特許第5734334号(P5734334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5734334少なくとも1つのマニピュレータを有する投影露光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5734334
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】少なくとも1つのマニピュレータを有する投影露光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20150528BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20150528BHJP
   G02B 21/32 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   H01L21/30 516A
   H01L21/30 531A
   G03F7/20 521
   H01L21/30 515D
   G02B21/32
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-85203(P2013-85203)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-229602(P2013-229602A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2013年5月27日
(31)【優先権主張番号】10 2012 205 096.5
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100158469
【弁理士】
【氏名又は名称】大浦 博司
(72)【発明者】
【氏名】ボリス ビットナー
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト ヴァブラ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン フォン ホーデンベルク
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−114145(JP,A)
【文献】 特開2005−243953(JP,A)
【文献】 特開2007−189179(JP,A)
【文献】 特開2007−165845(JP,A)
【文献】 特開2003−215424(JP,A)
【文献】 特開2007−281079(JP,A)
【文献】 特開平05−291111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G02B 21/32
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光プロセス中に基板(24)上にマスク構造を結像させるための複数の光学素子(E1−E4)を有する投影レンズ(22)と、
マニピュレータ操作の一部として、前記投影レンズ内の少なくとも1つの前記光学素子(E1−E4)の光学効果を、該光学素子の状態変数を所定の行程(45)に沿って変更することにより変化させるように構成された、少なくとも1つのマニピュレータ(M1−M4)と、
少なくとも1つの所定の結像パラメータ(30、46)に適合された行程生成最適化アルゴリズム(52)を、前記少なくとも1つの所定の結像パラメータ(30、46)に基づいて生成するように構成され、前記少なくとも1つの所定の結像パラメータ(30、46)が、後続の露光プロセス中に結像されるマスク構造に関する構造情報(46)及び/又は前記後続の露光プロセス中に前記マスク構造上に照射される露光放射線(14)の角度分布に関する構造情報(30)を含む、アルゴリズム生成器(42)と、
マニピュレータ操作のための少なくとも1つの行程(45)を前記行程生成最適化アルゴリズム(52)により確立するように構成された、行程確立装置(44)と、
を含むことを特徴とする、マイクロリソグラフィ用投影露光装置(10)。
【請求項2】
前記投影レンズ(22)の結像品質を大まかに定める収差パラメータ(64)の集合を格納するための記憶装置(56)をさらに含み、前記最適化アルゴリズムは、前記少なくとも1つの行程(45)を、対応する前記マニピュレータ(M1−M4)の操作の場合に、前記収差パラメータ(64)の部分集合が最適化されるように設定するように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の投影露光装置。
【請求項3】
前記行程生成最適化アルゴリズム(52)は、前記投影レンズ(22)の結像品質を特徴付ける少なくとも1つの収差パラメータ(64)に基づいて前記マニピュレータ操作のための前記行程(45)を確立するように構成されることを特徴とする、請求項1〜請求項2のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項4】
前記行程生成最適化アルゴリズム(52)は、高々1000個の基底関数を有する数学的モデルに基づくことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項5】
前記アルゴリズム生成器(42)は、複数の異なる格納アルゴリズム(50)を備えたデータベース(48)を有することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項6】
前記アルゴリズム生成器(42)は、前記所定の結像パラメータに基づいて、前記格納アルゴリズム(50)の1つを行程生成最適化アルゴリズム(52)として選択するように構成されることを特徴とする、請求項5に記載の投影露光装置。
【請求項7】
前記アルゴリズム生成器(42)は、前記アルゴリズム生成器(42)内に格納された格納アルゴリズム(50)を前記所定の結像パラメータ(30、46)に適合させるように構成されることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項8】
前記アルゴリズム生成器(42)は、最適化方法を実行することにより、前記所定の結像パラメータ(30、46)に対する前記格納アルゴリズム(50)の前記適合を遂行するように構成されることを特徴とする、請求項7に記載の投影露光装置。
【請求項9】
前記格納アルゴリズム(50)を適合させる役割を果たす前記最適化方法はメリット関数に基づくものであり、前記メリット関数は、前記露光プロセス中のレンズ加熱に起因する前記投影レンズ(20)の前記結像品質の変化が少なくとも1つのリソグラフィ誤差に与える影響を考慮に入れることを特徴とする、請求項8に記載の投影露光装置。
