(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5734273
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】電気化学エネルギーを貯蔵及び輸送する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/39 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
H01M10/39 Z
H01M10/39 A
H01M10/39 C
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-502622(P2012-502622)
(86)(22)【出願日】2010年3月29日
(65)【公表番号】特表2012-523068(P2012-523068A)
(43)【公表日】2012年9月27日
(86)【国際出願番号】EP2010054123
(87)【国際公開番号】WO2010112466
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2013年3月26日
(31)【優先権主張番号】09157056.4
(32)【優先日】2009年4月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【復代理人】
【識別番号】100182545
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 雪恵
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100167852
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ イュープラー
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー ベンダー
(72)【発明者】
【氏名】モーリッツ エーレンシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレーアス フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター フーバー
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03533848(US,A)
【文献】
特開昭61−056291(JP,A)
【文献】
特開平11−185802(JP,A)
【文献】
特開2001−118598(JP,A)
【文献】
特開昭59−151777(JP,A)
【文献】
特開2003−331913(JP,A)
【文献】
特開平07−161380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーが必要な場所にある電気化学発電所で、反応体としてアルカリ金属及び硫黄を有する第一の電気化学電池と、高エネルギーが利用可能な場所にある第二の電気化学電池とを用いて、電気化学エネルギーを貯蔵、輸送、及び供給する方法において、
I.エネルギーが必要な前記場所で
1.)高純度の液状硫黄を有する貯蔵容器BSと、液状の高純度アルカリ金属を有する貯蔵容器BAとを、それぞれ少なくとも1つ用意し、
2.)第一の電気化学電池を少なくとも1つ用意し、ここで当該電気化学電池はそれぞれ少なくとも以下の構成要素2.1〜2.4:
2.1 液状アルカリ金属を収容するための負極化された区画A、
2.2 液状硫黄を収容するための正極化された区画K、
2.3 前記区画A及びKは、電池の稼働温度でアルカリ金属の酸化により形成されるカチオンに対して透過性の固体電解質Eによって分離されており、
2.4 アルカリ金属と硫黄との反応により生成された電流に対して、外部電流回路をつなぐための電極、
を有しており、
3.)負極化された区画Aに液状アルカリ金属を、正極化された区画Kに液状硫黄を供給しながら、貯蔵容器BAを負極化された区画Aと、貯蔵容器BSを正極化された区画Kと接続し、
4.)アルカリ金属を酸化させ、カソード区画Kでアルカリ金属硫化物を形成し、電流を形成しながら、外部電流回路をつなぎ、
5.)カソード区画で形成されたアルカリ金属硫化物を取り去り、これを貯蔵容器BASに集め、
II.貯蔵容器BASに集めたアルカリ金属硫化物を、第二の電気化学電池に輸送し、ここで高エネルギーが利用可能な前記場所と、エネルギーが必要な前記場所とは空間的に分離された場所であり、前記第二の電気化学電池において硫黄とアルカリ金属を形成させながら電気分解し、
