(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記真空断熱材を85℃、85%RHの条件下で50日間保管した後における前記外被材(E)の酸素透過度(Of)が、保管前の酸素透過度(Os)に対して5.0倍以下である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の真空断熱材。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現する材料として具体的な材料(化合物等)を例示する場合があるが、本発明はそのような材料を使用した態様に限定されない。また例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の真空断熱体は、ポリビニルアルコール系樹脂層(X)および層(Y)を有する外被材(E)で芯材を覆って前記外被材の内部を減圧シールしてなる真空断熱材であって、前記層(Y)は、反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。ここで、外被材(E)における上記樹脂層(X)および/または層(Y)は、2層以上であってもよい。以下、本発明の真空断熱材に用いられる各材料について詳細に説明する。
【0016】
[ポリビニルアルコール系樹脂層(X)]
本発明の真空断熱材に用いられる外被材(E)は、ポリビニルアルコール系樹脂層(X)を有することによって、優れたガスバリア性を奏する。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある。)樹脂や、エチレンービニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある。)樹脂が挙げられる。さらに、PVA樹脂としては、酢酸ビニルを単独重合し、それをケン化したPVA樹脂や、それを変性して得られる変性PVA樹脂が挙げられる。このような変性PVAは、共重合変性であっても後変性であってもよい。これらの樹脂について以下に説明する。なお、このようなポリビニルアルコール系樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0017】
PVAとしては、上述の通りPVAや変性PVAが挙げられ、たとえば、PVAは、酢酸ビニルを単独重合し、さらにそれをケン化して製造される。また変性PVAは、たとえば、酢酸ビニルと酢酸ビニルと共重合可能な不飽和単量体を共重合させた後にケン化して製造されるものであり、その変性量としては通常10モル%未満である。
【0018】
上記酢酸ビニルと共重合可能な不飽和単量体としては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α一オクテン、α一ドデセン、α一オクタデセン等のオレフィン類、3一ブテンー1一オール、4一ペンチンー1一オール、5一ヘキセンー1一オール等のヒドロキシ基含有α一オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N一ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2一ジアルキルー4一ビニルー1,3一ジオキンラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4一ジアセトキシー1一ブテン、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1一メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4一ジアセトキシー2一ブテン、ビニレンカーボネート、等が挙げられる。
【0019】
また、変性PVAとしては、PVAを後変性することにより製造することもできる。かかる後変性の方法としては、PVAをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、上記PVAの重合度が1100以上、ケン化度が90モル%以上であることが好ましい。そして、PVAの重合度は1100〜4000であることがより好ましく、1200〜2600であることがさらに好ましい。かかる重合度が低すぎると得られる外被材の機械強度が低下する傾向にあり、一方、重合度が高すぎると製膜および延伸時の加工性が低下する傾向にある。また、PVAのケン化度は95〜100モル%であることがより好ましく、99〜100モル%であることがさらに好ましい。かかるケン化度が低すぎると耐水性が低下し、ガスバリア性が湿度の影響を受けやすくなるので好ましくない。
【0021】
そして、EVOH樹脂のEVOHは、通常10〜60モル%のエチレンとビニルエステルとの共重合体をケン化して得られるものであり、かかるビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。
【0022】
また、EVOHには、加熱溶融時の安定性向上のために共重合成分としてビニルシラン化合物を0.0002〜0.2モル%含有させることもできる。ここで、ビニルシラン系化合物としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β一メトキシーエトキシ)シラン、γ一メタクリルオキシプロピルメトキシシランが挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0023】
さらに、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の共重合性単量体、例えば、プロピレン、ブチレン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸またはそのエステル;N一ビニルピロリドンなどのビニルピロリドン等を共重合することもできる。
【0024】
EVOHのエチレン含有量は10〜60モル%であることが、良好な延伸性を奏する観点からは好ましく、15〜55モル%以上であることがより好ましく、20〜50モル%以上であることがさらに好ましい。エチレン含有量が10モル%未満であると溶融成形性が悪化する傾向があり、一方、60モル%を超えるとガスバリア性が不充分となるおそれがある。なお、かかるEVOHのエチレン含有量は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0025】
また、EVOHのケン化度は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。ケン化度が90モル%未満であると、高湿度下でのガスバリア性が低下する傾向がある。一方、EVOHのケン化度の上限としては100モル%が好ましく、99.99モル%がさらに好ましい。なお、EVOH樹脂が、異なる2種類以上のEVOHの配合物を含む場合には、配合重量比から算出されるそれぞれのエチレン含有量またはケン化度を、EVOH樹脂のエチレン含有量またはケン化度とする。
【0026】
本発明に用いられるEVOH樹脂は、熱安定性や粘度調整の観点で種々の酸や金属塩等の添加物を含有していることが好ましい。該添加物としては、アルカリ金属塩、カルボン酸および/またはその塩、リン酸化合物およびホウ素化合物などが挙げられる。
【0027】
本発明に用いられる樹脂層(X)としては、上記ポリビニルアルコール系樹脂を用いて製膜されたフィルムを使用することができる。かかる製膜方法も公知のものでよく、特に限定されず、例えば、ドラム、エンドレスベルト等の金属面上にポリビニルアルコール系樹脂の溶液を流延してフィルム形成する流延式成形法、あるいは押出機により溶融押出する溶融成形法によって製膜される。
【0028】
かかるポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、無延伸フィルムを用いてもよいが、通常一軸延伸または二軸延伸フィルムを用いることが好ましく、特にガスバリア性向上の観点から、二軸延伸フィルムを用いるのが好ましい。かかる一軸および二軸延伸フィルムの流れ方向(MD方向)の延伸倍率は2.5〜5倍であることが好ましい。かかる延伸処理方法は、通常行われる一軸延伸方法や、同時二軸延伸、逐次二軸延伸など、公知方法に従い行うことが可能である。
【0029】
本発明に用いられる樹脂層(X)としては、二軸延伸PVA樹脂フィルムおよび二軸延伸EVOH樹脂フィルムが好ましく、二軸延伸EVOH樹脂フィルムがさらに好ましい。
【0030】
本発明に用いられる樹脂層(X)の厚みは特に制限されないが、工業的な生産性の観点から、5〜100μmであることが好ましく、8〜50μmであることがより好ましい。さらに具体的には、二軸延伸PVA樹脂フィルムの厚みは、5〜50μmであることが好ましく、8〜30μmであることがより好ましい。そして、二軸延伸EVOH樹脂フィルムの厚みは、5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。
【0031】
なお、本発明の一例では、樹脂層(X)は、後述する層(Y)の基材であってもよい。
【0032】
[層(Y)]
本発明の真空断熱材に用いられる外被材(E)に含まれる層(Y)は、反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。層(Y)は、800〜1400cm
−1の範囲における当該層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて赤外線吸収が最大となる波数(n
1)が1080〜1130cm
−1の範囲にあることが好ましい。また、別の観点では、前記層(Y)は反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物であり、800〜1400cm
−1の範囲における前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、前記金属酸化物(A)を構成する結合、前記リン化合物(B)を構成する結合、並びに、前記金属酸化物(A)と前記リン化合物(B)とがそれ自身でおよび/または互いに反応して形成された結合に由来する全ての赤外線吸収ピークの中で、前記金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)と前記化合物(B)に由来するリン原子(P)とが、酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合に由来する赤外線吸収ピークが最大となり、前記最大となる赤外線吸収ピークの波数(n
1)が1080〜1130cm
−1の範囲にあることが好ましい。当該波数(n
1)を、以下では、「最大吸収波数(n
1)」という場合がある。金属酸化物(A)は、通常、金属酸化物(A)の粒子の形態でリン化合物(B)と反応する。
【0033】
一般に、金属化合物とリン化合物とが反応して金属化合物を構成する金属原子(M)とリン化合物に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合が生成すると、赤外線吸収スペクトルにおいて特性ピークが生じる。ここで当該特性ピークはその結合の周囲の環境や構造などによって特定の波数に吸収ピークを示す。本発明者らによる検討の結果、M−O−Pの結合に基づく吸収ピークが1080〜1130cm
−1の範囲に位置する場合には、得られる層(Y)に優れたバリア性と耐水性が発現されることがわかった。特に、当該吸収ピークが、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800〜1400cm
−1の領域において最大吸収波数の吸収ピークとして現れる場合には、得られる層(Y)にさらに優れたバリア性と耐水性が発現されることがわかった。
【0034】
なお本発明を何ら限定するものではないが、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ、金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合され、そして金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)とリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合が生成すると、金属酸化物(A)の粒子の表面という比較的定まった環境に起因して、当該層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、M−O−Pの結合に基づく吸収ピークが、1080〜1130cm
−1の範囲に800〜1400cm
−1の領域における最大吸収波数の吸収ピークとして現れるものと考えられる。
【0035】
これに対し、金属アルコキシドや金属塩等の金属酸化物を形成していない金属化合物とリン化合物(B)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子とリン化合物(B)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られ、赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1400cm
−1の範囲における最大吸収波数(n
1)が1080〜1130cm
−1の範囲から外れるようになる。
【0036】
上記最大吸収波数(n
1)は、バリア性と耐水性により優れる層(Y)が得られることから、1085〜1120cm
−1の範囲にあることが好ましく、1090〜1110cm
−1の範囲にあることがより好ましい。
【0037】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいては、2500〜4000cm
−1の範囲に様々な原子に結合した水酸基の伸縮振動の吸収が見られることがある。この範囲に吸収が見られる水酸基の例としては、金属酸化物(A)部分の表面に存在しM−OHの形態を有する水酸基、リン化合物(B)に由来するリン原子(P)に結合してP−OHの形態を有する水酸基、後述する重合体(C)に由来するC−OHの形態を有する水酸基などが挙げられる。層(Y)中に存在する水酸基の量は、2500〜4000cm
−1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸収の波数(n
2)における吸光度(A
2)と関連づけることができる。ここで、波数(n
2)は、2500〜4000cm
