(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
減圧可能な処理容器内に配設された第1の電極に第1の高周波を出力する第1の高周波電源を電気的に接続するとともに、前記第1の電極に設けられる発熱体とヒータ電源とを電気的に接続するための第1および第2の給電ラインに前記発熱体を介して入ってくる高周波のノイズを減衰させるためのフィルタ回路を設けているプラズマ処理装置であって、
前記第1および第2の給電ライン上で前記発熱体から見て前記フィルタ回路の初段に第1および第2の空芯コイルがそれぞれ設けられ、
前記第1および第2の空芯コイルを包囲または収容して接地される導電性のケーシングが備えられ、
前記第1および第2の空芯コイルが、前記ケーシング内で空間的に並置されるとともに、電気的に直列接続された複数個の空芯コイル単体にそれぞれ分割され、
前記第1および第2の空芯コイルをそれぞれ構成する第1および第2のコイル導線が、互いに同軸で並進しながら略等しい巻線長で螺旋状に巻かれており、
前記複数個の空芯コイル単体の中で、最も初段に位置する空芯コイル単体が他の全ての空芯コイル単体よりも小さな浮遊容量を有し、
前記第1および第2の空芯コイルに、前記発熱体から伝搬してきた前記第1および第2の給電ライン上の高周波電流が同方向に流れる、
プラズマ処理装置。
前記複数個の空芯コイル単体の中で、最も初段に位置する空芯コイル単体が他の全ての空芯コイル単体よりも大きなインダクタンスを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
減圧可能な処理容器内で高周波を用いるプラズマ処理のために、前記処理容器内に設けられる所定の電気部品に第1および第2の線路を介して電気的に接続され、前記処理容器の外に設けられる電力系または信号系の外部回路を有し、前記電気部品を介して前記第1および第2の線路に入ってくる高周波のノイズを前記第1および第2の線路上に設けたフィルタ回路によって減衰させるプラズマ処理装置であって、
前記第1および第2の線路上で前記電気部品から見て前記フィルタ回路の初段に第1および第2の空芯コイルがそれぞれ設けられ、
前記第1および第2の空芯コイルを包囲または収容して接地される導電性のケーシングが備えられ、
前記第1および第2の空芯コイルが、前記ケーシング内で空間的に並置されるとともに、電気的に直列接続された複数個の空芯コイル単体にそれぞれ分割され、
前記第1および第2の空芯コイルをそれぞれ構成する第1および第2のコイル導線が、互いに同軸で並進しながら略等しい巻線長で螺旋状に巻かれており、
前記複数個の空芯コイル単体の中で、最も初段に位置する空芯コイル単体が他の全ての空芯コイル単体よりも小さな浮遊容量を有し、
前記第1および第2の空芯コイルに、前記電気部品から伝搬してきた前記第1および第2の給電ライン上の高周波電流が同方向に流れる、
プラズマ処理装置。
前記フィルタ回路は、前記処理容器内で主として処理ガスのプラズマの生成に寄与する高周波のノイズを選択的に減衰させる、請求項10〜13のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
前記フィルタ回路は、前記処理容器内で主としてプラズマから被処理体へのイオンの引き込みに寄与する高周波のノイズを選択的に減衰させる、請求項10〜13のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
前記フィルタ回路は、前記処理容器内のプラズマで発生した高調波または相互変調歪の高周波のノイズを選択的に減衰させる、請求項10〜13のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
前記複数個の空芯コイル単体の中で、最も初段に位置する空芯コイル単体が他の全ての空芯コイル単体よりも大きなインダクタンスを有する、請求項10〜16のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来のプラズマ処理装置において、ヒータ給電ライン上に設けられるフィルタ回路の機能は、ヒータ電源側の動作ないし性能を正常に保つ観点から、高周波電源よりサセプタを経由して入ってくる高周波のノイズを減衰させることだけに主眼が置かれており、フィルタ回路内の各段のLCローパス・フィルタにはインダクタンスの小さなコイルとキャパシタンスの大きなコンデンサが用いられている。
【0009】
しかしながら、本発明者は、サセプタに下部高周波印加方式とヒータ方式とを併用するプラズマ処理装置の開発・評価を進める中で、上記のような従来のフィルタ回路にはプロセス性能の面から問題点があることに気づいた。すなわち、高周波電源からサセプタに印加される高周波の電力損失とプロセス性能(たとえばエッチングレート)との間に一定の相関性(RF電力損失が大きいほどプロセス性能が低下するという関係)があるのはよく知られているが、従来のフィルタ回路はプロセス性能上無視できないほど多量のRF電力損失を生じていることが分かった。しかも、同機種のプラズマ処理装置でも1台1台のRF電力損失量にばらつき(機差)があり、これがプロセス性能の機差につながることも分かった。そして、かかる問題意識の下で幾多の実験と鋭意な研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するものであり、不所望な高周波のノイズを減衰させるためのフィルタ回路を備えるプラズマ処理装置において、フィルタ回路内のRF電力損失量およびその機差(装置間のばらつき)を極力少なくして、プロセス性能の再現性・信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の観点におけるプラズマ処理装置は、減圧可能な処理容器内に配設された第1の電極に第1の高周波を出力する第1の高周波電源を電気的に接続するとともに、前記第1の電極に設けられる発熱体とヒータ電源とを電気的に接続するための第1および第2の給電ラインに前記発熱体を介して入ってくる高周波のノイズを減衰させるためのフィルタ回路を設けているプラズマ処理装置であって、前記第1および第2の給電ライン上で前記発熱体から見て前記フィルタ回路の初段に第1および第2の空芯コイルがそれぞれ設けられ、
