特許第5735446号(P5735446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5735446オルガノポリシロキサン組成物、該オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法、及び発光ダイオード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5735446
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサン組成物、該オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法、及び発光ダイオード
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20150528BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20150528BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20150528BHJP
   H01L 33/52 20100101ALI20150528BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20150528BHJP
   C08L 83/14 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08G77/20
   H01L33/00 420
   H01L23/28 D
   C08L83/14
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-71703(P2012-71703)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-203794(P2013-203794A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−296113(JP,A)
【文献】 特開2007−214543(JP,A)
【文献】 特開2005−194474(JP,A)
【文献】 特開2010−254927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00−83/16
C08G 77/00−77/62
H01L 23/00−23/56
33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサン組成物であって、
(A)下記一般式(1)で表された構造を一分子中に少なくとも1つ有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、Rは水素原子、フェニル基、又はハロゲン化フェニル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは1価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、Rは2価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、mは0、1又は2である。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1〜30質量部、
(C)白金系触媒:有効量、及び
(D)光開始剤:有効量
を含有し、透明硬化物を与えるものであることを特徴とするオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
前記(A)オルガノポリシロキサンは、該オルガノポリシロキサンを構成するシロキサン単位中、(SiO)単位を5mol%以上有するものであることを特徴とする請求項1記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のオルガノポリシロキサン組成物に紫外線を照射した後、加熱硬化させることを特徴とするオルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のオルガノポリシロキサン組成物の硬化物で素子が封止された発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサン組成物、特に発光ダイオード素子の封止剤として用いることのできるオルガノポリシロキサン組成物、該オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法、及び発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオード(LED)素子の封止剤としては、一般的にエポキシ樹脂が用いられている。シリコーン樹脂に関しても特許文献1や特許文献2などでレンズ材への使用、特許文献3では波長調整コーティングへの使用、特許文献4、5では保護材料等としての使用が試みられているが、実際の使用例は少ない。
【0003】
一方、白色LEDが注目される中で、これまで問題とされなかったエポキシ樹脂封止剤や加熱硬化型シリコーン樹脂の実使用中の紫外線(UV)などによる黄変や、小型化に伴う発熱量の増加に伴うクラック、作業時の加熱による蛍光体の分散不良などの問題が発生しており、対応が急務となっている。またUV硬化やパーオキサイド硬化を用いてLED用封止剤を開発している事例はあるが、光開始剤やパーオキサイドの酸素阻害により表面が硬化せず、用途が限られてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−228249号公報
【特許文献2】特開平10−242513号公報
【特許文献3】特開2000−123981号公報
【特許文献4】特開平11−1619号公報
【特許文献5】特開2007−214543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、光開始剤の光重合反応による硬化とSi−Hの付加反応による硬化の両方の硬化をすることのでき、硬化物表面の硬化阻害がなく、表面タックのないオルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、オルガノポリシロキサン組成物であって、
