【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]培地における鉄及び他の微量元素の有無の影響
参考例1〜3
蒸留水を用いて、表3に記載の組成のうちCaCl
2及びFe−EDTAを除いた組成の鉄・微量元素添加予備培地(a)、並びにCaCl
2、Fe−EDTA及び微量元素を除いた組成の鉄添加・微量元素無添加予備培地(b)、鉄・微量元素無添加予備培地(c)を作製した。
【0029】
【表3】
【0030】
その後、各々の予備培地を扁平なガラスフラスコ1(稼働容量500ミリリットル、
図1の試験器100参照)に投入し、加圧滅菌した。次いで、予備培地(a)にCaCl
2及びFe−EDTAを添加して鉄・微量元素添加培地(参考例1)を調製し、予備培地(b)にCaCl
2及びFe−EDTAを添加して鉄添加・微量元素無添加培地(参考例2)を調製した。尚、予備培地(c)は、そのまま鉄・微量元素無添加培地(参考例3)として用いた。また、参考例1、2の培地に溶解している初期の鉄量[Fe]と、培地に溶解している初期の窒素量[N]との比([Fe]/[N])が0.0014となるように調製し、初期のpHは参考例1、2及び3ともに4.0となるように塩酸を用いて調整した。
以下、培地に溶解している初期の鉄量[Fe]と、培地に溶解している初期の窒素量[N]との比を[Fe]/[N]と表記する。
【0031】
次いで、上述の3種類の培地の各々にシュードコリシスチスを植菌し、栓3をし、1体積%の二酸化炭素を付加した空気を通気量0.3vvmの速度で供給口4から供給し、排出口5から排出させて流通させるとともに、ガラスフラスコ1内の培養液2を攪拌した。同時に、ガラスフラスコ1の周囲から白色蛍光ランプにより光を照射し、ガラスフラスコ1内の雰囲気温度を28℃付近に調整して、15日間培養を継続した。
【0032】
このようにして、15日間培養したときの菌の増殖を、波長720nmの可視光の吸光度を細胞濃度の指標として経時的に測定し、評価した。評価結果を表4及び
図2に記載する。吸光度は、培養初期(表4では培養日数「0」と表記する。)、並びに3日、6日、10日及び15日経過した時点で測定し、各時点での吸光度により増殖作用を評価した。結果を表4及び
図2に記載する。
【0033】
【表4】
【0034】
表4及び
図2によれば、鉄・微量元素添加培地(参考例1)では良好な増殖が認められた。一方、鉄添加・微量元素無添加培地(参考例2)及び鉄・微量元素無添加培地(参考例3)では、増殖が不良であり、鉄・微量元素添加培地の吸光度に対する比によって表した指標は、それぞれ0.29、0.30であり、判定はいずれも×であった。このように、シュードコリシスチスの増殖には鉄及び他の微量元素がいずれも必須であることが裏付けられている。
尚、この培養はガラスフラスコを用いた例であるが、上述の結果は大規模培養(レースウェイを用いた培養等)についても同様に適用することができる。
【0035】
[2]培地における鉄量の影響
参考例4及び実施例1〜3
蒸留水を用いて、表3に記載の組成のうちCaCl
2及びFe−EDTAを除いた組成の鉄・微量元素添加予備培地(a)を作製した。また、表5に記載の組成のうちCaCl
2及びスラグ酸溶解液を除いた組成の鉄・微量元素添加予備培地(d)を作製した。
【0036】
【表5】
【0037】
その後、各々の予備培地を扁平なガラスフラスコ1(稼働容量500ミリリットル、
図1の試験器100参照)に投入し、加圧滅菌した。次いで、予備培地(a)にCaCl
2及びFe−EDTAを添加して鉄・微量元素添加培地([Fe]/[N];0.0014)(参考例4)を調製した。更に、予備培地(d)にCaCl