前記第1および第2の空芯コイルを包囲または収容して接地される導電性のケーシングが備えられ、前記第1および第2の空芯コイルが、前記ケーシング内で空間的に並置されるとともに、電気的に直列接続された複数個の空芯コイル単体にそれぞれ分割され、前記第1および第2の空芯コイルをそれぞれ構成する第1および第2のコイル導線が、互いに同軸で並進しながら略等しい巻線長で螺旋状に巻かれており、
前記複数個の空芯コイル単体の中で、最も初段に位置する空芯コイル単体が他の全ての空芯コイル単体よりも小さな浮遊容量を有し、前記第1および第2の空芯コイルに、前記発熱体から伝搬してきた前記第1および第2の給電ライン上の高周波電流が同方向に流れる。
本発明の第2の観点におけるプラズマ処理装置は、減圧可能な処理容器内で高周波を用いるプラズマ処理のために、前記処理容器内に設けられる所定の電気部品に第1および第2の線路を介して電気的に接続され、前記処理容器の外に設けられる電力系または信号系の外部回路を有し、前記電気部品を介して前記第1および第2の線路に入ってくる高周波のノイズを前記第1および第2の線路上に設けたフィルタ回路によって減衰させるプラズマ処理装置であって、前記第1および第2の線路上で前記電気部品から見て前記フィルタ回路の初段に第1および第2の空芯コイルがそれぞれ設けられ、
前記第1および第2の空芯コイルを包囲または収容して接地される導電性のケーシングが備えられ、前記第1および第2の空芯コイルが、前記ケーシング内で空間的に並置されるとともに、電気的に直列接続された複数個の空芯コイル単体にそれぞれ分割され、前記第1および第2の空芯コイルをそれぞれ構成する第1および第2のコイル導線が、互いに同軸で並進しながら略等しい巻線長で螺旋状に巻かれており、
前記複数個の空芯コイル単体の中で、最も初段に位置する空芯コイル単体が他の全ての空芯コイル単体よりも小さな浮遊容量を有し、前記第1および第2の空芯コイルに、前記電気部品から伝搬してきた前記第1および第2の給電ライン上の高周波電流が同方向に流れる。
【0012】
上記の装置構成においては、フィルタ回路の初段コイルが空芯コイルであるから、そのインダクタンスを非常に大きな値にすることで、インダクタンスの小さなコイルあるいはフェライト等の磁芯を入れたコイルに比して高周波の電力損失を著しく少なくすることができる。
また、初段コイルを構成する第1および第2の空芯コイルをそれぞれ構成する第1および第2のコイル導線が互いに同軸で並進しながら略等しい巻線長で螺旋状に巻かれていることにより、フィルタ回路における実抵抗成分の周波数特性の中で不定な異常増大が現れるのを防止ないし抑制することが可能であり、それによってプロセス性能の再現性を向上させることができる。
さらに、第1および第2の空芯コイルが、それらを包囲または収容して接地される導電性のケーシング内で空間的に並置されるとともに、電気的に直列接続された複数個の空芯コイル単体にそれぞれ分割され、複数個の空芯コイル単体の中で最も初段に位置する空芯コイル単体が他の全ての空芯コイル単体よりも小さな浮遊容量を有し、第1および第2の空芯コイルに、前記発熱体から伝搬してきた前記第1および第2の給電ライン上の高周波電流が同方向に流れるので、フィルタ回路内のRF電力損失量およびその機差(ばらつき)を一層少なくすることができる。
【0013】
上記の装置構成において、第1および第2の空芯コイルの巻線長の比は1に近いほど好ましく、厳密に1であるのが最も好ましい。また、第1および第2の空芯コイルの間で、同一の自己インダクタンスを得るために両空芯コイルの径を等しくするのが好ましく、最大の相互インダクタンスを得るために両空芯コイルを同心状に配置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラズマ処理装置によれば、上記のような構成および作用により、不所望な高周波のノイズを減衰させるためのフィルタ回路を備えるプラズマ処理装置において、フィルタ回路内のRF電力損失量およびその機差(装置間のばらつき)を極力少なくして、プロセス性能の再現性・信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置の構成を示す。このプラズマ処理装置は、上下部2周波印加方式の容量結合型プラズマエッチング装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の円筒型チャンバ(処理容器)10を有している。チャンバ10は保安接地されている。
【0018】
チャンバ10内には、被処理体としてたとえば半導体ウエハWを載置する円板形状のサセプタ12が下部電極として水平に配置されている。このサセプタ12は、たとえばアルミニウムからなり、チャンバ10の底から垂直上方に延びるたとえばセラミック製の絶縁性筒状支持部14により非接地で支持されている。この絶縁性筒状支持部14の外周に沿ってチャンバ10の底から垂直上方に延びる導電性の筒状支持部16とチャンバ10の内壁との間に環状の排気路18が形成され、この排気路18の底に排気口20が設けられている。この排気口20には排気管22を介して排気装置24が接続されている。排気装置24は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内の処理空間を所望の真空度まで減圧することができる。チャンバ10の側壁には、半導体ウエハWの搬入出口を開閉するゲートバルブ26が取り付けられている。
【0019】
