【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、1,3,5−トリアジン環の2,4位にビフェニリル基を有し、かつ6位にこれと異なる置換基を有した非対称構造を有するトリアジン誘導体(1)が、真空蒸着において非晶質の薄膜形成が可能であり、またこれらを有機電界発光素子等の有機半導体素子に用いた場合、汎用の材料を用いた場合に比べて高い電子移動度を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、一般式(1)
【0014】
【化1】
(式中、Arは2〜4環の多環芳香族炭化水素基を表す。)で示されるトリアジン誘導体に関するものである。
【0015】
また本発明は、一般式(2)
【0016】
【化2】
(式中、Arは2〜4環の多環芳香族炭化水素基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、B(OR)
2の2つのRは同一又は異なっていてもよい。又、2つのRは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成することもできる。)で示される化合物と、一般式(3)
【0017】
【化3】
(式中、Xは脱離基を表す。)で示される化合物とを、塩基及びパラジウム触媒の存在下にカップリング反応させることを特徴とする一般式(1)
【0018】
【化4】
(式中、Arは2〜4環の多環芳香族炭化水素基を表す。)で示されるトリアジン誘導体の製造方法に関するものである。
【0019】
さらに本発明は、一般式(1)
【0020】
【化5】
(式中、Arは2〜4環の多環芳香族炭化水素基を表す。)で示されるトリアジン誘導体を構成成分とすることを特徴とする有機半導体素子に関するものである。
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
Arで表される2〜4環の多環芳香族炭化水素基としては、例えば、ナフチル基、アントリル基、テトラセニル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基又はピレニル基等が挙げられる。
【0023】
Arで表されるナフチル基としては、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。合成が容易な点で1−ナフチル基が好ましい。
【0024】
Arで表されるアントリル基としては、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基等が挙げられる。合成が容易な点で、9−アントリル基がさらに好ましい。
【0025】
Arで表されるフェナントリル基としては、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基等が挙げられる。合成が容易な点で9−フェナントリル基がさらに好ましい。
【0026】
Arで表されるピレニル基としては、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基等が挙げられる。合成が容易である点で、1−ピレニル基がさらに好ましい。
【0027】
Arで表されるテトラセニル基としては、1-テトラセニル基、2−テトラセニル基、5−テトラセニル基等が挙げられる。
【0028】
Arで表されるトリフェニレニル基としては、1−トリフェニルレニル基、2−トリフェニレニル基等が挙げられる。
【0029】
次に本発明の製造方法について説明する。本発明のトリアジン誘導体(1)は次の反応式で示した方法により製造することができる。
【0030】
【化6】
(式中、Arは2〜4環の多環芳香族炭化水素基を表す。Xは脱離基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、B(OR)
2の2つのRは同一又は異なっていてもよい。又、2つのRは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成することもできる。)
化合物(2)におけるB(OR)
2としては、B(OH)
2、B(OMe)
2、B(O
iPr)
2、B(OBu)
2、B(OPh)
2等が例示できる。又、2つのR
1が一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成した場合のB(OR)
2の例としては、次の(I)から(VI)で示される基が例示でき、収率がよい点で(II)で示される基が好ましい。
【0031】
【化7】
化合物(2)の好ましい例としては、次の2−1から2−13(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、B(OR)
2の2つのRは同一又は異なっていてもよい。又、2つのRは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成することもできる。)を例示できるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
【化8】
一般式(2)で示される化合物は、例えば、特開2001−335516号公報に開示されている方法を用いて製造することができる。
【0033】
一般式(3)で示される化合物は、例えば、特開2006−62962号公報の記載の方法に従って製造することができる。
【0034】
化合物(3)におけるXで表される脱離基は、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。収率がよい点で、臭素原子が好ましい。
【0035】
「工程1」は、化合物(2)を、塩基及びパラジウム触媒の存在下に化合物(3)と反応させて本発明のトリアジン誘導体(1)を製造する方法であり、一般的な鈴木−宮浦反応の反応条件を適用することにより、収率よく目的物を得ることができる。
【0036】
「工程1」で用いることのできるパラジウム触媒としては、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硝酸パラジウム等の塩を例示できる。さらに、π−アリルパラジウムクロリドダイマー、パラジウムアセチルアセトナト、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及びジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム等の錯化合物を例示できる。
【0037】
これらのパラジウム触媒は単独で用いるか、パラジウム触媒含有の反応系中に第三級ホスフィンを添加して錯化合物を調整することによって用いることができる。この際に用いることのできる第三級ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、tert−ブチルジフェニルホスフィン、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2−(ジフェニルホスフィノ)−2’−(N,N−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)ビフェニル、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、トリ(2−フリル)ホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリス(2,5−キシリル)ホスフィン、(±)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル等が例示できる。入手容易であり、収率がよい点で、酢酸パラジウムとトリ(tert−ブチル)ホスフィンの組み合わせが好ましい。
【0038】
また、「工程1」で用いる第三級ホスフィンとパラジウム触媒とのモル比に特に制限はないが、1:10から10:1が望ましく、収率がよい点で1:2から5:1がさらに望ましい。反応に用いるパラジウム触媒と化合物(3)とのモル比に特に制限はないが、1:200から1:2が望ましく、収率がよい点で1:100から1:10がさらに望ましい。
【0039】
「工程1」の反応は塩基の存在化に行うことが必須である。この際、用いることのできる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等を例示することができ、収率がよい点で炭酸セシウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムが望ましい。塩基と化合物(2)とのモル比に特に制限はないが、1:2から10:1が望ましく、収率がよい点で1:1から3:1がさらに望ましい。
【0040】
「工程1」で用いる化合物(2)と化合物(3)とのモル比に特に制限はないが、2:1から5:1が望ましく、収率がよい点で2:1から3:1がさらに望ましい。
【0041】
「工程1」の反応は溶媒中で実施することもできる。この際、用いることのできる溶媒として、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル又はキシレン等が例示でき、これらを適宜組み合わせて用いてもよい。収率がよい点でテトラヒドロフランを用いることが望ましい。
【0042】
「工程1」の反応は、0℃から150℃から適宜選ばれた温度で実施することができ、収率がよい点で40℃から80℃で行うことがさらに望ましい。
【0043】
トリアジン誘導体(1)は、「工程1」の終了後に通常の処理をすることで得られる。必要に応じて、再結晶、カラム又は昇華等で精製してもよい。
【0044】
本発明のトリアジン誘導体(1)から成る有機半導体素子用薄膜の製造方法に特に限定はないが、真空蒸着法による成膜が可能である。真空蒸着法による成膜は、汎用の真空蒸着装置を用いることにより行うことができる。真空蒸着法で膜を形成する際の真空槽の真空度は、有機半導体素子作製の製造タクトタイムや製造コストを考慮すると、一般的に用いられる拡散ポンプ、タ−ボ分子ポンプ、クライオポンプ等により到達し得る1×10
−2〜1×10
−5Pa程度が望ましい。蒸着速度は、形成する膜の厚さによるが0.005〜1.0nm/秒が望ましい。また、トリアジン誘導体(1)は、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、酢酸エチル又は、テトラヒドロフラン等に対する溶解度が高いため、汎用の装置を用いたスピンコ−ト法、インクジェット法、キャスト法又は、ディップ法等による成膜も可能である。