III.工程IIで得られる成分の硫黄及びアルカリ金属のうち少なくとも1つを、エネルギーが必要な場所に輸送し、電気化学発電所に供給する、前記方法。
【請求項2】
電極への、及び電極からの電流の供給及び/又は排出を、前記電極の表面にわたって均一に分布された多数の点によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液状のアルカリ金属が、高純度のナトリウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記貯蔵容器BAが、電池から電位分離によって電気的に絶縁されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液状のアルカリ金属を、過圧で導入された不活性ガスにより循環させることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記カソード区画に、液状硫黄、及び前記アルカリ金属硫化物としてポリ硫化ナトリウムが含まれていることを特徴とする、請求項3から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記カソード区画に、液状硫黄、及び前記アルカリ金属硫化物として液状のポリ硫化ナトリウムが含まれていることを特徴とする、請求項3から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質Eとして、β−酸化アルミニウム又はβ''酸化アルミニウムを使用することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記β−酸化アルミニウム又は前記β''酸化アルミニウムが安定化されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記β−酸化アルミニウム又は前記β''酸化アルミニウムがMgO又はLi2Oによって安定化されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも300℃の稼働温度を維持することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
カソード区画で導電性添加剤を使用することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第一及び/又は第二の電気化学電池が、管型反応器として存在することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記液状アルカリ金属が、二価カチオンの最大含分が3ppm未満である高純度ナトリウムであることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記アルカリ金属硫化物としてのポリ硫化ナトリウムの電気分解に必要な電流を、太陽光発電、風力発電、水力発電、又は地熱発電によって生成することを特徴とする、請求項3から14までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属、とりわけナトリウムと、硫黄とをベースとする電気化学発電所による電気化学エネルギーを貯蔵及び輸送するための方法に関し、ここでは、電気化学反応の2つの反応体を、貯蔵容器から電気化学反応器に流し、生成物は、電気化学反応を行った後で排出される。
【0002】
電気化学エネルギーの生成は、石油発電所の場合、CO
2の生成と結びついており、このため温室効果に対して多大な影響がある。再生可能なエネルギー源、例えば風力、太陽光、地熱、又は水力に基づくエネルギー生成によれば、この欠点は回避される。しかしながらこれらの再生可能なエネルギー源は、時間的に任意に負荷工程を調節して利用できない。さらに場合によっては、エネルギーを生成させる場所が、エネルギーが必要な場所とは異なる。システムによって条件付けられたこの欠点を補償するため、生成エネルギーの貯蔵、緩衝、及び場合により輸送が必要となる。
【0003】
風力発動機や太陽光プラントなどの再生可能な源からのエネルギーは、連続的には生じない。需要と利用可能性は、一致していない。再生可能エネルギーのみに基づき、その上安定的なグリッド電流は、これらの枠組条件では得られない。この変動を、コスト的に有利でエネルギー効率の良いシステムによって、高効率で平衡化、及び緩衝しようとする需要がある。
【0004】
