特許第5736078号(P5736078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5736078フェライト粒子並びにそれを用いた電子写真用キャリア及び電子写真用現像剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5736078
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】フェライト粒子並びにそれを用いた電子写真用キャリア及び電子写真用現像剤
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20150528BHJP
   G03G 9/107 20060101ALI20150528BHJP
   G03G 9/113 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C01G49/00 C
   G03G9/10 321
   G03G9/10 351
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-113618(P2014-113618)
(22)【出願日】2014年5月31日
【審査請求日】2014年12月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000224802
【氏名又は名称】DOWA IPクリエイション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】河内 岳志
(72)【発明者】
【氏名】小川 翔
(72)【発明者】
【氏名】松田 行弘
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−203140(JP,A)
【文献】 特開2012−215680(JP,A)
【文献】 特開2012−188343(JP,A)
【文献】 特開2013−103869(JP,A)
【文献】 特表2006−524627(JP,A)
【文献】 特開2006−259294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00−49/08
G03G 9/00−9/10、9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式MFe3−X(但し、MはMg及びMnである。XはMgとMnの総計であって、MgとMnとによるFeとの置換数である。0<X<1)で表される材料を主成分とするフェライト粒子であって、
体積平均粒子径が20μm〜30μmの範囲であり、
Ca元素を0.05質量%〜0.5質量%の範囲で含有し、
粒子表面の結晶均一度が80個数%以上であり、
当該フェライト粒子の流動度と、脱磁処理した後の流動度との差が2.5秒〜16.0秒の範囲であることを特徴とするフェライト粒子。
【請求項2】
請求項1記載のフェライト粒子の表面を樹脂で被覆したことを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項3】
請求項2記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト粒子並びにそれを用いた電子写真用キャリア及び電子写真用現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子写真方式を用いたファクシミリやプリンター、複写機などの画像形成装置では、静電潜像担持体(以下、「感光体」と記すことがある)の表面に形成された静電潜像を現像剤で可視像化し、この可視像を用紙等に転写した後、加熱・加圧して定着させている。高画質化やカラー化の観点から、現像剤としては、キャリアとトナーとを含むいわゆる二成分現像剤が広く使用されている。
【0003】
この二成分現像剤を用いた現像は、複数の磁極を内蔵し、現像剤を表面に担持する現像剤担持体(以下、「現像スリーブ」と記すことがある)と、感光体とを所定間隔を隔てて略平行に対向配置し、感光体と現像スリーブとが対向する領域(以下、「現像領域」と記すことがある)において、キャリアが集合して穂立ちした磁気ブラシを現像スリーブ上に形成させると共に、感光体と現像スリーブとの間に現像バイアス電圧を印加し、感光体表面の静電潜像にトナーを付着させることにより行われる。
【0004】
特許文献1では、SrTiOを添加することで、小粒径で球形状の粒子表面に微小な凹凸を形成させ、高帯電性と長寿命などを図るキャリア芯材が提案されている。しかし、かかる提案のキャリア芯材では、局所的なSrフェライトの異常生成が生じた粒子が所定比率以上で存在する。
【0005】