−1の範囲における層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて水酸基の伸縮振動に基づく赤外線吸収が最大となる波数である。以下では、波数(n
2)を、「最大吸収波数(n
2)」という場合がある。
【0038】
層(Y)中に存在する水酸基の量が多いほど、水酸基が水分子の透過経路となるため、水蒸気バリア性や耐水性が低下する傾向がある。また、層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収波数(n
1)における吸光度(A
1)と上記吸光度(A
2)との比率[吸光度(A
2)/吸光度(A
1)]が小さいほど、金属酸化物(A)の粒子同士がリン化合物(B)に由来するリン原子を介して効果的に結合されていると考えられる。そのため当該比率[吸光度(A
2)/吸光度(A
1)]は、得られる層(Y)のガスバリア性および水蒸気バリア性を高度に発現させる観点から、0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。上記のような比率[吸光度(A
2)/吸光度(A
1)]を有する層(Y)を得るためには、後述する金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数(N
M)とリン化合物(B)に由来するリン原子のモル数(N
P)との比率や熱処理条件などを調整してやればよい。なお、特に限定されるわけではないが、後述する層(Y)の前駆体層の赤外線吸収スペクトルにおいては、800〜1400cm
−1の範囲における最大吸光度(A
1’)と、2500〜4000cm
−1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸光度(A
2’)とが、吸光度(A
2’)/吸光度(A
1’)>0.2の関係を満たす場合がある。
【0039】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収波数(n
1)に極大を有する吸収ピークの半値幅は、得られる層(Y)のガスバリア性および水蒸気バリア性の観点から200cm
−1以下であることが好ましく、150cm
−1以下であることがより好ましく、130cm
−1以下であることがより好ましく、110cm
−1以下であることがより好ましく、100cm
−1以下であることがさらに好ましく、50cm
−1以下であることが特に好ましい。本発明を何ら限定するものではないが、金属酸化物(A)の粒子同士がリン原子を介して結合する際、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合され、そして金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)とリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合が生成すると、金属酸化物(A)の粒子の表面という比較的定まった環境に起因して、最大吸収波数(n
1)に極大を有する吸収ピークの半値幅が上記範囲になると考えられる。なお、本明細書において最大吸収波数(n
1)の吸収ピークの半値幅は、当該吸収ピークにおいて吸光度(A
1)の半分の吸光度(吸光度(A
1)/2)を有する2点の波数を求めその差を算出することにより得ることができる。
【0040】
上記した層(Y)の赤外線吸収スペクトルは、ATR法(全反射測定法)で測定するか、または、層(Y)の組成物をかきとり、その赤外線吸収スペクトルをKBr法で測定することによって得ることができる。
【0041】
層(Y)において、金属酸化物(A)の各粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、扁平状、多面体状、繊維状、針状などの形状を挙げることができ、繊維状または針状の形状であることがバリア性および耐水性により優れる外被材となることから好ましい。層(Y)は単一の形状を有する粒子のみを有していてもよいし、2種以上の異なる形状を有する粒子を有していてもよい。また、金属酸化物(A)の粒子の大きさも特に限定されず、ナノメートルサイズからサブミクロンサイズのものを例示することができるが、バリア性と透明性により優れることから、金属酸化物(A)の粒子のサイズは、平均粒径として1〜100nmの範囲にあることが好ましい。層(Y)が上記のような微細構造を有することにより、得られる外被材のバリア性および耐水性が向上する。
【0042】
層(Y)における上記のような微細構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)により当該層(Y)の断面を観察することにより確認することができる。また、層(Y)における金属酸化物(A)の各粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた層(Y)の断面観察像において、各粒子の最長軸における最大長さと、それと垂直な軸における当該粒子の最大長さの平均値として求めることができ、断面観察像において任意に選択した10個の粒子の粒径を平均することにより、上記平均粒径を求めることができる。
【0043】
層(Y)の一例において、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合された構造を、層(Y)は有する。ここで、「リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合された構造」とは、結合される金属酸化物(A)の粒子間の結合の主鎖が、リン化合物(B)に由来するリン原子を有し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を有さない構造を意味しており、当該結合の側鎖に金属原子を有する構造も包含する。また、層(Y)は、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子と金属原子の両方を介して結合された構造(結合される金属酸化物(A)の粒子間の結合の主鎖が、リン化合物(B)に由来するリン原子と金属原子の両方を有する構造)を一部有していてもよい。
【0044】
層(Y)において、金属酸化物(A)の各粒子とリン原子との結合形態としては、例えば、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)とリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合された形態を挙げることができる。金属酸化物(A)の粒子同士は1分子のリン化合物(B)に由来するリン原子(P)を介して結合していてもよいが、2分子以上のリン化合物(B)に由来するリン原子(P)を介して結合していてもよい。結合している2つの金属酸化物(A)の粒子間の具体的な結合形態としては、結合している一方の金属酸化物(A)の粒子を構成する金属原子を(Mα)と表し、他方の金属酸化物(A)の粒子を構成する金属原子を(Mβ)と表すと、例えば、(Mα)−O−P−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−P−[O−P]
n−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−P−Z−P−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−P−Z−P−[O−P−Z−P]
n−O−(Mβ)の結合形態などが挙げられる。なお上記結合形態の例において、nは1以上の整数を表し、Zはリン化合物(B)が分子中に2つ以上のリン原子を有する場合における2つのリン原子間に存在する構成原子群を表し、リン原子に結合しているその他の置換基の記載は省略している。層(Y)において、1つの金属酸化物(A)の粒子は複数の他の金属酸化物(A)の粒子と結合していることが、得られる層(Y)のバリア性の観点から好ましい。
【0045】
(金属酸化物(A))
金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)としては、原子価が2価以上(たとえば、2〜4価や3〜4価)の金属原子を挙げることができ、具体的には、例えば、マグネシウム、カルシウム等の周期表第2族の金属;亜鉛等の周期表第12族の金属;アルミニウム等の周期表第13族の金属;ケイ素等の周期表第14族の金属;チタン、ジルコニウム等の遷移金属などを挙げることができる。なおケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではケイ素を金属に含めるものとする。金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。これらの中でも、金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体のバリア性がより優れることから、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることが特に好ましい。
【0046】
金属酸化物(A)としては、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法などの方法により製造されたものを使用することができるが、得られる金属酸化物(A)の形状や大きさの制御性や製造効率などを考慮すると、液相合成法により製造されたものが好ましい。
【0047】
液相合成法においては、加水分解可能な特性基が金属原子(M)に結合した化合物(L)を原料として用いてこれを加水分解縮合させることで、化合物(L)の加水分解縮合物として金属酸化物(A)を合成することができる。また化合物(L)の加水分解縮合物を液相合成法で製造するにあたっては、原料として化合物(L)そのものを用いる方法以外にも、化合物(L)が部分的に加水分解してなる化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)が完全に加水分解してなる化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)が部分的に加水分解縮合してなる化合物(L)の部分加水分解縮合物、化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したもの、あるいはこれらのうちの2種以上の混合物を原料として用いてこれを縮合または加水分解縮合させることによっても金属酸化物(A)を製造することができる。このようにして得られる金属酸化物(A)も、本明細書では「化合物(L)の加水分解縮合物」ということとする。上記の加水分解可能な特性基(官能基)の種類に特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、アルコキシ基、アシロキシ基、ジアシルメチル基、ニトロ基等が挙げられるが、反応の制御性に優れることから、ハロゲン原子またはアルコキシ基が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。
【0048】
化合物(L)は、反応の制御が容易で、得られる層(Y)のバリア性が優れることから、以下の式(I)で示される少なくとも1種の化合物(L
1)を含むことが好ましい。
【0049】
M
1X
1mR
1(n−m) (I)
[式(I)中、M
1は、Al、TiおよびZrからなる群より選ばれる。X
1は、F、Cl、Br、I、R
2O−、R
3C(=O)O−、(R
4C(=O))
2CH−およびNO
3からなる群より選ばれる。R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ、アルキル基、アラルキル基、アリール基およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において、複数のX
1が存在する場合には、それらのX
1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR
1が存在する場合には、それらのR
1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR
2が存在する場合には、それらのR
2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR
3が存在する場合には、それらのR
3は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR
4が存在する場合には、それらのR
4は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。nはM
1の原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
【0050】
R
1、R
2、R
3およびR
4が表すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。R
1、R
2、R
3およびR
4が表すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。R
1、R
2、R
3およびR
4が表すアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。R
1、R
2、R
3およびR
4がが表すアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられる。R
1は、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1〜4のアルキル基であることがより好ましい。X
1は、F、Cl、Br、I、R
2O−であることが好ましい。化合物(L
1)の好ましい一例では、X
1がハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(R
2O−)であり、mはn(M
1の原子価)と等しい。金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体のバリア性がより優れることから、M
1はAl、TiまたはZrであることが好ましく、Alであることが特に好ましい。化合物(L
1)の一例では、X
1がハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(R
2O−)であり、mはn(M
1の原子価)と等しく、M
1はAlである。
