(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明による地すべり観測システムの実施形態を示す概略断面図である。本発明による地すべり検出装置10を地中に埋設するため、ボーリング等による削孔を行い、地すべり検出装置10を地上から挿入して所定の深度に固定する。地すべり検出装置10の固定および孔の充填には、セメントベントナイト等のグラウトを使用する。地すべり検出装置10で測定されたデータは無線で地上に伝送され、地上に配置されたデータ記録器(データ受信装置)1で受信される。無線によるデータ伝送は、10kHz未満の低周波磁界を利用するのが好ましいが、これに限定しない。
【0014】
図1において、地すべり観測システムは、地すべりの移動方向、地すべり量を計測してこれらの計測データを外部に無線送信する地すべり検出装置10と、地すべり検出装置10から送信された信号を受信するデータ記録器(データ受信装置)1と、を備えている。地すべり検出装置10は地すべりを観測しようとする地中に埋設され、受信装置1は地上に設置される。
【0015】
地すべり検出装置10は、検出に必要な要素を円筒型筐体の内外に設置してなり、円筒型筐体は地すべり等により動く地すべり土塊Cと動かない基礎地盤Gの両方にわたるように埋設される。つまり、円筒型筐体の埋設に際し、ボーリング等により地すべり等により動く地すべり土塊Cと動かない基礎地盤Gとの境界面Sを見出しておき、円筒型筐体は、その中間部が上記境界面Sに位置するように埋設される。そこで、地すべり検出装置10において上記境界面Sよりも上側の検出部分を上地すべり検出部と呼び、上記境界面Sよりも下側の検出部分を下地すべり検出部と呼ぶようにしても良い。また、上記境界面Sより上側の地中をすべり面以浅部、上記境界面Sより下側の地中をすべり面以深部と呼ぶことができる。
【0016】
図2をも参照して、地すべり検出装置10は、長軸方向を地中の深さ方向に向けて埋設される円筒型筐体11を有する。地すべり検出装置10は、地すべりの移動方向を検出する手段として以下の構成を有する。円筒型筐体11の外周面に、周方向であってしかも4段にわたって複数のひずみ計20a,20b,20c,20dが貼付されている。円筒型筐体10の長軸方向中間部(つまり上記境界面Sに対応する部分)よりも上方となる内部には、長軸方向中間部よりも上側のひずみ計20a,20bに接続され、各ひずみ計からの出力を処理して地すべりの方向を検出する上地すべり検出器30aが設置されている。一方、円筒型筐体10の長軸方向中間部よりも下方の内部には、長軸方向中間部よりも下側のひずみ計20c,20dに接続され、各ひずみ計からの出力を処理して地すべりの方向を検出する下地すべり検出器30cが設置されている。上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30cの設置スペースを封止スペースとするために、円筒型筐体11内の上部、下部にそれぞれ上隔壁13、下隔壁15が設置されている。後で詳しく説明するが、上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30cはそれぞれ、検出した地すべりの方向を示す情報を無線で地上に送信する機能を持つ。上側のひずみ計20a、20b、上地すべり検出器30aはそれぞれ、上地すべり検出手段、上データ出力部と呼ぶことができ、下側のひずみ計20c、20dは後述される地すべり量検出器25における変位計26やワイヤ27と共に下地すべり検出手段と呼ぶことができる。一方、下地すべり検出器30cは、後述される計測部40と共に下データ出力部と呼ぶことができる。
【0017】
地すべり検出装置10はまた、円筒型筐体11内に地すべり量検出器25を内蔵している。地すべり量検出器25は、一端27aを上隔壁13に固定したワイヤ27、ワイヤ27の他端が接続されその引き出し量を伸び量として検出する変位計26、変位計26で検出された伸び量を示す情報を無線で地上に送信する計測部40を有する。ワイヤ27は、上隔壁13と下隔壁15に設けられた変位計26との間に一定の張力を持つように張られている。
【0018】
上地すべり検出器30aの封止スペース内には、上地すべり検出器30aに動作電力を供給するための上バッテリ50aが内蔵され、下地すべり検出器30cの封止スペース内には、下地すべり検出器30c、計測部40に動作電力を供給するための下バッテリ50cが内蔵されている。なお、上バッテリ50a、下バッテリ50cはそれぞれ、便宜上、上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30cの外に配置しているが、上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30cに含まれるようにしても良い。