サセプタ12には、第1の高周波電源28がRFケーブル30、下部マッチングユニット32および下部給電棒34を介して電気的に接続されている。ここで、高周波電源28は、主としてサセプタ12上の半導体ウエハWへのイオンの引き込みに寄与する所定の周波数たとえば13.56MHzの第1高周波を出力する。RFケーブル30は、たとえば同軸ケーブルからなる。下部マッチングユニット32には、高周波電源28側のインピーダンスと負荷(主に電極、プラズマ)側のインピーダンスとの間で整合をとるための整合回路が収容されるとともに、オートマッチング用のRFセンサ、コントローラ、ステッピングモータ等も備わっている。
【0020】
サセプタ12は半導体ウエハWよりも一回り大きな直径または口径を有している。サセプタ12の主面つまり上面は、ウエハWと略同形状(円形)かつ略同サイズの中心領域つまりウエハ載置部と、このウエハ載置部の外側に延在する環状の周辺部とに半径方向で2分割されており、ウエハ載置部の上には処理対象の半導体ウエハWが載置され、環状周辺部の上に半導体ウエハWの口径よりも僅かに大きな内径を有するフォーカスリング36が取り付けられる。このフォーカスリング36は、半導体ウエハWの被エッチング材に応じて、たとえばSi,SiC,C,SiO2の中のいずれかの材質で構成されている。
【0021】
サセプタ12上面のウエハ載置部には、ウエハ吸着用の静電チャック38および発熱体40が設けられている。静電チャック38は、サセプタ12の上面に一体形成または一体固着された膜状または板状の誘電体42の中にたとえばメッシュ状の導電体44を封入しており、導電体44にはチャンバ10の外に配置される外付けの直流電源45がスイッチ46、高抵抗値の抵抗48およびDC高圧線50を介して電気的に接続されている。直流電源45より印加される高圧の直流電圧により、クーロン力で半導体ウエハWを静電チャック38上に吸着保持できるようになっている。なお、DC高圧線50は、被覆線であり、円筒体の下部給電棒34の中を通り、サセプタ12を下から貫通して静電チャック38の導電体44に接続されている。
【0022】
発熱体40は、静電チャック38の導電体44と一緒に誘電体42の中に封入された例えばスパイラル状の抵抗発熱線からなり、この実施形態では
図3に示すようにサセプタ12の半径方向において内側の発熱線40(IN)と外側の発熱線40(OUT)とに2分割されている。このうち、内側発熱線40(IN)は、絶縁被覆された給電導体52(IN)、フィルタユニット54(IN)および電気ケーブル56(IN)を介して、チャンバ10の外に配置される専用のヒータ電源58(IN)に電気的に接続されている。外側発熱線40(OUT)は、絶縁被覆された給電導体52(OUT)、フィルタユニット54(OUT)および電気ケーブル56(OUT)を介して、やはりチャンバ10の外に配置される専用のヒータ電源58(OUT)に電気的に接続されている。この中で、フィルタユニット54(IN),54(OUT)はこの実施形態における主要な特徴部分であり、その内部の構成および作用については後に詳細に説明する。
【0023】
サセプタ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒通路60が設けられている。この冷媒通路60には、外付けのチラーユニット(図示せず)より配管を介して供給される所定温度の冷媒が流れるようになっている。冷媒の温度によって静電チャック38上の半導体ウエハWの温度を制御できる。さらに、ウエハ温度の精度を一層高めるために、伝熱ガス供給部(図示せず)からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管およびサセプタ12内部のガス通路62を介して静電チャック38と半導体ウエハWとの間に供給される。
【0024】
チャンバ10の天井には、サセプタ12と平行に向かい合って上部電極を兼ねるシャワーヘッド64が設けられている。このシャワーヘッド64は、サセプタ12と向かい合う電極板66と、この電極板66をその背後(上)から着脱可能に支持する電極支持体68とを有し、電極支持体68の内部にガス室70を設け、このガス室70からサセプタ12側に貫通する多数のガス吐出孔72を電極支持体68および電極板66に形成している。電極板66とサセプタ12との間の空間Sがプラズマ生成空間ないし処理空間となる。ガス室70の上部に設けられるガス導入口70aには、処理ガス供給部74からのガス供給管76が接続されている。電極板66はたとえばSi、SiCあるいはCからなり、電極支持体68はたとえばアルマイト処理されたアルミニウムからなる。
【0025】
シャワーヘッド64とチャンバ10の上面開口縁部との間は、たとえばアルミナからなるリング形状の絶縁体78が気密に塞いでおり、シャワーヘッド64は電気的にフローティング状態つまり非接地でチャンバ10に取り付けられている。シャワーヘッド64には、第2の高周波電源80がRFケーブル82、上部マッチングユニット84および上部給電棒86を介して電気的に接続されている。ここで、高周波電源80は、主としてプラズマの生成に寄与する所定の周波数たとえば60MHzの第2高周波を出力する。RFケーブル82は、たとえば同軸ケーブルからなる。マッチングユニット84には、高周波電源80側のインピーダンスと負荷(主に電極、プラズマ)側のインピーダンスとの間で整合をとるための整合回路が収容されるとともに、オートマッチング用のRFセンサ、コントローラ、ステッピングモータ等も備わっている。
【0026】
このプラズマエッチング装置内の各部たとえば排気装置24、高周波電源28,80、直流電源45のスイッチ46、ヒータ電源58(IN),58(OUT)、チラーユニット(図示せず)、伝熱ガス供給部(図示せず)および処理ガス供給部74等の個々の動作および装置全体の動作(シーケンス)は、たとえばマイクロコンピュータを含む装置制御部(図示せず)によって制御される。