(A)下記一般式(1)で表された構造を一分子中に少なくとも1つ有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、Rは水素原子、フェニル基、又はハロゲン化フェニル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは1価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、Rは2価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、mは0、1又は2である。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1〜30質量部、
(C)白金系触媒:有効量、及び
(D)光開始剤:有効量
を含有することを特徴とするオルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【0007】
このようなオルガノポリシロキサン組成物であれば、(D)光開始剤の光重合反応による硬化と(C)白金系触媒存在下のSi−Hの付加反応による硬化の両方の硬化をすることのできるオルガノポリシロキサン組成物となる。また、この組成物の硬化物は、透明性、耐熱性、耐変色性に優れたものとなり、表面タックのない硬化物が得られる。
【0008】
前記(A)オルガノポリシロキサンは、該オルガノポリシロキサンを構成するシロキサン単位中、(SiO)単位を5mol%以上有するものであることが好ましい。
【0009】
このような分岐構造を有する(A)成分であれば、より強度の高い硬化物を与えると共により耐熱安定性に優れた硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物となる。
【0010】
また本発明は、本発明のオルガノポリシロキサン組成物に紫外線を照射した後、加熱硬化させることを特徴とするオルガノポリシロキサン組成物の硬化方法を提供する。
【0011】
このような硬化方法によれば、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の硬化時間をより一層短縮することができる。
【0012】
さらに本発明は、前記本発明のオルガノポリシロキサン組成物の硬化物で素子が封止された発光ダイオードを提供する。
【0013】
このように、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は発光ダイオード素子(LED)の封止剤として好適に用いることができる。
【0014】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、光開始剤の光重合反応による硬化とSi−Hの付加反応による硬化の両方により硬化できるので信頼性の高い発光ダイオード素子の封止剤となる。また、硬化物は透明性、耐熱性、耐変色性に優れ、蛍光体の分散が容易であるため、主に発光ダイオード素子の保護、接着、波長変更・調整、レンズ等の封止剤として好適に用いることができる。また、表面の硬化阻害がないため硬化物表面はタックのないものとなる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のオルガノポリシロキサン組成物であれば、光開始剤の光重合反応による硬化とSi−Hの付加反応による硬化の両方の硬化をすることができる。これにより、光の届かない部分も付加反応により硬化でき、かつ、光重合反応による秒単位の硬化も可能にし、その上、酸素阻害による表面部分の未硬化を克服することができる。さらに、本発明のオルガノポリシロキサン組成物であれば、硬化時間を短縮することができる。また、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は蛍光体の分散が容易なものとなり、硬化物は、透明性、耐熱性、耐変色性に優れたものとなる。このような、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は主に発光ダイオード素子の保護、接着、波長変更・調整、レンズ等の封止剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のオルガノポリシロキサン組成物について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。前述のように、硬化物表面はタックがなく、透明性、耐熱性、耐変色性に優れた硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物が望まれていた。
【0017】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記各成分を含有するオルガノポリシロキサン組成物が、光開始剤の光重合反応による硬化とSi−Hの付加反応による硬化の両方により硬化でき、更に耐熱性、耐変色性に優れた透明硬化物を与え、硬化物表面にタックがないことを見出して、本発明を完成させた。以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0018】
〔(A)オルガノポリシロキサン〕
ここで、(A)成分は、下記一般式(1)で表された構造を一分子中に少なくとも1つ有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の組成物中に100質量部含まれる。このオルガノポリシロキサンは25℃での粘度が10mPa.s以上の液状、又は固体の分岐状若しくは三次元網状構造のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【化2】
(式中、Rは水素原子、フェニル基、又はハロゲン化フェニル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは1価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、Rは2価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、mは0、1又は2である。)
【0019】