地球上で人口密度の低い地域、例えばサハラ、島、又は「沖合」では、地理的、気候的、若しくは地形学的な枠組条件のため、風、太陽若しくは地熱から、風力、太陽光プラント、若しくは地熱発電所によって電流を発生させることに、大きな将来性がある。しかしながら今日では、このエネルギーを消費量が高い地域に輸送する技術的な方法がない。従来のパイプシステムは、グリッド損失、及びネットワーク拡大のコストによって、制限されている。現場の前で生成された電気エネルギーを水素に変換し、引き続き燃料電池で電流に変換する水素テクノロジーは、総効率が約20%と魅力的ではない。と言うのも、水素の輸送と液体化には、大きなエネルギーが必要となるからである。
【0005】
大量の電気エネルギーを貯蔵することは、電気エネルギーを遠い距離へと輸送するのと同じように、今日まで充分に解決されていない問題である。
【0006】
電気エネルギーを貯蔵するためには、今日工業スケールではポンプ式の蓄電発電所が使用されるが、この方法は水の測地線的高度差の位置エネルギーを、電流への変換に利用するものである。しかしながらこのようなポンプ式蓄電発電所の構造は、地形的、及び環境的な枠条件で制限される。エネルギー貯蔵のために空気の圧縮を利用する圧力蓄電式発電所は、効率が比較的低いため、制限されている。エネルギー貯蔵のための他の形式、例えば超冷却器、又はフライホイール(Schwungrad)は、他の目的特徴(短時間貯蔵)を意図するものである。近年はこの要求に、様々なコンセプトで技術的に実現化されたバッテリーが該当する。
【0007】
DE-A-2635900からは、アノードとして少なくとも1つの溶融アルカリ金属を、そしてカソード反応関与体(電気化学的に反転可能で、アノードの反応関与体と反応性のもの)を有するバッテリーが公知である。カソードの反応関与体は、溶融ポリ硫化物塩から、又は溶融硫黄と溶融硫黄で飽和化されたポリ硫化物塩とからの2相のものから成る。このバッテリーはさらに、アノード反応帯域とカソード反応帯域との間の物質液体輸送のための、カチオン透過性遮断層を有する。
【0008】
DE-A-2610222からは、複数の硫黄−ナトリウム電池から成るバッテリーが公知であり、ここであらゆる電池1)は、硫黄、リン、若しくはセレン、又はこれらの元素のアルカリ金属塩から得られる、稼働温度で液状のカソード反応物質2)を有するカソード区画と、アルカリ金属、とりわけナトリウムから得られる、稼働温度で液状のアノード反応物質を有する少なくとも1つの固体電解質管、並びにアノード反応物質の容器を有するアノード容器(3)を有するものである。
【0009】
EP-A-116690からは、複数のナトリウム−硫黄バッテリーをモジュールとして、エネルギー貯蔵システムのために構成する(zusammenzuschalten)ことが公知である。
【0010】
これらすべてのバッテリーに共通するのは、閉鎖系としてエネルギー貯蔵の点で、バッテリーに含まれる反応体(レドックスパートナー)の量によって制限を受けることである。この制限は、フローバッテリーによって改められる。このバッテリーコンセプトの基礎は、溶剤と金属塩とから成る液状電解質である。従来のバッテリーの蓄電容量はこのような制限を受けるが、反応体を有する第二の蓄電容器によって蓄電容量は増大する。
【0011】
DE-A-2927868からは、アノード区画とカソード区画とを有する電気化学電池内で電気エネルギーを貯蔵及び放出するためのフローバッテリーが公知であり、前記2つの区画は、イオン交換性半透膜によって相互に分離されており、ここでアノード区画は、いわゆるアノード溶液、つまり基本的に前記アノード溶液に溶解されていて、かつ酸化形態から再度還元可能な酸化性化合物によって被覆されており、酸化されたアノード溶液をアノード区画から除去し、酸化されたアノード溶液が蓄えられる。同時にカソード区画を、カソード溶液、つまり基本的にカソード溶液媒体に溶解されていて、かつ還元された形から再度酸化可能な化合物で被覆する。アノード溶液とカソード溶液は、2つの相応する容器に保管し、循環ポンプでアノード区域とカソード区域を循環させる。カソード溶液は例えば、六価の臭素を含み、アノード溶液は二価の臭素を含みうる。
【0012】
DE-A-1771 148及びUS-A-3533848からは、ナトリウムと硫黄との電気化学的な組み合わせによって電気エネルギーを得るためのシステムが公知であり、その特徴は、以下のものを有することである:
ナトリウムイオン透過性の隔壁(その隣に、ナトリウムと硫黄のための空間がある)、ナトリウム貯蔵のための容器(電池外部にある)、貯蔵容器から燃料電池へとナトリウムを輸送するための導管、硫黄を貯蔵するための容器(電池外部にある)、及び硫黄を貯蔵容器から電池に輸送するための導管。これらの電池は例えば、電気的に直列に接続されていてよい。
