【実施例】
【0104】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0105】
(実施例1)
各種フジツボ成体の12S rRNA遺伝子の塩基配列のデータベース化を行い、このデータベースに基づいて各種フジツボに特異的な塩基配列を特定し、プライマーを設計した。データベース化に供したフジツボ種を表1に示す。アカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、ココポーマアカフジツボは採集後に室内でアルテミア、珪藻(Chaetoceros gracilis)などを餌として与えて飼育されたものを99.5%エタノール(和光純薬製)に浸して固定し、実験に使用するまで4℃で保存した。なお、エタノール浸漬前は、数日間餌を与えずアルテミア由来のDNAの影響を排除した。その他のフジツボは採集直後に99.5%エタノールに浸漬し4℃で保存した。尚、オオアカフジツボは伊豆半島にて採集したものを使用した。
【0106】
【表1】
【0107】
大型のフジツボ成体であるアカフジツボ、キタアメリカフジツボ、ミネフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、シロスジフジツボ、サンカクフジツボ、チシマフジツボ、クロフジツボ、カメノテ、エボシガイ、ココポーマアカフジツボ、ヨーロッパフジツボ、ドロフジツボ、オニフジツボ、オオアカフジツボ、Cryptolepas rhachianechi、ミミエボシ、スジエボシは、解剖後、軟体部、可能であれば筋肉組織の小片(2〜3mm角)を清浄なメスを用いて切り出し、インビトロジェン社のEasy−DNAキットにより総DNAの抽出を行った。具体的には、上述のエタノール浸漬保存したフジツボ成体からエタノールを除いた後、これを1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、50μLのリシスバッファー(インビトロジェン製)を加えてプラスチックペッスルですり潰し、さらに300μLのリシスバッファーを加えて65℃で10分間処理した。次に、DNA沈澱用バッファー(インビトロジェン製、名称Precipitation Solution)150μLを加えて強く混合撹拌処理(voltex)し、さらにクロロホルム(和光純薬製)500μLを加えた後、13800gで15分間遠心分離処理してDNAの含まれる水層を別のチューブに移した。これに氷冷した99.5%エタノール1mLを加え撹拌混合して0℃に30分間静置してDNAを沈澱させ、遠心分離処理後エタノールを除き、さらに氷冷80%エタノール(和光純薬製)500μLを加えて沈澱させた。最終的に得られた沈澱(DNA)を風乾後、50μLのTEバッファー(インビトロジェン製)に溶解した。抽出用組織が小さい場合は適宜溶解バッファー量を減らした。また小型のフジツボであるイワフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、ムツアナフジツボ、ハナフジツボ、Semibalanus balanoides、Elminius modestus、コウダカキクフジツボ、キタイワフジツボ、また、上記大型のフジツボ成体に属するタテジマフジツボの中でも小型の個体に関しては、1個体の軟体部全体をそのまま同様の方法で抽出に供した。
【0108】
TEバッファーに溶解したDNAの濃度を分光光度計(GeneQuant Pro、アマシャムバイオサイエンス社)により測定した結果、ほとんどのサンプルで5μg以上のDNAが得られていることが確認されたが、イワフジツボなど非常に小型のフジツボにおいては1個体から得られるDNA量が少なかった。DNA濃度の測定結果に基づいて、20ng/μLのDNA濃度としたTEバッファー溶液を調整し、これをPCRの際に鋳型DNAとして供した。
【0109】
次に、上記操作により得られた総DNAを鋳型として、12S rRNA遺伝子をPCRにより増幅した。プライマーには、フジツボミトコンドリアの12S rRNA遺伝子に対するプライマーとして文献1〜4で報告されているものを用いた。
(文献1: R.A.Begum,T.Yamaguchi and S.Watabe(2004).Molecular phylogeny of thoracican barnacles based on the mitochondrial 12S and 16S rRNA genes.Sessile organisms,21,47-54.
文献2: T.D.Kocher, W.K.Thomas, A.Meyer, S.V.Edwards, S.Paabo, F.X.Villablansca and A.C.Wilson(1989). Dynamics of mitochondrial DNA evolution in animals: amplification and sequencing with conserved primers. Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,6196-6200.
文献3: O.Mokady, S.Rozenblatt, D.Graur and Y.Loya(1994). Coral-host specificity of red sea Lithophaga bivalves: interspecific and intraspecific variation in 12S mitochondrial ribosomal RNA.Mol.Mar.Biol.Biotech.,3,158-164.
文献4: S.R.Palumbi(1996). Nucleic acids II: the polymerase chain reaction. In: Molecular Systematics,ed. D.M.Hillis, C.Mortiz and B.K.Mable, Sinauer Associates, Sunderland, pp.205-248.)
【0110】
表2と配列番号52及び53に使用したプライマーの配列を示す。なお、これらのプライマーは、合成(シグマジェノシス)により得られたものであり、PCRに供するまで50pmol/μLのストック溶液(シグマジェノシス製)中に−20℃で保存した。使用前にストック溶液を純水(脱塩蒸留水、無菌、DNase、RNaseフリー、和光純薬)で5倍希釈し10pmol/μLとしてPCRに供した。PCRは、上記の操作により抽出した総DNAを鋳型とし、Taqポリメラーゼとしてジーンタック(ニッポンジーン)またはアドバンテージ2(クローンテック)を用いて行った。なお、鋳型DNAは20ng/μLに調製した溶液を2μL(40ng)、各プライマー溶液1μL(10pmol)を20μLの反応液に加えた。反応にはタカラPCRサーマルサイクラーDice(TP600)を用い、反応液の調製はそれぞれのTaqポリメラーゼに添付された方法に従った。具体的には、ジーンタックに関しては、滅菌水13.20μL、10xPCRバッファー(10xGene Taq Universal Buffer)2.00μL、2.5mM dNTP混合物1.60μL、ジーンタックポリメラーゼ0.20μL、プライマーはそれぞれ0.50μL、鋳型DNAは2.0μLとした。クローンテックアドバンテージ2に関しては、滅菌水14.20μL、10xPCR SAバッファー(10xGene Taq Universal Buffer)2.00μL、50×dNTP混合物0.40μL、50×ポリメラーゼ mix0.40μL、プライマーはそれぞれ0.50μL、鋳型DNAは2.0μLとした。なお、アドバンテージ2においては、添付された2種類の反応バッファーのうち良好な結果が得られたSAバッファーを使用した。
【0111】
【表2】
【0112】
まず、グラジエント機能を利用して最適アニーリング温度の推定を行った。グラジエントPCRでのアニーリング温度は、45.0℃〜65.0℃の12段階に設定した。96℃(ジーンタック)または95℃(アドバンテージ2)で1分間保ったあと、熱変性96℃(ジーンタック)または95℃(アドバンテージ2)30秒間、各温度でのアニーリング30秒間、伸長反応72℃(ジーンタック)または68℃(アドバンテージ2)30秒間という反応を35サイクル繰り返す条件で行った。反応産物はサイズマーカーとともに2%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Safe(インビトロジェン)によるDNAバンドの可視化により特定領域の増幅の有無を確認した。
【0113】
その結果、12S rRNA遺伝子のPCRにおいては、ニッポンジーンのジーンタックを用いた場合、アニーリング温度は53℃が最適であり、クローンテックのアドバンテージ2を用いた場合は54℃が最適ではあったが、45.0℃〜65.0℃のアニーリング温度範囲であれば、安定してPCRすることが可能であった。なお、増幅されたDNA断片はいずれのフジツボにおいても約350bpの長さであった。
