【文献】
江口正夫、外1名,無潤滑下の低反射率粗面を対象とした白色干渉法による真実接触面積の測定,トライボロジスト,日本,2005年 6月15日,Vol.50, No.6,p.471-478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガウスぼかしフイルター処理は、演算対象のピクセル点を中心とする所定の半径以内の全ピクセルの輝度に対し、重み係数をかけ平均し、得られた平均値を前記演算対象のピクセル点の輝度値とする処理である
請求項3記載の接触面積測定装置。
ガウスぼかしフイルター処理は、演算対象のピクセル点を中心とする所定の半径以内の全ピクセルの輝度に対し、重み係数をかけ平均し、得られた平均値を前記演算対象のピクセル点の輝度値とする処理である
請求項10記載の接触面積測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ペーパ摩擦材等の場合、光干渉画像の輝度値ヒストグラムの低輝度値域分布は単調に増加し目印となるピークあるいは平坦部が現れない。照明の不均一さに加え、真実接触部近傍の微小すきま分布が輝度値ヒストグラムにより強く影響するためと考えられる。当然、しきい値の決定も困難になり、二値化しきい値を必要としない方法がより強く要望された。しかし、非特許文献1で提案したガウス分布フィッティング法をそのままでは適用できないという問題がある。
【0008】
そのため、このような課題を解決する、新規な接触面積測定装置および接触面積測定方法の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な接触面積測定装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規な接触面積測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報を補正処理し、得られた補正輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、前記輝度値ヒストグラムから接触面積を算出する接触面積演算手段を有し、前記補正処理は、割り算演算を有する式により、補正画像輝度を算出することを特徴とする。
【0011】
ここで、限定されるわけではないが、補正画像輝度は、式(補正画像輝度=(対象画像輝度/参照画像輝度)×定数)により算出することが好ましい。また、限定されるわけではないが、参照画像輝度は、荷重ゼロ時の元画像に対し、ガウスぼかしフイルター処理して求めることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ガウスぼかしフイルター処理は、演算対象のピクセル点を中心とする所定の半径以内の全ピクセルの輝度に対し、重み係数をかけ平均し、得られた平均値を前記演算対象のピクセル点の輝度値とする処理であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、定数は、補正処理前の対象画像の輝度最頻値と、補正処理後の対象画像の輝度最頻値との変化を小さくする値とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、接触面積演算手段は、輝度値ヒストグラムのうち低輝度値域ヒストグラムを、ガウス分布に近似することにより接触面積を算出することが好ましい。また、限定されるわけではないが、接触面積演算手段は、片対数目盛で表した低輝度値域ヒストグラムを用いて、接触面積を算出することが好ましい。
【0012】
本発明の接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報を補正処理し、得られた補正輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成し、前記輝度値ヒストグラムから接触面積を算出し、前記補正処理は、割り算演算を有する式により、補正画像輝度を算出することを特徴とする。
【0013】
