特許第5734826号(P5734826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5734826
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】オレフィン樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20150528BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20150528BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20150528BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20150528BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20150528BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C08L23/02
   C08K5/20
   C08K5/56
   C08K5/49
   C08K9/02
   C08J7/00 305
   C08J7/00CES
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-278865(P2011-278865)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-129714(P2013-129714A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100161458
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 淳郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(72)【発明者】
【氏名】川本 尚史
(72)【発明者】
【氏名】漆原 剛
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼口 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】岡本 康平
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−107106(JP,A)
【文献】 特開2006−282985(JP,A)
【文献】 特開平4−348148(JP,A)
【文献】 特開2007−231036(JP,A)
【文献】 特開2000−198886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L23、C08J7、C08K5
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線照射により滅菌処理されて用いられる成形品用のオレフィン樹脂組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を有機アルミニウム化合物でマスキング処理したものを、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜0.5質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前又は重合中に配合し、
リン系酸化防止剤を、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜3質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前、重合中または重合後のいずれかにおいて配合することを特徴とするオレフィン樹脂組成物の製造方法。
(式中、Rは分岐および/または置換基を有してもよい炭素原子数12〜24のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、炭素原子数6〜18の置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【請求項2】
上記有機アルミニウム化合物がトリアルキルアルミニウムである請求項1記載のオレフィン樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
上記放射線照射がγ線照射である請求項1または2記載のオレフィン樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項記載のオレフィン樹脂組成物の製造方法で得られたオレフィン樹脂組成物を成形してなることを特徴とする医療・衛生用途の成形品。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を有機アルミニウム化合物でマスキング処理したものを、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜0.5質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前又は重合中に配合し、
リン系酸化防止剤を、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜3質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前、重合中または重合後のいずれかにおいて配合する工程を備え、重合により得られたオレフィン樹脂組成物を成形後、放射線照射により滅菌処理することを特徴とする成形品の製造方法。