【0019】
円筒型筐体11は、例えば、塩化ビニールパイプ等で形成され、その長軸方向の両端は塞がれている。地すべり検出装置10の地すべり想定位置17は、円筒型筐体11を地中に埋設した時、基礎地盤Gとその上の地すべり土塊Cとの境界面Sに対応する、円筒型筐体11の長軸方向の中間部位置である。
【0020】
円筒型筐体11の一方の端部側、つまり、これを埋設した時の上側の端部には、上隔壁13により、上地すべり検出器30aや上バッテリ50aを収容した上封止スペース12が形成され、円筒型筐体11の他方の端部側、つまり、これを埋設した時の下側の端部には、下隔壁15により、下地すべり検出器30cや計測部40、下バッテリ50cを収容した下封止スペース14が形成されている。上封止スペース12と下封止スペース14との間には、地すべり量検出器25のワイヤ27を張るための検出スペース16が形成されている。
【0021】
複数のひずみ計20a,20b,20c,20dとしては、円筒型筐体11の上封止スベース12よりも下側であって地すべり想定位置17よりも上側の外周面に周方向に等間隔をおいて貼り付けられた複数のひずみ計20aと、その下側であって地すべり装置位置17よりも上側の外周面に周方向に等間隔をおいて貼り付けられた複数のひずみ計20bと、地すべり想定位置17よりも下側の外周面に周方向に等間隔をおいて貼り付けられた複数のひずみ計20cと、さらにその下側であって下封止スペース14よりも上側の外周面に周方向に等間隔をおいて貼り付けられた複数のひずみ計20dがある。ここで、最も上側の複数のひずみ計20aを上グループAのひずみ計とし、その下側の複数のひずみ計20bを上グループBのひずみ計とし、さらにその下側の複数のひずみ計20cを下グループCのひずみ計とし、最も下側の複数のひずみ計20dを下グループDのひずみ計と呼ぶ。なお、以下の説明において、ひずみ計のグループを限定する必要がない場合には、便宜上、ひずみ計の符号を20とすることがある。
【0022】
各グループのひずみ計は、
図3に示すように、いずれも周方向に等間隔で配置された8個のひずみ計で構成されている。円筒型筐体llの外周面の周方向の位置のうち、特定の周方向の位置は、基準位置18として設定されている。本実施形態において、基準位置18は、円筒型筐体11の外周面の周方向の位置のうち、円筒型筐体11を地中に埋設する際、例えば、「北」側を向く位置である。8個のひずみ計のうち1個は、円筒型筐体11の外周面の基準位置18に貼り付けられている。残りの7個のひずみ計は、円筒型筐体11の外周面上に、基準位置18から周方向に等間隔で並べて貼り付けられている。本実施形態では、基準位置18に貼り付けたひずみ計20の番号を1とし、この基準位置18から時計回りに順に、各ひずみ計の番号を2、3、4、・・・、8として、各ひずみ計20を管理するようにしている。各ひずみ計は、いずれも1軸ストレインゲージであり、その検知軸が円筒型筐体11の長軸方向と平行になるよう、円筒型筐体11に貼り付けられている。
【0023】
前述したように、地すべり量検出器25は、ワイヤ27、ワイヤ27の他方の端部が取付けられている変位計26を有している。変位計26は円筒型筐体11の下封止スペース14側の下隔壁15に固定され、そこから上封止スペース12側に延びているワイヤ27の一端が上封止スペース12側の上隔壁13に固定されていることにより、変位計26に対する、ワイヤ27端部の相対変位量を計測する。
【0024】
上地すべり検出器30aは、
図4に示すように、コンピュータ31、通信装置36、上側のひずみ計20a、20bの駆動回路37、コンピュータ31に電力を供給してこれを駆動するPC駆動回路38、通信装置36に電力を供給してこれを駆動する通信装置駆動回路39を有している。ひずみ計駆動回路37、PC駆動回路38、通信装置駆動回路39はそれぞれバッテリ50aに接続されている。下地すべり検出器30cもまったく同じ構成を持つので、図示説明は省略する。なお、ここでは、上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30cのいずれも、通信装置36は低周波磁界によりデータを無線で送信するタイプのもので、送信アンテナコイルを備えているものとする。低周波磁界を利用するのは、地中での伝搬状態が好ましいからである。この場合、データ記録器1も低周波磁界信号を受信する受信アンテナコイルを備え、受信信号からデータを抽出する機能を備える。しかし、地上に近い方、つまり地すべり検出器30aの通信装置36は低周波磁界による無線通信に限らず、有線でも良くバッテリ無しでも良い。