ここで、限定されるわけではないが、補正画像輝度は、式(補正画像輝度=(対象画像輝度/参照画像輝度)×定数)により算出することが好ましい。また、限定されるわけではないが、参照画像輝度は、荷重ゼロ時の元画像に対し、ガウスぼかしフイルター処理して求めることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ガウスぼかしフイルター処理は、演算対象のピクセル点を中心とする所定の半径以内の全ピクセルの輝度に対し、重み係数をかけ平均し、得られた平均値を前記演算対象のピクセル点の輝度値とする処理であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、定数は、補正処理前の対象画像の輝度最頻値と、補正処理後の対象画像の輝度最頻値との変化を小さくする値とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、接触面積は、輝度値ヒストグラムのうち低輝度値域ヒストグラムを、ガウス分布に近似することにより算出することが好ましい。また、限定されるわけではないが、接触面積は、片対数目盛で表した低輝度値域ヒストグラムを用いて算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0015】
本発明の接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報を補正処理し、得られた補正輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、前記輝度値ヒストグラムから接触面積を算出する接触面積演算手段を有し、前記補正処理は、割り算演算を有する式により、補正画像輝度を算出するので、新規な接触面積測定装置を提供することができる。
【0016】
本発明の接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報を補正処理し、得られた補正輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成し、前記輝度値ヒストグラムから接触面積を算出し、前記補正処理は、割り算演算を有する式により、補正画像輝度を算出するので、新規な接触面積測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明で用いた接触面積測定装置の原理を示す図である。
【
図3】接触面積測定装置により取得した画像を示す図である。
【
図4】
図3の画像から得られた輝度値ヒストグラムを示す図である。
【
図5】シェーディング補正の演算方法を説明する図である。
【
図6】取得画像および輝度値ヒストグラムの補正前後の変化を示す図である。
【
図7】参照元画像、参照元画像をぼかし処理して得られた参照画像、取得画像、およびシェーディング補正後の取得画像を示す図である。
【
図8】
図7の各画像における、対角線上の輝度ラインプロットの結果を示す図である。
【
図9】領域Area1,Area2,Area3,およびArea4とすきま変化に対応した光干渉輝度値との統計的・物理的対応関係を模式的に示す図である。
【
図10】背景輝度域輝度値ヒストグラムを示す図である。
【
図11】低輝度値域ヒストグラムを示す線形目盛の図である。
【
図12】低輝度値域ヒストグラムを示す片対数目盛の図である。
【
図13】全域の輝度値ヒストグラムについて、片対数輝度値ヒストグラムを示す図である。
【
図14】ガウス分布Gauss1フィッティングにより得られた、真実接触面積率(真実接触面積/見かけの接触面積)の変化を示す図である。
【
図15】ガウス分布Gauss1フィッティングにより得られた、ガウス分布パラメータの平均輝度と標準偏差の変化を示す図である。
【
図16】ガウス分布Gauss3によるフィッティングの結果を、ガウス分布を規定する3つのパラメータについて示す図である。
【
図17】補正輝度値ヒストグラムからGauss3およびGauss1を減算して算出した輝度値ヒストグラムArea2を示す図である。
【
図18】Gauss1,Gauss3,Area2,およびArea4についての、面積率の面圧依存性を示す図である。
【
図19】面圧の増加に伴う、面積率Gauss1,Gauss3,Area2,およびArea4の変化を示す図である。
【
図20】累積面積率で、真実接触部およびその周辺の微小すきま部の面積割合を近似的に示す図である。
【