(式中、Rは分岐および/または置換基を有してもよい炭素原子数12〜24のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、炭素原子数6〜18の置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン樹脂組成物の製造方法に関し、詳しくは放射線照射により滅菌処理されて用いられる成形品用のオレフィン樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療器具、衛生商品等のキット商品では、容器に内容物を充填し、密封して滅菌処理を行う製造方法が普及している。滅菌処理としては、オートクレーブによる滅菌、エチレンオキサイドガスによる滅菌、ガンマ線、電子線等の放射線照射による滅菌が採用されている。しかし、オートクレーブによる滅菌は、高温・高圧下での処理方法のため、容器に高い耐熱性が要求される。また、エチレンオキサイドガスによる滅菌処理は、残留ガスの発ガン性が指摘されており、これらの処理方法の利用は減少傾向にあり、ガンマ線もしくは電子線滅菌の利用が注目されている。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィン材料は、通常殺菌線量の目安とされる20kGy(グレイ)程度の照射後に、分解・劣化が著しく進行し、伸びや耐衝撃強度等の力学的特性が低下したり、ポリオレフィン材料の安定化目的で添加された酸化防止剤等の各種添加剤が変質して著しい変色が生じたりする問題があった。
【0004】
これまでに、放射線照射によってポリオレフィン材料に生ずる問題を解決することを目的として、例えば以下のような種々のポリオレフィン組成物が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ポリオレフィン樹脂にトリアジン環を有する特定のヒンダードアミン系の光安定剤を添加することが開示されている。
【0006】
特許文献2には、ポリオレフィンに対し、ビス(1−アルキル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートで表されるヒンダードアミン化合物を添加したポリオレフィン組成物が開示されている。
【0007】
特許文献3には、ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、リン系酸化防止剤のジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト0.01〜2重量部、及び、ヒンダードアミン系化合物0.01〜2重量部を配合したポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
【0008】
特許文献4には、ポリプロピレン単独重合体、エチレン含有量が5重量%以下のプロピレン−エチレンランダム共重合体、又はこれらの樹脂混合物100質量部に対し、リン系酸化防止剤0.01〜0.125重量部、ヒンダードアミン化合物0.01〜0.1重量部、及び、ステアリン酸カルシウム0.01〜0.1重量部を配合し、メルトフローレートが0.5〜10g/10分であるポリプロピレン組成物が開示されている。
【0009】
特許文献5には、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、硫黄系酸化防止剤の4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)を0.1〜3.0重量部及び紫外線吸収剤の2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールを0.1〜3.0重量部を含有した樹脂組成物が開示されている。
【0010】
特許文献6には、モノアルキルアシッドホスフェート、ジアルキルアシッドホスフェート及びアルキルハイドロゼンホスファイトから選ばれる有機リン化合物を配合したポリプロピレン樹脂組成物が開示されており、実施例ではさらにフェノール系酸化防止剤(テトラキス〔メチレン−3−(3’−5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン)0.1質量部を配合しており、放射線照射後の黄変を改善した効果が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−43745号公報
【特許文献2】特開平07−188472号公報
【特許文献3】特開平5−209095号公報
【特許文献4】特開2007−231036号公報
【特許文献5】特開平9−12786号公報
【特許文献6】特開2000−198886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ポリオレフィン材料を医療や食品向けの衛生用途として使用する場合、安全性に懸念があってはならず、例えば、溶出基準に合格するものでなければならない。また、誤投与の防止のために内容物の視認性が求められ、透明性が良好であることが要求される。これまでに種々提案されたものについては、放射線照射後の物性低下や黄変について改善効果が示されているものの、実際には、溶出性や透明性については充分に満足できるものではなかった。また、特許文献4では、ヒンダードアミン化合物を用いることを提案しているが、ヒンダードアミン骨格に毒性があり実際に毒性を示す化合物が多い。低毒性の高分子量ヒンダードアミン化合物の使用が考えられるが、高分子量ヒンダードアミン化合物を用いると成形品に白化が生じやすい問題があり、医療や食品向けの衛生用途に用いる場合にはさらなる改善を必要としていた。
【0013】
そこで本発明の目的は、放射線照射による滅菌処理後の物性低下や黄変の発生が抑制されたオレフィン樹脂組成物を製造することのできるオレフィン樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記現状に鑑み検討を重ねた結果、オレフィンモノマーの重合の際に、有機アルミニウムでマスキングされたフェノール系酸化防止剤を配合し、リン系酸化防止剤を重合の際または重合後に配合してオレフィン樹脂組成物を製造することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明のオレフィン樹脂の製造方法は、放射線照射により滅菌処理されて用いられる成形品用のオレフィン樹脂組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を有機アルミニウム化合物でマスキング処理したものを、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜0.5質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前又は重合中に配合し、
リン系酸化防止剤を、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜3質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前、重合中または重合後のいずれかにおいて配合することを特徴とするものである。