【0051】
化合物(L
1)の具体例としては、例えば、塩化アルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリノルマルプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリノルマルブトキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムアセチルアセトネート、硝酸アルミニウム等のアルミニウム化合物;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンアセチルアセトネート等のチタン化合物;ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウム化合物が挙げられる。これらの中でも、化合物(L
1)としては、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。化合物(L
1)は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
本発明の効果が得られる限り、化合物(L)に占める化合物(L
1)の割合に特に限定はない。化合物(L
1)以外の化合物が化合物(L)に占める割合は、例えば、20モル%以下や10モル%以下や5モル%以下や0モル%である。一例では、化合物(L)は化合物(L
1)のみからなる。
【0053】
また、化合物(L
1)以外の化合物(L)としては、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、例えばマグネシウム、カルシウム、亜鉛、ケイ素等の金属原子に、上述の加水分解可能な特性基が結合した化合物などが挙げられる。
【0054】
化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に置換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0055】
本明細書においては、金属原子(M)のモル数に対する、M−O−Mで表される構造における酸素原子(O)のように、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(例えば、M−O−Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外する)のモル数の割合([金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数])が0.8以上となる化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。金属酸化物(A)は、上記割合が0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。上記割合の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0056】
上記の加水分解縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解可能な特性基(官能基)を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないか極めて緩慢になるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
【0057】
加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法により特定の原料から製造することができる。当該原料には、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「化合物(L)系成分」と称する場合がある)を用いることができる。これらの原料は、公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。特に限定はないが、例えば、2〜10個程度の化合物(L)が加水分解縮合することによって得られる縮合物を原料として用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウムトリイソプロポキシドを加水分解縮合させて2〜10量体の縮合物としたものを原料の一部として用いることができる。
【0058】
化合物(L)の加水分解縮合物において縮合される分子の数は、化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合する際の条件によって制御することができる。例えば、縮合される分子の数は、水の量、触媒の種類や濃度、縮合または加水分解縮合する際の温度や時間などによって制御することができる。
【0059】
上記したように、層(Y)は、反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。また、層(Y)は、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介して結合された特定の構造を有する。このような反応生成物や構造は金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを混合し反応させることにより形成することができる。リン化合物(B)との混合に供される(混合される直前の)金属酸化物(A)は、金属酸化物(A)そのものであってもよいし、金属酸化物(A)を含む組成物の形態であってもよい。好ましい一例では、金属酸化物(A)を溶媒に溶解または分散することによって得られた液体(溶液または分散液)の形態で、金属酸化物(A)がリン化合物(B)と混合される。
【0060】
金属酸化物(A)の溶液または分散液を製造するための好ましい方法を以下に記載する。ここでは、金属酸化物(A)が酸化アルミニウム(アルミナ)である場合を例にとってその分散液を製造する方法を説明するが、他の金属酸化物の溶液や分散液を製造する際にも類似の製造方法を採用することができる。好ましいアルミナの分散液は、アルミニウムアルコキシドを必要に応じて酸触媒でpH調整した水溶液中で加水分解縮合してアルミナのスラリーとし、これを特定量の酸の存在下に解膠することにより得ることができる。
【0061】
アルミニウムアルコキシドを加水分解縮合する際の反応系の温度は特に限定されない。当該反応系の温度は、通常2〜100℃の範囲内である。水とアルミニウムアルコキシドが接触すると液の温度が上昇するが、加水分解の進行に伴いアルコールが副生し、当該アルコールの沸点が水よりも低い場合に当該アルコールが揮発することにより反応系の温度がアルコールの沸点付近以上には上がらなくなる場合がある。そのような場合、アルミナの成長が遅くなることがあるため、95℃付近まで加熱して、アルコールを除去することが有効である。反応時間は反応条件(酸触媒の有無、量や種類など)に応じて相違する。反応時間は、通常、0.01〜60時間の範囲内であり、好ましくは0.1〜12時間の範囲内であり、より好ましくは0.1〜6時間の範囲内である。また、反応は、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどの各種気体の雰囲気下で行うことができる。
【0062】
加水分解縮合の際に用いる水の量は、アルミニウムアルコキシドに対して1〜200モル倍であることが好ましく、10〜100モル倍であることがより好ましい。水の量が1モル倍未満の場合には加水分解が充分進行しないため好ましくない。一方200モル倍を超える場合には製造効率が低下したり粘度が高くなったりするため好ましくない。水を含有する成分(例えば塩酸や硝酸など)を使用する場合には、その成分によって導入される水の量も考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
【0063】
加水分解縮合に使用する酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を用いることができる。これらの中でも、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、酪酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。加水分解縮合時に酸触媒を使用する場合には、加水分解縮合前のpHが2.0〜4.0の範囲内となるように酸の種類に応じて適した量を使用することが好ましい。
【0064】
加水分解縮合により得られたアルミナのスラリーをそのままアルミナ分散液として使用することもできるが、得られたアルミナのスラリーを、特定量の酸の存在下に加熱して解膠することで、透明で粘度安定性に優れたアルミナの分散液を得ることができる。
【0065】
解膠時に使用される酸としては、硝酸、塩酸、過塩素酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの1価の無機酸や有機酸を使用することができる。これらの中でも、硝酸、塩酸、酢酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。
【0066】
解膠時の酸として硝酸、塩酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.001〜0.4モル倍であることが好ましく、0.005〜0.3モル倍であることがより好ましい。0.001モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また0.4モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
【0067】
一方、解膠時の酸として酢酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.01〜1.0モル倍であることが好ましく、0.05〜0.5モル倍であることがより好ましい。0.01モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また1.0モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
【0068】
解膠時に存在させる酸は、加水分解縮合時に添加されてもよいが、加水分解縮合で副生するアルコールを除去する際に酸が失われた場合には、前記範囲の量になるように、再度、添加することが好ましい。
【0069】
解膠を40〜200℃の範囲内で行うことによって、適度な酸の使用量で短時間に解膠させ、所定の粒子サイズを有し、粘度安定性に優れたアルミナの分散液を製造することができる。解膠時の温度が40℃未満の場合には解膠に長時間を要し、200℃を超える場合には温度を高くすることによる解膠速度の増加量は僅かである一方、高耐圧容器等を必要とし経済的に不利なので好ましくない。
【0070】
解膠が完了した後、必要に応じて、溶媒による希釈や加熱による濃縮を行うことにより、所定の濃度を有するアルミナの分散液を得ることができる。ただし、増粘やゲル化を抑制するため、加熱濃縮を行う場合は、減圧下に、60℃以下で行うことが好ましい。
【0071】
リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)はリン原子を実質的に含有しないことが好ましい。しかしながら、例えば、金属酸化物(A)の調製時における不純物の影響などによって、リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)中に少量のリン原子が混入する場合がある。そのため、本発明の効果が損なわれない範囲内で、リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)は少量のリン原子を含有していてもよい。リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)に含まれるリン原子の含有率は、バリア性と耐熱水性により優れる外被材が得られることから、当該金属酸化物(A)に含まれる全ての金属原子(M)のモル数を基準(100モル%)として、30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましく、0モル%であってもよい。
【0072】
層(Y)は、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介して結合された特定の構造を有するが、当該層(Y)における金属酸化物(A)の粒子の形状やサイズと、リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)の粒子の形状やサイズとは、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよい。すなわち、層(Y)の原料として用いられる金属酸化物(A)の粒子は、層(Y)を形成する過程で、形状やサイズが変化してもよい。特に、後述するコーティング液(U)を用いて層(Y)を形成する場合には、コーティング液(U)中やそれを形成するために使用することのできる後述する液体(S)中において、あるいはコーティング液(U)を基材上に塗布した後の各工程において、形状やサイズが変化することがある。
【0073】
(リン化合物(B))
リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。好ましい一例では、リン化合物(B)は、そのような部位(原子団または官能基)を2〜20個含有する。そのような部位の例には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(たとえば水酸基)と反応可能な部位が含まれる。たとえば、そのような部位の例には、リン原子に直接結合したハロゲン原子や、リン原子に直接結合した酸素原子が含まれる。それらのハロゲン原子や酸素原子は、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基と縮合反応(加水分解縮合反応)を起こすことができる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(たとえば水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
【0074】