図21】低輝度値域ヒストグラムについての、背景補正演算結果の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、接触面積測定装置および接触面積測定方法にかかる発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報を補正処理し、得られた補正輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、前記輝度値ヒストグラムから接触面積を算出する接触面積演算手段を有し、前記補正処理は、割り算演算を有する式により、補正画像輝度を算出するものである。
【0020】
なお、光透過性基板としては、ガラス、サファイヤ、またはポリカーボネイトなどを採用することができる。
また、接触面積演算手段は、輝度値ヒストグラムのうち低輝度値域ヒストグラムを、ガウス分布に近似することにより接触面積を算出する。
【0021】
接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報を補正処理し、得られた補正輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成し、前記輝度値ヒストグラムから接触面積を算出し、前記補正処理は、割り算演算を有する式により、補正画像輝度を算出する方法である。
【0022】
接触面積測定装置および接触面積測定方法は、次の技術分野に適用することができる。ブレーキやクラッチなどの摩擦材の材料開発や性能評価、およびタイヤ・靴底等の接触・摩擦保持改善に直接関わる試作・技術開発データを必要とする分野である。また、コピー機に代表される事務機などの摩擦を利用した紙搬送システムやフリクションドライブ、超音波モータなどの摩擦駆動システムの信頼性・機能改善・性能向上に関わるデータを必要とする分野である。
【0023】
接触面積測定装置および接触面積測定方法について、具体的な例を説明する。
本発明に用いた接触面積測定装置の原理図を
図1に示す。代表波長440nm(半値全幅:15nm)を使用した二光束光干渉法で、低可干渉性を持つLEDの偏光を利用した。そのため、低反射率・粗面の試験片でもコントラストのある干渉画像が得られる。
【0024】
測定原理は以下のとおりである。
LED光源1からの白色光は、光ファイバからなるライトガイド2によって偏光子3に導入される。その光は直線偏光となってビームスプリッタ8に入射する。ここで光は2分される。一方の光は試料7を照射する方向に向かう。もう一方の光は検光子9の方向に向かう。検光子9は偏光子3に対して位相を角度90°ずらしてあるため、光は検光子9を通過することが出来ない。試料7に向かう光は、対物レンズ4を通過した後、1/4波長板5によって円偏光に変換される。サファイヤ基板6下面で一部は反射し、また、もう一方の光も試料7面で反射する。これらのサファイヤ基板6下面および試料7面での反射光がサファイヤ基板6下面で干渉を生じる。その干渉光は1/4波長板5で直線偏光に戻され、ビームスプリッタ8を通過して、検光子9に入射する。この干渉光は、先の偏光子3を出た白色光に対し位相が角度90°ずれているために検光子9を通過できる。こうして、干渉光はレンズ10を通過した後、バンドパスフィルタ11を通過し、CCDイメージセンサ12によって検出される。
【0025】
本発明では低可干渉性を有する白色LED光源の狭帯域の光代表波長を得るために、バンドパスフィルタ11(カットオフ波長450nm,500nm)をCCDイメージセンサ12前部に挿入した。フイルター通過後の光スペクトルを同図内に示す。
光透過性基板には、潤滑下の実験も視野に入れ高屈折率を示すサファイヤ基板6(屈折率n=1.768,直径30mm,厚さ2mm)を使用した。
使用したCCDイメージセンサ12の仕様は以下の通りである。
Gray scale:12 bit (4096)
CCD size :2/3 inch
CCD pixel :1344 x 1024
【0026】
試料7は量産品ペーパ摩擦材の密度を変化させた試作材(厚さ:1.08mm)のフリクションプレート(NSKワーナー株式会社製)を小片に切り出し、片面のみのペーパ摩擦材部分を接触面直径5mmの円錐台に整形し台座に接着した。その形状を
図2に示す。実験は無潤滑静止状態下において、下方よりばねと重りを用いて垂直負荷を変化させて行った。
【0027】
演算部13について説明する。取得した画像の解析にソフトウェアを使用した。