【0025】
コンピュータ31は、各種処理を実行するCPU32、CPU32が実行するプログラム等が格納されているROM(Read Only Memory)33、CPU32のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)34、外部との間でデータを入出力するインタフェース回路35を有している。RAM34には、ひずみ計20a、20bからの出力値が格納されるひずみ量テーブル60が設定されている。
【0026】
図6を参照して、下地すべり検出器30cのすべり量テーブル60について説明する。ひずみ量テーブル60は、
図6に示すように、下地すべり検出器30cの管理下にあるひずみ計20c、20dのナンバー又は識別子が予め格納されているひずみ計ナンバー領域61と、ひずみ計からの出力値の入力日時が格納される日時領域62と、入力日時毎に各ひずみ計毎の出力値がひずみ量として格納されるひずみ量領域63と、を有している。
【0027】
ひずみ量テーブル60が下地すべり検出器30c内のひずみ量テーブルである場合、このひずみ量テーブル60で管理するひずみ計が下グループC,Dのひずみ計20c、20dである関係上、このひずみ量テーブル60のひずみ計ナンバー領域61には、グループ識別子である「C」又は「D」に、グループ内におけるひずみ計ナンバーを付したものが格納される。すなわち、このひずみ量テーブル60のひずみ計ナンバー領域61には、C1、C2、C3、・・・、C8、D1、D2、D3、・・・、D8が格納される。
【0028】
図4に戻って、ひずみ計駆動回路37は、ひずみ計20a、20bに電流を流して、ひずみ計20a、20bの変形に伴う電気抵抗値の変化を取得する回路である。このため、ひずみ計駆動回路37は、ブリッジ回路とアンプとを有して構成されている。上地すべり検出器30aのひずみ計駆動回路37は、上グループA,Bを構成する全てのひずみ計20a、20bの変形に伴う電気抵抗値の変化を取得するため、これらすべてのひずみ計20a,20bとリード線21により接続されている。同様に、下地すべり検出器30cのひずみ計駆動回路37は、下グループC,Dを構成するすべてのひずみ計20c,20dとリード線21により接続されている。
【0029】
図5を参照して、計測部40は、コンピュータ41、通信装置46、変位計26を駆動する変位計駆動回路47、コンピュータ41に電力を供給してこれを駆動するPC駆動回路48、通信装置46に電力を供給してこれを駆動する通信装置駆動回路49を有している。
【0030】
コンピュータ41は、各種処理を実行するCPU42、CPU42が実行するプログラム等が格納されているROM43、CPU42のワークエリア等になるRAM44、外部との間でデータを入出力するインタフェース回路45を有している。RAM44には、変位計26からの出力値が地すべり量として格納されるすべり量テーブル70が設定されている。
【0031】
すべり量テーブル70は、
図7に示すように、変位計26からの出力値の入力日時が格納される日時領域71と、入力日時毎に変位計26からの出力値を地すべり量として格納するすべり量領域72と、を有している。
【0032】
変位計26と変位計駆動回路47とは、リード線28により接続されている。また、計測部40の各駆動回路は、いずれも、下バッテリ50cに接続されている。
【0033】
次に、地すべり検出装置10の設置手順について説明する。
【0034】
まず、
図1に示すように、地すべり検知箇所をボーリングし、地表部の土塊C、土塊Cの下の基礎地盤Gに、円筒型筐体11を埋設可能な径の孔8をあける。次に、円筒型筐体11の下封止スペース14側が下方になるように、この孔8に地すべり検出装置10を入れる。そして、円筒型筐体11の基準位置18(
図3)が「北」を向き、且つ、円筒型筐体11の地すべり想定位置17が地すべり面Sに位置するよう、地すべり検出装置10の向き及び深度を調整した後、孔8の内面と地すべり検出装置10の外面との間の隙間にセメントベントナイト等のグラウト9を充填する。以上で、地すべり検出装置10の設置が完了する。
【0035】
本実施形態において、外部、つまりデータ記録器1への出力手段は、通信装置36である。また、ひずみ計20に電力を供給してこれらを駆動する駆動手段は、ひずみ計駆動回路37であり、出力手段に電力を供給してこれを駆動する駆動手段は、通信装置駆動回路39である。また、変位計26で検知された変位量を外部に出力する変位出力手段は、通信装置46である。変位計26に電力を供給してこれを駆動する変位計駆動手段は、変位計駆動回路47であり、変位出力手段に電力を供拾してこれを駆動する変位計駆動手段は、通信装置駆動回路49である。