リン化合物(B)としては、例えば、ハロゲン原子または酸素原子がリン原子に直接結合した構造を有するものを用いることができ、このようなリン化合物(B)を用いることにより金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基と(加水分解)縮合することで結合することができる。リン化合物(B)は、1つのリン原子を有するものであってもよいし、2つ以上のリン原子を有するものであってもよい。
【0075】
リン化合物(B)としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体が挙げられる。ポリリン酸の具体例としては、ピロリン酸、三リン酸、4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸などが挙げられる。上記の誘導体の例としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸の、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(塩化物等)、脱水物(五酸化ニリン等)などが挙げられる。また、ホスホン酸の誘導体の例には、ホスホン酸(H−P(=O)(OH)
2)のリン原子に直接結合した水素原子が種々の官能基を有していてもよいアルキル基に置換されている化合物(例えば、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等)や、その塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物および脱水物も含まれる。さらに、リン酸化でんぷんなど、リン原子を有する有機高分子も、前記リン化合物(B)として使用することができる。これらのリン化合物(B)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらのリン化合物(B)の中でも、後述するコーティング液(U)を用いて層(Y)を形成する場合におけるコーティング液(U)の安定性と得られる層(Y)のバリア性がより優れることから、リン酸を単独で使用するか、またはリン酸とそれ以外のリン化合物とを併用することが好ましい。
【0076】
上記したように、前記層(Y)は反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。また、層(Y)は、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介して結合された特定の構造を有する。このような反応生成物や構造は金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを混合し反応させることにより形成することができる。金属酸化物(A)との混合に供される(混合される直前の)リン化合物(B)は、リン化合物(B)そのものであってもよいし、リン化合物(B)を含む組成物の形態であってもよく、リン化合物(B)を含む組成物の形態が好ましい。好ましい一例では、リン化合物(B)を溶媒に溶解することによって得られる溶液の形態で、リン化合物(B)が金属酸化物(A)と混合される。その際の溶媒は任意のものが使用できるが、水または水を含む混合溶媒が好ましい溶媒として挙げられる。
【0077】
金属酸化物(A)との混合に供されるリン化合物(B)またはリン化合物(B)を含む組成物では金属原子の含有率が低減されていることが、バリア性と耐水性により優れる層(Y)が得られることから好ましい。金属酸化物(A)との混合に供されるリン化合物(B)またはリン化合物(B)を含む組成物に含まれる金属原子の含有率は、当該リン化合物(B)またはリン化合物(B)を含む組成物に含まれる全てのリン原子のモル数を基準(100モル%)として、100モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましく、0モル%であってもよい。
【0078】
(反応生成物(R))
反応生成物(R)には、金属酸化物(A)およびリン化合物(B)のみが反応することによって生成される反応生成物が含まれる。また、反応生成物(R)には、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とさらに他の化合物とが反応することによって生成される反応生成物も含まれる。反応生成物(R)は、後述する製造方法で説明する方法によって形成できる。
【0079】
(金属酸化物(A)とリン化合物(B)との比率)
層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数(N
M)とリン化合物(B)に由来するリン原子のモル数(N
P)との比率について、0.8≦モル数(N
M)/モル数(N
P)≦4.5の関係を満たすことが好ましく、1.0≦モル数(N
M)/モル数(N
P)≦3.6の関係を満たすことがより好ましく、1.1≦モル数(N
M)/モル数(N
P)≦3.0の関係を満たすことがさらに好ましい。モル数(N
M)/モル数(N
P)の値が4.5を超えると、金属酸化物(A)がリン化合物(B)に対して過剰となり、金属酸化物(A)の粒子同士の結合が不充分となり、また、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基の量が多くなるため、バリア性と耐水性が低下する傾向がある。一方、モル数(N
M)/モル数(N
P)の値が0.8未満であると、リン化合物(B)が金属酸化物(A)に対して過剰となり、金属酸化物(A)との結合に関与しない余剰なリン化合物(B)が多くなり、また、リン化合物(B)由来の水酸基の量が多くなりやすく、やはりバリア性と耐水性が低下する傾向がある。
【0080】
なお、上記比は、層(Y)を形成するためのコーティング液における、金属酸化物(A)の量とリン化合物(B)の量との比によって調整できる。層(Y)におけるモル数(N
M)とモル数(N
P)との比は、通常、コーティング液における比であって金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数とリン化合物(B)を構成するリン原子のモル数との比と同じである。
【0081】
(重合体(C))
層(Y)は、特定の重合体(C)をさらに含んでもよい。重合体(C)は、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を有する重合体である。層(Y)において重合体(C)は、それが有する官能基(f)によって金属酸化物(A)の粒子およびリン化合物(B)に由来するリン原子の一方または両方と直接的にまたは間接的に結合していてもよい。別の観点では、層(Y)において反応生成物(R)は、重合体(C)が金属酸化物(A)やリン化合物(B)と反応するなどして生じる重合体(C)部分を有していてもよい。なお、本明細書において、リン化合物(B)としての要件を満たす重合体であって官能基(f)を含む重合体は、重合体(C)には含めずにリン化合物(B)として扱う。
【0082】
重合体(C)としては、官能基(f)を有する構成単位を含む重合体を用いることができる。このような構成単位の具体例としては、ビニルアルコール単位、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、マレイン酸単位、イタコン酸単位、無水マレイン酸単位、無水フタル酸単位などの、官能基(f)を1個以上有する構成単位が挙げられる。重合体(C)は、官能基(f)を有する構成単位を1種類のみ含んでいてもよいし、官能基(f)を有する構成単位を2種類以上含んでいてもよい。
【0083】
より優れたバリア性および耐水性を有する層(Y)を得るために、重合体(C)の全構成単位に占める、官能基(f)を有する構成単位の割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0084】
官能基(f)を有する構成単位とそれ以外の他の構成単位とによって重合体(C)が構成されている場合、当該他の構成単位の種類は特に限定されない。当該他の構成単位の例には、アクリル酸メチル単位、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸エチル単位、アクリル酸ブチル単位、およびメタクリル酸ブチル単位等の(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構成単位;ギ酸ビニル単位および酢酸ビニル単位等のビニルエステルから誘導される構成単位;スチレン単位およびp−スチレンスルホン酸単位等の芳香族ビニルから誘導される構成単位;エチレン単位、プロピレン単位、およびイソブチレン単位等のオレフィンから誘導される構成単位などが含まれる。重合体(C)が2種類以上の構成単位を含む場合、当該重合体(C)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、およびテーパー型共重合体のいずれであってもよい。
【0085】
水酸基を有する重合体(C)の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分鹸化物、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、でんぷん等の多糖類、多糖類から誘導される多糖類誘導体などが挙げられる。カルボキシル基、カルボン酸無水物基またはカルボキシル基の塩を有する重合体(C)の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸/メタクリル酸)およびそれらの塩などを挙げることができる。また、官能基(f)を含有しない構成単位を含む重合体(C)の具体例としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体の鹸化物などが挙げられる。より優れたバリア性および耐熱水性を有する複合構造体を得るために、重合体(C)は、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
【0086】
重合体(C)の分子量に特に制限はない。より優れたバリア性および力学的物性(落下衝撃強さ等)を有する層(Y)を得るために、重合体(C)の数平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重合体(C)の数平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
【0087】
バリア性をより向上させるために、層(Y)における重合体(C)の含有率は、層(Y)の質量を基準(100質量%)として、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であってもよい。重合体(C)は、層(Y)中の他の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。なお、本明細書では、重合体(C)が他の成分と反応している場合も、重合体(C)と表現する。たとえば、重合体(C)が、金属酸化物(A)、および/または、リン化合物(B)に由来するリン原子と結合している場合も、重合体(C)と表現する。この場合、上記の重合体(C)の含有率は、金属酸化物(A)および/またはリン原子と結合する前の重合体(C)の質量を層(Y)の質量で除して算出する。
【0088】
層(Y)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物(R)(ただし、重合体(C)部分を有するものを含む)のみから構成されていてもよいし、当該反応生成物(R)と、反応していない重合体(C)のみから構成されていてもよいが、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0089】
上記の他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などが挙げられる。
【0090】
層(Y)における上記の他の成分の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0091】
(層(Y)の厚さ)
層(Y)の厚さ(外被材(E)が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、4.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.9μm以下であってもよい。層(Y)を薄くすることによって、層(Y)を含む積層体の加工時における寸法変化を低減し、また、層(Y)を含む積層体の柔軟性が増すことができる。本発明に用いられる外被材(E)では、層(Y)の厚さの合計が1.0μm以下(例えば0.9μm以下)の場合でも、高温高湿条件(たとえば、85℃、85%RH)においても、良好なガスバリア性および水蒸気バリア性を維持することができる。また、層(Y)の厚さ(外被材(E)が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.1μm以上(例えば0.2μm以上)であることが好ましい。なお、層(Y)1層当たりの厚さは、本発明の外被材(E)のバリア性がより良好になる観点から、0.05μm以上(例えば0.15μm以上)であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(U)の濃度や、その塗布方法によって制御することができる。
【0092】
[層(Y)の基材(K)]
本発明に用いられる層(Y)は、通常、基材(K)上に積層して使用される。基材(K)の材質に特に制限はなく、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(K)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス;金属;金属酸化物などが挙げられる。なお、基材(K)は複数の材質からなる複合構成または多層構成のものであってもよい。
【0093】
基材(K)の形態に特に制限はないが、本発明の真空断熱材における外被材(E)として使用する場合には、フィルムやシート等の層状の基材であることが好ましく、かかる層状の基材(K)としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム層、熱硬化性樹脂フィルム層、繊維重合体シート(布帛、紙等)層、木材シート層、ガラス層および金属箔層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む単層または複層の基材が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂フィルム層を含む基材(K)が好ましく、その場合の基材は単層であってもよいし、複層であってもよい。また、基材(K)は、後述の無機蒸着層(Z)を含んでいてもよい。