輝度値ヒストグラム作成手段14では、真実接触部の解析を、干渉画像の輝度値ヒストグラムに着目して行う。取得した画像から、輝度値ヒストグラムを作成するにはソフトウェアMATLABを使用した。画像(1344 x 1024)において、各ピクセルは輝度データ(12ビット(4096階調))を所有している。階調別の画素数をカウントし、輝度値ヒストグラムを作成する。
【0028】
接触面積演算手段15では、ソフトウェアOriginのグラフ解析機能を使用し、ソフトウェアMATLABを用いて得られたヒストグラムの解析を行った。後に述べるガウス分布フィッティングは、ソフトウェアOriginを使用したマルカート法による最適化処理を用いた。
【0029】
画像の取得と前処理について説明する。
図3および
図4に取得した画像とその輝度値ヒストグラムを示す。面圧の増加とともに、白く見える筋の上に沿って黒い点状のものが現れ、拡大・拡張している。これが真実接触点である。白く見える筋はペーパ材の繊維部分であり、この時点では、まだ非接触状態にあるが、やがて面圧の増加に伴い真実接触部となる。また、画像には照明の不均一さが存在することもわかる。輝度値ヒストグラムは一山からなるピークのみ示すが、明らかに真実接触部に関係する最低輝度値域の度数分布(楕円のマーキング部)は面圧とともに増大している。
【0030】
ペーパ摩擦材の真実接触割合は、常用面圧域でたかだか数%程度[2]であるが、接触部はほぼ均一にまばらに分布する。そのため、発明者報告[1]のレンチキュラーレンズでも行ったように、光干渉輝度分布(輝度値ヒストグラム)に及ぼす照明強度の不均一さ是正のため、背景補正処理を行った。補正演算には、発明者報告[1]で採用した減算演算ではなく、ぼかし画像を用いた割り算演算を導入した。これは、種々の補正方法を試みた結果、本法が最も元情報を変質させないと判断したためである。このシェーディング補正の演算を次式に、説明図を
図5に示す。
【0031】
補正画像輝度=(対象画像輝度/参照画像輝度)×定数 (1)
【0032】
シェーディング補正演算は、2枚の画像間輝度に対し割り算の画像演算を行い、処理前の対象画像の輝度最頻値を変化させないために定数をかけるものである。定数は、補正処理前の対象画像の輝度最頻値と、補正処理後の対象画像の輝度最頻値との変化を小さくする値とする。ここで、輝度最頻値とは、画像輝度値の度数が最大となる輝度値である。
【0033】
この演算にはカメラの画像取得ソフトWASABI(浜松ホトニクス株式会社製)に付属する画像処理機能を使用した。参照画像には、荷重ゼロ時の元画像に対してガウスぼかしフイルター処理(画像処理ソフトのフォトショップ(アドビシステムズ株式会社製)使用)したものを使用した。これは、演算対象のピクセル点を中心とする所定の半径(パラメータ指定)以内の全ピクセルの輝度値に対し、重み係数をかけ平均し、得られた平均値を前記演算対象のピクセル点の輝度値とするものである。本発明では、このパラメータを100ピクセルとし、輝度空間のうねり成分のみを抽出した。
【0034】
シェーディング補正の結果について、
図6に画像および輝度値ヒストグラムの補正前後の変化を示す。取得画像の明るさのむらがなくなり、また輝度値ヒストグラム全域が平準化されて、分散が小さくノイズが低減された。また、最頻値の輝度は変わっていない。
【0035】
図7に、参照元画像、参照元画像をぼかし処理して得られた参照画像、取得画像、およびシェーディング補正後の取得画像を示す。
図8に、
図7の各図の対角線上の輝度ラインプロットの結果を示す。まず、参照元画像(0 MPa)の背景画像をぼかし画像とすることにより、高い空間周波数成分が除去され、うねり成分のみとなっている。次に、割り算演算により生データ(0.95MPa)のうねりデータ成分のみが除去され、生データの内の高い空間周波数成分のみが抽出・復元されている。演算の有効性がラインプロットの結果に示されている。
【0036】
なお、前記パラメータは30〜100ピクセルの範囲内にあることが好ましい。パラメータが30ピクセル以上であると、ぼかしの効果が現れてノイズが低減するという利点がある。パラメータが100ピクセル以下であると、画像境界部の存在によって発生するぼかし演算の誤差の拡大を低減できるという利点がある。
【0037】
また、シェーディング補正には前記(1)式を使用することを説明したが、この(1)式の使用に限定されない。このほか、次式を採用することができる。
補正画像輝度=((対象画像輝度−無光時カメラ背景輝度)/参照画像輝度)×定数 (2)