【請求項10】
前記行程確立装置(44)は、露光の一時停止中に、前記アルゴリズム生成器(42)により新たに生成された行程生成最適化アルゴリズム(52)を始動させるように構成されることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項11】
外部物理変数を測定するためのセンサ(60)をさらに含み、前記行程確立装置(44)は、前記行程(45)を確立するときに前記外部物理変数を考慮に入れるように構成されることを特徴とする、請求項1〜請求項10のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項12】
前記光学素子(E1−E4)の加熱の結果として生じる前記光学素子(E1−E4)の光学特性の変化をシミュレートするように構成されたシミュレーション装置(58)をさらに含み、前記最適化アルゴリズム(52)は、前記少なくとも1つの行程(45)を、前記シミュレートされた、加熱で誘導される前記光学特性の変化に基づいて計算するように構成されることを特徴とする、請求項1〜請求項11のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項13】
前記行程確立装置(44)は、前記少なくとも1つの行程(45)を500ms未満の時間で確立するように構成されることを特徴とする、請求項1〜請求項12のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項14】
前記マスク構造を複数の露光ステップでそれぞれ前記基板(24)の異なる領域上に逐次的に結像させるように構成され、前記行程確立装置(44)は、露光ステップが終わるたびに毎回、前記少なくとも1つの行程(45)の更新版を確立するように構成されることを特徴とする、請求項1〜請求項13のいずれかに記載の投影露光装置。
【請求項15】
露光プロセス中に基板(24)上にマスク構造を結像させるための複数の光学素子(E1−E4)を有する投影レンズ(22)を含むマイクロリソグラフィ用投影露光装置(10)を操作するための方法であって、
後続の露光プロセスのために少なくとも1つの所定の結像パラメータ(30、46)が予め定められ、前記結像パラメータは、結像されるマスク構造に関する構造情報(46)及び/又は前記マスク構造上に照射される露光放射線(14)の角度分布に関する構造情報(30)を含み、
前記所定の結像パラメータ(30、46)に適合された行程生成最適化アルゴリズム(52)が、前記少なくとも1つの所定の結像パラメータに基づいて生成され、
少なくとも1つの前記光学素子(E1−E4)のための少なくとも1つの行程(45)が、前記行程生成最適化アルゴリズム(52)により確立され、前記行程(45)は、前記少なくとも1つの光学素子(E1−E4)の状態変数の変更を定め、
前記少なくとも1つの光学素子(E1−E4)が、前記状態変数を変更することにより前記所定の行程(45)に沿って作動される、
ことを特徴とする、方法。
【請求項16】
前記適合された行程生成最適化アルゴリズム(52)は、前記投影露光装置(10)により生成されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記適合された行程生成最適化アルゴリズム(52)は、前記投影露光装置の外部で生成され、生成された後でこれが前記投影露光装置(10)内に読み込まれることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記適合された最適化アルゴリズム(52)を定める少なくとも1つの制御パラメータが、前記投影露光装置の外部で生成され、生成された後でこれが前記投影露光装置(10)内に読み込まれることを特徴とする、請求項15〜請求項16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記投影露光装置(10)は、請求項1〜請求項14のいずれかに従って構成されることを特徴とする、請求項15〜請求項18のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリソグラフィ用投影露光装置、及びそのような投影露光装置を操作するための方法に関する。マイクロリソグラフィ用投影露光装置は、半導体素子の製造中に半導体ウェハの形の基板上に構造体を作成する役割を果たす。この目的のために、投影露光装置は、露光プロセス中にマスク構造をウェハ上に結像させるための複数の光学素子を有する投影レンズを含む。
【0002】
本出願は、2012年3月29日付で出願された独国特許出願番号第10 2012 205096.5号に基づく優先権を主張するものである。この特許出願の開示の全体が、引用により本出願に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
マスク構造を可能な限り正確にウェハ上に結像することを保証するためには、可能な限り波面収差が少ない投影レンズが必要とされる。したがって、投影レンズには、投影レンズの個々の光学素子の状態を変更することによって波面収差を補正することを可能にするマニピュレータが装備される。このような状態の変更の例は、妥当な光学素子の剛体の6自由度のうちの1つ又は複数における位置の変更、光学素子への熱及び/又は冷温の適用、及び光学素子の変形を含む。通常、投影レンズの収差特性は、この目的のために規則的な時間間隔で測定され、必要な場合には個々の測定間の収差特性の変化がシミュレーションにより求められる。したがって、例えば、レンズ素子加熱の効果を計算の考慮に入れることができる。「レンズ加熱」、「レンズ素子加温」、「ミラー加熱」及び「ミラー加温」という用語もまた、「レンズ素子加熱」と同義に使用される。収差特性を補正するために実行されるマニピュレータの変更は、「マニピュレータ変更モデル」とも呼ばれる行程生成最適化アルゴリズムによって計算される。
【0004】
「行程(travel)」は、光学素子の光学効果を変更する目的でマニピュレータ操作によって遂行される、行程に沿った光学素子の状態変数の変更を意味するものと理解される。光学素子の状態変数を変更することによって定められるこのような行程は、マニピュレータの意図される変更変数により指定される。一例として、操作は、光学素子の特定方向での変位で構成することもできるが、例えば、特に、光学素子に対する熱、冷温、力、特定波長の光又は電流の局所的又は二次元的な荷重から構成することもできる。一例として、意図される変更変数は、変位の場合には、行程の経路長又は行程の角度範囲を定める。