特許文献2では、小粒径で良好な電気抵抗を有し、粒度分布や表面性の粒子間バラツキの小さいキャリア芯材が提案されている。しかし、かかる提案の小粒径のキャリアでは、現像装置内における現像剤の搬送性は十分には改善されないおそれがある。
【0006】
特許文献3では、粒子表面に不均一な凹凸を形成することで流動性を低下させ、帯電立ち上がりの向上を図るキャリア芯材が提案されている。しかし、かかる提案のキャリア芯材では、粒子表面の不均一な凹凸が被覆樹脂の剥離を助長する原因となるおそれがある。
【0007】
特許文献4では、シリコーン樹脂を被覆して流動度を適正化することで、キャリア付着やトナー飛散、高画質化を図るキャリア芯材が提案されている。しかし、かかる提案のキャリア芯材は、被覆する樹脂が特定され、キャリアとしての性能を制限されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-181398号公報
【特許文献2】特開2013-205774号公報
【特許文献3】特開2012-208446号公報
【特許文献4】特開2002-357930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、画像形成装置における画像形成速度の高速化という市場要求に対応するため、現像スリーブの回転速度を速めて、現像領域への現像剤の単位時間当たりの供給量を増加させる傾向にある。
【0010】
しかし、例えば、30μm以下の小粒径のキャリアを用いた場合、トナーとの十分な混合が行われないことがあった。また、現像スリーブの回転速度を速めて現像領域への現像剤供給量を増加させても、十分な画像濃度が得られないことがあった。
【0011】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子写真方式画像形成装置のキャリアとして用いた場合に、画像形成速度が速くなってもトナーとの混合が良好で十分な画像濃度が得られるフェライト粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成する本発明に係るフェライト粒子は、組成式MFe3−X(但し、MはMg及びMnである。XはMgとMnの総計であって、MgとMnとによるFeとの置換数である。0<X<1)で表される材料を主成分とするフェライト粒子であって、体積平均粒子径が20μm〜30μmの範囲であり、Ca元素を0.05質量%〜0.5質量%の範囲で含有し、粒子表面の結晶均一度が80個数%以上であり、当該フェライト粒子の流動度と、脱磁処理した後の流動度との差が2.5秒〜16.0秒の範囲であることを特徴とする。なお、本明細書における「粒子表面の結晶均一度」については後述の実施例においてその測定方法を含め説明する。また、「流動度」は、JIS Z2502に準拠し、フェライト粒子50gが流れ落ちるのに要する時間(秒)である。
【0014】
また本発明によれば、前記のいずれかに記載のフェライト粒子の表面を樹脂で被覆したことを特徴とする電子写真現像用キャリアが提供される。
【0015】
さらに本発明によれば、前記記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤が提供される。
【0016】
また、本発明に係るフェライト粒子の前駆体は、組成式MFe3−X(但し、MはMg及びMnである。XはMgとMnの総計であって、MgとMnとによるFeとの置換数である。0<X<1)で表される材料を主成分とするフェライト粒子の前駆体であって、体積平均粒子径が20μm〜30μmの範囲であり、Ca元素を0.05質量%〜0.5質量%の範囲で含有し、粒子表面の結晶均一度が80個数%以上であり、1000ガウスの磁界下で15秒間着磁した後の流動度と、脱磁処理した後の流動度との差が2.5秒〜16.0秒の範囲であることを特徴とする。この前駆体を用いて着磁処理をすれば、本発明のフェライト粒子を得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るフェライト粒子によれば、キャリアとして用いた場合に、画像形成速度が速くなってもトナーとの混合が十分に行われ、十分な画像濃度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】粒子表面の結晶サイズが5μm未満のフェライト粒子のSEM写真
図2】粒子表面の結晶サイズが5μm以上のフェライト粒子(粗大結晶粒子)のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者等は、小粒径のフェライト粒子をキャリアとして用いた場合であっても、トナーとの混合性が低下せず、また、画像形成速度を速めても十分な画像濃度が得られるようにすべく鋭意検討を重ねた結果、粒子表面に現れている結晶の大きさの均一性及び粒子の着磁性が影響していることを突き止め本発明をなすに至った。