【0114】
アガロース電気泳動にて増幅を確認したPCR産物からエタノール沈澱によりDNAを回収し、その一部を塩基配列決定に供した。PCR産物に99.5%エタノール50μL、3Mの酢酸ナトリウム(和光純薬製)2μL、125mMのEDTA(和光純薬製)2μLを加え、撹拌混合して15分間室温で静置した後、13800gで20分間遠心分離処理した。沈澱はさらに70μLの70%エタノールで洗浄し、得られた沈澱を乾燥後、6μLの純水(脱塩蒸留水、無菌、DNase、RNaseフリー、和光純薬)に溶解した。回収されたPCR産物(鋳型DNA)1μLと配列番号1に記載された塩基配列からなるプライマーを用い、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)により、サイクルシーケンス反応を行った。反応は、96℃10秒間、50℃5秒間、60℃4分間を25サイクル行い、終了後、再度エタノール沈澱を行った。得られた乾燥標品にHiDi Formamide(アプライドバイオシステムズ)20μLを加え、95℃で2分間の反応後、サンプルをDNAシーケンサーABI PRISM 310に供してシーケンシングを行った。また、塩基配列のデータはDNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング)を用いて解析した。
【0115】
各種フジツボ総DNAを鋳型とし、配列番号52及び配列番号53に記載された塩基配列からなるプライマーを用いて得られた12S rRNA遺伝子を含むDNA断片のシーケンシングの結果について、塩基配列を配列表の配列番号23〜50に示す。なお、解析領域は、得られたDNA断片のうち、全てのサンプルで塩基配列が決定できた領域である297bp〜305bpの範囲とした。また、配列表の配列番号23〜50に示す塩基配列は、それぞれの種において最も出現頻度の高かった塩基配列である。
【0116】
また、
図1に、アカフジツボ、キタアメリカフジツボ、ミネフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、シロスジフジツボ、サンカクフジツボ、チシマフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、イワフジツボ、クロフジツボ、ムツアナヒラフジツボ、カメノテ、エボシガイの塩基配列のシーケンシング結果を示す。
図1において、「:」はアカフジツボと同じ塩基であることを表し、「−」は塩基配列が欠損している部分を表している。
図1に示すように、便宜上、比較するDNA断片の塩基に1から311まで番号をつけた。このなかで、種間で変異の大きい領域とほとんど変異のみられない領域があったが、特に55番付近、70番付近、130番付近、172番付近、222番付近などは変異の大きな領域であった。
【0117】
なお、同一の鋳型DNAから12S rRNA用プライマーを用いてジーンタック、アドバンテージ2の2種類のTaqポリメラーゼにより増幅した場合、得られた塩基配列データは全く同じであった。
【0118】
次に、配列表の配列番号23〜50の塩基配列について、種間で変位の大きい領域に基づき、タテジマフジツボ、シロスジフジツボ、ドロフジツボ、サラサフジツボ、ココポーマアカフジツボ、サンカクフジツボ、クロフジツボ、イワフジツボ、アメリカフジツボ、ヨーロッパフジツボ、オオアカフジツボ、アカフジツボについて、特異的な塩基配列領域の特定を行ったところ、リアルタイムPCRにおいて高精度に測定できると考えられている300bp以下のDNA断片を挿むプライマー結合部位を選定することができた。各プライマーの塩基配列を配列表の配列番号1〜20、56及び57に示す。これらのプライマーを合成(シグマジェノシス)し、以下の実験に供した。
【0119】
(1)アカフジツボ検出用プライマー対の特異性
まず、合成したプライマーのうち、配列番号56及び57のアカフジツボ検出用プライマー対について、上記方法により得られたアカフジツボ成体並びにタテジマフジツボ成体の鋳型DNAを用いてPCRを行い、このプライマー対の有効性とPCRの最適条件について検討した。PCRは基本的には上述の方法に従い、タカラPCRサーマルサイクラーDice(TP600)のグラジエント機能を利用して最適アニーリング温度の検討を行なった。PCR産物はアガロースゲル電気泳動(3%アガロース)後にSYBR Safe(インビトロジェン)によるDNAバンドの可視化により検出した。PCRにおけるサイクル数は30サイクルとした。なお、タテジマフジツボは日本の沿岸に広く生息するフジツボであるとともに、実験室内での飼育法が確立していることから、アカフジツボの対照種として実験に用いた
アニーリング温度の検討を行った結果、59℃でもっとも増幅効率が高かったため、この温度でのPCRを行なうこととした。PCRの結果、アカフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供した場合、100bp以下の低分子領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号56及び57のアカフジツボ検出用プライマー対により増幅した84bpのDNA断片であると考えられた。
また、アカフジツボDNAとタテジマフジツボDNAを混合した鋳型DNAを用いた場合にも、アカフジツボDNAの量由来のシングルバンドが観察された。
以上の結果から、配列番号56及び57のアカフジツボ検出用プライマー対はアカフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0120】
(2)タテジマフジツボ検出用プライマー対の特異性
タテジマフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号1及び2のタテジマフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bp以下の低分子領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号1及び2のタテジマフジツボ検出用プライマー対により増幅した64bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がタテジマフジツボと比較的似ていると考えられるPlatylepas、Semibalanus、シロスジフジツボ、ドロフジツボ、サラサフジツボ、ヨーロッパフジツボ及びアメリカフジツボ(但し、Platylepas、Semibalanus、シロスジフジツボ及びサラサフジツボについては2個体分)について、鋳型DNAに配列番号1及び2のタテジマフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号1及び2のタテジマフジツボ検出用プライマー対はタテジマフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0121】
(3)シロスジフジツボ検出用プライマー対の特異性
シロスジフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号3及び4のシロスジフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bpより上の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号3及び4のシロスジフジツボ検出用プライマー対により増幅した110bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がシロスジフジツボと比較的似ていると考えられるミネフジツボ、タテジマフジツボ、ドロフジツボ、ヨーロッパフジツボ、アメリカフジツボ、イワフジツボ及びサラサフジツボ(但し、ミネフジツボ、タテジマフジツボ、イワフジツボ及びサラサフジツボについては2個体分)について、鋳型DNAに配列番号3及び4のシロスジフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号3及び4のシロスジフジツボ検出用プライマー対はシロスジフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0122】
(4)ドロフジツボ検出用プライマー対の特異性
ドロフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号5及び6のドロフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、200bpより上の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号5及び6のドロフジツボ検出用プライマー対により増幅した255bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がドロフジツボと比較的似ていると考えられるチシマフジツボ、ココポーマアカフジツボ、タテジマフジツボ、シロスジフジツボ、アメリカフジツボ、ヨーロッパフジツボ及びイワフジツボ(但し、チシマフジツボ、ココポーマアカフジツボ、タテジマフジツボ、シロスジフジツボ及びイワフジツボについては2個体分)について、鋳型DNAに配列番号5及び6のドロフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号5及び6のドロフジツボ検出用プライマー対はドロフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0123】
(5)サラサフジツボ検出用プライマー対の特異性
サラサフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号7及び8のサラサフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bpより上の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号7及び8のサラサフジツボ検出用プライマー対により増幅した120bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がサラサフジツボと比較的似ていると考えられるカメノテ、ヨーロッパフジツボ、サンカクフジツボ、タテジマフジツボ、イワフジツボ、アカフジツボ及びケハダカイメンフジツボ(但し、カメノテ及びヨーロッパフジツボについては2個体分)について、鋳型DNAに配列番号7及び8のサラサフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号7及び8のサラサフジツボ検出用プライマー対はサラサフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0124】
(6)ココポーマアカフジツボ検出用プライマー対の特異性
ココポーマアカフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号9及び10のシロスジフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bp付近の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号9及び10のココポーマアカフジツボ検出用プライマー対により増幅した103bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がココポーマアカフジツボと比較的似ていると考えられるアカフジツボ、イワフジツボ、カメノテ、クロフジツボ及びサンカクフジツボ各2個体分について、鋳型DNAに配列番号9及び10のココポーマアカフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号9及び10のココポーマアカフジツボ検出用プライマー対はオオアカフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0125】
(7)サンカクフジツボ検出用プライマー対の特異性
サンカクフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号11及び12のサンカクフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bp以下の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号11及び12のサンカクフジツボ検出用プライマー対により増幅した93bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がサンカクフジツボと比較的似ていると考えられるアカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、ヨーロッパフジツボ、タテジマフジツボ、イワフジツボ及びサラサフジツボ各2個体分について、鋳型DNAに配列番号11及び12のサンカクフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号11及び12のサンカクフジツボ検出用プライマー対はサンカクフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0126】
(8)クロフジツボ検出用プライマー対の特異性
クロフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号13及び14のクロフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bp付近の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号13及び14のクロフジツボ検出用プライマー対により増幅した100bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がクロフジツボと比較的似ていると考えられるココポーマアカフジツボ、アカフジツボ、イワフジツボ、カメノテ、サンカクフジツボ及びムツアナヒラフジツボ(但し、アカフジツボ、イワフジツボ、カメノテ、サンカクフジツボ及びムツアナヒラフジツボについては2個体分)について、鋳型DNAに配列番号13及び14のクロフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号13及び14のクロフジツボ検出用プライマー対はクロフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0127】
(9)イワフジツボ検出用プライマーの特異性
イワフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号15及び16のイワフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bpより上の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号15及び16のイワフジツボ検出用プライマー対により増幅した124bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がイワフジツボと比較的似ていると考えられるミネフジツボ、クロフジツボ、ヨーロッパフジツボ、タテジマフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ及びサラサフジツボ(但し、ヨーロッパフジツボ、タテジマフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ及びサラサフジツボについては2個体分)について、鋳型DNAに配列番号15及び16のイワフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号15及び16のイワフジツボ検出用プライマー対はイワフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0128】
(10)アメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボ検出用プライマー対の特異性
ヨーロッパフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号17及び18のアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bpより上の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号17及び18のアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボ検出用プライマー対により増幅した116bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボと比較的似ていると考えられるアカフジツボ、クロフジツボ、タテジマフジツボ、オオアカフジツボ、サンカクフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボについて、鋳型DNAに配列番号17及び18のアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号17及び18のアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボ検出用プライマー対はアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0129】