【0005】
結像される構造の継続的な小型化及び歩留まりの増大が必要とされていることから、マニピュレータによる従来の手法では、操作中でも又は投影露光装置の耐用年数にわたっても、収差特性を十分満足に補正することが一般に不可能であるという状況がもたらされている。この場合「十分満足に」とは、補正されていない残余の収差特性が、多様な使用構成に対して十分な結像品質をもたらすことを意味するものと理解される。ここで使用構成とは、マスクとそのマスクの結像に使用される照射設定との組み合わせを意味するものと理解されたい。
【0006】
処理された使用構成を考慮した残余の収差特性は、臨界構造、特にいわゆるコア領域構造(以下で詳述する)が非常に正確に結像され、残余の構造すなわち周辺構造はそれほど正確ではなくてもよいがそれでもなお十分に正確に結像されるように設定することが必要とされることが見いだされている。このことは、とりわけ、コア領域構造と周辺構造とが波面の異なる領域を走査し、周辺構造の方が、走査波面領域に対して提示する要求条件が著しく低いという理由で可能である。
【0007】
従来技術は、通常は非制限二次最適化問題を、通常は単一の逆元を先に計算することによる行列乗算による、正則化された様式で解く、行程生成最適化アルゴリズムを開示している。いわゆる「特異な問題(ill−posed problem)」を正則化するために、特に、特異値のカットオフによる特異値分解又はチホノフ(Tikhonov)の正則化が利用される。詳細は、例えば非特許文献1の「Iterative Methods for Ill−Posed Problems: An Introduction」と題する研究から、当業者には公知である。この場合、それぞれのユーザ構成は、原則の問題として考慮に入れることができないか又は十分に考慮に入れることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010/034674 A1号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】B.Bakushinsky、Mihail Y.Kokurin及びAlexandra Smirnova著、「Inverse and Ill−Posed Problems」De Gruyter、2010年、第4章及び第5章、23−43ページ
【非特許文献2】Stephen Boyd、Lieven Vandenbergh著「Convex Optimization」、Cambridge University Press、2004年、第4.4章、152−153ページ、第4.6章、167ページ、第4.7章、174−184ページ、第11.1章−第11.5章、561−596ページ、及び第11.8章、615−620ページ
【非特許文献3】Walter Alt著、「Nichtlineare Optimierung」(非線形最適化)、Vieweg、2002年、第8章、291−305ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前述の課題を解決する、特に露光プロセス中に生じる結像の収差を高精度で短い時間間隔で補正することが可能な、投影露光装置及びそのような投影露光装置を操作するための方法を提供することである。特に、本発明の目的は、露光プロセス中に生じる結像の収差を、コア領域構造と周辺構造とで異なる要件に関して成功する結像プロセスのために要求される精度で、短い時間間隔で補正することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一例として、前述の目的は、本発明により、マイクロリソグラフィ用投影露光装置を用いて達成することができ、このマイクロリソグラフィ用投影露光装置は、露光プロセス中に基板上にマスク構造を結像するための複数の光学素子を有する投影レンズと、少なくとも1つのマニピュレータとを含み、このマニピュレータは、マニピュレータ操作の一部として、投影レンズ内の少なくとも1つの光学素子の光学効果を、該光学素子の状態変数を所定の行程に沿って変更することにより変化させるように構成される。さらに、本発明による投影露光装置は、アルゴリズム生成器を含み、このアルゴリズム生成器は、少なくとも1つの所定の結像パラメータに適合された行程生成最適化アルゴリズムを、該少なくとも1つの所定の結像パラメータに基づいて生成するように構成される。少なくとも1つの所定の結像パラメータは、後続の露光プロセス中に結像されるマスク構造に関する構造情報、及び/又は、後続の露光プロセス中にマスク構造上に放射される露光放射線の角度分布に関する構造情報を含む。さらに、本発明による投影露光装置は、行程確立装置を含み、この行程確立装置は、マニピュレータ操作のための少なくとも1つの行程を、行程生成最適化アルゴリズムにより確立するように構成される。上述のように、行程は光学素子の状態変数の変更を定める。この変更は、マニピュレータ操作によってもたらされる。従って、行程確立装置は、マニピュレータ操作によりもたらされる光学素子の状態変数の変更についての少なくとも1つの行程を行程生成最適化アルゴリズムにより確立するように構成される。
【0012】
換言すれば、まず行程生成最適化アルゴリズムが、本発明による投影露光装置を作動するときに目標を定めた方式で生成され、このアルゴリズムは、後続の露光プロセスについて予め定められた少なくとも1つの結像パラメータに対して適合される。この特異的に適合された最適化アルゴリズムは「マニピュレータ変更モデル」とも呼ばれ、次にこれを用いて、投影レンズの少なくとも1つのマニピュレータのための行程補正が計算される。
【0013】
上述のように、このようなマニピュレータは、マニピュレータ操作の一部として、投影レンズ内の少なくとも1つの光学素子の光学効果を、該光学素子の状態変数を所定の行程に沿って変更することにより変化させるように構成される。一例として、このようなマニピュレータ操作は、光学素子の剛体の6自由度のうちの1つにおける位置の変更、光学素子への熱及び/又は冷温の適用、及び/又は光学素子の変形を含むことができる。マニピュレータ操作がそれに沿ってもたらされる所定の行程は、光学素子の操作される状態変数における状態を逐次通過するマニピュレータ操作により定められる。空間内での並進による位置変更の場合には、行程は三次元空間における経路である。熱及び/又は冷温の適用の場合には、行程は、例えば逐次的に呈する温度状態の時間的遷移により定めることができる。
【0014】
