【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
実施例1 本発明に係るCdebDNAウィルスプロモーターの分離
(1) 海産藻類に感染するウィルスのゲノムDNAの抽出
Tomaru,Y.ら,Aquatic Microbial Ecology,vol.50,pp.103-112(2008)に記載の方法に従って、中心目珪藻Chaetoceros debilisを宿主とするChaetoceros debilis DNAウィルス(CdebDNAV) CdebDNAV18株からゲノムを抽出した。
【0044】
具体的には、まず、ウィルス液(10mL)を0.22μmフィルター(MILLIPORE社製,Millex-GS,孔径:0.22μm)で濾過することにより、藻細胞の破片などを除いた。得られた濾液に40%ポリエチレングリコール6000溶液(Woko社製)を最終濃度が10w/v%となるように加え、4℃にて一晩静置した。当該液を遠心分離用チューブ(Nalgen社製,UltraBottle Assemblies)に移し、超遠心分離機(BECKMAN社製,Ultracentrifuge L8-70M)を用いて57,000×g、4℃で1.5時間遠心分離した後、その上清を除いた。得られた沈殿にリン酸緩衝液(10mMリン酸二水素ナトリウム,10mMリン酸水素ナトリウム,pH7.2,5mL)を加え混合することによりウィルス粒子を洗浄した。再度、217,000×g、4℃で4時間遠心分離し、同様に上清を除いた後、得られた沈殿を滅菌した精製水(Millipore社製,milliQ(登録商標),300μL)に溶解した。当該溶液を1.5mL容エッペンドルフチューブに移し、プロテイナーゼKと10%サルコシルを、それぞれ最終濃度が1mg/mLおよび1w/v%となるように加え、55℃にて1.5時間インキュベートした。その後、常法を用いてフェノール/クロロホルム処理とクロロホルム処理を行い、得られた上清に、その10分1量の3M酢酸ナトリウム(pH4.8)を加え、さらにその2.5倍量のエタノールを加えた。当該溶液を−80℃にて1時間静置した。その後、微量高速遠心機(KUBOTA社製,KUBOTA3740)を用いて14,000rpm、4℃で10分間遠心分離を行い、得られた沈殿を70%エタノールで洗浄した後、乾燥させた。これを滅菌milliQ水(20μL)に溶解してDNA溶液を得た。さらに、上記文献(Tomaru,Y.ら(2008))に記載のCetyl trimethyl ammonium bromide法(CTAB法)を用いて精製した。まず、上記DNA溶液にTEバッファー(10mM Tris−HCl(pH8.0),1mM EDTA(pH8.0))を加え、その全量を200μLにした。当該DNA溶液にCTAB溶液(1.6M NaCl,0.1M EDTA,2w/v%CTAB,200μL)を加え、65℃にて1時間インキュベートした。当該溶液にクロロホルム(400μL)を加え、5分間振とう攪拌した後、前述した微量高速遠心機を用いて14,000rpm、4℃で10分間遠心分離した。当該溶液に2倍量のエタノールを加え、−80℃にて1時間静置した。その後、同微量高速遠心機を用いて14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、得られた沈殿を70%エタノールにより洗浄した後、乾燥させた。当該沈殿を滅菌milliQ水(300μL)に溶解し、DNA溶液とした。
【0045】
(2) CdebDNAウィルスプロモーターの分離
上記(1)で得たCdebDNAウィルスのゲノムDNAの配列情報を、Blast(DDBJ)を用いてデータベースと比較し、さらにORF finder(NCBI)を用いて、CdebDNAウィルスDNAに含まれるORFを検索し、ウィルスの複製に関係すると考えられるタンパク質をコードする領域を検出した。この配列中の翻訳開始点と思われるATG配列の上流+107から−370の領域を、CdP1L/attB1プライマー(配列番号2)およびCdP1−2R/attB4プライマー(配列番号3)を用いたPCR反応により増幅させた。なお、配列番号2における5〜31の塩基配列および配列番号3における5〜29の塩基配列は、後述するプラスミドの構築のためのBPクロナーゼ反応に必要なattB配列を示す。また、得られたCdebDNAウィルスプロモーターの塩基配列を配列番号1に示す。なお、配列番号1に示されているATGは開始コドンであり、プロモーターには含まれない。