【0013】
JP-A-20011 18598からは、ナトリウム硫黄バッテリーを、2つ又はそれより多い溶融ナトリウム用タンクで稼働させることが公知である。
【0014】
JP-A-2002184456からは、ナトリウム硫黄バッテリーを硫黄用外部貯蔵タンクで稼働させることが公知であり、当該タンクは、バッテリーと強固に接続されている。
【0015】
公知のナトリウム硫黄バッテリーを用いる場合、及びナトリウム硫黄バッテリーをフローバッテリーとして用いる場合には、原料中のナトリウム及び硫黄に蓄えられたエネルギー量の供給及び放電は、ナトリウムと硫黄との反応によって、硫化ナトリウム若しくはポリ硫化ナトリウムを形成しながら行い、時間的及び位置的に接続されている。
【0016】
よって本発明の課題は、使用物質としてアルカリ金属、とりわけナトリウムと、硫黄とを利用する、電気化学発電所用の改善された方法を提供することである。電気化学発電所は好ましい実施態様において、ナトリウムと硫黄を別個に供給して稼働させる。この際に電流が発生し、ポリ硫化ナトリウムが生成する。ポリ硫化ナトリウムは、発電所から排出され、リサイクルされる。引き続いた電気分解では、ポリ硫化ナトリウムを再度使用し、エネルギーを消費してナトリウムと硫黄に再び分裂させる。本発明による方法によりまた、電流生成と電流活用というプロセス工程を、ポリ硫化ナトリウム分解と一緒に1つのプラントで行うことができる。電流生成と電流活用を、エネルギー収支及び負荷工程という点で最適化できる。エネルギー活用は例えば、高いエネルギーが利用可能な場所で行うことができ、電流発生は、高いエネルギーが必要な場所で行うことができる。
【0017】
本発明は、電気化学エネルギーを電気化学発電所で貯蔵、輸送及び放出するための方法に関し、その特徴は、エネルギーが必要な場所で、
1.)高純度の液状硫黄を有する貯蔵容器BSと、液状の高純度アルカリ金属を有する貯蔵容器BAとを、それぞれ少なくとも1つ用意し、
2.)電気化学的なアルカリ金属/硫黄電池を少なくとも1つ用意し、ここで当該電池はそれぞれ少なくとも以下の構成要素2.1〜2.4:
2.1 液状アルカリ金属を収容するためのアノード区画A、
2.2 液状硫黄を収容するためのカソード区画K、
2.3 前記区画A及びKは、電池の稼働温度でアルカリ金属の酸化により形成されるカチオンに対して透過性の固体電解質Eによって分離されており、
2.4 アルカリ金属と硫黄との反応により生成された電流に対して、外部電流回路をつなぐ(schliessen)ための電極
を有しており、
3.)負極化された区画Aに液状アルカリ金属を、正極化された区画Kに液状硫黄を供給しながら、貯蔵容器BAを負極化された区画Aと、貯蔵容器BSを正極化された区画Kと接続し、
4.)アルカリ金属を酸化させ、カソード区画Kでアルカリ金属硫化物を形成し、電流を形成しながら、外部電流回路をつなぎ、
5.)カソード区画で形成されたアルカリ金属硫化物を取り去り、これを貯蔵容器BASに集め、
6.)貯蔵容器BASに集めたアルカリ金属硫化物を、高エネルギーが利用な場所及び電気化学電池内の電気分解によって、硫黄と高純度のナトリウムを形成させながら第二の電気化学電池に輸送し、
7.)工程6で得られる成分の硫黄及びアルカリ金属のうち少なくとも1つを、エネルギーが必要な場所に輸送し、電流発生器として接続された電気化学発電所に
供給する
ことである。
【0018】
電気化学電池の稼働温度は、好適には少なくとも250℃であり、好適には300〜350℃の範囲である。
【0019】
カソード区画で形成されたアルカリ金属硫化物は、アルカリ金属硫化物及び/又は相応するポリ硫化物を含んでいてよく、これはとりわけ式M
2S
xのポリ硫化物(式中、xは>2)であり、とりわけポリ硫化ナトリウムNa
2S
xである。
【0020】
アルカリ金属−硫黄反応器において電流を発生させる場合、アノード空間では電解質Eによってアルカリ金属が酸化され、ここで形成されたアルカリ金属カチオンは、電解質Eの半透性隔壁を通じてカソード区画に移動し、そこで硫黄と反応してアルカリ金属硫化物になる。
【0021】
エネルギーが必要な場所とはとりわけ、エネルギーが必要でありながら、エネルギーを充分に利用できないあらゆる場所である。高エネルギーが利用可能な場所とはとりわけ、電流をコスト的に有利に、とりわけ環境に優しく生成可能な場所であり、ここでこの生成は通常の発電所によって、またとりわけ太陽エネルギー又は水、及び風力によって生成可能である。
【0022】
