(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
災害により駆動機器が故障した場合、この駆動機器を現地で補修、復旧することは難しい。このため、故障した駆動機器を工場に持ち込んで修理を行い、現地に再搬入してポンプ機能を復旧するのが従来の方法であった。しかしながら、このような従来の方法では、ポンプ本体が運転できる状態にあるにもかかわらず、ポンプシステム全体の排水機能が復旧するまでに数週間から数ヶ月を要してしまうため、二次災害を発生させてしまう危険性が大きかった。
【0006】
上記のような機能回復が間に合わない場合の応急対応として、排水ポンプ車等の移動式排水設備を設置することもある。しかしながら、治水用のポンプシステムは、ポンプ口径が1000mmを超えるような大型の設備であり、移動式排水設備のような小容量のポンプ(口径は通常200mm前後)では容量不足であった。
【0007】
本発明は、東日本大震災で実際に起きた上記課題を解決するためになされたものであり、地震や津波などの災害によりダメージを受けた場合に、迅速に応急運転を行うことができるポンプシステムを提供することを目的とする。また、本発明は、かかるポンプシステムを運転する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明の一
参考例は、水を移送するためのポンプと、前記ポンプを駆動する駆動源と、ベルト駆動用のプーリユニットとを備え、前記プーリユニットは、少なくとも1つのプーリと、前記プーリを支持する支持軸と、前記支持軸を回転自在に支持するラジアル軸受とを有し、前記駆動源は、前記支持軸を介して前記ポンプに連結されており、前記プーリユニットは、前記支持軸を介して前記駆動源の駆動力を前記ポンプに伝達し、さらに前記駆動源とは別に用意される応急運転用のモータの駆動力を前記プーリを介して前記ポンプに伝達するための動力伝達機構であることを特徴とするポンプシステムである。
【0009】
本発明の他の
参考例は、上記ポンプシステムを運転する方法であって、通常運転では、前記駆動源により前記支持軸を介して前記ポンプをシャフト駆動し、応急運転では、前記モータにより前記プーリを介して前記ポンプをベルト駆動することを特徴とする。
【0010】
本発明の
一態様は、水を移送するためのポンプと、前記ポンプを駆動する駆動源と、前記駆動源の駆動力を前記ポンプに伝達するための中間軸と、ベルト駆動用のプーリユニットとを備え、前記プーリユニットは、少なくとも1つのプーリと、前記プーリを支持する支持軸と、前記支持軸を回転自在に支持するラジアル軸受とを有し、前記中間軸および前記支持軸のうちいずれか一方が選択的に前記ポンプに連結されており、前記プーリユニットは、前記駆動源とは別に用意される応急運転用のモータの駆動力を前記プーリを介して前記ポンプに伝達するための動力伝達機構であることを特徴とするポンプシステムである。
【0011】
本発明の他の態様は、上記ポンプシステムを運転する方法であって、通常運転では、前記駆動源により前記中間軸を介して前記ポンプをシャフト駆動し、応急運転では、前記中間軸に代えて前記支持軸が前記ポンプに連結され、前記モータにより前記プーリを介して前記ポンプをベルト駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポンプシステムに本来備わっている駆動源に代えて、短期間で現地に納入可能な市販のモータを用いてベルトを介してポンプを駆動することができる。したがって、地震や津波などの災害の発生により駆動機器が故障した場合に、ポンプシステムを速やかに応急運転させることができ、ポンプシステムの排水機能を復旧させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るポンプシステムについて図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は横軸斜流、軸流ポンプに関するものであるが、本発明はこの例に限らず、渦巻ポンプなどの他のポンプ型式に使用してもよく、また、立軸ポンプに応用することもできる。
【0015】
図1に示すように、このポンプシステムは、吸込水槽1から吐出水槽2に水を移送するポンプ10と、ポンプ10を駆動する駆動源15と、ポンプ10と駆動源15との間に配置されたベルト駆動用のプーリユニット40とを備えている。ポンプ10は、ポンプケーシング10aと、このポンプケーシング10aに収容される図示しない羽根車と、ポンプケーシング10aと吸込水槽1とを接続する吸込管11と、ポンプケーシング10aと吐出水槽2とを接続する吐出管12とを備えている。吐出管12には吐出弁13が設けられている。