【0046】
PCR反応の条件を以下に示す。PCR反応液として、10×バッファー(TaKaRa社製,5μL)、dNTP Mix(TaKaRa社製,4μL)、Ex Taq(TaKaRa社製,0.25μL,5U/μL)、CdebDNAウィルスのゲノムDNA(1μL)、および2種のプライマー(10pmol/μL,各5μL)を混合し、最後に滅菌milliQ水を全量が50μLとなるように添加混合した。次いで、98.0℃で10秒間、45.0℃で30秒間、72.0℃で60秒間のサイクルを40回繰り返し、最後に72.0℃で5分間反応させた。
【0047】
フラグメントの増幅を確認するために電気泳動を行った。電気泳動には、TAEバッファー(トリス酢酸緩衝液)と、アガロースS(ニッポンジーン社製)1.5%ゲルを用いた。電気泳動用試料として、PCR産物各9μLに10×ローディングバッファー(TaKaRa社製)を1μLずつ添加し、混合したものを用いた。また、DNA分子量マーカーとして100bpラダー(TOYOBO社製,コードNo.DNA−030X,2μL)を用い、同時に泳動した。また、Mupid電気泳動槽(ADVANCE社製)を用い、100Vの条件下で約30分間泳動した。泳動終了後、臭化エチヂウムを用い、定法(Sambrook and Russell 2001)により染色し、紫外線照射下で写真撮影を行った。
【0048】
実施例2 本発明に係るCdebDNAウィルスプロモーターを含むベクターの調製
(1) 各エントリークローンプラスミドの調製
上記実施例1で得たCdebDNAウィルスプロモーター、導入遺伝子としてゼオシン耐性遺伝子(ble)(Drocourt,D.ら,Nucleic Acids Research,18,p.4009(1990))、およびCylindrotheca fusiformisのfcpターミネーター(Poulsen,N.ら,FEBS Journal,272,pp.3413-3423(2005))がそれぞれ導入されたエントリークローンプラスミドベクターを、Multisite Gateway(登録商標) Pro Kit(invitrogen社製)を用いて調製した。
【0049】
詳しくは、プラスミドの構築のためのクロナーゼ反応に必要なattB配列を有する、上記実施例1で得たCdebDNAウィルスプロモーター溶液を、30%PEG8000/30mM塩化マグネシウム溶液(invitrogen社製)で精製した。即ち、CdebDNAウィルスプロモーター溶液(25μL)に、滅菌milliQ水(75μL)を加えて100μLの溶液とした。当該溶液に30%PEG8000/30mM塩化マグネシウム溶液(50μL)を加えて混合し、微量高速遠心分離機(KUBOTA社製,KUBOTA3740)を用いて14,000rpmで15分間遠心分離した。その後、上清を取り除き、得られた沈殿を滅菌milliQ水(10μL)に溶解した。次に、当該溶液(50fmoles)とドナーベクター(invitrogen社製,pDONR221 P1−P4,100ng/μL)を混合し、当該溶液へ滅菌milliQ水を加えることにより計8μLの混合液とした。なお、当該ドナーベクターは、プラスミドの構築のためのBPクロナーゼ反応に必要なattP配列を有する。当該混合液へ、さらにBPクロナーゼ(商標)II Enzyme Mix(invitrogen社製,2μL)を加えて混合し、25℃で1時間反応させた。その後、反応液にプロテイナーゼK(invitrogen社製,1μL)を加え、37℃で10分間処理した。当該反応液(2.5μL)を、One Shot(登録商標)Mach1(登録商標)T1