(式中、Rは分岐および/または置換基を有してもよい炭素原子数12〜24のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、炭素原子数6〜18の置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【0016】
本発明のオレフィン樹脂組成物の製造方法は、上記有機アルミニウム化合物がトリアルキルアルミニウムであることが好ましい。
【0017】
また、本発明のオレフィン樹脂組成物の製造方法は、上記放射線照射がγ線照射であることが好ましい。
【0018】
本発明の成形品は、上記何れかのオレフィン樹脂組成物の製造方法で得られたオレフィン樹脂組成物を成形してなることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の成形品の製造方法は、下記一般式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を有機アルミニウム化合物でマスキング処理したものを、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜0.5質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前又は重合中に配合し、
リン系酸化防止剤を、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜3質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前、重合中または重合後のいずれかにおいて配合する工程を備え、重合により得られたオレフィン樹脂組成物を成形後、放射線照射により滅菌処理することを特徴とするものである。
(式中、Rは分岐および/または置換基を有してもよい炭素原子数12〜24のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、炭素原子数6〜18の置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【発明の効果】
【0020】
本発明により、放射線照射による滅菌処理後の物性低下や黄変の発生が抑制されたオレフィン樹脂組成物を製造することのできるオレフィン樹脂組成物の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のオレフィン樹脂の製造方法は、放射線照射により滅菌処理されて用いられる成形品用のオレフィン樹脂組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を有機アルミニウム化合物でマスキング処理したものを、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜0.5質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前又は重合中に配合し、
リン系酸化防止剤を、重合により得られるオレフィン樹脂100質量部に対して0.001〜3質量部となるようにオレフィンモノマーの重合前、重合中または重合後のいずれかにおいて配合することを特徴とするものである。
(式中、Rは分岐および/または置換基を有してもよい炭素原子数12〜24のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、炭素原子数6〜18の置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【0022】
前記一般式(1)中のRで表される、分岐を有してもよい炭素原子数12〜24のアルキル基としては、例えば、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。アルキル基の炭素原子数が12より少ないフェノール系酸化防止剤は揮散しやすくなる場合があり、アルキル基の炭素原子数が24を超えると、フェノール系酸化防止剤の分子量に対するフェノールの割合が低下して、安定化効果が低下する場合がある。
【0023】
これらアルキル基は、酸素原子、硫黄原子、又は、下記のアリール基で中断されていてもよく、アルキル基中の水素原子が、ヒドロキシ基、シアノ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基等の鎖状脂肪族基、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、2H−ピラン、4H−ピラン、フェニル、ビフェニル、トリフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピロリジン、ピリンジン、インドリジン、インドール、イソインドール、インダゾール、プリン、キノリジン、キノリン、イソキノリン、又はシクロアルキル基等の環状脂肪族基で置換されていてもよい。また、これらの中断又は置換は組み合わされていてもよい。
【0024】
前記一般式(1)中のRで表される、置換されていてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基中の水素原子が、アルキル基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよく、該アルキル基は酸素原子、又は硫黄原子で中断されていてもよい。
【0025】
前記一般式(1)中のRで表される、炭素原子数6〜18の置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、4−第三ブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ベンジル基、フェニルエチル基、1−フェニル−1−メチルエチル基等が挙げられる。また、アリール基中の水素原子が、アルキル基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよく、該アルキル基は酸素原子、又は硫黄原子で中断されていてもよい。
【0026】
一般式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤の具体的な構造としては、下記化合物No.1〜No.16が挙げられる。ただし、本発明は以下の化合物により制限を受けるものではない。
【0027】
上記フェノール系酸化防止剤は、重合して得られるオレフィン樹脂100質量部に対して、0.001〜0.5質量部、好ましくは0.001〜0.3質量部となるように添加する。