【0094】
熱可塑性樹脂フィルム層を形成する熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂などの熱可塑性樹脂を成形加工することによって得られるフィルムを挙げることができる。これらの中でも、真空断熱材の外被材(E)として使用するためには、熱可塑性樹脂フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6、ナイロン−66またはエチレン−ビニルアルコール共重合体からなるフィルムが好ましい。
【0095】
熱可塑性樹脂フィルムは、延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる複合構造体の加工適性(印刷やラミネートなど)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0096】
基材(K)が層状である場合にその厚さは、得られる外被材(E)の機械的強度や加工性が良好になる観点から、1〜200μmの範囲にあることが好ましく、5〜100μmの範囲にあることがより好ましく、7〜60μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0097】
本発明の一例では、基材(K)は、上記した樹脂層(X)、または、樹脂層(X)に後述する無機蒸着層(Z)が積層されたものであってもよい。
【0098】
[接着層(H)]
本発明に用いられる外被材(E)において、層(Y)は、基材(K)と直接接触するように積層されていてもよいが、基材(K)と層(Y)との間に配置された接着層(H)を介して層(Y)が基材(K)に積層されていてもよい。この構成によれば、基材(K)と層(Y)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(H)は、接着性樹脂で形成してもよい。接着性樹脂からなる接着層(H)は、基材(K)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材(K)の表面に公知の接着剤を塗布することによって形成できる。当該接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤や接着剤に、公知のシランカップリング剤などの少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤の好適な例としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基などの反応性基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。基材(K)と層(Y)とを接着層(H)を介して強く接着することによって、本発明の真空断熱材の外被材(E)を製造する際や加工を施す際に、バリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができる。
【0099】
接着層(H)を厚くすることによって、本発明の真空断熱材の外被材(E)の強度を高めることができる。しかし、接着層(H)を厚くしすぎると、外観が悪化する傾向がある。接着層(H)の厚さは0.03〜0.18μmの範囲にあることが好ましい。接着層(H)の厚さをこの範囲とすることで、本発明の真空断熱材に用いられる外被材(E)を製造する際や加工を施す際に、バリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができ、さらに、本発明の真空断熱材の耐衝撃性を高めることができる。接着層(H)の厚さは、0.04〜0.14μmの範囲にあることがより好ましく、0.05〜0.10μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0100】
[無機蒸着層(Z)]
本発明の真空断熱材に用いられる外被材(E)は、無機蒸着層(Z)を少なくとも1層含んでいてもよい。
【0101】
無機蒸着層(Z)は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性を有するものであることが好ましい。無機蒸着層(Z)は、アルミニウムなどの金属蒸着層のように遮光性を有するものや、透明性を有するものを適宜使用することができる。無機蒸着層(Z)は、基体の上に無機物を蒸着することにより形成することができ、基体の上に無機蒸着層(Z)が形成された積層体全体を、層(Y)の基材(K)として用いることもできる。透明性を有する無機蒸着層としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、またはそれらの混合物等の無機酸化物から形成される層;窒化ケイ素、炭窒化ケイ素等の無機窒化物から形成される層;炭化ケイ素等の無機炭化物から形成される層などが挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ケイ素から形成される層は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。
【0102】
無機蒸着層(Z)の好ましい厚さは、無機蒸着層(Z)を構成する成分の種類によって異なるが、通常、2〜500nmの範囲内である。この範囲で、外被材(E)のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層(Z)の厚さが2nm未満であると、酸素ガスや水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層(Z)の厚さが500nmを超えると、外被材(E)を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。無機蒸着層の厚さは、より好ましくは5〜200nmの範囲にあり、さらに好ましくは10〜100nmの範囲にある。
【0103】
無機蒸着層(Z)の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)などを挙げることができる。これらの中でも、生産性の観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着を行う際の加熱方式としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式および誘導加熱方式のいずれかが好ましい。また無機蒸着層が形成される基体との密着性および無機蒸着層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を採用して蒸着してもよい。また、無機蒸着層の透明性を上げるために、蒸着の際に、酸素ガスなどを吹き込んで反応を生じさせる反応蒸着法を採用してもよい。
【0104】
[層(Y)の製造方法]
以下、本発明に用いられる外被材(E)に含まれる層(Y)の製造方法について説明する。この方法によれば、層(Y)を容易に製造できる。層(Y)の製造方法に用いられる材料等は、上述したものと同様であるので、重複する部分については説明を省略する場合がある。たとえば、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および重合体(C)に対して、上記層(Y)の説明における記載を適用することが可能である。なお、層(Y)の製造方法について説明した事項については、層(Y)に適用できる。また、層(Y)について説明した事項については、層(Y)の製造方法に適用できる。
【0105】
本発明の層(Y)の製造方法は、工程(I)、(II)および(III)を含む。工程(I)では、金属酸化物(A)と、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する少なくとも1種の化合物と、溶媒とを混合することによって、金属酸化物(A)、当該少なくとも1種の化合物および当該溶媒を含むコーティング液(U)を調製する。工程(II)では、基材(K)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(K)上に層(Y)の前駆体層を形成する。工程(III)では、その前駆体層を処理することによって、基材(X)上に層(Y)を形成する。
【0106】
(工程(I))
工程(I)で用いられる、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する少なくとも1種の化合物を、以下では、「少なくとも1種の化合物(Z)」という場合がある。工程(I)では、金属酸化物(A)と、少なくとも1種の化合物(Z)と、溶媒とを少なくとも混合する。1つの観点では、工程(I)では、金属酸化物(A)と、少なくとも1種の化合物(Z)とを含む原料を、溶媒中で反応させる。当該原料は、金属酸化物(A)および少なくとも1種の化合物(Z)の他に、他の化合物を含んでもよい。典型的には、金属酸化物(A)は粒子の形態で混合される。
【0107】
少なくとも1種の化合物(Z)は、リン化合物(B)を含む。少なくとも1種の化合物(Z)に含まれる金属原子のモル数は、リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数の0〜1倍の範囲にあることが好ましい。典型的には、少なくとも1種の化合物(Z)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を複数含有する化合物であり、少なくとも1種の化合物(Z)に含まれる金属原子のモル数が、リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数の0〜1倍の範囲にある。
【0108】
(少なくとも1種の化合物(Z)に含まれる金属原子のモル数)/(リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数)の比を0〜1の範囲(たとえば0〜0.9の範囲)とすることによって、より優れたバリア性および耐熱水性を有する複合構造体が得られる。この比は、複合構造体のバリア性および耐熱水性をさらに向上させるために、0.3以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましく、0であってもよい。典型的には、少なくとも1種の化合物(Z)は、リン化合物(B)のみからなり、たとえば、金属原子を含まないリン化合物(B)のみからなる。工程(I)では、上記比を容易に低下させることができる。
【0109】
工程(I)は、以下の工程(a)〜(c)を含むことが好ましい。
工程(a):金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程。
工程(b):リン化合物(B)を含む溶液(T)を調製する工程。
工程(c):上記工程(a)および(b)で得られた液体(S)と溶液(T)とを混合する工程。
【0110】
工程(b)は、工程(a)より先に行われてもよいし、工程(a)と同時に行われてもよいし、工程(a)の後に行われてもよい。以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0111】
工程(a)では、金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する。液体(S)は、溶液または分散液である。当該液体(S)は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって調製できる。例えば、上述した化合物(L)系成分、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって調製できる。化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって得られる、金属酸化物(A)の分散液は、そのまま金属酸化物(A)を含む液体(S)として使用することができる。しかし、必要に応じて、当該分散液に対して特定の処理(上記したような解膠や濃度制御のための溶媒の加減等)を行ってもよい。
【0112】
工程(a)は、化合物(L)および化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合(たとえば加水分解縮合)させる工程を含んでもよい。具体的には、工程(a)は、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合または加水分解縮合する工程を含んでもよい。
【0113】
また、液体(S)を調製するための方法の別の例としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。まず、熱エネルギーによって金属を金属原子として気化させ、その金属原子を反応ガス(酸素)と接触させることによって金属酸化物の分子およびクラスターを生成させる。その後、それらを瞬時に冷却することによって、粒径が小さい金属酸化物(A)の粒子を製造する。次に、その粒子を水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)が得られる。水や有機溶媒への分散性を高めるため、金属酸化物(A)の粒子に対して表面処理を施したり、界面活性剤等の安定化剤を添加したりしてもよい。また、pHを制御することによって、金属酸化物(A)の分散性を向上させてもよい。
【0114】
液体(S)を調製するための方法のさらに別の例としては、バルク体の金属酸化物(A)をボールミルやジェットミル等の粉砕機を用いて粉砕し、これを水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)とする方法を挙げることができる。ただし、この場合には、金属酸化物(A)の粒子の形状や大きさの分布を制御することが困難となる場合がある。
【0115】
工程(a)において使用できる有機溶媒の種類に特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等のアルコール類が好適に用いられる。
【0116】
液体(S)中における金属酸化物(A)の含有率は、0.1〜30質量%の範囲内であることが好ましく、1〜20質量%の範囲内であることがより好ましく、2〜15質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0117】