R chemically competent cells (invitrogen社製,25μL)に混合し、氷上にて30分間静置した。その後、42℃にて30秒間ヒートショック処理を行い、直ちに氷上に移し、2分間静置した。次いで、SOC(invitrogen社製,250mL)を加え、37℃にて1.5時間振とう培養した。培養した菌液(275μL)を、50μg/mLカナマイシンを含むLB寒天培地(1%トリプトン,0.5%イーストエクストラクト,1%NaCl,1.5%アガー)に塗抹した。当該培地をマルチシェーカーオーブン(タイテック社製)内で37℃にて一晩(10時間程度)倒置培養した。得られたコロニーは、白金耳を用いてLB液体培地(10mL)に植菌し、37℃にて一晩振とう培養した。当該培養液(3mL)より、Pure Yield Plasmid Miniprep System(Promega社製)を用いて、LRクロナーゼ反応に必要なattL配列を有するCdebDNAウィルスプロモーターが導入されたエントリークローンプラスミドを抽出した。
【0050】
また、プラスミドの構築のためのBPクロナーゼ反応に必要なattB配列を有するゼオシン耐性遺伝子(ble)を上記実施例1と同様に増幅し、上記と同様にしてBPクロナーゼ反応に必要なattP配列を有するドナーベクターであるpDONR221 P4r−P3rへ導入し、LRクロナーゼ反応に必要なattL配列を有する抗生物質耐性遺伝子が導入されたエントリークローンプラスミドを得た。
【0051】
さらに、プラスミドの構築のためのBPクロナーゼ反応に必要なattB配列を有するCylindrotheca fusiformisのfcpターミネーターを上記実施例1と同様に増幅し、上記と同様にしてBPクロナーゼ反応に必要なattP配列を有するドナーベクターであるpDONR221 P3−P2へ導入し、LRクロナーゼ反応に必要なattL配列を有するターミネーターが導入されたエントリークローンプラスミドを得た。
【0052】
(2) ディスティネーションプラスミドの調製
Gateway(登録商標) Vector Conversion System with One Shot(登録商標) ccdB Survival(登録商標) Competent Cells(invitrogen社製)を用いて、pBluescript SK-(Stratagene社製)へLRクロナーゼ反応に必要なattR配列を持つReading Frame Casetteを組み込むことにより、ディスティネーションプラスミドを調製した。
【0053】
まず、pBluescript SK-(2μg)に対し、制限酵素EcoRI 20U(TOYOBO社製,10U/μL)を用いて、37℃にて3時間消化した。当該反応液へ常法に従ってエタノールを添加することにより、DNAを沈殿させて回収した。次に、T4DNAポリメラーゼを用いて末端を平滑化した。即ち、回収したDNAへ、10×バッファー(5μL)、2.5mM dNTP(TAKARA社製,2μL)、T4DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製,0.5U/μL,1μL)および滅菌milliQ水(42μL)を加え、計50μLとなるように反応液を調製した。この反応液を12℃にて15分間インキュベートした。この反応液に滅菌milliQ水(350μL)を直ちに加え、常法に従ってフェノール/クロロホルム処理とクロロホルム処理をした後、続いてエタノール沈殿を行ってDNAを回収した。次に、制限酵素にて切断したプラスミドの再環状化を防ぐために、CIAP(TaKaRa社製,Calf intestine Alkaline Phosphatase)を用いて、その切断断片の5’末端の脱リン酸処理を行った。平滑化処理を施したDNAに10×CIAPバッファー(5μL)とCIAP(0.1U/μL,1μL)を加え、滅菌milliQ水により計50μLになるように反応液を調製した。当該反応液を37℃にて15分間、続いて56℃にて15分間インキュベートした後、CIAP(0.1U/μL,1μL)を再び加え、37℃にて15分間、続いて56℃にて15分間インキュベートした。当該反応液に、10%SDS溶液(2.5μL)、500mM EDTA溶液(0.5μL)、プロテイナーゼK溶液(20mg/μL,0.5μL)をそれぞれ加えた後、56℃にて30分間、続いて75℃にて10分間インキュベートした。その後、常法に従ってフェノール/クロロホルム処理とクロロホルム処理を施した。次に、エタノール沈殿によりDNAを回収し、滅菌milliQ水(10μL)に溶解した。