(11)オオアカフジツボ検出用プライマーの特異性
オオアカフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、(1)と同様の条件で配列番号19及び20のオオアカフジツボ検出用プライマーを用いてPCRを行った結果、200bpより上の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号19及び20のオオアカフジツボ検出用プライマーにより増幅した208bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がオオアカフジツボと比較的似ていると考えられるココポーマアカフジツボ、アカフジツボ、タテジマフジツボ、ミネフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、サンカクフジツボ、クロフジツボ、チシマフジツボ、さらには混合プランクトンについて、鋳型DNAに配列番号19び20のオオアカフジツボ検出用プライマーを加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されなかった。
以上の結果から、配列番号19及び20のオオアカフジツボ検出用プライマーはオオアカフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0130】
(実施例2)
本発明のプライマー対を用いた定量分析について検討した。
【0131】
まず、アカフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、これを0.2〜20ng/μL(反応液の最終濃度)の範囲で濃度調整し、配列番号56及び57のアカフジツボ検出用プライマー対を用いて実施例1と同様の条件でPCRを行った。但し、PCRのサイクル数は35サイクルとした。その結果、鋳型DNAの濃度によるバンドの濃淡は確認できなかった。そこで、PCRのサイクル数を25サイクルとしたところ、1〜10ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。結果を
図2に示す。また、アカフジツボDNAとタテジマフジツボDNAを混合した鋳型DNAを用いた場合にも、アカフジツボDNAの濃度に依存したPCR産物量(バンドの濃淡)が観察された。このように、鋳型DNAの濃度に応じてバンドに濃淡が生じることが確認されたことから、被験試料に含まれるフジツボ幼生に含まれるDNAに起因するバンドの濃淡に応じて、フジツボ幼生の個体数の定量分析が可能であると考えられた。
【0132】
また、ココポーマアカフジツボ、タテジマフジツボ、サンカクフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボ、ヨーロッパフジツボ、クロフジツボ、オオアカフジツボについて、上記と同様の実験を行った。その結果、PCRのサイクル数は35サイクルとした場合には、アカフジツボの場合と同様、鋳型DNAの濃度によるバンドの濃淡は確認できなかった。これに対し、PCRのサイクル数を25サイクルとしたところ、バンドの濃淡が確認された。即ち、
図3に示すココポーマアカフジツボの実験結果からは1〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認され、
図4に示すタテジマフジツボの実験結果からは2〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認され、
図5に示すサンカクフジツボの実験結果からは2〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認され、
図6に示すサラサフジツボの実験結果からは0.4〜10ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認され、
図7に示すイワフジツボの実験結果からは0.4〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認され、
図8に示すヨーロッパフジツボの実験結果からは0.2〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認され、
図9に示すクロフジツボの実験結果からは2〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。また、
図20に示すオオアカフジツボの実験結果からは、0.2〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。
【0133】
このように、
図3〜
図9、
図20に示す結果においても、鋳型DNAの濃度に応じてバンドに濃淡が生じることが確認されたことから、被験試料に含まれるフジツボ幼生に含まれるDNAに起因するバンドの濃淡に応じて、フジツボ幼生の個体数の定量分析が可能であると考えられた。
【0134】
(実施例3)
フジツボ幼生から総DNAを抽出するための条件について、タテジマフジツボのノープリウス幼生を用いて検討を行った。
【0135】
タテジマフジツボノープリウス幼生のエタノールへの固定を行った。即ち、実験室内でタテジマフジツボ成体から孵出したノープリウス幼生をその日のうちに回収して海水をできるだけ除いた後、99.5%エタノールを十分量加えて、タテジマフジツボノープリウス幼生固定溶液を調製した。この溶液は4℃で保存した。
【0136】
次に、以下(1)〜(3)に示すDNA抽出処理について検討した。(1)のDNA抽出処理は、タテジマフジツボノープリウス幼生を0、25、50、100個体を含むエッペンドルフチューブ(すべてエタノールを乾燥させたもの)をそれぞれ3個ずつ用意して行った。(2)のDNA抽出処理は、タテジマフジツボノープリウス幼生を0、1、10、100個体を含むエッペンドルフチューブ(すべてエタノールを乾燥させたもの)をそれぞれ4個ずつ用意して行った。(3)のDNA抽出処理は、タテジマフジツボノープリウス幼生を0、1、10、100個体含むエッペンドルフチューブ(すべてエタノールを乾燥させたもの)をそれぞれ5個ずつ用意して行った。
【0137】
(1)インビトロジェン社のEasy−DNAキットを用い、このキットに添付されたマニュアルに従ってDNA抽出を行った。即ち、DNA抽出用試料に50μLのリシスバッファーを加えてプラスチックペッスルですり潰し、さらに300μLのリシスバッファーを加えて65℃で10分間処理した。次にDNA沈澱用バッファー150μLを加えて強く撹拌混合処理し、さらにクロロホルム500μLを加えた後、13800gで15分間遠心分離処理してDNAの含まれる水層を別のチューブに移した。これに氷冷した99.5%エタノールを1mLを加え撹拌混合処理し、0℃で30分間静置してDNAを沈澱させ、遠心分離処理した後エタノールを除き、さらに氷冷80%エタノール500μLを加えて沈澱させた。最終的に得られたDNA沈澱は、風乾させた後に50μLのTEバッファーに溶解した。
【0138】
(2)乾燥させたサンプルの入った1.5mLエッペンドルフチューブに240μLのTEバッファー、15μLのリシスバッファー、7.5μLのDNA沈澱用バッファー、3.75μLのProtein Degrader(Proteinase K, 5mg/ml)を加えて60℃で一定時間(1、2または24時間)インキュベートし、その後225μLのリシスバッファー、90μLのDNA沈澱用バッファーを加えて強く撹拌混合処理をし、さらに562.5μLのクロロホルムを加えて強く撹拌混合処理をし、13800gで15分間遠心分離処理してDNAの含まれる水層を別のチューブに移した。これに氷冷した99.5%エタノールを750μL加え撹拌混合処理し、0℃で30分間静置してDNAを沈澱させ、遠心分離処理した後エタノールを除き、さらに氷冷80%エタノール500μLを加えて沈澱させた。最終的に得られたDNA沈澱は、風乾させた後に50μLのTEバッファーに溶解した。
【0139】
(3)キアゲン社のDNeasy Tissue Kitによるシリカゲル膜を利用したDNA抽出を行った。基本的にはこのキットに添付されたマニュアルに従って抽出した。即ち、DNA抽出用試料に180μLの抽出用バッファー(ATL buffer)と20μLのProteinase Kとを加えて撹拌混合処理した後、55℃で一定時間(1、2または24時間)インキュベートした(Proteinase K処理)。さらに200μLのバッファー(AL)を加えて撹拌混合処理した後、70℃で10分間インキュベートした。次に、200μLの99.5%エタノールを加えて撹拌混合処理した後、2mLのCollection TubeにセットしたDNeasy Mini Spin Columnに処理サンプルを供した。このチューブを1分間遠心分離処理して素通り画分を除いた後、Spin Columnのシリカゲル膜フィルターに吸着したDNAをBuffer AW1およびAW2で洗浄し、最終的には100μLの溶出バッファー(Buffer AE)によりDNAを溶出し、回収した。