【0027】
このプラズマエッチング装置において、エッチングを行なうには、先ずゲートバルブ26を開状態にして加工対象の半導体ウエハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック38の上に載置する。そして、処理ガス供給部74よりエッチングガス(一般に混合ガス)を所定の流量でチャンバ10内に導入し、排気装置24によりチャンバ10内の圧力を設定値にする。さらに、第1および第2の高周波電源28、80をオンにして第1高周波(13.56MHz)および第2高周波(60MHz)をそれぞれ所定のパワーで出力させ、これらの高周波をRFケーブル30,82、マッチングユニット32,84および給電棒34,86を介してサセプタ(下部電極)12およびシャワーヘッド(上部電極)64にそれぞれ供給する。また、スイッチ46をオンにし、静電吸着力によって、静電チャック38と半導体ウエハWとの間の接触界面に伝熱ガス(Heガス)を閉じ込める。そして、チラーユニットからサセプタ12内の冷媒通路60に一定温度に温調された冷却水を供給する一方で、ヒータ電源58(IN),58(OUT)をオンにして、内側発熱体40(IN)および外側発熱体40(OUT)を各々独立したジュール熱で発熱させ、サセプタ12上面の温度ないし温度分布を設定値に制御する。シャワーヘッド64より吐出されたエッチングガスは両電極12,64間で高周波の放電によってプラズマ化し、このプラズマで生成されるラジカルやイオンによって半導体ウエハWの主面の膜が所定のパターンにエッチングされる。
【0028】
この容量結合型プラズマエッチング装置は、シャワーヘッド64に60MHzというプラズマ生成に適した比較的高い周波数の第2高周波を印加することにより、プラズマを好ましい解離状態で高密度化し、より低圧の条件下でも高密度プラズマを形成することができる。それと同時に、サセプタ12に13.56MHzというイオン引き込みに適した比較的低い周波数の第1高周波を印加することにより、サセプタ12上の半導体ウエハWに対して選択性の高い異方性のエッチングを施すことができる。なお、通常、第2高周波には40MHz以上の任意の周波数を使用することができる。
【0029】
また、この容量結合型プラズマエッチング装置においては、サセプタ12にチラーの冷却とヒータの加熱を同時に与え、しかもヒータの加熱を半径方向の中心部とエッジ部とで独立に制御するので、高速の温度切換または昇降温が可能であるとともに、温度分布のプロファイルを任意または多様に制御することも可能である。
【0030】
次に、
図2〜
図15につき、この実施形態の主要な特徴部分であるフィルタユニット54(IN),54(OUT)内の構成および作用を説明する。
【0031】
図2に、サセプタ12に設けられる発熱体40に電力を供給するための給電部の回路構成を示す。この実施形態では、発熱体40の内側発熱線40(IN)および外側発熱線40(OUT)のそれぞれに対して実質的に同一の回路構成を有する個別の給電部を接続し、内側発熱線40(IN)および外側発熱線40(OUT)の発熱量または発熱温度を独立に制御するようにしている。以下の説明では、内側発熱線40(IN)に対する給電部の構成および作用について述べる。外側発熱線40(OUT)に対する給電部の構成および作用も全く同じである。
【0032】
ヒータ電源58(IN)は、たとえばSSRを用いて商用周波数のスイッチング(ON/OFF)動作を行う交流出力型の電源であり、内側発熱体40(IN)と閉ループの回路で接続されている。より詳細には、ヒータ電源58(IN)の一対の出力端子のうち、第1の出力端子は第1の給電ライン(電源線)100(1)を介して内側発熱線40(IN)の第1の端子aに電気的に接続され、第2の出力端子は第2の給電ライン(電源線)100(2)を介して内側発熱線40(IN)の第2の端子bに電気的に接続されている。
【0033】
フィルタユニット54(IN)は、第1および第2の給電ライン100(1),100(2)の途中にそれぞれ設けられる第1および第2の電源線フィルタ102(1),102(2)を有している。両電源線フィルタ102(1),102(2)は、回路構成が実質的に同じであり、図示の例では内側発熱線40(IN)側から見てそれぞれ初段のLCローパス・フィルタ104(1),104(2)と次段のLCローパス・フィルタ106(1),106(2)とをはしご形に縦続接続している。
【0034】
より詳細には、初段LCローパス・フィルタ104(1),104(2)は、それぞれ初段コイル108(1),108(2)と初段コンデンサ110(1),110(2)との直列回路で構成されている。初段コイル108(1),108(2)の一方の端子またはフィルタ端子T(1),T(2)は一対の給電導体52(IN)を介して内側発熱線40(IN)の両端子a,bにそれぞれ接続されており、初段コイル108(1),108(2)の他方の端子と接地電位部との間に初段コンデンサ110(1),110(2)がそれぞれ接続されている。
【0035】
次段LCローパス・フィルタ106(1),106(2)は、次段コイル112(1),112(2)と次段コンデンサ114(1),114(2)との直列回路で構成されている。次段コイル112(1),112(2)の一方の端子は初段コイル108(1),108(2)と初段コンデンサ110(1),110(2)との間の接続点m(1),m(2)にそれぞれ接続され、次段コイル112(1),112(2)の他方の端子と接地電位部との間に次段コンデンサ114(1),114(2)がそれぞれ接続されている。そして、次段コイル112(1),112(2)と次段コンデンサ114(1),114(2)との間の接続点n(1),n(2)は,電気ケーブル(ペアケーブル)56(IN)を介してヒータ電源58(IN)の第1および第2の出力端子にそれぞれ接続されている。
【0036】