行程生成最適化アルゴリズムの生成は、少なくとも1つの所定の結像パラメータ、より具体的には、マスク構造に関する情報及び/又は次回の露光プロセスのための照射設定に関する情報を含む結像パラメータ集合に基づいて遂行される。大まかに言って、マニピュレータ変更モデルは、結像されるマスク構造に関する構造情報及び/又はマスク上に放射される露光放射線の角度分布に関する構造情報に基づいて作成される。マスク上に放射される露光放射線の角度分布は、以下で「照射較正」又は「照射設定」とも呼ばれる。一例として、結像されるマスク構造に関する構造情報は、線幅、マスク構造の幾何学的構造の特徴付け、半導体チップのコア領域及び/又は周辺における構造の向きを含むことができる。頻繁に使用される照射設定の例は、環状照射、二極照射及び四極照射を含む。
【0015】
本発明による、少なくとも1つの所定の結像パラメータに基づく行程生成最適化アルゴリズムの生成の結果として、最適化アルゴリズムは、後続の露光プロセスの特徴に非常に良く適合させることができるので、最適化アルゴリズムは比較的少ない計算操作で事足りる。結果として、露光プロセス中に少なくとも1つのマニピュレータのための行程信号を短い時間間隔で提供することが可能となり、その結果として、投影レンズの収差特性を高精度で補正することができる。ここで、必ずしも全ての収差パラメータが均一に補正される必要はなく、むしろ、該少なくとも1つの結像パラメータにとって妥当な収差パラメータが、目標を定めた方式で補正される。
【0016】
本発明による1つの実施形態によれば、投影露光装置は、投影レンズの結像品質を大まかに定める収差パラメータ集合を格納するための記憶装置をさらに含む。更なる実施形態によれば、最適化アルゴリズムは、少なくとも1つの行程を、対応するマニピュレータの操作の場合に、収差パラメータの部分集合が最適化されるように設定するように構成される。ここで、以下で「選択された部分集合」とも呼ばれるこの部分集合は、所定の結像パラメータにおける投影露光装置の結像挙動に与える影響が残余の収差パラメータのそれぞれの影響よりも小さい少なくとも1つの収差パラメータの分だけ、収差パラメータの全集合に比べて特に減らされている。その際、これは、残余の部分集合が同様に最適化を経ることを排除しない。しかしながら、この場合、選択された部分集合は、特に最適化される、すなわち残余の部分集合よりも大きい程度まで最適化される。一例として、これは、コア領域構造により走査される波面の領域が、周辺構造により走査される波面の領域よりも、結像挙動に関するより厳格な特定の要件を満たすことが意図されているという理由に基づいて実施することができる。一例として、収差パラメータは、ゼルニケ(Zernike)係数、ゼルニケ係数の加重和、例えばリソグラフィで測定される非点収差又はリソグラフィで測定されるコマ収差などのリソグラフィ変数、オーバーレイなどの結像変数、最良焦点の変動及び/又はフェージング効果とすることができる。このような効果の定義は、例えば特許文献1の30〜33ページから当業者に公知である。
【0017】
周辺構造に対立するものとして、コア領域構造がマスク上に定義される。ここで、コア領域構造は、十分に小さいピッチ又は最小のピッチで結像される構造である。十分に小さいピッチは、該十分に小さいピッチより小さいピッチ又は該十分に小さいピッチに等しいピッチを有する構造が、結像されるマスク上に位置する全ての構造の少なくとも5%、特に少なくとも10%、少なくとも50%又は少なくとも80%を構成するという事実に基づいて定義される。そして周辺構造は、コア領域構造ではない全ての構造である。一般に、コア領域構造は、波面の特定の領域における小さい変化に対して高感度で反応する一方で、その他の領域における比較的大きい変化には感度が低いことが見いだされている。ここで、高い感度は、対応する半導体チップの製造における歩留まりの高損失をもたらすことになる。
【0018】
最適化される収差パラメータ集合又は特に最適化される収差パラメータ集合を前述の部分集合まで減らすことにより、結像プロセスに対して目標を定めた方式で適合されたマニピュレータ補正を特に短時間かつ簡単な方式で確立することが可能になる。投影レンズの結像品質がそれにより決定される収差パラメータ集合は、結像品質に及ぼす影響が投影レンズの目的に関して有意な収差パラメータのみを含む。1つの実施形態によれば、これらの収差パラメータは、コア領域構造において全体として観察されるリソグラフィ誤差の少なくとも50%、特に少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%を全体として構成する結像品質に対して有意な影響を有する。ここで既に前述したように、全体として観察されるリソグラフィ誤差とは、例えば、コア領域構造における、コマ収差、オーバーレイ誤差、最良焦点の変動及び/又はフェージング効果を意味するものと理解される。特に、前述の集合は、従来の最適化方法により最適化された収差パラメータを含む。
【0019】
本発明による更なる実施形態によれば、行程生成最適化アルゴリズムは、マニピュレータ操作のための行程を、投影レンズの結像品質を特徴付ける少なくとも1つの収差パラメータに基づいて確立するように構成される。ここで行程は、該行程に沿った光学素子のうちの1つの対応する状態変数の変更の場合に結像品質が改良されるように確立される。
【0020】
本発明による更なる実施形態によれば、行程生成最適化アルゴリズムは、高々1000個、特に高々500個、高々250個、高々100個、高々60個、高々40個又は高々25個の基底関数による数学的モデルに基づく。このようなモデルは、現在の行程コマンドを短時間で生成することを可能にする。1つの実施形態によれば、行程確立装置は、500ms未満、特に100ms未満又は20ms未満の時間で少なくとも1つの行程を確立するように構成される。EUV投影露光装置に合わせて構成された1つの実施形態によれば、行程は、30秒mm未満、特に10秒未満の時間で確立される。更なる実施形態によれば、行程生成最適化アルゴリズムは、行列乗算を実行するように構成され、特に特異値分解又はチホノフの正則化を基礎として使用し、特に逆元の形成を伴うように構成される。
【0021】
本発明による更なる実施形態によれば、アルゴリズム生成器は、複数の異なる格納アルゴリズムを備えたデータベースを有する。1つの別形によれば、アルゴリズム生成器は、所定の結像パラメータに基づいて、格納アルゴリズムのうちの1つを行程生成最適化アルゴリズムとして選択するように構成される。
【0022】