【0140】
DNA抽出処理後の試料をリアルタイムPCRによる定量的解析に供して、Ct(Threshold Cycle)値を測定することにより、試料間のDNA抽出ばらつきを評価した。リアルタイムPCRによる定量的解析は、SYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ)を用いたインターカレータ法により行った。反応液は、純水9.5μL、プライマーRTMr12S−F(10μM)、RTMr12S−R(10μM)それぞれ0.5μL(最終濃度0.2μM)、鋳型DNAを2μL、そしてSYBR Premix Ex Taq(x2)を12.5μLを混合して調製した。装置はSmart Cycler II(Cephied社)を使用して、95℃で初期変性した後、95℃を5秒、60℃を20秒のPCRを40サイクル繰り返し、最後に融解曲線確認のための反応(60℃−95℃)を実施した。そして反応後、各試料のCt(Threshold Cycle)値を測定した。
【0141】
その結果、上記(3)のDNA抽出処理を行った場合に試料間のCt値ばらつきが最も少ないことが明らかとなった。また、上記(1)のDNA抽出処理を行った場合よりも上記(2)のDNA抽出処理を行った場合の方が試料間のCt値ばらつきを抑えることができた。さらに、Proteinase Kを添加した後のインキュベート時間を1、2および24時間とした場合でもCt値はほとんど同じであった。
【0142】
したがって、DNeasy Tissue Kitによるシリカゲル膜を利用したDNA抽出処理を採用することが好適であることがわかった。また、Proteinase Kを添加した後のインキュベート時間を1時間として処理時間の低減を図れることがわかった。
【0143】
また、タテジマフジツボ幼生をエッペンドルフチューブに収容し、乾燥後、ジルコニアボール(直径2mmまたは3mm)を数個(3〜5個)加えて、強く震盪することで幼生を破砕し、その後、上記(3)のDNA抽出をしたところ、試料間のCt値ばらつきをさらに抑えて、定量の再現性及び精度を向上できることが明らかとなった。この破砕処理を行うことで、クチクラの殻が硬いためにDNA抽出ばらつきが出やすいキプリス幼生についても、DNA抽出ばらつきを抑えて、定量の再現性及び精度を向上することができることが明らかとなった。
【0144】
また、融解曲線を確認した結果、温度ピークがすべて単一であった。したがって、目的の増幅産物(64bpのDNA断片)のみが得られ、その定量が行われたことが明らかとなった。
【0145】
尚、上記(1)及び(2)のDNA抽出処理を行った場合には、上記(3)のDNA抽出処理を行った場合と比較して試料間のCt値ばらつきが若干大きくなったものの、これらのDNA抽出方法を否定するものではなく、試料のすり潰し操作や、DNA沈殿の回収操作の試料間ばらつきを抑えることで、また、上記の破砕処理をDNA抽出処理前に実施することで、上記(3)のDNA抽出処理を行った場合と同程度のCt値ばらつきを達成することができると考えられる。
【0146】
尚、アカフジツボ幼生についても上記と同様の実験を行ったところ、タテジマフジツボ幼生で得られた結果と同様の結果が得られた。
【0147】
ここで、シロスジフジツボ幼生、ドロフジツボ幼生、サラサフジツボ幼生、ココポーマアカフジツボ幼生、オオアカフジツボ幼生、サンカクフジツボ幼生、クロフジツボ幼生、イワフジツボ幼生、アメリカフジツボ幼生及びヨーロッパフジツボ幼生を構成する成分は、タテジマフジツボ幼生及びアカフジツボ幼生を構成する成分とほぼ同等であることから、上記実験結果は、シロスジフジツボ幼生、ドロフジツボ幼生、サラサフジツボ幼生、オオアカフジツボ幼生、サンカクフジツボ幼生、クロフジツボ幼生、イワフジツボ幼生、アメリカフジツボ幼生及びヨーロッパフジツボ幼生についても成立するものと考えられる。
【0148】
(実施例4)
ココポーマアカフジツボ幼生、タテジマフジツボ幼生、アメリカフジツボ幼生、サンカクフジツボ幼生、アカフジツボ幼生について、リアルタイムPCRによる定量性について評価した。
【0149】
実験室内でアカフジツボ、ココポーマアカフジツボ、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ及びサンカクフジツボ成体から孵出したノープリウス幼生を数時間以内に回収(ほとんどがII期ノープリウス)し、海水をできるだけ除いた後、99.5%エタノールを十分量加えて、それぞれのノープリウス幼生をエタノールに固定してノープリウス幼生固定溶液を調製し、これを4℃で保存した。ノープリウス幼生固定溶液は、1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、それぞれ1、2、5、10、20、50および100個体の幼生を収容するようにした。DNA抽出処理は実施例3(3)と同様の処理とした。最終的に得られた100μLのDNA溶液から2μLを鋳型とし、実施例2に示したリアルタイムPCRに供した。即ち、1、2、5、10、20、50および100個体の幼生から抽出されたDNAを鋳型としたリアルタイムPCRのそれぞれの反応液には最終的には、0.02、0.04、0.1、0.2、0.4、1および2個体相当の幼生が含まれることになる。
【0150】
尚、リアルタイムPCRに用いたプライマーは、アカフジツボについては配列番号56及び57に示すアカフジツボ検出用プライマー対とし、ココポーマアカフジツボについては配列番号9及び10に示すココポーマアカフジツボ検出用プライマー対とし、タテジマフジツボについては配列番号1及び2に示すタテジマフジツボ検出用プライマー対とし、アメリカフジツボについては配列番号17及び18に示すアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボ検出用プライマー対とし、サンカクフジツボについては配列番号11及び12に示すサンカクフジツボ検出用プライマー対とした。
【0151】
アカフジツボ、ココポーマアカフジツボ、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ及びサンカクフジツボのノープリウス幼生のリアルタイムPCRの結果を
図10に示す。上記の通り、リアルタイムPCRのそれぞれの反応液には最終的には、0.02、0.04、0.1、0.2、0.4、1および2個体相当と非常に少ない幼生個体数であったにも関わらず、幼生個体数の対数とCt値との間に高い相関性が認められることが確認された。即ち、フジツボのノープリウス幼生がDNA抽出液100mL中に1個体以上存在する場合、本発明のプライマーを用いたリアルタイムPCRにより、高い定量性をもってフジツボ幼生の個体数の分析が可能であることがわかった。つまり、フジツボのノープリウス幼生の個体数が未知のサンプルにおいても、リアルタイムPCRを実施し、そのCt値を測定することで、正確な幼生個体数の定量分析ができると考えられた。
【0152】
また、上記と同様の実験を配列番号19及び20に示すオオアカフジツボ検出用プライマー対を用いてオオアカフジツボ幼生について実施した。結果を
図21に示す。この結果から、アカフジツボ、ココポーマアカフジツボ、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ及びサンカクフジツボのノープリウス幼生のリアルタイムPCRの結果と同様、オオアカフジツボ幼生についても、本発明のプライマーを用いたリアルタイムPCRにより、高い定量性をもってフジツボ幼生の個体数の分析が可能であることがわかった。つまり、フジツボのノープリウス幼生の個体数が未知のサンプルにおいても、リアルタイムPCRを実施し、そのCt値を測定することで、正確な幼生個体数の定量分析ができると考えられた。
【0153】
次に、複数のプランクトンが混在している被験試料を用いて、フジツボ幼生を特異的に検出・定量できるか確認した。
【0154】
プランクトンは以下のようにして得た。即ち、2006年9月5日および10月11日に東京湾内でプランクトンネット(ノルパック、口径50cm)を用いて約8mの鉛直曳きによりプランクトンサンプルの採集を行った。これにより約1600L分の海水中のプランクトンが採集されたことになる。採集したプランクトンは実験室に持ち帰った後、100μm(13XX)と1mm(20GG)の目開きのメッシュを用いてフジツボ幼生が含まれる画分を得た。つまり、フジツボ幼生は、1mmのメッシュを素通りし、100μmのメッシュでトラップされるので、1mm以上の大型プランクトンはあらかじめ除去して解析に供した。得られたプランクトンサンプルは海水を除いた後、99.5%エタノールを加えて固定し、4℃で保存した。