工程(b)では、リン化合物(B)を含む溶液(T)を調製する。溶液(T)は、リン化合物(B)を溶媒に溶解することによって調製できる。リン化合物(B)の溶解性が低い場合には、加熱処理や超音波処理を施すことによって溶解を促進してもよい。
【0118】
溶液(T)の調製に用いられる溶媒は、リン化合物(B)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。リン化合物(B)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は、メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどを含んでもよい。
【0119】
溶液(T)中におけるリン化合物(B)の含有率は、0.1〜99質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、0.1〜90質量%の範囲内であることがさらに好ましい。また、溶液(T)中におけるリン化合物(B)の含有率は、0.1〜50質量%の範囲内にあってもよく、1〜40質量%の範囲内にあってもよく、2〜30質量%の範囲内にあってもよい。
【0120】
工程(c)では、液体(S)と溶液(T)とを混合する。液体(S)と溶液(T)との混合時には、局所的な反応を抑制するため、添加速度を抑え、攪拌を強く行いながら混合することが好ましい。この際、攪拌している液体(S)に溶液(T)を添加してもよいし、攪拌している溶液(T)に液体(S)を添加してもよい。また、混合時の温度を30℃以下(例えば20℃以下)に維持することによって、保存安定性に優れたコーティング液(U)を得ることができる場合がある。さらに、混合完了時点からさらに30分程度攪拌を続けることによって、保存安定性に優れたコーティング液(U)を得ることができる場合がある。
【0121】
また、コーティング液(U)は、重合体(C)を含んでもよい。コーティング液(U)に重合体(C)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、重合体(C)を粉末またはペレットの状態で添加した後に溶解させてもよい。また、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)をの混合液に、重合体(C)の溶液を添加して混合してもよい。また、重合体(C)の溶液に、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液を添加して混合してもよい。溶液(T)に重合体(C)を含有させることによって、工程(c)において液体(S)と溶液(T)とを混合する際に、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
【0122】
コーティング液(U)が重合体(C)を含むことによって、重合体(C)を含有する層(Y)を含む複合構造体を容易に製造できる。
【0123】
コーティング液(U)は、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(D)を含んでもよい。以下では、当該少なくとも1種の酸化合物(D)を、単に「酸化合物(D)」と略称する場合がある。コーティング液(U)に酸化合物(D)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、酸化合物(D)をそのまま添加して混合してもよい。また、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、酸化合物(D)の溶液を添加して混合してもよい。また、酸化合物(D)の溶液に、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液を添加して混合してもよい。溶液(T)が酸化合物(D)を含むことによって、工程(c)において液体(S)と溶液(T)とを混合する際に、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
【0124】
酸化合物(D)を含むコーティング液(U)においては、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応が抑制され、コーティング液(U)中での反応物の沈澱や凝集を抑制することができる。そのため、酸化合物(D)を含むコーティング液(U)を用いることによって、得られる複合構造体の外観が向上する場合がある。また、酸化合物(D)の沸点は200℃以下であるため、複合構造体の製造過程において、酸化合物(D)を揮発させるなどすることによって、酸化合物(D)を層(Y)から容易に除去できる。
【0125】
コーティング液(U)における酸化合物(D)の含有率は、0.1〜5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜2.0質量%の範囲内であることがより好ましい。これらの範囲では、酸化合物(D)の添加による効果が得られ、且つ、酸化合物(D)の除去が容易である。液体(S)中に酸成分が残留している場合には、その残留量を考慮して、酸化合物(D)の添加量を決定すればよい。
【0126】
工程(c)における混合によって得られた液は、そのままコーティング液(U)として使用できる。この場合、通常、液体(S)や溶液(T)に含まれる溶媒が、コーティング液(U)の溶媒となる。また、工程(c)における混合によって得られた液に処理を行って、コーティング液(U)を調製してもよい。たとえば、有機溶媒の添加、pHの調製、粘度の調製、添加物の添加等の処理を行ってもよい。
【0127】
工程(c)の混合によって得られた液に、得られるコーティング液(U)の安定性が阻害されない範囲で有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤の添加によって、工程(II)における基材(K)へのコーティング液(U)の塗布が容易になる場合がある。有機溶剤としては、得られるコーティング液(U)において均一に混合されるものが好ましい。好ましい有機溶剤の例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどが挙げられる。
【0128】
コーティング液(U)の保存安定性、およびコーティング液(U)の基材に対する塗工性の観点から、コーティング液(U)の固形分濃度は、1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがより好ましく、3〜10質量%の範囲にあることがさらに好ましい。コーティング液(U)の固形分濃度は、例えば、シャーレにコーティング液(U)を所定量加え、当該シャーレごと100℃の温度で溶媒等の揮発分の除去を行い、残留した固形分の質量を、最初に加えたコーティング液(U)の質量で除して算出することができる。その際、一定時間乾燥するごとに残留した固形分の質量を測定し、連続した2回の質量差が無視できるレベルにまで達した際の質量を残留した固形分の質量として、固形分濃度を算出するのが好ましい。
【0129】
コーティング液(U)の保存安定性および複合構造体のバリア性の観点から、コーティング液(U)のpHは0.5〜6.0の範囲にあることが好ましく、0.5〜5.0の範囲にあることがより好ましく、0.5〜4.0の範囲にあることがさらに好ましい。
【0130】
コーティング液(U)のpHは公知の方法で調整することができ、例えば、酸性化合物や塩基性化合物を添加することによって調整することができる。酸性化合物の例には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、酪酸、および硫酸アンモニウムが含まれる。塩基性化合物の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリメチルアミン、ピリジン、炭酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムが含まれる。
【0131】
コーティング液(U)は、時間の経過とともに状態が変化し、最終的にはゲル状の組成物となるか、または沈殿を生じる傾向がある。そのように状態が変化するまでの時間は、コーティング液(U)の組成に依存する。基材(K)上にコーティング液(U)を安定して塗布するためには、コーティング液(U)は、長時間にわたってその粘度が安定していることが好ましい。溶液(U)は、工程(I)の完了時の粘度を基準粘度として、25℃で2日間静置した後においても、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計:60rpm)で測定した粘度が基準粘度の5倍以内となるように調製されることが好ましい。コーティング液(U)の粘度が上記の範囲にある場合、貯蔵安定性に優れるとともに、より優れたバリア性を有する複合構造体が得られることが多い。
【0132】
コーティング液(U)の粘度が上記範囲内になるように調整する方法として、例えば、固形分の濃度を調整する、pHを調整する、粘度調節剤を添加する、といった方法を採用することができる。粘度調節剤の例には、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、ベントナイト、トラガカントゴム、ステアリン酸塩、アルギン酸塩、メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびイソプロパノールが含まれる。
【0133】
本発明の効果が得られる限り、コーティング液(U)は、上述した物質以外の他の物質を含んでもよい。例えば、コーティング液(U)は、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などを含んでいてもよい。
【0134】
(工程(II))
工程(II)では、基材(K)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(K)上に層(Y)の前駆体層を形成する。コーティング液(U)は、基材(K)の少なくとも一方の面の上に直接塗布してもよい。また、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(K)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(K)の表面に公知の接着剤を塗布したりするなどして、基材(K)の表面に接着層(H)を形成しておいてもよい。
【0135】
また、コーティング液(U)は、必要に応じて、脱気および/または脱泡処理してもよい。脱気および/または脱泡処理の方法としては、例えば、真空引き、加熱、遠心、超音波、などによる方法があるが、真空引きを含む方法を好ましく使用することができる。
【0136】
コーティング液(U)を基材(K)上に塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。好ましい方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法などが挙げられる。
【0137】
通常、工程(II)において、コーティング液(U)中の溶媒を除去することによって、層(Y)の前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用することができる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法などの乾燥方法を、単独で、または組み合わせて適用することができる。乾燥温度は、基材(K)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。コーティング液(U)が重合体(C)を含む場合には、乾燥温度は、重合体(C)の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低いことが好ましい。乾燥温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、80〜180℃の範囲にあることがより好ましく、90〜160℃の範囲にあることがさらに好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、後述する工程(III)における熱処理によって、溶媒を除去してもよい。
【0138】
層状の基材(K)の両面に層(Y)を積層する場合、コーティング液(U)を基材(K)の一方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第1の層(第1の層(Y)の前駆体層)を形成し、次いで、コーティング液(U)を基材(K)の他方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第2の層(第2の層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。それぞれの面に塗布するコーティング液(U)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
【0139】
(工程(III))
工程(III)では、工程(II)で形成された前駆体層(層(Y)の前駆体層)を、処理することによって層(Y)を形成する。前駆体層を処理する方法としては、熱処理、紫外線等の電磁波照射などが挙げられる。工程(III)で行われる処理は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを反応させる処理であってもよい。たとえば、工程(III)で行われる処理は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを反応させることによって、リン化合物(B)に由来するリン原子を介して金属酸化物(A)の粒子同士を結合させる処理であってもよい。通常、工程(III)は、前記前駆体層を110℃以上の温度で熱処理する工程である。なお、特に限定されるわけではないが、前記前駆体層の赤外線吸収スペクトルにおいては、800〜1400cm
−1の範囲における最大吸光度(A
1’)と、2500〜4000cm
−1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸光度(A
2’)とが、吸光度(A
2’)/吸光度(A
1’)>0.2の関係を満たす場合がある。
【0140】