更なる別形によれば、アルゴリズム生成器は、該アルゴリズム生成器内に格納された格納アルゴリズムを所定の少なくとも1つの結像パラメータに適合させるように構成される。格納アルゴリズムは、所定の結像パラメータに既にある程度まで適合したアルゴリズムとすることができる。これは、より早い時点で予備的に最適化されたアルゴリズムとすることもでき、又は同様の結像パラメータに対して部分的又は全体的に適合したアルゴリズムとすることもできる。あるいは、ある結像パラメータに対して特異的に適合したものではない標準アルゴリズムを使用することも可能である。本発明による更なる実施形態によれば、アルゴリズム生成器は、最適化方法を実行することにより、所定の結像パラメータに対する格納アルゴリズムの適合を遂行するように構成される。この目的のために、アルゴリズム生成器は、特にいわゆるアルゴリズム最適化器を含む。
【0023】
本発明による更なる実施形態によれば、格納アルゴリズムを適合させる役割を果たす最適化方法は、メリット関数に基づくものであり、このメリット関数は、露光プロセス中の直接的又は間接的な「レンズ加熱」とも呼ばれるレンズ素子加熱に起因した投影レンズの結像品質における変化が、少なくとも1つのリソグラフィ誤差に与える影響を考慮に入れる。すなわち、上記で規定した変化が少なくとも1つのリソグラフィ誤差に与える影響が考慮に入れられる。ここでリソグラフィ誤差は、例えばいわゆるオーバーレイ誤差のような、リソグラフィによる像形成中に発生する誤差を意味するものと理解されたい。オーバーレイ誤差は、基板上での、結像したマスク構造の意図した位置と比べた局所的な像位置の変位を規定する。最小二乗法に基づくマニピュレータ変更モデルが利用される場合には、例えば、奇数ゼルニケ係数に対する適切な重みづけ又は奇数ゼルニケ係数の重みつき線形結合により、結像品質に対して間接的に影響を及ぼすことができる。したがって、例えば、このようなマニピュレータ変更モデルは、特異値分解又はチホノフの正則化に基づくものとすることができる。
【0024】
本発明による更なる実施形態によれば、行程確立装置は、アルゴリズム生成器により新たに生成された行程生成最適化アルゴリズムを露光の一時停止中に始動させるように、従って始動時点以降はその最適化アルゴリズムを用いて行程が確立されるように構成される。露光の一時停止は、その間にバッチ交換が行われる一時停止とすることができる。バッチは、パケットとして露光されるウェハを意味するものとして理解され、これらは通常、均一な照射パラメータで、すなわち同じマスク及び同じ照射設定で露光される。最適化アルゴリズムを始動させる役目を果たす露光の一時停止は、先のウェハ露光の終了と次のウェハ露光の開始との間の短い期間とすることもでき、この期間はさらに測定目的で使用することができる。
【0025】
本発明による更なる実施形態によれば、投影露光装置は、外部物理変数を測定するためのセンサをさらに含み、行程確立装置は、行程を確立するときにこの外部物理変数を考慮に入れるように構成される。特に、物理変数に対する行程の連続的な適合がある。そのような物理変数の例は、周囲気圧である。
【0026】
本発明による更なる実施形態によれば、投影露光装置は、シミュレーション装置をさらに含み、このシミュレーション装置は、光学素子の光学特性の変化をシミュレートするように構成され、この変化は、例えば、露光プロセス中の照射効果に基づく、又はEUV投影露光装置の場合には材料品質に関して最適な動作温度を達成するための付加的なレンズ素子加熱に起因する、光学素子の加熱の結果として生じる。ここで最適化アルゴリズムは、少なくとも1つの行程を、シミュレートされた、加熱で誘導される光学特性の変化に基づいて計算するように構成される。
【0027】
本発明による更なる実施形態によれば、投影露光装置は、マスク構造を複数の露光ステップでそれぞれ基板の異なる領域上に逐次的に結像させるように構成され、行程確立装置は、露光ステップが終わるたびに毎回、少なくとも1つの行程の更新版を確立するように構成される。換言すれば、行程は、露光フィールドが終わるたびに毎回更新される。
【0028】
一例として、前述の目的は、さらに、露光プロセス中に基板上にマスク構造を結像するための複数の光学素子を有する投影レンズを含むマイクロリソグラフィ用投影露光装置を操作するための方法によって達成することができる。本発明による方法によれば、後続の露光プロセスのために少なくとも1つの結像パラメータが予め定められ、この結像パラメータは、結像されるマスク構造に関する構造情報、及び/又は、マスク構造上に放射される露光放射線の角度分布に関する構造情報を含む。本発明により、所定の結像パラメータに適合された行程生成最適化アルゴリズムが、少なくとも1つの所定の結像パラメータに基づいて生成される。さらに、行程生成最適化アルゴリズムにより、少なくとも1つの光学素子のための少なくとも1つの行程が確立され、ここで行程は、該少なくとも1つの光学素子の状態変数の変更を定める。さらに、該少なくとも1つの光学素子は、状態変数を変更することにより、所定の行程に沿って作動される。
【0029】
1つの実施形態によれば、所定の結像パラメータに適合された行程生成最適化アルゴリズムは、投影露光装置によって生成される。代替的な実施形態によれば、所定の結像パラメータに適合された行程生成最適化アルゴリズムは、投影露光装置の外部で生成され、生成された後でこれが投影露光装置内に読み込まれる。随意に、最適化アルゴリズムを承認する又は適合された最適化アルゴリズムを読み込んだ後でこれをアクティブにするという選択肢をユーザに提供することが可能である。1つの別形によれば、投影露光装置は、結像パラメータ及び/又は行程生成アルゴリズムがユーザによってそこに送り込まれるアルゴリズム生成器を有することができる。
【0030】
更なる実施形態によれば、適合された最適化アルゴリズムを定義する少なくとも1つの制御パラメータが、投影露光装置の外部で生成され、生成された後でこれが投影露光装置内に読み込まれる。最適化アルゴリズムは、1つ又は複数のメリット関数、並びに制約条件を有する。前述のタイプの制御パラメータは、同一の初期状態の場合に、メリット関数のうちの1つ若しくは複数又は制約条件のうちの1つ若しくは複数を変化させるパラメータを表す。
【0031】
本発明による投影露光装置の実施形態に関して規定された上記で列挙した特徴は、本発明による方法にも対応して適用することができる。逆に、本発明による方法の実施形態に関して規定された上記で列挙した特徴は、本発明による投影露光装置にも対応して適用することができる。
【0032】
本発明の上記の特徴及び更なる有利な特徴は、以下の本発明による例示的な実施形態の詳細な説明において、添付の概略的な図面を参照して示される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明による、行程生成最適化アルゴリズムを生成するためのアルゴリズム生成器を備えたマイクロリソグラフィ用投影露光装置の実施形態の図を示す。