【0155】
尚、9月〜10月にかけては、東京湾内でアカフジツボ幼生、ヨーロッパフジツボ幼生、タテジマフジツボ幼生、サラサフジツボ幼生、ココポーマアカフジツボ幼生、サンカクフジツボ幼生、イワフジツボ幼生、クロフジツボ幼生、アメリカフジツボ幼生が採集されることは無いため、採集したプランクトンサンプルにこれらのフジツボ幼生が含まれることは無い。
【0156】
次に、得られたプランクトンサンプルを固定したエタノールを20等分してチューブに収容した。つまり、1チューブあたり80L分の海水から採集された混合プランクトンを含むことになる。そして、それぞれのチューブにアカフジツボノープリウス幼生を1、2、5、10、20、50または100個体加えたものをDNA抽出用サンプルとした。尚、1本のチューブに含まれる混合プランクトンを沈澱させた時の体積は約200μLであり、これはアカフジツボノープリウス幼生約12500個体分に相当する。すなわち、解析したサンプルにはアカフジツボノープリウス幼生の125〜12500倍の体積のプランクトンが含まれていることになる。アカフジツボノープリウス幼生のみのサンプルと同様に、それぞれの混合プランクトンを含むサンプルをDNA抽出処理し、リアルタイムPCRを行った。DNA抽出処理は実施例3(3)と同様の処理とし、最終的に得られた100μLのDNA溶液から2μLを鋳型とし、実施例3に示したリアルタイムPCRに供した。
【0157】
結果を
図11に示す。●はアカフジツボノープリウス幼生だけを含むサンプルの結果(
図10と同じ)であり、□はアカフジツボノープリウス幼生と野外採集混合プランクトンを含むサンプルの結果である。また、
図11におけるCt値は異なる3バッチのサンプルから得られた鋳型DNAを用いた3回の実験の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示している。野外採集プランクトンサンプル(アカフジツボ幼生は含有しない)を体積比で標的アカフジツボ幼生の10
2〜10
4倍量以上含んでいても、アカフジツボ幼生の定量性には影響を与えないことが判明した。さらに、別の時期にも海域で採集したプランクトンサンプルを用いて実験を行ったが、アカフジツボ幼生の定量には影響を及ぼさないことが確認された。
【0158】
尚、野外採集プランクトンサンプルのみをDNA抽出処理し、リアルタイムPCRに供した結果、Ct値が36.9、34.03、36.47、36.6となり、アカフジツボ幼生が0個体の試料の場合と同じ結果が得られた。つまり、野外採集プランクトンサンプルは、アカフジツボ幼生の定量には何ら影響を及ぼすことがないことがこの点からも明らかである。
【0159】
次に、混合プランクトンのチューブにアカフジツボノープリウス幼生を100個体加えたものをDNA抽出用サンプルとし、これを実施例3(3)と同様のDNA抽出処理した後に実施例1(1)と同様の方法でPCRした結果を
図12に示す。但し、PCRのサイクル数は35サイクルとした。また、プライマーには、アメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボ検出用プライマー対(配列番号17及び18)と、タテジマフジツボ検出用プライマー対(配列番号1及び2)と、サラサフジツボ検出用プライマー対(配列番号7及び8)と、ココポーマアカフジツボ検出用プライマー対(配列番号9及び10)と、サンカクフジツボ検出用プライマー対(配列番号11及び12)と、イワフジツボ検出用プライマー対(配列番号15及び16)と、クロフジツボ検出用プライマー対(配列番号13及び14)と、アカフジツボ検出用プライマー対(配列番号56及び57)を使用した。
【0160】
尚、
図12において上図(a)は混合プランクトン試料をPCRした場合の電気泳動結果を示す図であり、下図(b)が混合プランクトンにアカフジツボノープリウス幼生を100個体加えた試料をPCRした場合の電気泳動結果を示す図である。
図12に示される結果から、PCRのサイクル数を35サイクルとした場合には、試料中に存在し得ないヨーロッパフジツボやタテジマフジツボのバンドが検出され、フジツボ種の判定精度が低下することが判明した。
【0161】
そこで、同様の実験をPCRのサイクル数を25サイクルとして実施した。結果を
図13に示す。
図13に示す結果から、試料中に存在し得るアカフジツボ幼生のみを検出できることが判明した。したがって、PCRのサイクル数は35サイクル未満とすることが好ましく、PCRのサイクル数を25サイクルとすることがさらに好ましいことが明らかとなった。
【0162】
(実施例5)
フジツボ幼生は、I期ノープリウス幼生として孵化後すぐにII期ノープリウスとなり、その後は、海水中の植物プランクトンを餌として取り込んで成長する。そしてVI期ノープリウス幼生を経て摂餌をしない付着期のキプリス幼生となる。成長に伴い、サイズ、細胞数が増加するため、標的となる12S rRNA遺伝子の1個体当たりのコピー数も増加することになる。したがって、幼生個体数が同じであってもリアルタイムPCRの結果示されるCt値も幼生の発生段階で異なってくる。そこで、幼生の最終段階であるアカフジツボキプリス幼生を用いて、アカフジツボノープリウス幼生と同様の実験を行なった。
【0163】
実験室内でアカフジツボ成体から孵出したノープリウス幼生の一部を、珪藻Chaetoceros gracilisを餌として与え、キプリス幼生まで飼育し、ノープリウス幼生と同様に海水をできるだけ除いた後、99.5%エタノールを十分量加えて固定し、4℃で保存した。エタノールで固定した後、1.5mLのエッペンドルフチューブに1、2、5、10、20および50個体のキプリス幼生を収容し、ノープリウス幼生と同様に、DNA抽出処理し、リアルタイムPCRを行った。DNA抽出処理は実施例3(3)と同様の処理とし、最終的に得られた100μLのDNA溶液から2μLを鋳型とし、実施例3に示したリアルタイムPCRに供した。
【0164】
結果を
図14に示す。
図14において、●は初期ノープリウス幼生の結果(
図10と同じ)であり、△はキプリス幼生の結果である。また、
図14におけるCt値は異なる3バッチの幼生から得られた鋳型DNAを用いた3回の実験の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示している。この結果から、キプリス幼生1個体に対応するCt値は、初期ノープリウス幼生約5個体分に対応することが判明した。例えば
図14においてCt値が20の場合の個体数をみてみると、キプリス幼生では約4個体、初期ノープリウス幼生では約20個体に相当することが読み取れる。すなわち、キプリス幼生と初期ノープリウス幼生の標的鋳型DNAの量比は、およそ5:1であると考えられる。これらの幼生のサイズを体積換算すると、II期ノープリウス幼生からキプリス幼生で約5〜10倍になることが推定される(R. Kado and R. Hirano (1994). Larval development of two Japanese megabalanine barnacles, Megabalanus volcano (Pilsbry) and Megabalanus rosa (Pilsbry) (Cirripedia, Balanidae), reared in the lanoratory. J. Exp. Mar. Biol. Ecol. 175, 17-41.に記載された実測値から推定。)。このことから、この5:1という値はおおよそフジツボ幼生の体積を反映していると考えられる。また、それぞれの幼生のグラフでの直線の傾きはほぼ同じであることから、幼生の個体数によらず正確な定量が可能であると考えられる。
【0165】
以上の結果から、実際に野外採集プランクトンサンプルに含まれるフジツボ幼生の個体数を、キプリス幼生に換算した値として、または初期ノープリウス幼生に換算した値として算出できることが明らかとなった。また、本実施例により、Ct値から換算される幼生個体数の発生段階による相違が最大でも5倍程度であることが明らかとなった。付着期前の比較的短期間(1ヶ月以内)に幼生の出現ピークがあることと、その際の幼生数の増加率は、5倍という値に比較して圧倒的に大きな値になることとを勘案すると、今回開発されたリアルタイムPCRによるフジツボ幼生の定量的検出は、実海域での付着時期予測に十分適用可能と考えられる。
【0166】
(実施例6)
フジツボ幼生の個体数の定量精度をさらに向上させるための検討を行った。
【0167】