【0020】
すなわち、本発明に係るフェライト粒子は、組成式MFe3−X(但し、MはMg及びMnである。XはMgとMnの総計であって、MgとMnとによるFeとの置換数である。0<X<1)で表される材料を主成分とし、体積平均粒子径が20μm〜30μmの範囲であり、Ca元素を0.05質量%〜0.5質量%の範囲で含有し、粒子表面の結晶均一度が80個数%以上であり、当該フェライト粒子の流動度と、脱磁処理した後の流動度との差(FR変化とも言う)が2.5秒〜16.0秒の範囲であることが大きな特徴である。
【0021】
本発明のフェライト粒子では、Ca元素の添加量が0.05質量%〜0.5質量%の範囲であることが重要である。Ca元素の添加量が0.05質量%未満であると、フェライト粒子の結晶に異常成長が生じ、粒子表面の結晶の大きさが不均一となる。反対に、Ca元素の添加量が0.5質量%を超えると、フェライト粒子を着磁させたときの磁力が大きくなりすぎ、粒子同士の凝集が生じて流動性が大きく低下しトナーとの混合性が悪くなる。より好ましいCa元素の添加量は0.1質量%〜0.3質量%の範囲である。
【0022】
また、本発明のフェライト粒子では、粒子表面の結晶均一度が80個数%以上であることが重要である。後述の実施例で示すように、表面に5μm超の結晶が現れているフェライト粒子の存在割合が80個数%よりも少ないと、流動性が悪くなりトナーとの混合性が低下する。フェライト粒子表面の結晶均一度は、Caの含有量及び製造工程における焼結条件などによって調整すればよい。詳細は後述する。
【0023】
そしてまた、本発明のフェライト粒子では、当該フェライト粒子の流動度と、脱磁処理した後の流動度との差が2.5秒〜16.0秒の範囲であることも重要である。かかる流動度の差が2.5秒未満であると、フェライト粒子の流動性が磁性により影響を受けていないと言え、流動性が制御できないものである。トナーとの混合が十分となるような制御ができない。逆に、前記の流動度の差が16.0秒を超えると、粒子同士の磁力による結びつきが強くなりすぎてトナーとの混合性が低下する。前記の流動度の差のより好ましい範囲は4秒〜14秒の範囲である。
【0024】
本発明のフェライト粒子は、体積平均粒子径が20μm〜30μmの範囲のいわゆる小粒径のものである。20μm以上であれば、キャリア飛散による画像欠陥が発生しないので好ましい。30μm以下であれば、小粒径のトナーが使用でき、画質向上が図れるので好ましい。また、その粒度分布はシャープであるのが好ましい。具体的には、18μm以下の体積累積値は、10%以下が好ましく、より好ましくは3.5%以下である。10%以下であれば、キャリア飛散による画像欠陥が発生しないので好ましい。一方、86μm以上の体積累積値は、5%以下が好ましく、より好ましくは1%以下である。5%以下であれば、画質が劣化しにくいので、好ましい。
【0025】
本発明のフェライト粒子は各種用途に用いることができ、例えば、電子写真現像用キャリアや電磁波吸収材、電磁波シールド材用材料粉末、ゴム、プラスチック用充填材・補強材、ペンキ、絵具・接着剤用艶消材、充填材、補強材等として用いることができる。これらの中でも特に電子写真現像用キャリアとして好適に用いられる。
【0026】
本発明のフェライト粒子の製造方法に特に限定はないが、以下に説明する製造方法が好適である。
【0027】
まず、Fe成分原料とMg成分原料、Mn成分原料、そして添加剤としてCa成分原料とを秤量して仮焼成する。仮焼成の温度としては750℃〜900℃の範囲が好ましい。750℃以上であれば、仮焼による一部フェライト化が進み、焼成時のガス発生量が少なく、固体間反応が十分に進むため、好ましい。一方、900℃以下であれば、仮焼による焼結が弱く、後のスラリー粉砕工程で原料を十分に粉砕できるので好ましい。また、仮焼成時の雰囲気としては大気雰囲気が好ましい。Fe成分原料としては、Fe等が好適に使用される。Mg成分原料としてはMgO、Mg(OH)、MgCOが使用でき、Mn成分原料としてはMnCO、Mn等が好適に使用できる。また、Ca成分原料としては、CaO、Ca(OH)、CaCO等が好適に使用される。
【0028】
次いで、仮焼成した原料を解粒して分散媒中に投入しスラリーを作製する。本発明で使用する分散媒としては水が好適である。分散媒には、前記仮焼成原料の他、必要によりバインダー、分散剤等を配合してもよい。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコールが好適に使用できる。バインダーの配合量としてはスラリー中の濃度が0.5〜2質量%程度とするのが好ましい。また、分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム等が好適に使用できる。分散剤の配合量としてはスラリー中の濃度が0.5〜2質量%程度とするのが好ましい。その他、潤滑剤や焼結促進剤等を配合してもよい。スラリーの固形分濃度は50〜90質量%の範囲が望ましい。より好ましくは60〜80質量%である。60質量%以上であれば、造粒品中に粒子内細孔が少なく、焼成時の焼結不足を防ぐことができる。一方、80質量%以下であれば、会合粒子が少なく、粒子形状による流動性悪化を防ぐことができる。