2及びスラグ酸溶解液を添加して酸化スラグを用いた鉄・微量元素添加培地を調製した。この際、[Fe]/[N]が、参考例4の培地と同値(0.0014)(実施例1)、1/2(0.0007)(実施例2)及び1/4(約0.0003)(実施例3)に相当する値となるようにスラグ酸溶解液の添加量を調整した。尚、[Fe]/[N]が1/2、1/4になるとともに、鉄量が1/2量、1/4量となり、他の微量元素の含有量も1/2量、1/4量になる。
【0038】
上述のスラグ酸溶解液は、以下のようにして調製した。
1リットルのイオン交換水のpHを塩酸により1.5に調整し、このイオン交換水に10gの酸化スラグ[表3に記載された愛知製鋼社の製鋼工程で発生したスラグ「スラグ(1)」]を添加し、その後、攪拌機を用いて18時間攪拌した。また、攪拌中にpHが変動するため、自動pH調整機により塩酸を滴下することで、pHが1.5に保持されるようにした。攪拌終了後、液を濾紙(No.5B)を用いて濾過し、スラグ酸溶解液を得た。
【0039】
その後、上述の4種類の培地の各々にシュードコリシスチスを植菌し、通気性を有する栓3をし、1体積%の二酸化炭素を付加した空気を通気量0.3vvmの速度で供給口4から供給し、排出口5から排出させて流通させるとともに、ガラスフラスコ1内の培養液2を攪拌した。同時に、ガラスフラスコ1の周囲から白色蛍光ランプにより光を照射し、ガラスフラスコ1内の雰囲気温度を28℃付近に調整して、14日間培養を継続した。
【0040】
このようにして、14日間培養したときの菌の増殖を、波長720nmの可視光の吸光度を細胞濃度の指標として経時的に測定し、評価した。評価結果を表6及び
図3に記載する。吸光度は、培養初期(表6では培養日数「0」と表記する。)、並びに2日、4日、7日、9日、11日及び14日経過した時点で測定し、各時点での吸光度により増殖作用を評価した。結果を表6及び
図3に記載する。
【0041】
【表6】
【0042】
表6及び
図3によれば、鉄源としてFe−EDTAを用いた鉄・微量元素添加培地(参考例4)と、鉄源として酸化スラグを用いた鉄・微量元素添加培地(実施例1〜3)とで、増殖作用に大差はなく、試薬に替えて酸化スラグを用いたときも、同等の作用効果が得られることが分かる。また、鉄量がFe−EDTAを用いたときと当量(実施例1)である場合ばかりでなく、1/2量(実施例2)及び1/4量(実施例3)とより微量であるときも、増殖作用は同等であり、酸化スラグから供給される鉄等が極めて微量であっても、藻体が十分に増殖し得ることが分かる。
【0043】
[3]培地の初期pHの影響(その1)
参考例5〜6、実施例4〜7及び比較例1〜2
蒸留水を用いて、表3に記載の組成のうちCaCl
2及びFe−EDTAを除いた組成の鉄・微量元素添加予備培地(a)並びにCaCl
2、Fe−EDTA及び微量元素を除いた組成の鉄・微量元素無添加予備培地(c)を作製した。また、表
5に記載の組成のうちCaCl
2及びスラグ酸溶解液を除いた組成の鉄・微量元素添加予備培地(d)を作製した。
【0044】
その後、各々の予備培地を扁平なガスフラスコ1(稼働容量500ミリリットル、
図1の試験器100参照)に投入し、加圧滅菌した。次いで、予備培地(a)にCaCl
2及びFe−EDTAを添加して鉄・微量元素添加培地(参考例5)を調製した。更に、予備培地(d)にCaCl
2及びスラグ酸溶解液を添加して鉄・微量元素添加培地を調製した。尚、予備培地(c)は、そのまま鉄・微量元素無添加培地(参考例6)として用いた。
【0045】