本願発明者等は、タテジマフジツボ検出用プライマー対(配列番号1及び2)で増幅されるDNA、シロスジフジツボ検出用プライマー対(配列番号3及び4)で増幅されるDNA、ドロフジツボ検出用プライマー対(配列番号5及び6)で増幅されるDNA、サラサフジツボ検出用プライマー対(配列番号7及び8)で増幅されるDNA、ココポーマアカフジツボ検出用プライマー対(配列番号9及び10)で増幅されるDNA、サンカクフジツボ検出用プライマー対(配列番号11及び12)で増幅されるDNA、クロフジツボ検出用プライマー対(配列番号13及び14)で増幅されるDNA、イワフジツボ検出用プライマー対(配列番号15及び16)で増幅されるDNA、オオアカフジツボ検出用プライマー対(配列番号19及び20)で増幅されるDNA、アカフジツボ検出用プライマー対(配列番号56及び57)で増幅されるDNAについて、塩基配列について鋭意検討した結果、共通の塩基配列GTATACCGCTGTを有していることを見出した。また、アカフジツボ検出用プライマー対(配列番号21及び22)で増幅されるDNAについても、この塩基配列を有していることを見出した。
【0168】
本願発明者等は、この塩基配列部を利用することにより、これらフジツボ種のDNAのみを選択的に蛍光標識し、仮にこれらのフジツボ種以外の生物がPCRにより増幅するケースが生じたとしても、その影響を排除できると考えた。
【0169】
そこで、この塩基配列部を利用したサイクリングプローブ法について検討した。
【0170】
まず、サイクリングプローブを設計した。サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子は、配列番号51で示される塩基配列からなる分子とし、3番目のアデニンをRNAとし、3’端には蛍光物質(ROX:6−カルボキシ−X−ローダミン)を標識し、5’端には消光物質(Eclipse)を標識して合成(タカラバイオ)した。このサイクリングプローブは、インタクトな状態では励起光を照射しても殆ど蛍光発光が起こらない。尚、サイクリングプローブ法の原理について、
図18に示す。
【0171】
次に、DNAの増幅量をサイクリングプローブ法によりモニタリングしながらリアルタイムPCRを行った。尚、サイクリングプローブ法は、定法にしたがい、増幅DNAとサイクリングプローブとのハイブリッドを形成させた後、RNaseHを添加してDNA−RNAハイブリッド部を切断し、励起光を照射して蛍光発光させた。試料のサイクリングプローブ濃度は10pmolとした。
【0172】
試料は以下のようにして調製した。実験室内でアカフジツボ成体から孵出したノープリウス幼生を数時間以内に回収(ほとんどがII期ノープリウス)し、海水をできるだけ除いた後、99.5%エタノールを十分量加えて、それぞれのノープリウス幼生をエタノールに固定してノープリウス幼生固定溶液を調製し、これを4℃で保存した。ノープリウス幼生固定溶液は、1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、それぞれ1、10および100個体の幼生を収容するようにした。DNA抽出処理は実施例3(3)と同様の処理とした。最終的に得られた100μLのDNA溶液から2μLを鋳型とし、リアルタイムPCRに供した。1、10および100個体の幼生から抽出されたDNAを鋳型としたリアルタイムPCRのそれぞれの反応液には最終的には、0.02、0.2および2個体相当の幼生が含まれることになる。また、アカフジツボ幼生数が同じで、混合プランクトンを含む試料を調製し、比較試料とした。
【0173】
リアルタイムPCRの結果を
図15に示す。アカフジツボ幼生のみが含まれる試料と、アカフジツボ幼生及び混合プランクトンを含む比較試料の双方とも、アカフジツボ幼生個体数とCt値とに十分な相関関係が見られ、且つ、双方の試料の相関関係に殆ど差異が現れないことが確認された。この結果から、上記サイクリングプローブを利用した方法により、十分な定量性をもってフジツボ幼生の個体数の定量分析が可能であることが明らかとなった。
【0174】
次に、アカフジツボ幼生個体数に対する蛍光強度について、PCRサイクル数及びサイクリングプローブ濃度の好適な条件について検討した。
【0175】
以下A〜Fの試料を実験に供した。尚、これらの試料は、
図15の結果を得るためにリアルタイムPCRに供した試料及び比較試料と同様の方法により調製した。
A:アカフジツボ幼生1個体
B:アカフジツボ幼生1個体+混合プランクトン
C:アカフジツボ幼生10個体
D:アカフジツボ幼生10個体+混合プランクトン
E:アカフジツボ幼生100個体
F:アカフジツボ幼生100個体+混合プランクトン
【0176】
PCRサイクル数は、30サイクル及び28サイクルの2条件とした。サイクリングプローブ濃度は10pmol及び5pmolの2条件とした。PCR後の蛍光写真を
図19に示す。
図19において、(a)が30サイクルの結果を示し、(b)が28サイクルの結果を示す。
【0177】
図19に示される結果から、PCR30サイクルでサイクリングプローブ濃度5pmolの条件では、蛍光強度に十分な差異が見られなかったが、他の条件ではアカフジツボ幼生個体数に応じた蛍光強度が得られ、特に、PCR28サイクルでサイクリングプローブ濃度10pmolの条件の場合には、
図16に示すように、アカフジツボ幼生個体数に応じた十分な蛍光強度が得られた。
【0178】
以上の結果から、サイクリングプローブ濃度とPCRサイクル数を最適な条件とすることで、非常に高い精度でフジツボ幼生の個体数を定量分析できることが明らかとなった。また、サイクリングプローブを用いることで、リアルタイムPCR装置を用いなくても一定サイクルの遺伝子増幅後の蛍光強度により幼生の定量が可能であることが示された。つまり、一定サイクルのPCRを行った後に遺伝子増幅量をモニタリングすることで、フジツボ幼生の個体数を定量分析できることが明らかとなった。
【0179】
(実施例7)
実海域から被験試料を採集し、本発明のプライマーセットの有効性を確認した。
【0180】
伊勢湾にて採水した1000Lの海水からプランクトンネット(目合い100μm、口径30cm、ポンプ採水)により採集したサンプル(1L、エタノール固定)を用いた。サンプルは2008年7月〜2009年8月にかけて毎月1回採集した。サンプルは実験を行うまで4〜10℃で保存し、その後、目合い100μmのプランクトンネットと遠心機を用いて50mL程度に濃縮後、2等分して、解析サンプルとストックサンプルとした。解析サンプルは遠心後に上清のエタノールをできるだけ除去した後3等分し、各々のエタノール量を10mLとなるように100%エタノールで調製した。3等分したサンプルはそれぞれエッペンチューブに1mLずつ分注し、10等分してからDNA抽出に供した。但し、この作業はプランクトン量に応じて適宜変更し、プランクトン量が多い場合には20等分したものから10個を選択するようにした。
【0181】
サンプルからの総DNAの抽出には、富士フイルム社製の簡易核酸抽出システムQuick Gene Mini80とQuick Gene DNA tissue kit Sを用いた。エッペンチューブを遠心後、ピペットを用いてエタノールをできるだけ除去した後に遠心減圧乾燥器で15分間処理することによりサンプルを乾燥させ、マニュアルに従って抽出した。但し、Proteinase Kの処理時間は1時間、最終的にDNAを回収する溶出バッファー(10mM Tris-HCl /1mM EDTA)量は100μLとした。抽出したDNAは4℃で保存し、10等分したDNA抽出液からそれぞれ5μLずつ採取してまとめた後、よく攪拌した後に2μLを取り出し鋳型DNAとした。
【0182】
抽出した鋳型DNAは、以下の(1)〜(10)及び(13)のプライマー対を用いてリアルタイムPCRに供した。また、アカフジツボについては、配列番号56及び57に示すアカフジツボ検出用プライマー対とは別に、配列番号21及び22に示すプライマー対を新たに設計し、本実施例においてその有効性を確認した。
(1)配列番号1及び2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むタテジマフジツボ(Amphibalanus amphitrite)検出用プライマー対、
(2)配列番号3及び4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むシロスジフジツボ(Fitsulobalanus albicostatus)検出用プライマー対、
(3)配列番号5及び6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むドロフジツボ(Fitsulobalanus kondakovi)検出用プライマー対、
(4)配列番号7及び8で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むサラサフジツボ(Amphibalanus reticulates)検出用プライマー対、