【0054】
得られた平滑末端を有するpBluescript SK-と、Reading Frame Casette A(invitrogen社製,RfA)とを混合し、pGEM-T Vector Systems Kit(Promega社製)添付のT4 DNAリガーゼを用いて連結した。まず、オートクレーブ滅菌した0.2mL容のPCR用チューブに、2×ラピッドライゲーションバッファー(Promega社製,5μL)、pBluescript SK-(100ng/μL,0.5μL)、RfA(5ng/μL,2μL)、T4 DNAリガーゼ(Promega社製,3U/μL,1μL)および滅菌milliQ水(1.5μL)を加え、計10μLとなるように反応液を調製した。この反応液を室温にて1時間保存し、4℃にて一晩(16時間以上)インキュベートした。このライゲーション溶液(5μL)をccdB Survival Competent Cells (invitrogen社製,50μL)に混合し、氷上にて30分間静置した。その後、42℃にて30秒間ヒートショック処理を行い、直ちに氷上に移し、2分間静置した。次いでSOC(250mL)を加え、37℃にて1.5時間振とう培養した。培養した菌液(300μL)を、25μg/mLクロラムフェニコールおよび50μg/mLアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹した。当該培地をマルチシェーカーオーブン内で37℃にて一晩倒置培養した。
【0055】
得られたコロニーは、白金耳を用いてLB培地(10mL)に植菌し、37℃にて一晩振とう培養した。当該培養液(3mL)より、Pure Yield Plasmid Miniprep System (Promega社製)を用いて、ディスティネーションプラスミドを抽出した。
【0056】
(3) エクスプレッションクローンプラスミドベクターの調製
Multisite Gateway Pro Kit(invitrogen社製)を用い、上記実施例2(1)で得たエントリークローンプラスミドと、上記実施例2(2)で得たディスティネーションプラスミドとの間でLRクロナーゼ反応を行うことにより、プロモーター、抗生物質耐性遺伝子およびターミネーターが連結されたエクスプレッションクローンプラスミドベクターを調製した。
【0057】
具体的には、プロモーター、抗生物質耐性遺伝子、ターミネーターがそれぞれ組み込まれた3種のエントリークローンプラスミド(それぞれ10fmoles)とディスティネーションベクター(20fmoles)を混合し、さらに滅菌milliQ水を加えることにより計8μLの混合液を調製した。当該液にLR Clonase II PLUS Enzyme Mix(invitrogen社製,2μL)を加えて混合し、25℃にて16時間を反応させた。その後、当該反応液にプロテイナーゼK(invitrogen社製,1μL)を加え、37℃にて10分間処理した。当該反応液(2.5μL)を、One Shot(登録商標) Mach1(登録商標) T1
R chemically competent cells (invitrogen社製,25μL)に混合し、氷上にて30分間静置した。次いで42℃にて30秒間ヒートショック処理を行い、直ちに氷上に移して2分間静置した。その後、SOC(250mL)を加え、37℃にて1.5時間振とう培養した。培養した菌液(275μL)を、50μg/mLアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹した。当該培地をマルチシェーカーオーブン内で37℃にて一晩倒置培養した。得られたコロニーを、白金耳を用いてLB培地(10mL)に植菌し、37℃にて一晩振とう培養した。当該培養液(3mL)より、Pure Yield Plasmid Miniprep System(Promega社製)を用いてエクスプレッションクローンプラスミドベクターを抽出した。