【0016】
ポンプ10のポンプ軸16はカップリング32を介してプーリユニット40に連結されている。プーリユニット40は、カップリング33を介して減速機18の出力軸18aに連結されている。駆動源15はカップリング34を介して減速機18に連結されている。駆動源15としては、ディーゼルエンジンまたはガスタービンエンジンが用いられている。ポンプ10は、ポンプ軸16が水平方向に延びる、いわゆる横軸ポンプである。
【0017】
吸込管11は鉛直方向に延び、その下端に形成された吸込口11aは吸込水槽1内の水中に位置している。吸込管11の下端部はベルマウスとして構成されている。ポンプ10の羽根車は吸込水槽1内の水面よりも上方に配置され、ポンプケーシング10aは吸込水槽1の上部を構成する設置床20に架台21を介して設置されている。吸込管11の下流側部分は曲管部となっており、これにより吸込管11とポンプケーシング10aとが滑らかに接続されている。吐出管12は、吐出水槽2内で開口する吐出口12aを有している。この吐出口12aはポンプ10の羽根車よりも低い位置にある。吐出口12aには、吐出水槽2に移送された水の逆流を防止するためのフラップ弁22が設けられている。
【0018】
図1から分かるように、吸込管11、ポンプケーシング10a、および吐出管12は、全体としてサイフォン型通路を形成している。ポンプケーシング10aの上部には、内部に電極棒を有する満水検知器30が設けられており、この満水検知器30によりポンプケーシング10a内が水で満たされているかどうかが検知される。さらに、ポンプケーシング10aの内部は満水検知器30を介して真空ポンプ31に連通している。この真空ポンプ31はモータMによって駆動される。
【0019】
ポンプシステムを起動するときは、モータMを作動させて真空ポンプ31によりポンプケーシング10aの内部を真空引きして負圧を形成し、吸込管11内の水位を上昇させる。ポンプケーシング10aの内部が水で満たされていることを満水検知器30が検知すると、駆動源15により羽根車が回転し、吐出弁13が開かれ、これにより水が吸込水槽1から汲み上げられ、吐出水槽2に移送される。
【0020】
プーリユニット40の一方の端部は、カップリング32を介してポンプ軸16に連結され、他方の端部はカップリング33を介して減速機18の出力軸18aに連結されている。
図2に示すように、プーリユニット40は、ベルトが掛けられるプーリ41と、プーリ41を支持する支持軸42と、プーリ41の両側に配置され、支持軸42を回転自在に支持するラジアル軸受43,43と、ラジアル軸受43,43が固定される基台44とを備えている。基台44は、
図1に示す設置床20に着脱可能に固定されている。
【0021】
支持軸42の両端には、カップリング32,33の一部を構成するフランジ部45,46がそれぞれ固定されている。支持軸42の一端は、ポンプ軸16を介してポンプ10に連結されており、支持軸42の他端は、減速機18を介して駆動源15に連結されている。より具体的には、支持軸42の一端は、カップリング32を介してポンプ軸16に連結されており、支持軸42の他端は、カップリング33を介して減速機18の出力軸18aに連結され、さらに減速機18はカップリング34を介して駆動源15に連結されている。カップリング32,33のボルト(図示せず)を外すことにより、プーリユニット40をポンプ軸16および出力軸18aから切り離すことが可能となっている。さらに基台40を設置床20から外すことにより、プーリユニット40全体をポンプシステムから取り外すことができる。
【0022】
このプーリユニット40は、地震や津波などの災害時において、駆動源15および/または減速機18が故障したときに、応急運転用の外部モータによってベルトを介してポンプ10を駆動するための動力伝達機構として設けられている。通常の運転状態では、プーリ41にベルトは掛けられておらず、外部モータも配置されていない。したがって、通常運転時では、プーリユニット40は、駆動源15の駆動力をポンプ10に伝達するのみである。すなわち、通常運転では、ポンプ10は、駆動源15によりプーリユニット40の支持軸42を介してシャフト駆動される。
【0023】
災害の発生に起因して駆動源15および/または減速機18が故障したときは、