かかる構成の給電部において、ヒータ電源58(IN)より出力される電流は、正極性のサイクルでは、第1の給電ライン100(1)つまり電気ケーブル56(IN)、次段コイル112(1),初段コイル108(1)および給電導体52(IN)を通って一方の端子aから内側発熱線40(IN)に入り、内側発熱線40(IN)の各部で通電によるジュール熱を発生させ、他方の端子bから出た後は、第2の給電ライン100(2)つまり給電導体52(IN)、初段コイル108(2)、次段コイル112(2)および電気ケーブル56(IN)を通って帰還する。負極性のサイクルでは、同じ回路を上記と逆方向に電流が流れる。このヒータ交流出力の電流は商用周波数であるため、初段コイル108(1),108(2)および次段コイル112(1) ,112(2)におけるインピーダンスまたは電圧降下は無視できるほど小さく、また初段コンデンサ110(1),110(2)および次段コンデンサ114(1),114(2)を通ってアースへ抜ける漏れ電流も無視できるほど少ない。
【0037】
この実施形態における特徴の1つは、初段LCローパス・フィルタ104(1),104(2)の初段コイル108(1),108(2)が発熱防止の観点より空芯コイルからなり、設置スペース(特に縦方向スペース)のコンパクト化のために好ましくは
図4に示すように電気的に直列接続された複数個たとえば2個の空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]でそれぞれ構成されていることである。そして、更なる特徴は、それら複数個の空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]が
図5〜
図8に示すようなコイル巻線構造でフィルタユニット54(IN)に設けられていることである。
【0038】
図4に示すように、第1の給電ライン100(1)の初段LCローパス・フィルタ104(1)における初段コイル108(1)を構成する2個の空芯コイル単体A(1),B(1)は、内側発熱線40(IN)側から見て電気的にこの順序で直列に接続されており、空芯コイル単体A(1)が最も初段の位置つまりフィタル端子T(1)に電気的に最も近い位置にある。また、第2の給電ライン100(2)の初段LCローパス・フィルタ104(2) における初段コイル108(2)を構成する2個の空芯コイル単体A(2),B(2)も、内側発熱線40(IN)側から見て電気的にこの順序で直列に接続されており、空芯コイル単体A(2)が最も初段の位置つまりフィタル端子T(1)に電気的に最も近い位置にある。
【0039】
図5および
図6において、フィルタユニット54(IN)は、導電板からなる箱状のカバーまたはケーシング120を有しており、このケーシング120にフィルタ構成部品の全部を収容している。特に、初段コイル108(1),108(2)をそれぞれ構成する2個の空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]にケーシング内のスペースの大部分が充てられ、初段コンデンサ110(1),110(2)および次段LCローパス・フィルタ106(1),106(2)は片隅の小さなスペースに配置されている。ケーシング120の材質としては、磁気的遮蔽能力の高くて防錆に優れた比透磁率の高いステンレス鋼が好適である。
【0040】
各々の空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]は、ヒータ電源52(IN)から内側発熱線40(IN)に十分大きな(たとえば30Aの)電流を流す給電線の機能に加えて、発熱(パワーロス)を防ぐ観点からフェライト等の磁芯を持たずに空芯で非常に大きなインダクタンスを得るために、太いコイル線とこれまでの常識に反するような大きさのコイルサイズ(たとえば直径22〜45mm、長さ150〜250mm)を有している。
【0041】
この実施形態では、ケーシング120内に2個の空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]が全体としてスペース的にも機能的にも効率的に取り付けられている。より詳細には、第1および第2の給電ライン100(1),100(2)の第1段空芯コイル単体A(1),A(2)同士が、ケーシング120の周回方向の一方の側面に寄って立設された絶縁体たとえば樹脂からなる円筒または円柱状のボビン114Aに同心状に装着されている。
【0042】
ここで、両空芯コイル単体A(1),A(2)相互間の巻線構造が特徴的である。すなわち、両空芯コイル単体A(1),A(2)をそれぞれ構成するコイル導線が、共通のボビン114Aの外周面に沿って
図7に示すようにボビン軸方向に重なり合って並進しながら等しい巻線長で螺旋状に巻かれている。両空芯コイル単体A(1),A(2)のそれぞれのコイル導線は、
図8に示すように、好ましくは同一の断面積を有する薄板または平角の銅線からなり、両者間の短絡を防ぐために、片方の空芯コイル単体A(2)のコイル導線を絶縁被覆たとえばテフロン(登録商標)チューブ120で覆っている。
【0043】
一方、両給電ライン100(1),100(2)の第2段空芯コイル単体B(1),B(2)同士は、ケーシング120内の略中心部に立設された別の支持軸114Bに同心状に装着されている。両空芯コイル単体B(1),B(2) 相互間の巻線構造も、上記した両空芯コイル単体A(1),A(2)相互間の巻線構造と同じであり、それぞれのコイル導線が共通のボビン114Bの外周面に沿ってボビン軸方向に重なり合って並進しながら等しい巻線長で螺旋状に巻かれている。
【0044】
図6に示すように、第1段空芯コイル単体A(1),A(2)の上端にフィルタ端子T(1),T(2)が取り付けられ、第1段空芯コイル単体A(1),A(2)と第2段空芯コイル単体B(1),B(2)とは下端側でコネクタ導体122を介して結線されている。また、第2段空芯コイル単体B(1),B(2)と初段コンデンサ110(1),110(2)とは上端側でコネクタ導体124を介して結線されている。コネクタ導体122,124は、各コイル単体を構成するコイル導線をそのまま利用してもよい。