ここで、無光時カメラ背景輝度とは、カメラの暗電流に基づくオフセット信号輝度値である。無光時カメラ背景輝度を考慮するのは、純粋な光干渉作用に基づいた輝度値のみを取得するためであり、正確な補正画像演算ができる。
【0038】
なお、前記背景補正処理に際して、補正演算には、発明者報告[1]で採用した減算演算ではなく、ぼかし画像を用いた割り算演算を導入したことを説明した。減算演算に対し、ぼかし画像を用いた割り算演算が優れていることについては、後に詳述する。
【0039】
輝度値ヒストグラムの解析について説明する。
最初に、輝度値ヒストグラムの領域仕分けについて説明する。輝度値ヒストグラムの解析のために、輝度値ヒストグラムを低輝度側より4つの領域Area1,Area2,Area3,Area4に分けた。それぞれの領域とすきま変化に対応した光干渉輝度値との統計的・物理的対応関係を模式的に
図9に示す。これらの内、Area1とArea3は、まずガウス分布フィッティングの結果によって、それぞれガウス分布Gauss1とガウス分布Gauss3の領域に抽出される。
【0040】
Gauss1はゼロ次暗部の干渉縞形成域であり真実接触部に相当する。ここで重要なことは、このGauss1の低輝度側半分の分布は、純粋にすきまゼロ部に基づき発生し、他の重ね合わせの影響を受けていない点である。本測定法は、この点を利用して自律的に真実接触部を抽出できる。Gauss3は背景輝度形成域に相当する。LED光の低可干渉性のために、数波長以上のすきまを持つ領域はこのGauss3領域に収束していく。
【0041】
Area2は、Gauss1とGauss3に挟まれた微小すきま(1/8波長程度)領域である。Area4は、Gauss3以上の高輝度側分布で微小すきま(1/4波長程度)領域である。もちろん、Gauss1を除く3領域の内、Area2とArea4はそれぞれ高次の暗・明の干渉縞帯を含むので、一義的なすきま分布を示すものではない。この点は注意を要すが、本発明で採用するLED光の低可干渉性のために、真実接触部近傍のすきま変化が強く反映することが期待できる。
【0042】
なお、Gauss1とGauss3のピーク間輝度値差は、干渉理論によって代表光波長の1/8のすきま(=55nm)に相当する[1]。したがって、Gauss1ガウス分布の標準偏差から、すきまに換算した概略の真実接触部抽出精度の見積りが可能である。これについては後述する。
干渉法を用いたすきま測定において、同一干渉縞間(暗部あるいは明部)のすきまは代表光波長の1/2に相当する。したがって、ゼロ次暗部縞と1次明部縞間のすきまは代表光波長の1/4である。また、干渉が生じないすきまが大きい部分(非干渉部)の輝度値は、暗部縞と明部縞の中間値となる。その結果、ゼロ次暗部縞(真実接触部)と非干渉部間の輝度差は、代表光波長の1/8のすきまに相当する。
【0043】
次に、仕分けした領域の輝度値ヒストグラムについて説明する。輝度値ヒストグラムは以後、Gauss1とGauss3の領域分け表示に便利な次の3種(I,II,III)の表示で代表的な面圧ごとにみていく。つまり、表示I:Gauss3を表示した中央背景輝度部、表示II:Gauss1を表示した最低輝度部、表示III:輝度全域を表示し度数を対数としたものである。
図10に背景輝度域輝度値ヒストグラム(I)を示す。面圧(荷重)ゼロでは分布の左右対称性があり、Gauss3への適合度も高い。しかし、面圧の増加とともに低輝度側の度数が増加し、分布の左右対称性がくずれ、高輝度側分布のGauss3との残差は非常に小さくなる。つまり、Area4領域が縮小する。
【0044】
次に低輝度値域ヒストグラム(II)を
図11および
図12に示す。
図11に示した線形目盛の図では、Gauss1フィッティングの適合性を確認することが難しい。しかし、
図12に示した片対数目盛の図では、Gauss1とArea2領域の直線(片対数上)との接点が明らかとなり、Gauss1の最適化が確認しやすい。片対数目盛の図では、Gauss1領域からArea2を含む領域(直線近似可能)に移行する勾配の変化が線形目盛の図に比べて大きいので、両者間の接点が明らかとなり、Gauss1の最適化が確認しやすい。
【0045】