上述の培地の調製の際、酸化スラグ[表1に記載された愛知製鋼社の製鋼工程で発生したスラグ「スラグ(1)」]が溶解したスラグ酸溶解液を、[Fe]/[N]がFe−EDTAを用いたときの1/2(0.0007)となるように添加し、塩酸を用いて初期のpHが2.0(比較例1)、4.0(実施例4)、6.0(実施例5)となるように調整した。また、酸化スラグ[表1に記載された愛知製鋼社の製鋼工程で発生したスラグ「スラグ(2)」]が溶解したスラグ酸溶解液を、[Fe]/[N]がFe−EDTAを用いたときの1/2(0.0007)となるように添加し、塩酸を用いて初期のpHが2.0(比較例2)、4.0(実施例6)、6.0(実施例7)となるように調整した。
【0046】
更に、参考例5、6では、塩酸を用いてそれぞれの初期のpHが4.0となるように調整した。尚、それぞれの培地の初期のpHは上述の値を目標としているが、初期とはいっても実際に測定したのは少し時間が経過した後であり、ばらつきはある。
【0047】
その後、上述の8種類の培地の各々にシュードコリシスチスを植菌し、通気性を有する栓3をし、1体積%の二酸化炭素を付加した空気を通気量0.3vvmの速度で供給口4から供給し、排出口5から排出させて流通させるとともに、ガラスフラスコ1内の培養液2を攪拌した。同時に、ガラスフラスコ1の周囲から白色蛍光ランプにより光を照射し、ガラスフラスコ内の雰囲気温度を28℃付近に調整して、14日間培養を継続した。
【0048】
このようにして、14日間培養したときの菌の増殖を、波長720nmの可視光の吸光度を細胞濃度の指標として経時的に測定し、評価した。評価結果を表7及び
図4に記載する。吸光度は、培養初期(表7では培養日数「0」と表記する。)、並びに2日、6日、8日、10日及び14日経過した時点で測定し、各時点での吸光度により増殖作用を評価した。結果を表7及び
図4に記載する。
【0049】
【表7】
【0050】
表7及び
図4によれば、鉄源としてFe−EDTAを用いた鉄・微量元素添加培地(参考例5)と、鉄等の微量元素の供給源として2種類の酸化スラグを使用し、且つ初期のpHを4.0又は6.0に調整した鉄・微量元素添加培地(実施例4〜7)とで、増殖作用に大差はなく、試薬に替えて酸化スラグを用いたときも、同等の作用効果が得られることが分かる。一方、スラグ酸溶解液を添加し、鉄等の微量元素を所定量含有させた場合であっても、初期のpHが2.0と低い比較例1、2では、増殖が不良であり、鉄・微量元素添加培地の吸光度に対する比によって表した指標は、それぞれ0.12、0.13であり、判定はいずれも×であった。このように、初期のpHが2.5未満であるときは、所定量の鉄等の微量元素が含有されていても、増殖作用に劣ることが分かる。また、前述の参考例3と同様に参考例6でも、指標は0.34であり、判定は×であった。
【0051】
[4]培地初期と終了時のpHの比較
表7の参考例5〜6、実施例4〜7及び比較例1〜2の各々の培養において、14日経過後の培養終了時のpHを測定し、前述の初期のpHからの変化を確認した。結果を表8及び
図5に記載する。
【0052】
【表8】
【0053】
表8及び
図5によれば、良好な増殖作用が得られた参考例5、及び実施例4〜7では、培養終了時の培地のpHは3.12〜3.43の範囲となっている。このように、シュードコリシスチスの増殖作用に伴って培養終了時のpHは酸性領域に収束することが分かる。一方、初期のpHが2.0と低過ぎる場合は、増殖作用が不良であり、培養終了時の培地のpHに大きな変化はみられなかった。また、同じく増殖作用が不良である参考例6でも、培地のpHに大きな変化はみられなかった。
【0054】
[5]培地の初期pHの影響(その2)
参考例7〜10、実施例8〜11
蒸留水を用いて、表3に記載の組成のうちCaCl
2及びFe−EDTAを除いた組成の鉄・微量元素添加予備培地(a)を作製した。また、表
5に記載の組成のうちCaCl
2及びスラグ酸溶解液を除いた組成の鉄・微量元素添加予備培地(d)を作製した。
【0055】
その後、各々の予備培地を扁平なガスフラスコ1(稼働容量500ミリリットル、