【0029】
次に、以上のようにして作製されたスラリーを湿式粉砕する。例えば、ボールミルや振動ミルを用いて所定時間湿式粉砕する。粉砕後の原材料の体積平均粒子径は10μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。また、体積粒度分布90%の粒子径D90は、1.5μm〜4.0μmの範囲が好ましい。1.5μm以上であれば、粒子表面に微細な凹凸を形成することができるので、好ましい。一方、4.0μ以下であれば、粗大粒子を十分に粉砕できており、焼成時に結晶の異常粒成長を防ぐことができる。振動ミルやボールミルには、所定粒径のメディアを内在させるのがよい。メディアの材質としては、鉄系のクロム鋼や酸化物系のジルコニア、チタニア、アルミナなどが挙げられる。粉砕工程の形態としては連続式及び回分式のいずれであってもよい。粉砕物の粒径は、粉砕時間や回転速度、使用するメディアの材質・粒径などによって調整される。
【0030】
そして、粉砕されたスラリーを噴霧乾燥させて造粒する。具体的には、スプレードライヤーなどの噴霧乾燥機にスラリーを導入し、雰囲気中へ噴霧することによって球状に造粒する。噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃の範囲が好ましい。これにより、粒径10〜200μmの球状の造粒物が得られる。なお、得られた造粒物は、振動ふるい等を用いて、粗大粒子や微粉を除去し粒度分布をシャープなものとするのが望ましい。造粒物の好ましい体積平均粒子径は25μm〜35μmの範囲である。また、体積粒度分布10%の好ましい粒子径D10は10μm〜30μmの範囲である。
【0031】
次に、造粒物を所定温度に加熱した炉に投入して、フェライト粒子を合成するための一般的な手法で焼成する。焼成温度としては1050℃〜1200℃の範囲が好ましい。焼成温度が1050℃以下であると、相変態が起こりにくくなるとともに焼結も進みにくくなり、粒子表面に大きな凸部が形成されず、粒子内に細孔が多くできる。また、焼結温度が1200℃を超えると、過剰焼結による過大グレインの発生がするおそれがある。前記焼成温度に至るまでの昇温速度としては250℃/h〜500℃/hの範囲が好ましい。また、焼成雰囲気は、酸素濃度が0%〜21%の範囲で適宜調整すればよい。好ましい酸素濃度は加熱域6%以下、冷却域2%以下の範囲である。
【0032】
このようにして得られた焼成物を必要により解粒してフェライト粒子の前駆体(以下、単に「前駆体」と記すことがある)とする。具体的には、例えば、ハンマーミル等によって焼成物を解粒する。解粒工程の形態としては連続式及び回分式のいずれであってもよい。そして、必要により、粒径を所定範囲に揃えるため分級を行ってもよい。分級方法としては、風力分級や篩分級など従来公知の方法を用いることができる。また、風力分級機で1次分級した後、振動篩や超音波篩で粒径を所定範囲に揃えるようにしてもよい。前駆体の体積平均粒子径としては20μm〜30μmの範囲が好ましい。
【0033】
その後、必要に応じて、分級後の前駆体を酸化性雰囲気中で加熱して、前駆体の粒子表面に酸化被膜を形成して粒子の高抵抗化を図ってもよい(高抵抗化処理)。酸化性雰囲気としては大気雰囲気又は酸素と窒素の混合雰囲気のいずれでもよい。また、加熱温度は、200〜800℃の範囲が好ましく、250〜600℃の範囲がさらに好ましい。加熱時間は0.5時間〜5時間の範囲が好ましい。
【0034】
さらに、本発明では、小粒径キャリアにおいて流動性を制御し、トナーとの混合性を改善できないか鋭意検討を進めた。その結果、前駆体を一定の磁場の環境下で3秒以上磁場を印加して前駆体を磁化させて本発明に係るフェライト粒子とすると、流動性が制御され、トナーとの混合性が大幅に改善されるとの知見を得た。具体的には、磁選工程において、1000ガウスの磁界中で3秒以上かけて前駆体を着磁及び選別する。3秒以上であれば、前駆体を十分に磁化させ、流動性を遅くすることができる。好ましい磁選時間は5秒以上であり、産業上、5秒〜20秒の範囲である。さらには、15秒あれば本発明の効果がより確実に発現される。これにより、キャリアとトナーを混合するときの抵抗が増え、トナーとの混合性が改善されると考えられる。すなわち、本発明に係る前駆体を用いれば、磁着状態を制御することで、優れたフェライト粒子が得られることを見出した。
【0035】