【0058】
(4) DNA配列の確認
目的とするエクスプレッションクローンプラスミドベクターが作製されたことを確認するために、Dideoxy法を用いて塩基配列を決定した。
【0059】
上記実施例2(3)にて調製したエクスプレッションクローンプラスミドベクター(200ng)を鋳型として用いて、サイクルシークエンシングPCRを行った。その反応条件を以下に示す。反応液(10μL)は、鋳型DNA(100ng/μL,2μL)、Big Dye Terminator Cycle Sequencing ver.3.1(Applied Biosystems社製,0.5μL)、5×シークエンシングバッファー(2μL)、プライマー(1.6pmol/μL,0.66μL)、滅菌蒸留水(4.84μL)からなる。プライマーは、M13M3プライマー(配列番号4)を用いた。反応条件としては、95℃で5分間加熱した後、96℃で10秒、50℃で5秒、60℃で4分の反応を40サイクル行った。反応後、反応液を1.5mL容のエッペンドルフチューブに移し、3M酢酸ナトリウム(1μL)、99.5%エタノール(25μL)および125mM EDTA溶液(1μL)を加え、指ではじきよく混合させた後、15分間室温で放置した。14,000rpm、4℃で20分間遠心分離後、上清をイエローチップで丁寧に除き、70%エタノール(35μL)を加え、よく混合した。再び、14,000rpm、4℃で10分間遠心分離した後、上清をイエローチップで完全に取り除き、蓋を開けたまま室温で10分間放置して沈殿を乾燥させた。
【0060】
乾燥させたペレットにホルムアミド(Applied Biosystems社製,10μL)を加え、高知大学総合研究センター遺伝子実験施設内のABI PRISM(登録商標)3100-Avant Genetic Analyzer (Applied Biosystems社製)を用いて解析した。あらかじめ、遺伝子解析ソフト Vector NTI Advance Ver10.0(invitrogen社製,http://www.invitrogen.com/vntigateway)を用いて、ディスティネーションプラスミドの塩基配列に、プロモーター、抗生物質耐性遺伝子およびターミネーターの塩基配列を組み込むことにより、エクスプレッションクローンプラスミドベクターの塩基配列を作成した。次に、このコンピューター上にて作成したエクスプレッションクローンプラスミドベクターの塩基配列と、上記の方法により実験的に決定したエクスプレッションクローンプラスミドベクターの塩基配列とを、Vector NTI Advance Ver10.0のAlignXを用いてアライメントを行うことにより比較することにより、上記実施例2(3)で調製したエクスプレッションクローンプラスミドベクターに目的遺伝子が導入されていることを確認した。
【0061】
得られたエクスプレッションクローンプラスミドベクターの構造を
図1に示す。
【0062】
実施例3 本発明に係るCdebDNAウィルスプロモーターを含むベクターの調製
抗生物質耐性遺伝子としてノールセオスリシン耐性遺伝子(nat)(Krugelら,1993年)を用い、ターミネーターとしてThalassiosira pseudonana由来のfcpターミネーター(Poulsen,N.ら,Journal of Phycology,42,pp.1059-1065(2006))を用い、上記実施例2と同様にCdebDNAウィルスプロモーターを含むベクターを調製した。
【0063】
得られたエクスプレッションクローンプラスミドベクターの構造を
図2に示す。
【0064】
比較例1〜4 従来ウィルスプロモーターを含むベクターの調製
上記実施例2と同様にして、羽状目珪藻の内在性プロモーターを有し、また、抗生物質耐性遺伝子としてゼオシン耐性遺伝子(ble)とターミネーターとしてCylindrotheca fusiformisのfcpターミネーターが導入されたプラスミドベクター(比較例1)、および、中心目珪藻の内在性プロモーターを有し、また、抗生物質耐性遺伝子としてノールセオスリシン耐性遺伝子(nat)とターミネーターとしてThalassiosira pseudonana由来のfcpターミネーターが導入されたプラスミドベクター(比較例2)を調製した。