図2】アルゴリズム生成器の機能の実施形態を示すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下で説明される例示的な実施形態において、機能的又は構造的に互いに類似した要素には、可能な限り同一又は類似の参照符号が付される。従って、特定の例示的な実施形態の個々の要素の特徴を理解するために、他の例示的な実施形態の説明又は本発明の一般的な説明を参照されたい。
【0035】
投影露光装置の説明を容易にするために、図中に示された構成要素のそれぞれの位置関係を明らかにするデカルトxyz座標系が図面内に描かれている。図1において、y方向は、図の平面に直交して図面から外へ延びており、x方向は右に向かって延び、z方向は上方に延びる。
【0036】
図1は、本発明によるマイクロリソグラフィ用投影露光装置10の実施形態を示す。本実施形態は、EUV波長範囲内での動作、すなわち100nm未満の波長、特におよそ13.5nm又はおよそ6.7nmの波長を有する電磁放射による動作に合わせて設計される。この動作波長の結果として、全ての光学素子は、ミラーとして具体化される。しかしながら、本発明は、EUV波長範囲における投影露光装置に限定されない。本発明による更なる実施形態は、例えばUV範囲内の動作波長、例えば365nm、248nm又は193nmに合わせて設計される。この場合、少なくとも幾つかの光学素子は、従来の透過レンズとして構成される。
【0037】
図1による投影露光装置10は、露光放射線14を生成するための露光放射線源12を含む。この事例では、露光放射線源12はEUV源として具体化されており、例えばプラズマ放射線源を含むことができる。露光放射線14は、まず照射光学ユニット16を通過し、そこからマスク18上へと向けられる。照射光学ユニット16は、マスク18上に入射する露光放射線14の様々な角度分布を生成するように構成される。ユーザが所望する「照射設定」とも呼ばれる照射の調整に応じて、照射光学ユニット16は、マスク18上に入射する露光放射線14の角度分布を構成する。選択可能な照射設定の例は、いわゆる二極照射、環状照射及び四極照射を含む。
【0038】
マスク18は、基板24を像形成するためのマスク構造を有しており、マスク変位ステージ20上に変位自在に取り付けられる。マスク18は、図1に示すように反射マスクとして具体化することもでき、あるいは、特にUVリソグラフィ用に、透過マスクとして構成することもできる。図1に従う実施形態において、露光放射線14は、マスク18において反射されると直ちに、基板24上にマスク構造を結像するように構成された投影レンズ22を通過する。基板24は、基板変位ステージ26上に変位自在に取り付けられる。投影露光装置10は、いわゆるスキャナ又はいわゆるステッパとして具体化することができる。露光放射線14は、ここではミラーの形態である多数の光学素子により、照射光学ユニット16内及び投影レンズ22内に経路設定される。
【0039】
図1による実施形態において、投影レンズは、単に4つの光学素子E1からE4を有しているにすぎない。全ての光学素子は可動自在に取り付けられる。さらに、それぞれのマニピュレータM1からM4が光学素子E1からE4の各々に関連付けられる。マニピュレータM1、M2及びM3は各々、それぞれの光学素子E1、E2及びE3のx方向及びy方向における変位、それゆえ光学素子のそれぞれの反射面がある面に対して実質的に平行な変位を可能にする。
【0040】
マニピュレータM4は、y軸に平行に配置された傾斜軸27の周りの回転により光学素子E4を傾かせるように構成される。結果として、E4の反射面の角度が入射放射線に対して変更される。マニピュレータについての更なる自由度が実行可能である。従って、例えば、妥当な光学素子の光学面に関して横方向の変位、又は反射面に直交する基準軸の周りの回転のための備えをしておくことができる。
【0041】
大まかに言って、マニピュレータM1乃至M4の各々は、所定の行程に沿った剛体運動を行うことにより、関連付けられた光学素子E1乃至E4の変位を達成するために設けられる。一例として、このような行程は、異なる方向の並進、傾斜及び/又は回転を任意の方式で組み合わせることができ、又はそうでない場合には、対応するマニピュレータの操作による関連付けられた光学素子の状態変数における異なる性質の変更から成るものとすることができる。
【0042】
投影露光装置10は、中央制御装置28をさらに含む。中央制御装置28は、露光プロセスを実行するときに投影露光装置10の種々の構成要素を制御する。露光プロセスを準備するために、中央制御装置28は、マスク選択情報32をマスク変位ステージ20に送信する。マスク変位ステージ20は直ちに、後続の露光プロセス用の所望のマスクをマスク・ライブラリから取り出し、このマスクを露光位置に装填する。
【0043】
さらに、中央制御装置28は、照射設定情報30を照射光学ユニット16に送信する。照射設定情報30は、後続の照射プロセス用に所望される、マスク上に放射される露光放射線14に関する角度分布を定める。既に上で述べたように、この角度分布はしばしば「照射設定」とも呼ばれる。照射光学ユニット16は、所望の照射設定の対応する設定を受け持つ。
【0044】
投影露光装置10は、マニピュレータM1乃至M4を制御するためのマニピュレータ制御部40を含む。マニピュレータ制御部40は、アルゴリズム生成器42及び行程確立装置44を含む。アルゴリズム生成器42は、行程生成最適化アルゴリズム52を生成し、行程確立装置44にこれを送信するように構成される。以下で詳細に論じられるように、行程確立装置44は、マニピュレータM1乃至M4を制御する役割を果たす制御信号を確立するために行程生成最適化アルゴリズム52を使用する。中央制御装置28は、次回の露光プロセスに関する結像パラメータ集合をアルゴリズム生成器42に与える。
【0045】
1つの実施形態の別形によれば、アルゴリズム生成器42は、投影露光装置10の外部に配置することもできる。マニピュレータ制御部40はこの場合には、行程生成最適化アルゴリズム52を読み込むための読み込み装置を含む。あるいは、最適化アルゴリズム52の制御パラメータのみを投影露光装置10の外部で生成し、これをマニピュレータ制御部40に送信することもまた可能である。
【0046】
結像パラメータ集合は、結像されるマスク構造に関する構造情報及び/又は照射設定に関する構造情報の少なくとも1つの項目を含む。1つの実施形態によれば、結像パラメータ集合は、照射設定情報30及びマスク構造情報46を含む。本出願の範囲内において、このような結像パラメータ集合は「使用構成」とも呼ばれる。照射設定情報30は、マスク18上に放射される露光放射線14の角度分布を識別する。マスク構造情報46は、結像されるマスク構造の正確な幾何学的複製を含むこともでき、又はそうでない場合には、例えば、線幅、マスク構造の幾何学的構造の特徴付け、マスク構造の向きなど、例えば中心構造と周辺構造とで区別される、結像されるマスク構造の本質的な構造の局面のみを指定する。