フィッティングを行う場合、データ範囲の設定を行うが、輝度ヒストグラムにピークが生じていないため、その設定は目視によることが好ましい。基本的にはフィッティングさせるガウス分布のピークまでの左側分布のみに適合するデータ範囲を設定する。しかし、さらにピークを含む若干の右側分布まで適合するデータ範囲を設定した方が安定してフィッティングが行え、より詳細な微調整が可能となる。
【0046】
最後に全域の輝度値ヒストグラムについて、片対数輝度値ヒストグラム(III)を
図13に示す。全域の変化傾向がわかり、全面圧において、補正した輝度分布とGauss1およびGauss3領域との残差が小さく、本発明のガウス分布フィッティングが的確に行われている。
【0047】
解析結果について説明する。
前述したようにシェーディング補正した輝度値ヒストグラムは4つの領域に分けられる。それぞれの領域の特徴を、その面圧依存性より以下に解析する。
【0048】
最初に、統計的分離手法の結果について説明する。
図14および
図15は本発明で最も注目する真実接触部に関係する、ガウス分布Gauss1フィッティングの結果を示す。
図14は真実接触面積率(真実接触面積/見かけの接触面積)に直したもので、荷重の負荷・除荷過程におけるヒステリシス挙動が明確に現れている。また、べき乗の関数関係が現れているが、低面圧の0.5MPa以下ではほぼ直線的に変化している。
真実接触面積は、Gauss1分布で囲まれる総画素数と1画素当たりの実面積の積より算出した。見かけの接触面積は、下部試験片接触部の直径が5mmの円錐台として計算より算出した。
【0049】
図15はガウス分布パラメータの平均輝度と標準偏差の変化を示す。面圧ゼロ以外の負荷荷重がかかっている場合、両者とも面圧に対し、一定となっている。つまり面圧が変化する間でも、ガウス分布を形成する統計的因子のメカニズムには変化がないと推定される。
【0050】
図16はガウス分布Gauss3によるフィッティングの結果を、ガウス分布を規定する3つのパラメータについて示す。面積率は、1MPa程度までの減少は著しいが、1MPa以上になるとほとんど変化しない。またGauss1と違い、面積率のヒステリシスは相対的に小さい。これは、1MPa以上の面圧が負荷された場合、背景となるすきまが大きい領域の顕著な変化が小さいことを反映した結果である。
面積率は(仕分けした各領域の実面積/見かけの接触面積)×100より算出した。
【0051】
一方、平均輝度と標準偏差は、面積率が変化しても、一定で推移しており、Gauss3の支配因子に大きな変化がないことを示す。これはGauss1と同様である。
図15と
図16に示したGauss1(平均輝度720、標準偏差σ=100)とGauss3(平均輝度1570)間の輝度差は850である。この輝度差850は、前述したように、干渉理論によって代表光波長の1/8のすきま(=55nm)に相当する。一方、3σに相当する輝度幅は300となるので、真実接触部は、すきま換算3σ≒20nm範囲内の精度で抽出されたと見積られる。
光干渉法を利用したすきま測定の一般的精度は、使用光波長の1/100程度といわれている。代表光波長が400nm程度なら4nmに相当する。一方、本測定法での68%信頼限界に相当する標準偏差(1σ)では約7nmの抽出精度となっている。このように本測定法は一般的測定精度限界に近い誤差で真実接触部を抽出できる。
【0052】
図17は補正輝度値ヒストグラムからGauss3およびGauss1を減算して算出した輝度値ヒストグラムArea2である。面圧の増加とともに、同一の変化傾向を維持しながら全体の度数が増加している。真実接触部に近い輝度950以下の領域(概略15nm程度のすきま域と見積もられる)は、面圧増大に伴う変化が大きい。
【0053】
図18には、Gauss1,Gauss3,Area2,Area4によって、領域分けした面積率の面圧依存性をまとめて示すが、Gauss1とGauss3についての詳細は既に触れた。Gauss1とArea2は、面圧の増大とともに増加傾向にあるが、Area2は2MPa程度で飽和傾向を示す。これはこの領域が微小すきま域であっても1/8λ(=55nm)程度と小さく、高面圧でやがて一部が真実接触部に変化する領域であることを反映している。一方、Area4は減少し飽和するが、Gauss1と反対の変化をしており、急激に2%程度の面積率に最終的に減少している。LED光の低可干渉性のため、1次以降の明部干渉縞帯の発生領域の減少を反映したものである。
【0054】
次に、4つの仕分け領域の相対的面積率変化について説明する。