【0028】
本発明においては、特に、ステアリル−3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド、パルミチル−3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド、ミリスチル−3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド、ラウリル−3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミドなどの一般式(1)で表される3−(3,5−ジアルキル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のアミド化合物が安定化効果と得られるオレフィン樹脂組成物の色調に優れるので好ましい。
【0029】
本発明において、有機アルミニウム化合物とフェノール系酸化防止剤を混合することにより、フェノール系酸化防止剤のフェノール性ヒドロキシル基の水素を、有機アルミニウム化合物で容易に置換することができ、フェノール系酸化防止剤を有機アルミニウムでマスキングできる。有機アルミニウム化合物としては、水、アルコール、酸等の水素供与性化合物でマスキングされたフェノール系酸化防止剤を処理することにより、フェノールに再生可能となるような有機アルミニウム化合物が用いられる。
【0030】
上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムハイドライド等が使用できるが、アルキルアルミニウムが好ましく、特に好ましくは、トリアルキルアルミニウムであり、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−へキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム等が挙げられる。前記有機アルミニウム化合物はいずれも混合物として使用することができる。また、アルキルアルミニウム又はアルキルアルミニウムハイドライドと水との反応によって得られるアルミノキサンも同様に使用することができる。
【0031】
有機アルミニウム化合物によるフェノール系酸化防止剤のマスキングとは、フェノール系酸化防止剤のフェノール性ヒドロキシル基の水素を、有機アルミニウム化合物で置換されたものを表し、水、アルコール、酸等の水素供与性化合物で処理することにより、マスキングされたフェノール系酸化防止剤をフェノール体に再生可能なフェノール系酸化防止剤が用いられる。これらの中でも、重合反応において触媒の失活処理に用いられる失活剤と反応してフェノールが再生できるものが好ましく、オレフィン樹脂の重合触媒による重合系に通常存在し、重合を阻害しない有機アルミニウム化合物とフェノール系酸化防止剤との反応により得られるフェノラート(塩)が特に好ましい。
【0032】
上記マスキングの方法とは、不活性な溶媒中で有機アルミニウム化合物とフェノール系酸化防止剤とを混合・撹拌するだけでよい。この方法による反応において、副生した化合物が重合物へ影響しない場合はそのまま用いることができるが、副生した化合物が重合を阻害する場合は、該化合物を減圧留去等により取り除いてから用いることが好ましい。
【0033】
上記、不活性な溶媒としては、脂肪族及び芳香族炭化水素化合物が挙げられる。脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタンおよび精製ケロシン等の飽和炭化水素化合物、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の環状飽和炭化水素化合物等が挙げられ、芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンおよびキシレンなどの化合物が挙げられる。これらの化合物のうち、n−ヘキサン、又は、n−ヘプタンが好ましく用いられる。不活性な溶媒中のトリアルキルアルミニウム塩の濃度は、0.001〜0.5mol/Lの範囲が好ましく、特に好ましくは、0.01〜0.1mol/Lである。
【0034】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ第三ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス〔2−第三ブチル−4−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフィト、ビス(2,4,6−トリ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−n−ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−オクタデシルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、2−エチル−2−ブチルプロピレングリコールと2,4,6−トリ第三ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。中でもトリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイトのような重合前に添加しても重合に悪影響しないリン系酸化防止剤が好ましい。上記リン系酸化防止剤の使用量は、重合して得られるオレフィン樹脂100質量部に対して、0.001〜3質量部であり、好ましくは0.001〜0.5質量部である。
【0035】
本発明に用いられるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロアルカン、スチレンあるいはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0036】
上記オレフィン樹脂とは、上記オレフィンモノマーの単独重合、又はオレフィンモノマーを含む共重合によって得られるものであり、例えば、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体等のポリプロピレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン、シクロオレフィン等が挙げられる。
【0037】