【0065】
また、上記実施例2と同様にして、カリフラワーモザイクウィルス由来のプロモーター(CaMVプロモーター)を有し、また、抗生物質耐性遺伝子としてゼオシン耐性遺伝子(ble)とターミネーターとしてCylindrotheca fusiformisのfcpターミネーターが導入されたプラスミドベクター(比較例3)、および、抗生物質耐性遺伝子としてノールセオスリシン耐性遺伝子(nat)とターミネーターとしてThalassiosira pseudonana由来のfcpターミネーターが導入されたプラスミドベクター(比較例4)を調製した。
【0066】
実施例4 羽状目珪藻の形質転換
上記実施例2、上記比較例1および上記比較例3のプラスミドベクターを用い、羽状目珪藻Phaeodactylum tricornutumを形質転換した。
【0067】
具体的には、各プラスミドベクターを平均粒子径1.1μmのタングステン粒子M17に付着させた。別途、羽状目珪藻P.tricornutumを1プレートあたり5×10
7cellsを固相培地に塗抹した。パーティグルガン(Bio−Rad社製,Biolistic PDS-1000/He Particle Delivery System)を用い、上記タングステン粒子を、Heガス圧1350psiまたは1100psiで細胞に打ち込んだ。次いで、ゼオシン150μg/mLを含む1.0%寒天f/2培地にて当該細胞を培養した。結果を表1に示す。
【0068】
また、上記抗生物質含有培地で生育した細胞のコロニーが形質転換していることを、PCRにて確認した。生育した細胞のコロニーを100mLの培地を用いて培養し、藻類細胞を回収した後、上記実施例1(1)と同様の方法によりゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAを鋳型とし、導入した抗生物質遺伝子(ble)に特異的なプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応の条件は、基本的には上記実施例1(2)と同様とし、サイクル数は40サイクル、アニーリング温度は60℃とした。得られた増幅DNAを分析した電気泳動写真を
図3に示す。
【0069】
図3中、「M」は分子量マーカーであり、「1」は抗生物質遺伝子(ble)が導入されたプラスミドベクターのレーン、「2」はP.tricornutum野生株のレーン、「3〜5」はカリフラワーモザイクウィルス由来のプロモーターと抗生物質遺伝子(ble)を含むプラスミドベクターで形質転換した株のレーン、「6〜8」は本発明に係るプロモーターと抗生物質遺伝子(ble)を含むプラスミドベクターで形質転換した株のレーンである。
【0070】
実施例5 中心目珪藻の形質転換
上記実施例3、上記比較例2および上記比較例4のプラスミドベクターを用い、上記実施例4と同様にして、中心目珪藻Chaetoceros sp.を形質転換した。ただし、細胞を培養する培地には、500μg/mLノールセオスリシンを添加した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
また、上記抗生物質含有培地で生育した細胞のコロニーが形質転換していることを、上記実施例4と同様にしてPCRにて確認した。得られた増幅DNAを分析した電気泳動写真を
図4に示す。
【0073】
図4中、「M」は分子量マーカーであり、「1」は抗生物質遺伝子(nat)が導入されたプラスミドベクターのレーン、「2」はChaetoceros sp.野生株のレーン、「3〜4」は本発明に係るプロモーターと抗生物質遺伝子(nat)を含むプラスミドベクターで形質転換した株のレーンである。
【0074】
実施例6 本発明に係るプロモーターのCore element領域の特定