【0047】
以下の本文において、図2を参照して、本発明による行程生成最適化アルゴリズム52を生成するためのアルゴリズム生成器42の手続きの実施形態を、照射設定情報30及びマスク構造情報46の形で中央制御装置28により提供される結像パラメータに基づいて説明する。
【0048】
まず、アルゴリズム生成器42は、様々な結像パラメータ集合に適合した多数の格納アルゴリズム50が格納されたデータベース48にアクセスする。アルゴリズム生成器42は、最初にデータベース48が所定の結像パラメータに適合した格納アルゴリズム50を既に収容しているか否かをチェックする。
【0049】
適切に適合した格納アルゴリズム50がデータベース48内で入手可能である場合には、アルゴリズム生成器42はそれを行程生成最適化アルゴリズム52として行程確立装置44に送信する。入手可能でない場合には、アルゴリズム生成器42は、データベース48から格納アルゴリズム50うちの1つを後続の最適化方法のための開始アルゴリズムとして選択する。開始アルゴリズムは、一般的な標準アルゴリズムとすることができ、又はそうでない場合には、所定の結像集合に近い結像パラメータ集合に関して最適化されたアルゴリズムとすることができる。さらに、データベース48は、所定の結像パラメータ集合に対して既に予備的に最適化された格納アルゴリズム50を有することもできる。この場合には、アルゴリズム生成器42は、このアルゴリズムを開始アルゴリズムとして選択することができる。
【0050】
選択された開始アルゴリズムを所定の結像パラメータに適合させるために、ステップS1において最初に荷重パラメータ・コレクションが確立される。この荷重パラメータ・コレクションは、投影レンズ22の動作中に生じることが予測される収差パラメータ集合の集まりを表す。収差パラメータ集合は「荷重ケース」とも呼ばれる。収差パラメータ集合を生成するときに、露光プロセス中のレンズ素子加熱の形での熱的効果の結果としての収差パラメータの変化が最初に考慮に入れられる。
【0051】
収差パラメータ集合は、投影レンズ22の結像品質を記述するものであり、1つの実施形態によれば、ゼルニケ係数の集合を含む。ステップS1において、記憶装置56内に格納された、ゼルニケ係数の形の測定された収差パラメータの集合が最初に取り出される。そこで、次回の露光プロセス中にレンズ素子加熱の結果として生じることが予測される結像パラメータ集合における変化と、随意にその他の決定論的な動作依存性の影響とが、シミュレーションにより確立される。これらの変化は、次回の露光ステップのために予め定められた結像パラメータに依存して求められる。換言すれば、所定の結像パラメータのもとでのレンズ素子加熱の特性、及び、随意のその他の決定論的な動作依存性の影響が、目標を定めた方式でシミュレーション中に計算され、その結果もたらされる結像パラメータ集合における変化が確立される。次回の露光プロセスの持続時間の間に生じる全ての結像パラメータ集合が、前述の荷重パラメータ・コレクションを形成する。
【0052】
そこで、ステップS2において、荷重パラメータ・コレクションが、生じることが予測された更なる収差パラメータ集合によって補完される。このような補完の例は、気圧が変化した場合の収差パラメータの修正、一般的な関連構造の結像中に生じる、例えば縮尺誤差及び/又は収差パラメータ変化など、基本の結像収差の影響を含む。これらの補完的な収差パラメータ集合は特に、照射設定から独立した、投影レンズの補正能力についての「基本要件」として解釈することができる荷重ケースを含む。
【0053】
続いてステップS3において、荷重パラメータ・コレクションの収差パラメータ集合をリソグラフィ誤差に変換するためのそれぞれの変換パラメータ集合が確立される。「リソグラフィ誤差」は、投影レンズの誤差であると理解され、これはリソグラフィ像内で、すなわち基板面内に存在する実体のない(aerial)像内において、又はフォトレジスト上でのリソグラフィ像形成によって基板24上に生成された構造内で測定することができる。このようなリソグラフィ誤差は、結像パラメータ誤差とも呼ばれ、リソグラフィ像内で直接測定することができない波面収差とは対照的である。このようなリソグラフィ誤差の一例は、いわゆる「オーバーレイ誤差」である。既に上で述べたように、オーバーレイ誤差は、基板上での、結像したマスク構造の意図した位置と比べた局所での像位置の変位を表す。
【0054】
ステップS3により確立された変換パラメータ集合は、収差パラメータ集合を、選択されたリソグラフィ誤差、特にオーバーレイ誤差に変換することを可能にする。確立された変換パラメータ集合は、一般に線形係数データセットの形で利用可能である。このような線形係数データセットは行列で表すことができ、この行列は、フィールドポイントごとに、波面を特徴付けするゼルニケ係数をリソグラフィ変数に変換する。
【0055】
そこで、ステップS4において、最適化された行程生成最適化アルゴリズム52を生成するための最適化方法のためのメリット関数が生成される。メリット関数は、選択されたリソグラフィ誤差、特にオーバーレイ誤差が、後続の最適化のための適切な重みづけを受けるように設計される。
【0056】
そこで、ステップS5において、ステップS4において生成されたメリット関数に基づく最適化により、行程生成最適化アルゴリズム52が決定される。既に上で説明したように、行程生成最適化アルゴリズムは、1つの別形によれば、特異値分解又はチホノフの正則化に基づいて作成される。ここで、例えばチホノフの重みづけ又は特異値パラメータが、荷重ケースの要求条件が最良の限度まで満たされるという規定のもとで、最適化のために解除される。データベースから取得された格納アルゴリズム50は、標準アルゴリズム又は既に予備的に最適化されたアルゴリズムのいずれかとすることができ、これが前述のように開始アルゴリズムとしての役割を果たす。このプロセスにおいて使用される最適化方法のために、当業者に公知の種々の基本的なアルゴリズム、例えば、「シミュレートされたアニール」としても知られるシミュレートされた冷却、遺伝的アルゴリズム及び/又は進化アルゴリズム及び凸形計画法、特に逐次二次計画法(SQP)を利用することができる。後者の方法に関して、非特許文献2及び非特許文献3も参照される。
【0057】