オレフィンモノマーの重合は、重合触媒の存在下で、窒素等の不活性ガス雰囲気中にて行う必要があるが、上記の不活性な溶媒中で行ってもよい。また、重合を阻害しない範囲で、活性水素化合物、微粒子状担体、有機アルミニウム化合物、イオン交換性層状化合物、無機珪酸塩を添加してもよい。
【0038】
本発明においては、上記重合触媒は、特に限定されるものではなく、公知の重合触媒を利用可能である。例えば、周期表第3〜11族の遷移金属(例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、鉛、白金、イットリウム、サマリウム等)の化合物が挙げられ、代表的なものとしては、チーグラー触媒、チタン含有固体状遷移金属成分と有機金属成分からなるチーグラー・ナッタ触媒、少なくとも一個のシクロペンタジエニル骨格を有する周期表第4族〜第6族の遷移金属化合物と助触媒成分からなるメタロセン触媒、クロム系触媒等を用いることができる。
【0039】
本発明においては、オレフィンモノマーの重合方法は、特に制限がなく公知の方法によることができる。例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ガソリン留分、水素化ジーゼル留分などの不活性溶媒中での重合であるスラリー重合法、重合を気相中で実施する気相重合法、オレフィンモノマー自体を溶媒として使用するバルク重合法、ポリマーを液状で生成させる溶液重合法、若しくはこれらを組み合わせた重合法、一段重合法又は多段重合法によって、オレフィンモノマーを重合して、ポリオレフィン樹脂を製造する方法や、プロピレンと、炭素原子数2〜12のオレフィン単位からなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィン(プロピレンを除く)単位を共重合して共重合体を製造する方法の重合方法が挙げられる。また、バッチ式、連続式の生産方式があげられる。
【0040】
上記重合法で用いられる重合槽としては、既存の重合設備における連続反応槽をそのまま使用すればよく、サイズ、形状、材質など本発明が従来の重合設備に対して特に限定されることはない。
【0041】
上記オレフィン樹脂には、必要に応じてさらに他の通常の添加剤を配合することができる。他の添加剤の配合方法としては、重合を阻害するものでなければ、他の添加剤をオレフィンモノマーの重合時に添加することができる。オレフィンモノマーの重合後に、他の添加剤を目的に応じた配合量でオレフィン樹脂と混合して、押出機などの成形加工機で溶融混錬して造粒、成形する方法によってもよい。
【0042】
他の添加剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、紫外線吸収剤、重金属不活性化剤、造核剤、難燃剤、金属石鹸、ハイドロタルサイト、充填剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤等が挙げられる。
【0043】
上記フェノール系酸化防止剤は、上記一般式(1)で表されるものと同様のものでもよく、異なるものであってもよい。上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、スチレン化フェノール、2,2’メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス−(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−メチル−4,6−ビス(オクチルスルファニルメチル)フェノール、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、イソ−オクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド、2,2’−オキサミド−ビス[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−エチルヘキシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−エチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパン酸及びC13−15アルキルのエステル、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、ヒンダードフェノールの重合物(アデカパルマロマール社製商品名AO.OH998)、2,2’−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)−p−クレゾール]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルベンズ[d,f][1,3,2]−ジオキサホスフォビン、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス[モノエチル(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネートカルシウム塩、5,7−ビス(1,1−ジメチルエチル)−3−ヒドロキシ−2(3H)−ベンゾフラノン、とo−キシレンとの反応生成物、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、DL−a−トコフェノール(ビタミンE)、2,6−ビス(α−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、ビス[3,3−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−フェニル)ブタン酸]グリコールエステル、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリル(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、トリデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルチオアセテート、チオジエチレンビス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−オクチルチオ−4,6−ジ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)−s−トリアジン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス[3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