また、この発明の電子写真現像剤用フェライト粒子は、細孔容積の値が0.007cm/g以上0.025cm/g以下であって、かつ、BET比表面積の値が0.150m/g以上0.230m/g以下である。このように、本発明の電子写真現像剤用フェライト粒子は、フェライト粒子を構成する粒子の内部の細孔容積が十分小さいにもかかわらず、従来のフェライト粒子よりも高いBET比表面積の値を示す。そのため、フェライト粒子を構成する粒子の表面には、適度な凹凸形状が形成されており、また、フェライト粒子の粒子の内部の焼結が十分に促進されているため、フェライト粒子として強度の面においても十分に優れたものである。
【0036】
以上のようにして作製した本発明のフェライト粒子を、電子写真現像用キャリアとして用いる場合、フェライト粒子をそのまま電子写真現像用キャリアとして用いることもできるが、帯電性等の観点からは、フェライト粒子の表面を樹脂で被覆して用いる。
【0037】
フェライト粒子の表面を被覆する樹脂としては、従来公知のものが使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリ塩化ビニリデン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリスチレン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、並びにポリ塩化ビニル系やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の熱可塑性エストラマー、フッ素シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0038】
フェライト粒子の表面を樹脂で被覆するには、樹脂の溶液又は分散液をフェライト粒子に施せばよい。塗布溶液用の溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類溶媒;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒などの1種又は2種以上を用いることができる。塗布溶液中の樹脂成分濃度は、一般に0.001質量%〜30質量%、特に0.001質量%〜2質量%の範囲内にあるのがよい。
【0039】
フェライト粒子への樹脂の被覆方法としては、例えばスプレードライ法や流動床法あるいは流動床を用いたスプレードライ法、浸漬法等を用いることができる。これらの中でも、少ない樹脂量で効率的に塗布できる点で流動床法が特に好ましい。樹脂被覆量は、例えば流動床法の場合には吹き付ける樹脂溶液量や吹き付け時間によって調整することができる。
【0040】
キャリアの粒子径は、一般に、体積平均粒子径で10μm〜200μmの範囲、特に20μm〜30μmの範囲が好ましい。
【0041】
本発明に係る電子写真用現像剤は、以上のようにして作製したキャリアとトナーとを混合してなる。キャリアとトナーとの混合比に特に限定はなく、使用する現像装置の現像条件などから適宜決定すればよい。一般に現像剤中のトナー濃度は1質量%〜15質量%の範囲が好ましい。トナー濃度が1質量%未満の場合、画像濃度が薄くなりすぎ、他方トナー濃度が15質量%を超える場合、現像装置内でトナー飛散が発生し機内汚れや転写紙などの背景部分にトナーが付着する不具合が生じるおそれがあるからである。より好ましいトナー濃度は3質量%〜10質量%の範囲である。
【0042】
トナーとしては、重合法、粉砕分級法、溶融造粒法、スプレー造粒法など従来公知の方法で製造したものが使用できる。具体的には、熱可塑性樹脂を主成分とする結着樹脂中に、着色剤、離型剤、帯電制御剤等を含有させたものが好適に使用できる。
【0043】
トナーの粒径は、一般に、コールターカウンターによる体積平均粒子径で1μm〜15μmの範囲が好ましく、5μm〜12μmの範囲がより好ましい。
【0044】
トナー表面には、必要により、改質剤を添加してもよ。改質剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0045】
キャリアとトナーとの混合は、従来公知の混合装置を用いることができる。例えばヘンシェルミキサー、V型混合機、タンブラーミキサー、ハイブリタイザー等を用いることができる。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
MnMg系フェライト粒子を下記方法で作製した。出発原料として、Fe(体積平均粒子径:0.5μm)を42.6molと、MnO(体積平均粒子径:0.8μm)を38.3molと、MgO(体積平均粒子径:0.5μm)を5.7molと、CaOを0.5molとなるように混合し、温度800℃、大気雰囲気下で仮焼成した。