アルゴリズム生成器42により生成された行程生成最適化アルゴリズム52は、行程確立装置44に送信され、更なる格納アルゴリズムとしてデータベース48内に格納される。最適化アルゴリズム52が行程確立装置44により用いられ、個々のマニピュレータM1乃至M4のための行程45が決定される。行程45は、光学素子E1乃至E4の対応する状態変数で実行される変更を定める。確立された行程45は、行程信号を介して個々のマニピュレータM1乃至M4に送信され、これらマニピュレータによってそれぞれ実行される補正の行程を予め決定する。これらは、既に生じた投影レンズ22の波面収差を補正するための、関連付けられた光学素子E1乃至E4の対応する変位を定める。行程45を確立するために、行程確立装置44は、露光プロセスを実行している間に、投影レンズ22のそれぞれ更新された収差パラメータ64を取得する。これらの収差パラメータ64は、例えば、波面を特徴付けするゼルニケ係数を含むことができる。
【0058】
アルゴリズム生成器42により生成された行程生成最適化アルゴリズム52は、露光プロセスで利用される結像パラメータ集合、すなわち特に照射設定及び使用されるマスク構造に対して、露光プロセスを妨げるような遅延なく行程を確立することができるような方式で適合される。それゆえ、UV波長範囲で投影露光装置を動作させるように設計された1つの実施形態による行程確立装置44は、更新された行程45を1秒毎に何回も、例えば100ミリ秒毎に1回生成し、従って実時間で行程を更新する。行程を1秒毎に何回も更新することは、例えば、フィールド露光が終了するたびに毎回マニピュレータを再調整することを可能にする。EUV投影露光装置に対して適合された実施形態においては、随意に、更新と更新との間により長い時間、例えば30秒を経過させることが可能である。
【0059】
最適化アルゴリズム52は、高々1000個の基底関数を有する数学的モデルに基づく。種々の実施形態によれば、最適化アルゴリズムは、高々400個、高々100個又は高々60個の基底関数に基づく。1つの実施形態によれば、行程44は、例えば特異値分解又はチホノフの正則化に基づく手法の場合に可能であるように、前もって計算された逆行列による行列乗算により確立される。この場合、行列のサイズをm×nとする。ここからm・nの行列乗算を続け、ここでmは典型的には、指定された数のゼルニケ係数と測定されたフィールドポイントの数との積から形成される。指定された数のゼルニケ係数の例は、36個、49個、64個又は100個のゼルニケ係数を含み、一方、測定されるフィールドポイントの数については30と100との間の値が適切である。ゼルニケ係数Z1が無視されるならば、ゼルニケ係数に関する指定された値は1つ減る。パラメータ「n」は、マニピュレータの全体として可能な自由度の数を表す。一例として、49個のゼルニケ係数が65個のフィールドポイントのそれぞれにおいて測定され又はシミュレートされ又は外挿され、かつ、マニピュレータについて自由度52が許容される場合、その結果として、行程45を生成するために165620の行列乗算となる。
【0060】
最適化アルゴリズム52は、当業者に周知のアルゴリズム、例えば「SVD」とも呼ばれる特異値分解及び/又はチホノフの正則化に基づくものとすることができる。どちらの場合でも、問題は、逆行列又は擬似逆行列を計算することによるx=Ap形式の行列乗算を実行することに還元される。ここで、xはマニピュレータで操作されるベクトルの変化であり、pは補正されるべき干渉であり、Aは適切な行列であり、一般には適切に正則化された感度行列の逆行列である。
【0061】
規則的に更新された投影レンズ22の収差パラメータは、収差パラメータ送信器54によって行程確立装置44に送信される。収差パラメータ送信器54は、記憶装置56及びシミュレーション装置58を有する。収差パラメータ64は、記憶装置56内に格納され、このパラメータは投影レンズ22における波面測定により確立されたものである。これらの測定結果は、外部の波面測定機器により収集することができる。しかしながら、代替的に、収差パラメータ54は、基板変位ステージ26に組み込まれた波面測定装置55によって測定することもできる。一例として、このような測定は、1枚のウェハの各々の露光後に規則的に取得することも、又は完全なウェハ・セットの露光後にそれぞれ取得することもできる。あるいは、測定の代わりに、シミュレーション、又はシミュレーションと少なくした測定との組合せを企てることができる。
【0062】
記憶装置56内に格納された収差パラメータ64の測定値は、随意に、シミュレーション装置58により、露光プロセス中にそれぞれの更新された状態に適合される。1つの実施形態によれば、現在の放射強度62がこの目的のために中央制御装置28によりシミュレーション装置58に規則的に送信される。これから、シミュレーション装置58は、それぞれの照射設定に基づいたレンズ素子加熱に起因してもたらされる収差パラメータ64の変化を計算する。さらに、シミュレーション装置は、投影露光装置10の周囲の圧力を監視する圧力センサ60から測定値を連続的に取得する。周囲圧力の変化が収差パラメータ64に与える影響は、シミュレーション装置58により考慮に入れられる。
【0063】
行程生成最適化アルゴリズム52の生成及び使用は、適切な実体により自動的に監視される。異常の場合には、多数の結像パラメータ集合に適した標準的な最適化アルゴリズムに基づいて、非常時動作への切り換えがなされる。異常は、行程コマンドの分析又は残余の波面の分析に基づいて検出することができる。このようにして、例えば、誤作動を、それゆえ異常の存在を、搖動している行程コマンドの観測から推論することができる。
【0064】
図2に基づいて説明されたアルゴリズム生成器42における結像パラメータ集合に関する格納アルゴリズムの最適化は、露光の中断中にも、又はそうでない場合には投影露光装置10の結像動作中にも行うことができる。それゆえ、例えば、最初に行程生成標準アルゴリズムを用いて露光動作を開始することができ、動作中に、使用した結像パラメータ集合に対して格納アルゴリズムを適合させることができる。適合された最適化アルゴリズムが完了すると、次にこれは、露光の一時停止中に行程確立装置44によって取り上げられる。
【符号の説明】
【0065】
10:投影露光装置
12:露光放射線源
14:露光放射線
16:照射光学ユニット
18:マスク
20:マスク変位ステージ
22:投影レンズ
24:基板
26:基板変位ステージ
E1、E2、E3、E4:光学素子
M1、M2、M3、M4:マニピュレータ
27:傾斜軸
28:中央制御装置
30:照射設定情報
32:マスク選択情報
40:マニピュレータ制御部
42:アルゴリズム生成器
44:行程確立装置
45:行程
46:マスク構造情報
48:データベース
50:格納アルゴリズム
52:行程生成最適化アルゴリズム
54:収差パラメータ送信器
55:波面測定装置
56:記憶装置
58:シミュレーション装置
60:圧力センサ
62:放射線強度
64:収差パラメータ
図1
図2