【0036】
次に、地すべり観測システムの動作について説明する。
【0037】
各ひずみ計20からの出力及び変位計26からの出力は、常時、上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30c、計測部40のいずれかのコンピュータ31、41に入力される。コンピュータ31、41のCPU32、42は、一定時間毎に、ひずみ計からの出力値(ひずみ量)、変位計26からの出力値(すべり量)をRAM34、44に設定されているテーブル60、70に格納する。また、CPU32は、いずれかのひずみ計20からの出力値が先の出力値に対して予め定められた偏差以上になった場合も、ひずみ量テーブル60に各ひずみ計20からの出力値を格納する。CPU42は、変位計26からの出力値が先の出力値に対して所定の偏差以上になった場合も、すべり量テーブル70に変位計26からの出力値を格納する。
【0038】
上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30c、計測部40のコンピュータ31、41は、各テーブル60、70のデータが前回無線送信されてから予め定められた時間経過すると、又は各テーブル60、70でのレコード数が予め定められた数量を超えると、通信装置36、46に対して、コンピュータ31、41が管理しているテーブル60,70のデータを地上側のデータ記録器1へ送信させる。
【0039】
ここで、仮に、8月16日0
2時13分〜22分にかけて、
図8に示すように、基礎地盤Gに対して、その上の土塊Cが「南」側にずれる地すべりが生じたとする。
【0040】
この場合、本実施形態では、地すべり開始時刻の8月16日0
2時13分以前の各ひずみ計20及び変位計26からの出力は、前述したように、一定時刻毎にテーブル60、70に格納される。具体的には、
図6及び
図7に示すように、8月16日0
2時13分以前では、各テーブル60、70には、8月16日00時00分、8月16日01時00分、8月16日02時00分と、1時間毎の各ひずみ計20及び変位計26からの出力値が格納される。但し、これらの時刻における各ひずみ計20及び変位計26からの出力値は、地すべり開始時刻以前である関係で、ほぼ0である。
【0041】
地すべりが始まると、その直後の8月16日0
2時14分には、多数のひずみ計のうちのいずれかのひずみ計からの出力値が先の出力値に対してあらかじめ定められた偏差以上となるため、ひずみ量テーブル60には、
図6に示すように、8月16日0
2時14分に各ひずみ計からの出力値がひずみ量として格納される。その後、地すべり終了時刻の8月16日0
2時22分までの間に、いずれかのひずみ計20からの出力値が先の出力値に対してあらかじめ定められた偏差以上になる毎に、ひずみ量テーブル60には、各ひずみ計からの出力値が格納される。
【0042】
基礎地盤Gに対して、その上の土塊Cが「南」にずれた場合、基礎地盤Gと土塊Cとの境界である地すべり面Sを挾んで、上下に位置するひずみ計からの出力値が大きく変化する。具体的には、上グルーブBのひずみ計20bと下グループCのひずみ計20cからの出力値が大きく変化する。このため、ひずみ量テーブル60のデータを参照することで、地すべり面Sであると想定した上グループBのひずみ計20bと下グループCのひずみ計20cの間の位置で、ほぼ8月16日0
2時14分に、地すべりが生じたことを把握することができる。
【0043】
また、
図8に示すように、円筒型筐体11の外周面の部分で、地すべり面Sより上で且つ北向きの部分は深さ方向に縮み、地すべり面Sより上で且つ南向きの部分は深さ方向に伸びる。一方、円筒型筐体11の外周面の部分で、地すべり面Sより下で且つ北向きの部分は深さ方向に伸び、地すべり面Sより下で且つ南向きの部分は深さ方向に縮む。このため、
図6に示すように、地すべり面Sより下の下グループCを構成する全ひずみ計20cのうち、円筒型筐体11の外周面で北向きの部分に貼り付けられているひずみ計「C1」20cからの出力は、「+」の値になり、円筒型筐体11の外周面で南向きの部分に貼り付けられているひずみ計「C5」20cからの出力は、「−」の値になる。よって、ひずみ量テーブル60を参照して、グループを構成する全ひずみ計からの出力の正負を考慮することで、いずれの方向に地すべりが生じたかを把握することができる。