上記一般式(1)中、Rは水素原子、フェニル基、又はハロゲン化フェニル基である。また、Rは水素原子又はメチル基であり、特にメチル基であることが好ましい。Rがメチル基であれば、光開始剤の光重合反応による硬化とSi−Hの付加反応による硬化の両方により適したものとなり、また合成の観点から好ましい。
【0020】
上記一般式(1)において、Rは1価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜12の炭化水素基である。Rで示される一価の炭化水素基は、炭素数1〜12であり、好ましくは1〜8のものが挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、又はデシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、又はナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、又はフェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、又はオクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられ、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0021】
は2価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等のアルキレン基等が挙げられ、これらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部はフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、さらに、これらの炭化水素鎖中にエーテル結合、アミド結合等を含むものも包含される。これらの中で炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、特に炭素数1〜3のアルキレン基が好ましい。
mは0、1又は2であり、好ましくは1、2である。
【0022】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、上記構造を分子内に有すれば特に限定されないが、例えば直鎖状のものや後述する分岐状の(A)オルガノポリシロキサン等を挙げることができ、直鎖状のもの単独でも分岐状のもの単独でもこれらを併用したものでもよいが、少なくとも分岐構造を有するものを含有することが好ましい。
【0023】
(A)オルガノポリシロキサンは、このオルガノポリシロキサンを構成するシロキサン単位中、(SiO)単位を5mol%以上有することが好ましく、より好ましくは10mol%〜80mol%、特には20〜70モル%含有することがより好ましい。このように、分岐単位を有することでより強度の高いものとなり、耐熱安定性もより優れたものとなる。
【0024】
また、(A)オルガノポリシロキサンは、後述する有機系の反応性希釈剤等有機系の化合物を添加する場合は、置換基にフェニル基を含有することが好ましい。置換基にフェニル基を含有することで有機系化合物との相溶性が向上し、より透明度が高く、耐熱性、耐変色性に優れた硬化物を与える組成物となる。
【0025】
以下に(A)成分のオルガノポリシロキサンを例示する。これらのオルガノポリシロキサンは(A)成分として一種単独で使用することができ、又は二種以上を併用することもできる。
【0026】
好ましい分岐状の(A)オルガノポリシロキサンとしては、下記のものが例示される。
−分岐状(Q単位含有)の(A)オルガノポリシロキサン−
Q単位を含有する(A)オルガノポリシロキサンは、下記のMA単位とM単位とQ単位とからなるものが好ましい。
【化3】
(式中、Rは独立に、同一又は異なる、一価の基であり、少なくとも1つは上記一般式(1)で表される基(m=2が好ましく、Rはメチル基又はフェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい)である。)
【0027】
これら単位のモル比は、MA単位を1とした場合、好ましくは2≦M単位≦10、3≦Q単位≦15であり、(MA単位+M単位)/Q単位が0.6〜1.2となるものである。また、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒としたGPC測定による重量平均分子量はポリスチレン換算で好ましくは500〜50000、より好ましくは1000〜10000である。
【0028】
−分岐状(T単位含有)(A)オルガノポリシロキサン−
T単位を含有する(A)オルガノポリシロキサンは、下記のMA−D単位とD単位とT単位とからなるものが好ましい。
【化4】
(式中、Rは独立に、同一又は異なる、一価の基であり、少なくとも1つは上記一般式(1)で表される基(m=2が好ましく、Rはメチル基又はフェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい)である。)
【0029】
これら単位のモル比はMA−D単位を1とした場合、好ましくは2≦D単位≦10、3≦T単位≦15であり、(MA−D単位+D単位)/T単位が0.1〜2となるものである。また、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒としたGPC測定による重量平均分子量はポリスチレン換算で好ましくは500〜50000、より好ましくは1000〜10000である。
【0030】
〔(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン〕
(B)成分は、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、組成物中0.1〜30質量部含まれる。(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、架橋剤として作用する成分であり、(C)成分の触媒の存在下で、(A)成分とヒドロシリル化反応(Si−Hの付加反応)を起こし、本発明の組成物の硬化に寄与する。(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子(即ち、SiH基)を有し、好ましくは3〜500個、より好ましくは3〜200個、特に好ましくは3〜100個有する。一分子中のケイ素原子数(または重合度)は、好ましくは2〜1,000個、より好ましくは3〜300個、特に好ましくは4〜150個のものが使用される。前記のSiH基は、分子鎖末端および分子鎖非末端のいずれに位置していてもよく、この両方に位置するものであってもよい。