【0045】
上記のように、この実施形態では、共通のボビンに装着される2系統の空芯コイルの間ではコイル巻線の螺旋の向きが同じである。すなわち、ボビン114Aに一緒に装着される第1系統つまり第1の給電ライン100(2)の第1段空芯コイル単体A(1)と第2系統つまり第2の給電ライン100(2)の第1段空芯コイル単体A(2)とは、それらを構成するコイル巻線の螺旋の向きが同じである。これにより、両空芯コイル単体A(1),A(2)には、サセプタ12から内側発熱線40(IN)および給電導体52(IN)を通って伝搬してきた2つの給電ライン上の高周波電流が同じ螺旋の向きで同方向に流れる。その際、つまり両空芯コイル単体A(1),A(2)で同時に高周波電流が流れると、両コイル単体をそれぞれ貫く磁束が同じ方向を向くという関係があり、両空芯コイル単体A(1),A(2)の間に結合定数が正の相互インダクタンスが得られる。同様に、ボビン114Bに一緒に装着される第2段空芯コイル単体B(1),B(2)の間でも、それらを構成するコイル巻線の螺旋の向きが同じであり、結合定数が正の相互インダクタンスが得られる。
【0046】
さらに、共通のボビンに装着される2系統の空芯コイル同士の間では、コイル径および巻線長が等しい。すなわち、ボビン114Aに装着される第1段の両空芯コイル単体A(1),A(2)は、同一材質および同一サイズ(太さ、長さ)の導線からなり、どちらもボビン114Aの外径で規定されるコイル径を有している。そして、両空芯コイル単体A(1),A(2)は、それぞれのコイル導線がボビン軸方向で交互に重なり合っている。ボビン114Bに装着される第2段の両空芯コイル単体B(1),B(2)も、同一材質および同一サイズ(太さ、長さ)の導線からなり、どちらもボビン114Bの外径で規定されるコイル径を有していて、それぞれのコイル導線がボビン軸方向で交互に重なり合っている。
【0047】
かかるコイル巻線構造においては、第1段の両空芯コイル単体A(1),A(2)の間で、自己インダクタンスが互いに等しく、かつ最大の相互インダクタンスが得られる。同様に、第2段の両空芯コイル単体B(1),B(2)の間でも、自己インダクタンスが互いに等しく、かつ最大の相互インダクタンスが得られる。このことは、後述するように、フィルタユニット120におけるRF電力損失を低減するうえで、さらにはRFパワー損失の機差を低減するうえで重要である。
【0048】
さらに、この実施形態では、水平方向で相隣接するボビン114A,114Bの間ではコイル巻線の螺旋の向きを各自のコイル中心部に発生する軸方向の磁界の向きが反対になるようにしている。たとえば、空芯コイル単体A(1),A(2)の中を磁力線が軸方向に上から下に貫く時は、隣の空芯コイル単体B(1),B(2)の中を磁力線が軸方向に下から上に貫くようにする。これにより、直列に接続されている第1段空芯コイル単体A(1)と第2段空芯コイル単体B(1)との間および第1段空芯コイル単体A(2)と第2段空芯コイル単体B(2)との間では、高周波の電流が空間的には反対の螺旋の向きで逆方向に流れるという関係があり、これによりボビン114A側のコイル単体A(1),A(2)とボビン114B側のコイル単体B(1),B(2)との間でも結合定数が正の相互インダクタンスが得られる。このことも、フィルタユニット120におけるRF電力損失を低減するのに寄与している。
【0049】
このように、ケーシング120内に収容される空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]が大きな自己インダクタスと極大の相互インダクタンスを有することにより、それらの空芯コイル単体で構成される初段コイル108(1),108(2)において5μH以上の合成インダクタンスを容易に実現することができる。
【0050】
なお、本発明においては、RF電力損失を極力少なくする観点から、特に第1段の空芯コイル単体A(1),A(2)が大きなインダクタンスを有することが好ましい。このため、
図6に示すように、第1段の空芯コイル単体A(1),A(2)の巻線数を後段の空芯コイル単体B(1),B(2)の巻線数よりも多くしている。
【0051】
また、初段コイル108(1),108(2)は、実際には、当然のことながら浮遊容量と損失分(抵抗)を有している。浮遊容量を極力小さくすることも、初段コイル108の電力損失を低減するうえで重要になる。かかる観点から、この実施形態では、初段コイル108(1),108(2)を構成する空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]を全てケーシング120の内壁面(接地電位面)から10mm以上離しており、これによって初段コイル108(1),108(2)と接地電位部間の合成浮遊容量つまり合成対地浮遊容量を30pF以下に抑えるようにしている。
【0052】
なお、多段接続の空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]のそれぞれのインダクタンスを足し合わせた総和インダクタンスが同じ値の場合は、第1段の空芯コイル単体A(1),A(2)の巻数が多いほど、全体の対地浮遊容量は小さくなる。また、多段接続の空芯コイル単体[A(1),B(1)]、[A(2)、B(2)]のそれぞれの対地浮遊容量を足し合わせた総和対地浮遊容量が同じ値の場合は、第1段の空芯コイル単体A(1),A(2)の浮遊容量が小さいほど全体の対地浮遊容量は小さくなる。このことは、本発明者がシミュレーションおよび実験で確認している。
【0053】