よって本発明による方法により、アルカリ金属、とりわけナトリウム、及び硫黄を、発電という目的のために本発明による方法で、長距離でも、例えば船舶によって輸送することが可能になる。よってナトリウムと硫黄を、再生可能なエネルギーに好ましい場所から、例えば何千キロも離れた消費基準箇所に輸送すること、及び生成したポリ硫化ナトリウムを新たな分裂に返送することが、エネルギー的に可能になる。これによって、再生可能なエネルギー供給源は、エネルギーを余剰に発生可能な場所で適切に利用できる。これに対して、ナトリウム−硫黄電気分解の原理により蓄えられたエネルギーを、相応する需要がある場所に輸送することができる。
【0023】
好ましい実施態様において、本発明により使用すべき電気化学発電所は、その数と構造様式がその都度の使用に適合された反応器電池をベースとするものである。好ましい実施態様では、管型反応器の電池が存在する。ここで従来の電解電池(塩素アルカリ金属電気分解における膜電池に似たもの)が利用できる。しかしながらナトリウム−硫黄という系では、固体電解質E、とりわけナトリウムイオン透過性の機能性セラミックが、液状の反応体を分離する。複数の各電池は、まとめてモジュールにすることができる。性能最適化のため、電解質により分離された電池ユニットを複数、並列で接続する。電池形状のさらなる可能性は管型電池であり、この電池ではナトリウムと硫黄がナトリウムイオン透過性機能性セラミックによって分離され、相互に通過して流れる。所与の体積では、電池の構造様式に拘わらず、電解質と反応体との表面積−体積比率の最適化が目標とされており、これにより大規模プラントでもコンパクトな構造が可能になり、また体積当たりの出力密度が可能な限り高くなる。構造様式に拘わらず、電池電圧がそれぞれ約2Vの各電池は、直列接続、又は並列接続で相互に接続される。このように調整された電圧基準は、直列で接続された電池モジュールの電圧からの和で得られる。貯蔵容器からナトリウム及び硫黄を供給する量は(電池によって、そして再度ポリ硫化ナトリウム貯蔵容器BASに)、電流生成に適合させる。ここで生成物の供給及び原料の排出は、連続的若しくは非連続的に行うことができる。アルカリ金属、硫黄、及びアルカリ金属ポリ硫化物は、分離された加熱式貯蔵容器、とりわけタンクで貯蔵する。しかしながら基本的にはまた、硫黄とアルカリ金属ポリ硫化物との混合も可能である。これはつまり、タンクを2つだけ有する運転法である。本発明によれば、発電所の容量に制限はない。このため、>1MWの電圧ブロック、とりわけ1〜1,000MWの電圧ブロックが、何の問題もなく可能である。発電所の電圧は、交流に変換した後、電気ネットワークに供給することができる。電気化学反応器の最適化は、ナトリウムイオン透過性の機能性セラミックと反応体体積との表面積−体積比をできる限り大きくすることを目標としており、これにより大規模プラントでもコンパクトな構造様式が可能になり、かつ体積当たりの出力密度は、可能な限り高くなる。
【0024】
好ましい実施態様では、電極への、及び電極からの電流供給及び/又は排出を、上記電極の表面に均一に分散された、多数の点によって行う。さらに好ましい実施態様では、液状のアルカリ金属は高純度ナトリウムであり、好適には二価カチオンの含分が最大で3pp
m未満のものである。さらなる好ましい実施態様では、液状の非金属が硫黄である。好ましい方法において好適には、過圧で導入された不活性ガスによって液状のアルカリ金属を循環させることにより、電池を稼働させる。
【0025】
好ましい実施態様において電解質は、β−酸化アルミニウム、又はβ''−酸化アルミニウムから成り、これらは好適には安定化されており、好適にはMgO又はLiO
2で安定化されている。
【0026】
好ましい実施態様においては、液状の硫黄に、カソード区画で導電性添加物を加える。好ましい導電性添加物は、セレン、テトラシアノエチレン、黒鉛、及びカーボンブラックである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実験室用装置における本発明による方法の適用を、フローチャートで示す。
【
図2】発電所における本発明による方法の適用を、フローチャートで示す。
【0028】
実施例
実施例1:
A)電流生成
装置:
図1にフローチャートして示した、実験室用装置を使用した。
【0029】
この装置を電気式加熱バンド及び適切な熱遮断部によって、300℃に維持した。
【0030】
この装置は、3つの貯蔵槽B1、B2(利用可能体積はそれぞれ2.5リットル)、及びB3(利用可能体積は4リットル)を有する。
【0031】