【0031】
この(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に結合している基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の(A)成分において例示したものと同様の、脂肪族不飽和結合を有しない、非置換または置換の、1価炭化水素基等が挙げられ、好ましくは、アルキル基およびアリール基、特に好ましくは、メチル基およびフェニル基が挙げられる。
【0032】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、好ましくは、平均組成式(2)で表されるものが用いられる。
SiO(4−e−f)/2 (2)
【0033】
上記平均組成式(2)中のRは、好ましくは、炭素数1〜10の、ケイ素原子に結合した、脂肪族不飽和結合を有しない、非置換または置換の一価炭化水素基である。このRで表される非置換または置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部または全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等が挙げられる。Rで表される非置換または置換の一価炭化水素基は、好ましくは、アルキル基、アリール基であり、より好ましくは、メチル基、フェニル基である。
【0034】
また上記平均組成式(2)中、e、fは0.7≦e≦2.1、0.001≦f≦1.0、0.8≦e+f≦3.0を満たす正数であり、好ましくは、1.0≦e≦2.0、0.01≦f≦1.0、1.5≦e+f≦2.5を満たす正数である。
【0035】
(B)成分の23℃における粘度は0.5〜100,000mPa・sであることが好ましく、特に、10〜5,000mPa・sであることが好ましい。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、三次元網状等が挙げられる。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、単一種のシロキサン単位からなる単独重合体でも、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体でも、これらの混合物でもよい。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン環状重合体、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位と(CHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0036】
本発明の組成物において、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部、特に好ましくは1〜10質量部である。(B)成分の含有量が0.1質量部未満であると、本発明の組成物が十分に硬化し難く、硬化物表面が硬化不良となり表面タックが残ってしまい、30質量部を超えると、本発明の組成物が光開始剤による硬化が不十分となる。なお、(A)成分以外の成分がケイ素原子結合アルケニル基を有する場合には、この(B)成分の配合量は、上記の理由により、上記配合量の範囲内で、本発明の組成物中の全オルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合アルケニル基の総量に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子(即ち、SiH基)のモル比が0.01〜4.0mol/mol、好ましくは0.05〜2.5mol/mol、特に好ましくは0.1〜1.0mol/molとなるように配合することが好ましい。
【0037】
〔(C)白金系触媒〕
(C)成分は、本発明の組成物のSi−Hの付加反応による硬化を促進するための白金系触媒であり、例えば、白金および白金化合物が挙げられ、具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体等が挙げられる。本発明の組成物における(C)成分の含有量は、触媒有効量でよく、具体的には、(A)成分に対して(C)成分中の白金金属成分が白金換算にして、重量基準で好ましくは0.01〜1000ppm、より好ましくは0.1〜500ppmとなる量である。
【0038】
〔(D)光開始剤〕
(D)成分は本発明の組成物の光重合反応による硬化を促進するための光開始剤(以下、光重合開始剤ともいう。)であり本発明の組成物中に有効量含まれる。(D)成分は、ベンゾインおよび置換ベンゾイン(例えば、アルキルエステル置換ベンゾインのような)、ミカエル(Michler’s)ケトン、ジエトキシアセトフェノン(“DEAP”)のようなジアルコキシアセトフェノン、ベンゾフェノンおよび置換ベンゾフェノン、アセトフェノンおよび置換アセトフェノン、キサントンおよび置換キサントンのようなアクリル官能性を硬化させる当該技術において公知の任意の光開始剤である。望ましい光開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイニソプロピルエーテル、ジエトキシキサントン、クロロ−チオ−キサントン、アゾ−ビスイソブチロニトリル、N−メチルジエタノールアミンベンゾフェノン、およびこれらの混合物がある。可視光線開始剤としては、カムホキノンパーオキシエステル開始剤および非フルオレン−カルボン酸パーオキシエステルがある。
【0039】