得られた仮焼成物14.3kgを、水4.9kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を90g添加して混合物とした。この混合物の固形分濃度は75質量%であった。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。体積平均粒子径は1.1μm、体積粒度分布90%の粒子径D90は2.1μmであった、
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜200μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から、網目35μmの篩網を用いて粗粒を分離し、網目25μmの篩網を用いて微粒を分離し、体積平均粒子径が33.6μm、体積粒度分布10%の粒子径D10が26.9μmの造粒粉とした。
この造粒粉を、電気炉に投入し、1100℃で3時間焼成した。焼成時の酸素濃度は、加熱域を5000ppmとし、冷却域を15000ppmとした。そして、得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動ふるいを用いて分級した。
【0047】
次いで、分級した焼成物を大気雰囲気下で温度500℃で1時間酸化処理した後、得られたフェライト粒子の前駆体を1000ガウスの磁界中で15秒間粒子選別を行い、体積平均粒子径25μmのフェライト粒子を得た。
得られたフェライト粒子の表面の結晶均一度、磁気特性、体積平均粒子径、見かけ密度、流動度、比表面積、細孔容積、組成を後述の方法でそれぞれ測定した。表2及び表3に測定結果をまとめて示す。
【0048】
(結晶均一度)
結晶均一度は、SEM撮影を行った後、得られた画像から評価した。具体的には、サンプルをSEM(加速電圧;5kV、倍率;400倍)で4視野、撮影した。得られた画像をもとに、視野に全体が写っている粒子数(A)をカウントする。粒子全体が写っていない粒子はカウントしない。次に、カウントした粒子のうち、粒子表面の結晶サイズ(最大直径;長軸)が5μm以上の結晶サイズを有する粒子を粗大結晶粒子と判断し、その粒子数(B)をカウントする。得られたデータから以下の計算式で、結晶均一度を評価した。結晶均一度は均一な結晶粒子の比率を示している。図1に、粒子表面の結晶サイズが5μm未満のフェライト粒子を、図2に、粒子表面の結晶サイズが5μm以上のフェライト粒子(粗大結晶粒子)を、それぞれ示す。
結晶均一度(個数%)=(全粒子数(A)−粗大結晶粒子数(B))/全粒子数(A)
【0049】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業株式会社製「VSM-P7」)を用いて磁化の測定を行い、1000エルステッドの磁場における磁化σ1k(A・m/kg)、残留磁化σr(A・m/kg)をそれぞれ測定した。
【0050】
(平均粒子径)
フェライト粒子、原料スラリーの体積平均粒子径、体積粒度分布10%粒子径D10、体積粒度分布90%粒子径D90を、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックModel9320-X100」)を用いて測定した。
【0051】
(見かけ密度AD)
見かけ密度ADは、JIS Z 2504に準拠して測定した。
【0052】
(流動度FR)
流動度は、JIS Z 2502に準拠して測定した。
フェライト粒子70gを密閉可能な袋に入れ、その袋をトレイに乗せて、カネテック社製のテーブル形脱磁器(形式;KMD−20C)上で止めずに4回通過させた後、流動度を測定した。そして、下記式から脱磁前後の流動度変化を算出した。なお、流動度は、フェライト粒子50gが流れ落ちるのに要する時間(sec/50g)で示される。
流動度変化=(脱磁前の流動度)−(脱磁後の流動度)
【0053】
(フェライト粒子の前駆体の流動度FR)
フェライト粒子の前駆体の流動度を評価するため、前駆体を念のため脱磁し、1000ガウスの磁界下で15秒間着磁する着磁を施し、着磁後の流動度と、これを脱磁処理した再脱磁後の流動度の差を原料粉の流動度変化とする。
フェライト粒子の前駆体の流動度変化=(着磁後の流動度)−(脱磁後の流動度)
なお、フェライト粒子の前駆体の流動変化は、フェライト粉の流動変化と実質的に同一であった。
【0054】
(BET比表面積)
BET一点法比表面積測定装置(「Macsorb HM model-1208」マウンテック社製)を用いて、サンプル8.000gを容積10mlのセルに充填し、200℃で30分間脱気して測定した。
【0055】
(細孔容積)