B1は、液状硫黄を収容するために用い、B2はナトリウムを収容するため、B3は、B2から形成されたポリ硫化物及び硫黄を収容するために用いる。C1が、電解電池である。N
2で示された箇所で、窒素が弁を介して装置に供給される。SVで示された箇所には、安全弁がある。示した箇所には、流量(Fl)、圧力(Pl)、充填レベル(Ll)、及び温度(Tl)がある。
【0032】
これらの容器には、固体を充填するための蓋にクイックリリースがある。セラミック製のイオン透過性固体電解質で仕切られた電解反応器C1(200cm
2、厚さ2mm)は、遮断弁を有する固定管によって3つの貯蔵槽と接続されている。
【0033】
すべての構成部材は、特殊鋼から成る。ショートを避けるため、極性が異なる導管及び装置部は、適切な電気絶縁部によって電位的に分離されている。
【0034】
硫黄を導入する電池部、及び当該電池部と接続された導管、並びに容器B1及びB3は、正極化されている。ナトリウムを導入する電池部、及び当該電池部と接続された導管、並びに容器B2は、負極化されている。
【0035】
測定箇所は好適には、以下のように設置されている:
容器B1、B2、B3内、及び電解反応器C1内の温度と圧力、
容器B1、B2、B3内の充填レベル、
容器B1、B2、B3内、及び電解反応器C1内の洗浄ガス流量、
電解反応器C1の電池電圧と、電解電流。
【0036】
電気化学的な電流生成
容器B1には、粉末としての硫黄を、1%のセレン及びテトラシアノエチレンからの導電性添加物と共に満たし、そこで不活性ガス下、溶融させた。
【0037】
容器B2には高純度ナトリウムを満たし、そこで不活性ガス下、溶融させた。
【0038】
電解反応器の負極化された電極室は、溢れるまで液状ナトリウムで満たした。電解反応器の正極化された電極室は、溢れるまで液状硫黄で満たした。溢れさせる際に、B1からB3へと流れる窒素流が、硫黄(後のポリ硫化物)を反応器から容器B3へと追い出す。容器の充填レベルはこの後、事後充填して修正する。容器B1及びB2は、電気化学的な電流生成の開始前、80%が充填されており、容器B3は10%充填されていた。
【0039】
電気分解に切り替える前に、容器B1(硫黄)の底部バルブを閉鎖し、容器B2(ナトリウム)の底部弁(有孔板(Drosselblende)付き)を開放し、ナトリウム弁をバイパスで閉鎖した。
【0040】
プラス極とマイナス極の間で接続された制御可能な電気抵抗を切り替えることにより、0.1〜40アンペアの電解電流を、電気化学反応器から取り出した。電気化学的な反応電位は、適宜、電流を用いずにオープンクリップで測定した。
【0041】
電気化学的な反応電位が2.00ボルト未満の値に低下した場合には、手動で容器B1の底部弁を開放し、液状硫黄を反応器C1に非連続的に送った。電解反応器のナトリウム室は、貯蔵容器B2からの自動供給によって満たしたままにした。
【0042】
試験が経過するにつれ、貯蔵容器B1及びB2における充填レベルは低下したが、B3における充填レベルは上昇した。
【0043】
100時間超稼働させた試験の間に、金属ナトリウム2000g、及び硫黄4400gが反応した。この際に、合計で2330Ahの電気負荷が放出された。平均電池電圧は、1.91ボルトであった。B3で集めた生成物の分析値は、Na
2S
2.9という組成に対応した。
【0044】
B)ポリ硫化ナトリウムの電気分解
電解装置は、電流生成のための実施例A)の装置構成に従った。容器B3には、組成がNa
2S
2.9のポリ硫化ナトリウムを6400g入れた。容器B1(硫黄)の底部バルブを閉鎖し、容器B2(ナトリウム)の底部弁(有孔板付き)を通じて開放し、ナトリウム弁をバイパスで閉鎖した。
【0045】
プラス極とマイナス極の間で接続された制御可能な電気電解装置を切り替えることにより、0.1〜40アンペアの電解電流(平均値20アンペア)を、電気化学反応器に供給した。電気化学的な反応電位は、適宜、電流を用いずにオープンクリップで測定した。
【0046】
電気化学的な反応電位が2.07ボルト超の値に上昇した場合には、手動で容器B3の底部弁を開放し、液状ポリ硫化物を反応器C1に非連続的に送った。電解質反応器のナトリウム室に集められたナトリウムは、自動で貯蔵容器B2に再度流した。
【0047】
試験が経過するにつれ、容器B1及びB2における充填レベルは上昇したが、B3における充填レベルは低下した。
【0048】
100時間超行なった試験の間に、ポリ硫化物6400gから、金属ナトリウムが2000g生成し、硫黄が4400g得られた。この際に、合計で2330Ahの電気負荷が供給された。平均電池電圧は、2.25ボルトであった。
【0049】
試験サイクル