光重合開始剤の商業的に入手し得る例としては、ニューヨーク州タリータウンのCiba Specialty Chemicals社からIRGACUREおよびDAROCURの商品名で入手し得る開始剤、とりわけ、IRGACURE 184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、907(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン)、369(2−ベンジル−2−N,N−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン)、500(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンとの組合せ)、651(2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン)、1700(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4−,4−トリメチルフェニル)ホスフィンオキサイドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとの組合せ)および819[ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド];DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン)および4265(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−ホスフィンオキサイドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとの組合せ);並びに可視光線(青色)光開始剤、d1−カムホルキノンおよびIRGACURE 784DC(ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル]チタン)がある。
【0040】
とりわけ望ましい光重合開始剤は、DEAPである。(D)光開始剤の量は有効量でよいが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜8質量部、特に好ましくは0.5〜6質量部である。
【0041】
〔反応性希釈剤〕
なお、本発明の組成物には、本発明の組成物の粘度や硬化物の硬度を調整する等の目的で、以下に示すようなシリコーンを含む反応性希釈剤や、シリコーンを含まない反応性希釈剤を添加することができる。シリコーンを含む反応性希釈剤としては、特に制限されないが、以下のものが例示できる。
【化5】
(式中、lは1〜100、好ましくは5〜50であり、mは前記記載に関わらず、5〜500、好ましくは10〜300である。)
【化6】
(式中、lは1〜100、好ましくは5〜50であり、mは前記記載に関わらず、5〜500、好ましくは10〜300である。)
【化7】
(式中、lは1〜100、好ましくは5〜50であり、mは前記記載に関わらず、5〜500、好ましくは10〜300である。)
【0042】
また、下記一般式(3)で表されるものを挙げることもできる。
【化8】
(式中、R3’は1価の置換又は非置換の、同一又は異なってもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、好ましくはメチル基、フェニル基、特に好ましくはメチル基である。ジオルガノシロキサン単位の重合度nは1〜10000、好ましくは5〜200である。m’は0、1又は2であり、好ましくは1又は2、特に好ましくは1である。)
【0043】
上記一般式(3)で表されるもののうち、特に好ましくは、下記式で表されるものである。
【化9】
【0044】
シリコーンを含まない反応性希釈剤としては、HC=CGCOによって示されるような(メタ)アクリレート類があり、上記式中、Gは、水素、ハロゲン、または1〜4個の炭素原子のアルキルであり、Rは、1〜16個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルカリル、アラルキルまたはアリール基から選ばれ、これらのいずれかは、必要に応じ、シラン、ケイ素、酸素、ハロゲン、カルボニル、ヒドロキシル、エステル、カルボン酸、尿素、ウレタン、カルバメート、アミン、アミド、イオウ、スルホネート、スルホン等で置換、またはこれらの基を有することができる。
【0045】
反応性希釈剤としてとりわけ望ましい具体的な(メタ)アクリレート類としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノール−A(メタ)アクリレート(“EBIPA”または“EBIPMA”)のようなビスフェノール−Aジ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフラン(メタ)アクリレートおよびジ(メタ)アクリレート、シトロネリルアクリレートおよびシトロネリルメタクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(“HDDA”または“HDDMA”)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(“ETTA”)、トリエチレングリコールジアクリレートおよびトリエチレングリコールジメタクリレート(“TRIEGMA”)、イソボルニルアクリレートおよびイソボルニルメタクリレート等が例示される。
【0046】
もちろん、これらの(メタ)アクリレート類の2種以上の組合せも反応性希釈剤として使用できる。反応性希釈剤を添加する場合は、(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜300質量部が好ましく、より好ましくは1〜200質量部、特に好ましくは5〜100質量部である。
【0047】
〔その他の成分〕
本発明の組成物は、特定の用途において所望されるような硬化または未硬化特性を改変させる他の成分も含むことができる。例えば、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリアルキル−またはトリアリル−イソシアヌレート、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のような接着促進剤を、本発明の組成物の5質量%以下で使用することができる。他の任意成分として、非(メタ)アクリルシリコーン希釈剤または可塑剤を本発明の組成物の30質量%以下で使用することができる。非(メタ)アクリルシリコーン類としては、100〜500cspの粘度を有するトリメチルシリル末端化オイル、およびシリコーンゴムが例示される。非(メタ)アクリルシリコーン類は、ビニル基のような共硬化性基を含むことができる。
【0048】