、4,4’−ブチリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ビス[2−t−ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−t−ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2−t−ブチル−4−メチル−6−(2−アクリロイルオキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、3,9−ビス[2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルヒドロシンナモイルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]及び前記一般式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤が挙げられるが、特に、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが比較的安価で、コストパフォーマンスが良いので好ましく用いられる。
【0044】
上記リン系酸化防止剤としては、上記で添加するリン系酸化防止剤として例示した化合物と同様なものが挙げられる。
【0045】
本発明においては、さらにチオエーテル系酸化防止剤を添加すると、上記重合体の耐熱性が大幅に改善されるので好ましい。上記チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、テトラキス[メチレン−3−(ラウリルチオ)プロピオネート]メタン、ビス(メチル−4−[3−n−アルキル(C12/C14)チオプロピオニルオキシ]5−t−ブチルフェニル)スルファイド、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3‘−チオジプロピオネート、ラウリル/ステアリルチオジプロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2,2’−チオビス(6−t−ブチル−p−クレゾール)、ジステアリル−ジサルファイドが挙げられる。
チオエーテル系酸化防止剤の使用量は、好ましくは、オレフィン樹脂100質量部に対して、0.001〜0.3質量部、より好ましくは0.01〜0.3質量部である。
【0046】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリルフェノール)、2−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾールのポリエチレングリコールエステル、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−アクリロイルオキシエチル)−5−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−メタクリロイルオキシエチル)−5−第三ブチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−メタクリロイルオキシエチル)−5−第三オクチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−メタクリロイルオキシエチル)−5−第三ブチルフェニル〕−5−クロロベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−第三アミル−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−(3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル〕−5−クロロベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシメチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル〕ベンゾトリアゾール等の2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−C12〜13混合アルコキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕−4,6−ビス(4−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシ−3−アリルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ヘキシロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等の2−(2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジアリール−1,3,5−トリアジン類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、オクチル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、ドデシル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、テトラデシル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、ヘキサデシル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、オクタデシル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、ベヘニル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート等のベンゾエート類;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;各種の金属塩、又は金属キレート、特にニッケル、クロムの塩、又はキレート類等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤の使用量は、前記オレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.005〜0.5質量部である。
【0047】
