の感度軸が鉄道車両300の上下方向に調整された直線座標系の加速度センサとを組み合わせる方が、矩形状の鉄道車両300にとっては理論的に整合すると考えられる。そして、これらの角速度センサおよび加速度センサからなる揺動検知器(図示せず)を、鉄道車両300の車体に直接に配し、鉄道車両300を適宜の時間、線路上を走らせて、揺動検知器による角速度データおよび加速度データの計測を行うとよい。
【0255】
このとき、演算部(演算ユニット;図示せず)は、記憶部に記憶された時系列の角速度データおよび加速度データに対し高速フーリエ変換(FFT)をかけて、角速度データおよび加速度データを、それぞれの周波数に対する振幅のデータに変換する。
【0256】
これにより、図13に示すように、鉄道車両300に関する「ローリング周波数/振幅分布」(図13(a)参照)および「上下方向の加速度周波数/振幅分布」(図13(b)参照)が得られる。
【0257】
但し、この場合の「ローリング周波数/振幅分布」では、図13(a)に示す如く、鉄道車両300の車幅が一定なので、FFTの分布は、異なる周波数のところで、二つのピーク振幅を示さず、ピーク振幅が一つとなる。つまり、本「ローリング周波数/振幅分布」は、図7の周波数「ν」が消滅している典型的な一例である。
【0258】
以上により、「ローリング周波数/振幅分布」(図13(a)参照)のピーク振幅に対応する周波数を、式(8)および式(9)でのローリング周波数「ν」とし、鉄道車両300の車幅(鉄道車両300の前後方向においてほぼ一定)を、式(8)および式(9)での長さ「b」とし、「上下方向の加速度周波数/振幅分布」(図13(b)参照)の最大振幅の対応する周波数を、式(8)および式(9)での周波数「ν’」とすれば、上記「第2の方法」に基づいた図10に示した動作フローを用いて、鉄道車両300の走行時の3次元空間上の重心位置を演算できる。
【0259】
つまり、図13(c)に示すように、鉄道車両300の前後方向(走行方向)に垂直な断面における鉄道車両300の重心Wの位置を特定することができる。また、図13(d)に示すように、鉄道車両300の走行方向(鉄道車両300の前後方向)についての鉄道車両300の重心Wの位置も特定することができる。
【実施例】
【0260】
以下、コンテナ貨物車両の前後方向のローリング「ν前後」の振幅のピークを、揺動検知器15によって実測困難であることを検証した結果を述べる。
【0261】
図12は、ローリング運動のピーク振幅が一つだけの場合の「ピッチング周波数/振幅分布」の一例を示した図である。
【0262】
図12に示すように、「ピッチング周波数/振幅分布」では、コンテナ貨物車両の上下方向の単振動に連動するピッチング「ν’」の振幅のピークのみが観測されている。そこで、上記「第2の方法」により、前後方向のローリング「ν前後」(推定値)を演算して、この推定演算値を図面上に表すと、図12に示す如く、ローリング「ν前後」の周波数が6Hz弱のところに位置することがわかった。
【0263】
以上により、トレーラトラック50の左右を軸とした固有の回転運動(横揺れ)の振幅のピーク、つまり、コンテナ貨物車両の前後方向のローリング「ν前後」の振幅のピークを、図12の「ピッチング周波数/振幅分布」により実測困難であることが検証された。
【0264】
そして、以上の検証結果によって、本実施形態の「第2の方法」による前後方向のローリング「ν前後」(推定値)の演算の有用性が明りょうに裏付けられた。
【0265】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0266】
本発明の重心検知装置によれば、走行体の走行時における3次元重心位置を従来よりも普遍的に導くことができる。
【0267】
よって、本発明は、コンテナ輸送車両(コンテナ貨物車両)、トラック、バス、乗用車、鉄道車両、船舶、航空機(例えば、離着陸時)など様々な移動手段の走行時の3次元重心位置の演算に利用できる。
【符号の説明】
【0268】
10 トラクタ
11 コンテナ
12 コンテナシャーシ
13 カプラ
14 揺動検知器
14a 角速度センサ
14b A/D変換器
15 演算ユニット
15a 演算部
15b 記憶部
15c 操作設定/表示部
50 トレーラトラック(コンテナ輸送車両)
100 重心検知装置
201 垂直中心ライン
202 車軸位置ライン
204 路面
205 サスペンション
206 ローリング中心ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13