また、本発明の組成物には、熱によりラジカルを発生させるような有機過酸化物を添加しても良い。このような有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、1,6−ビス(p−トルオイルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、ジ(4−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサメチレンビスカーボネート等が挙げられる。
【0049】
また、本発明の組成物には、無機充填剤を添加しても良い。このような無機充填剤としては、ヒュームドシリカや結晶性シリカのような補強用シリカ類を例示することができ、未処理のまま(親水性)又は処理して疎水性にしたものを用いることができる。実際には、任意の補強用ヒュームドシリカを使用できる。
【0050】
以上説明したように、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、光開始剤の光重合反応による硬化とSi−Hの付加反応による硬化の両方により硬化できるので信頼性の高い発光ダイオード素子の封止剤となる。また、硬化物は透明性、耐熱性、耐変色性に優れると共に表面タックがなく、蛍光体の分散が容易であるため、主に発光ダイオード素子の保護、接着、波長変更・調整、レンズ等の封止剤として好適に用いることができる。
【0051】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物の調製方法は、一般的に行われる調整方法であれば特に制限されず、上述の各成分を、一緒に混合、撹拌、分散して行うことができる。混合、撹拌、分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を用いることができる。またこれら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0052】
光開始剤の光重合反応に用いる光源としては、特に制限されないが、UV線源が有用であり、特に、種々の紫外線波長帯域において紫外線エネルギーを発出するように設計された通常の水銀蒸気ランプが例示される。例えば、有用なUV線波長範囲として、220〜400nmのものを好適に用いることができる。
【0053】
さらに、ヒドロシリル化により、本発明のオルガノポリシロキサン組成物を硬化物にする条件としては、特に制限されないが、通常室温〜200℃、好ましくは70〜170℃で硬化することができる。なお、光開始剤の光重合反応による硬化と、ヒドロシリル化による硬化は両方行っても良いし、片方のみ行うことも可能である。さらに、光開始剤の光重合反応による硬化を先に行って、その後ヒドロシリル化による硬化を行うことも、ヒドロシリル化による硬化を先に行って、その後光開始剤の光重合反応による硬化を行うこともできる。また、光重合と付加反応を同時に行うことも可能であるが、光開始剤の光重合反応による硬化を先に行い、その後ヒドロシリル化による硬化を行うことが好ましい。
【0054】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物においては、該オルガノポリシロキサン組成物に紫外線を照射した後、加熱硬化させる硬化方法が特に好ましい。
このような硬化方法によれば、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の硬化時間をより一層短縮することができる。
【0055】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、特に発光ダイオード素子(LED)の封止剤として好適に用いることができる。このような本発明のオルガノポリシロキサン組成物の硬化物で素子が封止された発光ダイオードは、硬化物が透明性、耐熱性、耐変色性に優れ、硬化物表面の硬化阻害がなく、表面タックもないため、信頼性が高く、様々な用途に適用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〜3、比較例1〜3〕
下記各成分を用意し、表1に示す組成のオルガノポリシロキサン組成物(実施例1〜3、比較例1〜3)を調製した。得られた組成物を日本電池社製コンベアタイプUV照射装置にて高圧水銀灯(80W/cm)、距離10cm、速度1m/minの照射を3回行って紫外線照射した後に、150℃で10分間硬化して厚み3mmの硬化物を調製した。その硬化物の表面タック感を指触で、硬さを島津製作所製デュロメータタイプAにより測定して評価した。また、紫外線照射と加熱でそれぞれ硬化したか否かも確認した。結果を表1に示す。
【0058】
(A−1)
下記MA単位、M単位、Q単を含むオルガノポリシロキサン(MA:M:Q=1:4:6の割合で、重合平均分子量がポリスチレン換算分子量で5000)
【化10】
(A−2)
下記MA−D単位、D単位、T単位を含むオルガノポリシロキサン(MA−D:D:T=2:6:7の割合で、重合平均分子量がポリスチレン換算分子量で3500)
【化11】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:23℃における粘度が12mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.43質量%)
(C)白金系触媒:白金含有量が0.5質量%の、白金1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液
(D)光開始剤:ジエトキシアセトフェノン
−その他の任意成分−
反応抑制剤:メチルビニルシクロテトラシロキサン
反応性希釈剤:ジメチルシロキサン単位を含むオルガノポリシロキサン(下記式)
【化12】
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示されるように、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、光開始剤の光重合反応による硬化とSi−Hの付加反応による硬化の両方の硬化をすることのできるものとなった。さらに、本発明の組成物の硬化物はタック感がなく、酸素阻害による表面部分の未硬化を克服することができたものとなった。さらに、本発明の組成物の硬化物は高い透明性を有するものであった。これに比べ、比較例1〜3の組成物の硬化物は光硬化せず、タック感があるものであった。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。