細孔容積の測定については、以下の通り行った。評価装置は、Quantachrome社製のPOREMASTER−60GTを使用した。具体的には、測定条件としては、Cell Stem Volume:0.5ml、Headpressure:20PSIA、水銀の表面張力:485.00erg/cm、水銀の接触角:130.00degrees、高圧測定モード:Fixed Rate、Moter Speed:1、高圧測定レンジ:20.00〜10000.00PSIとし、サンプル1.200gを秤量して0.5ml(cc)のセルに充填して測定を行った。また、10000.00PSI時の容積B(ml/g)から100PSI時の容積A(ml/g)を差し引いた値を、細孔容積とした。
【0056】
(組成)
(Feの分析)
鉄元素を含むフェライト粒子を秤量し、塩酸と硝酸の混酸水に溶解させた。この溶液を蒸発乾固させた後、硫酸水を添加して再溶解し過剰な塩酸と硝酸とを揮発させる。この溶液に固体Alを添加して液中のFe3+を全てFe2+に還元する。続いて、この溶液中のFe2+イオンの量を過マンガン酸カリウム溶液で電位差滴定することにより定量分析し、Fe(Fe2+)の滴定量を求めた。
(Mnの分析)
フェライト粒子のMn含有量は、JIS G1311−1987記載のフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)に準拠して定量分析を行った。本願発明に記載したフェライト粒子のMn含有量は、このフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)で定量分析し得られたMn量である。
(Caの分析)
フェライト粒子のCa含有量は、以下の方法で分析を行った。本願発明に係るフェライト粒子を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行った。本願発明に記載したフェライト粒子のCa含有量は、このICPによる定量分析で得られたCa量である。Mg含有量も同様にICPによる定量分析で得られる。
【0057】
得られたフェライト粒子4.75gと、体積平均粒子径5.0μmの市販のフルカラー機のトナー0.25gとを、温度25℃、相対湿度50%の環境下で24時間調湿した後、50ml共栓試験管に投入し、振とう機(ヤヨイ社製「YS−LD」)で振とうした後のフェライト粒子の帯電量をブローオフ法で測定した。
そして、5分間、10分間振とうした後の帯電量(μC/g)と、30分間振とうした後の帯電量(μC/g)との比を求め、混合性を以下のように評価した。評価結果を表3に合わせて示す。
「◎」:帯電量比が0.9〜1.0,トナーがフェライト粒子と分離せず、均一に混合し、現像剤として使用可能なレベル。
「○」:帯電量比が0.8〜0.9,トナーがフェライト粒子とほとんど分離せず、均一に混合し、現像剤として使用可能なレベル。
「△」:帯電量比が0.7〜0.8,トナーがフェライト粒子とほとんど分離し、現像剤として使用不可能なレベル。
「×」:帯電量比が0〜0.7,トナーがフェライト粒子と分離し、現像剤として使用不可能なレベル。
なお、帯電量比が0.8以上あれば、良好なフェライト粒子である。
【0058】
(実施例2〜8,参考例1,比較例1〜8)
表1に示す組成及び製造条件で実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製し、得られたフェライト粒子の物性を実施例1と同様にして測定した。表2及び表3に測定結果をまとめて示す。次に、実施例1と同様の評価方法で、フェライト粒子とトナーとの混合性を評価した。評価結果を表3に合わせて示す。
なお、参考例1では、実施例1と同様のフェライト粒子の前駆体について、磁選(磁着)時間を2秒間とした場合である。磁着の効果の発現が不足し、トナーとの混合性が劣っていた。しかし、実施例にあるように磁着時間を5秒間以上とすることで、本発明の効果は得られる。この前駆体を用いれば、トナーの混合に優れたフェライト粒子を得る事は可能である。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るフェライト粒子をキャリアとして用いた場合には、トナーとの混合性が向上し、画像形成速度が速くなっても十分な画像濃度が得られ有用である。
【要約】
【課題】電子写真方式画像形成装置のキャリアとして用いた場合に、画像形成速度が速くなってもトナーとの混合が良好で十分な画像濃度が得られるフェライト粒子を提供する。
【解決手段】組成式MFe3−X(但し、MはMg及びMnである。XはMgとMnの総計であって、MgとMnとによるFeとの置換数である。0<X<1)で表される材料を主成分とするフェライト粒子であって、Ca元素を0.05質量%〜0.5質量%の範囲で含有し、粒子表面の結晶均一度が80個数%以上であり、当該フェライト粒子の流動度と、脱磁処理した後の流動度との差が2.5秒〜16.0秒の範囲であることを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2