図3に示すように、駆動源15とは別にモータ50が用意される。このモータ50は、このポンプシステム専用のモータではなく、市販の汎用のモータである。モータ50はプーリユニット40に隣接して配置される。プーリ41と、モータ50の出力軸50aに固定されたモータプーリ51とにはベルト55が掛け渡され、モータ50の駆動力はベルト55を通じてプーリユニット40に伝達される。したがって、ポンプ10は、プーリユニット40およびベルト55を介してモータ50によってベルト駆動される。ベルト駆動時には、カップリング33のボルト(図示せず)を外して、プーリユニット40と減速機18の出力軸18aとを切り離し、モータ50の駆動力が減速機18および駆動源15に伝達されないようにすることが好ましい。あるいは、駆動源15および/または減速機18を取り外し、モータによる応急運転中に製作工場で修理を行うようにしてもよい。
【0024】
プーリユニット40のプーリ41は、モータ50に固定されたモータプーリ51の直径よりも大きな直径を有している。したがって、モータ50の回転速度は、モータプーリ51およびプーリユニット40のプーリ41により減速される。緊急時に比較的入手しやすい汎用モータの多くは、極数の小さい高速のモータである。これに対して、治水用のポンプシステムにおけるポンプ10の回転速度は低速である。このため、汎用の高速モータでは仕様が異なるため、ポンプ10を直接駆動することができない。本実施形態に係るプーリユニット40のプーリ41は、市販の汎用モータに固定されるモータプーリ51よりも大きい直径を有しているので、汎用の高速モータを用いてポンプシステムの緊急運転を行うことが可能となっている。
【0025】
ベルト駆動を行うと、ベルト張力によるラジアル荷重がポンプ軸に作用する。一般のポンプシステムに設けられている軸受では、このラジアル荷重は考慮されていない。そのため、ベルト張力を受けるために十分な強度を持たせるためには、設計・構造(木型を含む)の見直しが必要となり、非常に高価なものとなってしまう。この点、プーリユニット40は、ベルトの張力によるラジアル荷重を受けることができるラジアル軸受43,43を備えているので、信頼性のある、確実な応急運転が可能となる。なお、ポンプシステムがベルト駆動時のラジアル荷重を許容できる場合には、
図4に示すように、ポンプ軸16にプーリ41を直接固定してもよい。
【0026】
本実施形態に係るポンプシステムでは、通常運転時にはプーリユニット40を用いたベルト駆動は行われず、災害発生時などの応急運転時にのみ、プーリユニット40を用いたベルト駆動が行われる。上記特許文献1のように、緊急時の運転だけでなく、通常の運転においてもベルト駆動をすることも考えられるが、ベルトは歯車減速機と比較して伝達効率が悪く、また、ベルトのテンションの管理などの維持管理上の課題がある。このため、数十年に1回あるかどうかの災害を想定して、ベルト駆動型のポンプシステムを構成することは、過剰なリスク管理であり、維持管理性や運転効率を低下させてしまう。
【0027】
本発明は、通常運転では減速機18を介した駆動源15によるシャフト駆動が行われ、緊急時にはベルト駆動に切り替えることが可能なポンプシステムであるので、通常運転時では維持管理性や運転効率が低下することはない。しかも、地震や津波などの災害発生時には、ポンプ10の駆動方式をシャフト駆動からベルト駆動に迅速に切り替えることができる。さらに、駆動源15および/または減速機18が故障した場合でも、これらを撤去、修復することなく、ポンプ10を駆動することができる。したがって、災害の発生時において、迅速にポンプシステムの排水機能を復旧することができる。
【0028】
図3に示す例では、外部モータ50はプーリユニット40の横に配置されているが、外部モータ50をプーリユニット40の上方に配置してもよい。津波や洪水の発生時には、床上浸水していることがあり、
図1に示す設置床20の上に外部モータ50を設置することができない場合もありうる。このような場合には、外部モータ50をプーリユニット40の上方に設置することにより、外部モータ50の浸水を避けることができる。
【0029】
図5は、本発明の他の実施形態に係るポンプシステムを示す図である。この実施形態では、プーリユニット40は常設されておらず、別途保管される。プーリユニット40に代えて、中間軸60がポンプ軸16および減速機18の出力軸18aに連結されている。この中間軸60は着脱可能に構成されており、その両側のカップリング32,33のボルト(図示せず)を取り外すことにより、ポンプ軸16および減速機18の出力軸18aから中間軸60を切り離すことが可能となっている。
【0030】
図6(a)に示すように、中間軸60は、軸部61と、その両端部に固定されたフランジ部62,63とを備えている。これらフランジ部62,63は、それぞれポンプ軸16および減速機18の出力軸18aと接続するためのカップリング32,33の一部を構成する。中間軸60は、別途保管されるプーリユニット40の軸方向の長さよりも長く構成されている。
図6(b)は、本実施形態に係るポンプシステムに使用されるプーリユニット40を示す図である。