図19に面圧の増加に伴う面積率Gauss1,Gauss3,Area2,Area4の変化を統合して示す。四者の合計は100%になる。ここで特徴的なのは、Gauss1にArea4を加えたものは、ほぼ一定の約5%程度で推移していることである。このような変化をデータベース化することによって、摩擦材の特性の把握や測定時の健全性をチェックすることが期待される。
Area2は面圧とともに増加している。
【0055】
図20は、累積面積率(近似的Abbotの負荷曲線[3])で、真実接触部およびその周辺の微小すきま部の面積割合を近似的に示す表示である。面圧がパラメータとなっている。これは、「なじみ過程」や「荷重の負荷面積特性」など、トライボロジーに必要な特性把握の上で重要な役割を果たす。実験に伴う表面接触特性の簡易なモニターとしても有効であろう。最表面がGauss1で、Area2,Area4の順であり、粗さ中央部がGauss3(100%)となり、表面からのすきま方向の深さを概念的に示す。同じ面圧の値を連ねる線が近似的Abbotの負荷曲線となる。Gauss1は面圧の増加とともに徐々に拡大する。一方、Area2とArea4はわずかな荷重の負荷(0.12MPa)で拡大するが、0.5MPa以降の増加は小さいことがわかる。
【0056】
図21は、低輝度値域ヒストグラムについての、背景補正演算結果の比較を示す図である。減算演算による補正は対象画像と参照画像(ゼロ面圧)間の同一ピクセル位置における画像輝度値の減算を行って、背景輝度値の補正を行うものである。一方、干渉強度(輝度)の変化振幅は照明強度に比例関係にあるので、補正に割り算を用いるシェーディング補正の方が干渉原理に忠実な補正方法である。さらに、参照画像にぼかし画像を用いればノイズ減少を期待できる。両者の補正方法による変化傾向はほぼ同様であるが、シェーディング補正時のノイズは半減しているので、真実接触面積抽出時のフィッティングに有利である。
【0057】
以上のように本発明によれば、真実接触面積の測定に加え、定性的ではあるが真実接触部近傍のすきま変化をも知ることができる。干渉画像の解析により、数nm〜数十nmオーダーのすきま変化を簡単にモニターできる。また輝度値ヒストグラムの統計的解析によって、Area1からArea4までの4領域の相互関係の変化(特にGauss3の面圧による変化)に基づき、総合的に真実接触面積の測定に関わる健全性を合理的に評価でき、ロバスト性が高いことも大きな特徴である。
【0058】
本発明では、光干渉画像による統計的真実接触面積測定法を湿式ペーパ摩擦材に適用した。低輝度値域輝度値ヒストグラムに谷間が現れず、二値化しきい値の決定が困難な場合でも、真実接触部の抽出が可能なことを実証し、以下の点を明らかにした。
(1)照明光の不均一さの影響をシェーディング補正によって平準化した輝度値ヒストグラムに対し、すきま分布に対応した4つの領域に仕分けした。
(2)ガウス分布フィッティングによって輝度値ヒストグラムを領域仕分けし、その内のGauss1領域より真実接触面積を決定した。その抽出精度は、3σのすきま換算範囲に対し、20nmと推定した。
(3)領域仕分けされた真実接触部およびその周辺の微小すきま空間に対し、Gauss1,Gauss3,Area2,Area4によって、微小すきま領域の統計的割合の推定が可能となり、それらの領域広さ変化の面圧依存性を実証した。
(4)以上の知見はペーパ摩擦材に限らず一般の粗面・低反射率面にも適用できるので、本発明は、簡易な真実接触部の測定・解析ツールとして有効である。
【0059】
なお、本発明は上述の発明を実施するための形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0060】
参考文献
[1] 江口正夫:画像輝度ヒストグラムに基づく統計的真実接触面積測定、トライボロジー会議予稿集(福井2010-9)173.
[2] M. Eguchi, T. Yamamoto: Shear Characteristics of a Boundary Film for a Paper-based Wet Friction Material: friction and real contact area measurement, Tribology International 38(2005)327.
[3] 日本工業規格JIS B 0601(2001).