(5)配列番号9及び10で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むココポーマアカフジツボ(Megabalanus coccopoma)検出用プライマー対、
(6)配列番号11及び12で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むサンカクフジツボ(Balanus trigonus)検出用プライマー対、
(7)配列番号13及び14で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むクロフジツボ(Tetraclita japonica)検出用プライマー対、
(8)配列番号15及び16で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むイワフジツボ(Chthamalus challengeri)検出用プライマー対
(9)配列番号17及び18で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むアメリカフジツボ(Amphibalanus eburneus)及びヨーロッパフジツボ(Amphibalanus improvisus)検出用プライマー対
(10)配列番号19及び20で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むオオアカフジツボ(Megabalanus volcano)検出用プライマー対
(13)配列番号56及び57で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むアカフジツボ(Megabalanus rosa)検出用プライマー対
【0183】
リアルタイムPCRには、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq (Takara Bio)およびSmart Cycler(登録商標)II System (Takara Bio)を用いた。95℃を30秒のPCRを1サイクル、95℃を5秒、60℃を20秒のPCRを40サイクル繰り返す条件下で反応を行った後、融解曲線分析を行った。各反応液は総量25μLとし、各種フジツボの検量線を作成するため、添加する鋳型DNAの量を成体由来DNAを用いて0.25、0.5、2.5、5、10、25及び50ngの間で変化させた。加えて、幼生が採集できたものについては、幼生の個体数を1、2、10、50個体と変化させてリアルタイムPCRに供した。反応後、それぞれのフジツボの検量線を作成すると共に、供試サンプルのCt値を測定して幼生個体数の推定を行った。尚、推定幼生個体数は3等分したサンプル各々のCt値を用いた平均Ct値から、サンプル中の該当幼生のDNA量に換算し、ノープリウス幼生2期の数として算出した。
【0184】
算出したそれぞれのフジツボ幼生数の季節変化を表3及び
図22に示す。フジツボ類の出現ピークは6〜8月と9〜11月の2回であり、後者が卓越していた。主要なフジツボ類はアメリカフジツボ及びヨーロッパフジツボであり、次いでタテジマフジツボであり、いずれも6〜8月と10月〜11月に出現ピークを示すことが確認された。その他、サンカクフジツボ、アカフジツボ、イワフジツボなどが検出されたが、著しい季節変動を示した種は存在しなかった。
【0185】
【表3】
【0186】
また、アカフジツボについては、配列番号21及び22に示すアカフジツボ検出用プライマー対を用いた場合と、配列番号54及び55に示すプライマー対を用いた場合とで幼生個体数の定量性に大きな差異は見られなかったことから、配列番号21及び22に示すアカフジツボ検出用プライマー対についてもその有効性を確認することができた。
【0187】
以上、本発明のプライマーセットの有効性を確認することができた。
【0188】
(実施例8)
配列番号13及び14のクロフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行うことで、プライマーダイマーが生成する可能性が懸念された。そこで、クロフジツボ検出用プライマー対について、さらに検討を行った。
【0189】
具体的には、アカフジツボ、キタアメリカフジツボ、ミネフジツボ、サンカクフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、シロスジフジツボ、チシマフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、イワフジツボ、ムツアナヒラフジツボ、オオアカフジツボ、ココポーマアカフジツボ、カメノテ、エボシガイ、ハナフジツボ、ヨーロッパフジツボ、ドロフジツボ、コウダカキクフジツボ、キタイワフジツボ、オニフジツボ、ミミエボシ、スジエボシ、Semibalanus balanoides、 Elminius modestus、Cryptolepas rhachianechi、さらには実海域に一般的に存在しているプランクトンの遺伝子を認識しないと考えられる配列番号54及び55に示す新規クロフジツボ検出用プライマー対を設計した。
【0190】
次に、配列番号54及び55に示す新規クロフジツボ検出用プライマー対の特異性を実施例1と同様の方法で検討した。実施例1の(1)と同様の条件で配列番号54及び55に示す新規クロフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果、100bp付近の領域にシングルバンドが確認できた。これは、配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対により増幅した101bpのDNA断片であると考えられた。
また、ミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子領域の塩基配列がクロフジツボと比較的似ていると考えられるココポーマフジツボ、アカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、サンカクフジツボ、ムツアナフジツボ、カメノテについて、鋳型DNAに配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対を加えてPCRを行った結果、いずれにおいてもバンドは検出されず、プライマーダイマーの生成は全く起こっていないことが明らかとなった。
以上の結果から、配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対はクロフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0191】
さらに、混合プランクトンを認識しないかどうか確認を行った。結果を
図23に示す。
図23において、Aはクロフジツボ成体から抽出した鋳型DNAに対し配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果を示し、Bは東京湾にて採集した混合プランクトンに対し配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果を示し、Cは志津川湾にて採集した混合プランクトンに対し配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対を用いてPCRを行った結果を示している。
図23に示される結果からも明らかなように、配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対は、混合プランクトンサンプルを全く認識することなく、クロフジツボの鋳型DNAのみと特異的に反応することが確認できた。
【0192】
また、配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対を用いた定量分析について検討するため、実施例2と同様の方法で実験を行った。その結果、
図24に示すように、0.2〜4ng/μLにおいてバンドの濃淡を確認することができ、幼生の定量分析が十分に可能であると考えられた。
【0193】
そこで、配列番号54及び55のクロフジツボ検出用プライマー対を用いた場合と、配列番号13及び14のクロフジツボ検出用プライマー対を用いた場合とについて、実施例4と同様の方法でリアルタイムPCRによる定量性について評価した。
【0194】
結果を
図25に示す。
図25に示される結果から、新規プライマー対(
図25中の◆)を用いることで、配列番号13及び14のクロフジツボ検出用プライマー対(
図25中の■)を用いる場合よりもプライマーダイマーの生成を抑えられる可能性が示唆された。
【0195】
以上より、配列番号54及び55に記載のクロフジツボ検出用の新規プライマー対の有効性が確認された。