図1の試験器100参照)に投入し、加圧滅菌した。次いで、予備培地(a)にCaCl
2及びFe−EDTAを添加して鉄・微量元素添加培地(参考例7〜10)を調製した。更に、予備培地(d)にCaCl
2及びスラグ酸溶解液[前述のスラグ(1)を用いた。]を添加して鉄・微量元素添加培地(実施例8〜11)を調製した。
【0056】
上述の培地の調製の際、Fe−EDTAを[Fe]/[N]が0.0014となるように添加し、塩酸を用いて初期のpHが4.0(参考例7)、6.0(参考例8)、8.0(参考例9)、10.0(参考例10)となるように調整した。また、酸化スラグが溶解したスラグ酸溶解液を、[Fe]/[N]がFe−EDTAを用いたときの1/2(0.0007)となるように添加し、塩酸を用いて初期のpHが4.0(実施例8)、6.0(実施例9)、8.0(実施例10)、10.0(実施例11)となるように調整した。
【0057】
その後、上述の8種類の培地の各々にシュードコリシスチスを植菌し、通気性を有する栓3をし、1体積%の二酸化炭素を付加した空気を通気量0.3vvmの速度で供給口4から供給し、排出口5から排出させて流通させるとともに、ガラスフラスコ1内の培養液2を攪拌した。同時に、ガラスフラスコ1の周囲から白色蛍光ランプにより光を照射し、ガラスフラスコ内の雰囲気温度を28℃付近に調整して、14日間培養を継続した。
【0058】
このようにして、14日間培養したときの菌の増殖を、波長720nmの可視光の吸光度を細胞濃度の指標として経時的に測定し、評価した。評価結果を表9及び
図6に記載する。吸光度は、培養初期(表9では培養日数「0」と表記する。)、並びに1日、2日、5日、6日、7日、8日、9日、12日及び14日経過した時点で測定し、各時点での吸光度により増殖作用を評価した。結果を表9及び
図6に記載する。
【0059】
【表9】
【0060】
表9及び
図6によれば、鉄源としてFe−EDTAを使用し、且つ初期のpHを4.0、6.0、8.0又は10.0に調整した鉄・微量元素添加培地(参考例7〜10)と、鉄等の微量元素の供給源として酸化スラグを使用し、且つ初期のpHを4.0、6.0、8.0又は10.0に調整した鉄・微量元素添加培地(実施例8〜11)とで、増殖作用に大差はなく、試薬に替えて酸化スラグを用いたときも、同等の作用効果が得られることが分かる。尚、Fe−EDTAを用いた鉄・微量元素添加培地(参考例7)の吸光度に対する比によって表した指標は、参考例8〜10では1.08〜1.38であり、実施例8〜11では0.84〜1.28であり、判定はいずれも○であった。
【0061】
尚、表5〜7及び9で、培養日数の欄の数値は吸光度である。また、表5等で、「鉄・微量元素添加」等、鉄と微量金属等の微量元素とが別物であるかのように記載してあるが、これは、鉄供給源として、従来、主として環境負荷物質である錯体が用いられているのに対して、本発明では、酸化スラグを用いており、この相違を強調するため、鉄と微量元素とを併記しているものであり、鉄も微量金属元素の1種である。
【0062】
[6]培地初期と終了時のpHの比較
表9の参考例7〜10及び実施例8〜11の各々の培養において、14日経過後の培養終了時のpHを測定し、前述の初期のpHからの変化を確認した。結果を表10及び
図7に記載する。
【0063】
【表10】
【0064】
表10及び
図7によれば、鉄源がFe−EDTAである参考例7〜10では、培養終了時の培地のpHは3.37〜6.25であり、鉄源がスラグである実施例8〜11では、
培養終了時の培地のpHは3.58〜6.64である。このように、初期のpHに拘わらず、シュードコリシスチスの増殖作用に伴って培養終了時のpHは酸性領域に収束することが分かる。尚、初期のpHが高いほど、培養終了時の培地のpHは酸性側ではあるが、高くなる傾向にある。