上記造核剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、4−第三ブチル安息香酸アルミニウム塩、アジピン酸ナトリウム及び2ナトリウムビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のカルボン酸金属塩、ナトリウムビス(4−第三ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスフェート及びリチウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスフェート等のリン酸エステル金属塩、ジベンジリデンソルビトール、ビス(メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、及びビス(ジメチルベンジリデン)ソルビトール等の多価アルコール誘導体、N,N’,N”−トリス[2−メチルシクロヘキシル]−1,2,3−プロパントリカルボキサミド(RIKACLEAR PC1)、N,N’,N”−トリシクロヘキシルー1,3,5−ベンゼントリカルボキサミド、N,N’−ジシクロヘキシル−ナフタレンジカルボキサミド、1,3,5−トリ(ジメチルイソプロポイルアミノ)ベンゼン等のアミド化合物等が挙げられる。
上記造核剤の使用量は、前記オレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜10質量部、より好ましくは0.005〜5質量部である。
【0048】
上記難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート及びレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)等の芳香族リン酸エステル、フェニルホスホン酸ジビニル、フェニルホスホン酸ジアリル及びフェニルホスホン酸(1−ブテニル)等のホスホン酸エステル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸メチル、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド誘導体等のホスフィン酸エステル、ビス(2−アリルフェノキシ)ホスファゼン、ジクレジルホスファゼン等のホスファゼン化合物、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸アンモニウム、リン含有ビニルベンジル化合物及び赤リン等のリン系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン及び2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、トリブロモフェニルマレイミド、トリブロモフェニルアクリレート、トリブロモフェニルメタクリレート、テトラブロモビスフェノールA型ジメタクリレート、ペンタブロモベンジルアクリレート、及び、臭素化スチレン等の臭素系難燃剤等が挙げられる。
上記難燃剤の使用量は、前記オレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜70質量部、より好ましくは、10〜30質量部である。
【0049】
上記充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ガラス粉末、ガラス繊維、クレー、ドロマイト、マイカ、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウムウィスカー、ワラステナイト、繊維状マグネシウムオキシサルフェート等が好ましい。これらの充填剤において、平均粒径(球状ないし平板状のもの)又は平均繊維径(針状ないし繊維状のもの)が5μm以下のものが好ましい。
上記充填剤の使用量は、前記オレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは、0.1〜10質量部である。
【0050】
上記滑剤は、成形体表面に滑性を付与し傷つき防止効果を高める目的で加えられる。滑剤としては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
上記滑剤の添加量は、前記オレフィン樹脂100質量部に対し、好ましくは0.03〜2質量部、より好ましくは0.04〜1質量部の範囲である。0.03質量部未満では、所望の滑性が得られない場合があり、2質量部を超えると滑剤成分が重合体の成形品表面にブリードしたり、物性低下の原因となる場合がある。
【0051】
上記帯電防止剤は、成形品の帯電性の低減化や、帯電による埃の付着防止の目的で加えられる。帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、非イオン系等が挙げられる。好ましい例としては、ポリオキシエチレンアルキルアミンやポリオキシエチレンアルキルアミドないしそれらの脂肪酸エステル、グリセリンの脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。また、帯電防止剤の添加量は、前記重合体100質量部に対し、好ましくは0.03〜2質量部、より好ましくは0.04〜1質量部である。帯電防止剤が過少の場合、帯電防止効果が不足し、一方過多であると、表面へのブリード、重合体の物性低下を引き起こす場合がある。
【0052】
本発明の医療・衛生用途の成形品としては、内容物を充填するものや、医療・衛生関連器具を包装するものが挙げられ、例えば、注射筒、薬液充填シリンジ、注射針の針基、輸液セット(輸液袋、輸液チューブ、点滴調整装置)、輸血セット、採血器具並びに、ガーゼ、ピンセット、医療メス等の医療器具の包装材が挙げられる。
【実施例】
【0053】
(固体触媒成分の調製)
無水塩化マグネシウム4.76g(50mmol)、デカン25mL及び2−エチルへキシルアルコール23.4mL(150mmol)を加えて、130℃で2時間加熱反応を行い均一溶液とした後、さらに無水フタル酸1.11g(7.5mmol)を添加し、130℃を維持しながら1時間撹拌して、無水フタル酸を該均一溶液に溶解させた。次に、均一溶液を室温に冷却し、―20℃に保持された四塩化チタン200mL(1.8mol)中に1時間にわたって全量滴下装入した。装入終了後、4時間かけて110℃まで昇温した。110℃に到達後、ジイソブチルフタレート2.68mL(12.5mmol)を加え、110℃を維持しながら2時間撹拌して反応させた。反応終了後、熱時ろ過にて残渣を採取し、該残渣を200mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、再び110℃まで加熱して2時間反応させた。反応終了後、再び熱時ろ過で残渣を採取し、110℃のデカン及びヘキサンにて、洗液中に遊離しているチタン化合物が検出されなくなるまで充分に洗浄して固体チタン触媒成分を得た。この固体チタン触媒成分の一部をサンプリングして乾燥し、触媒組成を分析したところ、チタン3.1重量%、塩素56.0重量%、マグネシウム17.0重量%及びイソブチルフタレート20.9重量%であった。