上記のように、第1段の空芯コイル単体A(1),A(2)の巻線を多くすること、あるいはそれらの対地浮遊容量を小さくすることが、初段コイル108(1),108(2)全体の合成対地浮遊容量を小さくするうえで最も効果が大きい。その意味では、たとえば、第1段の空芯コイル単体A(1),A(2)とケーシング120との間に特に大きな離間距離を設定するのが好ましい。あるいは、第1段の空芯コイル単体A(1),A(2)の巻数を後段の空芯コイル単体B(1)、B(2)の巻数よりもできるだけ多くするのが好ましい。
【0054】
図5および
図6に示すように、第2段空芯コイル単体B(1),B(2)と近接してケーシング120の側壁にたとえば樹脂製のボックス126が取付されており、このボックス126の中に次段LCローパス・フィルタ106(1),106(2)の全部が収容され、そのボックス126の下に初段コンデンサ110(1),110(2)が配置されている。第2段空芯コイル単体B(1),B(2)とボックス126との間には電磁シールドを兼ねる接地電位の導体板128が設けられ、この導体板128上に初段コンデンサ110(1),110(2)が実装されている。
【0055】
この実施形態のプラズマエッチング装置においては、第1の高周波電源28よりサセプタ12に印加された高周波の一部が内側発熱体40(IN)から第1および第2の給電ライン100(1),100(2)を伝ってフィルタ回路102(1),102(2)に入ってくる。フィルタ回路102(1),102(2)に入った高周波の電流は初段LCローパス・フィルタ104(1),104(2)でたとえば1/10以下まで減衰し、次段LCローパス・フィルタ106(1),106(2)に流れ込む高周波電流は非常に小さい。このため、次段コイル112(1),112(2)の電力損失は殆ど無視できるほどであり、次段コイル112(1),112(2)を小型の磁芯入りコイルで構成することもできる。もっとも、次段コイル112(1),112(2)がこれに近接する第2段空芯コイル単体B(1),B(2)と磁気的に結合するのは望ましくないので、導体板128で遮蔽している。この導体板128もケーシング120と同じ材質のものでよい。
【0056】
上記のように、サセプタ12側から給電ライン100(1),100(2)を伝ってフィルタ回路102(1),102(2)に入った高周波の殆どが初段LCローパス・フィルタ104(1),104(2)で減衰して消失し、それに伴ってフィルタ回路102(1),102(2)内のRF電力損失の殆どが初段LCローパス・フィルタ104(1),104(2)で生じる。
【0057】
本発明者は、この実施形態のプラズマエッチング装置において、初段コイル108(1),108(2)の合成インダクタンス(L)および合成対地浮遊容量(C)をそれぞれ横軸および縦軸にとって、フィルタ回路102(1),102(2)で生じるRF電力損失の全高周波パワー(高周波電源28の出力パワー)に占める割合つまりフィルタパワー損失率(%)をシミュレーションで求めたところ、
図9に示すような等高線図が得られた。なお、上記合成インダクタンス(L)および合成対地浮遊容量(C)は、発熱体40側から見たときの初段コイル108(1),108(2)の見掛けの合成インダクタンスおよび合成対地浮遊容量である。
【0058】
図9に示すように、インダクタンス(L)の値が大きいほど、また浮遊容量(C)の値が小さいほど、フィルタパワー損失率(%)が小さくなり、Lが5μH以上でCが30pF以下の領域(点線枠で示す領域)ではL,Cの値が変動してもフィルタパワー損失率(%)は必ず4%未満に収まることがわかる。一方、上記領域の外では、フィルタパワー損失率(%)を4%未満に収めることが困難または不可能であるだけでなく、LまたはCの小さな変化に対してフィルタパワー損失率(%)が大きく変化する。
【0059】
ところで、一般のプラズマエッチングにおいて、プロセス性能の代表的な指標であるエッチングレートの再現性許容値はばらつきが大体2%以下とされており、そのためにはフィルタパワー損失率(%)がその2倍以下つまり大体4%以下でなければならないとされている。したがって、各初段コイル108(1),108(2)のインダクタンス(L)が5μH以上で浮遊容量(C)が30pF以下であれば、エッチングレートの再現性許容値を確実にクリアすることができる。
【0060】
この実施形態においては、フィルタユニット54(IN)を上述したような構成とすることにより、かかるL,Cの数値条件を満たすことができる。特に、初段LCローパス・フィルタ104(1),104(2) では、共通のボビン114A,114Bにそれぞれ装着される一対の空芯コイル単体[A(1),A(2)],[B(1),B(2)]の間で、自己インダクタンスが等しく、相互インダクタンスが最大になるようなコイル巻線構造が採られている。
【0061】
本願発明者は、この実施形態のプラズマエッチング装置において、第1の給電ライン100(1)の初段コイル108(1)と第2の給電ライン100(2)の初段コイル108(2)との間で巻線長の比を0.6〜1.2の範囲内で変えた場合の両コイル108(1),108(2)の合成インピーダンス(Z)および実抵抗成分(R)を等価回路のシミュレーションで求めたところ、
図10〜
図15に示すような結果が得られた。
【0062】
このシミュレーション結果から分かることは、巻線長比が1の場合とそれ以外の場合とでは実抵抗成分(R)の周波数特性に顕著な差異があることである。すなわち、巻線長比が1以外つまり0.6(
図10B)、0.8(
図11)、0.9(
図12)、1.1(
図14)、1.2(
図15)の場合には、一様に9MHz付近で実抵抗成分(R)が角(つの)状に異常増大する特性(Q)がみられるのに対して、巻線長比が1の場合(