配列番号3のプライマーに加え、配列番号6〜9のプライマーを用いた以外は上記実施例1と同様にして、CdebDNAウィルスの複製に関係すると考えられるタンパク質をコードする領域の翻訳開始点の上流部位である+107から、−72、−32、−2および+34までの塩基のDNA断片を、それぞれ増幅した。これらのエントリークローンと、上記実施例3において調製したノールセオスリシン耐性遺伝子(nat)を含むエントリークローンおよびThalassiosira pseudonana由来のfcpターミネーターを含むエントリークローンを用い、上記実施例2と同様にして、上記各エントリークローン、natおよびfcpターミネーターを連結したプラスミドを調製した。これらプラスミドは、
図2と同様の構造を有する。これらプラスミドに加え、比較例2のプラスミドと、プロモーターを連結していないプラスミド(pNat/TpfcpTer)を用い、上記実施例4と同様の方法により形質転換を行った。結果を
図5に示す。
【0075】
図5のとおり、上記複製タンパク質遺伝子の翻訳開始点の上流部位における+107から−370までの塩基配列(配列番号1)および+107から−72までの塩基配列をプロモーターとして用いた場合には形質転換できた一方で、+107から−32、−2および+34までの塩基配列をプロモーターとして用いた場合には、形質転換できなかった。かかる結果により、藻類の形質転換に有用なCore elementは、上記複製タンパク質遺伝子の翻訳開始点の上流部位における−72から−33の間の配列(配列番号5)に存在している可能性が高いと結論付けられた。なお、形質転換が偶然起こっている可能性もあるため、プロモーターを有しないプラスミドでも同様の実験を行ったが、形質転換率は無視できる程度のものであった。また、中心目のプロモーターを用いて同様の実験を行ったところ、本発明プロモーターを用いた場合の方が、形質転換効率は明らかに高かった。
【0076】
実施例7 本発明プロモーターによる様々な海産藻類の形質転換
本発明のプロモーターが、様々な珪藻種に対して適用か否か確認するために、上記実施例と異なる羽状目珪藻であるC. fusiformisを用いて形質転換を行った。CdebDNAウィルスの複製に関係すると考えられるタンパク質をコードする領域の翻訳開始点の上流部位である+107から−72までの塩基に加え、ゼオシン耐性遺伝子(ble)と、C. fusiformisのfcp遺伝子由来のターミネーターを組み込んだプラスミド(
図6)を用いた。上記実施例4と同様に、プラスミドをタングステン粒子に固定化し、形質転換を行った。対照として、上記プロモーターを組み込まない以外は同様のプラスミド(pBle/CffcpTer)を用い、同様の実験を行った。本発明プロモーターを組み込んだプラスミドを用いた場合の珪藻の写真を
図7(1)に、本発明プロモーターを組み込んでいないプラスミドを用いた場合の珪藻の写真を
図7(2)に示す。
【0077】
図7(2)のとおり、本発明プロモーターを組み込んでいない場合、おそらく形質転換されていないため、抗生物質により珪藻は死滅してしまった。それに対して本発明プロモーターを用いた場合、
図7(1)のとおり、珪藻は形質転換されて抗生物質耐性を獲得したため、良好に生存している。このように上記実施例で用いた以外の珪藻も、本発明プロモーターを用いれば、形質転換が可能であることが明らかとなった。
【0078】
実験結果の考察
(1) 形質転換能について
上記実施例4〜5の結果のとおり、羽状目珪藻の内在性プロモーターを用いた場合には、羽状目珪藻は良好に形質転換できる一方で、中心目珪藻は全く形質転換できなかった。植物一般の形質転換によく用いられるカリフラワーモザイクウィルスプロモータの場合でも同様であり、羽状目珪藻は形質転換できたが、中心目珪藻は全く形質転換できていない。
【0079】
それに対して、本発明に係るプロモーターを用いた場合には、羽状目珪藻についてはP. tricornutumとC. fusiformisの2種、中心目についてはChaetoceros sp.を形質転換することができた。これら3種の珪藻は、珪藻綱全体の分子系統樹において、それぞれの目の中でも系統的に離れた分類群に属するものである。よって、これらの種に適用可能な本発明プロモーターは、様々な珪藻に適用可能と考えられる。
【0080】
以上の結果により、珪藻は羽状目珪藻と中心目珪藻に大きく分類されるところ、従来のプロモーターの特異性が高いのに対して、本発明に係るプロモーターは特異性が低く、様々な珪藻の効率的な形質転換に幅広く用いられ得ることが示された。