図6(b)に示すように、プーリユニット40の基本的構成は、
図2に示すプーリユニット40と同じであるが、支持軸42の長さは、
図2に記載のものよりも短くなっている。さらに、ポンプ軸16に連結するためのカップリング32を構成するフランジ部45のみが支持軸42の一端に設けられ、他端にはフランジ部は設けられていない。
図6(a)に示す中間軸60の長さLは、
図6(b)に示すプーリユニット40の軸方向長さmよりも長くなっている(L>m)。
【0031】
この実施形態においては、通常運転では、駆動源15により中間軸60を介してポンプ10が駆動されるが、災害発生により駆動源15および/または減速機18が故障した場合には、中間軸60がポンプシステムから取り外され、
図6(b)に示すプーリユニット40がポンプ軸16に連結される。中間軸60はプーリユニット40の軸方向長さよりも長く構成されているので、プーリユニット40はポンプ10に連結されるが、駆動源15には連結されない。すなわち、
図7に示すように、プーリユニット40はポンプ軸16にのみ接続され、駆動源15に連結された減速機18の出力軸18aには接続されない。
【0032】
応急運転時には、
図3に示す態様と同じように、プーリユニット40に隣接して配置された外部モータ50によりベルト55およびプーリユニット40を介してポンプ10が駆動される。このように、本実施形態においても、ポンプ10の駆動方式を、駆動源15による中間軸60を介したシャフト駆動から、外部モータ50によるプーリユニット40を介したベルト駆動に迅速に切り替えることができる。
【0033】
プーリユニット40とは異なり、中間軸60には軸受は使用されないので、通常の運転が行われる限りにおいては軸受の管理が不要である。したがって、
図1に示す実施形態に比較して維持管理費を低くすることができる。さらに、通常運転ではプーリユニット40は使用されないので、このプーリユニット40を、同一構成を有する複数のポンプシステムに共通する緊急時対応用の予備品として使用することができる。したがって、ポンプシステムに必要とされる危機管理費を低減することができる。
【0034】
図8は、プーリユニット40の他の例を示す図である。この例では、プーリユニット40は、3つのプーリ41a,41b,41cを備えている。これら3つのプーリ41a,41b,41cは互いに異なる直径を有しており、それぞれ支持軸42に固定されている。プーリ41aは低速用の大径プーリであり、プーリ41bは中速用の中径プーリであり、プーリ41cは高速用の小径プーリである。緊急運転時において、市販の汎用モータが出力不足である場合、より大きな径を有するプーリを使用することで、モータへの負荷を低減することができる。
【0035】
また、モータの出力がポンプ10の要求する出力よりも低い場合にポンプを定格回転速度で運転してしまうと、過負荷によりモータが故障するおそれがある。本実施形態では、より大きな径のプーリを選択することにより、ポンプをその定格回転速度よりも低い回転速度で駆動させ、モータに掛かる負荷を低減させることができる。このように、本実施形態に係るプーリユニット40は、緊急時に入手可能な汎用モータの出力に応じたポンプ駆動を可能とするので、緊急時の対応の幅が広い(すなわち、出力の低いモータでも駆動可能な)信頼性の高いポンプシステムとなる。
【0036】
図9は、
図8に示すプーリユニット40を使用してポンプ10を駆動した場合の性能曲線を示すグラフである。小径のプーリ41cを使用した場合に比べて、中径のプーリ41bを使用すると、ポンプ駆動のための動力Pは下がるが、排水量Qも若干低下する。しかしながら、この場合でも、ポンプシステムを運転させて最低限の排水機能を確保することはできる。したがって、“排水能力ゼロ”という最悪の事態を回避することができ、信頼性の高い緊急用のポンプシステムとしても機能する。
【0037】
径の異なる複数のプーリを具備させたことにより、容量の違う(回転速度の異なる)種々のポンプシステムにプーリユニット40を使用することが可能となる。したがって、本プーリユニット40は、多くのポンプシステムに使用可能な共通備品として保管することができ、経済性・維持管理性を更に向上させることが可能となる。
図2に示すプーリユニット40にも、
図8に示す複数のプーリを適用することは当然に可能である。なお、いままでに述べたプーリユニット40においては、安全上の観点より、プーリを覆う保護カバーを設けることが好ましい。
【0038】
これまで、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲から定義される技術的概念の範囲内において種々変更が可能である。