【0044】
ところで、地すべりが始まっても、変位計26からの出力値は、直ちに、先の出力値に対して所定の偏差を超えないため、地すべり開始直後の変位計26からの出力値は、すべり量テーブル70には格納されない。このため、
図7に示すように、ここでは、地すべり開始時刻である8月16日0
2時13分から6分後の8月16日0
2時19分に、変位計26からの出力値がすべり量としてすべり量テーブル70に格納される。その後、地すべり終了時刻の8月16日0
2時22分までの間に、変位計26からの出力値が先の出力値に対して所定の偏差以上になる毎に、すべり量テーブル70には、変位計26からの出力値が格納される。
【0045】
このように、地すべり開始時刻と変位計26からの出力値が格納されるタイミングとの間に比較的大きなタイムラグがあるため、すべり量テーブル70を参照しての地すべり開始時刻を正確に把握することができない。本実施形態において、このタイムラグが生じるのは、地すべり量を検出する検出器として、地すべりの初期移動を検知できない、ワイヤ27を用いた地すべり量検出器25を用いているからである。
【0046】
仮に、地すべりにより、円筒型筐体11の下部に対して上部が水平方向に円筒型筐体1の径以下の寸法分だけ相対移動したとする。この場合、ワイヤ27を用いた地すべり量検出器25では、円筒型筐体11内の検出スベース16内で、鉛直方向に一直線に伸びていたワイヤ27が直線性を維持したまま傾斜するのみで、屈曲することがない。このため、円筒型筐体11の下部に対して上部が水平方向に相対移動しても、その移動量が円筒型筐体11の径以下である場合には、ワイヤ27の伸び量が実質的に変化しない。地すべりがさらに進行し、円筒型筐体11の下部に対する上部の水平方向の移動量が円筒型筐体11の径を超えると、ワイヤ27は、
図8に示すように、円筒型筐体11の検出スペース16内で屈曲しつつ伸びるため、変位計26からの出力値が変化し始める。
【0047】
以上のように、ワイヤ27を用いた地すべり量検出器25は、地すべりの初期移動を検知できず、無感帯期間があるため、地すべり開始時刻と変位計26からの出力値が格納されるタイミングとの間に比較的大きなタイムラグが生じてしまう。このため、前述したように、すべり量テーブル70を参照しても地すべり開始時刻を正確に把握することができない。
【0048】
そこで、本実施形態では、円筒型筐体11の変形に敏感なひずみ計を用い、このひずみ計からの出力値をひずみ量テーブル60に格納することで、地すべり開始時刻を正確に把握できるようにしている。
【0049】
ワイヤ27を用いた地すべり量検出器25によるすべり量検知では、ワイヤ27の伸び量、つまり変位計26からの出力値をすべり量として扱っている。しかしながら、ワイヤの一端を地中の基礎地盤Gに固定し、ワイヤの他端を地上に設置した変位計に取り付けた場合、地すべりに伴って地表が隆起又は埋没すると、変位計は、主として水平方向の地すべり量の他に、主として鉛直方向の変位である地表の隆起量又は埋没量も併せて出力してしまい、地すべり量を正確に把握することができなくなってしまう。
【0050】
そこで、本実施形態では、ワイヤ27の一端を円筒型筐体11の上隔壁13に固定する一方、ワイヤ27の他端を円筒型筐体11の下隔壁15に固定されている変位計26に取り付けることで、地表の隆起又は埋没があっても、ワイヤ27が伸びないようにして、地すべり量をより正確に把握できるようにしている。
【0051】
また、本実施形態による地すべり検出装置10では、上地すべり検出器30aのための構成要素は円筒型筐体11の地すべり想定位置17よりも上方に設置し、下地すべり検出器30cのための構成要素及び地すべり量検出器25のための主要な構成要素を地すべり想定位置17よりも下方に設置している。
【0052】
このため、本実施形態では、地すべりの発生確率の高い地すべり想定位置17で地すべりが生じても、ひずみ計とその駆動回路とを接続するリード線21、28が破断するようなことがなく、ひずみ計からの出力値を確実に外部へ出力することができる。また、仮に、地すべり想定位置17からずれた位置で地すべりが発生したとしても、具体的には、例えば、下グループCのひずみ計20cと下グループDのひずみ計20dとの間の位置で地すべりが発生したとしても、実際の地すべり発生位置と地すべり想定位置17との間に存在するひずみ計、つまり、下グループCのひずみ計20cとその駆動回路とを接続するリード線21が破断する危険性にさらされるのみで、他のリード21、28は破断することがない。このため、本実施形態では、リード線21、28の破断を最小限に留め、より多くのひずみ計からの出力値を外部に出力することができる。