工程(III)では、金属酸化物(A)の粒子同士がリン原子(リン化合物(B)に由来するリン原子)を介して結合される反応が進行する。別の観点では、工程(III)では、反応生成物(R)が生成する反応が進行する。当該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、110℃以上であり、120℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応度を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材(K)の種類などによって異なる。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(K)として用いる場合には、熱処理の温度は190℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(K)として用いる場合には、熱処理の温度は220℃以下であることが好ましい。また、ビニルアルコール系ポリマーからなる樹脂層(X)を基材(K)として用いる場合には、熱処理の温度は170℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下などで実施することができる。
【0141】
熱処理の時間は0.1秒〜1時間の範囲にあることが好ましく、1秒〜15分の範囲にあることがより好ましく、5〜300秒の範囲にあることがさらに好ましい。一例の熱処理は、110〜220℃の範囲で0.1秒〜1時間行われる。また、他の一例の熱処理では、120〜170℃の範囲で、5〜300秒間(たとえば60〜300秒間)行われる。
【0142】
層(Y)を製造するための方法は、層(Y)の前駆体層または層(Y)に紫外線を照射する工程を含んでもよい。紫外線照射は、工程(II)の後(たとえば塗布されたコーティング液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後)のいずれの段階で行ってもよい。その方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。照射する紫外線の波長は170〜250nmの範囲にあることが好ましく、170〜190nmの範囲および/または230〜250nmの範囲にあることがより好ましい。また、紫外線照射に代えて、電子線やγ線等の放射線の照射を行ってもよい。紫外線照射を行うことによって、層(Y)のバリア性能がより高度に発現する場合がある。
【0143】
基材(K)と層(Y)との間に接着層(H)を配置するために、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(K)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(K)の表面に公知の接着剤を塗布したりする場合には、熟成処理を行うことが好ましい。具体的には、コーティング液(U)を塗布した後であって工程(III)の熱処理工程の前に、コーティング液(U)が塗布された基材(K)を比較的低温下に長時間放置することが好ましい。熟成処理の温度は、110℃未満であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。また、熟成処理の温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。熟成処理の時間は、0.5〜10日の範囲にあることが好ましく、1〜7日の範囲にあることがより好ましく、1〜5日の範囲にあることがさらに好ましい。このような熟成処理を行うことによって、基材(K)と層(Y)との間の接着力がより強固になる。
【0144】
工程(III)の処理を経て得られた層(Y)と基材(K)の積層体は、そのまま本発明の真空断熱材の外被材(E)として使用できる。しかし、上記したように他の部材(他の層など)をさらに接着または形成して本発明の真空断熱材の外被材(E)としてもよい。当該部材の接着は、公知の方法で行うことができる。
【0145】
[外被材(E)]
本発明の真空断熱材に用いられる外被材(E)は、樹脂層(X)および層(Y)のみによって構成されてもよいし、樹脂層(X)、層(Y)および無機蒸着層(Z)のみによって構成されていてもよいし、これらに加えて上記した基材(K)や接着層(H)を含んでもよい。また、外被材(E)は、これらの層をそれぞれ複数含んでもよい。さらに、外被材(E)は、樹脂層(X)、層(Y)、無機蒸着層(Z)、基材(K)および接着層(H)以外の他の部材(例えば熱可塑性樹脂フィルム層、紙層等の他の層など)をさらに含んでもよい。そのような他の部材(他の層など)を有する外被材(E)は、当該他の部材(他の層など)を直接または接着層を介して接着または形成することによって製造することができる。外被材(E)が、このような他の部材(他の層など)を備えることによって、外被材(E)の特性を向上させたり、新たな特性を付与したりすることができる。例えば、本発明の外被材(E)にヒートシール性を付与したり、バリア性や力学的物性をさらに向上させたりすることができる。
【0146】
特に、外被材(E)の表面層をポリオレフィン層(以下、PO層と略すことがある)とすることによって、外被材(E)にヒートシール性を付与したり、外被材(E)の力学的特性を向上させたりすることができるため好ましい。ヒートシール性や力学的特性をより一層向上させる観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、外被材(E)の力学的特性を向上させるために、他の層として、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルムおよびポリビニルアルコール系フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、ポリアミドとしてはナイロン−6が好ましく、ポリビニルアルコールとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお各層の間には必要に応じて、アンカーコート層や接着剤層を設けてもよい。
【0147】
本発明の真空断熱材に用いられる外被材(E)は、たとえば、真空断熱材の外側となる層から内側となる層に向かって、以下の構成を有していてもよい。以下の構成において、「/」は、「/」を挟む2層が直接的に積層されていることを表す(ただし、接着層(H)は介していてもよい)。また、「//」は、「//」を挟む2層が接着剤を介して間接的に積層されていることを表す。
(1)層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(2)ポリエステル層//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(3)ポリエステル層//樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(4)ポリアミド層//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(5)ポリアミド層//樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(6)PO層//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(7)層(Y)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(8)ポリエステル層//層(Y)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(9)ポリアミド層//層(Y)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(10)PO層//層(Y)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(11)ポリエステル層/層(Y)//樹脂層(X)//PO層、
(12)ポリアミド層/層(Y)//樹脂層(X)//PO層、
(13)PO層/層(Y)//樹脂層(X)//PO層、
(14)ポリエステル層/層(Y)//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(15)ポリアミド層/層(Y)//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(16)PO層/層(Y)//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(17)ポリエステル層/層(Y)//層(Y)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(18)ポリアミド層/層(Y)//層(Y)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(19)PO層/層(Y)//層(Y)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(20)ポリエステル層/無機蒸着層(Z)//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(21)ポリアミド層/無機蒸着層(Z)//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(22)PO層/無機蒸着層(Z)//層(Y)/樹脂層(X)//PO層、
(23)ポリエステル層/層(Y)//無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(24)ポリアミド層/層(Y)//無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(25)PO層/層(Y)//無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(26)層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(27)ポリエステル層//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(28)ポリエステル層//層(Y)/樹脂層(X)/無機蒸着層(Z)//PO層、
(29)ポリアミド層//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(30)PO層//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(31)ポリエステル層/層(Y)//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(32)ポリアミド層/層(Y)//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(33)PO層/層(Y)//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(34)ポリエステル層/無機蒸着層(Z)//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(35)ポリアミド層/無機蒸着層(Z)//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(36)PO層/無機蒸着層(Z)//層(Y)/無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)//PO層、
(37)ポリエステル層//無機蒸着層(Z)/樹脂層(X)/層(Y)//PO層、
(38)ポリエステル層//樹脂層(X)/無機蒸着層(Z)/層(Y)//PO層。
これらの中でも、高温高湿条件下で使用した場合にも外観に優れる真空断熱材を得るためには、上記層構成(1)、(2)、(4)、(6)〜(19)および(23)〜(33)が特に好ましい。
【0148】
以上に例示した外被材(E)の構成の中でも、下記の要件の少なくとも1つ以上を備えていることが好ましい。
(1)少なくとも1層の樹脂層(X)が少なくとも1層の層(Y)よりも芯材側に位置する。
(2)少なくとも1層の層(Y)が、少なくとも1層の樹脂層(X)に直接積層されている。
(3)無機蒸着層(Z)を少なくとも1層含む。
(4)少なくとも1層の樹脂層(X)および/または少なくとも1層無機蒸着層(Z)が少なくとも1層の層(Y)よりも芯材側に位置する。
(5)少なくとも1層の無機蒸着層(Z)が、少なくとも1層の樹脂層(X)に直接積層されている。
(6)少なくとも1層の層(Y)、少なくとも1層の無機蒸着層(Z)、少なくとも1層の樹脂層(X)がこの順に直接積層されている。
【0149】
本発明によれば、以下の性能を満たす外被材(E)を得ることが可能である。好ましい一例では、外被材(E)に含まれる層(Y)の厚さ(外被材(E)が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)が1.0μm以下(たとえば0.9μm以下や0.8μm以下や0.5μm以下)である外被材(E)が、以下の性能を満たす。
(性能1)真空断熱材を85℃、85%RHの条件下で50日間保管した後における外被材(E)の酸素透過度(Of)が、保管前の酸素透過度(Os)に対して5.0倍以下である。
(性能2)外被材(E)の保管前の酸素透過度(Os)が、40℃、90/0%RHの条件下において、0.10ml/(m
2・day・atm)以下である。
【0150】
[芯材]
本発明の真空断熱材に使用される芯材は、断熱性を有するものである限り特に制限はない。たとえば、芯材として、パーライト粉末、シリカ粉末、沈降シリカ粉末、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ガラスウール、ロックウール、および樹脂の発泡体(たとえばスチレンフォームやウレタンフォーム)などが例示できる。また、芯材として、樹脂や無機材料製の中空容器や、ハニカム状構造体などを使用してもよい。また、必要に応じて、水蒸気やガスなどを吸着するゲッター材を芯材に含んでもよい。
【0151】
[真空断熱材]