図13)はそのような実抵抗成分(R)の異常増大(Q)が全然みられない。もっとも、巻線長比が1より遠ざかるほど9MHz付近における実抵抗成分(R)の異常増大(Q)の度合いが大きくなることから、巻線長比が1に近づくほどそのような異常増大(Q)が次第に減少するものと考えられる。また、巻線長比が1以外の場合で実抵抗成分(R)の異常増大(Q)が現れる周波数領域は、図示の例では9MHz付近であるが、周囲の他の部品の構成やそれらの周波数特性に応じて変動すること、つまり機差があることも本発明者は実験等で確認している。
【0063】
なお、上記シミュレーションの周波数特性(
図10〜
図15)において、巻線長比が如何なる値でも一様に16MHz付近で実抵抗成分(R)が角(つの)状に増大するのは両コイル108(1),108(2)が並列共振特性を持つための当然の現象であり、不定(異常)な特性ではない。
【0064】
フィルタユニット54(IN)内の初段コイル108(1),108(2)において実抵抗成分(R)の周波数特性に上記のような機差を伴う不定な異常増大(Q)がみられる場合は、フィルタパワー損失率が増大する方向で不定に変動し、プロセス性能の再現性が低下する。しかるに、この実施形態では、上記のように初段コイル108(1),108(2)において巻線長比1の条件を安定確実に満たすコイル巻線構造を採っているので、実抵抗成分(R)の周波数特性に不定な異常増大(Q)が現れるのを確実に防止し、フィルタパワー損失率を許容値以下に抑制して、プロセス性能の再現性を改善することができる。
【0065】
以上、好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0066】
たとえば、
図16および
図17に、本発明によるコイル巻線構造の変形例を示す。
図16に示すコイル巻線構造は、2系統のコイルA,Bを共通のボビン114に同一のコイル径で装着し、かつ両コイルA,Bの巻線長比を1にする点では上記実施形態と同じであるが、両コイルA,Bのコイル導線同士がボビン軸方向で交互に重なり合う構成ではなく、両コイルA,B間で最大の相互インダクタンスが得られない。また、
図17に示すコイル巻線構造は、2系統のコイルA,Bを共通のボビン114に装着し、かつ両コイルA,Bの巻線長比を1にする点では上記実施形態と同じであるが、両コイルA,Bの径が相違し、しかもそれぞれのコイル導線同士がボビン軸方向で交互に重なり合う構成ではない。このため、両コイルA,Bの自己インダクタンスは同じでなく、相互インダクタンスは最大ではない。
【0067】
図16および
図17に示すようなコイル巻線構造は、上記実施形態で満たすべき要件の一部を欠くため、実抵抗成分(R)の周波数特性やフィルタパワー損失率ひいてはプロセス性能の再現性を向上させる効果が低減または半減する。
【0068】
また、上記した実施形態のプラズマエッチング装置では、サセプタ12に設ける発熱体40をサセプタ半径方向で内側の発熱線40(IN)と外側の発熱線40(OUT)に2分割したが、非分割または一体型のものも可能であり、その場合はヒータ電源および給電線も1系統で済む。
【0069】
また、上記した実施形態では、フィルタユニット54(IN),54(OUT)において,初段コイル108(1),108(2)をそれぞれ2個の空芯コイル単体[A(1)、B(1)]、[A(2)、B(2)]に分割した。しかし、初段コイル108(1),108(2)をたとえば3個の空芯コイル単体[A(1)、B(1)、C(1)]、[A(2)、B(2)、C(2)]にそれぞれ分割することも可能であり、あるいは1個の空芯コイル単体A(1)、A(2)のみでそれぞれ構成することも可能である。
【0070】
また、フィルタ回路102(1),102(2)の回路構成も種々の変形が可能であり、たとえば、次段のLCローパス・フィルタ106(1),106(2)の後段に第3段のLCローパス・フィルタを縦続接続する構成も可能である。
【0071】
上記実施形態では、プラズマ生成用の第2高周波(60MHz)をシャワーヘッド(上部電極)64に印加したが、第2高周波を第1高周波(13.56MHz)に重畳してサセプタ12に印加する下部2周波印加方式にも本発明は適用可能である。さらには、上部電極64には高周波を印加せずにサセプタ12に第1高周波(13.56MHz)のみを印加する下部1周波印加方式も可能である。また、サセプタ12に印加する第1高周波は13.56MHzに限定されるものでもなく、他の周波数も使用可能であることはもちろんである。フィルタユニット52に用いるケーシング120は、密閉した筐体構造に限らず、一部が開口していても構わない。
【0072】
上記実施形態は、チャンバ10内のサセプタ12に設けられる発熱体40とチャンバ10の外に設置されるヒータ電源58とを電気的に接続する一対のヒータ給電ライン100(1),ライン100(2)にイオン引き込み用の第1高周波のノイズを減衰させるためのフィルタ回路に係わるものであった。しかし、本発明は、そのような電源線フィルタに限定されるものでは決してなく、チャンバ内に設けられる所定の電気部品とチャンバの外に設けられる電力系または信号系の外部回路とを電気的に接続する一対の線路上に設けられる任意のフィルタ回路に適用可能である。したがって、該フィルタ回路によって減衰または遮断すべき高周波も任意に選定可能であり、たとえば主としてプラズマ生成に寄与する高周波でもよく、あるいは非線形回路としてのプラズマから発生する高調波あるいは相互変調歪(IMD:intermodulation distortion)の高調波であってもよい。
【0073】
また、本発明は、プラズマエッチング装置に限定されず、プラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリングなどの他のプラズマ処理装置にも適用可能である。また、本発明における被処理基板は半導体ウエハに限るものではなく、フラットパネルディスプレイ用の各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等も可能である。