【0053】
以上のように、本実施形態による地すべり検出装置10は、地すべりの方向、正確な地すべり量、地すべりの正確な開始時刻、地すべりの深度を検出することができる。さらに、本実施形態の地すべり検出装置10では、ひずみ計とその駆動回路とを接続するリード線との破断を回避して、各ひずみ計からのデータをできる限り確実に外部に出力することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、1グループを8個のひずみ計20で構成しているが、本発明はこれに限定されるものでなく、3個以上のひずみ計が等間隔で配置されていれば、いくつのひずみ計で1グループを構成してもよい。
【0055】
また、本実施形態では、各グループを構成する8個のひずみ計からの出力値を外部に出力しているが、コンピュータ31により、8個のひずみ計からの各出力値から地すべり方向を求め、この方向のみを外部に出力してもよいし、各出力値と共にこの方向を外部に出力するようにしてもよい。なお、8個のひずみ計からの各出力値から地すべりの方向を求める方法としては、例えば、プラスの最大ひずみ量を出力したひずみ計とマイナスの最大ひずみ量を出力したひずみ計とを直線で結んだ方向を地すべりの方向とする方法等、各種方法がある。
【0056】
また、本実施形態では、ひずみ計20、計測部40からの出力値を定期的にテーブル60,70に格納しているが、これらの出力値を定期的にテーブル60,70に格納せずに、出力値が先の出力値に対して所定の偏差以上である場合のみ、この出力値を格納するようにしても良い。また、出力値を定期的にのみテーブル60,70に格納するようにしても良い。この場合、テーブル60には、地すべり開始直後の出力値と共にその時刻が格納されないため、地すべり開始時刻を正確に把握することができないものの、CPU32、42は、ひずみ計、計測部からの出力値が先の出力値に対して予め定められた偏差以上であるか否かを常時判断しなくてもよくなるため、CPU32、42の負荷が軽滅される上に、ひずみ計、変位計を常時駆動させておく必要がないため、上地すべり検出器30a、下地すべり検出器30c、計測部40の電力消費量を抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態では、ひずみ計、計測部からの出力値を一旦、テーブル60、70に格納した後、このテーブル60,70に格納されたデータを外部に出力しているが、出力値をテーブルに格納せず、出力値を定期的に外部に出力ずるようにしてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、計測部40及び下地すべり検出器30cにそれぞれ、コンピュータ41、31、PC駆動回路38,48、通信装置45、36、通信装置駆動回路49、39が設けられているが、これらは共有化されて下データ出力部とされてもよい。
【0059】
本発明による地すべり検出装置は、ワイヤ及び変位計のいずれも円筒型筐体内に配置されているため、地すべりに伴って地表の隆起又は埋没があっても、地表の隆起又は埋没によってワイヤが伸びず、地すべり量を正確に把握できる。
【0060】
また、すべり面以深のひずみ計のリード線が孔曲がりや孔つぶれによって断線して計測不能になることなく地すべり変位方向を正確に把握できる。本実施形態ではひずみ計と変位計を地すべり検出手段として、そのリード線の破断を回避する技術を説明しているが、地下水位計、間隙水圧計ならびに傾斜計などその他の地すべり検出手段を用いた場合でも同様の効果があることは言うまでもない。
【0061】
ここで前記地すべり検出装置において、前記出力手段及び前記駆動手段は、前記円筒型筐体内であって、前記変位計よりも上側に配置されていてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では地すべり量検出器が円筒型筐体の地すべり面以深部に構成されているが、地すべり面以浅部に構成されても良い。この場合、変位計26は検出スペース16側の上隔壁13に設置され、計測部40は上封止スペース12内に設置される。そして、ワイヤ27の一端が下隔壁15に固定され、他端は上隔壁13に設置された変位計26に接続される。この場合はまた、上側のひずみ計20a、20bは変位計26やワイヤ27と共に上地すべり検出手段と呼ばれ、上封止スペース12内に設置された上地すべり検出器30a及び計測部40が上データ出力部と呼ばれる。一方、下側のひずみ計20c、20dは下地すべり検出手段と呼ばれ、下地すべり検出器30cは、下データ出力部と呼ばれる。