【0081】
(2) 本発明プロモーターの塩基配列について
一般的に、真核生物のプロモーター領域には、転写を開始させる転写結合因子が結合するコアプロモーター領域と、その上流に位置する遺伝子転写調節領域が存在する。ウィルスプロモーターにおいても同様に、TATAボックス(5’−TATAWAW−3’(式中、WはAまたはTを表す))やイニシエーターエレメント(Inr)といった真核生物のコアプロモーター領域によく見られるモチーフ配列が存在することが知られている。このことを踏まえ、本発明に係る配列番号1のプロモーターの塩基配列をPLACE Signal Scan Search(http://www.dna.affrc.go.jp/PLACE/)を用いて解析し、比較した。
【0082】
その結果、本発明プロモーターにTATAボックスは見られなかったが、上流領域にCAATボックスIである5’−CAAT−3’(−97〜−94)、GATAボックスである5’−WGATAR−3’(−162〜−167)、さらにイニシエーターエレメントであると考えられる5’−CCA
+1TACC−3’(−2〜+5)を見出した。
【0083】
このイニシエーターエレメントは、哺乳類の5’−YYA
+1NWYY−3’(Javahery,R.ら,Molecular and Cellular Biology,14,pp.116-127(1994))、卵菌類の5’−YCA
+1TTYY−3’(Mcleod,Aら,Eukaryotic Cell,3,pp.91-99(2004))、ショウジョウバエの5’−TCA
+1KTY−3’(式中、KはGまたはTを表す)(Purnell,B.A.ら,Genes & Development,8,pp.830-842(1994))、 トリコモナスの5’−TCA
+1YW−3’(Liston,D.R.ら,Molecular and Cellular Biology,19,pp.2380-2388(1999))、およびC. fusiformisのプロモーターであるfcpA−1A中の5’−CCA
+1TTCC−3’(Poulsen,N.ら,FEBS Journal,272,pp.3413-3423(2005))というInr配列に類似している。
【0084】
これら情報からは、配列番号1のプロモーター中に見出されたイニシエーターエレメントが、Core elementとして羽状目珪藻と中心目珪藻の両方に働き、形質転換できたとも考えられる。しかし、当該イニシエーターエレメントに類似するC. fusiformisのプロモーターであるfcpA−1Aを用いても、中心目珪藻を形質転換することはできない。
【0085】
よって、本発明に係るポリヌクレオチド(1)が高い形質転換能を示すのは、少なくともTATAボックスやイニシエーターエレメントなどのためではなく、全く未知の配列がCore elementとして働いている可能性が高い。
【0086】
(3) 本発明プロモーターのCore elementについて
上記実施例6の結果により、本発明プロモーターのCore elementは、CdebDNAウィルスの複製に関係すると考えられるタンパク質をコードする領域の−72から−33の間の配列(配列番号5)に存在している可能性が高いと考えられる。配列番号5の配列は、当該複製タンパク質遺伝子の上流域に位置するイニシエーターエレメントのおよそ30から70塩基上流側に位置していることから、当該イニシエーターエレメントがCore elementとして機能したとは考え難い。当該配列番号5の配列番号をPLACE Signal Scan Search(http://www.dna.affrc.go.jp/PLACE/)で解析したが、既知のモチーフ配列を見出すことはできなかった。よって、本発明プロモーターのCore elementは、これまで知られていない新規なものであると考えられる。
【0087】
上記の実験結果のとおり、本発明プロモーターを用いれば目を超えて珪藻類を形質転換可能である理由として、配列番号5の配列に含まれる新規な配列がCore elementとして機能したと考えられる。