【0054】
(フェノキシド溶液の調製)
窒素置換したフラスコに、ヘプタン10ml、トリエチルアルミニウム54mg及び表1〜表2記載のフェノール系酸化防止剤161mgを混合・撹拌してフェノール系酸化防止剤をマスキングし、フェノール系酸化防止剤の濃度が16mg/mlのフェノキシド溶液を調製した。
【0055】
(ホスファイト溶液の調製)
窒素置換したフラスコに、表1〜2記載のリン系酸化防止剤144mgを加え、ヘプタン6mLを添加して混合・撹拌して、リン系酸化防止剤24mg/mLのホスファイト溶液を調製した。
【0056】
(重合)
窒素置換したオートクレーブにヘプタン600mL、トリエチルアルミニウム303mg、前記フェノキシド溶液及び前記ホスファイト溶液を表1〜2に記載の安定剤組成物の配合になるように添加し、ジシクロペンチルジメトキシシラン0.26mmol及び固体Ti触媒成分のヘプタンスラリー(Tiとして13μmol)を順次加えた。オートクレーブ内をプロピレン雰囲気に置換し、プロピレンで1kgf/cmGの圧力をかけ、50℃で5分間プレ重合した。プロピレンをパージした後、水素340ml(23℃)を吹き込み、70℃まで昇温し、オートクレーブ内にプロピレンで6kgf/cmGの圧力をかけ、70℃で1時間重合反応を行った。窒素ガスで系内を置換してから40℃でエタノール5mlを加え重合反応を停止させた後、50℃で減圧脱溶媒を行ない、次いで、真空中、40℃でポリマーを5時間乾燥することにより、ポリプロピレンパウダーを得た。
【0057】
(加工)
上記の方法で得られたポリプロピレンパウダー100質量部に対して、表1又は表2に記載の安定剤組成物及びステアリン酸カルシウム0.07質量部を添加し、混合した。混合後、下記成形機内の複数の冷却ロールに巻装されたエンドレスベルトと、鏡面冷却ロールとの間に導入し、組成物を前記エンドレスベルト及び鏡面冷却ロールによって圧接してシート状に形成すると同時に急冷して厚み0.3mmのシートを得た。
(1)成形機器:金属ロール/金属ベルト冷却式単層シート成形機(φ65mm)
設定温度・C1/C2/C3/C4/C5/D=200/200/210/220/230/240℃
ここで、Cは押出機のシリンダー温度を表し、Dはダイスの設定温度を示し、数字はホッパー側からの位置を示す。
(2)エンドレスベルト及び鏡面冷却ロールの温度:15℃
【0058】
(放射線照射)
上記の方法で得られたシートについて、木村化工機製の照射装置(コバルト60による放射線照射装置)によって、γ線照射(吸収線量:25kGy、照射時間:3時間)を放射した。
【0059】
(評価方法)
γ線放射前後のシートの物性について、下記の方法で測定した。放射線照射前のシートの評価結果を表1に、放射線照射後のシートの評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0060】
(1)シートの黄色度(YI)
JIS K7105に準拠し、分光測色計(SC−P;スガ試験機株式会社製)にて、シートの黄色度(YI)を測定した。
【0061】
(2)HAZE(シート)
JIS K7105−1981に準拠し、ヘイズ・ガード2(株式会社東洋精機製作所製)にて、シートのHAZEを測定した。
【0062】
(3)引張弾性率
JIS K7127に準拠して測定した。尚、表中の引張弾性率(MD)は、シート成形時の樹脂が流れる方向に対して、平行な方向に引っ張ったときの測定値であり、引張弾性率(TD)は、樹脂が流れる方向に対して、垂直な方向に引っ張ったときの測定値を表す。
【0063】
(4)伸び残存率(%)
JIS K7127/1B/50の試験方法に準拠して、γ線照射前後の試験片の伸び率を測定した。以下の式により伸び残存率(%)を算出した。これらの結果について、それぞれ表2に示す。
【0064】
(5)溶出量
前記実施例と同様に表2に記載の安定剤組成物の配合になるようにして重合してポリプロピレンパウダーを得た後、ポリプロピレンパウダー100質量部に対して、ステアリン酸カルシウム0.07質量部及び表2に記載の重合後添加安定剤組成物を添加し、混合後、T−ダイで押し出し温度250℃、厚み60μm、幅300mmで押し出してフィルムシートを作製した。得られたフィルムシートについて、前記と同じ条件で放射線照射を行ってから130mm×170mmの包装袋を作成し、内容物として水200mlを包装袋に封入し、120℃×30分間の熱水・静置式レトルト殺菌処理を行った。殺菌処理後、室温まで冷却し、内容物である水をクロロホルムと混合して、クロロホルムに抽出し、濃縮した後、ガスクロマトグラフ質量分析計にて、配合添加剤、配合添加剤の酸化物、配合添加剤の分解物質などの低分子量物質を定量し、配合された各添加剤の溶出量を求め、比較例2−5の溶出量を1としたときの、各配合例の溶出量比を求めた。
【0065】
【表1】
1)AO−1:上記化合物No.4
2)P−1:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト
3)AO−2:テトラキス〔メチレンビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン
【0066】
【表2】
【0067】
比較例1−1〜1−11のポリオレフィン樹脂組成物については、成形不良が発生し、表面が均質なシートが得られなかったため、シートの評価およびγ線照射を実施しなかった。分析の結果、加工時に熱劣化してポリオレフィン樹脂の分子量低下が起こったためと考えられる。
これらに対し、本発明の製造方法で得たポリオレフィン樹脂組成物を成形したシートは、安定化効果に優れていることが確認できた。特に、実施例1−1と比較例1−12との比較より、本発明の製造方法で得られたポリオレフィン樹脂組成物を成形したシートの安定剤組成物の配合量は、比較例に比べて1/4の配合量であるにもかかわらず、シートの透明性や物性は同等であり、着色の抑制が確認できた。