本発明の真空断熱材においては、外被材(E)内の空間部は真空状態にある。ここでいう真空状態とは必ずしも絶対的な真空状態を意味せず、外被材内の空間部の圧力が大気圧より充分に低いことを示す。内部圧力は、必要な性能と製造の容易さなどから決定されるが、通常、断熱性能を発揮させるためには2kPa(約15Torr)以下である。本発明の真空断熱材の断熱効果を充分に発現させるためには、外被材内部圧力は200Pa(約1.5Torr)以下であることが好ましく、20Pa以下であることがより好ましく、2Pa以下であることがさらに好ましい。外被材内の空間部の圧力の下限に限定はないが、圧力は0.001Pa〜2KPaの範囲にあってもよい。
【0152】
本発明の真空断熱材は、通常行なわれている方法によって製造できる。使用目的等に応じ、任意の形状および大きさの真空断熱材を形成できる。例えば、以下の方法1〜3によって本発明の真空断熱材を製造できる。
(方法1)まず、少なくとも一方の表面にヒートシール層が配置された2枚の外被材(E)を用意する。その2枚の外被材(E)を、各々のヒートシール層が内側となるように重ね合わせ、任意の3辺をヒートシールする。次に、外被材の内部に芯材を充填する。次に、外被材の内部の空間を真空状態にし、そのままの状態で最後の辺をヒートシールする。このようにして真空断熱材が得られる。
(方法2)まず、1枚の外被材(E)をヒートシ−ル層が内側となるように折り曲げ、任意の2辺をヒートシールする。次に、外被材(E)の内部に芯材を充填する。次に、外被材(E)の内部の空間を真空状態にし、そのままの状態で最後の辺をヒートシールする。このようにして真空断熱材が得られる。
(方法3)まず、2枚の外被材(E)で芯材を挟むか、または外被材(E)を折り曲げるようにして芯材を挟む。次に、外被材(E)が重なっている周縁部を、真空排気口を残してヒートシールする。次に、外被材(E)の内部の空間を真空状態にし、そのままの状態で真空排気口をヒートシールする。このようにして真空断熱材が得られる。
【0153】
[用途]
本発明の真空断熱材は、保冷や保温が必要な各種用途に使用することができる。特に、本発明の真空断熱材は、高温高湿下で使用される場合にも、断熱性能の経時的な劣化が極めて起こり難いので、断熱材として充分な耐用期間を達成することが可能となり、給湯機用タンク、温水トイレ用タンク、自動販売機用タンク、燃料電池用タンク、自動車用タンク、食品などの保温用バッグ、温かいペットボトルや缶の保温用、洗濯機のドラムの保温用、コーヒーやお茶のサーバー、ジャーポットといった断熱性を必要とするあらゆる保温の用途にも有用である。
【実施例】
【0154】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各測定および評価は、以下の方法によって実施した。
【0155】
(1)層(Y)の赤外線吸収スペクトル
実施例で形成される層(Y)の赤外線吸収スペクトルは、以下の方法で測定した。
【0156】
まず、基材(K)上に積層した層(Y)について、フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer社製、「Spectrum One」)を用いて、赤外線吸収スペクトルを測定した。赤外線吸収スペクトルは、ATR(全反射測定)のモードで、700〜4000cm
−1の範囲で測定した。層(Y)の厚さが1μm以下である場合には、ATR法による赤外線吸収スペクトルでは基材(K)由来の吸収ピークが検出され、層(Y)のみに由来する吸収強度を正確に求めることができない場合がある。このような場合には、基材(K)のみの赤外線吸収スペクトルを別途測定し、それを差し引くことで層(Y)由来のピークのみを抽出した。
【0157】
このようにして得られた層(Y)の赤外線吸収スペクトルに基づいて、800〜1400cm
−1の範囲における最大吸収波数(n
1)、および、最大吸収波数(n
1)における吸光度(A
1)を求めた。また、2500〜4000cm
−1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸収波数(n
2)、および、最大吸収波数(n
2)における吸光度(A
2)を求めた。また、最大吸収波数(n
1)の吸収ピークの半値幅は、当該吸収ピークにおいて吸光度(A
1)の半分の吸光度(吸光度(A
1)/2)を有する2点の波数を求め、それらの波数の差を算出することによって得た。また、最大吸収波数(n
1)の吸収ピークが、他の成分に由来する吸収ピークと重なっている場合には、ガウス関数を用いて最小二乗法により、それぞれの成分に由来する吸収ピークに分離した後に、上記した場合と同様に最大吸収波数(n
1)の吸収ピークの半値幅を得た。なお、層(Y)の前駆体層を有する比較例3および5の積層体については、層(Y)についての(吸光度(A
2))/(吸光度(A
1))の値に相当する、(吸光度(A
2’))/(吸光度(A
1’))の値を算出した。ただし、吸光度(A
1’)および吸光度(A
2’)はそれぞれ、層(Y)の前駆体層の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1400cm
−1の範囲における最大吸光度(A
1’)と、2500〜4000cm
−1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸光度(A
2’)である。
【0158】
(2)85℃、85%RHで50日間保管する前の外被材(E)の酸素バリア性(Os)
実施例または比較例で製造した真空断熱材から、10cm×10cmの大きさの外被材(E)を切り出し、測定用サンプルとした。酸素透過度(OTR)は、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)を用いて測定した。具体的には、酸素供給側に層(Y)が向き、キャリアガス側に後述するCPPの層が向くように外被材をセットし、温度が40℃、酸素供給側の湿度が90%RH、キャリアガス側の湿度が0%RH、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で酸素透過度(単位:ml/(m
2・day・atm))を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
【0159】
(3)85℃、85%RHで50日間保管した後の外被材(E)の酸素バリア性(Of)
実施例または比較例で製造した真空断熱材を、85℃、85%RHで50日間保管した後、10cm×10cmの大きさの外被材(E)を切り出し、測定用サンプルとした。酸素透過度(OTR)は、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)を用いて測定した。具体的には、酸素供給側に層(Y)が向き、キャリアガス側に後述するCPPの層が向くように外被材をセットし、温度が40℃、酸素供給側の湿度が90%RH、キャリアガス側の湿度が0%RH、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で酸素透過度(単位:ml/(m
2・day・atm))を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
【0160】
(4)85℃、85%RHで50日間保管した後の真空断熱材の外観変化
85℃、85%RHで50日間保管した後の真空断熱材の外観変化を、目視によって下記のように評価した。
A:保管前とほとんど変化が見られない
B:外被材(E)に気泡、デラミ、ムラなどの変化が見られる
【0161】
[コーティング液(U)の製造例]
層(Y)を製造するために使用したコーティング液(U)の製造例を示す。
蒸留水90質量部に60質量%の硝酸水溶液0.28質量部を加え、撹拌しながら75℃に昇温した。得られた水溶液に、アルミニウムイソプロポキシド20質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。次いで、60質量%の硝酸水溶液2.2質量部を添加し、95℃で1時間撹拌することによって、解膠させた。こうして得られた分散液を、固形分濃度がアルミナ換算で10質量%になるように希釈し、分散液(S)を得た。
【0162】
また、85質量%のリン酸水溶液3.68質量部に対して、蒸留水57.07質量部、60質量%の硝酸水溶液1.50質量部およびメタノール19.00質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、溶液(T)を得た。続いて、溶液(T)を攪拌した状態で、分散液(S)18.75質量部を滴下し、滴下完了後からさらに30分間攪拌を続けることによって、コーティング液(U)を得た。なお、当該コーティング液(U)における金属酸化物(A)(アルミナ)を構成する金属原子のモル数(N
M)とリン化合物(B)(リン酸)を構成するリン原子のモル数(N
P)との比率(モル数(N
M)/モル数(N
P))は、1.28であった。
【0163】
[コーティング液(V)の製造例]
比較として、層(YC)を製造するために使用したコーティング液(V)の製造例を示す。
蒸留水980質量部にポリビニルアルコール20質量部添加し、低速攪拌下で95℃に昇温し、そのまま1時間攪拌して溶解させ、2質量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次に、蒸留水980質量部に合成スメクタイト(スメクトンSA;クニミネ工業(株)製)20質量部を粉末のまま添加し、高速攪拌を90分間行い、固形分濃度が2質量%のスメクタイト水溶液を得た。このようにして得た2質量%のポリビニルアルコール水溶液と2質量%のスメクタイト水溶液を1/2の重量比で混合および攪拌し、さらに、シリコーン系界面活性剤SH3746(東レ・ダウコーニング(株)製)をトータル液量に対し、0.01質量%添加し、コーティング液(V)を得た。
【0164】
[実施例1]
基材として、2軸延伸エチレンービニルアルコール共重合体フィルム(株式会社クラレ製「エバールEF−XL」(商品名)、厚さ12μm、「EVOH」と略記することがある)を準備した。その基材(EVOH)上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコータによってコーティング液(U)をコートし、100℃で5分間乾燥することによって層(Y1)の前駆体層を形成した。得られた積層体に対して、乾燥機を用いて160℃で1分間の熱処理を施し、層(Y1)(0.5μm)/EVOH(12μm)という構造を有する積層体(A1)を得た。得られた積層体(A1)について、上記した方法によって、層(Y1)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0165】
続いて、無延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ株式会社製「RXC−21」(商品名)、厚さ50μm、「CPP」と略記することがある)を準備した。このCPPの上に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、「A−520」(商品名)および「A−50」(商品名))をコートして乾燥させた。そして、これと積層体(A1)とをラミネートした。このようにして、層(Y1)/EVOH/接着剤/CPPという構造を有する外被材(E1)を得た。
【0166】
次に、外被材(E1)を所定の形状に2枚切り出した後、CPPが内側となるように2枚の外被材(E1)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。次に、袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機(Frimark GmbH製VAC−STAR 2500型)を用いて、温度20℃で内部圧力10Paの状態で袋を密封した。このようにして、本発明の真空断熱材を問題なく作製できた。なお、断熱性の芯材には、120℃の雰囲気下で4時間乾燥したシリカ微粉末を用いた。得られた真空断熱材について、上記した方法によって、85℃、85%RHで50日間保管する前後の外被材(E)の酸素バリア性および85℃、85%RHで50日間保管した後の真空断熱材の外観変化を評価した。
【0167】
[実施例2〜13、比較例1〜9]
外被材(E)の層構成、製造条件を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2〜13および比較例1〜9の真空断熱材を作製した。得られた真空断熱材を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。ここで、表1の外被材(E)に使用したフィルムは、下記の通りである。
PET:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製「ルミラーP60」(商品名)、厚さ12μm)
ONY:延伸ナイロンフィルム(ユニチカ株式会社製「エンブレム ON−BC」(商品名)、厚さ15μm)
VM−PET:アルミ蒸着延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製「VM−PET1310」(商品名)、厚さ12μm)
VM−EVOH:アルミ蒸着2軸延伸エチレンービニルアルコール共重合体フィルム(株式会社クラレ製「エバールVM−XL」(商品名)、厚さ12μm)
PVA:2軸延伸ポリビニルアルコールフィルム(厚さ12μm)
なお、表1においてVM−EVOHのようなアルミ蒸着フィルムは、蒸着層であるVM層とEVOH層の層構成も考慮して「VM−EVOH」または「EVOH−VM」と表している。例えば、実施例8の外被材(E)においてはVM−EVOHのVM層(蒸着層)が層(Y)側に、EVOH層がCPP層側になるよう積層されていることを示す。このような表記は、VM−PETについても同様である。
また、基材上にコーティング液(U)を塗布することによって、形成された層(Y)の前駆体層を層(Y’)とした。
【0168】
上記実施例および比較例において使用したEVOH層およびPVA層は、樹脂層(X)の一例である。
【0169】
上記実施例および比較例の製造条件を表1に示す。また、測定および評価結果を、表2に示す。ただし、表1および2において、「−」は、「使用していない」、「計算できない」、「実施していない」、「測定できない」等を意味する。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
以上のように、本発明の真空断熱材は、85℃、85%RHといった高温高湿条件に長時間晒された場合にも、外被(E)材のガスバリア性の低下が極めて限定的であり、充分な長期信頼性および耐熱性を有した真空断熱材を製造することができた。