電気化学エネルギー生成及び電気化学エネルギー活用という順序で、ポリ硫化ナトリウム電気分解を用いてこの試験を10回繰り返したが、反応比の変動は観察されなかった。
【0050】
実施例2:
2.1発電所
50フル負荷時(Volllaststunden)の貯蔵能力が1000MWの蓄電発電所を設計する。
図2に示したフローチャートは、この発電所を概略的に示している。
【0051】
すべての生成物供給装置及び配管は、電気式付加加熱及び適切な熱遮断部によって300℃に保った。
【0052】
体積がそれぞれ2200m
3の貯蔵タンクB1及びB2があり、さらなるタンクB3の体積は、45,000m
3である。これらの容器に、タンカー船から液状ナトリウム(B2)若しくは液状硫黄(B1)を供給する。例えば3つの電解反応器ブロックC1、C2、及びC3があり、その最大電気出力はそれぞれ334MWである。これらの反応器ブロックは、モジュールに構成された、イオン透過性固体電解質を有するセラミック製反応器から成る。
【0053】
1000MWの蓄電発電所は、反応器体積が総計5000m
3であり、電極表面積が総計500,000m
2である。各反応器には、電位的に分離された(potentialgetrennt)分配システムによって、ナトリウム若しくは硫黄を供給する。反応器で形成されたポリ硫化物は、電位的に分離して集め、タンクB3に供給する。
【0054】
ショートを避けるため、極性が異なる導管(Leitungen)及び装置部は、適切な電気絶縁部によって電位的に分離する。よって好適には貯蔵容器BAは、電位分離により電池から電気的に分離されている。
【0055】
正極になっているのが、硫黄を供給する電解反応器部である。負極になっているのが、ナトリウムを供給する電解反応器部である。
【0056】
2.2電気化学的な電流生成
基本的には2.1)の構成に従った装置を、貯蔵用の余剰エネルギーを有する場所で電流を供給することにより使用した。
【0057】
電気化学的な反応電位は、硫黄を制御しながら計量供給することで、電池1つあたり2.00ボルトに保つ。電気的な直列接続及び並列接続によってここから、直流側では1000Vという総電圧、及び反応器ブロック1つあたり334kAという総電流が得られる。
【0058】
直流交流変換器で直流を交流に変換する。それから交流を交流トランスフォーマーでグリッド電圧に高める。
【0059】
ポリ硫化ナトリウムの電気分解
制御された整流器の切り替えにより、グリッドからのエネルギーを電解電池で活用することができる。ここでポリ硫化物は反応器に供給され、ナトリウムと硫黄が得られる。ここで当該タンクは、充填されるか、若しくは空になる。
【0060】
直流の総量は、エネルギー生成と同じくらい大きい。負荷電圧は、エネルギー生成の放電電圧よりも約0.2高い。
【0061】
負荷サイクル
このシステムは貯蔵安定性であり、かつサイクル安定性である。
【0062】
CO
2回避可能性
実施例2からの蓄電発電所を従来の
石炭発電所と比べると、700MWという最大出力で、エネルギー平衡(=50G/Wh)まで71hという稼働時間が得られる。50GWhを生成させるためには、効率38%、及び比炭素消費量323g/kWhで、
石炭が約16,180トン必要になる。これは48,540トンのCO
2量に相当し、電流生成サイクル1回あたり電気化学的な蓄電発電所によってこの量が削減される。ただし、再生エネルギー源のみから供給を受けるとしてだが。
【0063】
反応体の輸送が何千キロもの道のりを介したとしても、これは有意義である。よってナトリウムと硫黄を高エネルギーが利用可能な場所で生成させ、適切に高エネルギーが必要な場所に輸送することができる。例えば、反応体を光起電によって北アフリカで発生させ、引き続き深海輸送によって深海の港に船舶輸送できる。輸送の道のりが3,000kmで、深海タンカーの比油消費量が1.6g硫黄油/t−積載量/kmの場合には、50,000twdの負荷量に対して、244トンの硫黄油消費となる。これは燃焼エンジンの動力学効率が25%の場合、684MWhのエネルギー消費に相当する。50,000twdのナトリウムと硫黄のために、慣用の123Wh/kgという比エネルギー容積を投入すると、これは6,241MWhというエネルギー容量に相当する。これによれば3,000kmの輸送道のり後に、もともとの反応体に蓄えられたエネルギーが輸送によって11%しか消費されないということである。
【符号の説明】
【0064】
B1 液状硫黄収容部、 B2 ナトリウム収容部、 B3 ポリ硫化物及び硫黄収容部、 C1 電解電池、 SV 安全弁、 Fl 流量、 Pl 圧力、 Ll 充填レベル、 Tl 温度